モームス最大トーナメント

このエントリーをはてなブックマークに追加
452辻っ子のお豆さん
「もうやだっ!やめる!」
少女は泣きながら胴着を脱ぎ捨てる。
「逃げんのかよ。そんなんじゃお前は一生変わらねえな!弱虫のままだ。」
私に武術を教えてくれたのは飯田館長。
そして私の心を強く鍛えてくれたのはあの人だった。
「いい、負けるってのは試合の結果じゃないんだ。自分の気持ちにあるんだよ。」
「どんなに劣勢でも、自分があきらめなければそれは負けじゃない。」
「ポジティブにいけよ、石川。」

「立てっっ!!!」
仰向けの石川の耳に飛び込んできた声。そんなどうしてあの人が…?
松葉杖にぼろぼろの体を引きずって姿を見せたのは、ここにいるはずのないあの人。
どんなにやられても心だけは折れなかったあの人、ポジティブの体現者。
(矢口さん。)
「石川ぁ!!お前まさか負けたなんて思っちゃいないだろうなぁ!!!」
小さなミイラ娘の言葉が石川の胸に痛く突き刺さる。
(ずるいっすよ、あんたに言われたら立たない訳にはいかねえじゃねえっすか。)
全身に力が戻る。梨華はまだ死んでない!
453辻っ子のお豆さん:02/06/08 03:49 ID:jyZ8+q+p
「それでいい、石川。」
矢口の双眸に写るのは小さな怪物、その背に見え隠れするもう一つの影。
(これがお前の残したものか…なっち。)
叶う事のなかった対戦、矢口対安倍。
だが二人の意志は消えていない、それを受け継ぎし者達の闘いはここに実現したのだ。
(やっとお前との決着を付けれらるね。負けないぜ、なっち。)

「辻ちゃん、決着を付けよう。」
立ち上がった石川が真っ直ぐに目の前の少女に語り掛ける。
辻希美という本物を相手に戦力を隠す愚を思い知った。
地道に訓練を重ねることこそが強者への道と確信していた。
世の中は広い貴方のような娘もいる。
強くなるための努力自体を女々しい行為と断ずる強烈な雄度!
一切の訓練を拒否した誇りから生まれる闘争への自信。
本当に強かった・・・

チャーミー流拳法最終奥義、これだけは使いたくなかった。
だが格好良さ、名目、プライド、勝利への障害となるあらゆる物を捨て去った今なら。
今の私にならできる。本当の石川梨華をさらけ出そう。
454辻っ子のお豆さん:02/06/08 03:50 ID:jyZ8+q+p
「今から使う技は、私の最終目標に到達するために封じていたもの、すなわち…」
石川の視線が観客席に座る一人の娘に流れる。
「後藤真希!てめえを倒す為の技だったんだよ!!」
突然の告白に会場がどよめく、だが当の本人はピクリとも反応しない。
王者はあくまでもクール、静かに激闘の結末を待つのみ。

「この技を辻希美、貴方にこそ捧げたい。」
石川が辻を見詰める。辻が石川を見詰める。
「だされたものは全部食うのれす。」
ニイッ、辻が笑った。その笑みに氷の女王の口元にも笑みが…

石川が消えた!?
違う、消えたのではない、あまりの速度に姿を見失ったのだ。
次に見た石川はもう過去の石川とは別物であった。
チャーミー流拳法最終奥義「ボイン乱舞」
あ〜ボインボインボインりっかですりっかですウッヒョーウッヒョー
体面も捨てた。プライドも捨てた。それは残された勝利への執着のみの結晶。
全身の関節を軟体に、打ち出される無数の手足、これぞ究極。
455辻っ子のお豆さん:02/06/08 03:51 ID:jyZ8+q+p
「…してるのれす。」
銃弾の嵐の中で辻の口から漏れた言葉。
「今の梨華ちゃんが今まれれ一番イカしてるのれす!」
辻が動いた!銃弾の中で前へ、それでも前へ!
「ぺったん!ぺったん!ぺったんっ!!!」

矢口が目を見開く。そのファイトスピリットは…!
後藤が立ち上がる。そこに生まれし熱き鼓動は…!
二人の口から同時に漏れた言葉…
「なっち!」

さながら10トンブレスの3連弾の様な張り手三発。
石川の右胸、左胸、腹が陥没。呼吸が…!血液の循環が…!意識が…止まる。
(あきらめなければ…)
ひとつだけ止まらないもの、止められないものがある。
(…私は変わるんだ、強くなるんだ!)
そこで意識を失った。、それでも倒れない、強き意志。ポジティブ。
『勝負ありぃぃぃぃぃぃ!!!!!』
石川梨華の侠客立ち。
456辻っ子のお豆さん:02/06/08 03:52 ID:jyZ8+q+p
ひょろっとして頼りなかったあの石川が…
矢口は目頭に熱い物を感じたが、無理矢理鼻をかみ堪えた。
(お前はもう弱虫なんかじゃねえよ、一人前のファイターだ。)
気を失うも構え続ける石川を矢口は優しく抱きとめた。

 激闘を制した辻希美が膝を落とす。試合が終り、溜まりきっていた疲労と緊張が一気に
湧き上ってきたのだ。ダメージがないはずがなかった。チャーミー流拳法の奥義をあれだ
け受けていたんだ。普通の選手ならば3回は負けている場面があった。けれど辻はそのど
れにも屈しなかった。それが勝利へと繋がったのだ。
「ののはれったいゆうしょうするのれす…」
 気が付けば寝息を立てている、先ほどまで化け物の如き死闘を演じたとは思えないくら
い無垢な寝顔であった。

「辻希美…か。」
失いかけた情熱、あいつの匂いを感じる。
孤高の王者に小さな灯火が点いたこと、まだ誰も知らない。

To be continued