モームス最大トーナメント

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335辻っ子のお豆さん
(ここで引いたらまたあの頃の、落ちこぼれの私に逆戻りだ!)
(引けない、絶対に引けない!)
(負けたくない、勝ちたい、この人に勝ちたい!)
武を極めし者だけが辿り着ける極地。
絶対的危機的状況に立たされた時、彼女の右腕に奇跡が起きた。
その一撃は何より速く、何よりも強い。
その一撃はあらゆる奥義を凌駕する。
―――――――神の拳―――――――
音すらなかった。
顔を上げた時、吉澤ひとみが一瞬見当たらなかった。地べたに崩れ落ちていたからだ。
自分がどうやって相手を沈めたのかさえわからずにいた。
紺野あさ美は虚ろな瞳で自らの拳を眺めた。
『けっちゃ〜〜〜〜〜く!!!!』
その声を聞いても紺野はまだどっちが勝ったのかもわからずにいた。
『息を飲む激闘の勝者は!!紺野あさ美だぁーーー!!!』
(勝った?私が?吉澤さんに?ウソ?)
プッチの仲間に囲まれて医務室へ運ばれて行く吉澤ひとみ。
大歓声の中、紺野には勝利の喜びよりもっと別の感情が芽生えていた。
336辻っ子のお豆さん:02/05/19 02:49 ID:xcAnJcka
 試合の後、紺野は吉澤の眠る医務室を訪ねた。吉澤のベットの脇には同門の後藤と保田
が付き添っていた。後藤真希は明らかに敵意剥き出しの顔で睨み付けてくる。顔には出さ
ないが保田圭からもビシビシ嫌な感じを受ける。流石に紺野も訪れた事を後悔した。五体
満足では返れないかもしれない。(もう充分満足ではないが…)
「二人共ちょっと外してくれない?サシで話したい。」
吉澤がそう申し出てくれたのが救いであった。
後藤と保田は渋々医務室を後にする。後藤には終始睨まれっぱなしであった。
さっきまで死闘を繰り広げた相手と密室で二人きり、しばし沈黙が訪れる。
やがて吉澤が口を開いた。左目の眼帯が痛々しい。
「今日の私は今までで一番、最高に強かった。」
憎まれても仕方ないと思えることをした。それでも彼女は笑っている。
「それで負けてるんじゃ、もうどうしようもないよなぁ。」
傷だらけの右腕を差し出された。さっきはあんなに恐れた手が今は暖かく写る。
「約束だ。私の代わりに優勝しろ。」
私は彼女の手を強く握り返した。なぜか涙が出そうになった。
(ありがとう吉澤さん、私は優勝します)

1回戦第6試合 勝者 紺野あさ美
337辻っ子のお豆さん:02/05/19 02:51 ID:xcAnJcka
1回戦第7試合 加護亜依vs福田明日香

「おまたせ〜あいぼんの出番やで〜♪」
「カガミにむかって、なにひとりろといってるんれすか?」
「アホかのの、スマイルの練習や、可愛く登場せなあかんやろ。」
「なんれれすか?」
「お前は分かってへんなぁ。格闘家っちゅうのは実力だけやのうて人気も重要なんやで。」
「人気れすか。」
「そや、あいぼんスマイルで観客のハートも独占やで。」
「なるほろ〜、ののも次はおもしろい顔れとうじょうするのれす。」
「…え?」
「フヒ…」
「…」
「ろうれすか?」
「まあ、遊びやないし、真面目にやろか。」
「…?」
闘技場に姿を見せた加護亜依の表情は真剣そのものであったと言う。
338辻っ子のお豆さん:02/05/19 02:52 ID:xcAnJcka
過去の話。武術の天才と呼ばれ、脚光を浴びた一人の若き娘がいた。
彼女は本当の闘争を知りたいと望み、栄光への道を自ら断ち切った。
数ヶ月後、彼女が立っていた場所は本物の戦場。
銃弾が舞い、爆撃が飛び、無数の死体が転がる場所。
そこで知る事になる。本物の闘いと言うもの。
そして月日が流れた今この地に、彼女は再び戻って来た。
本物の闘争術というものを身に付けて。
『福田明日香の入場だぁーーー!!!』
これまでの選手達とは一線を画す危なさが滲み出ているのがわかる。
「武器の使用は一切禁止、それがここの唯一のルールだったな。」
確かめる様に静かに、つんくの方を見た福田が口を開く。
「おお、そうや。」
「悪いが私がいた戦場に、ルールなど存在しなかった。」
「ん、なんやて?」
つんくは背筋に寒気が走るのを感じた。
「武器を使うということだ。」
福田の十指が獲物を待つ蛇蝎のごとくうねりをあげた。

To be continued