「わぁ。やっぱり、お天気のお散歩って気持ちいいですよね。
…ね、編集長?」
「おおっ。あんよが上手。どっかヘンな所ない?」
「とぉっても、きもちいいれすよ。」
「よかったぁ。さっすが、ののたん。動作は順調みたいだなぁ。」
「………。」
…ま、今日はののの誕生日だからしょうがないっか。
梨華は、自分が初めて起動された日を呼び起こしていた。
梨華達の記憶は人間同様に、過去の情報や不要な情報から
徐々に削除され、いつも一定の空き容量を保つようになっている。
──あの日は、今日と違って冬の空だったんだよね。
起きると編集長が私の顔を覗き込んでて、とても心配そうな顔で…。
『どーもー。チャーミー石川でーす。』
そう言って立ち上がったら、編集長とっても嬉しそうな顔してた。
私も、今日からこの人と一緒なんだってすっごく嬉しくて。
で、お腹を見て愕然としたっけ。…コードがぶら下がってて。
『趣味のロボットだかんね。』
一言で片付けられちゃったけどね──。
「よし。キャッチボールでもやるか。石川君、パス。」
「ハイ。」
梨華はボールを最織田に投げる。
パスッ。ボールは最織田のグラブに収まる。
一見単純な作業であるが、目や筋肉の強調を必要とする高度な運動である。
「ののたんは、上手く受けられるかなー。」
最織田はののたんに向かって、やまなりの球を投げた。
パスッ。
心地よい音を響かせて、ののたんはボールを受けた。
「今度は、ののがなげますよー。」
ののたんは、ぶんぶんと腕を回している。
「ふふふっ。ここまで届くかなぁ?」
「いきますよぉ。…たー!」
ののたんが軽く手を振り下ろした。
ブオゥッ…バシィィィィ!!
ボールは一直線にグラブに突き刺さり、
それでもまだ勢いを殺されずに回転している。
チリチリチリ…ブチ。
グラブを突き抜け、ボールは最織田の後ろへコロコロ転がった。
「………。スナップを柔らかく使った方がいいね、ののたん。」
「スナップとかって問題じゃないでしょ!もう!
編集長ってば、どんな筋肉を装備させたんですか!」
「はは…。ちょっと思い入れが強すぎたかな。」
「……。すなっぷれすか?」
ののたんはクイクイと手首をひねってみせた。
「すみませーん。ボールとってもらえますかー。」
「はーい。……アレ?」
最織田の声を受け、居合わせた男がボールを拾った。
スタジャンを着たその男は、ボールを投げ返そうと辺りを見回した。
が、声の主である最織田の姿が見当たらない。
「………ま、いっか。」
男はそのままボールをポイッと投げ捨てた。
「……編集長、なんで隠れるんですか。」
「しー!ホンモンだ。ホ・ン・モ・ン!ほらっ。」
「…あー!あいぼんれすよ。つぃちゃんもいるぅ。」
最織田達は公園の茂みから首を出した。
さっきボールを拾った男が、周りの一般人の整理をしている。
その向こうにいるのは、正真正銘、生身のモーニング娘。達である。
娘。達は楽しそうに何か会話をしている。
「ロケか何かですかねぇ。見つかるとまずいですよね。
どうします。帰ります?」
「…うぉお。あいぼんだ。あいぼんが笑ってるよ。
すげー!ののたんと何しゃべってるんだろ。」
「いいなぁ。ののもテレビに映りたいれす。」
「……はぁあ。」
どうやら、今から撮影が始まるようだ。
スタッフ達が慌しく隊列を組み、娘。達を取り囲む。
ここからでは、さすがに声までは聞こえないが、
その華々しい雰囲気は、十分すぎる程伝わってくる。
「うぉおお。ロケだよ。ロケ。番組は何かな。」
「ののもかわいいれすけど、つぃちゃんもかわいいれすね。」
「………。」
「…どうした?石川君。」
「…いやぁ、世の中には似たような人がいるなって。」
「あのなぁ。君も、ののたんも彼女たちをモデルにしたの。
今更、何言ってんだっての、まったく。」
「いや、そうじゃなくて、…ホラ。」
梨華の視線の先には、黒いフィルムを貼った一台の軽自動車が停まっている。
「よぉーく、見て下さい。」
「…あ!あいつ。覗いてやがる!!」
to be continued...