モーヲタは、常識者か非常識者か。

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51しのび寄る影
「わぁ。やっぱり、お天気のお散歩って気持ちいいですよね。
 …ね、編集長?」
「おおっ。あんよが上手。どっかヘンな所ない?」
「とぉっても、きもちいいれすよ。」
「よかったぁ。さっすが、ののたん。動作は順調みたいだなぁ。」
「………。」
…ま、今日はののの誕生日だからしょうがないっか。
梨華は、自分が初めて起動された日を呼び起こしていた。
梨華達の記憶は人間同様に、過去の情報や不要な情報から
徐々に削除され、いつも一定の空き容量を保つようになっている。
──あの日は、今日と違って冬の空だったんだよね。
起きると編集長が私の顔を覗き込んでて、とても心配そうな顔で…。
『どーもー。チャーミー石川でーす。』
そう言って立ち上がったら、編集長とっても嬉しそうな顔してた。
私も、今日からこの人と一緒なんだってすっごく嬉しくて。
で、お腹を見て愕然としたっけ。…コードがぶら下がってて。
『趣味のロボットだかんね。』
一言で片付けられちゃったけどね──。

「よし。キャッチボールでもやるか。石川君、パス。」
「ハイ。」
梨華はボールを最織田に投げる。
パスッ。ボールは最織田のグラブに収まる。
一見単純な作業であるが、目や筋肉の強調を必要とする高度な運動である。
「ののたんは、上手く受けられるかなー。」
最織田はののたんに向かって、やまなりの球を投げた。
52しのび寄る影:02/04/04 18:12 ID:69zlYFp5
パスッ。
心地よい音を響かせて、ののたんはボールを受けた。
「今度は、ののがなげますよー。」
ののたんは、ぶんぶんと腕を回している。
「ふふふっ。ここまで届くかなぁ?」
「いきますよぉ。…たー!」
ののたんが軽く手を振り下ろした。
ブオゥッ…バシィィィィ!!
ボールは一直線にグラブに突き刺さり、
それでもまだ勢いを殺されずに回転している。
チリチリチリ…ブチ。
グラブを突き抜け、ボールは最織田の後ろへコロコロ転がった。
「………。スナップを柔らかく使った方がいいね、ののたん。」
「スナップとかって問題じゃないでしょ!もう!
 編集長ってば、どんな筋肉を装備させたんですか!」
「はは…。ちょっと思い入れが強すぎたかな。」
「……。すなっぷれすか?」
ののたんはクイクイと手首をひねってみせた。

「すみませーん。ボールとってもらえますかー。」
「はーい。……アレ?」
最織田の声を受け、居合わせた男がボールを拾った。
スタジャンを着たその男は、ボールを投げ返そうと辺りを見回した。
が、声の主である最織田の姿が見当たらない。
「………ま、いっか。」
男はそのままボールをポイッと投げ捨てた。
53しのび寄る影:02/04/04 18:15 ID:69zlYFp5
「……編集長、なんで隠れるんですか。」
「しー!ホンモンだ。ホ・ン・モ・ン!ほらっ。」
「…あー!あいぼんれすよ。つぃちゃんもいるぅ。」
最織田達は公園の茂みから首を出した。
さっきボールを拾った男が、周りの一般人の整理をしている。
その向こうにいるのは、正真正銘、生身のモーニング娘。達である。
娘。達は楽しそうに何か会話をしている。
「ロケか何かですかねぇ。見つかるとまずいですよね。
 どうします。帰ります?」
「…うぉお。あいぼんだ。あいぼんが笑ってるよ。
 すげー!ののたんと何しゃべってるんだろ。」
「いいなぁ。ののもテレビに映りたいれす。」
「……はぁあ。」
どうやら、今から撮影が始まるようだ。
スタッフ達が慌しく隊列を組み、娘。達を取り囲む。
ここからでは、さすがに声までは聞こえないが、
その華々しい雰囲気は、十分すぎる程伝わってくる。
「うぉおお。ロケだよ。ロケ。番組は何かな。」
「ののもかわいいれすけど、つぃちゃんもかわいいれすね。」
「………。」
「…どうした?石川君。」
「…いやぁ、世の中には似たような人がいるなって。」
「あのなぁ。君も、ののたんも彼女たちをモデルにしたの。
 今更、何言ってんだっての、まったく。」
「いや、そうじゃなくて、…ホラ。」
梨華の視線の先には、黒いフィルムを貼った一台の軽自動車が停まっている。
「よぉーく、見て下さい。」
「…あ!あいつ。覗いてやがる!!」


to be continued...