モーヲタは、常識者か非常識者か。

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38野望のある生活
「あっ。ちょっとすみませーん。」
「石川さん、どうしましたー?」
「あの…。ちょっと。」
ヤバイ。エネルギーが…。
600、595、590…
梨華の視界の上で数字がカウントダウンしていく。
梨華は楽屋へ駆け戻った。
…誰も見てないよね。
辺りを確認して、リュックからアンビリカル・コードを着けると
そのまますぐにコンセントに差し込んだ。

「どーも、すみませんでした。」
再びスタジオに入ると、全員に向かいペコリと礼をする。
「石川。何やってたのって。」
「あ、あの。ちょっと。」
「やっぱお前、腹具合悪いんじゃないの?」
「い、飯田さんったら。やぁだなぁ、もう。ははははは…。」
スタッフの合図により、すぐに撮影が再開された。が──、

「あ、あのー。…ちょっと失礼します!!」
「お、おーい。何だよ、石川。」
うーん。やっぱ、どう頑張っても20分が限界ね…。
帰ったら絶対、編集長に改造してもらわなきゃ。
梨華は楽屋まで猛ダッシュした。
「ふー。ぎりぎりセーフ。」
ガチャ。梨華がコンセントに差し込んだ瞬間、楽屋のドアが開いた。
「あー!!石川、お前…。」
「矢口さん!…いや、これは、その、あの…。」
「ケータイの充電なら家でやれよなー!!」
「あ…、はい。」
梨華はそっと胸を撫で下ろした。
39野望のある生活:02/03/29 00:39 ID:rXckgFFa
「おつかれさまでしたー。」
なんとか撮影も終わり、スタッフ達が片付けだしている。
辺りを伺い、梨華は辻のもとに歩み寄った。
「ねぇ、ののぉ…。」
「ん。なぁに、梨華ちゃん?」
「あのさ。…今から、サウナ行かない?」
「えー。今からぁ?もう疲れちゃったよぉ。」
じゃ、計画終了。…ってわけにはいかないのよねぇ。
「だからこそ、サウナで疲れを吹き飛ばすんじゃない。
 …それに、ホラ!その後のアイスはおーいしいよぉ。」
「アイス!?」
「うん。きっとサウナで痩せるから、いっぱい食べれるよ。」
「行こ。梨華ちゃん、早く行こっ。」
ゲット──!!梨華は小さくガッツポーズした。

の・の・たぁあああん──!!ホンモノだ…。
向こうからやって来る辻の姿に、最織田は膝を着いて、むせび泣いた。
局の玄関の自動ドアが開いて、辻と梨華が出てくる。
それを見たピンクの体が、ドアの前で転げまわった。
「り、梨華ちゃん。何かいる。」
「げ、編集長……。のの、目あわせちゃダメよ。」
「!──石川君!?」
「で、でも。こっち見てるよ。」
「…行こっ。馬鹿がうつるよ。」
「!?」
最織田が起き上がると、梨華達の姿はすでに豆粒大だった。
目の前を、春の風が通り抜けていった。
40野望のある生活:02/03/29 00:40 ID:rXckgFFa
テレビ局からさほど遠くない通り。
そこに娘。が御用達のサウナはあった。
割とこジャレたその外装は、一般人では近寄り難さを感じる。
ほへぇ。サウナなんて初めてだよ。ちょっと緊張する──。
家にこもりがちな最織田についている梨華にとって、
インプットされている情報と現実とのギャップを埋める作業が
なによりの楽しみなのである。が、その感慨を辻の声がやぶった。
「梨華ちゃん…。また、なんかいるよ。」
「!!」
数十メートル向こうの建物の影で、しきりに手招きするピンクの男。
「のの。ちょっと先入ってて。用事思い出しちゃった。」
辻が中に入るのを確認して、梨華は小走りに駆けた。

「──石川君って、案外サディスティックだったんだね。
 気付かないで通り過ぎるから、生身の方かと思ったよ。」
「…あんな格好されちゃ、話しかけれませんよ。」
「で、どう?…ブツの方は?」
はぁあああ。梨華は大きくため息をついた。
「…これからですよ。一緒にサウナに入るんです。」
「サウナ!?でかしたぞ!!よーし、よし。
 待ってろよぉ。ののたぁああああん!!」
最織田の声に、周りの人ごみがビクッと波打つ。
これさえなけりゃ、割とモテそうなのにな。
気付いてないのかな、本人は……。
梨華は、トボトボとサウナの中に入っていった。
41野望のある生活:02/03/29 00:41 ID:rXckgFFa
辻ちゃん先に入っちゃったんだよね…。
梨華は、がらんとした脱衣所を見回す。
やっぱ、やるっきゃないんですよね、編集長…。
しぶしぶという感じで、服を脱いだ。
もちろん下はホットパンツとスポーツブラである。
梨華はそれを覆い隠すように、バスタオルを巻いた。
辻ちゃんゴメンね。恨むなら、梨華ちゃんじゃなくて私と編集長だから。
ガラガラガラ──。
そして、運命の扉は開かれた。

「…ねぇ?もういいじゃないですかぁ。次頑張りましょ。」
「………。」
体育座りの最織田の顔を、モニタの青い光が薄暗く照らす。
モニタにはサウナの脱衣所の場面が繰り返し流されている。
何度見ても、脱衣所の扉を開けるところで砂嵐に切り替わる。
「……ののたん。ううっ。」
梨華は、頭部につながれたプラグに手をかけた。
「プラグ、抜きますよ。ポジティブに行きましょ、編集長。
 今度は『防水加工』を忘れなきゃいいだけの話ですよぉ。
 ──え!?…まぁた、巻き戻しですかぁ?」
最織田は、体育座りのままでうなずいた。
ふぅう。プラグから手を離すと、メモリを呼び起こす。
ヴゥゥン──。
『やっぱり、こういう制服っていいなぁ。光発電のせいで、
 いっつも薄着だもんな。いいなぁ、梨華ちゃん…。』
画面いっぱいに下着の石川が映し出される。
「!!──おいっ!石川君、コレは…。」
「あ。ちょっと戻しすぎましたかね。」
画面の中で梨華の手が、石川のパンツにかかる……。
「おっ…おっ…お!?」
『…あー、ばかばかばか。何考えてんだろ。ゴメンね、梨華ちゃん。
 そうよね。編集長が、私の体作ってくれるわけないもんね。』
…最織田の体が、ブルブルと震えだす。
「どうしました、編集長。……編集長?」
「…もう知らねぇ!!君なんて大っ嫌いだぁああ。」


第一話おしまい