道行く二人が、周囲の視線を集める。
「なーんで、こんな目立ってんのかねぇ。」
「きっとアレですよ。ホラ、愚かな大衆共が
私のことを『本物』だと思ってるんじゃないんですか?
こぉんなに、精巧に作られてるんですもん。」
「…お世辞のコピーも完璧のようだしな。」
…クスクスッ。
──それにしても、みんなかすかに笑っているような。
「だぁぁあ。俺、白衣のまんまだー!」
「あ、ホントだ。じゃ、まずお買い物行きましょ。うふっ。」
梨華が嬉しそうに笑うにはわけがあった。
さっきまでお腹から出ていたコードが、今はないのである。
そう。リュックに入ったバッテリーと皮膚で受ける太陽光で、
エネルギーをまかなっているという訳なのだ。
棒立ち状態の最織田に、梨華は服をあてがう。
いつもコーディネートは梨華任せである。
最織田は、そういうところは疎い。
今日も結局、梨華が選んだピンクのスリムジーンズと
ピンクのピチTを着せられることなった。
「あと…。私、ずっと思ってたんですけど、
編集長、メガネがいけないと思うんですよねぇ。」
「は?」
「コレかけてみて下さい。」
梨華が渡したのは、いつも最織田がかけている丸いメガネではなく、
フレームのシャープな赤のメガネだった。
「おおっ。コレは確かに…。俺ってば、かっこよかったんだ。
ふふふ…。ののたーん、待ってろよー!」
最織田は、春の空に高らかに吠えた。
「ここが、娘。達が撮影しているテレビ局だな。」
「編集長ぉ、やっぱ止めません?気が進みませんよぉ。」
「えっと、作戦の確認な。君のリュックにはデジカメと
アンビリカル・コードが入ってる。」
「…内部電源と相談しつつ充電して、辻ちゃんに近づく。
はぁあ…。それとデジカメはいりませんよ、ココで憶えます。」
梨華はツンツンと自分の頭をつついた。
「そうだったな。じゃあ、がんばって。
しっかり、の、ののたんを撮ってくるんだぞ。」
「はぁい。」
不本意そうに、梨華はテレビ局に入っていった。
「石川ぁ、行くよー。」
「あ。飯田さん、先行ってて下さい。
石川、ちょっとメイク確認してきます。」
石川(生身は、以下こう表記)は、足取りも軽く、トイレに向かった。
「今日も頑張るぞー。ルンルルン、ルンルルン。」
鏡に向かって、髪の毛をセットする。
「んー、よしっと。あ、あれ。今日の服って…。」
石川は、自分の服と鏡の中の服を見比べる。
ハロモニ。劇場の制服を着ている自分。ピンクのヘソだしの鏡像…。
ブシュウウウウウ──。
突如、鏡の中から煙が噴き出して、石川を包んだ。
「へ?……ふにゅう。」
「ふぅ。第一関門突破っと。」
タトン。鏡の中から出てきた梨華は、石川の服を脱がせた。
「よいしょ。よいしょ。…意外と重い。」
梨華は石川をトイレの個室に押し込んだ。
「催眠ガスは12時間はもつから、
えーと…明日までには助けに来るからね。」
そう言いながら、石川の服を着る。
「やっぱり、こういう制服っていいなぁ。光発電のせいで、
いっつも薄着だもんな。いいなぁ、梨華ちゃん…。」
梨華は、目の前で眠りこけている石川を見た。
「…………。」
無防備に下着姿で便座に座らされている石川。
ゴクリ──。
梨華の手が、石川のパンツにかかる……。
梨華は内側から鍵をかけると、ドアをよじ登った。
「遅かったなぁ、石川。もしかして大っきい方かぁ?」
「しないよ!……う、うふん。やぁだ、もう飯田さん。
石川がそんなことするわけないですよぉ。」
「ホラ。もう本番始まるから、用意しな。」
よかったぁ。バレてないみたいね。
「──そんなの、悲しすぎるよー。」
ま。私の記憶力にかかれば、台本もバッチリだもんね。
ふふふ…。みんな、私がNG出さないから驚いてるわね。
「……石川。お前、今日はイチダンと棒読みだな。」
「や、矢口さん!?」
to be continued...