マガジンの漫画

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35儚い雪

あたりはもう暗くなってきている。
「さてと、そろそろ矢口は帰ろっかな」
やぐっつぁんが、ひとしきり話したあとにそう言って立ち上がる。
「あっ、矢口さんは残ってくださいよ」
よっすぃ〜がそれを引き留める。
「いやいや、あとは若い者同士…」
いつものセリフをやぐっつぁんは言おうとしたけど、
よっすぃ〜が「話したいことがあるんです」と滅多に見せない真剣な顔で言ったから、
彼女は、なにも言わずにまたその場に座った。
「……そ、それじゃ、あたしは帰るね」
多分、2人だけで話したいことなんだろう。
あたしは、そう思って立ち上がった。

ちゃんと笑えてたのかどうかは分かんない――

36儚い雪:02/03/14 02:16 ID:dpsYAGNM

「ごっちんっ!」
後ろからよっすぃ〜があたしを呼ぶ。
「愛してるぞー!!」
冗談とも本気ともつかないよっすぃ〜のいつもの言葉。
あたしもいつもなら「バ〜カ」って答えるけど、今日はなにも言えなかった。


ずっと一緒にいられるなら…あたしだっていくらでも
――それこそよっすぃ〜が飽きてしまうほど、好きだと言ってあげられるのに……

でも、それはできない。

いつかいなくなってしまう人にそんな心苦しくなるようなことなんて言えない。
あたしが、心残りになんてなれないから、絶対に――

あたしは、その声を背に受けて家を出た。
37儚い雪:02/03/14 21:37 ID:z1Eemk09

「話ってなに?よっすぃー」
「……」
「…ごっつぁん、気にしてるよ」
よっすぃーがなにも話そうとしないので、このあいだごっつぁんから聞いたことを言ってみる。
「このあいだ、死ぬときは来るなって言ったんでしょ?」
「…聞いちゃったんすか……あたしが死んだらちゃんと伝えてくださいね、矢口さんから」
「いいけど……なんでなの?」
「だって、だってさ〜、死ぬとこ見せちゃったら、ごっちん、あたしのこと忘れられなくなりますよ。
 なんたって、美少女ですからね、あたし」
よっすぃーの顔は、影になってよく見えない。
でも、その口調はいつものように軽かった。
だから、あたしはごっつぁんのことを考えちゃって注意しようと思ったんだ。
38儚い雪:02/03/14 21:41 ID:z1Eemk09

「あんたねー、ふざけてばっかいないで、もうちょっとちゃんと……っ!?」
その時、あたしは、はじめてよっすぃーの表情を見た。
だから、なにも言えなくなった。

「……よ」
「えっ?」

「死にたくないよ」

よっすぃーが、やっと聞き取れるぐらいの小さな小さな声で泣いている。

「……死にたくない」

「よっすぃー……」

「死にたくないよ……あたし」

震える声で気持ちを吐露する彼女に、あたしはなにもしてあげることが出来なかった。