「辻と後藤」復活希望スレ

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763名無し娘。:02/06/22 08:56 ID:C8hCTWu7

「なんやろ、これ」
と、ウチは沢山ひろったその包みを見つめていた。
「お菓子れすよ、アメリカの」
ののはそう言った。

ウチは包みを開けてみた。それはチョコレートというもんやった。
いままで嗅いだことのない甘い匂いがした。
おなかの減っていたウチは、なにも考えんと、
おもわず、それを口に運ぼうとしたときやった。
ウチはふと周りをみた。

子供たちはむさぼるようにそれを拾い、それを食べていた。
それをいかにも優越感に浸るように、眺めているアメリカ兵。

ウチは悔しかった。
彼らはまるで侮蔑するような微笑を浮かべているように見えた。
おにいちゃんはこんな人らと戦ってたんや。
敵やったんや。絶対許さへん。そう思ってた。
気がつけば、ウチはそのきれいな包みに入ったチョコレートを握り締めていた。

「のの、食べたらあかん!」
ウチは包みを開けていたののにそう叫んだ。
「なんれれすか?」
「のののおにいちゃんを殺した人たちや。日本人も沢山殺されたんや。
そんな連中の慈悲なんてもろうたら、おにいちゃんが浮かばれへん!」
ウチはそう言った。

ののは、じっとチョコレートを見つめていた。
せやけど、戦後の食料難でろくにご飯も食べれていないウチらにとって、
それは酷なことやった。

「そうれすね……」
しばらくしたあと、ののはそういって包みを閉じた。
せやけど、ウチもののも、チョコレートを捨てることはでけへんかった。
764名無し娘。:02/06/22 08:58 ID:C8hCTWu7

帰り道、ウチらは黙って歩いていた。
おなかは減っていたが、今日も食べるものがないことは分かっていた。
空腹が、胃のあたりをチクチクと刺激しとった。

ののは手にもったチョコレートの匂いを嗅いでいた。
「甘い匂いれす……」
そうあきらめきれないように呟いた。
ウチはもう何も言わんかった。

「ちょっとだけならいいれすよね……」
ののはそう言ってチョコレートを一口囓った。

「こんなおいしいお菓子は初めてれす……」
ののは驚いた表情をしてチョコレートを見つめた。
そして、一気にチョコレートを食べてしもうた。

ふと見ると、ののは泣いていた。
なんでか分からんからんかった。
「どないしたん?」
ウチは尋ねた。
「食べたら分かるれす」
ののはそう答えた。

ウチはその言葉で、一口だけ囓ることに決めた。
包みを開けると、その甘い匂いが鼻をくすぐった。
すこしやわらかくなったチョコレート。
それにゆっくりと歯を立てた。

その瞬間、いままで味わったことのないような甘さが広がった。

おいしい──

空腹に耐えていた胃を、それは激しく刺激した。
もう、とめられなかった。
ウチはむさぼるようにそれを食べていた。

おにいちゃんたちと闘っていたアメリカ兵。
ウチらに苦しい思いをさせていたアメリカ兵。
そう思っとったのは、鬼畜米英と教育されていたからかもしれんかった。
せやけど、そんな彼らは戦争の間でも、毎日こんなものを食べとったんや。
ウチらはお粥もろくに食べれへんかったのに。
そして、空腹に絶えられず、それを食べてしまう自分の姿が悔しかった。
おにいちゃんたちはご飯も食べんと、アメリカ兵と闘っとったのに。
気がつけば、ウチも泣いていた。

おにいちゃんたち、そして闘って国の為に散っていった人たちへの申し訳なさと、
自分たちの貧しさと惨めさが涙となって溢れて来るのが分かった。
ののの涙の意味が分かった。
ののとウチは、泣きながらチョコレートを食べた。
765名無し娘。:02/06/22 09:02 ID:C8hCTWu7
今日の更新は以上です。
明日は更新できません。申し訳ないです。
766名無し募集中。。。 :02/06/22 09:16 ID:qSmvFRXN
まだ、半分も終わってなかったのか・・・
でも俺、涙が止まんないよ・・・
767なちまりぶりんこ ◆VeYYGuDo :02/06/23 12:32 ID:+TrAbeiD
てす
768名無し娘。:02/06/23 13:09 ID:5RSau/IP

暫くの時間がたった。ウチらは平和のありがたみを実感しとった。
もう、空襲に怯える夜は来ない。
あんなに憎んでいた、アメリカ兵も
最近はお菓子をくれる外人さん程度にしか思わなくなってきとった。

ウチは内職をしながら、時々家の窓から見える、神戸港の青い海を見つめていた。
そして、そこに船影がみえると、あの場所へと走っていった。
それは、復員船を待つためやった。

おにいちゃんは生きとる。
青い貝殻の髪飾りをもって、帰ってきてくれる。
そう信じとった。
神戸の青い海。それを見つめながら、
ウチは来る日も来る日も、おにいちゃんをまっとった。

ののは、そんなウチの姿をみて、
いつかきっと帰ってくると励ましてくれたが、
いつまでたってもおにいちゃんは帰ってこんかった。
769名無し娘。:02/06/23 13:15 ID:5RSau/IP

六甲の山が色づき始めたある日、おにいちゃんと一緒に闘っていたという
おっちゃんがウチにやってきた。
そのおっちゃんには片足がなかった。
爆弾で吹き飛ばされたとのことやった。
そして、おにいちゃんに治療してもらって一命をとりとめたとのことやった。
おっちゃんは、おにいちゃんにお礼がいいたいとのことやったが、
まだ復員してないと言うと、やはりといった顔をした。

おっちゃんは、ウチの顔をみると、「あんたが、あいぼんか?」と尋ねた。
ウチが、ハイと答えると、おっちゃんはポケットをごそごそとあさり、
中から出したものをウチの手に乗せた。

ウチはそれを見て、胸が大きくドクンとなった。
すぐに、おにいちゃんの姿が目に浮かんだ。

それはいかにも南洋風な、青い貝殻の髪飾りやった。
770名無し娘。:02/06/23 13:16 ID:5RSau/IP

「おっちゃん、これ……」
ウチはおっちゃんを見上げながら尋ねた。
おっちゃんはウチの顔を悲しげな表情でみると、ゆっくりと語りだした。

おっちゃんの話によると、怪我をしたおっちゃんは、
さらに前線へと進んでいく部隊についていけなかった。
指揮官はけが人はその場に留まって、救出をまてとの命令した。
そして、部隊が前進する日、おにいちゃんが、日本に帰ったら
妹のあいぼんに渡してくれとこの髪飾りをおっちゃんに預けた。
その後、おっちゃんは後からきた違う部隊に救出され、日本に帰ってきた。
そして、おにいちゃんのいた部隊は消息を絶ったとのことやった。

おにいちゃんは覚悟を決めたんや、そして、おにいちゃんは立派やった、
と、おっちゃんはそう言ったあと、生きて帰ったひともおるから、
気を落とさんとと言ってウチの頭を撫でた。

しばらくウチは手のひらに乗ったままの、青い貝殻の髪飾りを見つめていた。

おにいちゃんは約束を一つ守ってくれたんやね。
せやけど、もう一つの約束はどないしたん?
おにいちゃん、いまどこにおるん?
ウチ、寂しいよ。帰って来うへんの?

一緒の布団で約束したときのことを思いだして、涙が溢れてきた。
771名無し娘。:02/06/23 13:17 ID:5RSau/IP

おっちゃんはウチのおかあちゃんに、「のの」という子を知らんかと尋ねていた。
ウチは涙を拭くと、その娘は友達や、とそのおっちゃんに言った。
おっちゃんは、ならこれを渡してくれんか、といって、
ウチの手のひらに赤い髪飾りを載せた。

それはウチのお兄ちゃんがこうてくれた、青い髪飾りと色違いやった。

なんで?──

ウチは訳が分かれへんかった。

おっちゃんによると、これは指揮官やった、のののおにいちゃんが、
ウチのおにいちゃんと一緒に買ったものらしかった。

──ウチのお兄ちゃんものののおにいちゃんも、一緒の部隊で闘っとったんや。

そして、のののおにいちゃんは戦死した。
部隊はほぼ全滅。ということは……、

ウチはそれ以上のことを考えることがでけへんかった。

おかあちゃんは、おにいちゃんは立派でしたかともう一度尋ねとった。
おっちゃんは、それはすばらしい人でしたと言うと、
ウチらにお礼をいって帰っていった。

ずっとウチは二つの髪飾りを見つめとった。
772名無し娘。:02/06/23 13:18 ID:5RSau/IP

ウチは、しばらくして、ののの家に行った。
ののは真剣な表情をしているウチをみて、コンコンと咳をしながら、
不思議そうな顔をした。


ウチはののの家の庭で、縁側に座ってゆっくりと口を開いた。
「のの、驚かんといてな」
ウチはののに手を出すように言うと、その手のひらに
あの、赤いほうの髪飾りを乗せた。

ののの動きが止まった。
そして、小さく震えとった。
暫くして、ぽたぽたとののの手の平に涙がたまっていくのが見えた。

「おにいちゃん……、おにいちゃん……」
ののは小さな声でそう呟きつづけた。

ウチはののが落ち着くのを待って、おっちゃんから聞いた話をした。
そして、もう一つある、青いほうの髪飾りをののにみせた。

ののは、しばらく考えた後、
「ということは、あいぼんのおにいちゃんも……」
と、呟いた。

ウチは小さく頷いた。せやけど、しばらくして首を横に振った。

信じたくなかった。
せやけど、涙がじわじわとたまっていくのが分かった。

気がつけば、悲しげにコオロギがコロコロリーと、なき出していた。
773名無し娘。:02/06/23 13:19 ID:5RSau/IP

おかあちゃんはその日を境によく寝込むようになっていた。
日々の生活の疲れと、やはりおにいちゃんの復員が絶望的やと思ったからやった。

ウチの稼ぎでは生活も苦しく、毎日がどん底やった。
せやけど、ウチはそれでも船影が見えるとあの場所へと出かけていった。

お兄ちゃんは二つの約束してくれた。
一つは青い貝殻の髪飾り。もう一つは絶対帰ってくること。
すでに、約束の一つは守ってくれた。
おにいちゃんは嘘をつくような人やない。

ウチはおにいちゃんを信じとった。
いや、信じるしか心の支えがなかったんかもしれん。

何隻もの復員船が港についた。
何度もあの場所へ走った。
沢山の人が抱き合って喜んどった。
せやけど、やっぱりウチのおにいちゃんは帰って来んかった。
774名無し娘。:02/06/23 13:20 ID:5RSau/IP

おかあちゃんの病状は悪くなる一方やった。
内職の稼ぎだけでは、病院に行くこともできず、
何の病気かも分からんかったし、お薬も買えんかった。
おかあちゃんはいつしか、昔のおにいちゃんのことばかり
話すようになっていた。そして、おにいちゃんが生きていれば、
おにいちゃんが生きていればと呟くようになっていた。

ウチはそれでも、船がみえるたび、神戸のあの場所へ行った。
気がつけば、復員船の数も減って、
いつしか普通の貨物船ばかりになっていた。
そんなときは、しばらく神戸の海を眺めていた。

実はもうあきらめとったのかもしれんかった。
おにいちゃんを待つんやなくて、
おにいちゃんとの思い出を探していたのかもしれんかった。
せやけど、ウチにとってはどちらでもよかった。
あの青い海をみればおにいちゃんを思い出す。
ただ、それだけがどん底な生活での唯一の心の支えやった。
775名無し娘。:02/06/23 13:22 ID:5RSau/IP

六甲の山頂に白い帽子が被り始めた頃、
ののが、病気やという知らせが届いた。
最近会っていないことに気づいたウチは、
あわててののの家に見舞いに言った。

薄暗い北向きの部屋で、布団の中で横たわっているののは、
青白い顔をして、そして少しやせていて、まるで別人のようやった。
ののは小さな咳をしながらウチをみた。

「あいぼん、ののは結核なんれすよ」
ののは寂しげにそう言った。
「結核……」
ウチは驚いた。
それは、死の病やった。
ウチのおとうちゃんもそれで死んだことを思い出した。

「びょ、病院はいったんか?」
「一度だけ。れも、お薬は高いんれす。ののは居候ですから、
そんな贅沢はいえないんれす」
ののはそう呟いた。
ウチはなにもいえへんかった。

「あいぼん、そんな悲しい顔しないでくらさい。ののは怖くないれす」
そう言うと、ずっと握り締めていた右手を開いてウチにみせた。

そこには、赤い貝殻の髪飾りがあった。

「もうすぐ、おにいちゃんのところにいけるんれす」
ののはそれを見つめながらそう呟いた。
その表情はほんまに嬉しそうやった。
776名無し娘。:02/06/23 13:22 ID:5RSau/IP

「あいぼん、おねがいがあるんれす」
ののはウチのほうをみると、ゆっくりそう言った。

「ののが死んだら、遺骨をもって、靖国神社に連れてってくれますか?」
ウチはののの言っている意味が分からへんかった。

不思議そうな顔をしていると、
「おにいちゃんはそこにいるんれす。そこでおにいちゃんの天国ですんでる
場所を聞かないといけないんれす」
と、ののは真面目な顔をしてそう言った。

結核がどんな病気かはよう知っていた。
そしてののの気持ちも充分伝わっとった。
せやけど、ウチは嫌やった。

ののはいままで生きてきて、なんかええことあったんか?
家族みんな、戦争で殺されて。
そして自分は苦しい生活のなかで、結核に冒されとる。

不憫やった。悔しかった。
せやけどウチはののになんもしてやれへんかった。

おにいちゃんがおったら、医者のおにいちゃんがおったら、
ののの病気を少しでも良くすることができたのに。
おにいちゃん、なんで帰って来うへんの?
そんなことを思っていたら、また涙が出て来そうになった。

ののの前で泣いたらあかん。

ウチは必死で涙をこらえながら、分かったと言った。
それを聞いてののは嬉しそうな顔をした。
777名無し娘。:02/06/23 13:25 ID:5RSau/IP
更新できないといいながら、時間ができたので更新しました。
次で終わりです。短編のつもりだったんですが、結構長い……。

>>766
すばやいレス有難うございます。次で終わりですので。
778 :02/06/24 00:52 ID:TvDkxquZ
hozen
779 :02/06/24 07:53 ID:7yBnsjk1
がんがってください。
780名無し娘。:02/06/24 14:04 ID:FIaoh95x

そんなある日、ウチがいつものように内職をしながら、
家の窓から海をみていると、遠くから船がやってきた。
暫く眺めていると、いつもの貨物船とは違う船やった。
それは久々に帰ってくる復員船やった。

「おかあちゃん、復員船やな」
ウチはそう呟いた。おかあちゃんは布団の中でああそうと
ため息をついた。それはいつものようにあきらめた口調だった。

「ちょっとみてくるわ」
ウチはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。

久しぶりやった。雪がちらつき始めた神戸の港はどんよりと曇っていて、
六甲おろしがぴりぴりとウチの頬を刺した。

ウチは服の襟をたてながら、いつものように降りてくる人の波を見つめた。
沢山の人が船から出てくる。そのたびに歓声があがり、
何人もの人が抱き合って喜んどった。

せやけど、おにいちゃんは出てこおへんかった。
やっぱり、今回も無理なんやな、とちいさくため息をついたときやった。

ウチの視線は一人にくぎ付けとなった。
781名無し娘。:02/06/24 14:05 ID:FIaoh95x

おにいちゃん?

そこにはおにいちゃんにそっくりなひとが降りてきていた。
ウチは慌てて、ポケットの中をまさぐった。

青い貝殻の髪飾り。

そして、それをぱさぱさのウチの髪の毛につけると、
人ごみの中へと入っていった。

おにいちゃん、分かる?あいぼんやで。
ほら、おにいちゃんが買うてくれた、
青い貝殻の髪飾りしとるで。

体の小さいウチを見つけてもらうために、
少し背伸びしながら人ごみを掻き分けた。

その人はウチの髪飾りをみると、はっと嬉しそうな表情をした。
782名無し娘。:02/06/24 14:06 ID:FIaoh95x

もう、間違いなかった。
そこには、ぼろぼろになった軍服を着て、
おおきなかばんを抱えたおにいちゃんがいた。

ウチの前におにいちゃんがゆっくりとやってくる。
それはどうみても、何度も目を擦ってみても、
やっぱりおにいちゃんやった。

「おにいちゃん!」
ウチはずっと言いたかったその言葉をやっと叫ぶことができた。

おにいちゃんはにっこりと微笑むと、ウチの髪飾りを見て、
「よう、似合っとる」
と言って、ウチの頭をクシャクシャと優しく撫でた。
その感触は、あの出兵した日と全く同じやった。

「約束、守ってくれたんやね」
ウチはそう言っておにいちゃんに抱きついた。

嬉しくて嬉しくて涙がとまらんかった。
おにいちゃんはウチを優しく抱きしめてくれた。
ちょっとやせたおにいちゃんは、あのときと同じ匂いがした。
783名無し娘。:02/06/24 14:06 ID:FIaoh95x

ウチは昔、おにいちゃんといつも歩いてた道をとおった。
おにいちゃんは変わり果てた神戸の街をみて寂しそうな顔をした。
そしてウチらの住むバラック小屋についた。
おにいちゃんは驚いとった。

「空襲で全部もえてしもうてん」
ウチはおにいちゃんにそう言った。

ガラリと玄関の扉を開ける。
すぐそこには床に臥したおかあちゃんがいた。
おかあちゃんはおにいちゃんの顔をみると、
とても驚いた顔をして、一生懸命起き上がろうとした。

おにいちゃんは、ええからといっておかあちゃんの
布団のそばに座り、おかあちゃんの体をゆっくりとさすった。
そして、心配かけてすまなかったと謝った。
784名無し娘。:02/06/24 14:10 ID:8vRT9FWp

「おにいちゃん、実はおかあちゃん病気やねん」
ウチはおにいちゃんの横にぴったりと寄り添いながらそう言った。
もう離れたくなかった。

おにいちゃんはウチをみてにっこり笑うと、持っていた大きなかばんを開けた。

ウチはその中を見て驚いた。
そこには、戦地から持ちかえってきた、沢山の薬が入っとった。

「おにいちゃん、これでおかあちゃん治るん?」
と、ウチは聞いた。お兄ちゃんはゆっくりと頷いた。
おかあちゃんはそんなおにいちゃんの姿の見ながら、泣いとった。

ウチはおにいちゃんにお茶をいれた。
おにいちゃんは、温まるなあと嬉しそうな顔をした。
それを飲みながら、ウチはののの話をした。
ウチの一番の友達ということ。
しらんおっちゃんが、この青い髪飾りといっしょに、
赤い髪飾りを持ってきてくれたことを。
おにいちゃんと同じ部隊で闘ってた人の妹やということ。
そして今、ののは、結核に冒されていること。
髪飾りを握り締めながら、おにいちゃんのところへいくんだと言っていること。

おにいちゃんは少し驚いた顔をしとった。
そして、のののおにいちゃんのことを少し話してくれた。

のののおにいちゃんは、その部隊の指揮官やったこと。
そして、のののおねだりの手紙がきて、のののおにいちゃんは、
ウチのおにいちゃんが髪飾りを買ったお店で、色違いの髪飾りを買ったこと。
そして、部隊が前線に進むとき、もう日本には戻れないと思って、
そのおっちゃんに二人でそれを預けたこと。
前線に進む途中、けが人が沢山出て、その手当てをしていたおにいちゃんたちを残して、
のののおにいちゃんと、残った兵隊さんたちはさらに進んだこと。
せやけど、残念ながらアメリカ軍の攻撃をうけ、自決したこと。

ウチはおにいちゃんの話を真剣に聞いとった。
おにいちゃんはお茶をおかわりすると、少し伸びをした。
そして、明日のののところにお薬を持って一緒に行こうと言ってくれた。
ウチは、そんなおにいちゃんが大きく見えた。
785名無し娘。:02/06/24 14:10 ID:8vRT9FWp

おにいちゃんは、ちょっと横になりたいと言った。
長旅の疲れが出ているのがウチにも分かった。

ウチはおにいちゃんのために布団を引いた。
せやけど、薄っぺらい掛け布団は一枚しかなくて、
冬の神戸には寒いものやった。

ウチはおにいちゃんの寝ている布団の横に、ちょこんと座り、
「寒いやろ、ごめんな」
と、言った。
おにいちゃんは、ちょっとだけや、と答えた。
ウチはおもわず、掛け布団の端を持ち上げ、
おにいちゃんの布団の中へ入った。

どないしたんや、とおにいちゃんは不思議そうな顔をした。
「こうしたらあったかいやろ」
ウチはそう呟いた。
おにいちゃんは、そうやなと言った。

しばらく二人で布団のなかが温まるのを待った。

「あのな、おにいちゃん」
ウチはそう言った。
「髪飾り、ありがとうな」
おにいちゃんはええよ、と答えた。
おにいちゃんはやっぱり死んだおとうちゃんと同じ匂いがした。

「あのな、おにいちゃん」
ウチはまた尋ねた。おにいちゃんと呼べるのが嬉しくてたまらんかった。
「この髪飾り、神戸の海と同じ青色やな」
おにいちゃんは、そうやな、似合っとるで、と言って笑った。
なんか照れくさかった。
786名無し娘。:02/06/24 14:11 ID:8vRT9FWp

「あのな、おにいちゃん」
ウチはもう一度尋ねた。おにいちゃんと呼びたくて仕方なかった。
「この布団な、ウチのやねん。空襲で焼けてもうないねん」
おにいちゃんは、新しいの買うたる、と言って頭をクシャクシャと撫でてくれた。
「別にしばらくはええよ」
と、ウチは言った。
おにいちゃんは、遠慮なんかせんでええ、と言った。
ウチは遠慮してるつもりはなかった。
おにいちゃんと一緒にいられる時間が増えることが嬉しかった。
「寒いし、一緒に寝たらええねん」
ウチはそう言った。
おにいちゃんはそうか、と答えた。


「あのな、おにいちゃん」
ウチはまた尋ねた。気がつけば、なぜだか涙が溢れていた。
そして、ウチの体は小さく震え取った。

「もう……、どこにも行かへんやんな……」
ウチはそう呟いた。
おにいちゃんは、ああ、行かへんよ、と答えると、
ウチをそっと抱きしめてくれた。

その感触はとても優しくて、暖かくて、涙がとまらへんかった。



小説 「あいぼん1945─青い髪飾り─」 了
787名無し娘。:02/06/24 14:13 ID:8vRT9FWp

完結です。
お読みいただいた方、有難うございます。
あと、加護たんと添い寝したい奴の数スレのレス256さんに感謝です。

さらっと書いたので、下調べはしてません。
舞台が神戸なのは、奈良(加護の実家)に近い軍港って神戸?と思っただけです。
あと、史実に全く基づいてないです。申し訳ないです。
もし、感想などございましたら、書き込んでいただけたら幸いです。
788名無し募集中。。。:02/06/24 15:33 ID:K8+ltqi/
さわやかな感動でした。
やはりこの季節、日本人は戦争を忘れちゃいけませんね。
前作に続き、忘れちゃいけない物を思い出させてもらいました。

でも次はコメディキボーン、と書いてみたりして・・
789名無し募集中。。。:02/06/24 22:51 ID:4LEbXiI/
素晴らしい!!

もう名作としか言い様がない!!

もっと、あいぼんの兄妹小説を禿しくきぼんぬ!!
790あいぼん好き:02/06/25 01:23 ID:sdXA/xVV
期待あげ
791名無し募集中。。。:02/06/25 22:19 ID:HkVQUJSE
>>787
はやく次回作見たい!!

もちろん兄妹モノ頼んます!!
792おーい:02/06/26 02:09 ID:vZe2tlCZ
名無し娘。様

どうか現れて下さい

もう我慢できない!!
793名無し娘。:02/06/26 10:23 ID:O6GmCUvi

>>788
本当に有難うございました。
またアイデアが降臨したら、コメディを。でも難しいんですよね……。

>>789-792
お読みいただいて、感謝しております。
レス遅くなって申し訳ないです。一応働いてるのでそんなに来れないんです。
256さんへのお礼のレスで、あちらのスレをお騒がせして申し訳ないです。
前のは256さんのおかげで脳内に神が降臨したから短時間で書けたんです。
でも、今はなにも降臨してくれないので、脳内真っ白です。
期待しないでください。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
794名無し募集中。。。:02/06/26 23:30 ID:+9J8B5IT
>>793
ああ先生、やっと来てくれたんだね!!

http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1022438716/l50

↑のスレみたいな感じの小説を早く見たいです!!

私は読んでて胸がいっぱいになる様な兄妹愛ストーリーが見たいのです!!

先生の才能ならきっと優れた小説が書けるはず!!もっと自信を持って下さい!!

そしてまた私達を素晴らしい夢の世界へ連れてって下さい!!
795名無し募集中。。。:02/06/27 00:25 ID:3xlB66oE
名無し娘。 先生〜!!

寂しいよぉ〜!!
796.:02/06/27 01:44 ID:qsVZPPG7
先生
作品の善し悪しについては贅沢は言いません

先生の書く小説なら、あいぼんの輝きもきっと倍に増すでしょう

三度のメシより、あいぼん!!
797名無し娘。:02/06/27 13:03 ID:S7wATXSp

>>794-6
わざわざレスしていただいて申し訳ないです。
続編を少しづつ書きますので、なにとぞご容赦を。
駄文かつプロットがないまま書きますので、完結できるか分かりません。
更新頻度もかなり間があきますし、しかも一回の更新量は1、2レスです。
萌えれない、感動できないです。ただ、あいぼんがおにいちゃんと言ってるだけです。
すみません、すみません、すみません。

あと、もしレスをされるときはなにとぞ、sageでお願いいたします。
なんか、謝ってばかりですみません。

でも脳内真っ白なんです。ほんとに。
というわけで、真っ白なイメージで書いて見ます。
下のAAは全く関係ないんですが、思わず拾ってきて、台詞いれました。
ガイシュツだったらスマソ。
798名無し娘。:02/06/27 13:06 ID:S7wATXSp

小説 「あいぼん1946─白い粉ぐすり─ 続・あいぼん1945」

                     
               ……オニイチャン?
                  @ノハ@
                  (''‘ д ⊂ゝノ⌒ヽ、
               ( ̄c'入  ノノ⌒"  )
             (⌒⌒⌒⌒⌒⌒~\ノ⌒⌒)


799名無し娘。:02/06/27 13:07 ID:S7wATXSp

「あれ、綿菓子やったらええのにな」
目の前に広がる再度(ふたたび)山が真っ白に染まっているのをみて、
ウチはかじかんだ手のひらに白い息を当てながら、そう呟いた。
おにいちゃんは、ほんまやな、と答えるとウチの冷えきった手を握ってくれた。

おにいちゃんと神戸の急な上り坂を登っていく。
向かい風になる六甲おろしは相変わらず冷たくて、
いつものように、ウチの頬をピリピリと刺しとった。
せやけど、おにいちゃんが握ってくれとるウチの手と、
見上げるおにいちゃんの横顔のは、なんか暖かかった。

後ろを振り返ると、小さなウチの家はもっと小さくなっていて、
神戸の海はウチの髪飾りと同じ青色をして、真っ白な六甲の山々を見上げていた。

それは、おにいちゃんが復員した次の日やった。
ウチとおにいちゃんは、結核に冒されとるののの為に、
お薬と、そして戦死したのののおにいちゃんの思い出を持っていくために、
彼女の家につづく坂を登っとった。
800名無し娘。:02/06/27 13:13 ID:S7wATXSp

高台にあるののの家にはうっすらと雪がつもっとった。
ガラリとののの家の扉を開けて、ごめんくださいとウチが言うと、
中からののの親戚のおばちゃんが出てきた。
ウチとおにいちゃんが挨拶をすると、おばちゃんにののの部屋へと通された。

「のの、どない?」
ウチはふすまを開けてそう尋ねた。
ののは薄っぺらい布団の中で、小さい体をさらに縮こませるようにして
横になっていた。そしてゆっくりと、ウチのほうをみた。

「あいぼん……」
そう呟くののの声は弱々しくて、ウチはおもわずそばへと駆け寄った。
ののは前にあったときよりもさらに痩せ、白い肌はさらに青白くなっとった。
ウチは後ろを振り返る。そして、ののはウチの目線の先を追いかけた。

801名無し娘。:02/06/27 13:15 ID:S7wATXSp
今日の更新は以上です。ちょっとですみません。
802名無し募集中。。。:02/06/27 22:26 ID:3xlB66oE
>>801
先生お忙しい中、本当にありがどう!!

しかしアイデアが浮かばないと言いながら、これだけの作品に仕上げるとは!!

内容は少しでも、先生の小説を読めるだけでも幸せです

もう次のストーリーが気になって仕方ないくらいです

少しずつでもいいから連載してください

おねがいします!!
803.:02/06/28 01:39 ID:hsFg3jww
>>801
ののは・・・ののタンは助かるのでしょうか!?

どうか助けてやってください

親兄弟まで亡くして、さらに結核に蝕まれて・・・・

読んでてマジ泣きました

涙が止まりません
804名無し募集中。。。:02/06/28 10:30 ID:6PMbfRvZ
>>797
>>萌えれない、感動できないです。ただ、あいぼんがおにいちゃんと言ってるだけです。
なんかワラタ!
マターリがんばってください。
805名無し娘。:02/06/28 10:43 ID:EyK9BItI

「はじめまして」
ののはゆっくりとそう言った。
「あいぼん……、おにいちゃんれすか?」
ののは少し驚いた表情をしたあと、よかったれすねといって微笑んだ。
ウチはその表情をみて、少し胸がちくりと痛んだ。

おにいちゃんはののの枕もとに歩み寄ると、かばんを置いて
ゆっくりと座り、「あいぼんの兄です。いつも妹がお世話になってます」、と
お辞儀をした。

ののはお話はいつもあいぼんから聞いてます、と答えると、ウチの手を握り、
よかったれね、よかったれすね、とまた繰り返した。その瞳にはうっすらと
涙が浮かんでいて、それがまたウチの胸をちくりと刺した。
806名無し娘。:02/06/28 10:45 ID:EyK9BItI

おにいちゃんはののの枕もとで、
「おにいさんは、いつもあなたのお話をされてましたよ」
と、言った。

ののの前でおにいちゃんは、上官だったのののおにいちゃんの話をした。
優秀な指揮官だったこと。
いつも、妹のことを想っていたこと。
二人で妹の話をして、故郷を懐かしんだこと。
そして、自分たちとけが人を残し、お国の為に散っていったこと。

ののは、それを少し涙を浮かべながら黙って聞いとった。
ウチはそんなののの姿をみて、また胸がちくりと痛んだ。

一通り話がおわると、ののは、「おにいちゃん……」と小さく呟いて、
ずっと握り締めていた、赤い髪飾りを見つめた。
おにいちゃんは、それに気づくと、懐かしいなと言って、
それをみせてくれるようにののにたずねた。
ののは、それをおにいちゃんに渡すと、ウチの顔を見て
またよかったれすね、と言った。
ウチはそれに返事をすることがでけへんかった。
807名無し娘。:02/06/28 10:46 ID:EyK9BItI

おにいちゃんはその赤い髪飾りをみながら、のののおにいちゃんが、
戦地で妹のことを想いながら、それを買ったときのことを話していた。
「おにいさんは、あなたがそれをつけている姿を思い浮かべていましたよ」
と、おにいちゃんは言って、その髪飾りをののの頭に付けた。
そして、「おにいさんの言うとおり、良く似合ってます」
と言って、微笑んだ。

赤い髪飾りを付けたののは、痩せたのと、青白くなった肌の色のためか、
それはきれいやった。

ウチはその姿に暫く見とれとった。
ふと気がつくと、ののの瞳から涙が流れとった。
おにいちゃんは慌てて、ののの涙を拭いていた。

しばらくの間、小さくののの嗚咽だけが聞こえとった。

擦り切れた畳の下から、しんしんと冬の寒さが伝わってきた。
808名無し娘。:02/06/28 10:49 ID:EyK9BItI
今日の更新は以上です。
>>802
少しづつで申し訳ないです。
>>803
まだストーリーが決まってないのでなんとも……。
>>804
有難うございます。

スレ容量が一杯になってきたので、また氏にスレを探しておきます。
809.:02/06/29 01:03 ID:Z+DerMKG
>>808
先生、小説ありがとうございました
もう涙なしには語れない小説ですね

もう読んでいて心が洗われてきます

なんだか忘れかけてた優しさを思い出した気分です

この位素晴らしい作品がかけるなら、直木賞も夢ではないのでは!?(笑
810名無し募集中。。。:02/06/29 22:29 ID:Aby0hwNj
>>808
すいません

http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1022438716/l50

↑の「加護たんと添い寝したい奴」のスレで、先生の小説を楽しみにしている人が大量に発生しています(w

もしよければ、こっちのスレにも心温まるあいぼん兄妹小説を禿しくおながいします
811.:02/06/30 01:06 ID:MREoAtlO
今日は更新なし?
812
新氏にスレでも期待しています。