事務所のバックアップが少ないため、
メンバーたちは自分自身の足で活動しなくてはいけなかった。
彼女たちは、忙しいスケジュールの合間をぬって
ワイドショーや、ニュース番組にメンバー自らが出向いてキャンペーンを行う。
もちろん自らの出演番組でも必ず視聴者にお願いを忘れなかった。
メンバーたちはとある某生放送音楽番組に出演していた。
「はーい、モーニング娘。でーす」
タモリが紹介する。
「どうもー」
「どう、12人にもなれた?」
「そうですね。大分なれました。はやく戻ってきて欲しいですね」
タモリの横に座っている飯田が答える。
「それで今日はなんか告知があるとか」
女性アナウンサーが台本どおり進行を続ける。
「そうなんです。いま、私たちはこういうキャンペーンをやってるんです」
安倍が話し始める。その横で矢口がフリップをだす。
「お、なるほど。辻、これなんて読むか分かる?」
「はっけつびょうのむすめをきゅうえ、れすか?」
「すくえだよ」
会場内から失笑がもれる。
「どんな活動をしてるの?」
タモリが話を振る。
「中心なのは骨髄移植についての正しい知識と登録者の募集です。
いろんな番組にお邪魔して、告知してます」
安倍が答える。
「へえ、どんな番組出たの?」
「ニュースステーションとかにも出ましたよ。久米さん困ってましたけど」
後藤が答えた。
「でも、若い子がきたからよろこんでたんじゃないの?」
「いや、どうでしょう。でもチョット場違いっぽかったかな」
後藤はテレ笑いをする。
「こんどは、タモリさんの番組にいってもいいかな?」
間を計っていた矢口がタモリに言った。
「え?ああ、いいとも!」
「キャー、ホントですか?いきます、いきます」
メンバーたちは拍手をする。そして、会場も拍手につつまれる。
そしてタモリはいつものように3回の拍手でそれを切る。
「タモリさん、他局の番組です」
女子アナが突っ込みをいれる。
「ああ、そうだった。新メンバーはなんか活動してるの?」
「いいかげん名前覚えてくださいよ」
矢口が突っ込む。
「いや、だからあきらめたんだって」
「えー?」
「あ、辻加護はタモモニできてくれるのかな?」
「はい、是非。あ、いいとも!っていうんだった」
「あ、時間?それではスタンバイお願いしまーす。」
メンバーたちは小さな手ごたえを感じながらステージへと向かった。
吉澤は病室のベッドの上でそのテレビを見ていた。
抗がん剤の治療も終わり、体調もやや良くなっている。
ドクターからは治療の効果は良好。そして寛解導入に近づいているとのことだった。
「みてますよー」
「のの、それぐらいちゃんと読めよ」
「あー、また矢口さんしゃべってる。新メンバーまた話せなかったじゃん」
独り言を言いながらテレビを見る。
吉澤には前のような、孤独感や寂しさを感じなかった。
みんなが一緒に闘ってくれる。メンバーたちは決して口には出さないが、
自分のために活動してくれている。それが伝わってくる。
独りじゃない。仲間がいる。そして私のために一生懸命やってくれる。
石川、後藤、彼女たちの言いたかった気持ちが分かった気がした。
見つかるかもしれない──
戻れるかもしれない──
一緒に働けるかもしれない──
みんな一緒に闘ってくれているんだ。
テレビを眺めながら吉澤は久しぶりに嬉しくて涙を流した。