「辻と後藤」復活希望スレ

このエントリーをはてなブックマークに追加
248名無し娘。



題名 リュウケミア



249名無し娘。:02/04/08 11:55 ID:uBmWzShS

普段どおりの楽屋だった。
いつもと同じ風景、いつもと同じメンバー。
相変わらず仕事はハード、しかし順調。
そして、何も変わらない日常──
メンバーみんながそう思っていた。

「よっすぃー、ベーグルあるよ?食べる?」

その日、石川は楽屋でボーっと雑誌をながめている吉澤に声を掛けた。
彼女は吉澤の好物であるベーグルを買ってきていた。
そして吉澤の前のテーブルにそれを置く。

「いったらっきまーす」
そばにいた辻が早速いただこうと、袋に手を伸ばす。
加護もベーグルの入った袋を覗こうとする。

「あ、辻ちゃん、だめ。よっすぃーのなんだから」
それを見た石川は、辻に取られてはいけないと思って、
ベーグルの入った袋を漁ろうとした辻をたしなめた。

「えー?」
と、言って、不満そうに辻は吉澤をみる。

吉澤は石川の声に反応もせずに雑誌を眺めていた。ふと、辻と加護の視線に気付く。
顔を上げると、3人ががちょっと不機嫌そうに吉澤を見ていた。

「あ、みんな、食べていいよ。梨華ちゃん、ごめんね。
ちょっと口内炎が出来てさ、あんまり食べたくないんだ」
吉澤はここ数日、口内炎に悩まされていた。
そのせいか、あまり食欲がない。
250名無し娘。:02/04/08 11:56 ID:uBmWzShS

「せっかく買ってきたのに……」

と、石川はすねるように唇を尖らせながら言った。
彼女は吉澤に食べてもらいたかったのである。
せっかく遠いところまで行って買ってきたのに─ そう思っていた。

吉澤は石川の表情を見た。また、いつものように拗ねてしまうかもしれない。
ここは無理してでも食べようと思った。
別に食べれないことはない。元来好物であるものでもあるし。

「いや、やっぱりたべる」

そういうと、吉澤は辻、加護からベーグルの入った袋を取り上げた。
二人は不満そうに文句を言いながらも、しぶしぶ了解した。
石川の吉澤びいきには、すでに二人もあきらめているようである。
そして、石川も嬉しそうに微笑んだ。

吉澤は、袋からベーグルを取り出しだす。いつものベーグルの匂い。
大好きな匂いだ。
口の中が痛いのか、いつもより小さい口でそれをかじる。
時間が経っていたのか、少しだけベーグルは固かった。

「あ、血─」

吉澤の手にある、半円上にかじり取られたベーグルには、
うっすらと血がついていた。

251名無し娘。:02/04/08 12:00 ID:uBmWzShS

「よっすぃー、歯槽膿漏やな。もうおばちゃんやな」
辻と一緒にそれをうらやましそうに見ていた加護が言う。

「大丈夫?ちゃんと歯磨きしてる?」
石川は心配そうに吉澤を見た。

「え?大丈夫だよ。磨いてるって、あたりまえじゃん。
てか、おばちゃんじゃないよ!加護」
吉澤は血が出たことに少し驚きながらも、別に対して気に求めずにいた。
相変わらず心配性だな、私は丈夫なんだから大丈夫。
そう思いながら、ベーグルをもう一度かじった。

「じゃあ、ちょっと固かったのかな?時間経っちゃったから…。ごめん」
石川はすまなそうに謝る。

(いけない、梨華ちゃんがネガティブになる)
そう思って吉澤は、気にしないでと言って微笑んだ。
それならいいんだけど、と石川はすこしホッと胸をなでおろす。
吉澤は口の中が痛いのを我慢しながら、
ベーグルを食べ終え、本番へと向かった。

石川も、吉澤も別に対した話題でもないと思っていた。
それを聞いていたメンバーたちも、ごくふつうの会話だと思っていた。

252名無し娘。:02/04/08 12:01 ID:uBmWzShS

数日後、吉澤は仕事に向かう前、自宅で歯磨きをしていた。
少し気だるい体を覚ますように力をいれて磨く。

「また、血が出てるなあ」

吉澤は、シンクに流れていく、自分の吐いた歯磨き粉が
ピンク色に染まっているのに気付いた。
あれ以来、歯茎からの出血はつづいている。
相変わらず、口内炎も治っていない。

「歯医者にいったらいいのかな?病院かなあ?」
そんなことを考えながら、家を出ようとする。
すこし、頭がふらふらする。全身が少しけだるい。

「最近、ご飯あんまりたべれてないからなあ」
そうつぶやきながら、少しだけふらつく体をグッとさせるように脚に力をいれ、
仕事へと向かった。

253名無し娘。:02/04/08 12:02 ID:uBmWzShS

仕事はとても忙しかった。新曲のダンスの振り付けは難しく、
メンバーたちは夜遅くまで、ダンスレッスンをしている。
レッスンの途中で、メンバーたちはジュースを飲みながら
休憩を取っていた。石川は床に座って休んでいる吉澤にペットボトルを渡す。

「ねえ、よっすぃー、なんか最近顔色わるいよ?ご飯たべてる?」
石川はふと吉澤の顔色があまり良くないことに気付いた。
そういえば今日のダンスもいつもの切れがない。そんなことを感じていた。

「うーん、あんまりかなあ。でも、すこしやせたよ。梨華ちゃんに追いつくのももう少しだね」
確かに体調はあまりよくない。でもそんなに気にするほどのことでもないだろう、
またいつもの心配性が始まったなと思いながら、吉澤は笑った。
しかし、石川は吉澤の表情に、少し生気がないような気がして不安になっていた。

「でも、ちゃんと食べなきゃだめだよ」
吉澤より一つ年上。自分は彼女のお姉さんみたいなものなんだから、
そう石川は思っていた。つい、口調がきつくなる。

「うん、わかってる」
石川が心配して言ってるのであることは分かってはいたが、
体調のすぐれない吉澤にとっては少し、鬱陶しいものであった。
しかし、冷たくあしらうわけにもいかない。そうすれば、石川が
落ち込んでしまうのは目に見えている。
254名無し娘。:02/04/08 12:03 ID:uBmWzShS

石川はふと、吉澤の白い脚に、紫色のアザがあるのにきづいた。

「あれ、どこかで脚ぶつけたの?大丈夫?」
と、石川がまた不安そうに尋ねた。
吉澤は全く心当たりがなかった。そのことに気付いてもいなかった。
相変わらず心配性だなとおもいながらも、そのアザを少し抑えてみる。

「痛くない、大丈夫。私、体は丈夫だから、心配しないで」
そういって吉澤は少し微笑んで答えた。
石川に心配を掛けたくなかったのであろう。
しかし、石川は不安げな表情をかえないまま、吉澤を見ていた。
彼女には、少しだけ心にひっかかるものがあるようであった。

255名無し娘。:02/04/08 12:13 ID:uBmWzShS

「はい、始めるよ!」
夏まゆみが手を叩く。メンバーたちはおのおのの立ち位置につく。
曲が流れ始めダンスの練習が再開された。
新曲の踊りは複雑で、早い。ハードな振りがつづく。
曲はまだ始まったばかりなのに、吉澤は肩で息をしていた。
吉澤のダンスがメンバーたちから遅れる。メンバーたちは吉澤をちらりと見る。
今日の吉澤はなんかおかしい、そんな雰囲気がメンバーたちに伝わる。

「吉澤!遅れてるわよ!練習してきたの!?」
夏の厳しい叱責がスタジオに響く。

吉澤自身も遅れているのは分かっていた。ただどうしても体が動かない。
焦れば焦るほど足がふらつく。今日はおかしい、何かが違うと感じていた。
ふと、脈拍が異常に速くなっているのに気付く。
冷や汗が滝のように流れていく。

(ダメだ、今日はついていけない…)

そう思って踊るのを止めようとしたときであった。
急に吉澤の目の前がぼやけ始める。
そしてカーテンが下りるように視界がなくなっていく。

あ、まずいと思った瞬間、体にふわっとした感覚を感じると
そのまま吉澤は意識を失った。
256名無し娘。:02/04/08 12:14 ID:uBmWzShS

突然、フローリングの床の上に大きな衝撃が伝わる。
崩れ落ちるように、吉澤の姿が急に視界から消える。
一瞬にしてメンバーたちの表情が変わる。

「よっすぃー!」
練習場に悲鳴が上がった。後藤が真っ先に駆け寄る。

「ねえ、よっすぃー、よっすぃー」
必死な表情で肩を叩きながら吉澤に声を掛ける。
しかし、吉澤はぐったりしたまま、動かない。

「ダメ、意識がない。救急車!」
いつも静かな後藤が、大きな声で叫んだ。

257名無し娘。:02/04/08 12:16 ID:uBmWzShS

マネージャーが携帯電話で救急車を呼ぶ。
保田は、倒れて動かない吉澤にむかって、必死に呼びかけ続ける。
しかし、全く反応がない。メンバーたちに緊張が走る。

「大丈夫、ちゃんと息をしてるから!」
後藤は吉澤が呼吸をしていることに気付き、
メンバーたちに落ち着くように諭す。
辻は泣き出している。それを矢口と加護が慰める。

石川はただ、呆然としているだけであった。
まるで夢の中の出来事の様に感じていた。
そして、あまりのことに何も動けずにいた。

救急車はすぐに到着し、吉澤が運ばれていく。マネージャー、保田、後藤の3人が付き添う。
手際よく、隊員たちが吉澤を運び出す。倒れてから運び出されるまで、15分は経ってただろう。
しかし、メンバーにはほんの数分の出来事のように感じた。
スタジオの扉から吉澤の姿が消える。残されたメンバーたちは呆然とその姿を見送っていた。

258名無し娘。:02/04/08 12:17 ID:uBmWzShS

「わ、私も行きます!」

石川は叫んだ。メンバーたちは驚いたが、突然駆け出した石川を止める間もなかった。
石川は息を切らせて階段を駆け下りる。
吉澤が心配でたまらなかった。はなれたくない、そう思っていた。
すでに救急車の中にいる、吉澤たちを追いかけて走る。

外に出ると救急隊員が後ろのハッチを閉めようとしているところだった。
赤いランプがまぶしく点滅し始める。その光に気付いた石川は
閉まろうとするハッチに飛び込んだ。

「危ない!」
救急隊員が驚いてハッチを押さえる。
259名無し娘。:02/04/08 12:24 ID:uBmWzShS

「石川!?」
「どうしたの!?」

後藤と保田は突然視界に石川が入ってきて驚いた。

「いえ、し、心配で…」
息を切らせながら答える。
それしか、答えられなかった。
後藤と保田もそれ以上は何も言わなかった。
吉澤を心配する気持ちは自分たちにも痛いほどわかる。
自分たちに石川を止める権利はないということは分かっていた。

「もう、気をつけてください」
救急隊員は不機嫌そうに言う。
「す、すみません……」
石川はとりあえず謝ったが、心の中はそれどころではなかった。

「ダンス中に意識消失し転倒した16歳の女性。意識レベルは300。受け入れできますか?」
前方から救急隊員の真剣な声が聞こえる。否応なく車内は緊張感に包まれる。
それが石川の心をさらに不安にさせる。
260名無し娘。:02/04/08 12:25 ID:uBmWzShS

(いやだよ、死んじゃ嫌だよ……)
目の前に動かない吉澤が横たわっている。もともと白い彼女の顔は
さらに透き通るように白くなっていた。
石川は、自分が吉澤が体調が悪いことを知りながら、
ダンスの練習を止めてあげなかったこと、そして、
倒れたときに、真っ先に彼女の元へ駆け寄れなかったことを悔やんでいた。

「受け入れ可能です」
「了解。では、出発します」
隊員たちが受け入れ病院への連絡を済ませる。
救急車は、けたたましいサイレンを鳴らしながら、スタジオを後にした。
261名無し娘。:02/04/08 12:27 ID:uBmWzShS
今日の更新は以上です。
あいぼんのなやみ。とは偉い違いですみません。

262ななしぺぷし:02/04/08 16:42 ID:guGVr7/o
>>261
貴方の作品なんだから期待してますよ。
263名無し募集中。。。:02/04/08 17:00 ID:td+2xpz/
下らねぇ自演しやがって。
一気に醒めたよ。
264名無し募集中。。。:02/04/08 17:59 ID:myRjAoEi
>>263
どこ?
265名無し募集中。。。:02/04/08 18:16 ID:DzOOfT5B
>>263
二度と書き込むな。出てけ。
>>261
頑張って下さい。楽しみですよ。
266名無し募集中:02/04/09 00:32 ID:hVWtO3hz
多分白○病かな。今後の展開に期待
267名無し募集中。。。:02/04/09 00:45 ID:Zc70gKNm
またかよ
268名無し娘。:02/04/09 09:31 ID:uJHlRBlb

短編ネタ小説 ある名無し作者のなやみ。

何も変わらない日常だった。
数多くの名作に刺激され名無しで娘。小説を書くようになった私は
少ないながらもレスがつくようになって喜んでいた。
しかし、それは予告もなく突然やってきた。
その日、私は自スレの更新をしようとしたとき、レスを見て愕然とした。

某羊住人「くだらなねぇ自演しやがって」
某作者「そんなことしてないですよ」
某羊住人「うるせえ、一気にさめちまったじゃねえか、どうしてくれんだよ」
某作者「そ、そんなの貴方の勝手じゃないですか。私だって一生懸命やってるんです。
きっと応援してくれてる人もいるはです。なんでそんなこというんですか?」
某羊住人「それはな、こんな駄作のリンクが貼られてること自体が自演なんだよ。
応援してる奴なんているはずねえ。やめちまえ」

こ、これが羊の怖さなのか……。たった数行のレスが私の心を突き刺していく。
ゾクッとした感覚が背中を走る。

私もクロ(略みたいになってしまうのか?
いや、私はそんな名作者じゃない。それはクロ(略に失礼だ。

さらに大きな恐怖が私を包む。
も、もしかして な(略 扱いされてしまうのか──

「そ、そんなの悲しすぎる……」
ショックのあまり思わず呟いてしまう。
体が捨てられた子犬のように震えている。
このまま回線切(自主規制………。
269名無し娘。:02/04/09 09:32 ID:uJHlRBlb

ふと、レスが付きまくっている某新メンバーのスレを見つける。
私は何の気なしにそれを開いてみた。

某狼住人「くだらねぇコネ使いやがって」
某メンバー「そんなことしてないですよ」
某狼住人「うるせえ、一気に娘。にさめちまったじゃねえか、どうしてくれんだよ」
某メンバー「そ、そんなの貴方の勝手じゃないですか。私だって一生懸命やってるんです。
きっと応援してくれてる人もいるはずです。なんでそんなこと言うんですか?」
某狼住人「それはな、お前みたいな不細工が入ること自体がコネなんだよ。
応援している奴なんているはずねえ。やめちまえ」


某最年少メンバーがいつものように叩かれているではないか。嗚呼、可哀想。
僕にはわかる。彼女のその気持ちが僕にはわかる。

「分かった、私負けない。梨華、頑張る!」
自分が石川でないのはわかっていた。でもそう叫ばずにはいられなかった。

今なら彼女の気持ちがわかる。私はもう彼女を叩いたりはしない。神に誓って。
そして、今までの彼女を叩いていた罪滅ぼしに、次作は彼女主演の感動物を……。
そうだ、さらに落選メンバーをいれて、将棋の(略。

涙で画面がかすむ。私は吸い込まれるように新着レス表示を押した。

某メンバー「なによ!パパに言いつけてやるんだから!
あんたなんか、ふかひれも食べたことない貧乏人のくせに!」
270名無し娘。:02/04/09 09:34 ID:uJHlRBlb

…………………
…………………………………
………………………………………………… やっぱり煽り罵倒はスレの華かな……。



「今日もやってしまった……。俺もまだまだ厨だな……」

私は大きなため息をつきながら呟いた。
気が付くと彼女のスレに、条件反射のように罵倒カキコしている自分がいた。


おしまい

271名無し娘。:02/04/09 09:37 ID:uJHlRBlb

アホなネタかいてすみません。

>>262
期待は禁物っす。
>>263
そりゃこんな駄作がリンクされてたらそう思うのは当然です。
>>265
お心遣い感謝してます。実はすこし凹んだもので。
>>266
というかタイトルが……。
>>267
すみません。

さっさと更新します。
272名無し娘。:02/04/09 09:45 ID:uJHlRBlb

不安と緊張の空気が車内を包む。誰一人話そうとしない。
サイレンと、車のエンジン音しか聞こえない。
救急車はスピードをあげる。振動が3人の体を強く突き上げる。
どうやら、都内の大きな総合病院へ向かっているとのことであった。
不安と緊張が3人を包んでいた。

「う……」

しばらくして、吉澤が目を開けた。ぼんやりとした視界の中に3人の姿が映る。

(どうしたんだっけ……)
吉澤は何が起こったか分かっていなかった。
夢の中にいる感じがしていた。

「分かりますか?お名前いえますか?」
それに気付いた、救急隊員が声を掛ける。

「よしざわ……、ひとみ……」

「よっすぃー!」石川は思わず叫んでしまった。
「え?梨華ちゃん?私……」
「良かったよ、良かったよ。死んじゃうかと思った」
目に涙を溜めながら、つぶやく。

「大丈夫?急に倒れるから心配したよ」保田が尋ねる。
「え?そうですか、すみません」
「ごっちんも、ホント心配したよ」

みんなが不安と心配、そして少しの安堵で、吉澤に話し掛けずにはいられなかった。
273名無し娘。:02/04/09 09:46 ID:uJHlRBlb

「だ、大丈夫です。病院いくんですか?」
状況が飲み込めた
吉澤は焦った表情で尋ねる。
「そりゃ、そうでしょ。倒れたんだから」
保田が答える。
「い、いや大丈夫ですから」
そういって起き上がろうとする。それを救急隊員が制止する。
吉澤は大事になったことに慌てていた。病院なんて大げさな。
しかも救急車で運ばれているなんて。
早くこの状況を何とかしたかった。

「寝てなきゃダメ!」
それを見た石川は吉澤に向かって叫んた。普段以上の甲高い声が車内に響く。
思わず全員が石川を見る。

「す、すみません……」
周りの視線に気付いた石川は恥ずかしそうに下を向いた。
吉澤のことを心配しすぎたあまり出た行動とはいえ、
ちょっと大きな声を出しすぎてしまったことを後悔した。

救急隊員は不機嫌そうに、彼女は病人なので、あまり話し掛けないようにと注意する。
隊員のその威圧感のある言葉で、3人は神妙な態度で病院への到着を待った。


274名無し娘。:02/04/09 09:48 ID:uJHlRBlb

救急車が救急入口に滑り込んでくる。手際よく隊員たちがハッチを空ける。
看護婦とドクターがハッチの向こう側で立っている。

「病状は?」
若い当直のドクターが隊員に尋ねる。
「意識は先ほど戻りました。脈拍が速いですが、血圧、酸素濃度は問題ありません」
そういいながら診察室へと吉澤の乗ったストレッチャ―を運ぶ。
3人はその後ろを少し駆け足で追いかけていた。

吉澤が診察室へ運ばれる。それにマネージャだけが付き添うことになった。
3人は診察室の外の廊下にあるベンチで待つことになった。
病院独特の消毒液の匂いと、時折通りかかる看護婦の姿が
緊張感を高める。静かに時間が経っていく。吉澤はなかなか出てこない。
心配と不安がまたもや、3人を包む。何も話せない雰囲気になる。
275名無し娘。:02/04/09 09:49 ID:uJHlRBlb

しばらくして、診察室のドアが開く。
3人の視線が吸い込まれるようにそこに注がれる。
ストレッチャ―に横たわった吉澤の姿がちらりと見える。
そして、看護婦が小走りで血液の入った管をもって出て行く。

「大丈夫かな……」
石川が堪えきれなくなって口をひらく。
心配なのは3人とも同じなのは分かっている。でも言わずにはいられなかった。
「大丈夫よ……」
保田がつぶやく。根拠がないのは彼女たちにも分かっていた。
でも、彼女もそういわずにはいられなかった。
後藤はじっと目をつぶって手を合わせながら祈っている。
3人とも吉澤の無事を祈ることしか出来なかった。

どのくらいの時間が経ったのであろうか、看護婦が再び診察室に入っていく。
石川は彼女の表情を読み取ろうとする。しかし、あっというまに診察室に消えていく。
結局3人ともその様子を不安げに見つめるしかなかった。

「まだかな……」
石川は横に座っている保田にたずねる。
「長いね……」
保田も診察時間の長さが気になっていた。後藤も時計をみてため息をつく。
3人の緊張と不安がさらに高まる。

そのとき診察室のドアが開いて、先ほどの看護婦が三人を呼んだ。
ドクターからの説明があるとのことで、聞きたいのなら聞いてもいいと
吉澤が言ったとのことであった。
276名無し娘。:02/04/09 09:54 ID:uJHlRBlb

3人はおそるおそる病室に入る。廊下よりはるかにまぶしい室内に一瞬目がくらむ。
若いドクターは机に向かってカルテを書いている。
そして診察ベッドの上には少しだけ血色のよくなった吉澤が横たわっていた。

「あ、ごめんね。ほんとに」
吉澤が申し訳なさそうにあやまる。
彼女は自分のためにこんな面倒なことになったことを心苦しく思っていた。

「ううん、いいよ。きにしないで」
3人はそういうと、吉澤、マネージャーと共にドクターの説明を聞いた。
石川は吉澤のそばでじっと手を握る。自分には今、それしか出来ない。
そして、それをしてあげたい。そう思っていた。
保田も後藤も、吉澤のそばを離れようとしない。心配でたまらないのは皆同じである。
大丈夫、きっとたいしたことないはず。室内にいる彼女たちはみんなそう思っていた。

ドクターは全員がそろったことを確認するとおもむろに説明を始めた。

どうやら、採血検査で貧血がかなりあるとのことであった。
原因はまだ不明とのこと。詳しい検査をしたほうがいいので、
しばらく入院してもらいたいとのことだった。
277名無し娘。:02/04/09 09:55 ID:uJHlRBlb

「入院ですか?」
吉澤は驚いた。確かに体調は悪かった。しかし入院するほどなんて。
これから仕事は忙しい、収録に、新曲の練習に、ミュージカル。やることが山ほどある。

「倒れちゃうぐらいなんだから、ちゃんと検査してもらった方がいいって」
石川はいつものように、年上の口調で吉澤をさとした。
体調が悪かったことに気付きながら、彼女に何もして上げられなかったことが悔しかった。
私がもっときつく言っていれば、倒れないで済んだのに、そう思っていた。
だから今日は絶対きつく言うつもりだった。

吉澤は石川の何時にないきつい表情にとまどった。保田も後藤も石川の言い分に
納得した表情をして頷いている。それをみて、吉澤はしぶしぶと入院を受け入れた。

しかし、マネージャーは少しだけ不服そうな顔をして、
外来でなんとかならないかと訊ねていたがドクターは絶対に検査したほうがいいと
譲らなかった。その迫力に押されて、マネージャーはしぶしぶと了承し、
事務所に電話を掛けていた。

それをはたで見ながら3人は吉澤にぴったりとくっついていた。
そして、吉澤は心配かけてごめんと謝っていた。

「それでは、入院でよろしいですね。なにかご質問は?」
事務所からの返答がOKだったのを確認した後、
ドクターは全員を見据えていった。

しかし、この中の誰も、何を質問していいのか分からなかった。
練習も仕事もハードだった。しかも吉澤は食事があまりとれていなかった。
彼女が倒れた原因は貧血で、きっと、過労かなんかだろう。
倒れたんだから、念のため検査をして入院するんだと思っていた。
278名無し娘。:02/04/09 09:56 ID:uJHlRBlb

病棟に吉澤が運ばれる。3人とマネージャーは一緒に病室までついていくことにした。
両親にも連絡はいれてある。それまでは居てあげようとみんなが思っていた。
病室は、病棟の一番奥の個室。もちろん、芸能人が入院するのでプライバシーが守れる
ようにとのことである。

石川は病院がかなり大きいことにきづく。そして、案内表示には「血液内科」とかかれていた。
いろんな科があるんだな、聞いたことないや、と思いながら病室に入った。

病室はかなり小奇麗で快適そうであった。吉澤も少し安心する。
「ホントびっくりしたよ」
後藤はホッと安心したような表情で言った。
「ご飯食べないからだよ」
石川も安心したせいか、吉澤を少しだけ責める。
「ごめん、ホントに。でももう大丈夫」
自分の体調管理が甘かった。ちょっと検査して、退院できるだろう。
吉澤はそう思いながら、謝まった。

しばらく、たわいもない雑談をしてるうちに、吉澤の両親が心配そうに、
やってきた。自分の娘がハードな仕事をしているのはよく知っている。
不機嫌そうにマネージャーに、過労じゃないのかと文句をいっていた。
親としては当然である。石川たち、みんなもそう思っていた。
しかし、吉澤は、自分が悪いんだと、逆に親をたしなめた。
吉澤は、これ以上、メンバーや、事務所に迷惑を掛けたくない、そう思っていた。

「じゃあ、かえるね。お大事に」
石川、後藤、保田の3人は、吉澤とその両親にそういうと、
病室を後にした。あとは、ゆっくり休ませて、早く復帰してもらおう。
そう思っていた。
279名無し娘。:02/04/09 09:58 ID:uJHlRBlb

帰りのタクシーの中、3人は吉澤の病状について話していた。

「貧血かあ。ご飯食べてなかったんだよね。なんか口内炎ができてたみたいで」
と、石川が言う。
「そうなの。それじゃあ、たおれるかもしれないね」
と、保田が納得したように言う。
「だいたい、最近ハードすぎるよ。もうちょっと事務所も考えてもらわないと」
後藤は不満げだった。最近は本当に忙しい。後藤自身もいつ過労で倒れるか分からないと思っていた。

「でも、貧血には何したらいいんだろ」
私のせいだ、私がもっと早くに気付いてあげれば、こんなことには成らなかった。
自責の念に駆られていた石川は、吉澤が少しでも早く良くなるように
なにかしてあげたかった。

「鉄分じゃない?」
しばらくして、後藤が答える。
「レバーよ、レバー。私も焼肉屋いったら生レバーたのむのよ」
保田が自慢げにいう。後藤と石川は顔を見合わせながら、クスッと笑う。
二人は保田が生レバーをたべている姿を想像していた。
保田は二人が笑っているのに気付いて、なにが可笑しいのといいながら、
二人の頭を軽く叩いた。
「まあ、吉澤も疲れてたんだね。私たちも気をつけなきゃ」
3人はそういうとそれぞれの家へ戻った。
280名無し娘。:02/04/09 10:04 ID:uJHlRBlb

翌日はテレビの収録であった。自分たちのレギュラー番組であったのが幸いだった。
吉澤がいなくても特に問題はない。普段からユニット活動などで、メンバーが全員そろう事は
少ないのである。しかし、彼女の入院が数日であっても、国民的アイドルの動向は、
マスコミも注目の的である。

事務所のスタッフたちも対応であわただしい。事務所のトップが
会議を行い、今後の対応について話し合っていた。しかし、吉澤の病状が
はっきりと分かるまでは入院の事実は認めても、理由は明かさないことに決定した。
事務所はマスコミ各社にファックスを送る。
メンバーたちにもマネージャーから連絡が入る。

既に、午後のワイドショーでは、

─モーニング娘。吉澤ひとみ入院。ダンスレッスン中に倒れる!─

と題されて、報道が始まっていた。
夕刊紙の一面も軒並みこの記事を伝える。
ただ、どのような病状かが不明なため、突っ込んだ報道はされなかった。
281名無し娘。:02/04/09 10:08 ID:uJHlRBlb

メンバーたちは収録を終え、楽屋で休憩をしていた。
つけっぱなしだったテレビが、吉澤の入院のことについて報道する。

「ねえ、ニュースになってるね」矢口がテレビをみながら言う

「まあ、吉澤が戻ってくれば収まるでしょ」
保田は落ち着いたように言う。

「大丈夫なんれすよね?」
「大丈夫やろ、よっすぃー丈夫やし、アホやからな」
辻と加護もさほど心配していなかった。

確かに、いつもより皆元気はない。
でも、吉澤は過労による貧血、それだけだ。すぐに戻ってくる。
紺野の時だって、実際は数日しか休んでいない。
報道があったのも、発表された翌日だけだった。
そのうち収まるだろうと考えていた。
282名無し娘。:02/04/09 10:10 ID:uJHlRBlb

石川は昨日のレバーのことを思い出していた。
貧血にはレバーがいい。きっと沢山食べれば早く治るはずだ。
そうだ、私が作ってあげよう。そう思っていた。

「保田さん、レバーってどんな料理があります?」
「……レバニラとか?」
しばらく考えて答える。
保田も料理をあまりするほうではない。はっきり言ってこれぐらいしか思いつかなかった。

「レバニラですか……」
石川はレバニラを作ったことがなかった。というか、食べたこともない。
あまり上品な料理とはいえないことは彼女にも分かっていた。
とりあえず、家に帰ったら母親に電話で聞いてみよう。
そう思いながら、つぶやいた。

マネージャーが入ってくる。どうやら、テレビ局の前には報道陣が沢山いるらしい。
とりあえず、地下の駐車場に車を手配したので、すぐに楽屋を出て欲しいとのことであった。
メンバーたちは吉澤の話題をあまりせずにそれぞれ家路についた。
283名無し娘。:02/04/09 10:11 ID:uJHlRBlb

吉澤は病院の個室でテレビを見ていた。自分の入院がニュースになっている。
それだけで、みんなに迷惑を掛けている気がして、少し落ち込んでいた。

病院側は吉澤の検査を急ピッチ行っていた。
事務所から、早く退院させてほしいという連絡があったからである。
はやく原因を特定しないといけない。それに、芸能人が入院している
となると、病院のスタッフも仕事が増える。できれば、さっさと退院して欲しい。

彼女は、すでに何回かの採血とマルク呼ばれる腰の骨から骨髄を取る検査を受けていた。
あわただしく検査が行われていく。ドクターたちも緊急枠で検査をオーダーしていたのである。
それは吉澤にとっても負担のかかるものであった。

「まったく……。ものすごい痛かったじゃん……。こんなに検査しなきゃいけないの?」
「しょうがないのよ。どうもなかったら退院できるんだし」
母親がたしなめるようにいった。
284名無し娘。:02/04/09 10:16 ID:uJHlRBlb

ドアをノックする音がした。吉澤がどうぞというと、ゆっくりドアが開いた。
やってきたのは後藤であった。母親は気を使って病室を出る。後藤は軽く会釈をする。

「あれ?ごっちん。仕事は?」
「終ったよー」
「ごめんね、気を使わせて」
「いやいや、いいよー。これお見舞い」
そういって後藤は、花とドリンク剤の入ったケースを渡す。

「なに?これ?」
「鉄分のはいったドリンク剤。貧血にいいらしいよ」
「なるほど。ごっちんありがとう。早速飲むよ」
吉澤はそういって入っているドリンク剤を1本取り出して、グイっと飲んだ。

「結構いけるね」
「でしょ?色々試したんだけど、これが一番おいしかった」
「え?試したの?」
吉澤は、わざわざ自分のために後藤が沢山のドリンク剤を試し飲みしている
姿を想像して、思わず笑った。そしてその心遣いがとても嬉しかった。
「えー?へんかな」
「いや、ごっちんらしいよ。ありがと。嬉しい」
285名無し娘。:02/04/09 10:18 ID:uJHlRBlb

二人は楽しそうに話していた。
しばらくして再びドアをノックする音がした。
やってきたのは石川であった。

「よっすぃー、大丈夫?あ、ごっちん、来てたの……」
石川は後藤が来ていることに少しだけ驚いた。少しだけ残念そうだった。

「梨華ちゃん、ごめんね。心配掛けちゃったね」
「ううん。元気そうでなにより。これお見舞いなんだけど……」
石川はそういって観葉植物の鉢植えとタッパーに入った料理を差し出す。

「梨華ちゃん、なんで鉢植えなんか持ってきたの?」
それを見て後藤が不思議そうに尋ねる。

「え?いや、病室に緑がないかなって思って」
「あのね、鉢植えは根があるでしょ。根付くと寝付くをかけて、
あまりお見舞いには縁起が良くないんだよ。」
「ほんと?ご、ゴメン」
石川は本当に知らなかったようだ。ただ、緑があったほうが
健康にいいかなと思っていただけであった。
自分の無知が恥ずかしく、うつむいてしまった。

286名無し娘。:02/04/09 10:19 ID:uJHlRBlb

「いいや、大丈夫。緑があったほうがいいよ。飾っとくね」
吉澤は石川に別に他意がないことは分かっていた。それに、
もって帰ってもらったら、ますます落ち込むことは目に見えていた。
それをきいて石川は少し嬉しそうな顔をした。

「あ、あとこれはなに?」
吉澤は話を変えるつもりで石川の持ってきた料理について質問した。

「レバニラ」
石川はそういうとタッパーのふたを開けた。
吉澤のためにと、早速母親に電話して作ったのである。

「うわ……」
後藤と、吉澤は、その匂いと決して食欲をそそるとはいえない料理に
言葉を失ってしまった。正直言って食べたくない。

石川は不安そうに二人をみる。その表情を読み取った吉澤は、
鉢植えの件ですでに落ち込んでいるのに、食べないわけには
行かないと思った。

287名無し娘。:02/04/09 10:20 ID:uJHlRBlb

「あ、いやいや、レバーは貧血にいいもんね。ちょっと味見してみるよ」
吉澤は気を使って一口食べてみる。
「どう?」
自信なさげに石川は吉澤を見る。
しばらく沈黙がつづく。後藤も石川も
吉澤の口元に視線を注ぐ。

「………トイレの味がする」
少し顔をしかめて、吉澤がつぶやいた。

「ご、ごめん。も、もう食べなくていいよ」
石川は慌ててタッパーを取り返す。
「こんど、またちゃんとしたの作ってくる」
といいながら、石川は恥ずかしそうにそれをしまった。

「ごめんね。気持ちはほんとうれしいよ」
吉澤は申し訳なさそうに石川にいった。
後藤は笑いをこらえている。
石川は恥ずかしくてたまらなかった。

288名無し娘。:02/04/09 10:26 ID:uJHlRBlb

話を変えようとして、石川は今日の楽屋の様子を話す。
みんな口にはあまり出さないが、心配はしてるだろう。
でも、ものすごく心配はしてないこと。
報道のほうもそのうち収まると考えていると伝えた。

「なんかみんなに気を使わせてごめんね。検査結果はもうすぐでるみたいだから、
異常なかったら退院できるみたいだし」
吉澤は、事務所やメンバーに対して、申し訳ない気持ち一杯だった。
自分が、あまりにも体力に慢心していたせいで、体調管理に失敗してしまった。
そう思っていたからだった。

しばらく雑談した後、後藤と石川は病室を去った。
吉澤は病人である、負担を掛けてはいけない。
もうすぐ結果が出る。そうすれば、またいつものように一緒に働ける──
石川も後藤もそう考えていた。
289名無し娘。:02/04/09 10:28 ID:uJHlRBlb

翌日以降、マスコミ各社の報道は、メンバーたちの予想に反して
過熱していった。理由は、やはり入院の理由を説明しなかったからである。

─モーニング娘。の吉澤ひとみ。深夜のレッスン中に倒れる。過労か?
国民的アイドルの殺人的スケジュールの裏側!─

─以前から兆候はあった?タレントの体調を無視する、事務所の横暴!─

─事務所の責任?中学生の深夜労働が明らかに!労働基準法の適応は?─

マスコミは過労による貧血との見方を強めていた。倒れたのが、夜間であったこと、
そして、以前から吉澤が体調が悪そうであったとの関係者の証言があったからだ。
その責任を所属事務所に押し付けるかたちの報道であった。スポーツ紙一面も連日
野球の話題を押しのけて、この記事がトップであった。

事務所側も深夜のダンスレッスンを中止とした。
マネージャーからメンバーたちに連絡が入る。
メンバーたちも不安の色が隠せない。確かに、深夜までレッスンをしていた。
それは自分たちも望んだことだったし、事務所の責任が問われたら、
モーニング娘。の存続自体も問題となる。

辻と加護、そして入ったばかりの新メンバーたちは不安そうに
飯田と保田を見る。

「大丈夫。吉澤が戻ってくれば、すべて解決するから」
二人はそういうのが精一杯だった。
290名無し娘。:02/04/09 10:29 ID:uJHlRBlb

吉澤は病室でその報道を聞いていた。

(自分のせいだ……)

悔しそうにテレビを消す。事務所やメンバーたちにものすごく迷惑を掛けてしまった。
これから、モーニング娘。はどうなるんだろう。マイナスイメージがついてしまうのだろうか。彼女は、検査の結果よりもモーニング娘。の今後の方が心配であった。

すべて、私のせいだ。きちんと、体調管理をしておけば……。
後悔の念が吉澤をおそう。しかし、いまさらどうしようもない。
やるせない気持ちが吉澤を包んでいた。
早く退院して、復帰しないといけない。事務所やメンバーたちにこれ以上迷惑を掛けれない。
そう思っていた。

看護婦が病室にやってくる。明日に検査結果の説明があるとのことであった。
母親とマネージャーも同席するようにとのことだった。

「もう、いちいち事務所の人を入れないといけないのかしら。」
母親は報道や事務所のことよりも、自分の子供の病状が不安でたまらない。
事務所を通さないといけないことを腹立だしいと思っていた。

「まあ、お母さん。そういうものなんだって」
メンバーや事務所の方を心配している吉澤は、そういって母親をたしなめた。
吉澤は事務所に連絡を入れる。マネージャ―の一人が病院に来ることになった。

291名無し娘。:02/04/09 10:30 ID:uJHlRBlb

翌日になり、病院にマネージャーがやってきた。母親がナースステーションに、
全員そろったことを告げる。看護婦が、奥にいたドクターを呼ぶ。
ドクターは吉澤のカルテを取り出して、彼女の病室へと向かった。

病室では3人が神妙な面持ちで待っていた。
ドアが開き、カルテを持った主治医がやってくる。

「それでは、説明させていただいてよろしいですか?」
落ち着いた口調で、カルテをめくりながら主治医が口を開く。

「吉澤ひとみさんの検査の結果なのですが………」
病室内に張り詰めた空気が流れる。
吉澤は少しだけ不安な気持ちになる。


「白血病です」


吉澤は、その答えを聞いた瞬間、ドクンと大きく心臓が鳴った気がした。

(は、白血病……?)

自分のことなのに、よく分からない気がした。もちろん白血病は知っている。
重い病気だ。でもなにか他人事のような気がした。
しかし、胸の鼓動は全然治まる気配がない。

「正確には急性骨髄性白血病といいます。血液のガンです。白血病細胞もかなり多く、
そして、かなり貧血がすすんでます。それに加えて、血小板という、血を止める働きを
する成分も減少しています。早急に治療が必要な状態です」
主治医が説明をつづける。しかし、吉澤には何も耳に入ってこなかった。
ただ、白血病という言葉が頭の中でぐるぐると回っている。
292名無し娘。:02/04/09 10:37 ID:uJHlRBlb

「そ、それで、助かるんですか?」
母親は予想以上に悪い結果であった娘の病状に驚きながら、主治医に尋ねた。

「現在は抗がん剤の治療が進歩しており、日常生活に復帰される方も沢山いらっしゃいます。
しかし、病気が病気だけに、皆さんそういうわけに行くとはかぎりません」
主治医は表情を変えずに答える。

「そういうわけに行かない場合とは……」
母親が不安な表情でさらに訊ねる。

「命にかかわる事態、すなわち死ぬということです」
医師はきっぱりと言い切った。

その台詞を聞いて母親は絶句した。張り詰めた空気が病室内を包む。

吉澤は、だんだんと事態が飲み込めてきた。そう、自分は白血病。
もしかしたら死ぬかもしれない。
いや、もしかしたら助かるかも知れないといった方がただしいのだ。
胸の鼓動がさらに早くなる。冷汗が握られた手の中でじっとりと湧いてくるのが分かる。

私は死んじゃうの?──

ゾクッとした恐怖が、吉澤の背中を走った。
293名無し娘。:02/04/09 10:39 ID:uJHlRBlb

マネージャーは冷静に治療期間や、完治の可能性、そして、芸能界の復帰が可能かどうかを
訊ねた。主治医の話しによると、治療期間はまだ不明であり、完治する可能性は骨髄移植
をしない限りなく、抗がん剤で、病気を抑えて、寛解とよばれる、日常生活に問題ない
レベルまで持っていくことが治療の目標であるということらしい。
芸能界の復帰については、寛解さえすればある程度可能であるとの話だった。

「以上です。なにかご質問は?」
吉澤は何を質問してよいか分からなかった。
それに、治療をしなくては、死んでしまうかもしれない。
治療をしないわけにも行かなかった。
私はこれからどうなってしまうのだろう──
ただ、呆然と主治医の顔を見つめるだけだった。

「ないのでしたら、明日から、早速抗がん剤の治療を始めたいと思いますが、
よろしいでしょうか?」

「お、お願いします。」
漠然とした恐怖と不安が錯綜したまま、吉澤と、母親は主治医にそう答えた。
294名無し娘。:02/04/09 10:40 ID:uJHlRBlb

事務所に連絡を取りにマネージャーは出て行った。
吉澤は母親と二人きりになる。

こんな病気になってしまった。
ここまで育ててくれた母親に申し訳ない。
吉澤から自然と言葉がでる。

「ごめん、お母さん……」
「なにいってるの。なんであなたがあやまるの?治療すれば、治る可能性があるのよ」
母親は娘のそんな気持ちがわかった。でも、励ますしかなかった。
「うん……」
それ以上何もいえなかった。母親も何もいえなかった。

はたして治るんだろうか。死んでしまうのだろうか。
まだ16歳なのに。やりたいことは沢山ある。
私は一体どうなってしまうんだろう──
吉澤の心には不安と恐怖が混じったもので一杯になっていた。

しばらくしてマネージャーが戻ってくる。
事務所によると、とりあえず、何も考えずに治療に専念するように
とのことだった。娘。の活動も、いつもどおりつづけるとのことだった。
マネージャーは、お大事に、頑張って。というと、病室を去った。

重苦しい時間が流れる。そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
母親が病室の外へ出て、誰が来たのか確認する。

295名無し娘。:02/04/09 10:42 ID:uJHlRBlb
今日の更新は以上です。長くなってすみません。病名告知までいきました。
296ななし:02/04/09 16:21 ID:Z8vMM895
お疲れさまです。毎回の更新が楽しみです。
297名無し募集中。。。:02/04/09 21:18 ID:SRG1rrlE
誰がきたんだろう?
メンバーには知らせるのかな・・・
298名無し娘。:02/04/10 10:49 ID:6fuhhN3K
>>296
そう言っていただけると嬉しいです。
>>297
この後の更新で……。

時間があるうちに、さくさく行きます。
299名無し娘。:02/04/10 10:50 ID:6fuhhN3K

そこには石川と後藤が立っていた。後藤の手には花束があった。
母親は吉澤に帰ってもらうかどうか訊ねた。
白血病の告知を受けた当日に、友人と会わせていいものだろうか。
母親には分からなかった。
吉澤はしばらく考えた後、母親に向かって言った。

「おかあさん、入れてあげて」
その答えを聞いて、母親は二人を病室に入れ、自分は外へ出た。

「よっすぃー、なんかあったの?」
後藤が心配そうに聞く。いつもなら、スムーズに入れてもらっているのに、
今日は少しばかり時間がかかった。少し怪訝そうな顔をする。

「うん、ちょっとね」
吉澤はすこしため息をつきながら答える。
じっと下を向いて何かを考える様であった。
300名無し娘。:02/04/10 10:51 ID:6fuhhN3K
「そういえば、検査の結果でたの?いつ退院?」
石川が花束を後藤からうけとり、花瓶にさそうとしながら訊ねる。

しばらく沈黙が続く。返答がないため、
後藤と石川は、吉澤の方をじっと見詰めた。
2人は少しだけ胸の鼓動が早くなる気がした。
301名無し娘。:02/04/10 10:52 ID:6fuhhN3K

「……退院はできない。」
「え?」
二人は予想外の吉澤の答えに驚く

「どうして?何かあったの?」
石川が表情を強張らせながら訊ねる。

吉澤は下を向き考え込んでいた。
自分の病気のことを彼女たちに言うべきか
分からなかった。また心配をかけてしまう。
それが嫌だった。

「どうしたの?そんなにひどい貧血なの?」
後藤が不安げに尋ねる。

302名無し娘。:02/04/10 11:02 ID:6fuhhN3K

不安そうな2人の表情を見て、吉澤は意を決した。
どうせいつかは分かることである。
それならば、直接自分の口から言おう。
それにこの2人はいつも一緒にいたメンバーの中でも
特に仲のいい2人なんだ。そう思った。

「白血病なんだって、私」

吉澤は静かに呟いた。

「えっ?」

急に後藤の顔から血の気が引くのが分かる。
そんなことなんて、あるはずがない。いつも元気で、明るい
吉澤が白血病なんてない。彼女にはそうとしか思えなかった。

石川も同様だった。全身に鳥肌が立つのが分かる。
なぜ吉澤が?何がいけなかったの?そう自問した。
彼女は病室にある、先日自分が渡した観葉植物の鉢植えを
おもむろに取り上げた。

303名無し娘。:02/04/10 11:03 ID:6fuhhN3K

「うそ!うそだよ、そんなの。きっと私が、これを持って来ちゃったからだよ」
そういってそれをゴミ箱にすてようとする。

石川もそれを捨てたところで、吉澤の病気が治るわけではないとは分かっていた。
でも、縁起の悪いお見舞いを持ってしまったという自責の念を少しでも軽くしたかった。

「やめて!」

大きな声で吉澤が石川を制する。石川は吉澤の表情をみて驚いた。
必死な表情と、恐怖に怯えた表情が混ざっていた。
今まで誰もそんな吉澤を見たことがなかった。
どんな状況でも動じず、いつも明るいのが吉澤だと思っていた。

「その鉢植えにも、命があるんだよ……」
声を詰まらせながら吉澤は言った。
うつむき、体が小刻みに震えているのが分かる。

「死ぬなんてやだよ……。かわいそうだよ……」
絞り出すような声で吉澤は続けた。

そのとき、吉澤が必死に死への恐怖に耐えていることが、二人に分かった。
304名無し娘。:02/04/10 11:04 ID:6fuhhN3K

誰も何もいえなくなった。うるうると、石川の目に涙が溜まっていく。
どうして、なぜ?なんで吉澤が?再び彼女はそう自問した。
しかし答えが出るはずもない。

後藤も同様だった。いつも明るくて元気な彼女がこんなに怯えているのを
見たのは初めてだった。それがショックだった。
白血病という重い病気が吉澤の身に降りかかっていることが、
現実なんだということが分かった。

沈黙と、どうしようもないやるせなさが二人を包む──
305名無し娘。:02/04/10 11:05 ID:6fuhhN3K

沈黙をやぶって後藤が口をひらく。
「でも、ほら、今医学も進歩してるから、治るんだよね」
「うん……。治るかもしれない、だけどね……」
吉澤は呟くように言った。

「大丈夫。よっすぃ―なら治るよ。」
石川は根拠はないことは百も承知だった。でもそれしかいえなかった。
「そうだよ。私も信じてる」
後藤はそういって、吉澤の手をギュッと握った。
306名無し娘。:02/04/10 11:16 ID:6fuhhN3K

吉澤には二人が自分に気を使ってくれているのが痛いほど分かった。
入院してから、本当に心配ばかり掛けてしまっている。
ここで、落ち込んではいけない。そう、治るかもしれないんだ。
そしてみんな治ると思ってくれている。私が頑張らなくてはいけないんだ。
吉澤は自分の心を奮い立たせるように言った。

「ありがとう。私もそう信じる。がんばるね」

吉澤は不安に怯えながらも、2人に心配をかけまいと微笑んだ。

「うん。応援する」
その吉澤の必死な微笑みをみて、
二人はそういって吉澤に抱きつく。
2人は彼女を抱きしめたかった。それで力を分けてあげたい。そう思っていた。

吉澤は申し訳ない気持ちで一杯だった。また心配をかけてしまった。
二人の体が小刻みに揺れているのが分かる。小さな嗚咽が両方から聞こえてくる。
泣いてしまっているんだな、そう思った。
そして、二人の暖かい体温と心を感じ、吉澤自身も目頭が熱くなっていくのがわかった。
307名無し娘。:02/04/10 11:20 ID:6fuhhN3K

その夜、事務所では吉澤の処遇について協議がされていた。
事務所の方針としては、本人は病気が治るまで休養とすること、
病名は急性血液不全症、治療期間は半年。とすることに決定した。

ただちにマスコミ各社にファックスが送られる。
仕事と病気は因果関係がないという、医師の診断書のコピーも沿えて。
連日報道される、ハードスケジュールに対するバッシングに対して、
迅速な措置を取らねばならないからである。

すでに、朝のニュースにて吉澤の病気に関する報道が始まっていた。

──モー娘。吉澤、血液不全症で6ヶ月の入院。長期休養──

──仕事との因果関係はなしとの診断書。はたして復帰できるのか?──
308名無し娘。:02/04/10 11:21 ID:6fuhhN3K

翌朝、高校生以上のメンバーが事務所に呼び出される。

すでに、メンバーたちは報道を見ていた。
彼女たちの間に重苦しい雰囲気が流れる。

「なんか、重病なの?血液不全症ってなんだべさ?」安倍が不思議そうに尋ねる。
「いや、私もわかんないけど、半年経ったらなおるんでしょ?」飯田が答える。
「ただの貧血じゃないんだね」矢口も続けた。

それを聞きながら、すべてを知っている後藤と石川は何もいえなかった。
一体どこまで言っていいのかも分からなかった。
そこにマネージャーが沈痛な面持ちで現れた。

309名無し娘。:02/04/10 11:24 ID:6fuhhN3K
今日の更新は以上です。
310名無し募集中。。。 :02/04/10 17:25 ID:JiurBSQ8
お早い更新ご苦労様です。ムリなさらず最後まで頑張ってください!
311名無し娘。:02/04/11 10:14 ID:p5Hqnc/O
>>310
有難うございます。がんがります。
312名無し娘。:02/04/11 10:15 ID:p5Hqnc/O

「皆さんも知ってると思いますが、吉澤さんは重症です」
開口一番にマネージャーはそう告げた。
集まったメンバーたちはじっとマネージャーの顔を見つめる
「彼女の病気は白血病です。何時治るか、そして治るかどうかも分かりません」

「白血病?」
後藤と石川を除くメンバーたちに衝撃が走る。ピーンと空気が張り詰める。

「ちょ、ちょっと。それマジ?」矢口が驚く。
保田も安倍も声がでない。飯田の視線は宙に浮いている。

後藤と石川はヒミツが自分たちだけでなく、メンバーに共有されたことに
少しだけ安心した。そして、メンバーたちへの影響を心配した。

「そ、それで吉澤はどうなるんですか?」保田がたずねる。
「休養という形をとるけど、何時復帰できるかはわからない」
「中学生たちにはどうするのですか?」
「一応報道のとおりに説明してください。病名は伏せる方向で。
いたずらに不安をあたえてもいけませんしね」
「分かりました」
「あと、記者会見をしてもらわないといけないと思います」
そういって、マネージャーは飯田の方を見る。しかし、飯田は宙を見たままだった。

「カオリ!」矢口が飯田をつつく。
「あ、ああ、はい。わかりました」
飯田は呆然とした表情のまま答えた。

313名無し娘。:02/04/11 10:16 ID:p5Hqnc/O

記者会見はこれから2時間後、事務所の会議室で行うとのことだった。
飯田、保田、矢口、安倍、後藤、石川の6人が出席する。
原稿の準備が進んでいく。緊張のなかに6人はいた。

「吉澤がどうして………」
保田が悔しそうにつぶやく。
早く、彼女の体調の変化に気付いてあげればよかった。
そうすれば、もっと早くに治療ができたのに……。
プッチモニで一緒にユニットを組んで以来、吉澤については気に掛けていた
つもりであった。

「白血病のイメージなんてないやつなんだけどね」
矢口はいつも元気で、たくましい吉澤が、そんな重病であることが
信じられない様子だった。

314名無し娘。:02/04/11 10:17 ID:p5Hqnc/O

「ねえ、カオリ、よっすぃ―のコメントはどっちが言うべ?」
「なっちがいってよ、私泣いちゃうかもしれないし」
飯田と安倍は必死で原稿を覚えている。飯田はかなり動揺しているようであった。
安倍はそれを見て自分を奮い立たせるように、原稿を覚えている。

想定される問答集が配られる。
それについては、モー娘。の解散の可能性についてもかかれていた。

「そうか、もしかしたら、解散するかもしれないって思う人もいるんだ」
石川はその文面をみてつぶやいた。
「そうだろうね」
後藤が返事をする。これからモーニング娘。はどうなってしまうんだろう。
漠然とした不安がメンバーたちに広がっていた。

315名無し娘。:02/04/11 10:27 ID:p5Hqnc/O

記者会見が始まる。報道陣は会議室に入りきらないぐらい集まっている。
6人と、事務所のスタッフがひな壇に上がる。

「みなさますでにご存知と思いますが、モーニング娘。メンバーの吉澤ひとみ
は、急性血液不全症のため、しばらく休養させていただくことになりました。」

飯田が立ち上がり会見を始める。
フラッシュがたかれる。まぶしい光が会議室全体をつつむ。

安倍が強張った表情で吉澤のコメントを発表する。

「ファンの皆様、そして関係者の皆様、ご心配をおかけしたことをお詫びいたします。
先日よりの報道により、皆様ご存知のことと思いますが、現在急性血液不全症のため入院
しております。今後は、治療のため、しばらくモーニング娘。の活動をお休みさせて
いただきます。しばらくは、治療に専念して、また皆様の前で元気な顔を見せることが
出来る日を楽しみにしております。 吉澤ひとみ」

石川は吉澤のコメントを聞いて、昨日の死の恐怖に怯えたの吉澤の姿が頭に浮かぶ。
きっと恐怖に耐えながら、でも一生懸命書いたんだろう。
鼻の奥がツンと痛くなる。涙が溜まっていくのが自分でも分かった。

「梨華ちゃん、泣いちゃだめ。私も泣いちゃう」

となりで後藤が小さくつぶやく。
後藤の肩が小さく震えている。涙をこらえていることが石川にも分かった。
ココで泣いたら、吉澤の病状などについていらない憶測を呼んでしまう。
私たちはプロなんだ。石川は必死で涙をこらえた。

316名無し娘。:02/04/11 10:28 ID:p5Hqnc/O

レポーターたちの質問が始まる。
「過労が原因ではないかとの報道がありましたが、その点についてはいかがですか?」
「医師の診断書のとおり病気と、仕事については因果関係がありません」

「深夜まで仕事をしていたというのは事実ですか?」
「収録等で遅くなることはありますが、労働基準法は遵守しているつもりです」

「吉澤さんはいつごろ復帰の予定でしょうか」
「半年を考えておりますが、まだ未定です」

「吉澤さんが重病であるとの噂がありますが」
「医師の診断書にあるとおりです。それ以上はわかりません」

「吉澤さんの脱退ということは」
「現在は考えておりません。復帰してくれるものと考えてます」

「これをきっかけに解散ということは?」
「ありませんし、吉澤もそれを望んでいません」

次々とレポーターたちから質問が浴びせられる。
メンバーたちは事務所から渡された想定集にそって無難にこなしていった。
317名無し娘。:02/04/11 10:34 ID:p5Hqnc/O

記者会見が終わり彼女たち戻ってくると
事務所には中学生メンバーたちがすでに集まっている。

辻が泣きそうな顔をしている。
「よっすぃーは病気なんれすか?」
そういって、飯田に詰め寄る。

「うん、ちょっとね。でも頑張ってるから、また戻ってくるよ」
「いつ帰ってくるの帰ってくるのれすか?」
「まだわからないんだけど、半年ぐらいしたらね」
辻の不安そうな表情をみて飯田は辻の頭をキュッと抱きしめた。

「よっすぃー、ひっく……、ひっく……、可哀想れす……」
辻はいいだの胸の中で泣いてしまった。
318名無し娘。:02/04/11 10:35 ID:p5Hqnc/O

加護や、新メンバーたちもみな泣いてしまっている。
いくら病名を知らなくても、重病だと言うことは雰囲気で分かっている。
まだ中学生である彼女たちに普段通りに振舞うようにというのは酷であった。
安倍と矢口と保田は彼女たちのそばで、吉澤は頑張っているんだ。
絶対戻ってくる。私たちも吉澤に負けないように頑張ろうと言い聞かせている。

石川はその光景をみて、堪えきれなくなって後藤の肩で泣いてしまった。
後藤はそっと、石川を抱きしめる。
メンバーが病気になることがこんなに悲しいなんて。
それも、一番仲のいい吉澤がそんなことになるなんて。
そう思うと涙がとまらなかった。

ふと、石川の顔に冷たいものを感じる。
見上げると、後藤の両頬にも涙が流れていた。

319名無し娘。:02/04/11 10:38 ID:p5Hqnc/O

事務所全体が悲しみにくれている中、マネージャーが今後の活動について説明した。
とりあえず、12人体制として、仕事はいつもどおり行う。プッチモニは2人体制で
しばらく行くこと。ミュージカルはハロプロメンバーから代役を立てる。
ミスタームーンライトは吉澤復帰まで封印。
平家とのラジオは中澤が代行するとのことだった。

そして、基本的に病気の性質からみて吉澤の見舞いは控えること。
中学生メンバーは高校生メンバーか事務所の人間と一緒に行くこと。
病院の迷惑になるので、あまり表立っていかないことなどが説明された。

説明が終わり、メンバー全員たちは自然と円陣を組む。

「吉澤が病気になってしまいました。残念だけど、彼女のためにも頑張らなくちゃいけません。モーニング娘。は吉澤の復帰を信じて、これからも、一生懸命仕事をしましょう」

飯田がメンバーみんなに語りかける。飯田の目は真っ赤になっている。メンバーたちもリーダ―として、しっかりしないといけないと思って気を張っている飯田の気持ちがよく分かった。

「頑張っていきまっ」
「しょい!!」

メンバーたちは悲しみに暮れながら、いつもの掛け声を叫んだ──

320名無し娘。:02/04/11 10:41 ID:p5Hqnc/O

吉澤は病室で記者会見の模様をテレビで見ていた。
彼女の左腕には点滴がつながれていた。
すでに抗がん剤の治療が始まっている。
病院側もかなり急ピッチで検査治療へと動いている。

「どう、気分悪い事ない?」母親が心配そうにたずねる。
「まだ、大丈夫」そう答える。
メンバーも自分のことを心配してくれてる。
そして復帰を願ってる。頑張らなくてはいけないのは
痛いほど分かっていた。
しかし、やはり病気、そして死への漠然とした不安が彼女の心を暗くさせていた。

吉澤の携帯に次々とメールが入る。

「心配しないで、治療に専念して。私たちは大丈夫。 かおり」
「記者会見みた?みんな信じてるよ なつみ」
「早く戻ってこーい 真里」
「プッチはお前が帰ってくるまで2人で守っとく 圭」
「寂しいよー。でも、頑張れ ごっちん」
「またお見舞い行くね。今度はおいしいの作るんだから。 梨華」
「ほんまに病気なん?つまらんからはよ退院して 加護」
「病院にお菓子はありますか?持っていきますか? のの」
「吉澤さんがいないとミスムンが踊れません。 小川」
「びっくりしました。はやく良くなってください。 高橋」
「戻ってくるのをみんな待ってます 新垣」
「私も頑張ります。吉澤さんも頑張ってください。 紺野」

メンバーたちからの励ましのメールがどんどん入ってくる。
自分を必要としてくれる人たちがいる。
それを考えるだけで頑張れる気がした。

「みんな、気にしてくれてるね」
母親がそれをみて吉澤に言った。
「うん……」
吉澤はそういって小さく頷いた。
321名無し娘。:02/04/11 10:43 ID:p5Hqnc/O

翌日以降、吉澤が過労でなく、病気であったこと、事務所側の圧力、それに加えて、
大きな政治問題があったおかげで、報道は落ち着いていた。
復帰を願う、芸能界や、ファンの声や、12人体制になったモーニング娘。の今後の
活動展開についての報道がなされる程度であった。

メンバーたちも吉澤がいないことを除けば、ふだんと変わらない生活に戻っていた。
レコーディング、テレビの収録、雑誌の取材にミュージカルの打ち合わせ。
めまぐるしく毎日が動いていった。
事務所側も普段どおりの仕事量をメンバーたちに与えていた。
仕事はハードだけど、順調。何も変わらない。

ただ、そこには吉澤だけがいない──
322名無し娘。:02/04/11 10:47 ID:p5Hqnc/O
今日の更新は以上です。
319に改行ミスあります。申し訳。

お読みいただいている方、本当に有難うございます。
323名無し募集中。。。:02/04/11 11:34 ID:mWeyLlv0
>>268-270
禿しくワロタ
必死だな。
324名無し募集中。。。 :02/04/12 08:04 ID:Dia34cKK
お疲れ様ですー。とても緊張感があっていいですね!
325名無し娘。:02/04/12 19:12 ID:i3HrwJvD

>>323
子犬のように震えながら更新してます。
>>324
有難うございます。お付き合いいただけたら幸いです。
326名無し娘。:02/04/12 19:14 ID:i3HrwJvD

石川はテレビの歌収録のため、振り付けの確認をしていた。
12人体制のため、少しフォーメーションが変わる。
「よっすぃ―ここ、これでいいんだっけ?」
石川はふと吉澤に振り付けの確認をしてもらおうと話し掛ける。
しかし、当然彼女はいない。ふっと、石川に寂しさが襲う。
小さくため息をついて呟いた
「……っていないんだったよ」

「それでいいよ。」
後藤がそれに気付き、笑いながら答える。
それで、石川は、少しだけ寂しさが薄らいだ気がした。
後藤に向かって苦笑いをする。

「梨華ちゃん、いつもよっすぃ―とばかり話してたものね」
「うーん、そうなのかな。つい、よっすぃーがいるものと思って、話し掛けたりするんだよね」
「そのうちなれるよ。寂しいけど」
後藤は少し悲しげな笑みをうかべた。

「はい、本番お願いします」
スタッフの声がする。12人はスタジオへと急ぐ。
いつもと違う雰囲気。そして少しの緊張。
吉澤がいない、初めての歌収録であった。
327名無し娘。:02/04/12 19:18 ID:i3HrwJvD
スタジオはいつものように活気に溢れている。
見慣れた司会者と出演者たち。
某生放送の歌番組に彼女たちは出演していた。

「はーい、モーニング娘。でーす」
タモリがメンバーを紹介する。
「どうもー」
「なんか、吉澤が入院しちゃったんだって?」
「そうなんですよ。タモリさん。でもよっすぃーも頑張ってますよ。よっすぃ―見てるー?」
タモリの横に座っている飯田が答える。
「吉澤みてる?がんばれよー。じゃあ、しばらくは12人でやるの?」
「はい。彼女の復帰をみんなでまってます」

「新メンバーはどう、なんか変わったことある?」
タモリは新メンバーに話を振ろうとする。
「タモリさん、いいかげん名前覚えてくださいよ」
矢口がそれを聞いて突っ込む。
「いや、もうあきらめたよ」
「えー?」
「でも一人減ったから、あともうちょっと減ったら覚えることにします。」
「タモリさん、減ってません。休養です」
安倍がタモリに向かって言う。

「そうだった、そうだった。良くなるといいね。
加護はお見舞い行った?あれ、加護はどこかな?
えらい遠い所にいるな。13人は多すぎだよ」
「あ、私ですか?いえ、まだなんです」
加護が手を上げて答える。
「行かなきゃダメだよ。でも仕事いそがしいか。あ、時間?それじゃスタンバイお願いします」


曲が始まる。12人はそれぞれの吉澤への思いを託して、
歌い、そして踊り始めた──
328名無し娘。:02/04/12 19:19 ID:i3HrwJvD

吉澤は病室のベッドでそれを見ていた。
少しだけ気だるい。抗がん剤の副作用だろうか。

「はい、みてますよー。」
「新メンバー、しゃべろうよ。矢口さんもそこでしゃべっちゃダメだよ」
「うーん、12人でも問題ないよな、あ、高橋ちゃんが加護とぶつかった。あーあ」

独り言を言いながらテレビをみる。
みんなの笑顔がまぶしい。この前まで一緒にやっていた仲間なのに、
どこか遠いところの人のようだ。急に寂しさと不安が胸を去来する。

戻りたい──
また一緒に歌い、踊りたい──
治りたい、死にたくない──

これから私はどうなるの?
治るんだろうか、それとも……。

考えたくない。そんなのは嫌。
怖い──
助けて──

急に不安に襲われた吉澤は、歌の途中でテレビを消し布団の中に潜り込んだ。
そして、毛布を頭までかぶりながら、恐怖で小刻みに震えていた。

329名無し娘。:02/04/12 19:25 ID:i3HrwJvD

病院側は芸能人が入院しているということで、かなりの緊張が走っていた。
治療自体が変わるわけではないが、どうしても腫れ物を触るような雰囲気になっていた。
しかし、それは吉澤にとっては悪いことではなかった。
主治医も看護婦もみな気を使ってくれている。居心地は決して悪くなかった。

それに少し体はだるいが、まだそれほどの副作用は出ていない。
なんだ、おもったよりたいした事はない。こんなものかと思っていた。
その日、彼女はテレビをみながら、あまりおいしいとはいえない病院の夕食を食べていた。

「あんまり、おいしくないね」
吉澤は母親に向かっていった。

「あら、そう?あとでなにか買って来ようか?」
「うーん、かといって別に食べたいものもないんだよね」
もちろん、副作用がないといっても食欲の減退はある。
不味い食事を食べるのがいやなのか、それとも食欲がなくなっているだけなのか、
吉澤自身にもよく分からなかった。

「食欲ないの?でもちゃんと食べないとダメだよ」
母親は諭すように言った。

「うん、わかってる。でももっと副作用ってきついと思ったんだけどな」
330名無し娘。:02/04/12 19:30 ID:i3HrwJvD

そう言った時だった。全く予想もしてないこと事が起こった。

食事をとったことが刺激になったのだろうか。
突然吉澤に強烈な吐き気が襲う。
それは胃が吐くように命令するのではなく、
脳の奥から命令するような、止め様のない強い吐き気──

「うぐっ……、ぐっ……」
吉澤は苦悶する。慌てて両手で口を押さえる。
口の中が胃液の匂いで一杯になる。

「ひとみ?」
吉澤の急な変化に驚いた母親は急いでナースコールを押す。

吉澤はそのまま吐きつづけていた。止めたくても止まらない。
脳が吐け、吐けと命令している。
胃が勝手に収縮する。苦しい──

「どうされました?」
スピーカー越しに看護婦の声がする。
「すみません、ひとみが!ひとみが!」
母親は動転する。病状をうまく伝えることができない。
「すぐ行きます」

ベッドの上は吐瀉物で一杯になる。吉澤の目には涙が溜まっている。
胃液の匂いが部屋中に充満する。それがさらに嘔吐を引き起こす。

母親は必死で吉澤の背中をさすっていた。しかしそれは何の効果ももたらさなかった。
訳のわからないまま吉澤は吐きつづけた。
何も考えられなかった。

331名無し娘。:02/04/12 19:31 ID:i3HrwJvD

「吉澤さん、大丈夫ですか?」
息を切らせて看護婦が入ってくる。
「す、すみません、ひとみが、急に吐き出して」
母親は救いを求めるように看護婦を見る。

「そうですか。吐き気止めお願いしましょうか?」
そういって、看護婦は洗面器を吐きつづけている吉澤に渡すと、
平然と吐瀉物がついた布団、シーツを取り替え始めた。

「す、すみません。お願いします」
吉澤はそう答えた。吐いたことによって少しは収まっていたが、
まだ彼女の脳は胃に吐くようにと命令している。
こみ上げる吐き気が彼女を不安にさせる。
これが副作用なんだ……。強いショックが彼女を包んだ。
332名無し娘。:02/04/12 19:33 ID:i3HrwJvD

「吉澤さん、大丈夫ですか?」
息を切らせて看護婦が入ってくる。
「す、すみません、ひとみが、急に吐き出して」
母親は救いを求めるように看護婦を見る。

「そうですか。吐き気止めお願いしましょうか?」
そういって、看護婦は洗面器を吐きつづけている吉澤に渡すと、
平然と吐瀉物がついた布団、シーツを取り替え始めた。

「す、すみません。お願いします」
吉澤はそう答えた。吐いたことによって少しは収まっていたが、
まだ彼女の脳は胃に吐くようにと命令している。
こみ上げる吐き気が彼女を不安にさせる。
これが副作用なんだ……。強いショックが彼女を包んだ。




看護婦から連絡を受けたドクターがやってくる。
慌てる様子もない。
慣れた手つきで点滴の管から吐き気止めを注入する。

「まあ、遠慮しないで言ってください。単なる副作用ですから」
ドクターは気にとめる様子もなくそういって病室を後にした。
看護婦もシーツ、布団を取り替えると我慢しなくて言いからと言って
病室を出て行った。母親は頭をさげる。

しばらくするとすっと嘔気が治まる。
ベッドに横になっていた吉澤は呆然としていた。心臓の拍動が早くなっているのがわかる。
怖かった。なにが起こったのか分からなかった。
前触れなく突然にやってくる止め様のない嘔吐。
これからは病気だけでなく、何時襲ってくるか分からない副作用とも戦わないといけないのか。
吉澤は大きなため息をついた。
333名無し娘。:02/04/12 19:37 ID:i3HrwJvD
今日の更新は以上です。
332にコピペミスです。かぶってます。申し訳。
疲れてるのかな……。
334324:02/04/12 19:49 ID:BtIg5kxc
お疲れ様です!なんか見てると切なくなってしまいますがいい作品ですね。
頑張ってください。
335 :02/04/13 00:31 ID:LHeojZYX
いい作品だが、悲しいね。
吉澤、今日は誕生日だぞ!がんばれよ
336名無し:02/04/13 16:07 ID:mTxKa+mM
乙カレ−です。最近泣ける作品をあまり読んでいないので今後が楽しみです。
337名無し募集中:02/04/14 23:52 ID:4U9j7h4V
ほぜん
338名無し娘。:02/04/15 13:58 ID:GvILX9G5
>>334
たしかに切ない話ですね。期待を裏切らないように頑張ります。
>>335
そうでした。吉澤の誕生日ですね。おめでとうございます。
>>336
有難うございます。期待はほどほどに……。
>>337
保全有難うございます。

339名無し娘。:02/04/15 13:59 ID:GvILX9G5

吉澤が副作用に苦しみ始めた頃、石川はずっと彼女のことを考えていた。

メールのやりとりはしている。送ればきちんと返信されてくる。
もちろん吉澤は副作用に苦しんでることについて書いたりしなかった。
ただ、石川は、その文面にいつもの吉澤の明るい感情がこもってない気がしていた。
治療が辛いんだろうか、それとも落ち込んでいるのだろうか。それが気がかりだった。

さらに、娘。の仕事は忙しく、見舞いに行くことが出来ない。それに事務所側も
病院側も見舞いに行くことを快く思っていない。
ただでさえ仲のいい吉澤が入院したことで落ち込んでいた石川の心に
さらに心配と不満が溜まっていた。

「梨華ちゃん、カンチョー!」
加護がボーっと携帯を眺めながら立っている石川に向かって
ちょっかいを出す。それは、独りだけ暗い雰囲気の石川を
明るくさせようとする加護なりの気遣いであった。

「もう!なにするのよ!」
石川は強い口調で加護をたしなめた。普段は笑ってくれていた石川の剣幕に
加護の表情が怯えたものに変わる。
石川の声に驚いたメンバーたちが2人の方をみる。
加護は石川に小さくゴメンというと、辻たちのいる方へ戻っていった。

「梨華ちゃん、暗いよー。また戻っちゃったの?昔に」
矢口が不機嫌そうな顔をして石川に言った。
楽屋の雰囲気が石川のせいで暗くなっている。加護も気を使ってやっているのに。
矢口にはそれが嫌だった。
340名無し娘。:02/04/15 14:00 ID:GvILX9G5

石川の不満はさらに高まっていく。なかなか見舞いに行ってあげれない。
吉澤は独りで病気と闘っているのに、自分だけはしゃいだり、騒いだりする気にならなかった。
でも、メンバーたちは普通にやっている。それが信じられなかった。
やり場のない怒りをぶちまけるように矢口に向かって言った。

「暗くて何が悪いんですか!よっすぃーが入院してるのに、明るくなんて出来ません!
矢口さんがおかしいんじゃないんですか!」
そう言って、キッと矢口を睨む。

「なんだよ、それ?いちいち落ち込んでばかりいたら仕事にならないだろ?
加護だって、加護なりに気を使ってるんだよ!そんなのもわかんないのかよ!」
吉澤の入院以来、暗い雰囲気の石川を不愉快に思っていた矢口は、語気を荒げて石川に言う。

「分かりません!」
石川は矢口を睨んだまま叫んだ。
矢口はその言葉を聞いて怒った表情で石川のほうへ向かっていく。
かなり近い距離で2人は睨みつづけていた。
341名無し娘。:02/04/15 14:01 ID:GvILX9G5

それを見ていた後藤は飯田と安倍の方をみる。
2人はどうしたらいいのか分からないような表情のまま矢口と石川を見ていた。
後藤はため息をつくと、立ち上がってにらみ合っている二人のところにいった。

「梨華ちゃん、もうそれぐらいにしときなよ」
後藤は2人の間に割ってはいる。保田もそれに気付いて後藤のもとへ駆け寄る。
「矢口、石川も落ち込んでるんだしさ、そっとしておいてやろうよ」
保田はそういって矢口の手を引っ張る。
「ちぇっ、なんだい。まったく暗いんだよ。お前が落ちこんだって
吉澤が治るわけじゃないんだよ」
矢口は吐き捨てるように石川に言った。

それを聞いて石川の表情が険しくなる。
グイッと矢口の方へ向かおうとする。それを押さえながら後藤がたしなめる。
「梨華ちゃん、ちょっと外行こうか」
後藤はこのまま2人を楽屋の中にいさせてはまずいと思って、石川を外に連れ出した。

342名無し娘。:02/04/15 14:06 ID:GvILX9G5

後藤は石川の手を引き、楽屋の外の廊下へ出た。
石川は後藤の手を振り解き、下を向く。

「みんな、ひどいよ……」
石川は呟いた。ポタッと涙が床に落ちる。

後藤は石川の気持ちがよく分かっていた。自分だって辛い。
でも落ち込んでいたって吉澤が帰ってこないのは百も承知だった。
それにあまり心配しているそぶりをみせると、病気のことについて知らない
中学生メンバーたちに勘付かれてしまう。
だから彼女は楽屋ではつとめて平然と振舞っていた。
矢口も他のメンバーもそれは同じ事だった。

「でも、病気なんだから仕方ないんだよ。
それにあまり落ち込んでると、中学生たちに気付かれちゃうから」

「そんなことは私にだって分かってるよぉ。でも嫌なのよぉ……」
石川にも分かっていた。でも心の中で割り切れない思いが
彼女を支配していた。吉澤への不安と心配が元来ネガティブな彼女の
思考回路をさらにネガティブなものへと変えていっていた。

「そうかあ……」
後藤はそれ以上何も言わなかった。時がたつのを待つしかない。
そう思っていた。

後藤と石川は黙ったまま廊下で立ち尽くしていた。
2人ともどうしようも出来ないのは分かっていた。

人気のない静かな廊下には、石川の小さな嗚咽だけが響いていた。

343名無し娘。:02/04/15 14:07 ID:GvILX9G5
今日の更新は以上です。
344名無し娘。:02/04/16 12:06 ID:/KTzALQt

吉澤の治療は続く。彼女の左腕を持続点滴による血管の痛みが
24時間途切れることなく刺していく。
そして、そこから注入されつづける抗がん剤は
白血病細胞だけでなく、正常な組織まで叩いていく。
肝細胞たちが、腎細胞たちが悲鳴をあげていく──

彼女は嘔吐や全身倦怠感といった副作用に懸命に耐えていた。
自分は絶対戻るんだ。その気持ちだけが彼女を支えていた。

(たまには、外に出てみよう)
気が滅入っていた彼女は、移動式の点滴台を看護婦にたのみ、
気分転換にと病室の外へと出た。

廊下は数人の患者が行ったり来たりしている。老人が多い。
これなら、自分が芸能人であることを知られることはないだろうと思った。
彼女は廊下の中ほどにある、患者の休憩所へと向かう。
そこには大きなテレビと本や雑誌が置かれていた。
彼女は点滴台をカラカラといわせながら、休憩所のソファーへと腰をおろした。

(なんか、犬の散歩みたい)
腕につながれた点滴の管によって、結び付けられている点滴台は
彼女のそばから決して離れようとしない。まるで点滴台がつながれた犬のように思えた。
それがなんとなく可笑しくて、クスッと独りで笑ったときだった。
345名無し娘。:02/04/16 12:07 ID:/KTzALQt

「吉澤さんですよね?」
若い女性の声がする。まずい、気付かれた?と思ってふりかえると、
そこには色白で痩せた髪のない少女が立っていた。

「あ、す、すみません。いや、あの……」
少女は吉澤がこちらを見たので、少し緊張しているようであった。

「そうです」
吉澤は微笑んだ。相手は見るからに病人である。冷たくするわけにも行かない。

「ココに入院してたんですか……。テレビでは知ってたんですけど、まさかこことは」
少女はそう言った。少し驚いているようである。
「ははは、やっぱすぐばれますね」
「いえ、そんなことないです。ここの病棟はお年寄りばかりで、若い患者は私だけですから。
白血病の患者さんってもっと若い人ばかりかと思ってたんですけどね」
吉澤は少女の言った白血病という言葉にドキッとした。この子も白血病なんだ。
同じ病気、同じ治療、そして同じぐらいの年齢。
そのやせ衰え、髪の毛のない姿をみて自分もそうなるのではないかという不安が吉澤を襲う。

「吉澤さんは白血病じゃないんですよね。テレビではなんか、よく分からない病名でしたけど」
そういって少女は尋ねる。吉澤はなんと答えて言いか分からなかった。
「うーん、まあ似たような病気なんだけどね……」
とりあえずそう答えた。
「そうなんですか……」
346名無し娘。:02/04/16 12:08 ID:/KTzALQt

「おや、お嬢ちゃんよかったね、同じ年ぐらいの子が入院して来て」
そばを通りかかった老女が少女に話し掛ける。
「はい」少女は嬉しそうに答えた。
「あんたも、この子と同じ病気かい?」
老女は吉澤が芸能人であることに全く気付いていない様子だった。
「はあ、まあ……」
吉澤はそれにすこしホッとしながら答える。
「大変だねえ。まあ、がんばってな」
そういって吉澤が芸能人であることに気付く様子もなく、老女は去っていった。

「あのおばあさんもずっと長いこと入院してるんですよ」
「じゃあ、君も?」
「ええ。まあ出たり入ったりしてるんですけど」
少女は寂しそうに微笑んだ。

吉澤はこの少女が友人もなく、独り寂しく入院しているのだと思った。
しかし、自分も同じ病気である。もしかしたらこの子と同じように長いこと入退院を繰り返し、
そのうちメンバーや友人たちと疎遠になってしまうのだろうか。
そんなことを考えて、憂鬱な気分になる。

「それじゃあ、私検査があるので。またお会いしたらお話ししてくださいね」
少女はすこし芸能人である吉澤に遠慮しているようであった。控えめに微笑む。
「うん、また話そうね」
吉澤は少女の寂しさと自分と同じ境遇であることの親近感からもう少し彼女と
親しくなってみようかなと考えていた。

ただ、少女の姿がまるで自分の将来の姿を見ているような気がして、
憂鬱な気持ちは彼女の心に中にへばりつくように存在していた。

347名無し娘。:02/04/16 12:10 ID:/KTzALQt

メンバーたちは相変わらず忙しい日々を送っている。
オフもほとんどなく、みな、吉澤がいないことが当たり前のようになっていた。
話題に出来るだけ出さない、そして気にしないように明るく振舞うのにも
慣れてきていた。ただ、石川だけを除いて──

石川はそんな楽屋の雰囲気が嫌だった。だれも吉澤の話をしない。
だれも見舞いに行かないし、実際に行けない。ミュージカルの練習が始まって、
もう物理的に無理なのだ。
そしてだれも吉澤のことを気にしていないかの様に振舞っている。
石川はそれが不満だった。

よっすぃ―は一人で闘ってるんだよ?
白血病なんだよ?きっと辛い治療をしてるんだよ?
なんでみんなそんな明るく出来るの?
芸能人だから?芸能人だったら落ち込んじゃいけないの?
みんな変だよ。そんなのおかしいよ。
石川は毎日そんな思いで楽屋にいた。

メンバーたちはそんな石川の様子に気付いてはいたが、
仕事柄、暗い雰囲気になるわけにも行かず、みな明るく振舞うことを続けた。
さらに、仕事がハードなため吉澤のことをいちいち考えている暇もなかった。
石川の落ち込んでる姿をみると、自分までどんどん暗くなってしまう。
いつしか、メンバーたちは石川を避けるようになっていた。
348名無し娘。:02/04/16 12:13 ID:/KTzALQt

楽屋の中では、石川のせいで雰囲気が暗くなっているのが
メンバーたちの気がかりとなっていく。

「梨華ちゃん、暗いれすね」辻が加護に向かって言う。
「暗いのうつるから、あんま近寄らん方がええで」
「ほんとにあいつのせいで楽屋の雰囲気悪いんだよなー。お前らなんとかしろよ」
矢口が2人に言う
「えー、れもこれ以上は無理れすよ」
「そうやで、矢口さん。梨華ちゃんずっと壁に向かってうつむいてるし、
うちらにはどないもでけへん」
「はあ、まいったなあ」
矢口はため息をついていた。

後藤はそんなやり取りを黙って見つめていた。
「後藤、どうしたの?」
「あ、保田さん。いえ、梨華ちゃんの様子なんですけどね」
「そうね、でもあの子落ち込み出したら止まらないからね。
なにか吹っ切れるきっかけがあればいいけど」
「そうですね」
保田と後藤はため息をついた。

みんな石川と話さないようになっていた。
孤独な気持ちが石川を包む。しかしそれに対する寂しさはなかった。
彼女は友達がいないことには昔から慣れていた。
それに吉澤のことを考えていれば、孤独な時間はあっというまに過ぎていく。
それよりも、吉澤の件に対するメンバーたちの行動が許せなくなっていた。

忙しくて見舞いにも行けない。だれもそのことに対して不満に思わない。
楽屋は普段のように明るく無邪気な様子。吉澤のことなんてまるで忘れたかのように。
たとえ、それがメンバーたちが自分たちなりに考えてやっていた行動と
分かってはいても。
349名無し娘。:02/04/16 12:19 ID:/KTzALQt

しばらくたったある日、石川は溜め込んでいた不満をとうとう我慢できなくなった。

「なんでみんなで、よっすぃーのお見舞いにいかないんですか?」
真剣な表情で飯田に向かっていった。

「いや、私も行きたいんだけどね。ミュージカルの練習が忙しいんだよね。
でもみんなメールとか手紙とか送ってるし」
飯田はいつもは静かな石川の剣幕に驚いた。たしかに矢口との言い争い以来、
石川がふさぎこんでいたのは分かっていた。でも飯田自身にもどうすることも出来なかった。

「でも、よっすぃーも寂しいはずです。でも、忙しすぎていけない……」
「私にどうしろっていうの?」
「だから、1日オフもらって、みんなで行きたいんです」
「うーん」
飯田はそういうと黙ってしまった。石川の気持ちはよく分かっている。
自分だって行きたい。でもリーダーとして仕事を放っておくことは出来なかった。
飯田は腕組みをしたまま黙ってしまっていた。

それを横で聞いていたマネージャがきっぱりと石川に言った。
「ダメ。オフは無理。それに、吉澤は今とても大変な治療をしてるの。
だから、頻繁な、お見舞いは避けてくれって、病院側からも言われてるの」
病院側もあまり芸能人が頻繁にくるのは好ましいことではなかった。
それに、吉澤の体調もあまりすぐれない。抗がん剤の副作用で体の抵抗力が落ちている
彼女に沢山の人とあわせることは自殺行為なのである。

石川はこれ以上いっても無理だと思った。
やっぱり、みんな吉澤のことんて考えてないんだ。
ひどい、ひどすぎる。なぜ私たちは行かないの?
芸能人だから?芸能人だと友達のお見舞いにもいけないの?
そして、そのことを心配して悩んでもいけないの?
石川は自分がモーニング娘。のメンバーであることを呪った。

「よっすぃーに会いたいよぅ……」
そして石川は楽屋の隅で壁を見つめながら呟いていた。

350名無し娘。:02/04/16 12:20 ID:/KTzALQt

後藤はそんな石川の姿を黙って見ていた。
自分だって夜も眠れないぐらいに心配している。
吉澤の怯えた姿が今でも脳裏に焼き付いている。
でも、仕事場で暗くなったってどうしようもないんだ。
それにこれだけ仕事が忙しいのだから、メンバーたちがそろって
お見舞いに行くことは無理である。それに、オフの日だって、
台本を覚えたりしないといけない。みんな吉澤がいない寂しい気持ち
を我慢して明るくしている。
後藤はどうやったら自分たちのように、彼女を吹っ切らせることが出来るのだろうかと考えていた。

(やっぱり、よっすぃーと会うしかないのかな……)
後藤はそう思った。心配な気持ちと会いたい気持ちが高まりすぎているんだ。
直接会って、その気持ちを解消するしかない。
そして、自分も石川と同じように抱きつづけているその気持ちを解消したい。


351名無し娘。:02/04/16 12:21 ID:/KTzALQt

「梨華ちゃん、お見舞いって強制するものじゃないよ」
後藤は壁に向かって暗い表情のままうつむいている石川のそばでささやいた。
石川は不思議そうな顔をして後藤のほうを見る。

「行きたいと思う気持ちがあれば、仕事が忙しくてもいけるよ」
「どうやって?」
「夜中にいけばいいじゃん」
「でも、深夜だと、面会時間すぎてるし」
「大丈夫、こっそり行けば分からないって」
後藤は石川に微笑みかける。

「会いたいでしょ?私はすごく会いたい」
後藤は石川を見つめる。自分は石川以上に
吉澤のことを心配している。私は絶対に行く。そういう気持ちを
ぶつけるように石川に言った。
「うん……」
石川は頷いた。会いたい、吉澤に会いたい。
なぜだろう、いつもそばにいるときは分からなかった、
こんなに大切な人だったなんて。彼女がいなくなって初めて分かった。
それは後藤も同じなんだ。

「よし、決まり」
後藤はそういうと、携帯からメールを打った。
352名無し娘。:02/04/16 12:22 ID:/KTzALQt
今日の更新は以上です。
353名無し募集中。。。 :02/04/16 18:23 ID:W4qmcXDZ
お疲れ様です!昨日今日と更新作業が大変でしょうが完結まで応援していますので
頑張ってくださいね!
354名無し娘。:02/04/18 10:11 ID:4uRZuH2F
>>353
有難うございます。完結目指してペースを上げます。
355名無し娘。:02/04/18 10:12 ID:4uRZuH2F

そのころ、医師たちは吉澤の病状が好転しないことに焦っていた。
抗がん剤による治療は吉澤の体調の許す限り続けられる。
だんだんと彼女の肝機能、腎機能、そして造血機能は低下していく。
そして吉澤はさらなる抗がん剤の副作用に悩まされていた。

あれからメンバーは誰も見舞いに来ない。
でも別にそれは良かった。彼女たちからはメールも来るし、
彼女たちが忙しいのは自分がよく分かってる。
副作用で苦しんでる姿を見せたくもなかった。

それに白血病の少女とも仲良くなった。
体調のいいときは彼女と話したりする。
副作用の愚痴をこぼしあったり、ドクターや看護婦の対応の不満を言ったりと、
同じ病気をもつ人のほうが、気が楽だった。

そんなことを考えている間も、全身を強烈な倦怠感が吉澤を包む。
いつものように吐き気が脳の奥からこみ上げてくる。

「うぐっ……、うえっ……、う、うえっ……」
激しい嘔吐がつづく。吐いても、吐いても止まらない。
胃液を無理やり吐き出すような嘔吐が続く。
356名無し娘。:02/04/18 10:13 ID:4uRZuH2F

「あー、もうやだよ……」
吉澤は一人で洗面器を抱えながらつぶやいた。
一体どれぐらい続くのか、彼女にもドクターたちにも分からなかった。

ため息をつきながら髪をかきあげる。
そしてふと手をみる。そこには大量の髪の毛──

また、ゾクッとした恐怖が吉澤の背中を走る。
やっぱりあの少女のような風貌になってしまうんだ。
副作用ということは分かっているとはいえ、16歳の女性にとって、
その現実は辛いものだった。

「こんなに体調悪くて、ほんとに治るのかな……」
おもわず、心の不安を呟いてしまう。
特に抗がん剤のせいで、倦怠感、食欲不振、体重低下が起こっている。
一体何キロ痩せたのか、自分でももうわからなかった。
病気の前はあんなにダイエットに苦しんでいたのに。

357名無し娘。:02/04/18 10:14 ID:4uRZuH2F

ふと、一通のメールが入る。
「どう?調子?今日の深夜こっそりいってもいい?梨華&ごっちん」

吉澤は驚いた。ミュージカルのリハーサル中のはずである。
去年とても大変だった思い出がある。深夜までレッスン、
それに台詞の暗記をしていた気がする。
彼女たちに負担を掛けたくない、そう思った。

「いや、忙しいでしょ?メールだけで充分嬉しいよ」
吉澤はそう書いて、返信する。
すぐに又、返事が入る。

「行っちゃ迷惑?」

迷惑?いや、そんなことはない。会いたい気持ちはある。
でも、自分の体調の悪い姿を見せて心配させないだろうか。

「いや、そんなことはないけど……」
返信をすると、またすぐにメールが入った。

「じゃあ、行く!」

強引なメールに少し驚きながらも、吉澤は嬉しかった。
石川と後藤にあうのは久しぶりである。
最近あの少女以外、同年代の友達とは話していない。
しかも彼女たちは自分が告知を受けた日に、一緒にいて泣いてくれた。
自分のことを一番分かってくれているメンバーだ。
ただ、副作用でやつれた姿を見せて、
不安を掛けないかどうかが心配だった。
358名無し娘。:02/04/18 10:22 ID:iaccMZM1

メールの返事を受け、石川と後藤はミュージカルの練習が終ると、
他のメンバーたちが帰ったのを見計らって、タクシーで病院へと向かった。

しばらくしてタクシーは病院の救急玄関に横付けされる。
2人は数人の患者が待っている救急外来の横を急いで通り抜け、
吉澤が入院している病棟へと急いだ。

深夜2時過ぎ、病棟はナースステーションだけ明かりがついていて、
あとは真っ暗な廊下がひたすら続いている。
病院独特の匂いと空気が石川と後藤を不安にさせる。

「なんか出そうだね」
後藤がぼそっとつぶやく。
「やだー、ごっちん変なこといわないでよぉ」
石川は後藤の腕にしがみつきながら、吉澤の病室へ向かった。

血液内科のナースステーションの前に来る。そこだけが煌々と明るい。
2人はそっと中をのぞく。3人ほどのナースがカルテに何かを書いている。
こちらを気付く様子はない。
「よし、いこう」
そういうと、二人はナースステーションの窓から見えないように
体をふせながら、病室へと急いだ。

彼女たちの目の前に病室のドアが現れる。
ココを空ければ会いたかった彼女がいる──

2人はドキドキしながらドアをノックした。
そして、しばらくしてゆっくりとドアが開いた。
359名無し娘。:02/04/18 10:23 ID:iaccMZM1

石川と後藤の前に吉澤の姿が現れる。
ドクンと大きな胸の音が二人を包む。

うそ──。どうしちゃったの?

吉澤の姿はまるで別人のようだった。
いつも元気だったその姿はない。
やせ細り、やつれて、血色の悪い病人の姿だけがそこにある。
ショックだった。治療を始めたのだから、きっと良くなってるはず。
そう思っていた。

吉澤はベッドにすわり、二人を招きいれた。
「ひさしぶり、大丈夫だった?忙しいんじゃないの?」
吉澤は二人に尋ねる。

「大丈夫。それより夜中の病院って怖いね」
石川が答える。
「怖かったよー」後藤も相槌をうつ。

本当はどう?元気?と訊ねるつもりだった。
しかし、吉澤の姿をみた後ではとてもそんなことはいえなかった。
それだけではない。2人はやつれた吉澤の顔をまともに見ることが出来なかった。
360名無し娘。:02/04/18 10:24 ID:iaccMZM1

何があったの?どうしちゃったの?すごく痩せちゃったよ。
そんなに重病なんだ……。
重い感情が彼女たちたちの心を押しつぶしていく。

吉澤は自分の変化について彼女たちが驚いていることが
なんとなくわかった。
そして、それに触れないようにする二人がなにか、遠い存在に感じた。
いつもは、思ってることを何でも遠慮なく口に出す二人なのに──
なに遠慮してるの?気にしないで。
そして、そんな風に2人に気を使わせてしまった自分を情けなく感じた。

吉澤は体調と副作用について説明をした。やせている原因はそのせいなんだと。
しかし彼女たちは頭ではそれを分かっていても、
心の中の不安と驚きを消すことは出来なかった。

石川と後藤は、深夜であること、体調の悪い吉澤のためにも
これ以上長居をするのもよくないと思い、早めに病室を後にしようとする。
いや、それだけではない。やつれた吉澤の姿をこれ以上見たくない、
もうこれ以上見れないというのが本当だった。

「じゃあ、よっすぃー。又来るね。夜も晩いし」
「がんばってね」
2人は慌てて病室を去ろうとする。
その様子から、彼女たちの驚きと不安な気持ちが吉澤にもひしひしと伝わる。

「うん、有難う」
もうこれ以上の心配は2人に掛けたくなかった。
そういって、吉澤は精一杯の作り笑顔で答えた。

2人は病室を去る。吉澤は大きなため息をついてベッドに横になった。
彼女たちの驚きと不安の表情が思い出される。
また心配をかけてしまった。気を使わせてしまった。
元気だった頃は全く気を使わないで接していた友人だったのに。
吉澤は、自分が惨めで、情けない人間のような気がして
悲しい気持ちで一杯になったまま、布団を被った。
361名無し娘。:02/04/18 10:25 ID:iaccMZM1

帰り道の途中、石川は立ち止まる。
先ほどの吉澤の姿がフラッシュバックのようによみがえる。
昔の健康的なスタイルからは程遠い、やせ細った体、血色の悪い顔、生気のない眼光。

「よっすぃー、痩せちゃったよぅ……」
不安と悲しみあまり、後藤の腕をギュッとつかむ。
「ん……。そだね……」後藤は天を仰ぐ。
あんなに元気だったのに。
あっというまに痩せてしまって。病気があんなに恐ろしいものだとは。
やっぱり重病なんだ……。深い悲しみが後藤を包んだ。

石川の体が小刻みに震える。もうあんな姿の吉澤を見るのは耐えられなかった。
深い悲しみと同情が石川の心を支配する。
「うっ……、うくっ……。よっすぃ……。かわいそうだよぉ……」
こらえきれずに涙が出てくる。
「そうだね……」
後藤にはそれ以上何もいえなかった。
お見舞いに行ったのは良かったのだろうか。はたして彼女は本当に喜んでくれたのだろうか。
そして自分たちの気持ちは満足できたのだろうか。2人には分からなかった。
ただ、吉澤の病状が深刻であること、そして、自分たちは彼女に何もしてあげられないんだ
ということが、現実として重くのしかかっただけであった。
362名無し娘。:02/04/18 10:31 ID:iaccMZM1

ミュージカルが始まり、メンバーたちは忙しい日々を送っていた。
石川は吉澤の病状があまりにも重いと考えていた。もうどうしようもない。
半ばあきらめの気持ちであった。もう、考えても仕方がない。
他のメンバーたちはと同じように、出来るだけ楽屋では明るくしよう。そう考えていた。

「矢口さん、すみませんでした」
「お、ああ。まあ気にしてないからいいよ。ポジティブに戻ってくれたらそれでいいって」
「はい」
もう悩んでも仕方がない。吉澤が治るわけじゃないんだ。
やっとそれが分かった。今まで暗くふさぎこんでいたことで、
どれだけ、周りのメンバーたちに迷惑をかけていたことだろう。
そんな思いで石川は矢口に謝罪する。
矢口はなぜ急に石川が吹っ切れたのかは分からなかったが、
それを聞くのはさすがに矢口でも出来なかった。

「明るくなったね」
後藤が石川に話し掛ける。
「うん、一応ね。でも心配な気持ちは変わらないよ」
石川は寂しげに微笑む。
「そうだね。会いに行ったのはよかったのかなあ」
後藤は吉澤に会ったことが果たしてよかったのかが疑問だった。
「分からない。でも現実はひとつなんだよ。よっすぃーの病気は重い。それだけ」
石川はそう言ってうつむいた。自分たちはなにも出来ない。その悔しさが
にじみ出ていた。
「そうだよね」
後藤も悔しそうな表情で上を向いた。
363名無し娘。:02/04/18 10:32 ID:iaccMZM1

「梨華ちゃん、だいぶ元気になったみたいれすね」
「そうやな。なんかあったんかな?」
急に石川が明るく振舞うようになったため、辻加護が不思議そうな顔をする。
「まあ、石川もやっと分かってくれたってことでしょ」
保田が二人に向かって言った。

「そういえば、よっすぃーはどうなるんれすかね」
「ほんまやな。いつ退院するんやろ」
2人は吉澤がいったいどうしているのかが気になりだしてきていた。
「ま、まあ、頑張ってるんじゃない?そんなことより、ミュージカルのことだけ
を考えてないとダメよ」
保田は吉澤の本当の病状が、彼女たちに知られてはまずいと思って話を変えようとした。

「がんばってるれすよ。おばちゃんこそ大丈夫れすか?」
「そうやで、ボケが始まって台詞とか忘れんといてな」
「なによ!大丈夫に決まってるでしょ!」

石川が明るく振舞うようになったおかげで、
普段どおりの少し騒々しい楽屋の雰囲気が戻ってきていた。
ただ、2人の気持ちは晴れないままだった。
364名無し娘。:02/04/18 10:34 ID:iaccMZM1

吉澤のいないミュージカルは順調なスタートを見せていた。
観客も充分入っている。評判も上々。新メンバーたちもそつなく初舞台をこなしていった。
メンバーたちの忙しいが充実した日々が続く。

石川と後藤の2人は、もうあれから吉澤の見舞いには行かなかった。
というより、いけなかった。あれ以上にやつれた吉澤を見たくないというのが本音だった。
ただ、吉澤のことを思うと、なんとかしてあげたい気持ちで一杯だった。
とりあえず、2人はメンバーたちの日々の様子を毎日メールで送ることにしていた。

「今日は、ののがよっすぃーの病室にはきっとお見舞いのメロンとか、
お菓子とかが一杯あるんだっていって、行きたいって言ってたよ。おもしろいよね」
石川のメールが送られてくる。そんなたわいもないメールが吉澤には嬉しかった。
髪の毛も抜け落ち、やせ細った自分の姿をメンバーたちに見られたくなかった。
それに加え、死の恐怖と、治療の苦痛の中にいる自分が唯一もつ、メンバーとの接点
それが、このメールだった。

「あるよー。たくさん。食べきれないから、ほかの患者さんにあげるんだけどね」
彼女の部屋には沢山の見舞いの品々があった。すべて食べれるものではない。
よく吉澤は、お見舞いの品を休憩所で友達となった同じ白血病の少女に
おすそ分けをしていた。少女もそれを喜んでいた。
そして、たまに病室に来て吉澤と話をしたりするようになっていた。
それは御互いに同じ病気をもち、死への恐怖をもつ親近感のようなものがあったからであった。

石川は辻にメールの返事を見せる。
「え?ほんとにあるのれすか?うらやましいのれす」
「あるみたいだね。どんなお菓子だろ」
「いってみるのれす」

365名無し娘。:02/04/18 10:36 ID:iaccMZM1
辻は吉澤の病室に行く気になっていた。彼女はあれから吉澤と会っていない。
もともと吉澤とは仲が良かった。だからお見舞いにいけないことが気になっていた。
なぜ、自分たちは行ってはいけないんだろうとずっと疑問に思っていた。
でももしいけるならば、吉澤と会える。しかも、大好きなお菓子が一杯ある。
こんなに楽しそうなことはない。ただ単純にそう考えていた。

石川はそれを聞いて焦った。吉澤の姿を見たら、辻はショックを受けるだろう。
それは自分たちが体験してよく分かっている。
まだ中学生の彼女にそんな体験をさせていいのだろうか。

「ほら、ミュージカルに集中しないといけないから、ダメだよ。台詞忘れたら大変だよ」
「だいじょうぶれす。はっきりいっておばちゃんよりは記憶力はいいのれす」
「そ、そうなの。でも、やっぱ行かない方がいいと思うけどな」
「なんでれすか?なにかあるのれすか?」
辻は納得しない。石川は焦っていた。それを見ていた後藤がすかさずフォローを入れる。

「いや、よっすぃーはいま大変な治療してるらしいから、やめたほうがいいって」
「え?そうなんれすか……。でもいきたいのれす」
「だめったらだめ!いったら殴るよ」
後藤は辻が何時までも納得しないことに腹が立っていた。つい語気が荒くなる。
吉澤の辛い病状を目の当たりにしていた彼女は、
中学生メンバーが病気のことを知らないので仕方がないのは分かっていたが、
彼女たちに気安くお見舞いに行って欲しくなかった。
「後藤しゃん……」
辻は少し不服そうだった。後藤はなんで怒っているのだろう。
それによく分からないけど皆いかないほうが良いと言う。
釈然としない気持ちのまま、辻はしぶしぶと了承した。
366名無し娘。:02/04/18 10:46 ID:iaccMZM1

メンバーたちがミュージカルの公演をしていたころ、
吉澤の抗がん剤による治療は一段落し、効果判定の時期となった。

ドクターがその説明のために病室へとやってくる。
吉澤と母親はそれを神妙な面持ちで見つめていた。
ドクターはゆっくりとカルテをめくりながら語り始めた。

「残念ながら、今のところ抗がん剤の効果はあまり出ておりません」

「え?」

吉澤は驚いた。これだけ副作用が出ているんだ。薬が効いているとばかり思っていた。

「おそらく、現在使っている抗がん剤にはあまり感受性が高くないタイプと思われます。
ですから、次回から抗がん剤を変更したいと考えております」

主治医は浮かない表情でそう言った。

ずっと娘のつらい闘病をそばでみつめていた母親はショックを隠しきれない様子だった。
すこしからだが震えている。

「く、薬が変わったら効くんですか?」
母親はすがるようにドクターに尋ねた。
「それはいまのところはなんともいえません」
表情を変えないまま主治医は答えた。

薬が効かないの?じゃあ、私の病気はどうなるの?
吉澤の疑問は大きくなっていく。
不安のあまりキュッと母親の手を握る。
母親の手が震えているのが吉澤にも分かった。
2人は何もしゃべれなくなっていた。

367名無し娘。:02/04/18 10:48 ID:iaccMZM1

「もうひとつ、残念がお知らせなんですが」
主治医は言いにくそうに口を開いた。
2人はさらに不安げに彼を見る。

「ご両親の骨髄移植のHLAタイピングの検査なんですが、
残念ながら娘さんには適合しませんでした」
「じゃ、じゃあ、どうするんですか?」
「現在骨髄バンクでの検索を進めてます。あとは、ご兄弟、ご親戚に期待するしか」
「そ、そうですか……」

吉澤もは自分の病気が予想以上に悪いことに愕然としていた。
抗がん剤の効果が悪い。次の薬も効くかどうか分からない。
そして頼みの綱である骨髄移植も……。

このまま薬が効かなかったらどうなっちゃうの?
たとえ、効いたとしてもこのまま適合者がいなかったらどうなるの?
そんなのは嫌、考えたくない──

再び彼女を死への恐怖が襲う。

「とりあえず、寛解導入できないと、骨髄移植も出来ませんから、
強い抗がん剤を使いたいと思います。副作用はかなり出ますが、我々も全力を尽くします」
主治医の表情にも悲壮感が漂う。

2人はただ頷くだけであった。
自分でどうするわけにも行かない。
主治医の治療方針に従うより他はないのである。
ただ出来ることは副作用に耐えることだけ。
新しい抗がん剤、それにすがるしかなかった。
368名無し娘。:02/04/18 10:48 ID:iaccMZM1

家族への説明が終った後、主治医を囲んで何人かのドクターが彼女の病状について
相談していた。
3クールの治療が終わっていたが、吉澤への説明通り検査結果はあまり芳しくない。
次の薬は決まっていたが、今後の治療法について主治医は他のドクターたちとの
意見交換を必要としていた。

「それでどうなんだ、吉澤さんの結果は?」年配のドクターが主治医に尋ねる。
「反応がよくないですね。おそらく強いのをやらないと、寛解導入が出来ないと思います」
カルテの検査結果を見ながら主治医は答える。その表情は明るいものではなかった。

「寛解には持っていけそうなのか?」
「分かりませんが、次の薬が効いてくれれば」
主治医としては、次の薬でなんとか寛解へと持ち込みたかった。
ただ、それは全く確証はなかったのだが。
「そうか。ただ、やはりこの調子だと第1期寛解導入期で骨髄移植したほうがいいな」
年配のドクターはそう呟いた。

急性骨髄性白血病の場合は第2寛解期で行われるのが普通である。
それ以降、もしくは再発期に行っても成績はかなり悪いのである。
ただ、抗がん剤に反応不良のタイプの骨髄性白血病は第1寛解期に行われる事が多い。

「そうですね。第2寛解期に持っていけるかどうか分かりませんから」
それに加え、主治医はいままでの抗がん剤による治療効果から、
再発した場合の抗がん剤の効果を疑問視していた。

「で、適合者は見つかったのか?」
「いや、家族とのマッチングはダメでして。あとは弟さんぐらいしか」
「骨髄バンクのほうは問い合わせたのか?」
「はい。ただ、今のところ適合者はいないとのことです」
「いない?それはまずいな……」
そういうと、ドクターたちは沈痛な面持ちをしたまま、その後の言葉が出なかった。
あまりにも不幸な吉澤の状況に彼らも落胆の色が隠せなかった。
369名無し娘。:02/04/18 10:52 ID:iaccMZM1
今日の更新は以上です。暗い話で申し訳ないです。
370名無し募集中。。。:02/04/19 02:17 ID:8WCeVjU5
>>348
>後藤はそんなやり取りを黙って見つめていた。
>「後藤、どうしたの?」
>「あ、保田さん。いえ、梨華ちゃんの様子なんですけどね」
>「そうね、でもあの子落ち込み出したら止まらないからね。
>なにか吹っ切れるきっかけがあればいいけど」
>「そうですね」
>保田と後藤はため息をついた。

後藤が保田のことさん付けで呼ぶと思うか?
いや内容がとても良いだけにこういうところ気になっちゃうよ。
371名無し娘。:02/04/19 10:52 ID:NydG2N3R
>>370
ご指摘のとおりです。申し訳。

>>348
「あ、圭ちゃん。いや、梨華ちゃんの様子なんだけどね」
「そうね、でもあの子落ち込み出したら止まらないからね。
なにか吹っ切れるきっかけがあればいいけど」
「そうだね」

ということでお願いします。もう遅いけど。
372名無し娘。:02/04/19 10:54 ID:NydG2N3R

抗がん剤の治療が芳しくないことは事務所のほうにも連絡が行っていた。
スタッフたちは吉澤の復帰が長引くと判断していた。
本体の方は12人で問題なく活動している。
ミュージカルは興行的にも成功し、メンバーたちも吉澤の病気に対する
ショックは薄らいできている。
ラジオも平家と中澤の関西弁コンビで
なかなかの好聴率を得ている。問題はプッチモニであった。

ちょうどその頃、事務所側は、新メンバーの中で目立てないでいる小川の売り出しに
悩んでいた。起死回生の手段として、プッチモニに投入するタイミングを
図っていたところであった。

ただ、問題はライブでも、吉澤のパートを観客が歌うような事態がつづいており、
根強いファンたちがプッチモニには吉澤が必要との声を上げていた。
ココで小川を投入していいものか、それとも解散して新ユニットを作るべきか。
事務所はその判断で揺れていた。

ミュージカルが終った次の日、つんく♂と事務所は保田と後藤を呼び出した。

「吉澤の病状が良くない。復帰はかなり先になりそうだ。プッチモニについて、
今後の展開をどうするべきかを相談したいと思う」
つんく♂は2人にそう告げた。

吉澤が戻って来れそうもないという事実を直接他人から伝えられる。
ある程度分かっていたこととはいえ直接言われるとやはり落ち込んでしまう。
後藤と保田は小さなため息をついた。
しかし、事務所側はそれに構わず、今後のビジョンについて二人に意見を求めた。

「新曲を売り出す時期も迫っているし、プッチモニは戦略的に重要な
ユニットだ。売り出しのために、小川を加入させると言う意見もあるのだが、どうかな?」

まこっちゃんを?
それじゃあ、よっすぃーはどうなるの?プッチをやめるの?
予想もしないつんく♂の話に後藤は驚いた。
373名無し娘。:02/04/19 10:55 ID:NydG2N3R

もう脱退は嫌だ。あんな辛いことはもう嫌だ。市井の脱退のときもそうだった。
でもあれは本人が望んだこと。でも今回はちがう。よっすぃーはココに帰ってくる
ためにひどい副作用にも耐えて頑張っているのに。
吉澤の帰ってくる場所が減ってしまう。それを知ったら吉澤は落ち込んでしまう。
後藤はつんく♂の方針に納得できなかった。

「よっすぃーがいない、プッチモニなんて……。そんなの嫌です。新曲なんて……」
後藤が肩を震わせながら言った。

「小川じゃなくて他のメンバーの方がいいのか?それとも解散して別ユニットのほうが
いいのか?」
「そんなの、絶対嫌です。まこっちゃんがダメというわけじゃないんです。
よっすぃ―じゃないとダメなんです」
後藤はガンとして譲らなかった。彼女の真剣な表情につんく♂も押される。

「保田の意見はどうだ?」
後藤ではらちがあかないと思ったつんく♂は保田にたずねた。

「私は……」
保田は悩んでいた。確かに吉澤には戻ってきて欲しい。
しかし、復帰できるかどうかも分からない。
それにプッチモニはタンポポに比べて人気のあるユニットだ。
しかも保田にとって唯一のユニットである。
活動できなくなるのは自分にとってもいいものではない。
374名無し娘。:02/04/19 10:57 ID:NydG2N3R

「小川の加入、もしくは紺野も含めた4人体制でもいいと思います」

「け、圭ちゃん?」
後藤はその答えに驚いた。吉澤をずっとフォローしていた保田の
思いも寄らない答えを聞いて、感情が爆発する。

「そんなのってないよ!よっすぃ―は辞めたんじゃないんだよ?
他の子が加入するんだったら、私プッチモニ辞める!」
いつもはあまり感情的に成らない後藤の態度につんく♂たちと保田は驚いた。

「ま、まあ、これは一つの案だから。君たちの意見はよく分かった」
つんく♂はこれ以上話し合っても無駄だと思いその場を切り上げた。

「ごめん、圭ちゃん。感情的になっちゃって」
事務所側の人間が去った後、後藤は我に返り保田に謝った。
「いや、後藤の気持ちもよく分かるわ。でも、何時戻るか分からない人間を待ってる余裕は、
この世界ではないのよ」
保田は後藤の気持ちが痛いほどわかっていた。4期メンバーの加入を心より喜んだのは、
いつも独りでいた後藤だった。そして、吉澤とは1番の仲良しだった。
ただ、この世界、動かないでいればすぐ忘れ去られてしまう。
下積みの長かった保田にはそれがよく分かっていた。

「分かってる、私だって分かってるよ……」
後藤は切なそうにうつむいた。保田の言っていることは理解できた。
でも、悔しくて、悲しくてたまらなかった。

375名無し娘。:02/04/19 11:05 ID:NydG2N3R

吉澤の抗がん剤の治療は激しさを増していた。
強力な薬は彼女のあらゆる細胞を攻撃していく。
前回よりも激しい嘔吐と倦怠感が体を襲う。

(いつまで続くのかな……)
吉澤はもうベッドから起き上がる気力もなかった。
鏡をみると、そこには髪の毛も眉毛もなくなった、
変わり果てた自分の姿がある。

(誰にも会いたくない……。復帰なんてホントに出来るんだろうか……)

ベッドの上で悔しさと悲しさが吉澤を包む。自然と涙がこぼれる。
ふと、メールを見る。そこにはメンバーたちの日常が楽しげに綴られている。

あの頃に戻りたい。元気で、みんなと楽しくやっていたあの頃に──
仕事はハード、だけど順調──
休みなんか要らなかった。それだけで毎日が充実していた──

嘔吐がこみ上げる。うぐっと嗚咽を上げながら、
洗面器に胃液を吐く。ココ最近なにも食べれていない。
出るものもほとんどない。でも吐き気は止まらない。

ふと、仲良くなった白血病の少女のことを思い出す。
あの子も同じ苦しみを味わってきたんだ。
なんで私たちはこんな目に会わないといけないんだろう。
そんなことを考えていた。

もう我慢できない──
吉澤は、ナースコールを押し、吐き気止めを頼んだ。
376名無し娘。:02/04/19 11:12 ID:NydG2N3R

メンバーたちは相変わらず忙しい。吉澤のことなど
忘れたように仕事をしている。
楽屋で、辻は加護とお菓子を食べながら、ひそひそと話をしていた。

「あいぼん、よっすぃーのところにいくのれす」
辻はあきらめていなかった。ただ、中学生メンバーだけで
行くのは禁止されている。でも一体誰と一緒に行けばいいのだろうか。
高校生以上のメンバーは行くなと頑なに言っている。
自分たちで行くしかない。そう思っていた。

「なんで?なんかええことあるん」
「お菓子が一杯あるのれすよ」
「ほんまに?ウチもよっすぃ―のお見舞い行ってへんの気になっててん。
タモさんにも言われとったし」
加護も吉澤の病状は気にしていた。
ただ、お菓子とどちらが大きな要因かはよく分からなかった。
面白そう、楽しそう。吉澤にも会えるし。そんな気持ちだった。

「じゃあ、いくれすね」
「行く!でも2人じゃまずいな、うちら目立つからな……」
ミニモニの人気メンバーの2人だと、否応なく目だってしまう。
それに自分たちだけで病院に行く自信もない。
ここは、あまり知られていないメンバーを前面に立てて、こっそりついていく
ということに決めた。

「紺野ちゃんれす」
「そうか!紺野ちゃんは何でも知ってるし、ウチらを連れてってくれるやろ」

そういうと2人は無理やり、嫌がる紺野を拉致するように捕まえて、
一緒に行くように命令した。
同い年だが、先輩でもある2人の頼みを紺野は断るわけにも行かなかった。
377名無し娘。:02/04/19 11:14 ID:NydG2N3R
今日の更新は以上です。
378ななしで:02/04/19 12:12 ID:FMQ0Xfjr
この先を読むのが怖い
デモ、更新待ってます。
379 :02/04/20 01:20 ID:cZLV6D8r
辻や加護が吉澤の姿を見て、どう反応するかだな。
380名無し娘。:02/04/21 09:44 ID:Wjr/v6q5
>>378
有難うございます。内容が内容だけに申し訳ないです。
>>379
答えは本文中で……。

とりあえず、保全代わりに更新します。
381名無し娘。:02/04/21 09:44 ID:Wjr/v6q5

珍しくできたオフの日、辻と加護と紺野の三人はある都内の駅で集合していた。

「さあ、出発れすよ」
辻がサングラスに帽子という格好で現れる。
「のの、それ、めっちゃ変やで」
という加護も怪しい帽子を目深にかぶり、かなり怪しい。
「あのー、はやくタクシーに乗った方がいいと思うんですが……」
紺野は少しはしゃいでいる二人に向かって恐る恐る声を掛ける。

「そうやな、ののが目立ってるもんな」
「そうれすかね?」

(加護さんもなんだけど……)
そんな2人のやり取りをみながら、紺野は思っていた。
自分がしっかりしなきゃ、そう思いながら手際よくタクシーを拾った。

382名無し娘。:02/04/21 09:45 ID:Wjr/v6q5

「加護さん、お財布あります?」
助手席に座った紺野は後ろの加護に向かっていった。
「あるで、ほい」
そういって紺野に財布を渡す。中身を確認して、紺野は言った。
「じゃあ、これは私が預かっときます」
「え?なんで?」
「私、お金持ってません」
「はあ?」
紺野はあえてお金を持ってきてなかった。間違いなく2人は何も考えずに
タクシーに乗るだろう。お金を払えと自分に言うかもしれない。それなら、
いっそのこと財布を持ってこないでおこう。そう紺野は考えていた。

「まあ、ええけど」
加護はそういうと、辻とくだらない話を始めた。

紺野は途中で花屋とベーグル屋により、吉澤の好きなベーグルと花束を買った。
このあたりの気遣いは辻、加護には出来ないものであった。もちろん加護のお金である。
383名無し娘。:02/04/21 09:47 ID:Wjr/v6q5

病院に到着する。とりあえず血液内科ということは聞いている。
紺野を先頭に3人は歩き出す。
でも広い病院である、一体どこにあるか分からない。
うろうろしていると、周りからひそひそと声がする。
(まずい、ばれそう……)紺野は焦った。
しかし、後ろの2人は気にとめる様子もない。

「走りましょう」
「え?」
紺野はそういうと階段の方へ走り出した。

階段を駆け上がり、血液内科とかかれているナースステーションを見つける。
「な、なんでエレベータつかわんの?」
「そうれすよ、しんどいれす」
2人は息を切らせながら紺野に尋ねる。
「いや、見つかりそうだからです」
384名無し娘。:02/04/21 09:52 ID:Wjr/v6q5

紺野は息も切らさずにそう答えると、ナースステーションの中にいる看護婦に訊ねた。
「すみません、吉澤さんは何号室ですか?」
「失礼ですが、どちら様でしょうか」
看護婦は芸能人が入院しているため、非常にナーバスになっていた。
怪訝そうな顔をする。

「あ、あのー、私モーニング娘。のメンバーなんですけど……」
「はい?誰ですか?」
看護婦はさらに怪訝そうな顔をする。

それを後ろでみていた辻と加護は帽子を取った。
「あ、辻ちゃんです」
「加護ちゃんです」
ポーズも寄り目もばっちり決まる。

看護婦はおもわず驚いた。目の前に有名人がいる。
「あ、はいはい。分かります。でも、ちょっと今日は面会できないんです」
「なんでなん?」加護が不思議そうに訊ねる。
「ちょっと治療が始まってて、体調が良くないので、会えないんです」
「そうなんれすか」
385名無し娘。:02/04/21 09:53 ID:Wjr/v6q5

看護婦は話が一段落すると、奥にいた婦長を呼ぶ。
「婦長さん!ミニモニの子ですよ!早く早く!」
それを聞きつけた婦長は嬉しそうに紙とマジックを持ってきた。
「娘がファンなんですよ。よかったらサインしていただけます?
あ、あともう一枚、血液内科ナース一同の分もお願いします」
「あ、いいれすよ」
2人がそれを書くと、嬉しそうに看護婦たちはナースステーションの奥へと消えていった。

「行ってもうたわ。なんやったんやろ」
「まあ、いいことをしたのれす。とりあえず、病室の前までは行って見るのれす」
そういうと3人は奥にある吉澤の病室に向かった。

(やっぱり、私……、誰にも覚えられてないんだ……)
先をいく辻加護を追いかけながら、
紺野は少し落ち込んでいた。
386名無し娘。:02/04/21 09:55 ID:Wjr/v6q5
今日の更新は以上です。保全代わりなので少ないです。申し訳。
レス下さる方、感謝しております。
387名無し娘。 :02/04/21 10:35 ID:9BQ5ONEH
乙カレ−です。いつも楽しく読ませていただいているのでがんばってください。

>やっぱり、私……、誰にも覚えられてないんだ……
なぜかオレもヘコム。


388名無し募集中。。。:02/04/22 04:59 ID:Vu7HSNkn
会っちゃうのか?
どーなるんだ・・・
389名無し娘。:02/04/22 12:53 ID:ukzzTUFa
>>387
紺野の世間の認知度は(略
>>388
この後の更新で……。
390名無し娘。:02/04/22 12:53 ID:ukzzTUFa

3人は廊下を歩いていた。なんだか吉澤の病室の向かいの病室が騒がしい。
辻と加護はその病室をちょっとした好奇心でのぞいた。

独りの少女が人工呼吸器につながれてベッドで寝ている。
その横に白衣を着たドクターがベッドにのり、
彼女の胸を押している。少女の体はドクターの動きに合わせて、
まるで人形のように力なく動いている。
そして看護婦たちがあわただしく出たり入ったりしている。

「先生!戻りません」
看護婦の叫び声がする。
「くそっ。だめか。今、何分だ!」
「30分です」
「まだ分からん!」

「なあ、あれなにしとるん?」不思議そうに加護が訊ねる。
「あ、アレはきっと心臓マッサージですよ」紺野が答える
「ということは、あの人死んじゃうのれすか?」
「そうかも……」
三人はその病室で行われている事態が緊迫したものであることに気付いた。
391名無し娘。:02/04/22 12:55 ID:ukzzTUFa

医師たちは心臓マッサージを続けている。
その一体を重苦しい雰囲気が流れる。3人は吸い込まれるように
その様子を眺めていた。

「先生、VF(心室粗動)出ました!」
「わかった。除細動するぞ」
ドクターはそういうと電気ショックの機械をセットアップする。

「いくぞ。3,2,1」
ドンという音がして、少女の体がゴムのようにはじける。

「VFのままか。もう一回」
「あ、先生、また心停止です!」
「分かってる。電気ショックの機械どけろ!もう一度マッサージだ!」

一体どれぐらいが経ったのだろう。
彼女たちはずっとその光景を見つづけている。
ドクターは汗をかきながら懸命にマッサージを続ける。
392名無し娘。:02/04/22 12:57 ID:ukzzTUFa

「がんばるのれす……」
3人の手に汗が滲む。
少女の横で両親と思える人たちが涙ぐんでいる。

看護婦があきらめた表情でドクターに告げる。
「先生、心停止から50分です」
「だめか……、分かった」
ドクターはそういうと、マッサージをやめて、汗をぬぐった。
腕の脈、首の脈、瞳孔を調べ始める。
そして小さく頷くと、ゆっくりと時計を見る。
まるで一つの儀式のようにその動作は行われた。

「やめちゃらめれす……」辻が思わずつぶやく。
「しっ、のの、まずいで」加護が制する
「れ、れも……、やめたら死んじゃうれす」
「そうやけど……」
3人はドクターの様子をじっと見つめていた。

「残念ですが……午後5時35分、ご臨終です」
そういうとドクターは頭を深々と下げ、病室を去っていった。
彼女たちの目の前を、悔しそうに唇をかみ締めたドクターが通り過ぎる。
ベッドの周りでは両親たちがその少女に覆い被さるようにして泣いている。
その悲壮な雰囲気は彼女たちにも伝わっていく。
393名無し娘。:02/04/22 12:59 ID:ukzzTUFa

看護婦たちが手際よく、少女につながれた管やコードを取りはずしていく。
そして死後の処置のため、再びあわただしく出入りを始める。

「死んじゃったのれす………」
辻はつぶやいた。ポロポロと涙が流れている。
「のの、泣いたらあかん。知らん人やねんで」
「わかってるれす」
しかし涙は止まらなかった。

3人がその場でたたずんでいると、患者と思われる老女が近づいてきた
「あれ、なにを何を泣いてるんだい?ほれ、タオル貸してあげよう」
そういって辻にタオルを渡す。
「あー、あの子はね、白血病でね、ずっと頑張ってたんだけどね。
とうとうダメだったみたいだね。私みたいな老いぼれはなかなか死ななくて、
ああいう子が先に死んでしまうなんてね。嫌な世の中だよ」
老女はそうつぶやいた。

「白血病れすか……」
「そうなんじゃ。ほれ、あそこの個室にも同じ病気の子がおる。かわいそうな子や」
老女はそういうと向かいの部屋を指差し、タオルを辻から受け取って去っていった。

3人は吸い込まれるようにその老女が指差した部屋をみる。
面会謝絶の札がかかったその部屋には、吉澤ひとみの名札があった。
394名無し娘。:02/04/22 13:00 ID:ukzzTUFa

3人はその意味を考えていた。
しばらくしてトクンと辻の心臓がなる。

「よっすぃーも、あの子と同じ……」
辻は吉澤の病気がどういうものかに気付いた。

「うそや、絶対うそや、そんなん……」
すでにそのことに気付いていた加護は、
心の中でその事実を必死に否定していた。

紺野は大きな目をボーっと開いたままその場に立ちすくしていた。

もう3人は吉澤の部屋に入る勇気がなくなっていた。
そっと、花とベーグルを病室のドアの前に置くと、病院を後にした。
395名無し娘。:02/04/22 13:02 ID:ukzzTUFa

辻はずっと帰り道泣いていた。
白血病。詳しくは知らないが、あの今さっき死んでしまった少女と同じ病気。
吉澤はそれに冒されている。
きっと、あの少女のようになってしまうんだ。

死んでしまう。よっすぃーが死んでしまう──

そればかりが頭の中をぐるぐる回って、涙が止まらなかった。

加護も同様である。辻を慰めるのに必死であったが、
吉澤が白血病であることにショックを受けていた。
心の中でその事実を必死に否定しつづける。

そんなん、ウソや。ウチは信じへん。
よっすぃーが白血病なんて、死んでしまうなんて信じられへん──

そう思いながら泣きつづける辻の肩を抱いていた。

紺野も落ち込んでいる辻を慰めていた。
そして、何か釈然としない気持ちでいた。

吉澤の病状はどれぐらい重いんだろう。死んじゃうぐらい悪いのだろうか──
そんなことを考えていた。
396名無し娘。:02/04/22 13:05 ID:ukzzTUFa
今日の更新は以上です。レス有難うございます。
397ななしで:02/04/22 14:11 ID:WhjI2Lee
今一番、続きが気になるスレです。
更新よろしくお願いします。
398名無し娘。 :02/04/22 20:45 ID:z0DyimHh
今回の話みて思ったんだけど心臓停止のシ−ンがERにそっくりなようなきがする。
違ったらごめんなさい。
399名無し娘。:02/04/23 02:13 ID:SXf1nuyt
今日このスレ発見しますた。
作者さんカナリ医療関係に詳しいところを見るとひょっとして現役?

続き期待してますぜ。
400名無し娘。:02/04/23 02:16 ID:SXf1nuyt
だぁ、あげてしまった。すいませんです・・・
401名無し募集中:02/04/23 03:42 ID:bPZZsB8c
っていうか賢い川o・-・)は病気がナンであるかわかっていたんじゃないのか
という気が・・・
402名無し娘。:02/04/23 11:32 ID:q2dDXx2Y
>>397 有難うございます。がんがって更新します。
>>398 ありがちなパターンで申し訳。ちなみにERの某日本版ドラマ
だったら間違いなく、「開胸するぞ!」と叫んでるでしょう。
>>399 浪人はしてません(w よろしかったらお付き合いください。
>>400 深夜ですので、多分大丈夫です。おきになさらずに。
>>401 なるほど、そうかもしれないですね。あの子はほんとに賢いと思います。

レス本当に有難うございます。それでは、更新します。
403名無し娘。:02/04/23 11:33 ID:q2dDXx2Y

吉澤の体調は相変わらず良くなかった。ただ、抗がん剤の効果は少しは出ている
との主治医の説明であった。しかし、副作用は全く治まらず、
彼女は一日中ベッドの上で過ごすことが多くなっていた。

「吉澤さん、なんかドアのところにお見舞いが置いてましたよ」
検温にやってきた看護婦が、袋と花束を持ってくる。

「あ、すみません」
そういうと、吉澤はそれを受け取った。誰だろう、ファンの人かな?
そんなことを思いながら中をみる。

「そういえば、ミニモニの子が来てたんですよ。たぶん、彼女たちじゃないですか?」
看護婦は不思議そうな顔をしている吉澤にそう言った。

「ああ、そうですか」
吉澤はホッとしていた。面会謝絶の札をさげている、だから来なかったんだろう。
自分の変わり果てた姿を見られなくて良かった。そう思っていた。
袋の中にはベーグルが入っていた。彼女たちの心遣いがうれしかった。
しかし、食欲のない吉澤にとって、これは不必要なものだった。

いつものように、あの少女にあげよう。そう思って看護婦に尋ねた。
404名無し娘。:02/04/23 11:34 ID:q2dDXx2Y

「これ、よかったら、あの女の子に上げてください。
ミニモニの子が持ってきた物だっていったら喜ぶだろうし」
そういって袋を看護婦に渡そうとする。

「あ、いや……、でも……」
看護婦は袋を受け取ろうとしなかった。

「どうしたんですか?」
吉澤は尋ねる。いつもはすぐに渡してくれるのにどうしたのだろう。
看護婦の表情に困惑が見えるのが彼女にも分かった。
405名無し娘。:02/04/23 11:35 ID:q2dDXx2Y

「……あの子、先ほど亡くなってしまったんです」
看護婦は言おうか言わまいか悩んでいたが、どちらにしてもいつかは分かることである。
そう思って答えた。

「え?……」

吉澤はその状況が理解できなかった。最近体調が悪くて外に出てなかったとはいえ、
1週間ほど前に話をしたばかりだった。そんな急に?そんなわけない。そう思った。

「おとといから急変しちゃってね。最後まであの子も先生も頑張ったんだけど……」
「そうなんですか……」
「というわけで、渡せないの。ごめんね」
「い、いえ。それじゃあ、看護婦さんたちでどうぞ」
吉澤はそういって看護婦に再びベーグルを渡した。看護婦は御礼を言って、それを受け取ると、
検温をすませ病室を出て行った。
406名無し娘。:02/04/23 11:39 ID:q2dDXx2Y

吉澤は病室に一人になる。ふと、ゾクッとした感覚が体を走り抜ける。
彼女はベッドに潜り込むと小さく震えていた。
あの少女が亡くなってしまった。同じ白血病だった。
この前まで普通に話していたのに──

あっというまに死んでしまうほど恐ろしい病気なんだ。
ふと吉澤の脳裏に少女のあの風貌がよみがえる。
髪の毛のない、血色の悪いやせ細った体。
鏡を見れば、少女とおなじ風貌の自分がいる。
私も結局は少女のように死んでしまうんだ──

嫌だ──
怖い──
死にたくない──

その3つの言葉が彼女の頭の中をぐるぐると回っている。
誰も助けてくれない。このまま孤独に死んでいくんだ──
死への恐怖と不安で吉澤は震えつづけていた。
407名無し娘。:02/04/23 11:43 ID:q2dDXx2Y
今日の更新は以上です。
408名無し娘。:02/04/23 13:48 ID:a2hZmlHb
はじめてレスします。
すばらしい小説ですね。感動しています。
更新大変でしょうけど、頑張ってください。
409名無し娘。:02/04/25 11:58 ID:+bC02ekK
>>408
有難うございます。そう言っていただけると正直嬉しいです。

では、更新します。
410名無し娘。:02/04/25 12:00 ID:+bC02ekK

辻、加護たちから中学生メンバーたちの間に、
吉澤が白血病であり、かなり調子が悪いという話が広がった。
楽屋内で中学生メンバーの様子がおかしい。
特に辻の落ち込み様は激しかった。楽屋でおやつを食べる回数も減った。
話し掛けても生返事である。それは他の中学生メンバーにも波及していった。
明るくなり始めた楽屋の雰囲気が、再び暗くなる。

それに気付いた石川と後藤は、辻と加護を呼び出した。
なぜなら、吉澤からのメールで辻、加護がどうやら、
見舞いに行ったらしいということを知っていたからである。
それがおそらく原因だろうと考えていた。

呼び出しを受けた加護と辻は動揺した。
怒られるのは目に見えている。
411名無し娘。:02/04/25 12:01 ID:+bC02ekK

「どないしよう、紺野ちゃん。怒られるんかな……」
加護がため息をつきながら紺野に尋ねる。
「大丈夫ですよ。別に悪いことをしたわけじゃないです」
「そうやけど……。ん?のの、どないしたん?」
加護は横にいる辻をみる。

「なんでもないのれす」
辻は暗い表情でボーっとしていた。
吉澤の見舞いにいってからずっとこの調子だった。
「のの……」
加護は辻を励ますことが出来なかった。
自分だって落ち込んでいる。励ましたところで、
それがどうなるわけでもない。さらにお互いを落ち込ませてしまうだけなんだ。
そう思っていた。
「とりあえず、いきましょうか」
紺野は暗い表情の2人に声をかけた。
412名無し娘。:02/04/25 12:03 ID:+bC02ekK

3人は石川と後藤の元へ行く。
そして、着いた瞬間、石川の予想もしない大声に3人は驚いた。

「どうして行ったの?行かない方がいいって行ったでしょ!」
石川が強い口調で3人を責める。

「ごめんなさい……」三人はそれしかいえなかった。
石川は怒っていた。こうなることは予想していた。
彼女の様子を知ったら落ち込むのは目に見えている。それは自分が経験して
よく分かっている。だから一生懸命止めたのに。
なぜ?かえって吉澤に気を使わせるだけじゃない。
そんな気軽な気持ちでいかないで。そんな想いを3人にぶつける。

「まあ、私たちはそっと見守るしかないのよ」
後藤が怯える3人を慰めるように言う。
413名無し娘。:02/04/25 12:05 ID:+bC02ekK

「うくっ……、よっすぃーは……よっすぃーは死んじゃうの?」
辻が目に涙を溜める。辻は怒られたことよりも、吉澤の病状に対する
ショックのほうが大きかった。2人を前にして、中学生メンバーたちには
いえなかった想いが溢れてくる。

それを聞いて、2人は顔色を変える。
思っていても自分たちは絶対に言いたくない言葉だった。

「そんなこと、絶対にない!」
2人は声をそろえて答えた。
根拠はなかった。でもそういわずにはいられなかった。

「でも、同じ病院の白血病の子が死んでしもうてんで……」
加護もあのときの様子を思い出し、泣き出している。
後藤も石川もそれ以上何もいえなかった。
吉澤の病状が芳しくないことは石川、後藤のほうが良く分かっていた。

その場に辻、加護の嗚咽だけが流れる。
414名無し娘。:02/04/25 12:15 ID:+bC02ekK

それを破って紺野が口を開いた。
「でも、白血病は治る可能性もあるんですよね」
「そうだけど。なんで?」石川が訊ねる。
「なんで治療がながびいてるんですか?そういうことを私は知りたいんです」
紺野が石川後藤をキッと見つめていった。

「どういう病状か詳しく知りたい。私も」
後藤が同意する。詳しいことは自分は何も知らない。
なにか分かればもしかしたら吉澤の力になれるかもしれない。
そう思った。

「そうねえ、どうすればいいのかしら」
石川はそういって考え込む。
「とりあえず、飯田さんに相談して、事務所と交渉するべきです」
紺野は14歳とは思えない、落ち着いた口調で答えた。
415名無し娘。:02/04/25 12:16 ID:+bC02ekK

辻加護の呼び出しから数日後、石川と後藤は飯田にその件について相談した。
飯田はそれをうけて、事務所のスタッフに連絡した。
事務所側はある程度の情報を持っていたが、詳しい病状説明となると、
やはり素人である。メンバーたちに誤解を招いてはいけない。
会議の結果、病院側にお願いすることとした。

しかし事務所側の問いに対して病院側は、詳しい病状説明をするには
吉澤の許可がいるので不可能との答えだった。

病状は基本的に本人の同意がないと、他人に説明することはできない。
マネージャには仕事の都合上、ある程度の説明はされているが、
詳しい治療の状況については、家族と本人しか説明しないものである。

それを聞いたメンバーたちは吉澤に同意してくれるか
聞いてくれるようにと主治医にお願いすることにした。
416名無し娘。:02/04/25 12:25 ID:+bC02ekK
今日の更新は以上です。お読みいただいてる方有難うございます。

>>401
紺野が白血病という病名を、血液不全症という公式発表から
想像できるかはわかりません。ただ、白血病が治癒の可能性がある
病気であることは知ってるのではないかと考えてました。
それで、白血病であることを知った紺野は、なぜ、吉澤の白血病は治らないんだろうと、
治療が長引いている吉澤の病状が気になりだしたという展開です。

って、レスで説明してしまいました。本文中で表現する力がないので申し訳ないです。
これに懲りずにお付き合いいただけたら幸いです。
417名無し娘。 :02/04/25 13:50 ID:arpYGVHW
>>416
>紺野が白血病という病名を、血液不全症という公式発表から
想像できるかはわかりません。
医学生ならともかく普通の中学生がこの病名聞いてピンとくるほうがおかしい。
いくら紺野が勘が鋭く、知識があるっていっても所詮中学生、なので作者の見解の
ままでいいとオレは思います。

418名無し募集中。。。:02/04/25 23:15 ID:40/x14lK
早く続きが読みたくて逝きそうです。
ガマンできないっす…
419名無し娘。:02/04/26 11:48 ID:IR/nzUEl
>>417
有難うございます。
>>418
「あ……、まだ逝っちゃだめだよぅ……」
石川は418氏に向かってそう呟いた。
彼女の吐息が荒くなるのが分かる。
じっとりと汗ばんだ体から彼女の香りが漂ってくる。
そして切ない目で418氏をみつめる。
その黒目がちな瞳はうるうると光っていた。

と、思わせぶりなシーンを書いてみる練習。
さっさと更新します。
420名無し娘。:02/04/26 11:50 ID:IR/nzUEl

メンバーたちの依頼を受け、主治医が吉澤の病室へとやってくる。
そして、メンバーたちが彼女の病状を聞きたいとの申し出があることを告げた。

吉澤は少し驚いた。
事務所からある程度連絡を受けてるとも思っていたのに加え、
なぜ、そんなに詳しい病状説明を聞きたいのか理解できなかった。

彼女たちが病状を聞いて何が出来るの?同情?哀れみ?
変わり果て、死に怯える私を救ってくれることが出来るの?
吉澤は、悔しくてたまらなかった。
いままでずっと対等だと思っていた。
彼女たちをうらやましいなんて思ったことはなかった。
でも、今は違う。元気で輝いている彼女たちがまぶしく見える。

でも、私にだってプライドがある。別に彼女たちに哀れんでもらいたくはない。
彼女たちに死の恐怖、そして健康の有難さなんて分かる訳ない。
それに弱みを見せたくない。闘うのは自分自身なんだ。
だれも助けてはくれないんだ。

少女の死以降、現実に自分の病気が死と直結していることを
感じ取った吉澤は、恐怖に怯える心をあえて鼓舞させるように、
頑なになっていた。

吉澤はメンバーたちの依頼をきっぱりと断った。
自分だけで病気、そして死への恐怖と闘うしかないんだ。
そう思っていた。
421名無し娘。:02/04/26 11:51 ID:IR/nzUEl

病院からの回答を聞いたメンバーたちは落胆の声をあげた。
自分たちは吉澤の病状についてほとんど知らない。
それが不満だった。白血病についての知識もない。
吉澤の心配ももちろんだが、主治医に直接きいて、
自分たちなりに今後のことについて考えたかった。

そして、その権利は当然自分たちにもあると思っていた。
なぜなら、彼女はモーニング娘。のメンバーなのだから。
それに病状がわかれば、なにか彼女の役にたてるかもしれない。
なぜ、吉澤が同意してくれなかったのか理解できなかった。

特に石川と後藤はあきらめきれなかった。
病状を聞けば彼女になにかしてあげられるかもしれない。
助けたい。力になりたい。2人の気持ちは他のメンバーたちよりも
そのことに対してのほうが強かった。
彼女たちはなんとか同意を得るため、久しぶりに吉澤のもとへ行くことにした。

422名無し娘。:02/04/26 11:51 ID:IR/nzUEl

久しぶりに来た、変わらない風景。ただ、季節だけが変わっている。
早いものだ、2人はそう思いながら、病室のドアをノックした。

「どうぞ」吉澤はそういうと、やせ細った腕で、ドアを開ける。
そのとき、2人は予想以上の驚きに包まれた。

ほんとによっすぃーなの?──

後藤と石川は変わり果てた吉澤の姿をみて絶句した。
髪の毛、眉毛がなく、やせ細り、大きな瞳だけが目立つその風貌は、
昔の吉澤、いや、前に病室で会った吉澤よりももっと違っていた。

「変わっちゃったでしょ、私」
2人の驚きに気付いた吉澤は寂しげに笑う。
423名無し娘。:02/04/26 11:56 ID:IR/nzUEl

目をそらせてはいけない。
ココで悲しんだり、怯えたりしてはいけないんだ──

2人はグッと心に力をいれる。

「うん、でも副作用でしょ?」
石川はじっと吉澤を見つめて言った。
驚きを飲み込むようにして精一杯声を絞り出す。
吉澤の心と向き合うんだ。そう決心していた。

「また髪の毛も生えて来るんだし」
後藤も石川と同じことを考えていた。
じっと吉澤をみつめる。

「気を使わなくっていいって。しょうがないよ」
吉澤は小さなため息をつく。
そしてあきらめているようなそぶりを見せた。

「それで、なんか私の病状を聞きたいんだって?」
「そうなの。先生に聞きたいんだけど、いい?」
石川は恐る恐る訊ねる。

「聞いてどうするの?」
不機嫌そうに吉澤が言う。
「なんか、手伝えることがないかって」
424名無し娘。:02/04/26 11:57 ID:IR/nzUEl

「は?手伝えること?そんなのないよ。だって、病気と闘うのは私だよ。
誰も助けてくれない。自分ひとりで闘わなきゃいけないんだ」
強い口調でそう言った。
「そ、そうかもしれないけど……」
2人は言葉に詰まった。自分たちは彼女のためになにかしたいと思っている。
少しは喜んでくれるものと思っていた。吉澤のその対応が心外だった。

「まあ、同情されるのは仕方がないと思うけど、あんまり気持ちのいいものじゃない」
吉澤は二人の気持ちが理解できなかった。同情、いや、自分を哀れんでいる。

手伝う?何を?一緒に泣いてくれるの?それで私は治るの?──

そんな安い同情なんて欲しくない。かわいそうなんて思って欲しくない。
いままで、一緒にやってきて、対等だったはずなのに、自分が惨めに感じる。
それが許せなかった。

吉澤の予想以上な拒絶に2人は何もいえないでうつむいたまま立ちすくむ。

425名無し娘。:02/04/26 11:58 ID:IR/nzUEl

「まあ、好きにしたらいいけど」
吉澤は突き放すように言った。
彼女たちに自分の気持ちなんて分かるはずない、
勝手にしたらいい。そう思っていた。

「そんな言い方ってないよ……」
石川がうつむきながら言った。自分は吉澤のことを考えてここにきたのに。
ずっと、ずっと心配していたのに。どうしてそんなにひねくれてしまったの?
昔の明るい吉澤ではもうないことがショックだった。

「なんで梨華ちゃんが落ち込むの? なに、私が悪いの? 
2人とも私の気持ちなんてわかってないじゃない!」
吉澤はさらに強い剣幕で石川に言った。
彼女は石川の態度が気に入らなかった。自分はいいことをしている。
貴方のためにしてあげてる。いかにも押し付けがましい親切。
そしてそれを断ると、すぐ落ち込んで拗ねる。そして私を悪者にする。
いつもそうだった。なにが石川にできるの?できもしない親切なんか欲しくない。
強い苛立ちが吉澤の心の中で暴れていた。
426名無し娘。:02/04/26 11:58 ID:IR/nzUEl

しかし、そう思った後、突然吉澤に強烈な眩暈が襲う。
抗がん剤の影響でさらに貧血が進んでいた。
景色がチカチカと光る。頭が痛くなってくる。
もうこれ以上立っていられなかった。そしてふらふらと、ベッドに倒れこんだ。

「よっすぃー!」
2人は倒れる吉澤を抱える。
その瞬間、2人は顔色を変えた。

昔と全く違う、体の感触──

骨と皮しかない吉澤の体がそこにはある。今にも折れそうな体をグッと抱える
こんなに痩せてしまって……。
2人は吉澤の病状の重さを改めて認識する。
427名無し娘。:02/04/26 12:03 ID:IR/nzUEl

「……偉そうな事言っても、もう体力もあんまないんだ」
吉澤は悔しかった。彼女たちに何をいっても自分が良くなるわけじゃない。
吉澤の大きな瞳から涙が零れ落ちた。

「よっすぃー、そんなこと言わないでよぉ……」
石川は吉澤をベッドに横にさせると、彼女の細く変わり果てた体に抱きついて泣いた。
悔しかった。悲しかった。病気が明るかった彼女の心をココまで変えてしまうなんて。

「頑張ろうよ。ね?応援するから」
後藤はそういって吉澤の手を握り締める。

吉澤の病状がかなり悪いことがはっきりと分かる。
もう、だめなのかもしれない。
2人はそう感じていた。悔しくて、悲しくて仕方なかった。

吉澤はただ何も言わず天井を見つめていた。涙が止まらなかった。

428名無し娘。:02/04/26 12:06 ID:IR/nzUEl

結局、吉澤はメンバーたちに対する説明に同意した。
その結果、後日、主治医が事務所に来てくれることとなった。
本来ならメンバーたちが行くべきところだが、病院側としても、
モーニング娘。に来られるパニックになってしまうことが分かりきっていたからである。

吉澤は、これ以上メンバーたちに安易な同情はして欲しくないという気持ちは変わらなかった。
できれば、もう私のことなど考えないで仕事に集中して欲しい。
たとえ、メンバーたちが心配してくれても病状が良くなるわけではない。
吉澤は一人で闘う決心をしていた。そして主治医にその気持ちをつたえる。
主治医は了解しましたと返事をした。

事務所側に日時の相談が行われる。
そして、主治医からの病状説明は、3日後事務所の会議室で行われることとなった。

429名無し娘。:02/04/26 12:07 ID:IR/nzUEl

翌日、保田と後藤はプッチモニの件について、再び事務所から打診を受けていた。
後藤は吉澤の姿をみて、復帰は難しいかもしれないことを痛切に感じていた。
事務所の方針に従って、新メンバーの加入を認めてもいいと思っていた。

つんく♂と事務所のスタッフが二人の前に現れる。
「とりあえず、プッチモニの件だが、小川を投入する」
予想通りの答えだった。
吉澤の復帰が遠い先であることを感じた後藤は、寂しい気持ちと、
これから自分が彼女の分まで頑張らねばらならないという気持ちで一杯だった。

「紺野は入らないのですか?」保田が尋ねる。
「紺野は入らない。彼女はまだ無理だ。その前に小川もプッチモニには入らない」
「え?」保田と後藤はどういうことなのか分からなかった。

「プッチモニに小川真琴(モーニング娘。)でいく」
「はあ?」2人は顔を見合わせた。

430名無し娘。:02/04/26 12:07 ID:IR/nzUEl

つんく♂の説明によると、とりあえず、吉澤の人気がまだ依然あるため、
ここでプッチモニを脱退させ、小川が加入となると、吉澤の復帰を願うファンの
不満が大きくなる恐れがある。
そこで、プッチは吉澤を含めた3人体制という形で残し、
休養している吉澤の代わりに、レンタルで小川が入るという形にするとのことであった。

「なるほどね」保田が納得したように言う。
まだ、事務所の人たちもあきらめてないんだ。
もし、彼女が治ったら一緒に働ける。大好きなプッチで一緒に──
後藤は吉澤が帰ってくる場所を事務所側が残してくれていることが嬉しかった。

431名無し娘。:02/04/26 12:14 ID:IR/nzUEl

それから2日後、メンバーが依頼していた吉澤の病状説明が行われた。
主治医の説明によると、現在吉澤は強い抗がん剤の治療が行われている。
これは前回の抗がん剤の効果が芳しくなかったからであった。
その効果は出ているとのこと。これを聞いてメンバーは素直に喜んだ。

ただ、このまま寛解という状態になったとしても、おそらく再発は避けられないこと。
そうすると、今度はかなり治療が難しく、命にかかわるとのことだった。
病院側としては、この最初の寛解の時に、骨髄移植をしたほうがいいと考えている
とのことだった。

「じゃあ、もうすぐ、骨髄移植するんですか?」
石川と後藤が訊ねる。病状が好転しているなら、助かるのかもしれない。
はやく骨髄移植をして、治して欲しい。

「それが、そういうわけにはいかないんです」
主治医は残念そうに言った。

432名無し娘。:02/04/26 12:15 ID:IR/nzUEl
今日の更新は以上です。
433418:02/04/27 00:57 ID:QXD2kNNT
>>419
逝ってしまいました…

すみません。こんなシリアスな小説なのにネタをふってしまうような
かたちになってしまって。でも相手してくれてありがとうございます。
次の更新期待しています。頑張って下さい。
434名無し募集中。。。:02/04/27 10:47 ID:4x/MYBRm
>>429
∬`△´∬<小川「麻」琴です。
面白いです、更新毎日楽しみにしてます。
435名無し娘。:02/04/27 22:11 ID:wtRZIXK3
いまこそ、全国のヲタの力を結集して、よっすぃーを救おうキャンペーン
そう、キミの骨髄が彼女を救うかも・・・
この際、病状を伏せずに世間に発表しよう。全国50万のヲタが一斉に骨髄バンクに登録することでしょう。


なんちって
436名無し募集中。。。:02/04/27 23:52 ID:4x/MYBRm
でも実際ホントに入院したら2chには・・・・・

黒子豚ご臨終アヒャヒャヒャヒャ

とかいうスレが立つんだろうなー(一部のキチガイの手によって)。
437名無し募集中。。。:02/04/28 00:32 ID:m1N5EjBO
「よすぃこの復活を待つスレ」みたいなのがPart100越えするんだろうな

作者タン待ってるよ
438吉澤さんへ:02/04/28 05:44 ID:jjutW69P
日本国民らしくすんなり尊厳死(消極的安楽死)することを推奨いたします。
439名無し募集中。。。 :02/04/28 15:05 ID:oSulJOyX
>>438
腐れ厨、あげんじゃねえよ
440名無し募集中。。。 :02/04/28 16:30 ID:eZOXSFkt
保全。
441名無し娘。:02/04/29 12:16 ID:5CRK81ZM
>>433>>439、440
有難うございます。
>>434-6
確かに。
>>438
寛解の可能性がある白血病には適応にならないと思います。
とマジレスしてみる。
442名無し娘。:02/04/29 12:17 ID:5CRK81ZM

「彼女の白血球の型、いわゆる血液型の一種なんですが、これが特殊でして、
適合者がいないんです。残念ながら両親も、弟さんも適合しませんでした」

骨髄移植が出来ない?じゃあどうするの?
メンバーたちの間にそんな疑問が湧いてくる。

「で、でも、世界のどこかにはいるんですよね」
「もちろん、可能性はあります。骨髄バンクは海外にもネットワークがありまして、
70%以上の患者さんに適合する骨髄を見つけることが出来ます。ただ、残念ながら
吉澤さんの場合には、適合者はいませんでした」
「いなかったら、どうなるんですか?」
メンバーたちは声をそろえてたずねた。

「白血病が再発して、死に至ります」

主治医のはっきりとしたその口調に、メンバーたちは驚く。皆の顔色が急に変わる。
直接医師から吉澤の死の可能性を聞いてしまった。その衝撃は大きいものであった。

「じゃあ、このままだと、吉澤は死んでしまうんですか?」
安倍の質問の答えはわかりきっていた。でも聞かずにはいられなかった。

「そのとおりです」
表情を変えずに主治医は答えた。

443名無し娘。:02/04/29 12:18 ID:5CRK81ZM

吉澤はやっぱり助からないの?……。

メンバーたちの中に認めたくない事実が
立ちはだかる。そして長い沈黙がつづく。
そして、誰もなにも質問できなくなった。

沈黙を破って、後藤が口を開いた。
「でも、今後新しい適合者が見つかるかもしれないんですよね」
後藤が、主治医を見据えて言った。
「登録者は少しづつ増えてますから。でも確率は高いものではありません
数万人にひとりぐらいの確率でしょうか」
主治医はそう答えた。今後見つかることに期待するしかない。
それまで薬で抑えて再発を出来るだけ先に延ばすことが治療方針であると説明した。

メンバーたちはそれ以上なにを質問していいか分からなかった。

「それじゃあ、よろしいですか?他に何か?」
主治医は時間を気にしながらメンバーたちに尋ねる。
もうだれも質問できなかった。何を聞いたらいいのかも分からなかった。
メンバーたちは主治医に礼を言う。そしてあわただしく主治医は病院へと戻った。
メンバーたちは呆然としたまま、それを見送った。

444名無し娘。:02/04/29 12:21 ID:5CRK81ZM

「吉澤、ほんとやばいよね」
主治医を見送った後、矢口がつぶやく
「もう、そういうこといわないでよー」飯田が泣きそうな顔をする。

「うくっ……、やっぱりよっすぃーは死んじゃうのれす……、死んじゃうのれす……」
辻はそう呟きながら泣き始める。それをみた飯田はギュッと辻を抱きしめる。
「よっすぃ……、よっすぃ……。うくっ……、ひっく……」
泣き続ける辻をただ飯田は無言で抱きしめつづけた。それしか出来なかった。

「そんなん嫌やぁ……、ウソや、みんなウソっていってえなぁ……」
その雰囲気に絶えられなくなった加護は
落ち込んだメンバーたちにむかって、必死に訴えかけた。

「梨華ちゃん、ウソやんなぁ?なあ、ウソやんなぁ?」
加護は石川の両肩をつかんで体をゆする。
しかし石川はそんな加護の姿を見ることが出来なかった。
視線をそらすようにうつむく。

「梨華ちゃん、なんか答えてよ!」
加護の両目には涙が溢れていた。声が震える。

ポタッ──

そのとき伏目がちにうつむいていた石川の瞳から雫が落ちた。

それをみた加護はすべてを悟った。
もうどうしようもないんだ。助からないんだ。
よっすぃーは死んじゃうんだ。その言葉が頭の中で鳴り響く。
「ウソやぁ……」
加護はそう呟くと、力なくその場にへなへなとへたり込んだ。

445名無し娘。:02/04/29 12:23 ID:5CRK81ZM

他のメンバーたちもガックリとうなだれている。
石川は大きな虚無感に襲われていた。
吉澤が死んでしまう。でも、どうしたらいいのかが分からない。
悔しさと無念さが彼女の瞳を潤ませる。

紺野はじっと考え込んでいる。
そして安倍は涙を拭きながら楽屋を出て行った。

メンバーたちはそんな2人の様子に気付くこともなく、
ただ絶望と悲しみに暮れていた。

骨髄移植が出来ない。適合者がいない。何時見つかるかも分からない。
たとえ薬でおさえても、いつかは再発してしまう。

もういっしょに働くのは無理なの?──

メンバーたちはそう思っていた。

446名無し娘。:02/04/29 12:24 ID:5CRK81ZM

翌日、病院では、主治医が吉澤の部屋に来ていた。

「吉澤さん、大分お薬が効いてきているようです。いい感じですね」
「あ、そうですか。ありがとうございます」
「いえいえ、頑張ってくれたのは吉澤さんですから」
薬が効いてきた。なんとかしばらくは大丈夫そうだ。体調も少し良くなった気がする。
私は絶対に負けない。一人で闘ってみせる。

「そういえば、メンバーへの説明はどうだったんですか?」
「吉澤さんの希望を考えまして、皆さんにかなり厳しい説明をしました。
そのせいか、すこし皆さん落ち込まれたみたいでした」
「そうですか」

実際、吉澤の病状は厳しいものであり、主治医に異論はなく
吉澤の希望は適った。これで、彼女たちはあきらめるだろう。
何をやっても無駄。私を助けることなど出来ない。
これで一人で闘う気持ちになれる。もうメンバーたちのことは忘れる。
モーニング娘。のメンバーの前に、私は一人の患者として闘うんだ。
主治医の話を聞いて吉澤は決意を新たにする。
447名無し娘。:02/04/29 12:25 ID:5CRK81ZM

「このあとはどうなるんですか?」
「多分このまま寛解に持っていけると思うので、
前にご説明したように骨髄移植の適合者がみつかれば移植になりますが」

みつかれば?みつからなかったら?
私は一体どうなるの?見つかる保証なんてあるの?
お薬が効かなくなったらどうなるの?

トクンと吉澤の心臓が鳴る。

再発、そしてそこに待っているものは、死──

ふっと恐怖が押し寄せる。
吉澤は必死でそれを否定する。大丈夫。お薬も効き始めた。
とりあえずしばらくは大丈夫なんだ。いつかきっとみつかる
私は闘うんだ。白血病に勝つんだ。
そう思いながら小さく震える。

それをみた主治医は吉澤に語った。
「吉澤さん、そこまで神経質にならないで下さい。お薬で何年も問題なく生活している人
もいますし、それに、骨髄移植だけが治療法じゃないんですよ」
そう笑顔を向けた。

その笑顔をみて少しホッとする。そう、いまはお薬が効き始めたところ。
まだ先を考えるのは早い。先生だって一生懸命やってくれている。
吉澤は笑顔で返事をする。

主治医は吉澤さんは充分頑張ってますからといって病室を去った。

448名無し娘。:02/04/29 12:27 ID:5CRK81ZM

楽屋の雰囲気が暗い。中学生メンバー、特に辻加護の落ち込み様は激しかった。
彼女たちが人間の死という事に真剣に立ち向かうにはまだ酷な年頃であった。

辻はその日大量の折り紙を持ってきていた。
加護がそれに気付いて訊ねる。
「のの、なにしてるん?」
「千羽鶴折ってるのれす」
「そんなんでよっすぃーは治るんか」
辻は加護の問いかけに答え様とはしなかった。
「何をしても無駄なんや。医者やってさじを投げてるやんか」
加護は辻にそう言った。
それを聞いた辻はキッと加護を睨む。
彼女の眼には涙が溜まっていた。あれからずっと泣きつづけていた。
真っ赤にはらした目を見た加護は黙ってその場を離れた。
そして、辻は黙々と鶴を折りつづけていた。

「私にも折らせて」
それを見ていた石川は辻に話し掛ける。
「うん」
辻はそういうと折り紙を彼女に渡す。

石川は、何も出来ない自分がもどかしかった。
それを晴らすつもりで、無心に千羽鶴をおる。
高橋、新垣、小川も辻の横にやってきて、
千羽鶴を折り始めた。もてあます自分の気持ちを鶴にこめるように。

449名無し娘。:02/04/29 12:28 ID:5CRK81ZM
今日の更新は以上です。
450名無し娘。:02/04/29 13:10 ID:0+6LBCvT
今んとこ紺野がポイントだね・・・
がむばって、作者さん。
451名無し娘。:02/04/30 12:40 ID:I/OsGRUl
>>450
有難うございます。この後の更新で……。
452名無し娘。:02/04/30 12:41 ID:I/OsGRUl

紺野はそれをみて楽屋で後藤に話し掛ける。

「すみません、私が余計なことを」
紺野は楽屋の雰囲気があまりにも暗くなったのを気にしていた。
元はといえば自分が言い出したこと。吉澤の病状を聞いてこんなことになってしまった。
少しだけ自責の念が彼女の心に浮かんでいた。

「紺野ちゃんのせいじゃないよ」
そう言って後藤は必死で千羽鶴を折っている辻と石川を見る。
鼻をすすり、目をこすりながら折りつづけている。
そして、紺野を除く新メンバーたちも真剣な表情だった。
そんな姿を他のメンバーたちは悲しげな目で見つめている。

「でも、千羽鶴を折って吉澤さんははたして喜ぶのでしょうか……」
紺野はふと思い浮かんだ疑問を後藤にぶつけてみた。
453名無し娘。:02/04/30 12:42 ID:I/OsGRUl

「紺野ちゃん、今なんて?」
紺野の小さな声に気付いた石川の表情が変わる。
「何もしないでいろって言うの?私たちの気持ちはどうなるの?」
「あ、すみません。で、でも……、吉澤さんが求めてるものって
そういうことじゃない気がして……」
紺野は石川に聞こえたことに焦った。言葉に詰まりながら言い訳をする。

「何が言いたいの?よっすぃーのことをどれだけ知ってるの?
紺野ちゃんは私たちがどれだけ悩んできたか分かるの?」
「は、はい。す、すみません」
紺野は石川の予想以上の反応に驚く。

「もう、なによ!えらそうなこと言わないで!」
石川は叫んだ。
自分が吉澤のことをどれだけ心配していたか。
なやんで、苦しんで、でも吉澤は自分を受け入れ様とはしなかった。
自分に出来ることなんてなにも無かった。それが悔しかった。
その気持ちを紺野になんてわかる分けない。そう思っていた。

「梨華ちゃん、もういいれすよ。千羽鶴折ろうよ。紺野ちゃんって冷たいれすね」
辻は悲しげな表情で紺野をみる。石川は紺野を一睨みすると、
辻と共に再び鶴を折り始めた。
454名無し娘。:02/04/30 12:47 ID:I/OsGRUl

「はあ……、怒らせちゃった……。でも何か違うんですよね……」
紺野はため息をついた。石川の気持ちはわかる。
でも、もっと吉澤のためになることをするべきなんだ。
それをなぜ分からないのか。やりきれない思いで呟く。

「まあ、紺野の言うとおりなんだけどね」
後藤は紺野の耳元でささやく。
紺野はそれを聞いて自分の思いを後藤にぶつけてみた。

「千羽鶴なんて、周りの人間のエゴみたいなものなんです。
自分の思いをただ鶴に込めているだけ。何の解決にもならないんです。
確かに気持ちは嬉しいかもしれません。でも、それでどうにかなるのですか?
彼女は闘ってるんですよ?私たちはモーニング娘。なんです。
普通の人とは違ったなにかが出来るはずです」
455名無し娘。:02/04/30 12:48 ID:I/OsGRUl

「そうだよね、私たちしかできない何かがあるはずだよね……」
後藤は紺野に言った。

自分たちに一体何が出来るのか。
吉澤を本当の意味で助けることはできないのか?
彼女の闘いに協力することはできないのか?

お医者さんだって新しい適合者が出現するのを待つだけといっていた。
それは数万人に1人の確率だっていう話だった。
数万人ってすごい数だ。数万人……。

数万人?ミュージカルの動員数は5万人だよね?
レコードは何十万枚も売れている。
後藤の脳裏に一つの案がうかぶ。

「紺野の言いたいことが分かったよ」
「はい、私も多分後藤さんと同じことを考えています」
紺野の表情が笑顔に変わる。
456名無し娘。:02/04/30 12:50 ID:I/OsGRUl

後藤は千羽鶴を折っている辻のところに歩み寄る。

「紺野のいうとおり。そんな不毛なことやっても意味が無いよ」
後藤はそう言って、辻から折り紙を取り上げる。
「な、なにするんれすか」
「ごっちん、どうしたの?」
辻も石川も驚いて振り返る。

「辻、本気でよっすぃーを助けたいって思ってるの?」
そういいながら、取り上げた折り紙を破り捨てた。
「思ってるれすよ!ひどいれす。なんてことをするのれすか!」
それを見た辻はいまにも掴みかかろうとする勢いだった。
「こんなこと、誰だって出来るんだよ。それによっすぃーは同情なんて欲しくないんだ」
それに驚く様子も無く後藤は続けた。

辻は後藤に飛びかかろうとする。それを石川が抑える。
「のの、落ち着いて!」
「ひどいれすよ!同情じゃないれす!ののは一生懸命よっすぃーのために……」
「それが同情なんだよ。よっすぃ―はひとり闘ってるんだ。誰も助けてくれない世界でね。
千羽鶴がなんの助けになるの?それが共に闘うことになるの?」
「ののだって闘いたいのれす!でも、これしかできないのれす!」
そういって、辻は後藤の胸倉をつかもうとする。
「分かってる。ののの気持ちは分かってるから」
石川は辻をなだめるのに必死に成っていた。
457名無し娘。:02/04/30 12:52 ID:I/OsGRUl

「あきらめちゃためだよ、みんな!」
後藤がメンバーたちに向かって叫ぶ
メンバーたちはいっせいに後藤の方をみる。
メンバーたちはそんな後藤の様子をじっと見つめていた。

「私たちはよっすぃーと一緒に闘うんだ!私たちにはそれが出来るんだ!」
後藤はメンバー達を見据える。

「これから、テレビとかで、ファンとか、視聴者のみんなに
骨髄バンクに登録してもらうように、キャンペーンをするんだ!
私たちのファンは何万人といるんだよ!私たちだからこそ出来るんだ!」」
強く、はっきりした口調で後藤は言う。その瞳には強い決意が現れていた。

石川はハッと我に返る。後藤のその表情をみて、
自分たちにしか出来きないことあるんだということに気付く。
彼女の心の中に希望が少しだけ湧いてくる。
そしてまだ不安そうに後藤を見つけるメンバーに向かって、石川は叫んだ。

「そうだよ!私たちに出来ることはそれしかない!
それをしなきゃ、よっすぃーは、よっすぃーは……」
458名無し娘。:02/04/30 12:59 ID:I/OsGRUl

「じゃあ、吉澤が白血病だということも公表するんだね」
黙って聞いていた保田が質問する。
「そう。よっすぃーが頑張ろうと思わないとこれは成功しない。
よっすぃーも公表して、みんなで闘うんだ。よっすぃーはひとりじゃない。
メンバーみんながよっすぃ―を支えるんだ!」
後藤は何時になく冷静さを失って叫んでいた。

そう、それしか、彼女たちに出来ることはない。
でも、吉澤と一緒に闘うことが出来る。
彼女ひとりで闘わなくてすむ。モ―ニング娘。は
何時もみんなで力を合わせて頑張って来た。
吉澤独りで闘わせるわけには行かないんだ。
同じ想いがメンバー達を包み込む。

全員が小さく頷く。スッと飯田を見つめる。
そして自然と円陣が組まれる──

「それじゃあ、これから、吉澤のために、モーニング娘。は力を合わせて、
吉澤と一緒に闘いましょう」
先ほどまで落ち込んでいた飯田が力強く話す。辻の顔にも笑顔が戻る。

「頑張っていきまっ」
そう飯田が言った時だった。
459名無し娘。:02/04/30 13:01 ID:I/OsGRUl

「ちょっと待って!」
安倍が皆を制した。

「それじゃあダメだよ!」
「え?」
他のメンバーたちは驚いた表情で安倍をみた。

「そんなキャンペーンはおかしいよ」
安倍はメンバーたちから視線をそらすようにして、そう呟いた。

「で、でも、そうしないと吉澤は助からないんだよ?」
後藤は上ずった声をだす。
「そんなことは分かってる」
安倍は後藤を見る。

「なんで?ドナー登録者が増えるんだよ?いいことだと思うよ」
「そうだよ。どうしたの?なっち?」
メンバーたちは安倍に向かって疑問を投げかける。

ファンのみんなは協力してくれるはず。
数万人なら私たちの力で集められるはず。
それに他の白血病の人たちのためにもなる。
こんなにいい方法はない。なんで反対するの?
なっちはよっすぃーを助けたくないの?
メンバーたちは安倍の真意が理解できなかった。

「実はね、私……」
安倍は言いにくそうに話し始めた。

460名無し娘。:02/04/30 13:01 ID:I/OsGRUl
今日の更新は以上です。
461名無し募集中。。。:02/04/30 20:38 ID:olYH30D2
なんだよ!
気になるじゃねえか

・・・・作者さんがんばって
462名無し募集中。。。 :02/04/30 21:52 ID:JZmdn+jO
ものすごい気になる終わり方しましたね。
我慢して次の更新を待ってます。
463名無し募集中。。。 :02/05/01 01:24 ID:GStjL2wM
ほぜん
464名無し娘。:02/05/01 02:42 ID:R+0fK71b
石川が良い。

そうか、安倍もポイントだったか・・・
435あたり、余計なことを書くもんじゃありませんでしたね。
465名無し募集中。。。:02/05/01 06:08 ID:DNb8p80G
とても面白いんだけど、やっぱり後藤の口調がところどころおかしいと思う。
加護、辻、紺野もデフォルメしすぎだと思うし・・・。
466名無し娘。:02/05/01 11:58 ID:2pWRbgkr

>>461,462
申し訳。この後の更新で。
>> 463
有難うございます
>>464
いや、驚きましたあれは。
>>465
後藤の台詞気をつけます。
辻加護紺野は前作が前作だけにネタスレのキャラっぽいのかなあ。
多分やけど……。
ここは飼育でも半年R(ry。い、いや、そうしたら更新できない。
はあ、めっちゃ悩むわ……。
467名無し娘。:02/05/01 12:12 ID:2pWRbgkr

「ドナー登録したんだ、あの日」
「え?」

確かに彼女は説明が終った後、いつの間にかその場から立ち去っていた。
メンバーたちは予想もしない安倍の行動に驚く。

主治医の説明を聞いた日に安倍は吉澤を助けるために自らドナー登録をする決意をした。
泣いているだけではなにもできない。自分は彼女のためになにがして上げられるのか。
吉澤を助けたい、それだけの純粋な気持ちだった。
その彼女の結論が、骨髄バンクへの登録だった。
そのときに感じたことをメンバーたちに語りかける。

「骨髄移植ってどんなものか知ってる?」
安倍はゆっくりとメンバーたちに話し始める。
「骨髄ってね、腰の骨から取るんだよ」
「そうなんだ。注射かなんかでとるの?」
矢口が不思議そうに訊ねる。
468名無し娘。:02/05/01 12:13 ID:2pWRbgkr

「ちがうの。学校や仕事を数日休んで、入院して全身麻酔をかけて、
手術室で数センチの傷を入れてそこから取るの」
「え?手術するの?」
メンバーたちは骨髄移植の詳細について知らなかった。
そんな大変なことだとは思っても見なかった。

「そう。仕事を休まなくてはいけないし、極わずかとはいえ、傷が残るかも知れないの。
それに全身麻酔ってね、100%安全とはいえないんだよ。
極めてまれに死亡事故だってあるの。実際、海外では何例か報告があるって」

「そ、そうかもしれないけど、なんでキャンペーンするのがいけないんですか?」
石川は不思議に思った。そんなことは大きな問題ではないのかと思っていた。
吉澤も助かる。ほかの白血病患者も助かる。こんないいことはない。
いくら、大変なこととはいえ、キャンペーン自体は問題ないはず、そう思っていた。

「もし、吉澤のファンが登録するとするでしょ?その人たちは吉澤を助けたいわけ。
でも、もしほかの人に適合することがわかったとき、その人はドナーになってくれると思う?」
安倍はメンバーたちに問い掛ける。
469名無し娘。:02/05/01 12:14 ID:2pWRbgkr

「うーん、なるんじゃないかなあ?」
少し悩んだ後、後藤はうでを組みながら答えた。
メンバーたちもその答えに頷く。

「じゃないかなあ、じゃダメなの!移植を待っている人は
何時死んでしまうかも分からないんだよ?
断るようなことがあったら大変なことになるんだよ?
絶対骨髄を提供する意思がないとダメなの!」
安倍はその答えを聞いて真剣な表情で言う。
静かに話していた安倍の口調が強くなったのにメンバーたちは驚いた。
そして、安倍の言葉の意味を考える。

「私だって同意するのにものすごく悩んだんだから!
見ず知らずの人のために、体にメスを入れるんだよ?
めったに無いことだけど、死んじゃうかもしれないんだよ?」
安倍は続けた。

始めは吉澤を助けたい一心だった。
しかし、吉澤以外の人に適合する確率の方がはるかに高いのだ。
でも、それを断ることは自分にはできない。そこには命をまっている人がいるのだから。
体に傷をつけ、そして命のリスクをかけてまで、自分は提供する決意があるのだろうか。
体をみせる、アイドルという仕事をしているのに。

安倍は自分が登録に同意するときの心の葛藤をメンバーたちにわかってもらいたかった。

470名無し娘。:02/05/01 12:15 ID:2pWRbgkr

「吉澤を助けたいという気持ちだけじゃダメなの!
苦しんでいる白血病の人たちみんなを救おうって気持ちがないとダメなの!」
安倍はドナー登録に同意したときの気持ちを訴える。


そして沈黙がつづく。

命を掛けてまで他人の命を救おうとするドナー登録者の気持ちは?
残りわずかな命の灯火を一生懸命消さないように頑張っている白血病患者たちの気持ちは?

私たちは吉澤のことしか考えていなかったんだ──

メンバーたちは自分たちの考えの甘さに気付く。

「キャンペーンはいいことだと思うけど、今のみんなの気持ちじゃあ
登録者にも白血病の人たちにも失礼だと思うんだ」
安倍はメンバーたちが沈んでいるのをみて、呟くように言った。
471名無し娘。:02/05/01 12:18 ID:2pWRbgkr

「でも、キャンペーンはしないとダメです。
そうしないと吉澤さんを助けることはできないんです」
紺野が安倍に向かって言った。その表情は絶対信念を曲げまいとする
強い意志が現れていた。

「でも今のみんなの考え方じゃ絶対ダメ。私は賛成できない」


「わかってます。でも吉澤さんの病状を知っているのは私たちと事務所、病院の人だけです。
私たちが公表しなければいいんです。
そして、純粋に骨髄移植のキャンペーンをすればいいんです」

「でもそれでファンのみんなは登録してくれるの?」
横にいた後藤が紺野に尋ねる。
「そうだよ、時間が無いんだよ?よっすぃーが病気だからこそ、
ファンは登録してくれるんじゃない?」
石川も後藤に続けた。

「数は大幅に減ると思います。でもこれなら、安倍さんの言うような、
きちんとした意識をもつ登録者が増えるはずです。
それに、このまま何もしないわけには行かないでしょう。
みんな吉澤さんを助けたい、一緒に闘いたいんでしょう?」

安倍も含めて、メンバーたちは紺野の意見に賛成するしかなかった。
やるしかない。それしかモーニング娘。としてやるべき方法はない。
ファン心理を利用しないで数を集めるのは難しいかもしれない。
でも、やるしかないんだ。メンバーたちはお互いを見ながら小さく頷く。

「でも、いきなり骨髄移植のキャンペーンっておかしくない?」
保田はメンバーの決意に水をさすかと思いながらも、
湧いてきた疑問を紺野に投げかけた。

「問題はそこなんですよね……」
紺野はそう呟いた。紺野は再び考え込む。
472名無し娘。:02/05/01 12:23 ID:2pWRbgkr

確かに唐突過ぎる。
なぜ急にそんなキャンペーンを?
なにか裏にはあるの?そう思われないだろうか。
きっかけが必要だ。なぜ私たちがそういうキャンペーンをするのか、
それを新たに作り出さなくてはならない。

メンバーたちは顔を見合わせる。
そして、彼女の優秀な頭脳にメンバーたちは期待するように
考え込んでいる紺野を見つめた。

「大丈夫」
唐突、安倍がメンバーたちに向かっていった。

「私のドナー登録をきっかけにしたらいいじゃない」
「でも、登録した理由が問題になりますよ」
紺野は顔を上げて安倍に尋ねる。

「心配しないで。ごっちん、協力してくれる?」
安倍はそういうと、後藤に向かってウィンクをする。
「あ、うん」
不思議そうな顔をして後藤は頷いた。

473名無し娘。:02/05/01 12:26 ID:2pWRbgkr
今日の更新は以上です。
474名無し募集中。。。 :02/05/01 15:54 ID:1KplV04h
ドナー登録をしてみたくなる今日この頃です。
更新頑張って下さい。
475名無し募集中。。。:02/05/01 16:15 ID:DNb8p80G
っていうか安倍も後藤もドラマで白血病患者の役やったよね・・・・・。
安倍のドラマなんて24時間テレビの目玉だったよね・・・メンバーも泣いてたよね。
その時点でドナー登録しようと思わなかったのかな・・・・>現実ではしてるのかな?
476名無し募集中。。。:02/05/01 16:22 ID:DNb8p80G
あ、更新見ないで>>475書いちゃいました。ネタバレすいません・・・。
まあヲタなら分かるかな・・・・。
相変わらずテンポ良くて面白いです。
477名無し募集中。。。:02/05/01 16:23 ID:DNb8p80G
偉そうに書いたけど実際俺もしてないけどね>ドナー登録
478名無し募集中。。。 :02/05/01 23:21 ID:MYy6/xhC
ヴィジュ狂いな俺の妹はhideに影響されてドナー登録しますた。

カンケーナイネ・・・スマソ
479名無し娘。:02/05/02 12:37 ID:5VhglTRe
>>474
有難うございます
>>475-7
私もこんな小説書きながらしてません。臓器移植カードはもってますが。
>>478
ご立派な妹さんです。

保全代わりに更新します。
480名無し娘。:02/05/02 12:38 ID:5VhglTRe

メンバーたちは事務所側と交渉した。事務所側は
吉澤が白血病であることが表に出てしまうことを恐れていた。
安倍はメンバーたちは吉澤の病気について報道以外のことは
知らないというスタンスで行動すると説明した。
それを受け、事務所側はキャンペーンについては同意したが、企画自体はメンバーたちが出す。そして、サポートは最低限しかできないということでGOサインをだす。
事務所側は吉澤の病状について知らないわけがないので、
事務所としても自ら積極的に活動するわけにはいかなかったからであった。

あくまでも吉澤の病気のことはなにもしらないメンバーたちの自主的な活動。
表向きはそうなっていた。
481名無し娘。:02/05/02 12:39 ID:5VhglTRe

記者会見場、そこには飯田、安倍、後藤の3人がひな壇に座っていた。

「私たちモーニング娘。は白血病の娘。を救えというキャンペーンを行うこととなりました」
飯田が会見を始める。まぶしいフラッシュがたかれる。

「現在、沢山の白血病患者が骨髄移植を待っています。もちろん、ドナーが見つかる人は
いますが、残念ながら見つからない人も沢山います。そこで、私たちはみなさんに、
骨髄移植の正確な理解と、ドナー登録者の増加のために活動をしたいと考えました」
安倍が続ける。

「現在、具体的な活動はまだ企画段階ですが、このキャンペーンは私たちモーニング娘。
のメンバーたちが独自に考え、そして企画も私たちが立案してやっていきたいと
思っております」
後藤がそう言った。

482名無し娘。:02/05/02 12:40 ID:5VhglTRe

「キャンペーンのきっかけは?」

「安倍さんと私はいくつかのドラマに出演しました。その中には白血病の患者の役も
あったわけです。それでいろいろ白血病について勉強するうちに骨髄移植の重要性
を感じたわけです」
後藤はそう答える。

「私はそれをきっかけにドナー登録をしました。そこで様々な説明を聞きました。
いままで知らなかったことや、誤解していたことが沢山ありました。また欧米各国に
比べて日本の登録者数は少ないそうです。このキャンペーンで皆さんが白血病、
そして骨髄移植に関心を持っていただけたらと思い、活動を決めたわけです」
安倍は後藤に続けた。

2人はお互い出演したドラマで白血病患者を演じていた。それを利用して、
キャンペーンのきっかけを作り出すことにした。

対象は吉澤ではなく、白血病に苦しむ患者、そして家族のため。
メンバーたちと相談のうえ、この2人が中心となってキャンペーンを展開する方向にした。
ドラマで演じているだけにある程度のインパクトがあると考えたからである。

白血病患者みんなのためのキャンペーンをする。
それがひいては吉澤のためになる。
メンバーたちは記者会見をみながら、
そういう意識で活動をしようと、決意を新たにしていた。
483名無し娘。:02/05/02 12:45 ID:5VhglTRe
今日の更新は以上です。ネタバレしまくりのありきたりな展開で申し訳。
484 :02/05/03 03:41 ID:5ikYoN1a
ええ話やん?
ちなみに俺は、今年初めに登録したよ。
献血のついで、と思ったから。
ただ、事前予約が必要でちょっと面倒だけどね。
する事事態は簡単だよね。
485名無し娘。 :02/05/03 11:14 ID:wcQIil5f
古いデ−タで申し訳ないですが骨髄バンクデ−タっていうのが検索したらあったので
貼っておきます。
ttp://www.marrow.or.jp/DATA/index.html
486 :02/05/04 10:41 ID:oEPuJZXo
487名無し募集中。。。:02/05/05 17:18 ID:QEQ2LnVi
保全
488名無し募集中。。。:02/05/06 04:22 ID:INAI+Ik0
消雪行進鬼謀
489名無し募集中。。。:02/05/06 16:59 ID:ZBZELSfP
連休分まとめ読みしましたが、
ホント、引き込まれちゃいました。
失礼ながら、ココまでの小説になるとは思ってませんでした。
更新待ってます。
490名無し募集中。。。:02/05/07 17:14 ID:qfzdE9HV
念のため保全
491名無し娘。:02/05/07 17:30 ID:OzP94tEc
>>484
すばらしい心がけだとおもいます。
>>485
情報多謝。
>>486,7,8、490
保全有難う御座います。
>>489
そう言っていただけるとうれしいです。

遅くなりまして申し訳ございません。
492名無し娘。:02/05/07 17:31 ID:OzP94tEc

事務所のバックアップが少ないため、
メンバーたちは自分自身の足で活動しなくてはいけなかった。
彼女たちは、忙しいスケジュールの合間をぬって
ワイドショーや、ニュース番組にメンバー自らが出向いてキャンペーンを行う。
もちろん自らの出演番組でも必ず視聴者にお願いを忘れなかった。

メンバーたちはとある某生放送音楽番組に出演していた。

「はーい、モーニング娘。でーす」
タモリが紹介する。
「どうもー」
「どう、12人にもなれた?」
「そうですね。大分なれました。はやく戻ってきて欲しいですね」
タモリの横に座っている飯田が答える。
「それで今日はなんか告知があるとか」
女性アナウンサーが台本どおり進行を続ける。
493名無し娘。:02/05/07 17:32 ID:OzP94tEc

「そうなんです。いま、私たちはこういうキャンペーンをやってるんです」
安倍が話し始める。その横で矢口がフリップをだす。
「お、なるほど。辻、これなんて読むか分かる?」
「はっけつびょうのむすめをきゅうえ、れすか?」
「すくえだよ」
会場内から失笑がもれる。

「どんな活動をしてるの?」
タモリが話を振る。
「中心なのは骨髄移植についての正しい知識と登録者の募集です。
いろんな番組にお邪魔して、告知してます」
安倍が答える。
「へえ、どんな番組出たの?」
「ニュースステーションとかにも出ましたよ。久米さん困ってましたけど」
後藤が答えた。
「でも、若い子がきたからよろこんでたんじゃないの?」
「いや、どうでしょう。でもチョット場違いっぽかったかな」
後藤はテレ笑いをする。
494名無し娘。:02/05/07 17:33 ID:OzP94tEc

「こんどは、タモリさんの番組にいってもいいかな?」
間を計っていた矢口がタモリに言った。
「え?ああ、いいとも!」
「キャー、ホントですか?いきます、いきます」
メンバーたちは拍手をする。そして、会場も拍手につつまれる。
そしてタモリはいつものように3回の拍手でそれを切る。

「タモリさん、他局の番組です」
女子アナが突っ込みをいれる。
「ああ、そうだった。新メンバーはなんか活動してるの?」
「いいかげん名前覚えてくださいよ」
矢口が突っ込む。
「いや、だからあきらめたんだって」
「えー?」
「あ、辻加護はタモモニできてくれるのかな?」
「はい、是非。あ、いいとも!っていうんだった」
「あ、時間?それではスタンバイお願いしまーす。」

メンバーたちは小さな手ごたえを感じながらステージへと向かった。
495名無し娘。:02/05/07 17:36 ID:OzP94tEc
吉澤は病室のベッドの上でそのテレビを見ていた。
抗がん剤の治療も終わり、体調もやや良くなっている。
ドクターからは治療の効果は良好。そして寛解導入に近づいているとのことだった。

「みてますよー」
「のの、それぐらいちゃんと読めよ」
「あー、また矢口さんしゃべってる。新メンバーまた話せなかったじゃん」

独り言を言いながらテレビを見る。
吉澤には前のような、孤独感や寂しさを感じなかった。
みんなが一緒に闘ってくれる。メンバーたちは決して口には出さないが、
自分のために活動してくれている。それが伝わってくる。

独りじゃない。仲間がいる。そして私のために一生懸命やってくれる。
石川、後藤、彼女たちの言いたかった気持ちが分かった気がした。

見つかるかもしれない──
戻れるかもしれない──
一緒に働けるかもしれない──

みんな一緒に闘ってくれているんだ。

テレビを眺めながら吉澤は久しぶりに嬉しくて涙を流した。
496名無し娘。:02/05/07 17:36 ID:OzP94tEc
今日の更新は以上です。
497296:02/05/07 18:09 ID:Rqytyl+m
お疲れ様です。しばらく規制にひっかかり書き込めませんでしたが、
応援してます。まだまだ期待していますので頑張ってくださいね。
498名無し募集中。。。:02/05/07 19:11 ID:z3YkT32C
待ってました。毎日このスレをチェックするのが日課になっているので、
久々の更新再開に喜びを感じます。
499名無し募集中。。。 :02/05/07 19:30 ID:u+yuNzof
>いいとも
やっぱ娘。にはタモクラは場違いか。
500The Happiest Man:02/05/07 20:12 ID:ILiRpIr4

幸運

 
501名無し娘:02/05/08 11:27 ID:5nFU6ytA
>>497
有難う御座います。がんがります。
>>498
お待たせして申し訳御座いません。
>>499
個人的にはタモクラ好きです。
>>500
いつも素敵な言葉を( ● ´ ー ` ● )有難う。
502名無し娘。:02/05/08 11:29 ID:5nFU6ytA

メンバーたちは、なんとか再発までに適合する骨髄を見つけたかった。
たとえ、寛解導入できた吉澤が帰ってきたとしても、彼女は再発に怯えてなくてはならない。

事務所からのサポートもほとんどなく、彼女たちはプロデューサーたちに頼み込んで
テレビ、ラジオの電波を借りて必死に訴えていた。そのため、中途半端にカットされたり、
場合によっては放送されなかったりもした。メンバーたちはそれにめげずに登録者が
増えることを信じながら、活動を続けた。

もっと早く、もっと沢山の登録者を。
焦る気持ちがいっそう彼女たちを不安にさせる。

時間がただ、むなしく過ぎていく──。
503名無し娘。:02/05/08 11:29 ID:5nFU6ytA

ある日の楽屋で石川は後藤に向かってたずねた。
「ねえ、ごっちん。テレビで訴えるだけじゃ弱いんじゃないかなあ」
登録者数がふえない。テレビだけでは伝わらないんだ。
直接人前へでよう。そして自らが、その場で骨髄移植について説明し、
ドナー登録への協力を訴えるんだ。そう思っていた。

「でもさ、どうやって人集めるの?握手会とか?」
後藤は不思議そうに尋ねる。
「ライブだよ。やっぱり」
石川は握手会よりも人を集められる手段として、ライブがいいと思っていた。
お金も集められる。それを寄付すればなにかしらの効果があるかもしれない。

「でもさ、事務所の協力もないし、メンバーもみんないそがしいじゃん」
事務所側が許してくれるだろうか。機材は?会場は?それにスケジュールの都合はつくの?
後藤は石川の突拍子もない意見に驚いていた。

「だから、それを頼みに行くんじゃない!聞いてみないと分からないよ!」
石川は煮え切らない後藤に腹を立てるよう言った。
「あ、うん。そだね」
後藤は石川の迫力に驚いてうなずいた。

504名無し娘。:02/05/08 11:30 ID:5nFU6ytA

石川と後藤は事務所側との交渉で、なんとか機材と会場は抑えてもらうことができた。
しかし、会場は小さく、人員は必要最低限。
だが、それ以上の無理を彼女たちはいえなかった。
それに一番の問題は、個人での活動が多くなってきたため、メンバー全員が
そろう日が殆どなく、モーニング娘。としてのライブはほぼ不可能であることだった。

「どうしようか……。どのメンバーでライブしたらいいんだろう」
石川は悩んでいた。メンバーたちの都合がつかない。
どういう基準で選んだらいいのかわからなかった。

「ユニットだけのライブになるよね。なっちはドラマがあるし、ミニモニとタンポポは
やぐっつあんと加護が忙しくて無理だから、私のソロと圭ちゃんと二人での
プッチになるのかなあ」
後藤は答える。

「それじゃあ、私が歌えないじゃん」
石川は不機嫌そうに後藤に言う。
「あ、理解して!>女の子があるじゃん」
「ええっ?あれを歌うの?」

石川と保田と後藤では曲数が少ない。それに石川が歌う歌がない。
いや、あるにはあるのだがあまり歌いたくはなかった。
「いや、ディープなファンは喜ぶって。梨華ちゃんのソロ聞きたいなあ」
後藤はニヤニヤとしながら石川をみる。

それをわざと無視するように、石川は思いついたように声をあげた。
「りんねとあさみに頼んでみる」
「カントリーも巻き込むの?」
「だって、そうしないと私歌えないもん」
石川は唇を尖らせて後藤に向かって言う。

「だから理解して……」
「しつこいよ!ごっちん」
石川は眉間に皺をよせ、後藤を睨んだ。
505名無し娘。:02/05/08 11:37 ID:5nFU6ytA

「ごめん。ところでさ、ライブ会場でで登録する気になっても、
家に帰ったらめんどくさくて、登録しないひとがいると思うんだけど」
後藤が疑問を石川に投げかける。
「そうかも……。でもさ、検査の予約がいるでしょ?その場で登録はできないじゃない」
ドナー登録は白血球の型を調べる検査が必要である。それには前もって予約をして、
検査を受けに行かなくてはいけない。

「だからさ、ドナー登録の検査の予約をその場で受けれるようにしたらいいんだよ」
「でもどうやって?」
「骨髄バンクの人に来てもらうしかないよね。私たちができるわけじゃないし」
「じゃあ骨髄バンクに聞いてみないとね」
二人はライブ会場でドナー登録のための検査予約をできるようにするために、
骨髄バンク協会の援助をたのむことにした。
506名無し娘。:02/05/08 11:39 ID:5nFU6ytA

石川はカントリー娘。のメンバーたちにライブの参加について頼み込む。
比較的時間のある彼女たちは快くそれを受け入れてくれた。
彼女たちも露出の機会が増えることはいいことである。
骨髄バンクの検査の受け付けも可能との返事だった。
それをうけ、2人は保田とカントリー娘。のメンバーと共にキャンペーンライブを
行うこととした。

後藤のソロ、後藤と保田だけのプッチモニ、カントリー娘。に石川梨華。
本体が忙しくても、曲目が少なくても、ある程度の人は集められる。
そして少しは登録者数がふえるはず、そう信じていた。

507名無し娘。:02/05/08 11:40 ID:5nFU6ytA

ライブ当日。約千人収容のあまり大きいとはいえない会場。そして貧弱なセット。
いつもの娘。のライブ会場とはかなり雰囲気が違う。

「なんか小さいねえ」
後藤がそれを見てつぶやく。
「でもアットホームでいいじゃない」
石川がうれしそうに答える。
「いいと思うよ。あとはどれだけ登録してくれるかだね」
保田も石川の答えに同意した。

自分たちの力でライブをすることができたことに石川、後藤と保田は感慨深げだった。


「今日は、カントリー娘。に石川梨華(モーニング娘。)とプッチモニ、そして後藤真希の
白血病の娘。を救えライブにきてくれて有難う!」
石川が満員の観客を前にMCをはじめる。
会場が小さいせいもあったが、予想以上の集客力だった。

ライブは成功。骨髄バンク側からスタッフともに提供された
ドナー登録のためのテントには数百人のファンが訪れた。
このうちの何割かが実際に登録してくれるだろう。
それを見て二人は少しだけ手ごたえを感じていた。

数万分の1以下といわれる適合者。特殊な型の吉澤の場合はもっと少ない。
ファン心理を使わないなら、気の遠くなる数字である。
だから彼女たちはスケジュールの許す限りライブを行った。
全国各地をまわる。特にカントリー娘。の地元北海道では大反響であった。
少しづつではあるが登録者数も増え始める。
そして、もちろん収益は骨髄バンクに寄付された。
508名無し娘。:02/05/08 11:41 ID:5nFU6ytA

石川、後藤、保田のハードなスケジュールが続く。
ただでさえ忙しい本体の仕事とともに、
ライブ活動を行うことはかなりの重労働だった。
へとへとになった体に鞭をうちながら、
彼女たちは活動を続けていた。

ほかのメンバーたちも彼女たちをサポートするように
さまざまな活動をする。

安倍はソロで出演するテレビ番組で告知を続ける。
矢口、飯田もラジオでの告知を続けた。
しかし、忙しい本体のスケジュール都合上、それ以上の活動ができない。
そして事務所のサポートが少ないため、マスコミを使った活動があまりできなかった。
そして、体力的にもライブも回数をこれ以上増やすことができなかった。

気の遠くなるような数の登録者をあつめるにはまだまだ活動が足りない。

早くしないと、再発してしまう。
もっと有効な活動を。もっと沢山──

高校生以上のメンバーたちのフラストレーションは徐々に高まっていった。
509名無し娘。:02/05/08 11:48 ID:5nFU6ytA

辻と加護はそんなメンバーたちの姿をみて、
自分たちももっとなにか出来ないかと考えていた。
特に石川も後藤はユニット活動もあり、スケジュールは殺人的。
それは2人にもわかっていた。

でも、中学生である彼女達に高校生以上のメンバーたちは
あまり多くのことを求めなかった。
負担をかけてはいけない。学校もあるし、進学も控えている。
それが、彼女達に割り切れない思いを湧き上がらせる。

「なあ、ウチらなんもしてへんなあ」
「そうれすよ、でもなにをしたらいいのれすか?」
「分からん。だれも教えてくれへんし」
「こうなったら、よっすぃーに直接きくのれす」
2人はそういうと吉澤にメールを打った。
510名無し娘。:02/05/08 11:50 ID:5nFU6ytA

その頃、吉澤の治療は順調に進んでいた。抗がん剤の効果もあがっていた。
副作用はやはり存在していたが、それも大分コントロールできるようになっていた。
寛解導入の目処もついてきたの説明も受けていた。

外へ出てみると、何人かの患者たちが休憩所でやすんでいる。
見舞い客と記念写真をとっている人たちがいる。

パシャ──

患者とその見舞い客はカメラでしきりに写真をとっていた。

きっと軽い病気の人なんだろう。入院することが記念になるんだ。
私はどうなんだろう。今は薬は効いている。でも効かなくなったら?
再発したら?骨髄移植ができなかったら?

忘れかけていた不安がふわっと彼女の心を包み込む。
ゾクッとした寒さが背中を走る。
511名無し娘。:02/05/08 11:51 ID:5nFU6ytA

私は闘う。大丈夫、勝てる。
私は一人じゃない。みんなサポートしてくれている。

吉澤は、報道やメンバーたちからのメール、そして事務所からの連絡で、
彼女たちが必死になってドナー登録者を増やそうと活動していることを聞いていた。

メンバーたちが普段から忙しいのは自分が良く知っている。
そんな中で、自分たちの時間を割いて吉澤のため、そして白血病患者のために
活動してくれているのがうれしかった。そう、そこには力強いメンバーたちの
サポートがある。

やっぱり私はモーニング娘。の一員なんだ──

吉澤は忘れかけていた、メンバーたちとの絆を心のなかで実感していた。

そんなことを考えながら、カメラの横を通り過ぎた。
512名無し娘。:02/05/08 11:52 ID:5nFU6ytA
今日の更新は以上です。レス、本当に有難う御座います。
513名無し募集中。。。:02/05/08 15:37 ID:XJXS0koM
もしかして・・・・パパラッチ?
ガタガタ((((( ゚Д゚)))ブルブル
514名無し募集中。。。:02/05/08 17:48 ID:i8eh355u
BUBKA?
515名無し募集中。。。:02/05/09 18:44 ID:FlgTsV9e
更新頑張って下さい
516名無し娘。:02/05/10 09:06 ID:46bNjBgl
>>513、514
病院で記念写真とる患者さんって実際にいます。
>>515
有難う御座います。がんがります。
517名無し娘。:02/05/10 09:07 ID:46bNjBgl

そんなある日、1通のメールが吉澤の元に届く。
それは辻、加護からだった。彼女たちはこのキャンペーンで殆ど活動できていない
ことを気にしていた。しかし、中学生の彼女たちになにができるのか、
そして、なにをしたらいいのかを考えることは難しい問題だった。
吉澤に直接それを尋ねる内容だった。

吉澤はもう充分だった。その気持ちだけで嬉しかった。
それに骨髄バンクのキャンペーンは石川、後藤、安倍が中心となって、
やっている。登録者数も少しづつだが、増加しているらしい。
別に中学生の彼女たちに負担をかける必要もない。
そう思っていた。

しかし、2人の気持ちは治まらなかった。
何かないのかと、もう一度メールが入る。
吉澤は自分が何をして欲しかったかを考えてみていた。

ふと、一緒に入院していた少女のことを思い出す。
長いこと入院していたためか、友人もなく、寂しく苦しい闘病をしている。
自分もいくら石川や後藤がいたとはいえ、孤独な闘病だった。
白血病には子供の患者もいるという。ミニモニはきっとそんな患者たちにも
人気があるだろう。そんな人たちの力になってあげたらどうか。
嬉しいこと、楽しいことがあれば、副作用の苦しみも少しは和らぐのではないか?
そして、メンバーたちと一緒に白血病と闘うことができれば、孤独感や恐怖感が
和らぐのではないだろうか。それも白血病の娘。を救うことになるはず。
そんな思いでメールを返信した。
518名無し娘。:02/05/10 09:08 ID:46bNjBgl

楽屋で辻加護はその返信を受け取る。
二人は少し複雑な気持ちになる。こんなことで登録者数は増えるの?
それで白血病の人たちは助かるの?
そんな思いでメールを返す。

暫くして吉澤からの返事がくる。
「白血病の治療ってホントに辛いんだ。そして怖いし、苦しいんだ。それは経験した人じゃないと分からないと思う。でもその苦しみを少しでも和らげることができたら、
それはすばらしいことだと思う。私はそれが一番大切なことだと思うんだ」

吉澤はメンバーたちの活動はうれしかった。そのなかでやはり一番うれしかったことは、
再発の恐怖におびえる回数も減ったことであった。孤独感や不安感がメンバーたちと一緒に
闘うことによって、減っていっていたのである。

しかし、自分以外の患者たちは、昔の自分のように孤独と死への恐怖におびえた
毎日を送っているはず。モーニング娘。と一緒になって白血病と闘うことができれば、
私と同じように、恐怖から開放されるのではないか、そう思っていた。
そのために直接患者に会って、メンバーたちとの一体感を感じさせなくてはいけない。
そのことを二人に分かって欲しかった。

「そうか、ウチらにはそれしかないな」
加護はメールの文面から吉澤の気持ちを理解する。
「そうれすよ。苦しんでるのはよっすぃーだけじゃないのれす。
このキャンペーンは、白血病の人みんなを助けるものなのれす」
「やるか?」
「やるのれす」
2人はそう言って小さくうなずいた。
519名無し娘。:02/05/10 09:09 ID:46bNjBgl

石川と後藤と安倍はテレビ番組の収録が終わった後の楽屋で、
白血病や骨髄移植のしくみを勉強していた。
何冊もの医学書、そしてパンフレットを読み比べる。

「うーん、なんとなく分かったけど難しいなあ。それに登録者もあんまり増えないし、
マスコミ使うのも限界だし、スケージュールも一杯だし、どうすればいいんだろう」
石川は大きな伸びをしながら呟いた。
「やっぱりさ、これって社会全体の問題だとなっちは思うんだけど」
安倍はそれを聞いて石川に話し掛ける。それを聞いて石川は安倍のほうを見る。
「だから、社会全体で考えないとだめってこと」
「どうゆうことですか?」
石川は安倍に尋ねる。
「この活動を国や社会に認めてもらうの」

きっとアイドルの片手間でやっているキャンペーンだと思われている。
でも自分たちとしては本気で骨髄移植の登録者を増やそうと考えているんだ。
それを認めてもらいたい。

それに、社会から認められた活動として受け入れられないと、
登録者数もふえなければ、活動自体もあまり浸透しないのではないか。
そう安倍は考えていた。

石川は不思議そうな顔をして安倍を見つめる。
「骨髄バンクは協力してくれてるんだから、こんどは国が認めてくれればいいんだけど」
安倍はそれを見て答えた。
「大きくでましたねえ」
石川は安倍の答えがあまりにも現実味のないものに思えた。

そんな二人を気にする様子もなく、後藤は骨髄移植に関する文献を読みふけっていた。

520名無し娘。:02/05/10 09:17 ID:46bNjBgl

「ねえ、なっちに梨華ちゃん。ドナーになる人ってボランティアだよね」
「そうだよ。それがどうかしたの?」
突然の後藤の質問に安倍は不思議そうな顔をする。
「提供するときには全身麻酔をしなきゃいけないし、入院しなきゃいけないんだって」
「へえ、そうなんだ。じゃあ手術みたいなものなの?」
石川が後藤に尋ねる。

「うん。でもそれで会社とか休んでも、会社側から補償とかは出ないんだって」
「それってなんかおかしくない?」
安倍が後藤に尋ねる。

「おかしいよね。だって命を救うために、命をかけて提供するんだよ。
こんなすごいことをしてるのに、会社側は知らん振りなんて今時おかしいよね」
「企業モラルの問題だよね。でも、よく知ってるね、ごっちん」
安倍が驚いたように後藤に向かって言った。
「ほんと。よく勉強してるね」
石川も同意する。二人は後藤の意見に納得したようだった。

「いや、ライブの参加者からの手紙がきっかけなんだけどね」
後藤は少し恥ずかしそうにそう言って、一通の手紙を彼女に見せた。

ライブの参加者から、骨髄移植の問題点についての指摘の手紙が
何通か彼女たちの元へきていた。

ファンの人たちも、一緒に考えてくれている。
その気持ちがうれしかった。
そして3人は少しでもドナー登録者を増やすために、
社会全体の意識を変える必要性があること、そして、
ドナーに対する環境の問題にも取り組んでいかないといけないと実感していた。
521名無し娘。:02/05/10 09:19 ID:46bNjBgl

キャンペーンを国に認めてもらう必要がある。
そして、ドナー保護のためには国家として法律の整備が必要となる。
やはり国との交渉が必要だと3人は考えていた。

でも、一体どうしたらいいのだろうか。

しばらく考えていたが、結局3人は国会議員に陳情をするぐらいしか
思いつかなかった。
ただ、自分たちが勝手にやっても相手にしてもらえないのは目に見えていた。
そのため安倍と後藤は事務所に相談する。
芸能事務所はいろいろな国会議員とのコネクションがある、それを期待してのことだった。
しかし、事務所側はそれを断った。

最近、国会議員との関係が取りざたされた事務所の問題もある。
それに事務所側としてもこれ以上、このキャンペーンを
強化することを快く思っていなかった。ただでさえスケジュールがタイトになり、
仕事をいくつか断ることになり始めていた。
そんな状態であるのに、このような申し出を事務所側が認めるわけがなかった。
522名無し娘。:02/05/10 09:26 ID:46bNjBgl

二人は失意のもとで、楽屋にやってきた。

「そうかあ、だめだったんだ」
話を聞いて石川が2人に言った。
「事務所もさあ、もっと協力して欲しいよ」
後藤がつぶやいた。
「でも、ライブの売上は骨髄バンクに寄付してるんだし、
スケジュールはタイトになるし、事務所としてもあまり力をいれたくないみたいだしね」
それを聞いた保田は小さくため息をつく。
「じゃあ、よっすぃーはどうなるの?助けたくないの、事務所は?」
そのため息をきいて後藤の口調がきつくなる。
「だから、あまり表立ってやって欲しくないんだよ。
いつ吉澤の件がばれちゃうかわからないんだし」
矢口が保田の横から口を出した。

ドナー登録者は増えてきているが、まだまだ足りない。
ただ訴えるだけではダメだ。自分たちがドナー登録をしやすくできる環境を整えないと。
でも、これ以上の活動は私たちにはできない。社会全体を巻き込んだ運動にしないと。
それには国会議員に会ってなんとか活動を認めてもらわないと。

メンバーたちはそう考えていた。

「国会議員なんて、どうやってアポとるの?」
「それに、どの国会議員にお願いしたら良いかわかってるの?」
「やっぱり門前払いだよ。それになんか怖いし」
メンバーたちは自分たちと殆ど縁のない人種へのアプローチに
困惑するばかりだった。

「紺野、なんかいいアイデアないの?」
メンバーたちの困惑に耐え切れなくなった飯田が訊ねる。
そしてじっと考え込んでいる紺野の姿をメンバーたちは
期待するように眺める。

「とりあえず、厚生労働省の管轄だと思うんで、その系統の議員さんだと思うんですけど……」
紺野はつぶやく。
「なるほど、で、どうやってお願いするの?」
メンバーたちは尋ねる。
紺野はじっと考え込む。だれも何も言わないまま、時間だけが過ぎていく。

523名無し娘。:02/05/10 09:27 ID:46bNjBgl

「難しいですね……」

暫くして紺野がつぶやく。
紺野にもいいアイデアが浮かばなかった。中学生に国会議員に会う方法を考えろ
と言っても無理な話である。
メンバーたちはそれを聞いて、またため息をついた。

やっぱり、これ以上は無理なの?
地道にライブやテレビ、ラジオで訴えるだけしか方法はないの?
そんなので吉澤の骨髄は見つかるの?

メンバーたちは自分たちの無力さを実感していた。

気まずい雰囲気が楽屋内を流れる。そしてテレビの収録の時間が迫ってくる。
メンバーたちは衣装やメイクの準備をし始めようとした。
その時、一人のメンバーが口を開いた。

「なんとかなります」

声のしたほうにメンバーたちは振り向く。
そして、予想もしてなかったメンバーの姿に全員が驚いた。
524名無し娘。:02/05/10 09:27 ID:46bNjBgl
今日の更新は以上です。
525名無し募集中。。。:02/05/10 12:23 ID:DAFAGvKp
誰だーーーー!?
ホントひっぱんのうまいよな。
526名無し娘。:02/05/10 13:23 ID:Dv3FWFL/
(・e・)のコネ・・・?
527名無し募集中。。。:02/05/11 05:47 ID:fD0xEO2P
>>526
ニイニイの出番キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!
528名無し娘。:02/05/11 11:56 ID:x9Gm3cih
>>525-7
この後の更新で……。
529名無し娘。:02/05/11 11:56 ID:x9Gm3cih

声の主は新垣里沙。

加入時の疑惑、ライブでの声援の少なさ、
ネット上での罵倒、そして人気ランキングでの不人気。
最年少メンバーであるにもかかわらず、持ち前の気の強さと自信で
彼女はそれにじっと耐え、画面の前で決して泣かずに笑顔をつくってきた。

だが、やはり辛かった。自分の悪口を言われるのは耐えることができた。
しかし、大好きなメンバーたちに迷惑を掛けてきたことがずっと気になっていた。
それを、ファンのみんなはいつか分かってくれると励ましてくれたのは、
大好きであこがれだったモーニング娘。の先輩メンバーたちだった。

私は芸能人になりたかったんじゃない。私はモーニング娘。になりたかったんだ。
そして私は今、あこがれのモーニング娘。の一員なんだ。

大好きなモーニング娘。の力になりたい──
苦しみ、悩んでいるメンバーたちの力になりたい──

今、私にはそれができるんだ。
そして初めてのシングルのセンターだった憧れの先輩、
吉澤さんの力になることが出来る──

彼女はメンバーたちに今までの恩返しをしたかった。

530名無し娘。:02/05/11 11:57 ID:x9Gm3cih

「お父さんに頼んでみます」
彼女は笑顔で答える。
そう、新垣の父親は地元で有力な資産家である。当然政治家との繋がりもある。

「そ、そうかあ。新垣ちゃんの家、お金持ちだもんね」
石川は少しだけうらやましそうに言う。
「でも、誰を紹介してくれるの?やっぱり厚生族の議員さんじゃないと
効果がない気がするんだけど」
後藤は尋ねる。

一体誰を紹介してくれるの?
私たちの活動の力になってくれる議員さんじゃないと、
意味がないかもしれないんだよ?

せっかく陳情できても、動いてくれなかったら意味がない。
どれだけの力のある議員なんだろうか。
メンバーたちの頭にに少しだけ不安がよぎる。

「大丈夫だと思います。あの人なら」
新垣は自信ありげに答えた。
531名無し娘。:02/05/11 11:59 ID:x9Gm3cih

「新垣の地元は横須賀だよね。横須賀の政治家ってだれ?」
保田がたずねる。
「も、もしかすると……、あの人ですか?」
紺野の脳裏に一人の大物政治家の顔が浮かぶ。

「前にハロモニで物まねしたじゃないですか」
新垣はそう言って、また笑顔をみせた。
「ビスマルクれすか?」
辻が不思議そうな顔をする。
「なんでやねん」
加護がお約束のように辻を叩く。

「それは、すごいよ。ホントにすごい!」
「マジで?それだけの実力者が味方になってくれたら絶対うまくいくよ!」
メンバーたちは大物政治家とのコネクションがあることに驚く。

あの人ならいけるかもしれない。
味方についてもらったら活動は絶対スムーズに行く。
メンバーたちの気持ちは高揚する。
532名無し娘。:02/05/11 12:05 ID:otW+2npP

「石川、お前も横須賀じゃないのかよ!」
矢口が石川に突っ込む。
「だ、だって……、うち貧乏だもん…」
「まあ、牛丼をステーキ丼だと思ってたやつじゃあ、たよりにならないな」
保田も矢口にあわせて石川に突っ込む。
「やっぱ、小学生のうちからふかひれ食べるようにならないと」
後藤も意地悪そうに言った。
メンバーたちは浮き足立っていつものように石川をからかっていた。

「私に協力できるのはこれぐらいしかなくて」
新垣はそれが落ち着いたのを見計らってメンバーたちに言った。
「いや、ホント助かる。ありがとう新垣ちゃん」
安倍はそういうと、笑顔で新垣の頭をなでた。

やっと役に立つことが出来た──

新垣は初めてメンバーたちの力になることができたことが嬉しかった。

533名無し娘。:02/05/11 12:06 ID:otW+2npP

新垣の父親は娘の頼みを受けて大物政治家に骨髄移植に関する陳情ついて依頼する。
そして、その政治家は彼女たちにある、国会議員に会うようにとの連絡をいれた。
それは与党の厚生族の議員であった。
アポイントメントを取った安倍、後藤、石川の三人はその国会議員の元を訊ねる。

「いつも、ご活動拝見しております。今回は、あの方からのご紹介ということで、
連絡をいただいております。それで、今回は白血病に関しての陳情とのことですが」
やや遅れて現れた国会議員が3人に向かって話し掛ける。
大物政治家よりの紹介ということもあり、その議員はかなり丁重に彼女たちの話を
聞き始めた。

独特な雰囲気に少し緊張気味に安倍が話し始める。
「はい。私たちの白血病に対する取り組みはご存知かと思いますが、
まだ日本ではドナーに対する理解が得られてないのが現状です」
「なるほど。確かにそうですね」
「ただ、私たちの活動だけでは限界があるんです。そこでなんとか協力していただけないかと」
「協力ですか?例えばどんな?」
「先生のお力で、役所に協力していただけないかと」
「なるほど」
「それに、日本でも諸外国に見習ってドナー保護法の整備が必要だと思うんです」
安倍はそう言って手にもった資料を手渡す。
「今だったらたとえ提供しようと思っても、仕事が休めなかったり、会社側から嫌な顔をされたりして出来ない人が沢山いると思うんです」
後藤がさらに続けた。
彼女たちは必死になって議員に説明した。

「そうですか。わかりました。こちら側も現在の状況について調べさせていただきます。
そして、できれば国会にて働きかけをしたいと思います」
資料を受け取った国会議員はそれにサッと目を通すと、3人に向かってそう答えた。
「有難うございます」
数十分ほどの会談ではあったが、3人は小さな手ごたえを感じていた。

キャンペーン活動を認めてほしい。
法律でドナー登録者を保護してほしい。
そうすれば、登録者数が増える可能性がある。
ひいては、社会全体の財産になるんだ。

議員も大物政治家からの紹介によるものだけでなく、
彼女たちの真剣な熱意を心の中で感じとっていた。
534名無し娘。:02/05/11 12:17 ID:otW+2npP
今日の更新は以上です。
マユゲビ━━(・e・)━( ・e)━( ・)━(   )━(   )━(・ )━(e・ )━(・e・)━━ム!!!!!
バレバレでしたね。コネも役に立つものです。
535名無し娘。 :02/05/11 15:20 ID:JIaykbNa
西川きよしかと思ったのに。
536 :02/05/11 19:06 ID:Hauc5/x7
新垣の負の面を逆手にとって、上手く書かれてると思いますよ。
537名無し娘。 :02/05/12 07:07 ID:+ReNT3es
にいにい権力者の娘説は本当なんだろうか? う〜む
538名無し娘。:02/05/12 08:46 ID:O5N4BMQU
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
(姉^▽^) (リカ^▽^) (妹^▽^)< ふかひれって、何ですか? おいしい物ですか?
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
539名無し娘。 :02/05/12 10:31 ID:ADFJ34yc
>537
それ以外(ё) はネタがないからな。
540名無し娘。:02/05/13 09:14 ID:yIRjhwrX
>>535
小さなことからこつこつとじゃ、吉澤の再発に間に合わないので。
>>536
有難う御座います。新垣を使うにはこれしか思いつかなかったので。
>>537,9
新垣は大きな病院の娘という説をモチーフにしてます。
まあ、それしかネタがないです。
>>538
ああ……、胸がせつなくなりますた。がんがれ貧乏石川3姉妹。
541名無し娘。:02/05/13 09:15 ID:yIRjhwrX

しばらくして、彼女たちのキャンペーンは、陳情のおかげもあって、
幸いなことに厚生労働省などの各省庁からの協賛も得ることができた。
当然、新垣のおかげで大物政治家の力が動いたことは間違いない。

そこから、この活動が国家的にサポートされたキャンペーンという認識が、
社会に広がっていく。
メンバーたちはそれを利用して、以前のように遠慮することなく、
マスコミを利用して、積極的な活動を展開し始める。

そして欧米各国に比べて遅れているドナー登録者数の問題、
白血病に関する正しい知識、そして最新の治療法の話題。
そして、あまりにも知られていない骨髄移植の実際。

彼女たちはテレビに出演するたびに、時間をもらって、
視聴者たちに訴えていった。
安倍、矢口、そして中澤、平家らの力をかりて、ラジオでも積極的に
活動を展開する。キャンペーンライブや
ミニモニの小児白血病患者慰問キャンペーンもそこで告知される。

普段のニュースでもそれが取り上げられる。新聞各社や週刊誌も報道するようになった。
そして徐々にではあるが、国民の間に白血病患者への取り組みが急務という機運が起り始める。

真剣な彼女たちの活動が少しずつ世論を動かし始めていた。
542名無し娘。:02/05/13 09:16 ID:yIRjhwrX

安倍、後藤、石川らの活動の裏で、辻と加護は小児白血病の患者の慰問を始めていた。
メンバーたちのラジオでの募集で、かなりの数の施設からの依頼があった。

辻と加護はとある小児専門病院にやってきていた。
その病院のドクターが案内役をつとめる。
吉澤の入院している病院とはまたちがった雰囲気であった。
子供向けのキャラクターが貼られているドア。ドクターの
胸元に刺さっている数本のボールペンはハム太郎の人形がついている。

「あいぼん、ハム太郎れす」
「ほんまやな。これあいーんちゃんとちゃうか?」
「こっちはのんのちゃんなのれす」
そういって、2人はドクターのボールペンを指差す。

「いや、子供相手ですからね。診察のとき泣きそうになったら、見せるんですよ。
やっぱり人気がありますから、ハム太郎は」
ドクターは二人の様子をみてそう答える。

「こんなところでも役に立ってるのれすね」
「うん」
2人は、自分をモデルにしたキャラクターが病気に怯えている子供たちを
少しでも救っていることが嬉しかった。
543名無し娘。:02/05/13 09:18 ID:yIRjhwrX

「この部屋の患者さんは急性リンパ性白血病で入院されています」
2人はドクターの先導で病室に入る。
そして病室にいるひとりの女の子がドクターから紹介される。

「あ、辻さん、加護さん。初めまして」

そこには色白でやせ細った体、髪の毛、眉毛が副作用によって抜け落ちた少女。
年のころは10歳ぐらいだろうか。いや、もしかしたらもっと年上かもしれない。
病気のせいで体格が小さいのかもしれない。

「こんにちは、がんばってるのれすね」
「はい、お忙しいのに有難うございます」
少女は嬉しそうに2人と握手をする。

壊れそう──

彼女の細いくて小さな手はひんやりと冷たく、そして今にも折れそうだった。
2人は精一杯の笑顔で少女に微笑む。そして少女も嬉しそうに微笑み返す。

ミニモニのファンだというその子に2人は楽屋での矢口の失敗談などの裏話をする。
メンバーたちの話、そして色々な芸を披露する。少女は嬉しそうにそれを眺めていた。
楽しい会話がつづき、そして最後にミニモニのプロモーションビデオを渡す。
少女は嬉しそうにそれを受け取った。

「今日は本当に楽しかったです」
少女は小さくお辞儀をする。
「またくるからな。そのときは元気になってるねんで」
「そうれすよ。はやくよくなるといいれすね」
辻と加護は痛々しい外見の少女の手をもう一度握った。

少しでも元気を分けてあげたい──
2人はそう念じながら手を握る。

その少女の手は最初よりも暖かい感じがした。


544名無し娘。:02/05/13 09:26 ID:yIRjhwrX

病室の外へ出る。ドクターが2人に話し掛ける。
「ずっと学校にもいけてないですし、友人もほとんどなく、
孤独に白血病と闘ってるんですよ。でもあの子はいい子で治療に対して
愚痴の一つもこぼさないんです」
「そうなんや……」
彼女の孤独な闘いがなんとなく理解できる。

「よっすぃーもずっと一人ぼっちだったんれすね……」
「そうやな……。でもよっすぃーにはウチらがいるやん。でも他の子たちは本当に一人で闘ってるんや」
「がんばって、みんなを助けるのれす」
「うん」

2人はそう言って病院を後にした。
白血病の苦しみが少しは理解できた気がしていた。
545名無し娘。:02/05/13 09:27 ID:yIRjhwrX

寛解導入が一応成功した吉澤は、髪の毛も短いながら少しだけ生え、
体重もやや戻ってきていた。体調もよくなっている。
メンバーたちの活動のおかげで、骨髄移植に希望がもてるようになった。
再発の恐怖は依然、彼女の心の中にへばりついてはいたが、
以前のような絶望感は少しづつ薄らいでいた。
そして、それがまた彼女の病状をよくさせていた。

キャンペーン活動は地道に進んでいった。登録者数は着実に増え、
国民たちの関心も高まっていた。メンバーたちの活動を評価する声が
出始める。そんな折、ある写真週刊誌のスクープが彼女たちを揺るがした。

―スクープ!モー娘。メンバー吉澤ひとみの闘病生活、病名は白血病?
モー娘。白血病キャンペーンの理由が明らかに!“──

そこには病院内を歩いている吉澤の姿がはっきり写っていた。
メンバーたちの活動を快く思っていない事務所側も
この報道を抑えることはしなかった。

そしてワイドショーではすでにそのことについて報道されていた。
吉澤を助けるためのメンバーたちの活動だったのだろうか。
個人のために公共の電波や機関をつかってキャンペーンを展開していたのではないのか?
芸能人だから。有名人だから許されると思っているのか?
そんな疑いがメンバーたちに襲い掛かる。
546名無し娘。:02/05/13 09:27 ID:yIRjhwrX

コメンテーターの間では、キャンペーン自体は悪いことではないが、
動機がけしからんという論調がすでに流れていた。
安倍の恐れていたことが現実となってしまった。

「なっち、どうしよう」
飯田が不安げに安倍にたずねる。
「こまったなあ」
安倍も困り果てていた。

「ごっちん……。私たち悪くないよね」
石川は後藤に尋ねる。
「そうだよ。このコメンテーターの人おかしいよ。なにも分かってないんだ」
悔しげに後藤がつぶやく。

石川も後藤もどうすればいいか分からなかった。
もともとは自分たちが言い出したこと。
そしてメインは自分たちがやっている。
決して悪いことをしているわけではない。きっかけは吉澤の病気だったが、
いまは白血病患者のために活動している。

私たちがどれだけ悩んだか分かってるの?
どれだけ自分を犠牲にして活動してきたか知ってるの?

メンバーたちはそんな報道が許せなかった。そして悔しかった。
547名無し娘。:02/05/13 09:28 ID:yIRjhwrX

「今日は裏口から出てください。報道陣がすごい数ですから」
マネージャがメンバーたちにそう告げる。
「なんで?私たちはコソコソしないといけないようなことはしてない!」
後藤は叫んだ。
「でも、今はそういうわけにいかないから」
マネージャは後藤をなだめる。
「なんで?私たちが悪いの?」
後藤は納得しない。マネージャに向かって悪態をつく。
彼女もマネージャに言ってもどうしようもないことは分かっていた。
でも、もてあます悔しさをぶつけたかった。

「ごっちん!気にするな。なんとかなるって。今日はマネージャの言うとおりにしようよ」
新垣、加護と話していた矢口は後藤に向かって言った。
「分かった」
矢口の言葉に後藤はしぶしぶと頷く。そして不機嫌そうに楽屋をでた。
そしてメンバーたちも悔しい思いをこらえながら、後藤の後に続いた。

548名無し娘。:02/05/13 09:34 ID:yIRjhwrX

「なっち、ちょっと話があるんだけど」
矢口が帰ろうとする安倍をひきとめる。
「なに?」
安倍は不思議そうな顔をする。

「ちょっと計画があってさ。キャンペーンの。一応なっちが中心じゃん?話通しとこうと思って」
「なによ?」
「いや、詳しいことはいえないんだけど、キャンペーンにはいいことだと思うんだ。
でも、もう後には引けなくなるけど、いい?」
「なんか、なっちよくわかんないんだけどさ、まりっぺが良いと思うならついてくよ」
安倍は矢口の真剣な表情をみて大きなことをしようと思っていることが分かった。

「うん、それならいいんだ」
矢口はホッとした表情を見せる。
「じゃあ、また計画が動き出したら言うね。協力してもらわないといけないから」
「あ、うん」
矢口と安倍はそんな会話をしながら楽屋をでた。
549名無し娘。:02/05/13 09:35 ID:yIRjhwrX

メンバーたちは報道陣を避けるようにしておのおの家路についた。
帰りのタクシーの中、矢口は新垣に電話をかける。

「お豆ちゃん、お父さんに連絡してくれた?」
「はい、おそらく数日以内にセットアップできると思います」
「たのむね。いまから、私あの人に会いに行くから」
「わかりました。すでにアポイントは取れてますので大丈夫です」

矢口はグッと唇をかみ締める。緊張が彼女を包む。

矢口は吉澤が入院して以来、
決して楽屋やテレビラジオ等で暗い表情を見せなかった。
あくまでも元気で明るいのがモーニング娘。そう思っていた。
落ち込んでいる石川に責められたときでも、決して自分の信念を曲げなかった。

しかし、それは吉澤のことを考えてないということではない。
吉澤は彼女にとって教育係として指導してきた人間である。
自分も追加メンバーとして入ってきて、さまざまな苦労をしてきた。
それをできるだけさせないようにと、人一倍気を使っていたのが矢口であった。

550名無し娘。:02/05/13 09:36 ID:yIRjhwrX

それゆえ彼女は必死になってテレビ、ラジオをつかってキャンペーンを告知した。
厚生労働省や骨髄バンクの協賛を得られて、だいぶ軌道に乗ってきている。
しかし、それだけでは足りないと彼女は思っていた。

もっと大きな影響力を。もっと大きなうねりを。

そして、あの、写真週刊誌の報道。
ここでこの活動を終わらせるわけには行かない。
なんとかして報道を抑えなくてはならない。
矢口は再びぎゅっと唇をかみ締める。

タクシーは目的地につく。運転手にお金を払うと、
矢口は、緊張で震える足で大きなビルへと入っていった。
551名無し娘。:02/05/13 09:37 ID:yIRjhwrX
今日の更新は以上です。
552ほぜむ:02/05/13 22:33 ID:omDQA8kI
ヲヲヲ!ついに○ッ○○でも動かすんか? 後戻りできないって?
ここんとこ毎日朝が楽しみれすね〜
553名無し娘。 :02/05/14 19:00 ID:qexmGl4k
ネタにけちつけるわけじゃないけどミニモニ。≠セから。
554名無し募集中。。。:02/05/14 20:29 ID:IbrPsqs8
復活する
555名無し娘。:02/05/15 11:43 ID:rlA8ojfo
>>552
お読みいただいて嬉しいです。この後の更新で。
>>553
申し訳。
>>554
辻と後藤スレは狩で復活してます。と、久々にスレタイに沿った発言をしてみるテスト。
556名無し娘。:02/05/15 11:44 ID:rlA8ojfo

矢口は受付から会長室へ通される。
そこには某新聞社の会長が悠然と座っていた。
プロ野球を仕切っていることで有名な会長である。
彼女は前もって新垣の父親経由でアポイントをとっていたのである。

「ご無沙汰いたしております、矢口です」
「おお、久しぶりだな。番組なくなってしまって悪いことをしたが、
これからは特番を頼むからよろしくな」
会長は悠然と話し始める。
「今日は例のキャンペーンの件でお願いがあってきたのですけど」
矢口はキャンペーンをこの新聞社系列のマスコミを中心として展開しようと考えていた。
テレビ局、新聞社をあげで活動すればかなりの効果があるはず。そう考えていたのであった。
「ああ、白血病のやつか。うちとしてもあれを活用しようと思っていたところだ」
意外な答えに矢口は驚く。
557名無し娘。:02/05/15 11:46 ID:rlA8ojfo

「え?ということは?」
「24時間テレビの出演依頼をしているそうだ。そこでキャンペーンを活用しようと
考えているらしい。詳しくはプロデューサーから説明させる」
そう言って彼は秘書に電話をさせる。
「ただ、吉澤が白血病と言うことがばれてしまったのですが……」
矢口は不安そうに尋ねる。

「心配するな。あの人が影で動いてくれているんだろ。マスコミの報道は
ウチが抑えるから。それにあのキャンペーンは社運を賭けてやるいきごみだからな」
「有難うございます」
「まあ、詳しいことは例の会談でだ」
「わかりました。お時間録らせてすみませんでした」
矢口は深々と頭を下げると、会長室を後にした。

彼女はふぅっと大きなため息をつく。まだ緊張で足が震えていた。
プロデューサーがやってくる。彼女は彼とともに別室でしばらく話し合いをしていた。

558名無し娘。:02/05/15 11:47 ID:rlA8ojfo

数日後、東京赤坂のとある高級料亭。
矢口につれられて安倍と加護はそのなかの1室に入っていった。
「なんかすごいところだけど……」
「なんか、めっちゃ緊張する……」
二人は矢口に聞かされていた会談のメンバーを思い出して、
緊張で震えていた。
「なんでウチもここにいるんですか?」
不安そうな顔をして加護が言う。
「うーん、まあ、機嫌取りかな?あの人が一番怖そうだし」
矢口は笑いながら言った。
「確かに……、うわ、めっちゃ緊張するわ……」
加護は安倍の腕にしがみついた。

559名無し娘。:02/05/15 11:57 ID:rlA8ojfo

しばらくして新垣の父親より紹介のあった、現在総理大臣を務める大物政治家と、
矢口と会った某新聞社会長、そしてタカ派で有名な国民的に人気の高い某知事の3人が現れた。
他に某テレビ局の社長と先日陳情した議員のほかに何人かの政治関係者がいる。

その圧倒的な存在感に3人は萎縮しながらも、持ち前の気の強さでグッとそれを
飲み込んでいた。

彼らは年に何度か日本の国政について話し合いの場をもつという。
その席に彼女たちも参加させてもらうように、矢口は新垣を使って仕向けたのである。

「いつもみてるよ。がんばってるね。こんな小さい娘が。えらいね」
大物政治家が微笑みながら言う。
「この前、テレビの番組で来たときは、どうしようもないねーちゃんと思ったんだが、
なかなか、しっかりしたことをやるじゃないか」
某知事が話す。それを見て、矢口が加護の腕をつつく。

はっと顔を上げ加護がお銚子をもって彼の前へたつ。
「まあ、先生。おひとつどうぞ」
「おお、気が利くな。中学生にお酌させたらつかまってしまうな」
某知事はお気に入りのメンバーから注いでもらった酒を一息で飲む。
それをみて加護がまたお酌をする。
しばらく、世間話や政治の話に花が咲く。会長も、知事も機嫌がいい。
もちろん自分たちのお気に入りのメンバーがいるからであろう。
しかし、彼女たちは緊張のあまり、出された豪勢な料理に殆ど手をつけず、
その話を聞いていた。

560名無し娘。:02/05/15 11:59 ID:rlA8ojfo

「それで、今回彼女たちが来たのは、例のキャンペーンの件なんだが」
某新聞社会長が本題を切り出す。
「は、はい。そうなんです」
矢口が緊張しながら答える。
それをみて、矢口がお気に入りの某会長は助け舟をだす。

「今、各種のスキャンダルで支持率が低下している。抵抗勢力のスキャンダルだけなら
いいのだが、盟友関係の政治家のスキャンダルもあって彼も大変なところだ。
ここで国民にアピールできることをしなければならんと思うのだ。
そう、ハンセン病の問題を解決したときのように。
そこで彼女たちのキャンペーンを利用してはどうだろうか」
某新聞社会長が続ける。

「なるほど。かなり大きな動きになっていることはすでに知っている。
こちらもそのあたりは考えている。ドナー保護法については草案がまとまったところだ。
次の国会までに提出する予定だ」
大物政治家が3人に微笑む。
「有難うございます」
561名無し娘。:02/05/15 12:00 ID:rlA8ojfo

「とりあえず、その他の医療関係の法案も全て通すことを考えている。
このキャンペーンを通じて、私たちといっしょにやってくれないだろうか」

3人は大物政治家の直接の依頼に驚く。
私たちの活動が、国を動かしている。
緊張が彼女たちの体を走る。

「はい、喜んで協力させていただきます」
震える声で3人は答えた。

それを聞いて大物政治家は大きく頷く。場が和やかになる。

「でも、いまこの活動についてバッシングが始まっているんです」
暫くして間を計っていた安倍は不安そうに答える。

「そうらしいな。そうなると我が党としても困るんだ」
「吉澤って娘の病気の件だろ?それぐらい会長がなんとかしてくれるだろ」
某知事が笑いながら言う。
「視聴者にどうやって訴えるかだな。彼女の病気の公表に付いて」
某会長は真剣な表情で答える
「え?公表するんですか?」
安倍は驚いたように答える。

「あるプロデューサーによるといいアイデアがあるそうだ」
某新聞社会長は、系列のテレビ局社長に目配せをした。
「協力よろしく」
彼はそう答え、矢口をみる。
矢口は小さく頷いた。
562名無し娘。:02/05/15 12:01 ID:rlA8ojfo

先に3人は料亭を去る。この後は今後の政局運営についての
話し合いがあるからとのことだった。
安倍は帰り道矢口に尋ねる
「すごいおおごとになってきたよ」
「これぐらいやらなきゃだめだよ。時間はないんだ」
「で、でも国を動かすなんて……」
「もとはといえば、なっちが言い出したんだよ」
矢口は意地悪そうに言った。
安倍は自分が国会議員への陳情をすることを言い出したことを思い出す。

「そうだけど……」
「もう後戻りはできないよ。向こうもメリットがあるんだし、ギブアンドテイクだよ。
政治の世界ってそんなもんじゃないの?」
矢口は安倍に笑いながらいった。
「安倍さん、あんまり深いこと考えんほうがええと思いますよ」
横で聞いていた加護が言う。
「うん……」
安倍は頷いた。
やらなくちゃいけない。
吉澤の骨髄をなんとかして見つけないといけない。
そのためにはこの方法が一番良いんだ。
3人はまだ覚めやらぬ興奮と緊張の中で、家路についた。

563名無し娘。:02/05/15 12:09 ID:rlA8ojfo

それから暫くしてバッシングの報道は全くなくなった。
そして、事務所側もキャンペーンに対して協力的な態度をとる。

テレビ局側もいくつかの医療関係の特別番組に彼女たちをゲストとして呼ぶ。
新聞では彼女たちの取り組みの連載がスタートする。

石川と後藤はそんな周りの変化にすこし戸惑っていた。
「なんか、急に報道が収まったね」
石川が後藤に向かって言う。
「そだね。なんでだろ」
「まあ、どうでもいいじゃん。そんなことより、これから忙しくなるぞー」
矢口が不思議そうに話をしている二人に向かっていった。
そんな姿をさらに不思議そうに眺めている石川の携帯に1通のメールが入る。

「誰から?」
後藤が尋ねる
「よっすぃー。なんか会って相談したいんだって。私とごっちんに」
「なんだろう?珍しいね。自分から会いたいだなんて」

それを見て矢口は何かを察する。
「二人とも行きなよ。何があっても説得すること」
「説得?なんか知ってるんですか?」
石川が驚いたように言う。
「い、いや、なんでもないけど、とりあえずね」
慌ててわけのわからない言い訳を矢口はした。

二人はそんな矢口の態度をおかしいと思いながらも、
それ以上聞くこともなく仕事が終わった後、病院へと向かった。


564名無し娘。:02/05/15 12:13 ID:rlA8ojfo
今日の更新は以上です。
関係ないですが、飼育でずっと読んでた作品が完結しました。
565名無し募集中。。。:02/05/15 16:29 ID:OoEO0Oit
野暮なツッコミで申し訳ないけど…
このプロ野球界に大きな影響力を持つとされる
某新聞社の会長ってのは今も社長。
もうすぐ代表取締役主筆(だったと思う)になるそうだけど。
会長になったのはこの新聞社の系列のテレビ局の社長だね。
民放連の会長も務めてるよ。
細かい事スマソ
566子音:02/05/15 16:45 ID:bJPiZeB+
コテハンレス、スマソ。
この前はどうも。
自分の方、片付いたので一気に読破しました。
いやぁ〜、全然おもしろいッス。
やっぱり痛い系は堪らない…。
僕なんて足元にも及ばないですよ。
これからも追い続けていくので、がんがってください。
機会があればまた是非某所で…。
567名無し娘。:02/05/16 15:23 ID:E1cwPMcY
>>565
ご指摘のとおりです。もう変える訳にいかないので会長のままで通します。
申し訳。
>>566
完結お疲れ様です。
すでに名無しレスさせてもらってます(w
お読みいただき有難う御座います。
また是非某所で。
568名無し娘。:02/05/16 15:24 ID:E1cwPMcY

吉澤の元に某新聞社会長の系列のテレビ局から、24時間テレビに
生出演もしくは、病室から中継できないかどうかという事がかかれていた。
そして自分の口から白血病の事実を公表するということだった。

これは矢口とプロデューサーとの相談で、二人が考えついたアイデアだった。
キャンペーンに関するバッシングはマスコミ側が抑えている。
これ以上叩かれることはないし、今後もそのような報道はさせない。
それならいっそのこと入院以来テレビに出ていない本人を出演させて、
病気の公表とドナー登録に関する訴えをしてもらえば、インパクトがある。
そう考えていた。

しかし、そのことを知らない吉澤は悩んでいた。
体調的には病院側は別に問題はないとの回答であった。
しかし、本当に出演し、公表していいものだろうか彼女には分からなかった。
はたして、ファンの人たちはまだ自分を待ってくれているのだろうか。
昔の健康的なイメージからは程遠い。自分のこの変わり果てた姿を、
世間に晒してしまっていいのだろうか。
そして白血病ということを公表して、これからどうやって芸能活動をしたらいいのだろうか。

いくらかんがえても答えが出てこなかった。
そして彼女は、初めて自分から石川と後藤をを呼んで相談することに決めたのであった。

569名無し娘。:02/05/16 15:25 ID:E1cwPMcY

仕事を終えた後藤と石川は病室へとやってくる。
前と変わらない風景。また季節が変わっている。
そして、前に涙したことを思い出す。

「泣いたよね」
「うん」
彼女たちはあの日の吉澤を思い出す。変わり果てた姿。死に怯えた表情。
そして、頑なに自分の殻に閉じこもりながら必死で恐怖に耐える姿。
あれからメールではやり取りしているが、一体どんな姿なんだろう。
少しの不安が二人を包む。

「さあ、入ろうか」
ドアの前で躊躇している石川に、後藤はそう言ってドアを開けた。

「久しぶり」
吉澤はベッドの上に座り、柔和な表情で2人を迎え入れた。
体調の良くなった吉澤は少しだけ体重がもどり、
髪の毛も少しづつ生え、そしてなによりも、
以前のようなとげとげしい表情がそこには無かった。

良かった──

2人の表情にも笑顔がこぼれる。
570名無し娘。:02/05/16 15:26 ID:E1cwPMcY

「で?今日はどうしたの?めずらしいよね、自分から呼ぶなんて」
石川が不思議そうな顔で吉澤に尋ねる。
「うん、ごめんね、忙しいのに。どうしても2人に相談したいことがあって」
「いや、いいよ。なんか大事な相談みたいだね、なに?」
後藤が少し真剣な表情をする。

「実は私、24時間テレビに出演しないかというオファーがあるんだ」
「えー、すごいじゃん」
石川が嬉しそうに言う。
「復帰第1段ってわけ?」
後藤も嬉しそうな笑顔をみせる。

よっすぃーが、私たちの世界に戻ってくる──

二人は純粋にそのことが嬉しかった。

「でも、その席で白血病ってことを公表するんだ。この前の週刊誌の報道以来、
世間の人はどんな病気か気になってるだろうし」
「それはいい考えだよ。やっぱり自分で言った方が良いよ」
石川が答える。
「でもほら、髪の毛も短いし、大分痩せちゃったじゃん。ファンの人たちとか、
引いちゃわないかなって」
吉澤は、自分の外見が昔の健康的なイメージから程遠くなってしまっていること
を気にしていた。たしかに彼女は、以前よりはマシになったとはいえ、
薄くはえた髪の毛と、やせこけた頬のせいで大分外観が変わっていた。

「うーん、それはそうだけど、世間的には白血病の治療に耐えて頑張っている女性
っていうイメージになるんじゃないかな?
それに、週刊誌のせいで、ある程度みんな予想はしてると思うよ」
石川はそう答える。あの報道以来、吉澤はすでに白血病患者である
イメージが付き始めていた。もちろん、世間の人は彼女の変化は知らない。
しかし、ある程度の想像はついているだろうと考えていた。
571名無し娘。:02/05/16 15:33 ID:E1cwPMcY

「それに、副作用でやせたり、髪の毛が抜けても、それを堂々と、
公表するってすばらしいことだと思う。きっと、他の副作用で悩んでいる人たちに、
ものすごく、勇気を与えると思うよ」
後藤はそれに加えて、副作用に悩むほかの患者たちの励みになるのではないかと考えていた。
患者たちは、きっと副作用によって変わり果てた自分の姿に悩んでるはず。
それを芸能人である、吉澤が世間に堂々と公表することで、
副作用による変化は決して恥ずかしいことではないんだということを
世間にアピールできたらすばらしいことではないか、と思っていた。

「よっすいー。またとないチャンスだよ。やろうよ」
2人は心から吉澤の出演を期待していた。こんなにインパクトがあり、
そして、白血病患者たちへのプラス効果も大きい。
なによりも、自分たちの世界に吉澤が帰ってきてくれる。

572名無し娘。:02/05/16 15:36 ID:E1cwPMcY

しかし吉澤は悩みつづけていた。
はたして、私の復帰を願っているファンがいるのだろうか。
私がこんな体でテレビに出て、かえって絶望感をふやさないのだろうか。
もっと体調が良くなって、外見も良くなってからのほうがいいのではないだろうか。
それに、まだ芸能界という世界に戻る自信も無い。華やかな世界にはとても似付かない
自分の姿。そんな気持ちでオファーを受ける気にならないでいた。

「大丈夫。よっすぃーはモーニング娘。のメンバーなんだよ。一人じゃないんだ」
石川が言う。
「え?」
「そうだよ。ファンもきっと待っているはず。それに、なによりも私たちが一番待ってるんだ」
後藤が目を輝かせる。
「出よう。私たちと一緒に!」
2人はそう吉澤にいった。

吉澤はそんな二人の気持ちが嬉しかった。85年トリオでいつも一緒にいた仲間である。
彼女たちと一緒にテレビに出れる。彼女たちの世界に戻ることが出来る。
もう孤独じゃないんだ。みんなと一緒なんだ。
そんな思いが彼女の胸に込み上げる。

「分かった、オファーを受けるよ」
「うん!」

吉澤は2人と熱く握手を交わす。それは病人に対してのそれではなく、
同じ芸能人として、そして親友としてのそれであった。

二人のそんな気持ちが吉澤の心を熱くした。
573名無し娘。:02/05/16 15:37 ID:E1cwPMcY
今日の更新は以上です。
574名無し募集中。。。:02/05/16 21:29 ID:Q9Tgto7V
よすぃこ…
575名無し娘。:02/05/17 11:22 ID:J4/KZls5

24時間テレビは今回、いつもの愛は地球を救うというタイトル以外に、
愛は白血病の娘。も救うというサブタイトルがついており、
モーニング娘。のキャンペーン活動を前面に押し出した番組スタイル
となっていた。重大発表があるとの告知がなされ、
もしかしたら吉澤の病室中継があるかもしれないという噂は
業界内、インターネット内でもささやかれ、かなりの注目が集まっていた。

24時間テレビ当日となる。スタジオには沢山の観客がいる。
番組は滞りなく進行していき、メンバーたちはそれぞれの役割をこなしていく。
残念ながら後藤は局側の意向で病室の中継には参加できなかった。
やはり、会場には後藤が必要とのプロデューサーの判断だった。
後藤は少し落ち込んでいたが、それを表情に出すことも無かった。
576名無し娘。:02/05/17 11:23 ID:J4/KZls5

病室では吉澤と石川がスタンバイしていた。
スタッフたちがあわただしく準備をしている。
すでに時間は、中継が始まる10分ほど前になっていた。

「梨華ちゃん、どうしよう。もうすぐ本番だよ」
吉澤は、まるでデビューしたての時の緊張を感じていた。
体もやせて、髪の毛もまだ短い。それに大分長いことブラウン管から遠ざかっている。
自分をファンや視聴者の人たちは受け入れてくれるのだろうか。

怖い──

でも、その怖さは自分が病気の告知を受けたときとはまた違ったものであり、
少しだけ、高揚感のあるものでもあった。




「大丈夫。みんな、よっすぃーを待ってるんだよ」
石川はそういって吉澤の手を握る。

嬉しい。
ホントにそう思う。やっと、戻ってきてくれた。
苦しい治療、そして、心の葛藤に耐えて戻ってきてくれた。
これが彼女の復帰への第1歩なんだ。
石川は心の底からそう思っていた。

「本番、入りまーす。5秒前、4、3、2」
ADから、キューがはいる。
そして、カメラのランプが灯った。

吉澤はキュッと唇をかみ締めた。
577名無し娘。:02/05/17 11:24 ID:J4/KZls5

その頃、スタジオでは女性アナが進行をしていた。

「さて、モーニング娘。は今、白血病の娘。を救えということで、
骨髄バンクに登録される方を募っているわけですが」
「そうなんです。皆さんもご存知のとおり、私たちは骨髄移植のドナーの数をふやすために、
いろいろと活動しております」
飯田がリーダーとして答える。

「そうですか。私もニュースで知ってます」
徳光アナが相槌をうつ。
「日本には何千人もの人たちが骨髄移植を待っているんです。
患者たちの命を救えるのは、ドナーの皆さんだけなんです。
そのために、私たちは、皆さんにドナー登録をしていただきたいんです」
矢口が骨髄バンクの連絡先を書いたフリップをだす。

「私たちは、その他にもドナー登録者の権利を保護するために、国に
ドナー保護法案を制定してもらう活動もはじめております」
安倍が続けた。
「この法案は、もうすぐ国会に提出されるんですよね」
「そうなんです。国民の皆様の理解をお願いします」

「他にも、さまざまな病気で苦しんでいる人たちがいます。骨髄だけじゃなく、
心臓、肝臓、腎臓、ほかにもいろいろあります。脳死移植は軌道に乗り始めた
ところですが、やはり今の日本のシステムでは満足に機能できません」
「現実に日本での移植をあきらめて海外へわたる患者さんも多いとか」
「そうですね。あとは生体肝移植とか、ドナーの方にかなり大きな負担を強いる
治療を行わざるを得ないという現状です。このあたりは今後の課題として
考えていきたいと思ってます」

「さて、辻さんと加護さんは白血病患者に直接あってお話されてるとか」
「そうなんです。わたしもはじめはよく知らなかったんですが、
白血病の治療は苦しいものなんです。それに患者さんは孤独に耐えながら
闘ってます。私たちがその孤独を少しでも和らげてあげられたらいいなと思ってます」

アナウンサーとメンバーたちのキャンペーンに関する会話が続く。

578名無し娘。:02/05/17 11:26 ID:J4/KZls5

「あ、ここで吉澤さんと中継がつながっているそうです」
暫くして間を計ったかのように、女子アナウンサーが言った。
それを聞いて会場内は大きなどよめきに包まれる。

「吉澤さんは、いま都内の病院に入院されてます。
今日は皆様にお話したいことがあるそうです。メンバーの皆さんは聞いてますか?」
どよめきが少しおさまったのを見計らって彼女は続けた。

「はい。まだ、体調は良くないのですが、どうしても視聴者の皆様にお伝えしたいことがあるそうです。病室のよっすぃー!」
後藤はそう叫んだ。吉澤にバトンを渡すことが出来ることを嬉しく思った。
出来ればそばにいてあげたかった。でもそれが出来ない。だから私はスタジオから
一生懸命貴方を見つめる。後藤はモニタに映る病室の映像をじっと見つめた。

会場内の大画面テレビの画面が切り替わる。吉澤のやつれた姿が映し出される。

再び会場内がどよめく──

久しぶりの吉澤の変わった姿をみて、驚きの声があがったのであった。
579名無し娘。:02/05/17 11:32 ID:J4/KZls5

「こんばんは。吉澤です。みなさん、そして徳光さんお久しぶりです」
吉澤は画面に向かって手を振りながら、すこし震える声で第1声をあげた。

「こんばんは。体調はいかがですか?」
徳光アナが問い掛ける。
「今日は大分いいみたいです。今日はこのような機会をいただいて、大変感謝してます」

病室の小さいモニタに自分の姿が映っている。
前までこれがこんなに嬉しいこととは思わなかった。
もう戻れないと思っていた。
でも、今日やっと戻れたんだ。

「それで、今日は何かお伝えしたいことがあるとか」
女性アナがスタジオから呼びかける。
「はい。皆さんには突然の入院、そしてさまざまな報道でご心配をおかけしました。
それで、今回自分の病状について、自分でお話しようかと」
吉澤は緊張に震えながら語り始めた。
580名無し娘。:02/05/17 11:33 ID:J4/KZls5

「私の病気は、白血病です」
吉澤はゆっくりと話しはじめる。

会場内からため息が漏れる。ある程度予想はされていたこと
ではあったが、実際に本人の告白となるとその衝撃は大きいものだった。

「そうなんですか。入院してからどのような感じだったのですか?」
そのざわめきが収まるのを待って、女性アナが質問する。

「はい。実は、本当のことを言うと毎日が死との恐怖との闘いでした。
抗がん剤の治療はかなりつらくて、毎日が苦しかったです。
今はお薬も効いており、体調は大分良いのですが」

「なるほど、それで、いまメンバーたちのキャンペーンについては?」
「はい、実は私も骨髄移植の適合者がいないのです。それを聞いたとき、
もう絶対治ることはないんだと、本当に絶望の中にいました。かなり、
精神的にもまいっていて、メンバーたちにも辛く当たってしまったこともあります。
でも、このキャンペーンは私のためにではなく、白血病患者全体、そして社会全体のための
活動だと思ってます。でも、メンバーたちのその活動が、私を本当に助けてようと
してくれています。そして私はそのおかげでこうやって、希望のもてる環境に
いることが出来るようになりました」
吉澤はメンバーたちへの感謝の気持ちを、自分の言葉で語る。

581名無し娘。:02/05/17 11:37 ID:J4/KZls5

「そうですか。何かファンの皆さんになにかありますか?」
女性アナが問いかけを続ける。
「皆さんの気持ちは本当にありがたいと思ってます。とくにファンの皆様には、
様々な応援等をいただきまして感謝してます。そして、ドナー登録していただいた皆様へ
の感謝の気持ちは言葉では表しようがありません。命をわけてくださるわけですから、
そのことにたいして、何かしらの恩返しができたらなと思っております。
そして、私も同じ白血病で苦しんでいる一人として、このキャンペーン活動に協力していこうと思っております」

吉澤は最後の言葉を心をこめて言った。
本当にメンバーや、ファンの人、そしてドナー登録に協力してくれた人たちのおかげで、
こうやって戻ってくることが出来た。感謝の気持ちは言葉では表せつくせない。

「有難うございました。それでは、石川さん、お願いします」
女性アナは吉澤の横にいる石川に話を振る。
「彼女は辛い抗がん剤の治療に耐えてきました。でも彼女は弱音を吐かず、
辛い治療に耐えてきました。でも、ココで骨髄移植が出来なければ、
また、同じことの繰り返しになります。是非、皆さんご協力ください」

石川は少しの緊張の中、締めの言葉を言った。少しだけ目頭が熱くなる。
吉澤が帰ってきた。とうとう帰ってきた。その気持ちで一杯だった。

「はい、オッケーです。15分後コマーシャルの前に一旦
こちらの映像が流れますのでお願いします」
ADが収録の終わりを告げた。

582名無し娘。:02/05/17 11:41 ID:J4/KZls5

スタジオにいる後藤は、吉澤が無事出演出来たことが嬉しかった。
もうすぐだ。もうすぐココに帰ってくる。骨髄移植の適合者さえいれば、
元の吉澤が帰ってくるんだ。そう心の中でつぶやいていた。

会場内のどよめきと吉澤コールがつづく。
後藤はふと我に返る。
そうだ、私だけじゃない。みんなが吉澤の復帰を待っているんだ。
まだ、闘いは終わりじゃない。これからなんだ。みんなで闘うんだ。
涙を流している徳光の横で、後藤も同じ様に泣いていた。

メンバーたち全員が、心から吉澤の復活を信じていた。

583名無し娘。:02/05/17 11:41 ID:J4/KZls5

病室の吉澤は終了の合図と共に大きなため息をついた。
無事終った。
果たして視聴者やファンの反応はどうだったんだろう。私を受け入れてくれるのだろうか。
いまだ不安で一杯だった。

モニタには会場内の様子が流れている。
会場内は吉澤コールが流れている。

嬉しい──

いままでこんなに嬉しい声援があっただろうか。
徳光さんが泣いてしまっているようだ。なつかしさがこみ上げる。
昔一緒に番組をやってたときは、よく泣くひとだなあとしか思っていなかった。
でも、こうやって自分のことに
涙してくれているのをみると、なにか胸が熱くなった。

「ごっちんもないてるよぉ。みんな泣いてるよぉ。
うれしいよぉ、うれしいよぉ。よっすぃーが帰ってきたよぉ」
うわごとのように石川がつぶやいている。
吉澤のそばで手を握りながら、石川も泣いていた。

吉澤はみんなの気持ちが嬉しかった。弱音を吐くわけには行かない。
みんなが私を待っているんだ。私は負けない。闘うんだ。

一人じゃない。みんなと一緒に──

グッと彼女の心に力が湧いてきたような気がしていた。

584名無し娘。:02/05/17 11:43 ID:J4/KZls5
今日の更新は以上です。
>>574
お読みいただき有難う御座います。
585名無し娘。 :02/05/17 17:26 ID:aj76/HDt
毒光の涙のみが余計だった。たんにアンチだからそう感じるのかもしれない。
586名無し娘。 :02/05/17 20:44 ID:nwnaMUlE
後藤の表情がリアルに感じてぐっときた。
587 :02/05/18 20:43 ID:VCiKvP0t
今日は更新ないのね保全。
588名無し娘。 :02/05/19 12:54 ID:vCtJAE+w
だいぶ下がっているので保全。
589名無し法善寺:02/05/20 01:30 ID:Y69z+xXL
毒光嫌いだけど、24時間TVなら多分出てくるだろうし、
こういう場面ならあいつが泣かないのも不自然だし・・・
590名無し娘。:02/05/20 11:29 ID:bV7hf2mt
>>586
有難う御座います。嬉しいです。
>>585,9
毒光はアンチ多いですねえ。申し訳。
>>587、8
保全有難う御座います。
591名無し娘。:02/05/20 11:30 ID:bV7hf2mt

24時間テレビは高視聴率であった。特に吉澤の出演した時間は瞬間最高視聴率をマーク
していた。ファンの間にも吉澤の復帰を待望する声が高まる。

それから数日後、後藤と保田、小川の3人は振り付けの練習をしていた。
プッチモニの新曲のリリースが近づいていたのである。

「小川、そこもっと腕を伸ばして!」
保田の厳しい檄が飛ぶ。

小川はプッチの激しいダンスに苦労していた。
さらに人気のある吉澤の代わりということもあり、
プレッシャーが小川を押しつぶす。

ふと小川の動きがとまる。音楽は流れているのに。

「小川、どうしたの」
「……私、自信がありません……」
小川はうつむき、肩で息をしながら答えた。
体がカクカクと振るえている。

いくらやっても先輩に追いつけない。吉澤の代わりなんて勤まらない。
特に24時間テレビでの、吉澤の中継をスタジオで眺めていた彼女は、
会場内の吉澤への声援、そして画面から伝わる吉澤のオーラに圧倒されていた。
絶対無理、私はあんなふうにはなれないんだ、そう思っていた。

592名無し娘。:02/05/20 11:32 ID:bV7hf2mt

保田は小川を睨む
「プッチはね、やる気のない奴はいらないの。吉澤も加入当初は死ぬ思いで練習してたのよ」
保田は吉澤の加入時の頃を思い出していた。必死に追いつこうと思って深夜まで
彼女は練習していた。そして、ふとテレビ越しにみた変わり果てた彼女の姿を思い出す。
彼女がこの場にいたらどうしていただろうか。
「小川、練習しようよ。吉澤も悲しむよ」

小川はなにもいえなかった。ポタッとダンススタジオの床に涙が落ちる。

「まあ、圭ちゃん。まこっちゃんも疲れてるんだって。今日は終わりしよ」
後藤が小川が泣いているのをみて言った。
「まあ、後藤がそういうなら……」
保田はそういうと少しため息をつき、タオルを首にかけ、椅子に座った。

小川は泣いたままだった。後藤がそっと小川の肩に手を乗せる。

「最初だもんね。仕方がないよ。そのうち出来るようになる。がんばろうね」
小川の肩が震えている。後藤には彼女のプレッシャーが分かっていた。
吉澤の変わりなんて勤まるのだろうか、もし失敗したら、ライブで罵声を浴びてしまったら、
そう思うと夜も眠れないだろう。後藤自身も加入当初、初めてのライブで
不安でたまらなく、泣き出してしまったことを思い出していた。

593名無し娘。:02/05/20 11:32 ID:bV7hf2mt

「す、すみません……」
小川はそういうと、2人に頭を下げ、ダンススタジオから去っていた。

2人は複雑な気持ちでそれを見つめていた。
そして、吉澤がいないことが、これほどまでにプッチ、そして小川を追い詰めていたということがショックだった。

「吉澤がいてくれたらなあ」
保田は先行きへの不安に耐え切れなかった。
「圭ちゃん?」
「い、いや、ゴメン。なんでもない」
慌てて自分の台詞を打ち消す。
後藤はいつもしっかりしている保田の弱音に一抹の不安を感じた。
594名無し娘。:02/05/20 11:42 ID:bV7hf2mt

ドナー登録者保護法案の審議は着実に進んでいた。
しかし不景気に企業に負担を強いるこの法案を経済団体は快く思わなかった。
そのため国の負担と企業の負担をどれぐらいの割合にするかでもめていた。
メンバーたちはこの法案の成立のため必死でキャンペーンをする。

さらに、吉澤の病名の公表以後、メンバーたちの活動に同情ともとれる
世論の後押しができてくる。メンバーたちの吉澤そして、白血病患者を助けたいと
思う悲痛な叫びが、患者団体の同調を促し、
社会全体でこの法案の早期可決を求める声があがる。
さらには骨髄だけでなく、移植医療関連すべてに
おけるシステムの整備をもとめる声が強くなっていった。

安倍、矢口を中心としたメンバーたちは各種のCM提携先の企業にお願いに回る。
登録法案への理解を、そして経済団体への働きかけを。

世論のバックもあって、各企業はが相次いで独自に社員におけるドナー登録保護の
システムを整備しはじめる。
そのことを、某会長系列のマスコミが中心となって、
各企業の取り組みが紹介される。世論がそれを賞賛するようになる。
さらには負担を増やしたくない国側からの圧力もかかる。
このためとうとう経済団体側も折れることとなった。

さらに彼女たちのキャンペーンの実際の活動の様子が
医療ルネッサンスという某新聞社の好評連載企画の続編として連載されるようになる。
これもまた矢口らの働きかけに応えた、新聞社会長の計らいであった。

595名無し娘。:02/05/20 11:43 ID:bV7hf2mt

その頃、吉澤の治療は着実に効果を上げていた。
病室に主治医がやってくる。
化学療法も終わり体調もかなり良くなっていた。

「じゃあ、今週末に退院しましょうか」
主治医が吉澤の前で言った。

「ホントですか?」
吉澤の表情に笑顔が溢れる。
「良かったじゃない!」母親は喜びに溢れは表情で吉澤を抱きしめた

嬉しい。復帰できるかもしれない。これからどうしよう。
体力作りをしなきゃ。いろいろな思いが吉澤の頭を駆け巡る。

「完全に治ったわけではないんですよ。はやく適合者が見つかるといいんですが。」
主治医はそういうと、病室を後にした。

吉澤は事務所に連絡を入れる。事務所内で歓声が上がるのが聞こえる。
マネージャーだけでなく、会長、社長も電話に出る。そして、嬉しそうに復帰を楽しみにしているといわれる。
吉澤は自分がまだ必要とされていることが嬉しかった。頑張ろう、絶対復帰するんだ。そう思いながら電話を置いた。

病室の窓から降り注ぐ日の光に気付く。
吉澤は、その光がこんなに気持ちいいものだということを久しぶりに思い出していた。

596名無し娘。:02/05/20 11:44 ID:bV7hf2mt

吉澤の退院の知らせは、すぐにメンバーたちに伝わった。
メンバーたちは御互いに抱き合い、喜びを分かち合う。
彼女がいなくなってかなりの時間が経っている。
メンバーたちはいつかは戻ってきてくれると信じていた。
そのことが現実味を帯びてくる。

「退院したよ!よっすぃーが退院したよ!」
石川は嬉しそうに叫んでいる。
「石川うるさいよ。みんな分かってるって」
矢口の顔にも笑顔がこぼれている。

メンバーたちは楽屋で嬉しそうに吉澤の話をしていた。
「あとはドナーがみつかれば言う事ないんだけどね」
後藤が少し不安げに呟く。
「大丈夫だよ。きっとみつかるよ」
石川はそう言った。そうしか考えられなかった。
「みつかる。そのために私たちも頑張ってるんだから。ね、ごっちん」
安倍はまだ少し不安げな表情の後藤の肩に手を置いて言った。

「そうだよね」
後藤は安倍にそういって微笑むと、よしっがんばろう、と小さく呟いた。

石川はめずらしく嬉しそうにはしゃいでいた。

とうとう帰って来た。
もうすぐ会える。一緒に働ける。
まだ完治はしてないけど大丈夫。
彼女の骨髄は私たちが見つけてみせる。
会いたい、早く会いたい──

彼女は今すぐにでも吉澤の所へ飛んで行きたいと思っていた。
597名無し娘。:02/05/20 11:45 ID:bV7hf2mt

喜びが楽屋全体を包んでいた。
しかし、独りだけ浮かない表情のメンバーがいた。

「あれ?小川は?」
保田が小川がいないのに気付く。
「え?さっきまでいましたけど」
高橋があたりを見回すが、彼女は楽屋にいなかった。
「まあ、トイレでも言ってるんじゃない?」
飯田も気にとめる様子はなかった。
ただ、保田の心の中に何か引っかかるものがあった。後藤もそれに気付く。

「圭ちゃん、ちょっとみてきたほうがいいかもね」

メンバーたちはキョトンとして2人のやりとりを見つめていた。
「そうだね。ちょっと、みてくるわ」
保田はそういうと、楽屋を出て小川を探した。
598名無し娘。:02/05/20 11:58 ID:bV7hf2mt

そのころ小川は屋上にいた。青い空を見つめながら手すりにもたれかかっている。
吉澤が退院した。それは嬉しいことだった。
小川はプッチモニの助っ人として参加している。だが、歌もダンスもついていけない。
保田も後藤も自分に気を使ってくれているのが痛いほど分かる。
そして自分でもやれるかどうか不安だった。

自分のせいで売上が落ちてしまったら、ライブでの声援がなかったら、
それを思うと怖くてたまらなかった。
私に吉澤さんの代わりなんて務まるわけがない。そう感じていた。

心の中で吉澤がプッチモニに帰ってくれると楽になれると思う反面、
プッチモニに参加でき、自分をアピールできるチャンスを逃してしまうという
恐怖が錯綜して頭の中が混乱していた。

「はぁ……、楽になりたいよ…」
小川は屋上の手すりから身を乗り出してみる。
このまま落ちてしまえば楽になるのかな、
そんなことをふと思ってみる。
599名無し娘。:02/05/20 11:59 ID:bV7hf2mt

「難しいよ……」
「なにが、難しいの?」

小川は驚いてその声の主の方向へ振り返った。
そこには保田がビル風に髪をなびかせながら立っていた。

「保田さん……」
小川はそういうと、保田から目をそらした。
保田の大きな目は睨みつけるように小川をみていた。その力強さに
小川は萎縮してしまっていた。

保田は彼女の複雑な心境が分かっていた。ただ、彼女はこのチャンスを小川に
つかんで欲しいと思っていた。それは自分がずっと目立てなくて苦労していた姿を
重ね合わせていたからだった。ただ、それをどうやって伝えたらいいかが分からなかった。
沈黙の中、二人の間を少し強いビル風が吹き抜けていく。

「あんた、まさか飛び降りようとしてないでしょうね」
しばらくして保田は口を開いた。
「い、いえ、めっそうもないです」
小川は一瞬だけ脳裏に浮かんだ考えを打ち消すように答える。

600名無し娘。:02/05/20 12:00 ID:bV7hf2mt

「私が言いたいのは小川は小川なんだということ。吉澤の代わりじゃないんだよ」
保田は小川にそういうと、少し微笑んで彼女の手つかむ。
それに驚いた小川はビクッと手を引っ込めようとした。
しかし保田はその手を強く握り離さなかった。

「吉澤の代わりを務めようなんて考えなくていい。自分の出来ることを表現したらいいの」
そういって小川の手をぐいっと引っ張って引き寄せた。

「さあ、戻ろう。本番が始まるよ」
保田はそういって小川の頭を軽く叩く。
小川は小さく頷いた。保田の心遣いが嬉しかった。
自分の悩みを分かってくれる先輩がいる。もう迷惑はかけれない。
小川は保田の手をギュッと握りかえした。
601名無し娘。:02/05/20 12:00 ID:bV7hf2mt

メンバーたちは吉澤が退院したことで、
いまだ見つからない骨髄移植の適合者のことを思い悩んでいた。
キャンペーンを始めてからどれぐらいの時間がたったのだろう。
もう吉澤の体調も、すでに骨髄移植はいつでもできる状態であった。

つらい治療に耐えて、寛解するまでがんばってくれた。
あとは適合者が見つかるだけなんだ。
そうすれば治るんだ。

何とかして見つけないと。早く、もっと早く。時間がない──

彼女たち、特に石川の焦り様は激しかった。

602名無し娘。:02/05/20 12:09 ID:bV7hf2mt

石川、後藤を中心としたライブ活動は
実際に骨髄移植のドナー登録を受け付ける場所として貴重な存在であり、
頻回に行われるようになっていた。
そして、辻と加護の患者慰問はかなり好評で、某新聞社もこの活動に力をいれており、
慰問が行われた後は必ず報道がなされていた。

ドナー登録者保護法の審議も順調に進んでいる。さらには各種医療関係の法案も、
これと抱き合わせるようにして審議が進んでいた。マスコミの報道も手伝って
世論がこの活動を後押ししていいた。

ハードなスケジュールの中、ライブを中心として活動する石川、後藤。
慰問キャンペーンを続けるミニモニ。そして安倍、飯田、矢口らを中心として
マスコミを使ったキャンペーンが続けられる。
メンバーたちは吉澤の骨髄が見つかることを信じて、疲れた体に鞭をうつように
活動していた。

603名無し娘。:02/05/20 12:10 ID:bV7hf2mt

しばらくして、吉澤のもとに事務所側から、テレビに出演再開できないかどうか、
との連絡があった。病院側も出演は問題ないとの判断だった。
また徐々にインパクトを失いつつあるキャンペーン活動に、新たな刺激を
与える意味で、某新聞社系列のマスコミから強い要望があったのもひとつである。

ダンスも歌も無理だが、テレビに出ることぐらいなら出来る。
心配してくれたファンのひとたち、そしてメンバーたちのためにも
出ることを決意した。

それを聞いた石川はふと今までの活動を思い出していた。

初めは小さな活動だった。いろいろとお願いをして何とか数十秒の電波をかりるのが
やっとだった。しかし今はどうだろう。頼みもしなくても向こうのほうから
取材がくる。そして社会全体を巻き込んだ活動になっている。

現在数万人の登録者の増加がある。
しかし、いまだ吉澤への適合者は見つからない。
みつかるんだろうか、みつからなかったらどうなるんだろうか。

「いけない、ポジティブ、ポジティブ」
石川はネガティブになりかけた気持ちを必死で抑える。
「どうしたの?」
そばにいた後藤が不思議そうな顔をする。
「あ、なんでもない。ちょっと考え事」
「ふーん。でもとうとうよっすぃーも帰ってくるね」
「うん。だから早く骨髄見つけないと」
「あー、はやくみつかんないかなぁ」
二人はそんなことを言いながら、収録へと向かう。

吉澤を再発の恐怖から救ってあげたい。命を救ってあげたい。
世論が動こうとも、社会を巻き込もうとも、
石川を動かしていたのは、その気持ちだけだった。
604名無し娘。:02/05/20 12:11 ID:bV7hf2mt

吉澤のテレビ出演の収録日がやってくる。
久しぶりの楽屋が目の前にある。なつかしい。
何時以来だろう。もう遠い昔のことのようだった。

あの日倒れて以来会っていないメンバーたちが殆どであった。
自分はそのドアの前に立っている。みんなは私を受け入れてくれるだろうか。
小さな不安が頭をよぎる。

大丈夫。そんなことはない。
私はモーニング娘。のメンバーなんだ。

吉澤は少しだけ震える手でドアのノブをひねった。

605名無し娘。:02/05/20 12:12 ID:bV7hf2mt

楽屋に吉澤が現れる。

「あ、よっすぃー!」
石川が真っ先に彼女を見つける。
そこには髪の毛も生え、痩せてはいるが、痛々しさの消えた吉澤の姿があった。

「会いたかったよぉ」
そういって石川は彼女に抱きつく。懐かしい石川の匂い。
入院していたときは分からなかった。何度か抱きつかれていたはずなのに。
そういえば、昔からよく抱きついてたっけ。そんなことを思い出していた。

「いろいろ有難う、梨華ちゃん」
石川の耳元で吉澤はささやく。

「ううん」
久しぶりに聞く大好きな吉澤の声。そして彼女の匂い。

彼女のために私は頑張ってきたんだ。
このままずっとこうしていたい。嬉しくてたまらない。
元気な姿の吉澤がここにいる。
それだけで石川は充分満足だった。
今までの活動のつらさが一気に吹き飛ぶ感じがした。
もう何もいえなかった。
606名無し娘。:02/05/20 12:21 ID:bV7hf2mt

しばらく抱き合っている二人のそばを
嬉しそうに他のメンバーたちが取り囲む。
吉澤はまだくっついていたそうな石川の腕をほどくと、
メンバーたちへむかってお辞儀をした。

「おかえり」
保田が吉澤の肩を叩く。
「おいおい、なんか痩せて綺麗になったじゃんかよ」
矢口が吉澤を見上げながら言う。
「良かったべ。な、カオリ」
安倍がボーっとしている飯田に向かって言う。
「あ、ああ。そうね。無理しないでがんばろうね」

中学生メンバーたちも吉澤に嬉しそうに話し掛けていた。
一人だけうるうると泣いている辻をみつける。
「のの!」
吉澤は久しぶりに辻を抱きしめる。
「のの!久しぶり!」
「よっすぃ……、よっすぃ……。うれしいれすよぉ……」
辻は吉澤の胸の中で泣いた。嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

やっとあえた。ゴメンね、ずっとお見舞いにもいけなくて。
ずっと心配でした。会いたかったんですよ……。
辻は上手く言葉に出来ない気持ちを、泣くことで吉澤に伝えようとしていた。

吉澤は少し遠慮気味にしている小川を見つける。
プッチモニの件で少し遠慮しているのだろうか。
まずは誉めてあげよう。彼女は頑張ってるんだ。
そう思って話し掛ける。

「まこっちゃん、新曲見たよ。頑張ったんだね」
その言葉を聞いて小川にいつもの明るい笑顔が戻る。
「は、はい、有難うございます」
吉澤さんに誉めてもらえた。いくら吹っ切れたとはいえ、
こんなに嬉しいことはなかった。
小川は吉澤のその言葉をずっと心の中で反復させていた。

607名無し娘。:02/05/20 12:22 ID:bV7hf2mt

一通り話がおわる。少し離れていたところでそれを見ていた後藤は
吉澤のそばへ歩み寄った。そして、彼女の前に立った。

「帰ってきてくれて有難う」

そういって小さく微笑んだ。

吉澤は入院の時、常に彼女が自分のことを考えてくれていたことを思い出す。
そして、自分のために手を尽くしてくれていた。
吉澤は思わず泣きそうになった。

中学生メンバーもはしゃいでいる。久しぶりに見た活気ある楽屋。
吉澤は嬉しかった。そして暖かく迎えてくれたメンバーたちに感謝していた。

「いろいろとありがとう」
吉澤は石川と後藤に向かって礼を言う。
二人は本当に自分のためにしてくれた。
自然と心から出た言葉だった。

「ううん。よっすぃーが帰って来てくれたことだけでいいんだよ」
石川は小さく首をふる。
「まだ、これからも頑張るよ。私たちがみつけてみせる」
後藤は小さくガッツポーズをした。

彼女たちの行動が自分にどれだけ励みになったのだろう。
そして、彼女たちのおかげであきらめていた骨髄移植も出来るかもしれないんだ。
2人の行動と勇気に心の中で頭を下げた。

608名無し娘。:02/05/20 12:24 ID:bV7hf2mt
今日の更新は以上です。だらだらと長くなってしまいましたが、
今月中の完結を予定してます。
609名無し募集中。。。 :02/05/20 12:45 ID:+irWmcl3
(T∀T)イイ!
終わってほしくないような
でもラストを読みたいような
とにかく作者さん頑張って!
610名無し娘。 :02/05/20 15:52 ID:geJYG/r/
この小説を見て、もしかして一番の甘えん坊は辻でなく石川ではと思った。
611名無し募集中。。。:02/05/20 23:02 ID:iw/nI8HL
とにかく、ダーヤスマンセーと叫ばせて頂いてもよろしいでしょうか。

作者さんらいすっき!頑張ってください。
612名無し募集中。。。:02/05/21 10:00 ID:DQL4c2Js
ええはなしやあ。・゚・(0ノ〜`0)・゚・。
更新がんがって下さい!
613名無し娘。:02/05/21 11:21 ID:SmJwIro0
>>609
すばやいレス有難う御座います。がんがります。
>>610
そうかもしれませんね。そんな気がします。
>>611
是非、叫んでください。
保田さんはとてもいいひとなのれす。すごく後輩思いなのれす。
>>612
有難う御座います。がんがります。
614名無し娘。:02/05/21 11:22 ID:SmJwIro0

吉澤の復帰はモー。大変でしたスペシャルだった。
番組自身はすでに終了していたが、吉澤の復帰を祝うために、
急遽特別企画として行われた。

吉澤は久しぶりの緊張感とメンバーたちの心遣いに感謝していた。

「皆さん、ご無沙汰です。モー。大変でした、がスペシャルで帰ってきました!
な、なんと、皆さんお待ちかねの、吉澤さんが帰ってきました!」
藤井隆はいつもの軽快なテンションで進行をはじめる。

「どうも、おひさしぶりっす」
「まあ、いろいろとたいへんだったねー」
徳光アナが話し掛ける。すでに目には涙がたまっている。
「徳光さん、24時間テレビではお世話になりました。
皆さんが色々と助けてくれたおかげで、なんとかココまで着ました。」
「がんばったよー」
メンバーたちは拍手をする。
「でもまだこれからなんだよね」
「はい。ドナー登録してくれた皆さん。本当に感謝してます。
これからもよろしくおねがいします」
「はい、ということで、今日は放送時間を延長して、吉澤復帰記念、
白血病の娘。を救えスペシャルでお送りします!」
「今まで、この番組でも放送してましたが、今までのモーニング娘。
白血病に関するの取り組み、そして今後の展開についてお送りします」
「おおー!それは目がはなせませんね?」

番組はレギュラー枠で放送されていたときとは、
信じられないぐらいの高視聴率で視聴者に迎え入れられた。

615名無し娘。:02/05/21 11:23 ID:SmJwIro0

吉澤はこれを期にできるだけ番組に出演をしようと考えていた。
平家とのラジオも中澤と三人で復帰する。
レギュラー番組にも出演を始める。
少しずつ、昔に戻っていく。体調もまだ問題ない。

彼女自身も骨髄バンクのキャンペーンをよびかける。
彼女は自分と同じ不安をもつ人たちにもなんとか希望をもたせてあげたかった。
入院時に友人となった白血病の少女の姿を思い出す。
彼女もたぶん見つからなかったのだろう。

もっと、沢山の人がドナー登録すれば、救われる命、
そして、死への恐怖から開放される人たちが沢山いるんだ。
それだけでない。さまざまな病気に苦しむ人たちが、
さまざまな臓器の移植を待っている。
海外では当然のように行われている治療が、この日本ではできないのだ。
そんな思いで活動を続ける。

それに、仕事に集中しているときは
再発の恐怖を一瞬でも忘れることができる──

そう思って体調の許す限りにテレビ番組等への出演をした。

反響はかなりあった。一時期落ち込んだキャンペーン活動も
そしてドナー登録者数も再び盛り返しを見せはじめた。

ただ、依然彼女はライブや歌収録には体力的な問題で参加できなかった。
彼女はできるだけ早いうちに復帰したかったのだが
ドクターからは時期尚早との説明を受けていた。
そのため、吉澤は地道にトレーニングを続けていた。
616名無し娘。:02/05/21 11:24 ID:SmJwIro0

国会はドナー登録者保護法の審議を終え、衆議院を賛成多数で通過した。
そして、それにまぎれて、健康保険法改正案も可決された。
日本医師会の反発を抑えるため、この法案を抱き合わせにするようにして、
審議を行ったのである。医師会側がこれに反発すれば世論の反発は必至である。
大物政治家は、モーニング娘。のキャンペーンを利用して、
ドナー登録法案を前面に押し出すことで健康保険法改正案を通したのであった。
有事関連法案とともに、大物政治家の大きな目標であった法案のひとつが成立されたのである。

支持率をあげ、さらに世論を味方につけてこの法案をとおす。
彼らがキャンペーンに協力した一番の理由であった。
もちろんこのことを彼女たちは知る由もない。
ただ、純粋にドナーが増えることを喜んだ。
617名無し娘。:02/05/21 11:38 ID:SmJwIro0

大物政治家は官邸に安倍と矢口を呼んだ。

「君たちの力でこドナー登録法案が可決できた。これは日本社会にとって大きな財産
になるでしょう」
大物政治家は嬉しそうに話す。

「ありがとうございます。でも、まだまだこれからです。移植医療は遅れています。
このあたりの関連法案もよろしくお願いします」
安倍は彼に真剣な表情で言う。
「ああ、分かった。それで、吉澤くんだったかな。体調はどうだ?」
「はい、いまのところ大丈夫です。でもまだ骨髄が見つからなくて」
矢口がすこしうつむきながら答える。

「はやいところみつかるといいな。私もできる限り協力するよ。
手始めに、骨髄バンクへの予算割当てを増やすように厚生労働省と協議する」
「ありがとうございます」

しばらく3人で話をする。
そして安倍と矢口は緊張の中、キャンペーンの成功を信じて官邸を去る。

「とうとう、法案がとおったね」
安倍が矢口に向かって話し掛ける。
「うん、ひとつの仕事が終わったよ。でも、まだこれからなんだ。
吉澤の骨髄を見つけるまでは、手を緩めちゃいけないんだ」
矢口はそういうと、キッときつい目をして、安倍を見つめた。
618名無し娘。:02/05/21 11:39 ID:SmJwIro0

しばらくの時間がたつ。
吉澤の復帰により、キャンペーンは再度盛り上がりを見せていた。
それに加え、マスコミ側の報道も繰り返し行われている。
さらには大物政治家らも、さまざまなフォローをしてくれている。

しかし、ドナー登録者数は増えても、吉澤の適合骨髄は見つからなかった
そしてその間に、吉澤は再入院して地固め療法とよばれる、
追加の抗がん剤の治療を受けた。数週間の休養の後、
それは特に大きな問題もなく終了し
吉澤は再びメンバーたちの前へ戻ってきた。

石川と後藤のスケジュールも限界だった。
他のメンバーたちも協力はしてくれるが、みんな多忙で余裕がない。
事務所側もこれ以上のキャンペーン強化は認めたくなかった。
そしてメンバーたちも普段と変わらない吉澤の姿をみて、こ
れならまだ大丈夫だろうと思っていた。

619名無し娘。:02/05/21 11:40 ID:SmJwIro0

そんな中、吉澤は早くライブへの復帰をしたかった。
まずは、ファンの人たちに直接お礼がいいたい。
これだけの登録者数の増加がある。自分がまず彼らにお礼をしたい。
彼女の中に白血病患者の代表としての自覚が芽生え始めていた。

それに加えて、骨髄移植、いや、ほかの臓器を含めた移植を求める、
さまざまな病気の患者の気持ちを、直接訴えるための場所として、
ぜひともステージに立ちたい。

そして、支えてくれているメンバーたちと一緒に踊り歌いたい──

そんな気持ちが彼女を支配していた。
しかし、事務所側は吉澤のライブへの復帰を認めなかった。
病人をステージにあげることは道義的に許されないとの判断だった。

620名無し娘。:02/05/21 11:41 ID:SmJwIro0

「ごっちん、私早くライブに出たいんだよね」
吉澤はテレビ収録の楽屋で後藤に向かっていった。
「でも、大丈夫なの?」
「主治医は数曲ぐらいだったら問題ないとは言ってたけどね」
「そうかあ。あとは事務所かあ」
「うん」
吉澤はそういうとため息をついた。

それを横で聞いていた飯田が彼女たちに向かっていった。
「事務所の人にかけあってみようか?」
「え?」
飯田の予想もしなかった申し出に二人は驚いた。

「な、なによ。一応リーダーなんだしさあ。それぐらいはできるわよ」
「は、はい。お願いします」
吉澤は飯田が自分のことを考えてくれていることに感謝した。
自分の気付かないところでメンバーたちが支えてくれている。
モーニング娘。のメンバーであることが嬉しく、そして誇りに思えた。

621名無し娘。:02/05/21 11:45 ID:SmJwIro0

飯田は年長メンバーたちを集めて事務所側と交渉した。
始めは事務所側も彼女たちの意見を認めなかった。
もし、ライブ中に倒れられたりしたらそれこそ事務所が
バッシングされてしまう。以前吉澤の入院騒動でそれは充分懲りていた。

しかし、彼女たちの何回にもわたる申し出で
事務所側は病院側と相談することとした。
そして、東京公演で1曲だけならとそれを認めた。
理由はやはり抗がん剤を内服しているという体力的な問題と、
地方のライブで病状が急変するようなことがあった場合、
かかりつけの病院で治療を受けることが出来ないからである。

それでも吉澤は嬉しかった。遠い先のことだと思っていたライブへの復帰。
メンバーたちが一生懸命踊りや歌の練習をしているのを見ていて、
自分だけそれに参加できないことが辛かった。

たった1曲だけだけど、復帰できる──

退院したときよりも大きな喜びが吉澤を包んだ。

「やったね、よっすぃー」
後藤が嬉しそうに話す。
「うん、大分やってないから、忘れてるかもしれないけど」
「大丈夫だよ。体が覚えてるって」

後藤も嬉しかった。いくらテレビ収録で会えるとはいえ、
地方などの公演で一緒に行動してた彼女がいなかった。
もうすぐだ。もうすぐ帰ってくる。これはその第一歩なんだ。
そう思っていた。

「よっすぃー、ライブの復帰が決まったんだって?」
石川もそれを聞いて嬉しそうにしている。
「うん、飯田さんが事務所を説得してくれたんだ」
「へえ、それはすごいね。早く一緒に踊りたいなあ」
「私もだよ。頑張るね」

メンバーたちも吉澤の復帰を心から歓迎していた。

622名無し娘。:02/05/21 11:47 ID:SmJwIro0

久しぶりのダンスレッスン。そう、あの倒れた日以来。
同じ場所、同じメンバー。
あの時はこんなことになるなって思わなかった。
メンバーたちも吉澤の姿があることが嬉しかった。

1ステージ、しかも1曲だけとはいえ、体力の落ちた彼女にとっては
それだけでも辛かった。曲の前半で息があがる。
明らかに他のメンバーから遅れていく。

「吉澤、無理しないで!」
夏も吉澤の体調が心配だった。
「い、いえ、大丈夫です」
吉澤は答えた。心臓の鼓動はとてつもなく早い。
やはりまだ依然残っている貧血のせいだろうか。

「だめだよ、休まなきゃ。まだ本番は先なんだし」
石川は心配そうにそう諭す。前の二の舞にはしたくない。
思ったことは絶対言うんだ。そう思っていた。
「そうだよ。病み上がりなんだし」
矢口たちも口をそろえる。
「わ、わかりました」
彼女はそういうと、スタジオの横にある椅子に腰掛けた。

吉澤はそのまま、メンバーたちの練習風景をみる。
みんなの汗が輝いて見える。

早く戻りたい。追いつきたい。

彼女の心は焦りと高揚が混じった複雑なものであった。

623名無し娘。:02/05/21 11:51 ID:SmJwIro0

骨髄移植キャンペーンは続けられていた。
加護も辻も小児白血病患者への慰問をつづける。
ミニモニ。人気も手伝って、かなりの好評だった。
数々の小児専門病院から依頼がくる。
彼女たちはライブやテレビ収録の合間をぬって、
スケジュールの都合のつく限り慰問を行った。

「今日はミカちゃんとれすか」
「そうです。加護ちゃんはタンポポの収録です」

慰問は忙しい加護矢口よりも、比較的時間のある辻、ミカの2人が
中心となりつつあった。

「リュウケミアの子たちに、ユメと希望をあたえるんです。頑張りましょう」
「リュウケミア?」辻が不思議そうにたずねる。
「オー、すみません。英語でした。白血病は英語でリュウケミアといいます」
「ふーん、リュウケミアねえ。変な名前」

そんなことを話しながら、ドクターの先導のもと、二人は病室に入る。

「この子は、やっと骨髄移植の適合者が見つかったんですよ」
慰問先のドクターがそう二人に言った。
「よかったれすね」
「はい。これもモーニング娘。の皆さんの活動のおかげです」
母親がうれし泣きをしている。少女も小さく頭をさげる。
「そんなことないれすよ。きっといい子で治療を頑張ったから、神様がみつけてくれたんです」
辻はそう答えた。この子たちの闘病の苦しみからしたら、
自分たちの努力なんてたかがしれている。
慰問を続けていくうちに辻はそんな風に考えるようになっていた。


624名無し娘。:02/05/21 11:52 ID:SmJwIro0

慰問が終る。帰り道の途中ミカは辻に話し掛けた。

「やっぱり、この活動はすばらしいです。たくさんの人が助かるんです。」
「でも、なかなかよっすぃーの適合者はみつからないんれすね……」
辻は少し残念そうにそう呟く。
もちろん、他の患者たちが治ることはとても嬉しかった。
でも、やはり辻は吉澤のことが心配だった。

何時見つかるんだろう。私たちはこんなに頑張っているのに。
そして、他の患者たちは見つかり始めているのに。

「大丈夫。そのうちみつかりますよ」
ミカは辻を励ますように言った。
「うん」
辻はそう答えた。そう信じるしかなかった。

625名無し娘。:02/05/21 12:00 ID:SmJwIro0

石川と後藤は、ライブが始まったこともあり、
キャンペーンライブは中断されていた。
しかし、出演するテレビ、ラジオで必死に訴えつづけた。

キャンペーン活動の結果、骨髄バンクの登録者数が増えたため、
かなりの数の非血縁者間骨髄移植が行われつつあった。
沢山の感謝の手紙が彼女たちの元へと届く。

死への恐怖から救われた患者たちの切実な喜びの声が、
彼女たちの疲れきった体にまた活力を与えていた。

しかし、いまだ吉澤への適合ドナーは現れない──

時間は止まってはくれない。何時再発するんだろうか。
はたして間に合うんだろうか。
彼女たちの心に再び、不安と焦りの色が見え始めた。

626名無し娘。:02/05/21 12:01 ID:SmJwIro0

ライブのリハーサルは続く。
吉澤も少しづつ、ダンスの勘をとりもどし、
また体力的にも戻ってきていた。

「オッケー。吉澤、踊れたじゃない」
夏が嬉しそうに手をたたく。
「いけるじゃん」
吉澤の横で決めのポーズをとっていた後藤がそういう。
「うん、なんとか」
吉澤はそうこたえる。

「やったー!踊れたじゃん!」
後ろで踊っていた石川が吉澤に飛びつく
「うわ、梨華ちゃん、ビックリしたなあ」
石川の汗の匂いがする。
ダンスステージ、みんなと同じ空間に自分は立っているんだ
という実感が湧いてくる。

「汗臭いよ」
「あ、ゴメン」
恥ずかしそうに石川は謝った。
石川も嬉しかった。吉澤と踊れる。吉澤と歌える。
どれだけ待ったことだろう。ステージまでは後もうすぐ。
メンバーたちに今まで以上の高揚感が起こっていた。

大丈夫。踊れる。歌える。体もちょっとは疲れてるけどまだまだいける。

あとは、適合者を待つだけ──

メンバーたちは自分のために一生懸命やってくれている。
大丈夫、必ず見つかる。彼女たちは必ず助けてくれる。そう信じる。
吉澤は再発の不安をメンバーたちを信じることで打ち消していた。

627名無し娘。:02/05/21 12:02 ID:SmJwIro0
今日の更新は以上です。
628名無し募集中。。。:02/05/21 12:13 ID:nzQ1uFRh
このあとの結末を見たいような見たくないような・・・
更新頑張って下さい。
629名無し募集中。。。 :02/05/21 14:46 ID:6uv0DOhK
>それにまぎれて、健康保険法改正案も可決された。
リアルですね。
630名無し募集中。。。 :02/05/21 19:52 ID:7E2Hm3jb
>沢山の感謝の手紙が彼女たちの元へと届く。
泣かせるね〜。
631名無し娘。:02/05/22 11:30 ID:K6sw/Ste
>>628
よろしければ、完結までお付き合いいただければ嬉しいです。
>>629
リアルさが売りなので。でもこの法案って患者にとってはたしていいものなのでしょうかね。
>>630
嬉しいです。有難う御座います。
632名無し娘。:02/05/22 11:31 ID:K6sw/Ste

モーニング娘。ライブ白血病の娘。を救えツアー最終日。
会場は超満員。もちろん相変わらずドナー登録のテントが張られている。
数百人の列がその前に並んでいる。

そのとき楽屋ではメンバーたちが出演前の休憩を取っていた。
吉澤は久々に味わう緊張感を懐かしく思っていた。

「すみません、失礼します」
その楽屋に、骨髄バンクの担当者が現れる。

「あ、どうも。どうされたんですか?」
メンバーたちは、楽屋にはめったにやってこない
骨髄バンク協会の人間が楽屋に現れたことに驚いた。
吉澤も何事かと思って振り返る。

「じつは、嬉しいお知らせがあります。吉澤さんのドナー適合者が見つかりました!」
担当者は嬉しそうにそう告げた。

「うそ!?マジで?」
「やったー!」
楽屋がいっせいに歓声に包まれる。
メンバーたちはおのおの抱きあって喜びを分かちあう。

「嬉しいよぉ……、嬉しいよぉ……」
ついに見つかった。やっと、やっと見つかった。
よっすぃーが治る。よっすぃーが助かる。
それを想うだけで、石川は既に泣き出していた。
「梨華ちゃん泣きすぎ。キショ。もっと明るく喜べよ!」
矢口の突っ込みも浮き足立っている。

喜びの中で呆然としている吉澤に後藤が話し掛ける。
「やったよ、よっすぃー。これで治るよ」
後藤は小さくガッツポーズをする。
すでに、吉澤はなにも答えられなかった。

みんなの気持ちと努力のおかげで、ドナーが見つかった。
本当に彼女たちは助けてくれた。
自分ひとりでは出来なかった。
モーニング娘。のメンバーになれてよかった。
メンバーたちへの感謝の気持ちで胸が一杯になった吉澤は、
小さく頷くだけで、なにもいえなかった。
嬉し涙が頬を伝うだけだった。

メンバーたちは吉澤を取り囲むようにして、喜びを分かち合っていた。

633名無し娘。:02/05/22 11:32 ID:K6sw/Ste

ライブステージが始まる。吉澤は舞台の袖で彼女たちのステージを見ていた。
観客たちの歓声が聞こえる。もうすぐだ。もうすぐ私もあそこに立てる。
そんな気持ちで胸の鼓動が早くなる。病気で動悸が激しくなるのとはまたちがった、
胸の鼓動だった。

プッチモニのステージが始まる。
小川のセンターは無事観客にも受け入れられているようであった。
自分があの場所に立っていないことになにか不思議な感じがしていたが、
それ以上に輝いている小川、そしてそれをフォローしていく保田と後藤の姿が
なにか嬉しかった。自分もアソコにまた戻れるんだ。そんな気持ちだった。

「小川、よかったよ!」
吉澤は袖へ戻ってくる小川に声をかける。
「あ、有難うございます。吉澤さんに見られてるから緊張しちゃいました」
小川はそういっていつもの笑顔で微笑んだ。

もう私は迷わない。私は私を表現するんだ。そんな気持ちで一杯だった。
そして、それを支えてくれた吉澤、後藤、保田の3人に心から感謝していた。

「あとは吉澤が戻ってくるだけね」
保田が吉澤に向かって言う。
「そうだよ。四人体制もまた違った味がでて良いと思うよ」
後藤もうれしそうに言った。

吉澤はそんな彼女たちの気持ちが嬉しかった。自分を待っててくれる。
もうすぐ戻るから──
そう心の中で呟いた。

634名無し娘。:02/05/22 11:33 ID:K6sw/Ste

ライブがひとまず終了する。アンコールの声が流れ始める。
会場では、一部のファンが、いつもの曲順と違うことに気付き、ざわつき始めていた。
なにかがアンコールで起る。そんな雰囲気が会場内を包んでいた。

アンコールの声のさなか、いきなり、ステージ中央にスポットライトが当たる。
ファンは声を沈める。

♪あーいーをーくーだーさーいー

高橋の歌声がライブ会場に響く。そして、その横には吉澤が立っている。
高橋は自分がなにもキャンペーンに協力できなかったことが辛かった。
自分にあるのは、ただ歌うことだけ。それだけしか自分にはできないんだ。
だから、この復帰のステージを絶対成功させて見せる。そんな気持ちをこめて歌う。

なにがこれから起るかが分かったファンはみな絶叫する。大歓声が沸き起こる。

「WAO!」
メンバーたちが現れる。そのなかに混じって吉澤の姿があった。

曲が流れる。流れるようなダンスが始まる。

吉澤が倒れて以来封印されていたMr.Moonlight-愛のビックバンド が始まる。
ファンの吉澤コールが鳴り響く。ファンも待ち望んでいた。メンバーも待ち望んでいた、
そして、吉澤自身も待ち望んでいたステージだった。
635名無し娘。:02/05/22 11:40 ID:K6sw/Ste

安倍が歌う。
彼女はコメントの発表を思い出していた。
あれからどれくらいたったのだろう。
彼女の苦しみを私はどれだけみんなに伝えられたのだろう。
そして、白血病患者の苦しみをどれだけ伝えられたのだろう。
そんなことを考えていた。

辻と加護が吉澤のそばで踊る。
お帰り、よっすぃー。
私たちもよっすぃ―の気持ちがわかったよ。
苦しかったよね。辛かったよね。これからもがんばろうね。
嬉しくてたまらない。そんな気持ちが踊りに現れる。

矢口が踊る。
国を動かした直接のきっかけ。それが彼女だった。
吉澤を助けるために、緊張の中、政治の世界に飛び込んだ。
その成果がここにあるんだ。彼女は返ってくる。
そう思いながら踊りつづける。

636名無し娘。:02/05/22 11:41 ID:K6sw/Ste

後藤も歌う
彼女はずっと吉澤のことを考えていた。かけがえのない友人である彼女を
なんとか助けることが出来ないだろうか、そればかりを考えていた。
それが今日とうとう実現する。
でも彼女は思っていた。これからなんだ、彼女の本当の闘いは。
私たちはそれをどうやってサポートしていけばいいのだろうか。
骨髄移植の治療が辛く、厳しいことを知っている後藤はそんなことを考えていた。

そして、石川と吉澤の2ショットのダンスが始まる。
石川は耐え切れずに泣いていた。

嬉しい──

友人以上の気持ちで彼女に接していた石川は本当に辛かった。何とかしたかった。
それがやっと実を結んだ。そして同じステージで踊れている。信じられなかった。
あとは骨髄移植をするだけなんだ。
そうすれば元気でやさしい吉澤が帰ってくる。
それを想うと嬉しくてたまらなかった。

吉澤は、メンバーたちとのダンスのなかで、彼女たちの気持ちを受け止めていた。
そして、ファンの歓声。みんな自分のことを考えてくれた。そして助けてくれた。
一人で生きているんじゃない。みんなによって生かされているんだ。
そんな感謝の想いが彼女の胸を去来する。

歌声が詰まる。息が上がってくる。少しだけダンスが遅れる。
それを見たファンの歓声が一段と高まる。
彼女の瞳からも涙が流れていた。

637名無し娘。:02/05/22 11:42 ID:K6sw/Ste

アンコールのステージは無事終了した。

MCを終え、メンバーたちは楽屋に戻る。
興奮したファンの歓声はいつまでも鳴り止まない。それが楽屋まで聞こえてくる。

「すごいよ、よっすぃー。ファンのみんながよっすぃーを応援しているよ」
石川は興奮したように吉澤に言う。

「う、うん……」
息が完全にあがっている吉澤はそう答えるのが精一杯だった。
「大丈夫?」
後藤が心配そうに尋ねる。

吉澤の体力は限界だった。リハーサルとは違う緊張感が、
ただでさえ貧血で上がりやすい心拍数を上げたのだろうか。
そう吉澤は思っていた。
息が苦しい。でも、何とか耐えられる。

「大丈夫。ごめん、ちょっと疲れただけ」
そう言って笑顔を見せる。

その笑顔を見て、二人は安心する。
それ以上彼女の心配をしなかった。
楽屋の中はライブの成功と吉澤の復帰、
そして彼女の適合骨髄が見つかったことで喜びに満ち溢れていた。

638名無し娘。:02/05/22 11:46 ID:K6sw/Ste

ライブの終了後、吉澤とメンバーたちは、都内のホテルに滞在していた。
メンバーたちは翌日の仕事のため、そして吉澤は埼玉に帰るよりも、
ホテルに滞在したほうが体の負担がかからないと思った事務所の判断だった。
そして、吉澤の母親が念のため付き添いでついてきていた。


メンバーと別れた吉澤はホテルの部屋に入る。
彼女の体は疲れきっていた。全身がだるい。
母親は心配そうに彼女の体を心配する。

「大丈夫だよ。でも、ちょっと疲れたからもう、寝るね」
母親にそういうと、ベッドに潜り込む。

「あ、そうそう、いつでも病院のほうは骨髄移植の準備にとりかかれるって」
病院側にも適合骨髄が見つかったという話は連絡がいっていた。
いつでも準備はできているとの回答だった。

「ほんと?じゃあ、明日仕事終わったら外来受診しないとね」
「そうだね。今日は疲れただろうから、ゆっくりやすんで」
母親はそういうと、部屋の電気を消した。
639名無し娘。:02/05/22 11:54 ID:K6sw/Ste
今日の更新は以上です。あと3回ほどの更新で完結します。
読んでいただいてる方、長くなりましたが、
お付き合いよろしくお願いいたします。
640名無し娘。 :02/05/22 15:22 ID:n0qt2GEl
あと3回でおしまいとはさびしいです。
641名無し募集中。。。:02/05/22 16:21 ID:c294IQvO
ミスムンで泣けるとは思わなかった。
642名無し娘。:02/05/22 21:40 ID:HwV3MBfu
よっすぃ〜、大丈夫なのか・・・
643名無し娘。:02/05/23 01:22 ID:ddejc3iX
このあと吉澤はいったいどうなってしまうのか?!(ガチンコ風)
あと3回ですか。楽しみです。
644名無し娘。:02/05/23 07:38 ID:svbAcGbB
>>640
ありがとうございます。
>>641
嬉しいです。
>>642-3
この後の更新で……。

がんがります。
645名無し娘。:02/05/23 07:39 ID:svbAcGbB

夜間、吉澤は息苦しさを感じて目を覚ます。
苦しい。息をしても息が出来ない感じがする。

「お、お母さん……」
横に寝ている母親を呼ぶ。
目を覚ました母親は電気をつける。
「どうしたの?」

「く、苦しい……」

母親は吉澤を見る。蒼白な顔色、紫色の唇、
ぜいぜいと苦しげな息をしている。
「ちょ、ちょっと座ったら楽になったけど……」
「だ、大丈夫?」
「い、いや、わかんないかも……」
吉澤は必死で息をする。少しは楽になったが、それ以上改善する傾向は無い。
「病院に連絡する」
母親はあわてて入院予定の病院へと連絡した。

646名無し娘。:02/05/23 07:40 ID:svbAcGbB

ホテルのロビーでは、石川と後藤が話をしていた。

「よっすぃーかっこよかったね」
石川が後藤に話し掛ける。
「うん。ドナーも見つかったことだし、これで一安心だよ」
「ほんとに、よかったねえ」
「でもいつ骨髄移植するのかな?あれって大変なんだってね」
「そうなんだ。でも点滴するだけでしょ?」
「そうなんだけど、それまでに骨髄を空っぽにするために大量の抗がん剤を使うんだって」
「へえ……」

二人は吉澤の骨髄移植のことを考えていた。
どれぐらい大変な治療なんだろうか。吉澤は骨髄移植が成功するのだろか。
さまざまな疑問が湧いてくる。

「あ、明日早いからそろそろ寝る?」
「えー、もう?ごっちんもっと話そうよう。それで、最近どうなの?」
石川はあえて話を変える。今日は考えるのはやめよう。
骨髄は見つかったんだ。楽しい話をしよう。そう思っていた。

「どうってなにが?」
「決まってるじゃない、あの写真の……」

そういいかけたとき、ホテルの入り口に救急車が滑り込んできた。
あわただしく隊員たちがストレッチャ―を押しながらエレベータへ消えていく。

「だれか、急病人かな?」
「さあ?そんなことより、教えてよ」
「しつこいなあ梨華ちゃんも。梨華ちゃんはどうなの?」
「私はごっちんとは違います。男よっすぃー、ひとすじです」
「うわ、マジで?キショ」
「なんでよー、カッケーんだよ、よっすぃーは」
そんなこと二人は話していた。

647名無し娘。:02/05/23 07:41 ID:svbAcGbB

深夜の病院、静かな病棟の中で、主治医の声が響く。

「今すぐ救急車呼んで来てください。病室は空いてますので」
そういって、主治医は電話を置く。
「先生?急患ですか?」
看護婦が心配そうに尋ねる。

「吉澤さんが呼吸困難だ」
「え?ドナーが見つかったんじゃないんですか?」
「そうなんだ。再発じゃなければいいが……」
看護婦は唖然とした表情をする。

「個室準備しといて。レントゲンの当直に連絡。モニタと採血と点滴の用意」
「分かりました」

深夜の病棟はあわただしく動き始める。
看護婦たちが走る。

648名無し娘。:02/05/23 07:50 ID:svbAcGbB

後藤と話をしていた石川は、エレベーターから降りてきた
ストレッチャ―に目をやった。

「あれ?よっすぃー?」
後藤もその方向へ目をやる。
ストレッチャーの上には苦しそうな表情をした吉澤の姿があった。

「梨華ちゃん、行こう!」
その瞬間、後藤はそう叫んだ。

何がよっすぃーにおきたの?──

心臓の鼓動が高鳴なる。
不安な気持ちが胸の奥から湧いてくる。

2人は吉澤の元へ走りよる。
「ど、どうしたの?」
苦しそうに酸素マスクをつけてストレッチャ―に座っている吉澤に話し掛ける。
「ご、ごめん、ちょっと苦しくなっちゃって……」
吉澤は2人にそう言った。

彼女を乗せたストレッチャ―はホテルの玄関を出て、救急車に載せられていく。
ロビーにいた人たちは、なにごとかといった表情でそれを眺めていた。

「わ、私たちも行っていいですか?」
2人は吉澤の母親に尋ねた。
「いいですよ」
母親の答えを聞いた二人は救急車に飛び乗った。

649名無し娘。:02/05/23 07:51 ID:svbAcGbB

病棟に、救急部から連絡がはいる。

「血液内科の吉澤さん、到着されました。採血、ルート確保をして、
レントゲン撮影後そちらに搬送します」
「分かりました」
主治医は電話を置く。

しばらくして、吉澤はストレッチャ―に座ったまま、酸素マスクをつけ運ばれてくる。

「先生、肺が真っ白ですね。DICですか?」
救急の医師が手にもったレントゲンのフィルムを翳しながら主治医に言う。
「おそらく」
それを見た主治医はただ一言だけ答えた。その緊迫した表情に、
それ以上救急医は彼になにも聞くことが出来なかった。

「ヘパリンとFOYを行きます。準備宜しくお願いします」
「わかりました」
「それと、母親を呼んでください」
主治医は看護婦に向かって言った。

650名無し娘。:02/05/23 07:52 ID:svbAcGbB

二人は病室に運ばれた吉澤を心配そうに見守る。
母親は主治医の説明を聞きにナースステーションへと向かう。

「ご、ゴメン。また迷惑かけちゃったね」
酸素マスクをしたまま吉澤は二人に言った。
「いいよ、気にしないで。勝手に着いてきたんだから」
「そうだよ。早く良くなってよ。ドナーも見つかったんだし」
二人はそう答える。

「ありがとう……。二人にはほんと感謝してる」
「これからだもんね。あとはよっすぃーが頑張る番だよ」
2人はそう言って微笑んだ。

苦しみは少しましになっていた。
しかし、頭痛がひどくなる。左手がしびれる。気分が悪い。

「どうしたの?」
少し様子がおかしいのに二人はきづく。
「うん……」

651名無し娘。:02/05/23 07:53 ID:svbAcGbB

そういった時だった。
さら激しい頭痛が彼女を襲う。
激しい苦しみがやってくる。そして意識が遠のいていく。
吉澤は急に死への恐怖を感じる。

「り、梨華ちゃん……」
薄れゆく意識の中で、吉澤は
酸素マスクの奥から必死の形相で石川に叫んだつもりだった。
しかしすでに大声を出せる状態ではなかった。すでに体が動かない。

「よっすぃー?」
石川は吉澤に顔を近づける。
「たす……、くっ……」
そう嗚咽を一言あげたあと、吉澤は意識を失った。

「よっすぃー!どうしたの!」
急な吉澤の変化に石川は叫んだ。しかし反応は全く無い。
それに気づいたとき、ゾクッとした感覚が彼女の全身を走りぬけた。

「よっすぃー!」
石川は薄目を開けたまま動かない吉澤にもう一度叫んだ。

後藤は吉澤の様子を驚きながら見つめる。
そして事の重大さに気付き、体が震える。

息がとまってる?──

「梨華ちゃん、ナースコール押して!」
後藤は震える声で叫んだ。

652名無し娘。:02/05/23 08:03 ID:svbAcGbB

ナースステーションでは、採血の結果をみながら
主治医が母親に病状説明を行っていた。

「娘さんの病状ですが、かなり良くない状態です」
「え?」
「データ上急激に悪くなっております。DICといわれる、血が血管内で固まって、
出血傾向がおこるという病態になっています。そのせいで肺に出血しており、
呼吸状態が悪くなっております」
「は、はい」
「このままこれが改善しなければ、死ぬ可能性が高いということです」

母親は主治医のあまりにも緊迫した雰囲気に飲まれるだけだった。
娘が死ぬかもしれない。白血病と告知されたときから覚悟はしていたが、
骨髄移植のドナーが見つかったということで、安心していたところだった。
彼女になにが出来るわけでもない。ただ祈るだけしか出来なかった。

「それで、これからその状態を改善させるお薬を点滴したいと思います」
「よ、宜しくお願いします」
母親は小さくお辞儀をした。
「じゃあ、いまから行きます」
そういうと主治医は立ち上がり、看護婦に点滴を指示しようとした。

そのときナースコールが詰所に鳴り響く
「はい、どうしました?」
看護婦がそれをとる。そして表情が一瞬にして凍る。
後ろを振り返り、主治医に叫んだ。

「先生!吉澤さんが急変です!」看護婦が叫ぶ。
はっと顔色を変えたドクターは彼女の病室へと急いだ。

653名無し娘。:02/05/23 08:04 ID:svbAcGbB

吉澤の病室へ主治医が駆け込んでくる。

「先生、よっすぃーが、よっすいーが……」
石川は吉澤が急に意識を失ったことに動転していた。
主治医の袖をひっぱり、叫んでいた。
「梨華ちゃん、落ち着いて!」
後藤が彼女を制する。

主治医は石川の体を振り払って、吉澤の方へ駆け寄った。
サッと全身を眺める。

意識レベル300。左半身に麻痺。チアノーゼ。

まずい、呼吸状態がおかしい──

「挿管するぞ!」
主治医はそう叫んだ。

手際よく気管に管が入れられる。吸引をおこなって気管内の痰を取る。
透明の吸引チューブから真っ赤な血液が引けてくる。

「たくさん血がでてるよぉ……、よっすぃーから血がでてるよぉ……」
石川は動揺する。おもわず後藤に抱きつく。
彼女の体はカタカタと震えている。
後藤もあまりの出血に驚きながらも、必死になって石川の体を抱きしめていた。

「頭部CTのオーダーして!あと、FFPと血小板も至急用意しといて!」
「わかりました」

主治医と看護婦の緊迫したやり取りが続く。紫色だった吉澤の唇に少しだけ赤味が戻る。
その姿を石川は後藤と共に震えながら眺めていた。
「よし、心臓は動いてるな。はやくヘパリンとFOY行ってくれ!」
主治医は叫んだ。看護婦が手際よく薬を注入する。

石川はふとベッドの横にくくりつけられている、ウロバックと呼ばれる、
尿をためる袋に目をやった。
「……これっておしっこなの?……」
「そうです」それを聞いていた看護婦が点滴をしながら不機嫌そうに答える。

なんで赤いの?もしかして血?──
そこには真っ赤に染まった血尿が溜まっていた。

「ごっちん、どうしよう。どうしよう……
よっすぃーから沢山血がでてるよぉ。嫌だよぅ……、嫌だよぅ……」
驚いた石川はうわごとのように呟いた。

後藤は震える石川を抱きしめながら、呆然と主治医の処置を眺めていた。
まるで夢の中にいるようだった。

654名無し娘。:02/05/23 08:07 ID:svbAcGbB

手際よく携帯型人工呼吸器に管がつながれる。
主治医と看護婦は汗をぬぐいながら手をやすめる。
「このまま、CT撮るぞ」
そう言って、病室のドアを空け、吉澤の乗ったベッドを運びだす。

病室の外では母親が呆然と立っていた。
「ひとみ?ひとみ?」
管に繋がれた意識の無い吉澤に必死で語りかける
しかし、全く反応が無い。

「せ、先生、ひとみは?」
「危険な状態です。いまからCTをとります。詳しいことは後ほど」
「ついていってもいいですか?」
「かまいません」

母親は主治医の後を追うようにして
ベッドに載せられた吉澤とともにCT検査室へと向かった。
655名無し娘。:02/05/23 08:07 ID:svbAcGbB

「よっすぃー……」
2人は運ばれていく吉澤を呆然と見送った。

「どうしよう、どうしよう……、よっすぃー、よっすぃー、嫌だよぅ、嫌だよぅ……」
そういいながら泣きじゃくる石川を後藤は抱きしめる。
「大丈夫。いま、よっすぃーは一生懸命闘ってる。私たちが信じないでどうするの」
後藤は気持ちを奮い立たせるようにそう呟いた。
しかし、石川は泣きつづけたままだった。

「吉澤が運ばれたんだって?どうなの?」
飯田が走って2人の元へやってくる。
後に続いて、息をきらせてホテルにいたメンバーたちがやってくる。
そして泣きじゃくる石川を見てみな表情が変わる。

「何が起こったの?なっちなにがなんだかさっぱりわかんないべ」
「石川、泣いてないで答えろよ」
矢口はいらだった様に石川に向かって言う。
「……、よっすぃーが、よっすぃーが、急に息をしなくなっちゃった……」
石川は泣きながらそう答える。

「うそでしょ……?」
保田はそう言って後藤の肩をつかんだ。
「まだ、分からないよ。いま闘ってるんだ……」
後藤の目にも涙が溜まっている。

メンバーたちはその答えを聞いて、天を仰いだ。

656名無し娘。:02/05/23 08:11 ID:svbAcGbB

ピリリリリリリー──
CT検査室では、単調な機械音が鳴り響いていた。

装置が吉澤の頭部を撮影していく。
操作室では技師と医師、看護婦が吉澤の病状を観察しながら、
撮影を進めていく。
そして、操作盤にあるモニターに次々と画像が映し出される。

しばらくして、モニターに数枚の画像が映し出された後、
主治医の目が落胆の色に変わった。

「先生、これですね」
技師がそう主治医に呟く。

その、9インチほどの白黒のモニターには、
彼女の右脳の中央部に、大きな白い影が映し出されていた。

遅かったか──

主治医は大きなため息をついた。

657名無し娘。:02/05/23 08:12 ID:svbAcGbB

主治医はCT室をでる。心配そうに母親が尋ねる。
「お母さん、残念ながら脳に出血してます」
「え?」
「危篤です。ひとみさんに会わせたいかたがいましたら、至急連絡をとってください。
病棟に戻りしだい、詳しいご説明をさせていただきます」
「え?」

母親は状況を理解するまでに時間がかかった。
娘が危篤?会わせたい人?

ひとみ──

母親の目から大粒の涙がこぼれた。

658名無し娘。:02/05/23 08:14 ID:svbAcGbB

吉澤が病室へと戻ってくる。
「吉澤、どうしたの!」
「よっすぃー、よっすぃー」
メンバーたちは病室に運び込まれていく、
ベッドに横たわる動かない吉澤に懸命に語りかけた。

そのまま吉澤を乗せたベッドは病室の中に入れられる。
看護婦たちがあわただしく人工呼吸器をつなぎかえる。
そして主治医が再度診察を行う。医師も看護婦も沈痛な表情のままである。
その雰囲気を母親とメンバーたちは、部屋の外から眺めながら悟った。

「よっすぃー、おきてよぉ……」
石川は泣きながらそう呟いた。

主治医は外へ出てくる。
「お母さん、ひとみさんの病状ですが、白血病の急性増悪で、先ほどご説明したとおり、
血がとまらない状態が続いています。運ばれたときは肺の出血の症状が中心でしたが、
いま、意識がないのは右の脳に出血があるためです。これがそのCTです」

そういって母親にフィルムを翳す。吉澤の右の脳には白い影がはっきりと写っている。
母親は呆然としながらそれを眺める。
「原因は肺の出血と同じです。現在、血を止めるための治療を行っていますが、
なにぶん病気が病気なため、かなり難しいと思います。おそらく、このまま……」
あえて、主治医はその後の言葉を飲みこんだ。
母親は分かりましたと答える。そして病室の中へと入って行った。
659名無し娘。:02/05/23 08:15 ID:svbAcGbB

「よっすぃーはどうなるの?」
横で聞いていた石川が悲痛な表情で主治医に言った。
「残念ながら……、これ以上どうしようもありません」
沈痛な表情で主治医は答える。

「なんで?なんで?だって、やっとドナーが見つかったんだよ?なんでこんなことになるの?」
石川は主治医の白衣の袖を引っ張る。

「さっきまで一緒に歌ったり踊ったりしたんだよ?なんで急にこんな風になっちゃうの?
ウソだよ。何かの間違いだよ!そんなのおかしいよ!」
石川は主治医の答えを拒絶するように、泣きながら主治医の袖を引っ張りつづけた。

「梨華ちゃん!」
後藤は石川を抱きかかえるようにして主治医から引き離す。
主治医は白衣の乱れを直すと、小さくお辞儀をして戻どろうとする。

「助けてよ!助けてあげてよ!よっすぃ―はずっと頑張ってきたんだよ?
もうすぐ助かるところだったんだよ!先生、医者なんでしょ、助けてあげてよ!」

後藤の腕の中で石川は去り行く主治医にむかって叫びつづけていた。

660ハヒホ:02/05/23 08:16 ID:vLJRkoVZ
うぁぁぁぁ・・(号泣
661名無し娘。:02/05/23 08:19 ID:svbAcGbB

吉澤の家族が到着する。それを受けメンバーたちは病院の待合室に移動していた。

「うくっ……、ひっく……、ひっく……」
石川は嗚咽を上げながらなきつづける。
信じられなかった。夢であって欲しかった。
つい数時間前まで一緒にライブをしていたのに。
やっと、やっと骨髄がみつかったのに。

「辻、寝ちゃったね」
保田が飯田に語りかける。
「うん、疲れちゃったんだろうね。なにも言わずにずっと泣いてたから」
辻は飯田の横で泣きつかれて眠ってしまっている。
ただでさえ、ライブの後で疲れた体だった。
それを飯田は悲しげな表情で見つめていた。

「ウソや、ウソや。ウチは絶対信じへん。絶対助かるねん。そうやんな、安倍さん」
「そうだよ、助かる。絶対助かる」
安倍はそういいながら、加護の涙を拭く。

「くやしいです……」
紺野が小さな声で呟く。小川、新垣、高橋もそれに頷く。
「なんでだよ、ここまで頑張ってきたのにさあ」
矢口も悔しそうな表情をする。
「まだわからないよ。あきらめちゃだめ」
後藤はメンバーたちに向かって言った。

メンバーたちは最後の希望をかけて吉澤の回復を祈るだけだった。
662名無し娘。:02/05/23 08:20 ID:svbAcGbB

ナースステーションでは吉澤につけられたモニターの様子が画面に映し出されていた。

「急に息がとまりましたね」
看護婦が主治医に尋ねる。
「出血のせいで、延髄が圧迫されてるんだ」
悔しそうな表情を主治医はする。

そのときモニターのアラームがなる。
「先生、血圧が下がってきてますね」
「イノバン1ガンマ、ドブトレックス1ガンマずつあげてくれ」
主治医はため息をつきながらそう看護婦に指示をする。
昇圧剤を入れるしかもう手はない。
出血傾向が収まってくれることを祈るしかない。

「分かりました」
そう言って看護婦はつめ所を出る。

主治医はまたため息をつく。
予想していなかった、寛解状態の白血病の急性増悪。
そして急激に悪化したDIC。それによって起こった脳出血。
全てが悪いほうへ向かっていた。

深夜の病棟では静寂の中に、吉澤の生命を表すモニターの心電図の音だけが響いていた。

663名無し娘。:02/05/23 08:25 ID:svbAcGbB
今日の更新は以上です。
>>660
朝早くから申し訳ないです。
664324:02/05/23 08:28 ID:ro/isRH4
相変わらずの緊張感のある文体に惹かれますね。
もうすぐ完結だそうですが、最後まで期待していますので頑張ってください!
665名無し募集中。。。:02/05/23 12:38 ID:B5wv0pB2
昼飯喰いながら読んでたんだけど、
メシ喰ってるどころじゃなくなっちゃったよ〜!(喰ったけど・・)
666名無し募集中。。。 :02/05/23 17:02 ID:r8RfUm/9
(T▽T)<よっすぃー
石川がかわいそうで泣けます。
667名無し募集中。。。:02/05/23 20:21 ID:OhhG98Ih
感想は初めてかもですが、ずっと読んでました。
で、ここまで来て、最初からまた読み直してみました。

…まさかスレの前の方にネタ小説があったとは(w
(リュウケミアに入ってからここに来たので)

てな話はともかくとして(w 最初の方から、いろんな意味で
複線をはってるような印象を持ちました。作者さんすごい…。
>>244>>247で「普通の小説もどき」「普通っぽい小説もどき」と
前置きされてますが、とんでもないくらいいい小説だと思います!

あと少し…結末知るのが怖いですが、絶対読みます。
どうかがんがって下さい。
668名無し娘。:02/05/24 09:42 ID:KJsQFYVP
>>664
いつもありがとうございます。嬉しいです。
>>665
愛しい665さん、お昼ご飯、何(略
>>666
ほんとに嗚呼、可哀想ですね。申し訳。
>>667
そう言っていただけると嬉しいです。でも期待は禁物です。
669名無し娘。:02/05/24 09:43 ID:KJsQFYVP

夜が明け始める。メンバーたちはライブの疲れからか、
うとうとと眠り始めていた。
しかし石川は病室の前と待合室の間をうろうろと歩き回る。


吉澤は闘っているんだ。まだ生きているんだ。
吉澤のそばを離れたくない。何とかしてあげたい。
そんな想いが彼女を眠らせてはくれなかった。

そのとき、急に病室の中があわただしくなる。
ナースステーションから看護婦が駆け込んでくる。

「よっすぃー?」
それに気づいた石川は、慌てて病室に向かって走る。
そして看護婦が入ったのと同時に病室の中をのぞいた。

「ひとみ!ひとみ!」
母親が必死に呼びかける姿が見える。
石川は病室の中のモニターの画面をみる。
心電図の動きが正しいリズムを刻んでないことが彼女にも分かった。

主治医も駆け足で病室へとやってくる。
石川はただならぬ自体に驚き、よろよろと壁に向かって倒れこむ。

「梨華ちゃん、どうしたの?」
同じく眠れなかった後藤が石川のそばを通りかかる。
「よっすぃーが、よっすいーが……」
その言葉を聞き、慌てて後藤も病室の中をみる。
そして、病室の光景を見て、彼女はメンバーたちのいる待合室へと走った。

670名無し娘。:02/05/24 09:44 ID:KJsQFYVP

後藤に呼ばれて、メンバーたちは吉澤の病室の前へやってくる。

「梨華ちゃん、どう?」
息を切らせた後藤は呆然とたたずむ石川に声をかける。
「よっすぃ……、よっすぃ……」
石川はただ呆然と呟くだけだった。

メンバーたちは慌てて病室の中を覗く。

「ボスミンもう1アンプル行ってくれ」
「はい」
中では汗をながしながら、主治医が心臓マッサージを始めている。

人形のように力なく、主治医の動きに合わせて動く吉澤の体。
両親は沈痛な面持ちでそれをじっと見つめていた。

ギシギシとベッドのきしむ音、なりつづけるアラームの音、
そして母親の嗚咽。
その音が、彼女たちの心に冷たい衝撃を与えていく。

(頑張れ、頑張るんだ、よっすぃー……)
後藤は必死になって念じていた。彼女はいま最後の闘いをしている。
自分はもう何もできないが、少しでも力を分けてあげたい。
彼女は目を閉じ、必死になって祈った。

「う、ウソや……、いやや、いやや!」
加護は気が動転して暴れだす。
「加護ちゃん!」
ふとそれに気づいた安倍が加護をぎゅっと抱きしめる。

「よっすぃーが死んじゃう。どないしよう、どないしよう」
「加護ちゃん、落ち着いて。よっすぃーは頑張ってるんだよ?ちゃんと見てあげて!」
「いやや、いやや、あの娘と同じやん。そんなんいややぁ!」
安倍の胸の中で加護は、泣きながら叫んだ。
671名無し娘。:02/05/24 09:45 ID:KJsQFYVP

「辻ちゃん?」
そのとき飯田の腕の中にいた辻は急にがくがくと震えだす。

辻はもう立っていられなかった。加護の台詞で
吉澤の見舞いにいったときの、白血病の少女の死の現場が
頭の中で鮮明にフラッシュバックする。

今、そのときと同じ状況が目の前にある。
そしてそこにいるのは吉澤。

吉澤が本当に死んでしまう。あの少女と同じになってしまう──

息が苦しくなる。脈拍が急激に上がる。手がしびれてくる。
激しい胸の動悸と恐怖で辻の頭は真っ白になった。
672名無し娘。:02/05/24 09:54 ID:KJsQFYVP

カクンとした衝撃を飯田は感じる
そして、辻は崩れ落ちるように彼女の腕から抜け落ちた。

「のの!」
メンバーたちは叫んだ。

「紺野!看護婦さんを呼んで!」
飯田が叫ぶ。

ナースステーションから看護婦が駆け寄ってくる。
「どうしました」
「なんか、きゅ、急に倒れちゃって……」
「すぐ、先生を呼びます。とりあえず、こちらの病室へ」
看護婦はそう言って少し離れた病室のほうを指差す。
飯田と紺野は辻を抱えて、その病室へと向かった。

673名無し娘。:02/05/24 09:55 ID:KJsQFYVP

辻が病室へ運ばれる。別のドクターやってきて彼女を診察する。
そしてドクターは手際よく動脈血採血を済ませる。

暫くして採血の痛みからか、辻は目を覚ます。
緊張しているのか、体がこわばったまま動けない。
「よっすぃーは……、よっすぃーは……」
そうつぶやきながら再び震えだす
「大丈夫、大丈夫、辻ちゃん」
飯田は辻の肩を抱くようにして、震える辻を落ち着かせる。

看護婦が走りながらデータを持ってくる。
ドクターはさっとそれを眺める。
「過換気候群ですね」
飯田にそう言うと、紙袋を辻に渡す。
「心配しなくていいよ。この中で息をしてごらん」
やさしくドクターは声をかける。
しかし、再び彼女を激しい動悸が襲う。
苦しそうな表情をする。紙袋を持つことさえできない。

「無理だな。セルシン筋注しようか」
ドクターは看護婦にそういうと、彼女に向かって鎮静剤を注射した。
暫くして彼女は眠りにつく。

呆然とその様子を見ている飯田にドクターは言った。
「別に命に別状はありませんから、吉澤さんのところへいかれてください」
「あ、は、はい」

はっとわれに返った飯田は紺野とともに吉澤の病室へ向かって駆け出した。

674名無し娘。:02/05/24 09:56 ID:KJsQFYVP

飯田と紺野は吉澤の病室へと戻る。

「どう?吉澤は?」
飯田が保田に尋ねる。
「戻らない。もう大分時間がたってるけど」
「ホント?」
そういうと彼女たちは病室の中をのぞいた。

「先生、心停止から1時間です」
看護婦が時計を見ながらつぶやく。
主治医はいったん手を止める。そしてモニターをみる。
乱れていた波形がスッと平坦な波形に変わる。
すでに血圧は測定不能の数値まで下がっていた。

「お父さん、もうこれ以上は」
主治医はそう言って吉澤の父親をみる。

病室の外でその様子を眺めていたメンバーたちはグッと息を飲み込む。
675名無し娘。:02/05/24 09:57 ID:KJsQFYVP

「いや、いや、いやぁ……」
それが何を意味するのかがわかった石川は、
おもむろに病室の中に入ろうとする。

自分が心臓マッサージを続ける。腕がちぎれてでも続ける。
絶対吉澤を助ける。そんな想いだった。

「梨華ちゃん、ダメ。」
後藤が石川の体を抑える。
「いやだよぅ、やめちゃいやだよぅ……。やめちゃいやぁ……」
石川はそれを振りほどこうともがく。
後藤は必死になって石川を抑えつづけていた。

暫くして父親が主治医に答える。
「分かりました」
「あ、あなた!」
母親は父親の腕にすがる。
「ひとみは充分頑張った」
諭すように父親は母親に向かっていった。

それを受け主治医は瞳孔、脈を調べる。
そしてゆっくりと時計をみる。
「午前7時35分、ご臨終です。お力になれずに残念です」

そういうと、両親に小さく頭をさげ、
主治医は人工呼吸器の電源と、モニターの電源を落とした。

676名無し娘。:02/05/24 10:03 ID:KJsQFYVP

「いやや、いやや、よっすぃー!」
その瞬間、加護が叫ぶ。
「加護ちゃん、よっすぃーはもう充分頑張ったよ。ね?休ませてあげようよ」
安倍は座り込んでなきつづけている加護にそう言った。
「いややー、いややー」
しかし加護は首を振り、泣きつづけるだけだった。

「吉澤さん……」
新メンバーたちは声にならない声をあげる。
「くそー、なんでだよ、なんでだよ」
矢口は悔しそうに壁を叩いた。
他のメンバーたちは静かに涙を流しながら、吉澤の冥福を祈った。

「梨華ちゃん?」
後藤が腕の中で動かなくなった石川に声をかける。
呆然とたたずむ石川。焦点の合わない目線を宙に彷徨わせる。

暫くして看護婦たちがあわただしく、死後の処置を始める。

「待合室に行こうか」
保田が、後藤の腕の中にいた石川の肩を抱くようにして歩き始める。

そして、メンバーたちはそれに続くように、悲しみに暮れながら、待合室へと戻った。

677名無し娘。:02/05/24 10:04 ID:KJsQFYVP

待合室。そこには幾人かの患者達が不思議そうに彼女たちを見ていた。
そして、看護婦たちは朝食の配膳の準備に追われている。

「ののは?」後藤が飯田に尋ねる。
「あ、いまお薬で眠ってる。命に別状はないって」
飯田は思い出したように答える。
「そうかあ。ショックだったろうなあ。辻は吉澤と仲良かったし」
矢口が呟く。

沈黙が続く。朝食をとり終えた患者達が待合室にやってくる。
モーニング娘。の存在に気づいたのか、人が集まりそうな気配がする。

「そろそろ霊安室に行こうか。吉澤が寂しがるよ」
それに気づいた安倍は涙を拭くとメンバーたちに向かっていった。

「梨華ちゃん、行くよ」
後藤はそういうと、いすに座ったままうつむいて動こうとしない石川の腕を引っ張る。

「いやっ!」
「梨華ちゃん?」
「昨日一緒に踊ったんだよね?ライブに参加したんだよね?」
「なに言ってるの?」
「骨髄だってやっと見つかったんだよ?これからよっすぃーは良くなるんだよ。
また一緒にモーニング娘。をやるんだよ?そうだよ、そうだよ……。
ごっちんこそ何言ってるの?」
石川は後藤の顔をみないでそう答える。

彼女は主治医が吉澤の心臓マッサージをやめてから、自ら思考回路を遮断していた。
そうしないと、耐えがたいショックから自分の心を守れなかったからであった。

678名無し娘。:02/05/24 10:05 ID:KJsQFYVP

後藤自身も悔しくてたまらなかった。悲しくてたまらなかった。信じられなかった。
でも現実に吉澤は死んでしまった。彼女の闘いを弔うためにも、
落ち込んでばかりいるわけには行かないんだ。そんな想いが
いつまでも吉澤の死を認めようとしない石川に対する苛立ちとなる。

「梨華ちゃん、いいかげんにして!」
後藤は無意識のうちに石川の右頬を平手で叩いていた。

はっとした表情を後藤はする。石川はうつむいたまま左頬を抑える。
「ご、ごめん」
石川は返事をしようとしない。他のメンバーたちも如何していいのかわからず、
呆然とその様子を眺める。

「梨華ちゃん……」
後藤はそんな石川にむかって話し掛ける。
「…………」
それ以上の言葉を拒絶するように、
少し赤くなった涙でぬれた頬を抑える。

「ほら、人が集まっちゃうから。ね、石川。行こうよ」
保田がそれを見て、石川の手を引いて、霊安室へと歩き出す。
石川は、ふらふらと保田に手をひかれるまま歩いていく。

メンバーたちもそれについていくように霊安室へと向かった。

679名無し娘。:02/05/24 10:06 ID:KJsQFYVP

霊安室には、簡素な祭壇と、桐でできた棺が置かれていた。
葬儀屋の人たちと、看護婦が立っている。その横に両親が沈痛な表情で座っていた。

「お父さん、このたびは……」
飯田が挨拶をする。
「いろいろと有難う御座いました。どうか、顔を見てやってください」
そう父親はそう言うと立ち上がり、ゆっくりと棺の顔の部分を開く。

「吉澤……」
飯田、安倍、矢口、保田の4人は、血色のない真っ白な吉澤の顔を眺めた。
「なんでだよぉ、なんでもうちょっと……」
矢口が悔しそうな声をあげる。
「もっとはやく骨髄が見つけられればよかったんだよね…、ごめんね……」
安倍は涙を流す
「吉澤、もうプッチの心配はしなくていいからね。ゆっくり休んで」
保田やそう言って吉澤の髪を撫でた。

「吉澤さん……」
新メンバーたちも泣きながら吉澤のそばにくる。
憧れの先輩の死に、まだ幼い新メンバーたちはただ泣くことしかできなかった。

680名無し娘。:02/05/24 10:16 ID:KJsQFYVP

後藤が吉澤のところへやってくる。
「よっすぃー……、悔しかったよね、生きたかったよね。力になれなくてごめんね」
そういいながら彼女の髪を撫でる。

後藤も悔しかった。もう少しだった。あと1週間早ければ。
いや、あと数日でも良かったかもしれない。
悔しくてたまらない。でも、吉澤は充分頑張ってくれた。
彼女の頑張りはきっとみんなにつたわるはず。
そう思うしか自分を納得させることができなかった。


「加護ちゃんも、ほら」
動こうとしない加護の手を安倍は引っ張る。
しかし、加護はもう見たくなかった。
吉澤が死んでしまったのは分かっている。
でも、どうしても認めたくなかった。

「みてあげて」
安倍は口調を強める。
安倍の言葉に加護は小さく頷くと棺に向かって歩き出した。

加護は安倍にに連れられて吉澤の棺の元へやってくる。
いつも以上に白く、そして全く血色のない吉澤の顔が彼女の目に映る。

そこに命はもうないんだ──

加護の心の中に現実が突き刺さっていく。
「よっすぃー……、うっく……、なんでなん?なんでなん?
うっく……、あんなに元気やったやん……」

認めるしかない吉澤の死。
それを理解した加護は、棺にすがるようにして加護は泣いた。

「立派だったよね、頑張ったよね」
しばらくして安倍はそんな加護の肩を抱きながら語りかける。
「……うん。うっく……よっすぃーは……、ひっく……、頑張ったよ……」
加護は嗚咽をあげつつも、安倍の問いかけに必死で答えた。
その姿を他のメンバーたちは沈痛な面持ちで眺めていた。

681名無し娘。:02/05/24 10:19 ID:EBGjNGeu

保田は石川の手を引く。
「ほら、石川も」
呆然としていた石川は保田の手を振り払い、うつろな目をしたまま、
ふらふらと棺の元へ歩み寄る。

「石川……」
保田はそれ以上何もいえなかった。

「どうしたの、よっすぃー。なんで寝てるの?骨髄移植してもらわないといけないんだよ?
風邪引いちゃうよ?ほんとによっすぃーは自分勝手なんだから」
石川は、動かない彼女の体に向かって、小さな声でそう呟きつづける。

「よっすぃー、おきてよぉ」
まるで楽屋で居眠りをする吉澤を起こすように、やさしく彼女の頬を触る。

ヒヤリ──

冷たく、そして少しだけ固い感触が石川の右手に伝わる。

682名無し娘。:02/05/24 10:19 ID:EBGjNGeu

認めざるをえない現実。

そのことを思い出させるように、
止まっていた彼女の思考回路のスイッチが入る。

「いやぁぁぁ!」
石川は叫ぶ。

「つめたい……、よっすぃーがつめたいの!なんで、なんでぇ!」
メンバーたちにそう叫びながら、棺に崩れ落ちる。

石川は何度も何度も吉澤の頬を撫でる。

うそ?なんで冷たいの?
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ──

もう一度触ればきっと温かいはず。
そして何事もなかったように起きてくれるはず。

そう願いながら、撫でつづけた。
しかし、先ほどと変わらない、冷たい感触だけが彼女の手のひらに伝わる。

「つめたいよぉ……、よっすぃー、うっく…、うっく…、つめたいよぉ……」
石川は両手で吉澤の頬を包み込むように、手を当てつづけていた。

メンバーの誰もがその姿を見ることができなかった。
石川の吉澤の想う気持ちはメンバーの誰もが知っていた。
もうこれ以上言葉をかけることができなかった。

霊安室は石川の嗚咽だけが響いていた。

683名無し娘。:02/05/24 10:20 ID:EBGjNGeu

しばらくして父親は泣きつづける石川に歩み寄る。
「石川さん、そこまで言ってもらえてひとみも幸せだとおもいます」
そういうと、彼女の肩に手を置く。
その言葉に、石川は嗚咽をあげつつも顔を上げ、吉澤の棺から離れる。

「本当にお気持ちはありがたいです」
そういうと、父親は彼女にハンカチを渡す。
石川はそれをゆっくりと受け取ると涙をふき、
そして小さくお辞儀をした。

「石川……」
保田が石川に駆け寄り、肩をだく。
その保田の肩に頭を乗せるようにして石川は泣きつづけた。

霊安室のドアが開く。
そして、慌てた様子で主治医が入ってくる。
「このたびはお力になれず、残念です」
「いえ、これも運命だったんです。有難う御座いました」
父親は気丈にもそう答えた。
684名無し娘。:02/05/24 10:22 ID:EBGjNGeu

「そろそろ、出発をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
葬儀屋の人がそう両親に告げる。
「おねがいします」
両親がそういうと彼らはひつぎを外の車へ運び出した。

メンバーたちは主治医らともに外へ出る。
棺が車の中へと入れられる。両親たちも後に続くように車に乗り込む。

「よっすぃー……」
ただ、メンバーたちはそうつぶやくことしかできなかった。

大きなクラクションの音が響く。

ゆっくりと車は走り出した。
主治医と看護婦たちはその車に向かって一礼をする。
それをただ、眺めることしかメンバーたちはできなかった。


この日、吉澤ひとみの闘いは、幕を閉じた──

685名無し娘。:02/05/24 10:28 ID:EBGjNGeu
今日の更新は以上です。次回の更新で完結です。
お読みいただいてる方、本当に有難うございます。
686名無し娘。:02/05/24 10:34 ID:EBGjNGeu
>>678
申し訳ないです。後藤が叩いたのは、石川の左頬で統一してください。
右手で叩いた設定ですので、左頬に当たります。
687 :02/05/24 19:16 ID:mx99hXzj
今学校で読んでるんだけど涙をこらえるのに必死でした。
臨終から葬儀屋に渡すあたりが淡々として妙にリアルなのが逆に泣かされました。
688名無し募集中。。。:02/05/25 03:30 ID:jaKdgzph
・・・・・・・・・これってコンサートに出なければ悪化せずにすんだんですか?
助かったんですか?だとしたら・・・・・。
689名無し娘。:02/05/25 11:02 ID:0ezyxGzx

>>687
申し訳ないです。
>>688
だとしたら……。の後が気になるんですが(w
マジレスすると、医学的には因果関係を証明できないでしょう。

ラストです。
690名無し娘。:02/05/25 11:03 ID:0ezyxGzx

吉澤の通夜、告別式が行われる。
実家近くにある会場であるにもかかわらず、
芸能人仲間や、ファンの人たちだけでなく、
患者団体の代表、そして、大物政治家を始めとする政治家、
某新聞社会長を筆頭とするマスコミ関係者が参列する。
トップアイドルとはいえ、17歳の少女の葬儀としては異例の規模であった。


「このような結果になって残念です。もっと早く法案が成立していれば……」
告別式に現れた大物政治家は、両親とメンバーたちに向かって言う。
「まだ、たくさんの関連法案が残ってます。早期成立をひとみは望んでました」
父親はそう答える。
「わかりました。最善をつくします」
大物政治家はそう答える。そして、あわただしく会場を後にする。

「すごい人たちがきてるね」
安倍が矢口に向かって言う。
「うん、この活動はもう社会を動かしてるんだ。吉澤は死んじゃったけど、
まだ、吉澤と同じ苦しみを味わっているひとはたくさんいるんだ」
矢口はそう答える。
「そうだよね。それが吉澤が私たちに教えてくれたことだよ」
保田は吉澤の遺影を見ながら二人に向かっていった。

そこには美しい吉澤の笑顔があった──

691名無し娘。:02/05/25 11:04 ID:0ezyxGzx

「ののは大丈夫なの?」
後藤は飯田に尋ねる。
「なんか2、3日の入院して様子見るって。でも大分落ち着いてるみたい」
「のの……、寂しいやろな……」
加護は心配そうに呟く。
「そうですね、ひとりぼっちですから」
紺野も相槌を打つ。

「梨華ちゃん、大丈夫」
後藤は横にいる石川を心配する。

「大分気持ちに整理がついたと思ったんだけどね。
あの写真をみると、もうだめなの……」

吉澤が笑っている。
でももうその笑顔は、写真でしかみれないんだ。
もう彼女の匂いを、彼女のぬくもりを、もう感じることはできないんだ。

石川は遺影を眺めながらぽろぽろと涙をこぼしていた。

「……」
後藤はそれ以上何も言わなかった。
彼女の気持ちは後藤が一番良くわかっていた。

692名無し娘。:02/05/25 11:05 ID:0ezyxGzx

葬儀は滞りなく終了し、吉澤の遺体は火葬場へと運ばれる。
両親とメンバーたちは火葬場の外で吉澤の遺体が焼かれるのを待つ。

しばらくして火葬場の煙突からは、煙が立ち始める。
それを眺めるようにメンバーたちは空を見上げる。
その日、風はなく、煙はメンバーたちの上をまっていた。

まるで、彼女たちとの別れを惜しむように──

「よっすぃーが煙になっちゃったよぉ……」

もういないんだ。もう会えないんだ。
その想いが石川の瞳を再び濡れさせる。

「天国に行くといいねえ」
飯田はそう呟く。

「絶対行くよ。だって、あんなにみんなのために頑張ったんだから」

吉澤は頑張った。吉澤は立派だった。
彼女の死を絶対無駄にしない。私は絶対彼女を忘れない。
後藤は煙を眺めながらそう答えた。

693名無し娘。:02/05/25 11:12 ID:0ezyxGzx
しばらくメンバーたちの上に留まっていた煙は
急に吹き出した北風によって、南の方角へと流れていく。

「東京のほうに向かってるね」
矢口が呟く。

「きっと辻ちゃんのところだよ」
安倍は上を見上げたままそう言った。

「なんか、よっすぃーの姿が目に浮かぶね」
メンバーたちは入院している辻の元へ向かう吉澤の姿に想いを馳せる。

「辻さんのところに行った後はどうなるんですか?」
ふと、高橋が尋ねる。
「お星様になって、私たちをずっとみていてくれてるよ」
安倍はそう答えた。
「なっちはロマンティックだなあ」
矢口が小さく笑う。
「矢口さん、ミニモニ。の歌詞にもありますよ」
加護はそういいながら、流れていく煙を追いかけるように眺める。
「きっと、きっと、吉澤さんは私たちのことを見守ってくれてます」
紺野はそう呟いた。

「そうだね。よっすぃーはモーニング娘。が大好きだったんだ。
だから、私たちをずっと見ていてくれるはず。ね、梨華ちゃん」
後藤は、ずっと空を見上げながら涙を流している石川の手を握る。
「……うん」

その台詞にメンバーたちは空を見上げながら小さく頷いた。

694名無し娘。:02/05/25 11:15 ID:0ezyxGzx

メンバーたちは1週間ほどの休養を取る。喪に服すのと、
年少メンバーたちの精神的なショックをとるためだった。
ただ、その間も安倍、矢口を筆頭に年長メンバーは、
追悼番組のゲストとして、多忙な日々をおくる。
某新聞社会長の系列のテレビ局は連日のように、吉澤の闘い、
そしてモーニング娘。の闘いを特集した。


休養があけ、事務所にはメンバーたちが集まってきていた。
少し遅れて、退院した辻がやってくる。

「辻、大丈夫?」
「のの、もう体はいいの?」
メンバーたちはいっせいに彼女をみる。

「大丈夫れすよ。心配かけてごめんなさい」
「ううん、ショックだったよね」
飯田が辻の元へ歩み寄る。

「それがあんまりおぼえてないんれす」
「ええ?そうなの?」
メンバーたちは不思議そうな顔をする。
「はい、なんでれすかねえ?」

「のの、寂しかったやろ、ごめんなお見舞いに行けへんで」
少し遠慮気味に加護が話しかける。
「寂しかったれすよ。でもね、眠るとよっすぃーがユメに出てきて、
励ましてくれるんです。なんか変れすよね」
辻は考え込むように腕を組む。

メンバーたちはその答えを聞いて再び驚く。
「ほらね」
安倍がメンバーたちに微笑む。
「なんのことれすか?」
辻は不思議そうな顔をして、驚いているメンバーたちにたずねた。

695名無し娘。:02/05/25 11:16 ID:0ezyxGzx

安倍は火葬場で起こった煙の話を辻にする。
始めはメンバーたちの上をずっと煙が舞っていたこと。
しばらくして、それは辻の入院していた病院の方角へ流れていったこと。
そして、吉澤は星になって、私たちをみているんだと。
辻は驚いたようにその話を聞いた。

「たぶんね、辻ちゃんが倒れちゃったのも、あんまりそのことを
覚えてないのも、自分が死んじゃうところを見せたくなかったからじゃないかな」
安倍はやさしい目をして辻にそう言った。

「そうなんれすか……」
しばらく考え込んでから、辻はそう答えた。


よっすぃー、よっすぃー。きてくれたんですね。
有難う。有難う。ののはもう大丈夫です。
ののはよっすぃーのことが大好きです。
今も、これからもずっと大好きなままです。

彼女の大きく澄んだ瞳からぽろりと涙がこぼれる。
辻は吉澤への想いを心で何度も呟いた。

「ほら、もう泣かないの」
飯田が自分のハンカチで辻の涙を拭く。

「梨華ちゃんもだよ」
後藤が横にいる石川の腕をつつく。

石川はその話を聞いて、吉澤の姿をまた思い出していた。
なぜだか、あふれるように涙が出てくる。
自分でもなぜかわからなかった。
少しは吹っ切れたと思っていたのに。

「ご、ごめん。暗くなっちゃうね。ポジティブ、ポジティブ」
そう言って石川は涙を拭いた。
696名無し娘。:02/05/25 11:17 ID:0ezyxGzx

「ほら、たくさんの手紙がきてるよ」
矢口が事務所の机に詰まれた手紙の束を指差す。
メンバーたちはそれをおのおの開き、読み始める。

「よっすぃーの似顔絵だね」
後藤の開いた手紙からは一枚の絵が出てきた。
つたない絵であるが、それはどうみても吉澤だった。
7歳ぐらいの子供だろうか。小児白血病で骨髄移植を受けた子供からだった。
そこには、“よしざわさん、ありがとう”との文字が書いてあった。

「こっちはミニモニ。だね」
「みんな子供からだね。やっぱ慰問キャンペーンのおかげかな」
おのおのは、励ましの文章、そしてメンバーたちの似顔絵が入った手紙を次々と
開封する。

「ほら、みて」
石川は一枚の絵をみつける。
それは心臓移植を待つ患者からの、励ましの手紙に同封されていた。
そこにはベッドに寝ている一人の患者を取り囲むメンバーたちの姿、
そして、その上には微笑んでいる吉澤の姿が描かれていた。

「寂しいんだろうね。元気を分けて欲しいんだろうね」
石川は呟いた。
「みんな、ひとりぼっちなんれすよ」
辻は自分自身の入院時の孤独感を思い出す。

適合骨髄が見つかった患者たちからの喜びの声、
いまだ見つからない患者の孤独と悲痛な叫び。
日本ではなかなかみつからない、臓器移植を待つ患者の切実な願い。
そして、家族、友人たちのメンバーたちの活動への期待。
メンバーたちへの励ましの裏にあるそのメッセージを
彼女たちは手紙の山から読み取っていく。

「頑張らなくっちゃ。もう、これ以上私たちが味わった悲しみや苦しみを他の人に
味わわせちゃいけないんだ」
「そうだね」
後藤の台詞にメンバー全員は頷いた。

697名無し娘。:02/05/25 11:20 ID:0ezyxGzx

数ヶ月の時間がたつ。
12人体制のモーニング娘。は今までと同じように活動する。
プッチモニには小川が正式加入し、また違った魅力を引き出していた。
そして、メンバーたちは白血病キャンペーン、臓器移植キャンペーンを続ける。
キャンペーンライブ、そしてミニモニ。の小児病棟の慰問活動。
それは吉澤の死の前となんら変わらなく続けられた。

骨髄バンクの登録者数は30万人に届き、イギリスなど先進国の数字に
並ぶ勢いとなっている。
同種間骨髄移植も以前より適合率が15%ほど上がり、白血病だけでなく、
再生不良性貧血などの治療にも活発に使われるようになっていた。

臓器移植の関連法案は審議が始まり、倫理上の問題、システムの問題について、
マスコミ紙上で活発な討論が行われる
某新聞社の医療ルネッサンスの特集では、
きわめて進んでいるアメリカの移植医療について紹介される。
それが日本でできる日を、命を削りながら待ちつづける患者の声とともに。

白血病、そして臓器移植を待つ患者、そしてその家族の期待と喜びの声。
その声を背に、彼女たちはハードなスケジュールをこなしていく。

そして、再びライブツアーが始まる。

698名無し娘。:02/05/25 11:21 ID:0ezyxGzx

吉澤が亡くなってから初めてのライブ、
メンバーたちは姫路セントラルパークにある野外ステージにきていた。
白血病の娘。を救えツアーは恒例となり、骨髄バンク協会のテントはいつものように
張られている。そこで配られる骨髄バンクのパンフレット、その表紙には
吉澤ひとみの笑顔があった。

普段どおりの楽屋。
相変わらず仕事はハード、しかし順調。
そして、何も変わらない日常が戻って来ていた──


「思い出すね」
石川はそのパンフレットを眺めながら、前にこの会場に来たことを思い出す。
「よっすぃー転びまくってたよね」
後藤が答える。
「あの衣装、かっこよかったのにね。転んじゃあ台無しだよ」

前回は雨の野外ステージだったよね。
舞台がぬれてて、何度も転んだっけ。
みんなまた戻ってきたよ。
ねえ、いっしょにあのときの話をしたいよ。
よっすぃー……。

「梨華ちゃん?暗くなってない?」
後藤が心配そうに答える。
「あ、大丈夫、大丈夫。もうね、泣かないことに決めたの」
石川は後藤にそういうと、小さく微笑んだ。

699名無し娘。:02/05/25 11:22 ID:0ezyxGzx

今回は雲ひとつない晴天であった。太陽は徐々に西に傾いてきている。

「吉澤が晴れにしてくれたんじゃない?」
保田がメンバーたちに話し掛ける。
「そういえば、一番転んでたよね、あのステージ」
後藤が答える。
「いや、ごっちんだって転んでたよ」
石川が意地悪そう後藤の腕をつつく。
「いや、なんといってもいいらさんのこけっぷりれすよ」
辻は飯田のひざの上で笑いながら言った。
「なによー、しょうがないでしょ。濡れてたんだし」

いつもと変わらないライブ前の楽屋。
そんなことを言いながら、メンバーたちは思い出話にはなをさかせていた。


「そろそろ準備おねがいします」
会場のスタッフの声がする。
メンバーたちはおのおの最後の準備にとりかかった。

700名無し娘。:02/05/25 11:23 ID:0ezyxGzx

会場は満員のファンで埋め尽くされている。
一部には親子席のほかに、白血病で苦しんでいる子供たちとその家族のための
席が設けられている。
ライブが始まる。メンバーたちは、吉澤への想い、病気で苦しんでいる人たちへの想い、
そして、自分たちを応援してくれるファンへの想いを胸に歌い、そして踊る。

ライブは充分な盛り上がりを見せる。
そして、メンバーたちは順調に、最後の曲を歌い終えた。
701号泣:02/05/25 11:27 ID:poWQozSA
うぁぁぁぁぁん
702名無し娘。:02/05/25 11:30 ID:0ezyxGzx

歓声、そしてアンコールの声が鳴り響く──

滴り落ちる汗をぬぐいながら、メンバーたちは楽屋へと戻る。

「今日は誰も転ばないね」
矢口が笑いながら言う。
「よっすぃーのおかげだよ」
後藤がそう答える。
「みててくれてるかなあ」
石川はすこしだけ切なそうにそう言った。

「ほら、今日は野外だからね。それに星がきれいでしょ」
それを聞いた安倍が楽屋のテントの隙間から見える星空を指差す。

「よっすぃーはお星様になったんだよね」
加護と辻は少し背伸びをしながら上をみあげる。

それにつられるようにメンバーたちは空を見上げた。
そしてそのメンバーたちに向かって安倍は話し掛ける。

「だから、アンコールのMCでよっすぃーに伝えたいことがあるんだ」

「え?なに?」
驚いた顔をしてメンバーたちは安倍のほうをみる。
「あとでね」
安倍はいたずらっぽく笑った。

「アンコールお願いします」
スタッフの合図が入る。

「なっちのいうとおり、今日はきっと吉澤も見てます。恥ずかしくないように頑張りましょう」
飯田が掛け声をかける。12人になったメンバーたちは手を重ね合わせる。

「頑張っていきまっ」
「「「しょい!」」」

メンバーたちの声がそろった。
703名無し娘。:02/05/25 11:31 ID:0ezyxGzx

メンバーたちの再登場で会場が沸く。
「アンコール、ありがとー!」
「みんな、ありがとー!」
「親子席のみんな、そして病気と闘ってるみんな、楽しんでくれましたかー?」

アンコールのMCが始まる。安倍の希望で最後は彼女のMCだった。

安倍はマイクを持ち、一歩前へ出る。そして話し始める。

「今日はメンバーのみんな、そしてファンのみんな、
そしてお星様になって私たちを見守ってくれているよっすぃーに
報告したいことがあります」

歓声が上がっていた会場は、それを聞いて静まり返る。

「実は、私の骨髄を必要としている人がいるんです」

安倍はゆっくりと、そしてはっきりと話した。

会場がざわめく。

「この活動をはじめて、いろいろなことを学び、そして知りました。
そして、吉澤の死は私たちにとても大きなことを教えてくれました。
医療が進んだこの日本でも、まだ助かるべき命があるんです。
そんな患者の苦しみ、そして周りにいる人間の悲しみ。
それを少しでも減らすために、私たちは一生懸命活動しています。
その中の一人が、そしてその人の家族、友人たちの苦しみや悲しみが、
もし私の骨髄で救えるのなら、こんなにうれしいことはありません」


心の中の本当の気持ちを伝えたい。

メンバーたちに、ファンのみんなに、
病気で苦しむみんなに、そして天国にいる吉澤に──
704名無し娘。:02/05/25 11:33 ID:0ezyxGzx

「なっち!」
メンバーたちは声をあげる。安倍はメンバーたちに微笑みかけると、
再び会場のほうを見る。

「というわけで、もう少ししたらちょっとだけお休みします。
ちょっとドキドキなんだけど、みんなも、そして天国にいるよっすぃーも
応援してくれるよね?」
そう言って、会場に笑顔でたずねた。
その瞬間、会場内は大きな歓声と拍手が沸きおこる。

「なっちの骨髄はきっと元気だよ!どこのだれだか分からないけど、絶対治ってね!」
そう言って、安倍は腕を大きく突き上げた。

歓声が一段と大きくなる。会場内は異常なまでの興奮に包まれる。

メンバーたちは安倍のそばへ集まる。

「安倍さん、そうだったんですか」
「なっち、よっすぃーもきっと喜んでるよ」

「へへ、ちょっとキザだったかな?」
安倍は照れくさそうに笑った。

メンバーたちは会場の興奮が少し落ち着くのをまつ。そして、飯田は最後のMCをした。

「人は助け、そして助けられ生きています。モーニング娘。もみんなに支えられてます。
そして、私たちがみんなの心を支えることができたら嬉しいです。
私たちの本当の気持ちが伝わって欲しいと思います。聞いてください」

「そうだ!We’re ALIVE──」

705名無し娘。:02/05/25 11:34 ID:0ezyxGzx

会場の歓声のなか、曲が始まる。

努力!未来!THE BEAUTIFUL STAR──

そう、私たちは生きているんだ。
そして、人に勇気や元気を与え、そして与えられながら生きているんだ。


流れるように歌い、そして踊りつづけるメンバーたち。
会場の興奮はさらに増してゆく。


メンバーたちは吉澤への想い、そして病気で苦しんでいるひとたちへの想い。
モーニング娘。としての使命感を感じながら歌い、そして踊る。
みんなに、自分たちの本当の気持ちが伝わるように。


よっすぃー、見てる?
みんな頑張ってるよ。
ねえ、私たちモーニング娘。は
ちゃんとみんなに、勇気や元気を与えていますか?
よっすぃーの頑張りに恥じないように、歌えてますか?踊れてますか?


メンバーたちはステージ中央に集まる。
そして、曲の終わりとともに、右手を上に突き上げる。

自分たちの想いが、星空の中にいる吉澤に伝わるように──



そのとき、夜空の星がまばゆく輝き、その光がメンバーたちを包み込んだ。





リュウケミア──吉澤ひとみとメンバーたちの闘い──  了


706名無し娘。:02/05/25 11:35 ID:0ezyxGzx
以上の更新で完結です。

まず最初に、吉澤さんとそのファンの人、申し訳。
ちょっとは前2回の更新の内容の痛さを和らげられたでしょうか。
現実感にこだわったので、死のシーンがくどかったかもしれません。申し訳。

前作から更新情報を載せていただいた、KOSINeoさん有難うございました。
それとこんな作品を保管してくれている娘。小説保管庫の管理人さん有難うございました。

そしてここまでお付き合いいただいた方有難うございます。
特に、レスをくれた方、本当に励みになりました。
心から感謝いたしております。

リュウケミアの作者 拝
707名無し募集中。。。 :02/05/25 11:44 ID:Mf7Ji2x5
お疲れ様でした。
とても素晴らしい作品でした。
そしてありがとうございます。
また次の作品を楽しみにしています。
708 :02/05/25 11:54 ID:UqV+ShlY
作者様、お疲れ様でした。
今までに色々小説を読ませていただいて来ましたが、
これほど各続きを待ち望んで読んだものは初めてでした。
さすがに、終盤2,3回は体に悪かった気もしますが(w
素晴らしいものをありがとうございました。
709 :02/05/25 13:43 ID:uhKBSD9L
久々に感動をありがとうございます。
死のシーンはくどいなんて感じなく逆にテンポ良く読ませていただきました。
また次回作品があるようでしたら楽しみにしています。
710名無し募集中。。。:02/05/25 20:36 ID:1zQ3/bbU
毎日毎日、更新を楽しみにしていました。
読む度に感動して涙したり、
ここまで引き込まれた作品はひさしぶりです。
2chに来てこの小説に出逢えてよかったです。
次回作がありましたら、またお知らせ下さい。

#本当に凄かった…名作っすよ、コレ
711324:02/05/25 21:24 ID:U6ykRIWX
お疲れ様でした。
小説とはいえ本当に悲しくなったりするぐらい引き込まれていました。
期待していた甲斐があったなとつくづく思っております。
約二ヶ月にわたる執筆ご苦労様でした。そして、ありがとうございました。
712楽しみました。:02/05/25 22:56 ID:kgbSm1XQ
コンサで滑るよっすぃを思い出して、思わず落涙
「あの頃は、元気だったよなぁ。・・・死んでないって!」
と自分に突っ込みを入れる位、入り込みました。
713自営業 独身:02/05/26 08:06 ID:pFbm/ymV
今までに泣ける小説や悲しい小説はたくさんあったけど、
ここまで「痛みの伝わる」小説はなかった。


             ・・・俺も骨髄バンクに登録しようと思う。
714名無し募集中。。。 :02/05/26 09:42 ID:AuuViIgC
もうすぐハロモニだよ。
この小説読みはじめてから、元気な吉澤さんを確認するたびほっとする日々・・・。

よっすぃ生きてる。よかったよかった
715714:02/05/26 09:44 ID:AuuViIgC
やべえ!あげちった。 ま、いいか、完結したんだし。
716名無し募集中。。。 :02/05/26 09:57 ID:RQnexw8T
関係ないけど俳優の伊藤俊人さんの逝去とこの小説の完結が偶然重なり悲しみ倍増。
717 ◆KOSINeo. :02/05/27 00:21 ID:vTomZagZ
御脱稿おめでとうございます。お疲れ様でした。
なかなか読み応えのある作品で、毎日の更新チェックが楽しみでした。
次回作にも期待しています。
718718:02/05/27 02:33 ID:x/g1rRq0
薬漬けで人らしくない死に方で宜しくない。
俺なら尊厳死を選択する。
719名無し募集中。。。:02/05/27 02:49 ID:T4ieaWY+
>>716
禿同…「(ここの)よっすぃー死んで、伊藤さんまで!」とか思った。
ついついその記事目当て(?)で普段買わないスポーツ紙を買いあさったよ…。

とまあ、それくらい最後まで入り込んで読んでました。
姫路セントラルパークに行っていたので、ついついその時の事を思い出し、
よけいに悲しくなったり…ラスト数回分の更新は、読んでて涙が止まりませんでした。
本当に、読ませていただきありがとうございました。そして、お疲れ様でした。

最後に、冒頭にも書いたので…伊藤俊人さんのご冥福をお祈りいたします…。
結構好きな俳優さんだったのになあ…スレ違いスマソ。
720名無し娘。:02/05/29 10:49 ID:iY6bxFpE

レス有難うございます。お返事遅くなりまして申し訳ございません。
>>707
こちらこそお付き合いいただいて有難うございます。
そう言っていただけると嬉しいです。
>>708
終盤かなり痛い描写が続いてしまいました。
少しリアル感にこだわりすぎました。
>>709
そう言っていただけると救われます。
緊張感がある作品をと思ってました。
>>710
名作なんてとんでもないです。
他にも、感動できたり、涙できるたくさんの娘。小説があります。
>2chに来てこの小説に出逢えてよかったです。
本当に嬉しいです。
>>711
いつもレス有難うございました。励みになりました。
ご期待に添えましたら幸いです。
721名無し娘。:02/05/29 10:50 ID:iY6bxFpE
>>712
有難うございます。私も時々吉澤をみて、元気だ。良かったと思ったりしてました(W。
>>713
嬉しいです。病気の苦しみを少しでも伝えられれば幸いです。
>>714
いや、本当に吉澤ファンのひと申し訳。あげても大丈夫でしょう。もう完結しましたし。
>>716
驚きました。くも膜下出血だそうですが、比較的若い人に多いですね。
私の知り合いの方も何人か亡くなってます。あれは突然ですので、残された人の悲しみは
かなり大きいです。ご冥福をお祈りいたします。
>>717
いつも本当にお疲れ様です。スレの多い羊で、小説が書けるのも
貴殿のおかげかと思います。いったいどうやって氏にスレから見つけてくるのか、
いまだに謎です(w
>>718
治療というものは患者本人が最終決定しないといけませんのでご心配なく。
>>719
現実の活動とのリンクも一つのポイントでしたので、嬉しいです。
あれって、新メンバーの初舞台だったですかね?記憶があやふやだったので、
そのあたりを書かなかったのですが。

皆様、本当に有難うございます。嬉しいです。
722名無し娘。:02/05/29 11:46 ID:8baf1DB4

はっきりいって蛇足なんですが、あとがきでも。

娘。小説で病気、病院ものは結構な数がありまして、
その中でも白血病ものの代表作といえば、超有名作者、黄色い狛犬さんの
「やぐちゅーサークル」(飼育雪板倉庫)でしょうか。
死の恐怖にふるえる中澤。そして中澤を想う矢口の気持ち。
それが表現力豊かな文章で切々と綴られています。

有名どころでは、エイズを題材とた、VirtualWorldの作者さんが書いた
いちごまの名作「ふたり」(作者サイト)。
圧倒的な文章力でふたりの想いが迫ってきます。

他にも、心臓病を題材にした「加護のユメ」(飼育金板)は辻の純粋な
悩み、悲しみが重くならずに描かれている佳作ですし、
メンバー総動員の病院ものの、詩音さんの名作「微笑みのそばで…」(飼育空板)は、
予想を裏切る痛すぎる展開、治療の甲斐なく次々となくなっていくメンバー、
そして残されたメンバーたちの想いが綴られていきます。とんでもないぐらい痛いです。

私が名作と思う作品だけでも、これだけあるわけですから、
他にも知らない作品がまだまだあると思います。
というわけで、もうすでに読者さんたちはお腹一杯だったと思います。
ホントに申し訳なかったです。
723名無し娘。:02/05/29 11:48 ID:8baf1DB4

それでも書いてしまった理由なんですが、
どの作品もカップリング同士の葛藤、せつなさ、悲しみの描写がメインなんです。
いや、あたりまえなんですけどね。それを書くのが本当なんです。
でも、あんまり病気と闘ってないんですよね。だからあえてテーマは闘病にしました。
なんというか闘病ドキュメンタリーのような感じにしたかったんです。
ですからできるだけリアルに、本当にありそうな感じを出すようにしました。

前半は吉澤の闘病を、そして、後半は白血病に対してメンバー全員で闘ってもらいました。
そして、実際に闘病中の若い患者さんの中には、アイドルやミュージシャンを心の支え
としている人が沢山います。アイドルである彼女たちが患者の心だけでなく
命も救うにはどんなとができるだろうかというのを妄想してみました。

でも、多分もうこんな作品は書けません。実はテーマが重過ぎて、どうやったら、
テーマに失礼にならずに書くかというのに苦しみましたから。

繰り返しになりますが、お付き合いいただいた方、本当に有難うございました。

724 :02/05/29 17:23 ID:4uBSVwim
お疲れです作者さん。
この作品も大変楽しかったですけどまたあいぼんの憂鬱≠ンたいなくだらなく笑える
小説を密かに期待してます。
725 :02/05/31 22:09 ID:z+OGNKZ9
もうしばらくだけ置いておこうよ
726 ◆HOzENDAE :02/06/01 16:30 ID:GsM2vNNu
 
727 :02/06/03 00:43 ID:yYGCms3J
hozen
728 :02/06/05 21:01 ID:O23iW896
hozen
729 :02/06/09 15:09 ID:jr3yBr0F
保全
730 :02/06/10 21:36 ID:a/4aiTXJ
731 :02/06/12 20:17 ID:P5YJLDSi
ze
732na:02/06/14 13:45 ID:E6fo4Scl
733sage:02/06/16 03:45 ID:u1sFkDHt
h
734 :02/06/20 13:58 ID:mBE1OPnS
o
735名無し娘。:02/06/21 11:21 ID:FlQTZrNt

ご無沙汰です。なんか保全していただいて有難うございます。
せっかくですから短編でも。

実はひとつ飼育の短編集向け(今回はテーマは青)に書いたのですが、長すぎなのと、
加護たんと添い寝スレのあるレスからイメージしたので、
やはり羊で書くべきかなと思って載せてみます。
まあ、イメージ元のスレがあれですから、テーマは添い寝(w。
しかも男×娘。のアンリアルものだしなあ。お口に合わなかったら申し訳。
下のAAは台詞変えただけだったりして。まあ、なんとなくイメージと言うことで。

>>724
というわけで、あいぼんものです。
>>725-734
保全有難うございます。

3回ぐらいの更新です。(ってだれも見てないね)
736名無し娘。:02/06/21 11:22 ID:FlQTZrNt

小説 「あいぼん1945─青い髪飾り─」


@ノハ@
(〃´д`)  オニイチャン……。
(   .. )
(_)_)

737名無し娘。:02/06/21 11:23 ID:FlQTZrNt

「あいぼん、海をみにいこう」
久しぶりにおにいちゃんはそう言った。
ウチはうんと返事すると、
歩いて10分ほどにある神戸の海に行くために、家を出た。
何年ぶりやろう。そう思うぐらい久しぶりのことやった。

早くに結核でおとうさんをなくしたウチらは、
神戸の大きな製鉄所に職を見つけたおかあちゃんについて、
奈良から神戸へと引っ越してきた。
そしていつも神戸の港に近い、海の見える場所で
おかあちゃんの帰りを待ちながら、おにいちゃんと二人で遊んでいた。

ウチは尋常小学校を出た後、近くの町工場で働いて家計を助けていた。
そして、学年で一番優秀だったおにいちゃんは、先生の勧めもあって、
一中から、医専へと進んだ。

おかあさんとウチは、おにいちゃんの学費のために一生懸命働いた。
学校に行かれへんかったし、仕事もしんどかったけど、辛くはなかった。
おにいちゃんのためやから。おにいちゃんがお医者さんになるためやから。
それぐらい、おにいちゃんはウチの自慢やった。
738名無し娘。:02/06/21 11:24 ID:FlQTZrNt

ウチらは、小さい頃よくとおった道を歩いた。
夏の神戸はとても暑いけど、海からの風が
潮の匂いを運んできて、それが心地よかった。
六甲の山からはジージーとセミの声が聞こえてきてた。
なにも昔と変わらへんかった。
違うのは、おにいちゃんとウチの背が大きくなったことぐらい。
そして、照りつける太陽はとてもまぶしくて、
ウチはおにいちゃんの顔を見上げることがでけへんかった。

いつもの場所につくと、ウチとおにいちゃんは、
神戸の青い海を一緒に眺めてた。

おかあちゃんがなかなか帰ってこなくて泣き出してしまった日。
そういえば、おにいちゃんはこの場所で、小さいウチを抱っこして、ずっと慰めてくれた。
そのときの出来事が、ついこの間のこと様に目の前に浮かんできた。
そんな昔の話をたくさんした。

「あした行ってしまうねんな」
ウチは神戸の港に浮かんでいる、巡洋艦をみながらそう呟いた。

おにいちゃんは小さく頷いた。
739名無し娘。:02/06/21 11:32 ID:FlQTZrNt

「南の島にいくねんてなあ。南洋のおみやげいっぱい買ってきてな。
ウチ、貝殻の髪飾りがええわ」
ウチはあえて明るくそう言った。

おにいちゃんはウチのほうをみると笑って、
「何色がええんや?」
と、たずねた。

ウチは、海を見ながら
「神戸の海と同じ、青色がええ。約束やで」
と、答えた。

おにいちゃんは分かったといって、海を見つめていた。

夏の神戸の海はあの頃と変わらずに、きらきらと光っていた。
740名無し娘。:02/06/21 11:33 ID:FlQTZrNt

そんなおにいちゃんが医者になったのはつい数ヶ月前のことやった。
おかあちゃんとウチは立派になったおにいちゃんの姿をみて、
とてもよろこんだ。もうおかあちゃんも働かんですむ。
ウチももしかしたら学校へいけるかもしれん。そう思っとった。
せやけど、そのよろこびは一枚の赤い紙のせいで一瞬にして消え去った。

軍医として南洋へ出兵せよ──

そんな知らせやった。
おにいちゃんは顔色一つ変えずその紙をみていた。
そしておかあちゃんは、お国のために頑張ってきなさいとおにいちゃんに言った。
ウチはなにも言えずにただ、おにいちゃんの姿をみつめていた。
741名無し娘。:02/06/21 11:34 ID:FlQTZrNt

しばらくすると、近所の人がお祝いに駆けつけてくれた。
この地区いちばんの秀才だったおにいちゃんの出兵をみなよろこんでいた。

そして夜は大宴会やった。
お兄ちゃんは笑顔で、ありがとうございます、
お国の為に頑張ってまいりますといって、
大好きなお酒をのんでいた。

ウチは海を見つめるおにいちゃんの横顔を見ながら、
そんなついこの間の出来事を思い出しとった。

青い空には、白いカモメがいつものように、ゆっくりと飛んでいた。

742名無し娘。:02/06/21 11:35 ID:FlQTZrNt

二人で海を見た日、それはおにいちゃんの出兵の前日やった。
おかあちゃんは、夜、近所の人が持ってきてくれた明石の鯛を焼いてくれた。
鯛は一匹しかなくて、お兄ちゃんのお膳にだけそれが乗っていた。

ウチがうらやましそうに眺めていると、おにいちゃんが半分いるかと聞いてくれた。
ウチはええの?と言っておにいちゃんのお膳に手を伸ばした。
おかあちゃんははしたないとおこってたが、おにいちゃんはいいからといって、
具のないお味噌汁と芋粥しかないウチのお膳に、鯛をほぐして入れてくれた。
初めて食べる鯛の味にウチはおどろいとった。
ウチ初めてや。これって、おいしいんかな。おにいちゃんに食べたことあるん?、
てきいたら、おにいちゃんも初めてや。あんまりよう分からんなと言った。

それがなぜかおかしくて、二人でクスクスとわらった。

743名無し娘。:02/06/21 11:46 ID:LdAhfgVI

その日の夜は蒸し暑かった。
涼しげな風鈴の音が「ちりん」となっても、
ウチはどうしても眠れへんかった。
ふと、起きて隣の部屋を除いてみた。
おにいちゃんはウチとおかあちゃんの写真を見つめていた。
その表情はとても寂しげやった。しばらくすると、
おにいちゃんはその写真を大事に包んで、かばんの中へいれた。
そして、いつもの表情にもどった。

ウチはますます眠れんようになって、夜風を浴びようと、廊下へ出た。
その途中、おかあちゃんの部屋から明かりが漏れているのに気づいた。
ウチは部屋をのぞくと、おかあちゃんが一人仏壇に手をあわせ、
しんだおとうちゃんにお祈りしてるのが見えた。

おかあちゃん、ウチだけがさみしいとちゃうねんな。

ウチはふすまを開けると、おかあちゃんの横に座り、一緒に手を合わせた。
おかあちゃんはなんにもいわんかった。
744名無し娘。:02/06/21 11:47 ID:LdAhfgVI

ウチはそのまま自分の部屋へと戻った。
もう一度隣の部屋をのぞくと、お兄ちゃんは荷物をまとめ終わり、
ちょうど寝るところやった。
ウチは思わずふすまを開けた。なぜか分からんかった。

おにいちゃんはすこし驚いた顔をして、ウチのほうをみた。
それは写真を見ていたときと同じ表情やった。
それをみて、ウチの胸がドクンと大きく鳴った。

おにいちゃんがいなくなってしまう──

その想いが、ウチの頭の中をグルグルと回っていた。
ウチはこのまま一人で寝るのが怖かった。

ウチは、小さい頃よくそうしたように、おにいちゃんのふとんの横へ、ちょこんと座った。そんなことをしたのは、お兄ちゃんが中学校へ入ったとき以来やった。
お兄ちゃんは何も言わず、ウチを布団の中へ入れてくれた。

ウチはおにいちゃんの横にもぐりこんだ。
その日のお兄ちゃんの布団は、死んだおとうちゃんと同じ匂いがした。

それを嗅いだせいか、おにいちゃんとの思い出が
ウチの頭のなかでよみがえっていた。
745名無し娘。:02/06/21 11:48 ID:LdAhfgVI


「あのな、ウチな」
ウチは思わず口を開いた。
するとお兄ちゃんはこちらに顔を向けてくれた。
その表情は優しくて、ウチを包んでくれるようやった。

「毎日、手紙書くわ」
実は、そんなこと言いたいんとちゃうかった。
せやけど、おにいちゃんは
「おにいちゃんも書くよ」
と、いって笑ってくれた。
その笑顔がまた優しくてウチは泣きそうになった。

ウチはしばらくなにも言えへんかった。

「あいぼん、がんばってな。おにいちゃんもがんばるさかい」
お兄ちゃんは固まっているウチにそう言って、頭を撫でてくれた。
その感触がまた優しかった。
746名無し娘。:02/06/21 11:49 ID:LdAhfgVI

ウチはお兄ちゃんの匂いを嗅ぎながら、
あと、何回おにいちゃんと呼べるのだろう。
そんなことを考えていた。

「あのな、おにいちゃん」

そんなの嫌やった。
何回でもおにいちゃんって呼びたかった。
ウチは寂しくて、思わず言わないつもりやった台詞を言ってしまった。

「帰ってきてな、絶対帰ってきてな。約束やで」

戦地へいくおにいちゃんに、そんな約束ができる分けないのは分かっとった。

おにいちゃんはわかったといって笑ってくれた。
せやけどその笑顔は少し寂しげやった。

その笑顔の意味がウチには分かった。
747名無し娘。:02/06/21 11:54 ID:LdAhfgVI

おにいちゃんがいなくなってしまう。
もう会われへんかもしれん。
そう思うと、ウチの心のなかで蓋をしていた気持ちが
あふれてきた。

「あのな、おにいちゃん……」

せやけど、それ以上の言葉をいえなかった。
ウチは泣いとった。なぜだか涙がとまらんかった。
おにいちゃんは何も言わず、優しくウチを抱きしめてくれた。
その感触が優しくて、また涙があふれてきた。

そのまま、ウチはお兄ちゃんの腕の中で眠ってしもうた。
748名無し娘。:02/06/21 11:58 ID:LdAhfgVI
今日の更新は以上です。改行ミス申し訳。
749名無し募集中。。。 :02/06/21 13:13 ID:pISZyN2T
うう、俺、もう泣いてしまってる・・・
このスレ、お気に入りに入れといてよかった。
750名無し募集中。。。:02/06/21 14:37 ID:NJcVMTNC
切ないです。
レス数チェックしといてよかった。
751名無し募集中。。。:02/06/22 00:52 ID:drwTnZ1z
漏れ、名無し娘。さんについていきたい…
752名無し娘。:02/06/22 08:26 ID:G09pJYzj

>>749
まだ半分も終わってないんです……。
お気に入りに入れていただいて感謝してます。
>>750
有難うございます。覗いていただいて嬉しいです。
>>751
名無し娘。はあくまで「名無し」です(w。
そして、期待は禁物です。

見てくれた人がいてとても嬉しかったり。
感謝です。
753名無し娘。:02/06/22 08:27 ID:G09pJYzj

おにいちゃんの出兵の日、おかあちゃんとウチは神戸港へ見送りに行った。
近所の人たちも総出でおにいちゃんの晴れ姿をみにきとった。
出航目前のおおきな巡洋艦は煙を上げていて、
デッキには沢山の軍人さんがおって、荷物が一杯つみこまれとった。

おにいちゃんはおかあちゃんにいままでありがとうと言うと、
ウチの頭をクシャクシャとなでてくれた。
そして、行ってくると言って、巡洋艦に乗り込んだ。

大きく一回、汽笛がなった。

みんなは万歳三唱をしてた。
ウチはそれをする気になられへんかった。
おかあちゃんがそれにきづいて、ウチをつついた。
おにいちゃんの晴れ姿や、ちゃんと見送ってあげんとと言われた。
それでウチもしかたなく万歳をした。

お兄ちゃんはそれを見て、笑顔で手を振ってくれた。

(絶対帰ってきてな)

ウチは心の中でそう叫んだ。
754名無し娘。:02/06/22 08:31 ID:G09pJYzj

おにいちゃんが行ってしまってから、ウチの家は火が消えたように静かになった。
おかあちゃんは、おにいちゃんのことをなにもいわんかった。
ウチも家ではその話をせえへんかった。ただ、黙々と働いた。

一ヶ月に一度ぐらい、おにいちゃんから手紙がきた。
手紙の内容は日々の生活のことと、ウチやおかあちゃんを心配していることぐらいやった。
せやけど、それだけでもウチは嬉しかった。おにいちゃんは生きとる。
お国の為にがんばっとる。だから、ウチは一生懸命返事を書いた。
みんなたのしく、元気にやっていると、そう書いた。

手紙が来る間隔はだんだんと長くなっていったが、
ウチはおにいちゃんの帰りを信じて、家からも見える神戸の海を見つめていた。

755名無し娘。:02/06/22 08:34 ID:G09pJYzj

冬になると、ウチは働いている町工場で、ののという女の子と知り合いになった。
東京に住んどったらしいが、大空襲で母親と姉は死んでしもうたとのことやった。
そして、父親はすでに戦死しとるとのことやった。
それで神戸に居る親戚を頼ってここに来たという話やった。

せやけど、ののにもおにいちゃんがいて、
ウチのおにいちゃんとおなじで南洋の戦地へ行っとるという話しやった。
そう、ののの生きている唯一の肉親がそのおにいちゃんやった。

年頃の女の子二人が集まれば、恋の話やら、お洒落の話をするはずやったが、
この時代に若い男の子はみんな戦争に行ってしまって、ウチらは恋なんて
できるはずもなかったし、もんぺ姿では、お洒落どうこうの話もでけへんかった。
せやから、いつのまにか、ウチらの話すことと言えばおにいちゃんの自慢話ばかりやった。

「ウチのおにいちゃんは軍医やねん」
「のののおにいちゃんは指揮官なのれす。あいぼんのおにいちゃんよりえらいのれす」
「そんなこと言ったって、怪我したらウチのおにいちゃんにみてもらわないかんやん」
「のののおにいちゃんは鉄砲の玉にはあたらないのれす」

たわいもない話。でもお互いに自分のおにいちゃんのほうが優秀やと信じていた。
そして、必ず帰ってくると信じていた。たくさんのお土産と、優しさを持って。
756名無し娘。:02/06/22 08:38 ID:C8hCTWu7

年が明けると、戦況は大本営の発表と異なり、悪化の一途をたどっていた。
配給のお米も遅配がつづいて、女の稼ぎでは日々の生活がやっとやった。
そしていつしか、神戸の上空にも米軍機がやってくるようになった。

ウチはその日、久しぶりに神戸の港にきていた。
ののは、神戸の海が見たいといって、一緒についてきていた。
遠くにみえる戦艦は出航準備の最中やった。

ウチは青い海を見て、おにいちゃんと海を見たときのことを思い出しとった。

「ウチな、ここで、おにいちゃんに髪飾りをおねだりしてん」
「ほんとれすか?ちょっとうらやましいのれす」
「ののも、おにいちゃんに手紙でおねだりしたら?」
「あ、その手があったれすね。よし、さっそく書くのれす」

そのときやった。いままで見たこともないぐらい
大きくて長い飛行機が遠くに見えた。
プロペラが四つもついとった。
それをみて、ののは震えだした。

「同じれす。あの時と同じ飛行機れす」
ののはそう呟いた。
「B29や……」
そばをとおりかかったおばちゃんが呟いた。
「もしかしたら、神戸も空襲になるかもしらんな」
そうおばちゃんは呟いた。

「あいぼん、怖いれす……」
ののは思い出しとった。そして小さく震えとった。
「神戸は大丈夫やろ」
ウチはののを安心させるため、そう答えた。
757名無し娘。:02/06/22 08:40 ID:C8hCTWu7

暫くして、案の定神戸の街は空襲で火の海となった。
ウチとおかあちゃんは難を逃れたが、港のそばのウチの家は燃え、
なけなしの家財道具も失った。
ののの親戚の家は高台にあって、大丈夫やったみたいやった。

町工場も燃え、ウチとののは仕事を失った。
ののは仕事がなくなったことよりも、ウチの家が燃えてしまったことを
心配してくれた。
ウチは、大丈夫、なんとかなるねんと強がった。
弱音を吐きたくなかった。
日本が勝てば、そしておにいちゃんが帰ってくればなんとかなる。
そう思っとった。

しばらくして、近所の人と協力して建ててもらったバラック小屋に
ウチとおかあちゃんはすむようになった。
家と呼ぶにはかなり粗末なものやったが、それはそれでウチは満足やった。

そんなころ、久しぶりにお兄ちゃんの手紙が来た。
青い貝殻の髪飾りを買ったこと、そして作戦が終わったら日本に戻ると書いてあった。
ウチは嬉しくて嬉しくて、何度も何度も読み返した。
そして、返事を書いた。楽しく、元気でやっていると。なにも変わってないと書いた。
ウチは、空襲で家がなくなってしまったことは書かへんかった。

そして、ウチは、ののに自慢しに行った。空襲でやけたことを心配していたののに、
少しでも元気なところを見せたかった。

「ほれ、ウチのおにいちゃん、髪飾り買うてくれたんやで」
そう言ってののに手紙を見せた。
ののはうらやましそうにそれをみとった。

「ののはどないなん?」
「おにいちゃんに、赤い髪飾りを買ってくるように手紙を書いたんれすけどね」
そう言って寂しげに笑った。その表情がとても切なくて、
ウチはなんと言ったらいいか分からんかった。

「のののおにいちゃんは指揮官やから忙しいねんて」
「そうれすね。ひまな軍医さんとはちがうのれす。いちいち返事なんて書けないのれす」
ののはすこし意地悪っぽくそう言った。
ウチはいつもなら反論するところやったが、
ののの寂しげな表情をみたら、そうやな、としか答えられへんかった。

結局、しばらくしても、のののおにいちゃんからの返事は来うへんかった。
そして、ウチのおにいちゃんからの手紙もそれっきり届くことはなかった。
758名無し娘。:02/06/22 08:43 ID:C8hCTWu7

夏がまたやってきた。蒸し暑い日々が続いていた。
セミの声がまた聞こえ始め、潮の匂いが心地よく感じるようになっていた。

そんなある日、のののおにいちゃんも戦死したとの知らせがきた。
ウチは慌てて、おかあちゃんとお通夜のため、ののの家へと行った。

親戚のおっちゃん、おばちゃんに囲まれて、若くして喪主となったののは、
決して泣かず、笑顔を作っていた。
そう、戦死することは名誉なことやった。
唯一の肉親を無くして、独りぼっちになってしまったのに。

ウチは、そんな姿のののを見とったら、
お通夜が終わるまでその場を離れることがでけへんようになった。
すると、ののはおかあちゃんと二人で居るウチをみて、こちらにやってきた。
おにいちゃんの遺骨のはいった箱を持って。

「あいぼん、そしておかあさん。きてくれてありがとうなのれす」
ののはそう言うとお辞儀をした。

「これがのののおにいちゃん……」
ウチはその箱をみて呟いた。
のののおにいちゃんは、ののの小さな手で持てるほどの大きさやった。

「中をみますか?」
ののはそう言ってその箱を開いた。
そして、その中をのぞいてウチは驚いた。

中には南洋の砂が入っとった。
それはとてもきれいやった。
ウチは何にも言えんかった。

ののは驚いているウチの顔をみると、
「おにいちゃんは軍神になったのれす。神様に骨はないんれすね」
と言って、悲しげに笑った。
ウチはそうやな、としか言えんかった。

帰り道おかあちゃんにウチは尋ねた。
おにいちゃんがもし戦死したらどうするのと。
おかあちゃんは、お国の為に立派に闘ったんだから誉めてあげると言った。
その言葉が本心からかどうか分からなくて、すこしもどかしかった。
759名無し娘。:02/06/22 08:45 ID:C8hCTWu7

数日後、ウチはあの場所へ海を見に行った。青い海をみれば
憂鬱な気分もすこしは晴れると思っていた。

しかしその場所には先客がいた。
それはののやった。

ののは防波堤の隅でしゃがみこんでいた。そして、大事に抱えている
おにいちゃんの遺骨が入った箱──それは砂しか入ってないのだが、
を開き、中の砂を少しだけとりだして、神戸の海に撒いていた。

「おにいちゃん、日本の海れすよ」
そういいながら少しずつ少しずつ掬っては海に撒いとった。
「南の島は暑かったれすよね。日本も暑いんれすが、ちょっとはましれすか?」
そう言ったあと、ののの動きがぴたりととまった。

よく見ると、ののは、
「おにいちゃん……、おにいちゃん……」
と小さな声で呟きながら、泣いていた。
ウチはそんなののの姿を遠くから眺めていた。
760名無し娘。:02/06/22 08:49 ID:C8hCTWu7

しばらくすると、ののはウチに気づいた。
そして、さっと涙を拭くと、てへてへと笑った。
ウチはのののそばへ駆け寄った。

「みたれすか?」
「ん?何を?」
「いやなんでもないのれす」
ウチはあえて見なかったふりをした。
せやけど、ののはほんまは気づいとったかもしれん。

「のの、何かあったら言ってな」
ウチはそう言った。ほんまの気持ちやった。

とうとう独りぼっちになってしまったのの。
ウチは友達として、そしてともにおにいちゃんを戦争で
連れて行かれた者同士として、何か手助けをしたかった。

「あいぼん、ののは大丈夫れす。おにいちゃんは軍神になって、
ずっと、のののことを見つめていてくれてるんれす。
それに靖国に行けばいつでもあえるのれす」
ののはそう言った。
せやけど、青い空を見上げたののの瞳からは、
涙が溢れそうになっていた。
ウチはののの気丈さに何もいえなかった。

ウチのおにいちゃんもいつかああなってしまうんやろか。
そのときは、ののみたいにちゃんと気丈に振舞えるやろか。
ふとそんなことを考えている自分に気づく。

あかん、何考えてんねん。
おにいちゃんは帰ってくるんや。
そう思って、ウチは心にグッと力を入れた。

せやけど、おにいちゃんからの連絡はないままやった。
761名無し娘。:02/06/22 08:51 ID:C8hCTWu7

そして、あの8月15日がやってきた。

ウチとおかあちゃんは、
大切な放送があると聞いて、
ラジオを持っとるお金持ちの家にみんなで行った。
そして、あの放送を聞いた。
みんなうなだれとった。日本全体が悲しみ一色やった。

せやけど、ウチは少し嬉しかった。
戦争が終わった。
もし、おにいちゃんが生きとったら、もう死なんですむ。
そう思っとった。

戦争が終わって、おかあちゃんは仕事のなくなった製鉄所を辞めることとなった。
ウチも町工場が空襲でやけて以来、仕事がなくなっとった。
ウチと、おかあちゃんは家で細々と内職をしながら暮らしていた。
そして神戸の街にも進駐軍がやってきた。
762名無し娘。:02/06/22 08:54 ID:C8hCTWu7

ウチとののはそれを見に、神戸の街へと出た。
空襲で焼けたと思っていた、神戸の繁華街は思ったほど被害はなく、
旧居留地の洋館も、異人館も残っとった。

「ここには外人がいっぱいすんでたのれすから、残ったそうれすよ」
ののはそれをみて、そう呟いた。

何台かのジープが目の前をとおっていった。
沢山の子供たちがそれを追いかけていた。
そして目の前で、一台のジープが止まった。
アメリカ兵が車から降りて、ウチらを見下ろしていた。

白い肌。金色の髪。
そして大きな体、太い腕。
ウチの倍以上あるかとおもうほどの巨大な人間たち。
ののとウチは彼らを見上げながら、その威圧感に震えていた。

ウチらとの体格の違い。そして見たこともないような車。
金色に輝く時計。きれいな軍服。そしてサングラス。

おにいちゃんたちは、こんな人らと闘っとったんや。
全てが違った。勝てるわけない、そう思った。

アメリカ兵たちが訳のわからへん言葉をしゃべると、
子供たちがその周りに集まってきた。
そして彼らは車から、見たこともないきれいな色をしたものをウチらの方へ投げた。
子供たちはいっせいにそれを拾う。ウチもののもようわからんまま、慌ててそれを拾った。
763名無し娘。:02/06/22 08:56 ID:C8hCTWu7

「なんやろ、これ」
と、ウチは沢山ひろったその包みを見つめていた。
「お菓子れすよ、アメリカの」
ののはそう言った。

ウチは包みを開けてみた。それはチョコレートというもんやった。
いままで嗅いだことのない甘い匂いがした。
おなかの減っていたウチは、なにも考えんと、
おもわず、それを口に運ぼうとしたときやった。
ウチはふと周りをみた。

子供たちはむさぼるようにそれを拾い、それを食べていた。
それをいかにも優越感に浸るように、眺めているアメリカ兵。

ウチは悔しかった。
彼らはまるで侮蔑するような微笑を浮かべているように見えた。
おにいちゃんはこんな人らと戦ってたんや。
敵やったんや。絶対許さへん。そう思ってた。
気がつけば、ウチはそのきれいな包みに入ったチョコレートを握り締めていた。

「のの、食べたらあかん!」
ウチは包みを開けていたののにそう叫んだ。
「なんれれすか?」
「のののおにいちゃんを殺した人たちや。日本人も沢山殺されたんや。
そんな連中の慈悲なんてもろうたら、おにいちゃんが浮かばれへん!」
ウチはそう言った。

ののは、じっとチョコレートを見つめていた。
せやけど、戦後の食料難でろくにご飯も食べれていないウチらにとって、
それは酷なことやった。

「そうれすね……」
しばらくしたあと、ののはそういって包みを閉じた。
せやけど、ウチもののも、チョコレートを捨てることはでけへんかった。
764名無し娘。:02/06/22 08:58 ID:C8hCTWu7

帰り道、ウチらは黙って歩いていた。
おなかは減っていたが、今日も食べるものがないことは分かっていた。
空腹が、胃のあたりをチクチクと刺激しとった。

ののは手にもったチョコレートの匂いを嗅いでいた。
「甘い匂いれす……」
そうあきらめきれないように呟いた。
ウチはもう何も言わんかった。

「ちょっとだけならいいれすよね……」
ののはそう言ってチョコレートを一口囓った。

「こんなおいしいお菓子は初めてれす……」
ののは驚いた表情をしてチョコレートを見つめた。
そして、一気にチョコレートを食べてしもうた。

ふと見ると、ののは泣いていた。
なんでか分からんからんかった。
「どないしたん?」
ウチは尋ねた。
「食べたら分かるれす」
ののはそう答えた。

ウチはその言葉で、一口だけ囓ることに決めた。
包みを開けると、その甘い匂いが鼻をくすぐった。
すこしやわらかくなったチョコレート。
それにゆっくりと歯を立てた。

その瞬間、いままで味わったことのないような甘さが広がった。

おいしい──

空腹に耐えていた胃を、それは激しく刺激した。
もう、とめられなかった。
ウチはむさぼるようにそれを食べていた。

おにいちゃんたちと闘っていたアメリカ兵。
ウチらに苦しい思いをさせていたアメリカ兵。
そう思っとったのは、鬼畜米英と教育されていたからかもしれんかった。
せやけど、そんな彼らは戦争の間でも、毎日こんなものを食べとったんや。
ウチらはお粥もろくに食べれへんかったのに。
そして、空腹に絶えられず、それを食べてしまう自分の姿が悔しかった。
おにいちゃんたちはご飯も食べんと、アメリカ兵と闘っとったのに。
気がつけば、ウチも泣いていた。

おにいちゃんたち、そして闘って国の為に散っていった人たちへの申し訳なさと、
自分たちの貧しさと惨めさが涙となって溢れて来るのが分かった。
ののの涙の意味が分かった。
ののとウチは、泣きながらチョコレートを食べた。
765名無し娘。:02/06/22 09:02 ID:C8hCTWu7
今日の更新は以上です。
明日は更新できません。申し訳ないです。
766名無し募集中。。。 :02/06/22 09:16 ID:qSmvFRXN
まだ、半分も終わってなかったのか・・・
でも俺、涙が止まんないよ・・・
767なちまりぶりんこ ◆VeYYGuDo :02/06/23 12:32 ID:+TrAbeiD
てす
768名無し娘。:02/06/23 13:09 ID:5RSau/IP

暫くの時間がたった。ウチらは平和のありがたみを実感しとった。
もう、空襲に怯える夜は来ない。
あんなに憎んでいた、アメリカ兵も
最近はお菓子をくれる外人さん程度にしか思わなくなってきとった。

ウチは内職をしながら、時々家の窓から見える、神戸港の青い海を見つめていた。
そして、そこに船影がみえると、あの場所へと走っていった。
それは、復員船を待つためやった。

おにいちゃんは生きとる。
青い貝殻の髪飾りをもって、帰ってきてくれる。
そう信じとった。
神戸の青い海。それを見つめながら、
ウチは来る日も来る日も、おにいちゃんをまっとった。

ののは、そんなウチの姿をみて、
いつかきっと帰ってくると励ましてくれたが、
いつまでたってもおにいちゃんは帰ってこんかった。
769名無し娘。:02/06/23 13:15 ID:5RSau/IP

六甲の山が色づき始めたある日、おにいちゃんと一緒に闘っていたという
おっちゃんがウチにやってきた。
そのおっちゃんには片足がなかった。
爆弾で吹き飛ばされたとのことやった。
そして、おにいちゃんに治療してもらって一命をとりとめたとのことやった。
おっちゃんは、おにいちゃんにお礼がいいたいとのことやったが、
まだ復員してないと言うと、やはりといった顔をした。

おっちゃんは、ウチの顔をみると、「あんたが、あいぼんか?」と尋ねた。
ウチが、ハイと答えると、おっちゃんはポケットをごそごそとあさり、
中から出したものをウチの手に乗せた。

ウチはそれを見て、胸が大きくドクンとなった。
すぐに、おにいちゃんの姿が目に浮かんだ。

それはいかにも南洋風な、青い貝殻の髪飾りやった。
770名無し娘。:02/06/23 13:16 ID:5RSau/IP

「おっちゃん、これ……」
ウチはおっちゃんを見上げながら尋ねた。
おっちゃんはウチの顔を悲しげな表情でみると、ゆっくりと語りだした。

おっちゃんの話によると、怪我をしたおっちゃんは、
さらに前線へと進んでいく部隊についていけなかった。
指揮官はけが人はその場に留まって、救出をまてとの命令した。
そして、部隊が前進する日、おにいちゃんが、日本に帰ったら
妹のあいぼんに渡してくれとこの髪飾りをおっちゃんに預けた。
その後、おっちゃんは後からきた違う部隊に救出され、日本に帰ってきた。
そして、おにいちゃんのいた部隊は消息を絶ったとのことやった。

おにいちゃんは覚悟を決めたんや、そして、おにいちゃんは立派やった、
と、おっちゃんはそう言ったあと、生きて帰ったひともおるから、
気を落とさんとと言ってウチの頭を撫でた。

しばらくウチは手のひらに乗ったままの、青い貝殻の髪飾りを見つめていた。

おにいちゃんは約束を一つ守ってくれたんやね。
せやけど、もう一つの約束はどないしたん?
おにいちゃん、いまどこにおるん?
ウチ、寂しいよ。帰って来うへんの?

一緒の布団で約束したときのことを思いだして、涙が溢れてきた。
771名無し娘。:02/06/23 13:17 ID:5RSau/IP

おっちゃんはウチのおかあちゃんに、「のの」という子を知らんかと尋ねていた。
ウチは涙を拭くと、その娘は友達や、とそのおっちゃんに言った。
おっちゃんは、ならこれを渡してくれんか、といって、
ウチの手のひらに赤い髪飾りを載せた。

それはウチのお兄ちゃんがこうてくれた、青い髪飾りと色違いやった。

なんで?──

ウチは訳が分かれへんかった。

おっちゃんによると、これは指揮官やった、のののおにいちゃんが、
ウチのおにいちゃんと一緒に買ったものらしかった。

──ウチのお兄ちゃんものののおにいちゃんも、一緒の部隊で闘っとったんや。

そして、のののおにいちゃんは戦死した。
部隊はほぼ全滅。ということは……、

ウチはそれ以上のことを考えることがでけへんかった。

おかあちゃんは、おにいちゃんは立派でしたかともう一度尋ねとった。
おっちゃんは、それはすばらしい人でしたと言うと、
ウチらにお礼をいって帰っていった。

ずっとウチは二つの髪飾りを見つめとった。
772名無し娘。:02/06/23 13:18 ID:5RSau/IP

ウチは、しばらくして、ののの家に行った。
ののは真剣な表情をしているウチをみて、コンコンと咳をしながら、
不思議そうな顔をした。


ウチはののの家の庭で、縁側に座ってゆっくりと口を開いた。
「のの、驚かんといてな」
ウチはののに手を出すように言うと、その手のひらに
あの、赤いほうの髪飾りを乗せた。

ののの動きが止まった。
そして、小さく震えとった。
暫くして、ぽたぽたとののの手の平に涙がたまっていくのが見えた。

「おにいちゃん……、おにいちゃん……」
ののは小さな声でそう呟きつづけた。

ウチはののが落ち着くのを待って、おっちゃんから聞いた話をした。
そして、もう一つある、青いほうの髪飾りをののにみせた。

ののは、しばらく考えた後、
「ということは、あいぼんのおにいちゃんも……」
と、呟いた。

ウチは小さく頷いた。せやけど、しばらくして首を横に振った。

信じたくなかった。
せやけど、涙がじわじわとたまっていくのが分かった。

気がつけば、悲しげにコオロギがコロコロリーと、なき出していた。
773名無し娘。:02/06/23 13:19 ID:5RSau/IP

おかあちゃんはその日を境によく寝込むようになっていた。
日々の生活の疲れと、やはりおにいちゃんの復員が絶望的やと思ったからやった。

ウチの稼ぎでは生活も苦しく、毎日がどん底やった。
せやけど、ウチはそれでも船影が見えるとあの場所へと出かけていった。

お兄ちゃんは二つの約束してくれた。
一つは青い貝殻の髪飾り。もう一つは絶対帰ってくること。
すでに、約束の一つは守ってくれた。
おにいちゃんは嘘をつくような人やない。

ウチはおにいちゃんを信じとった。
いや、信じるしか心の支えがなかったんかもしれん。

何隻もの復員船が港についた。
何度もあの場所へ走った。
沢山の人が抱き合って喜んどった。
せやけど、やっぱりウチのおにいちゃんは帰って来んかった。
774名無し娘。:02/06/23 13:20 ID:5RSau/IP

おかあちゃんの病状は悪くなる一方やった。
内職の稼ぎだけでは、病院に行くこともできず、
何の病気かも分からんかったし、お薬も買えんかった。
おかあちゃんはいつしか、昔のおにいちゃんのことばかり
話すようになっていた。そして、おにいちゃんが生きていれば、
おにいちゃんが生きていればと呟くようになっていた。

ウチはそれでも、船がみえるたび、神戸のあの場所へ行った。
気がつけば、復員船の数も減って、
いつしか普通の貨物船ばかりになっていた。
そんなときは、しばらく神戸の海を眺めていた。

実はもうあきらめとったのかもしれんかった。
おにいちゃんを待つんやなくて、
おにいちゃんとの思い出を探していたのかもしれんかった。
せやけど、ウチにとってはどちらでもよかった。
あの青い海をみればおにいちゃんを思い出す。
ただ、それだけがどん底な生活での唯一の心の支えやった。
775名無し娘。:02/06/23 13:22 ID:5RSau/IP

六甲の山頂に白い帽子が被り始めた頃、
ののが、病気やという知らせが届いた。
最近会っていないことに気づいたウチは、
あわててののの家に見舞いに言った。

薄暗い北向きの部屋で、布団の中で横たわっているののは、
青白い顔をして、そして少しやせていて、まるで別人のようやった。
ののは小さな咳をしながらウチをみた。

「あいぼん、ののは結核なんれすよ」
ののは寂しげにそう言った。
「結核……」
ウチは驚いた。
それは、死の病やった。
ウチのおとうちゃんもそれで死んだことを思い出した。

「びょ、病院はいったんか?」
「一度だけ。れも、お薬は高いんれす。ののは居候ですから、
そんな贅沢はいえないんれす」
ののはそう呟いた。
ウチはなにもいえへんかった。

「あいぼん、そんな悲しい顔しないでくらさい。ののは怖くないれす」
そう言うと、ずっと握り締めていた右手を開いてウチにみせた。

そこには、赤い貝殻の髪飾りがあった。

「もうすぐ、おにいちゃんのところにいけるんれす」
ののはそれを見つめながらそう呟いた。
その表情はほんまに嬉しそうやった。
776名無し娘。:02/06/23 13:22 ID:5RSau/IP

「あいぼん、おねがいがあるんれす」
ののはウチのほうをみると、ゆっくりそう言った。

「ののが死んだら、遺骨をもって、靖国神社に連れてってくれますか?」
ウチはののの言っている意味が分からへんかった。

不思議そうな顔をしていると、
「おにいちゃんはそこにいるんれす。そこでおにいちゃんの天国ですんでる
場所を聞かないといけないんれす」
と、ののは真面目な顔をしてそう言った。

結核がどんな病気かはよう知っていた。
そしてののの気持ちも充分伝わっとった。
せやけど、ウチは嫌やった。

ののはいままで生きてきて、なんかええことあったんか?
家族みんな、戦争で殺されて。
そして自分は苦しい生活のなかで、結核に冒されとる。

不憫やった。悔しかった。
せやけどウチはののになんもしてやれへんかった。

おにいちゃんがおったら、医者のおにいちゃんがおったら、
ののの病気を少しでも良くすることができたのに。
おにいちゃん、なんで帰って来うへんの?
そんなことを思っていたら、また涙が出て来そうになった。

ののの前で泣いたらあかん。

ウチは必死で涙をこらえながら、分かったと言った。
それを聞いてののは嬉しそうな顔をした。
777名無し娘。:02/06/23 13:25 ID:5RSau/IP
更新できないといいながら、時間ができたので更新しました。
次で終わりです。短編のつもりだったんですが、結構長い……。

>>766
すばやいレス有難うございます。次で終わりですので。
778 :02/06/24 00:52 ID:TvDkxquZ
hozen
779 :02/06/24 07:53 ID:7yBnsjk1
がんがってください。
780名無し娘。:02/06/24 14:04 ID:FIaoh95x

そんなある日、ウチがいつものように内職をしながら、
家の窓から海をみていると、遠くから船がやってきた。
暫く眺めていると、いつもの貨物船とは違う船やった。
それは久々に帰ってくる復員船やった。

「おかあちゃん、復員船やな」
ウチはそう呟いた。おかあちゃんは布団の中でああそうと
ため息をついた。それはいつものようにあきらめた口調だった。

「ちょっとみてくるわ」
ウチはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。

久しぶりやった。雪がちらつき始めた神戸の港はどんよりと曇っていて、
六甲おろしがぴりぴりとウチの頬を刺した。

ウチは服の襟をたてながら、いつものように降りてくる人の波を見つめた。
沢山の人が船から出てくる。そのたびに歓声があがり、
何人もの人が抱き合って喜んどった。

せやけど、おにいちゃんは出てこおへんかった。
やっぱり、今回も無理なんやな、とちいさくため息をついたときやった。

ウチの視線は一人にくぎ付けとなった。
781名無し娘。:02/06/24 14:05 ID:FIaoh95x

おにいちゃん?

そこにはおにいちゃんにそっくりなひとが降りてきていた。
ウチは慌てて、ポケットの中をまさぐった。

青い貝殻の髪飾り。

そして、それをぱさぱさのウチの髪の毛につけると、
人ごみの中へと入っていった。

おにいちゃん、分かる?あいぼんやで。
ほら、おにいちゃんが買うてくれた、
青い貝殻の髪飾りしとるで。

体の小さいウチを見つけてもらうために、
少し背伸びしながら人ごみを掻き分けた。

その人はウチの髪飾りをみると、はっと嬉しそうな表情をした。
782名無し娘。:02/06/24 14:06 ID:FIaoh95x

もう、間違いなかった。
そこには、ぼろぼろになった軍服を着て、
おおきなかばんを抱えたおにいちゃんがいた。

ウチの前におにいちゃんがゆっくりとやってくる。
それはどうみても、何度も目を擦ってみても、
やっぱりおにいちゃんやった。

「おにいちゃん!」
ウチはずっと言いたかったその言葉をやっと叫ぶことができた。

おにいちゃんはにっこりと微笑むと、ウチの髪飾りを見て、
「よう、似合っとる」
と言って、ウチの頭をクシャクシャと優しく撫でた。
その感触は、あの出兵した日と全く同じやった。

「約束、守ってくれたんやね」
ウチはそう言っておにいちゃんに抱きついた。

嬉しくて嬉しくて涙がとまらんかった。
おにいちゃんはウチを優しく抱きしめてくれた。
ちょっとやせたおにいちゃんは、あのときと同じ匂いがした。
783名無し娘。:02/06/24 14:06 ID:FIaoh95x

ウチは昔、おにいちゃんといつも歩いてた道をとおった。
おにいちゃんは変わり果てた神戸の街をみて寂しそうな顔をした。
そしてウチらの住むバラック小屋についた。
おにいちゃんは驚いとった。

「空襲で全部もえてしもうてん」
ウチはおにいちゃんにそう言った。

ガラリと玄関の扉を開ける。
すぐそこには床に臥したおかあちゃんがいた。
おかあちゃんはおにいちゃんの顔をみると、
とても驚いた顔をして、一生懸命起き上がろうとした。

おにいちゃんは、ええからといっておかあちゃんの
布団のそばに座り、おかあちゃんの体をゆっくりとさすった。
そして、心配かけてすまなかったと謝った。
784名無し娘。:02/06/24 14:10 ID:8vRT9FWp

「おにいちゃん、実はおかあちゃん病気やねん」
ウチはおにいちゃんの横にぴったりと寄り添いながらそう言った。
もう離れたくなかった。

おにいちゃんはウチをみてにっこり笑うと、持っていた大きなかばんを開けた。

ウチはその中を見て驚いた。
そこには、戦地から持ちかえってきた、沢山の薬が入っとった。

「おにいちゃん、これでおかあちゃん治るん?」
と、ウチは聞いた。お兄ちゃんはゆっくりと頷いた。
おかあちゃんはそんなおにいちゃんの姿の見ながら、泣いとった。

ウチはおにいちゃんにお茶をいれた。
おにいちゃんは、温まるなあと嬉しそうな顔をした。
それを飲みながら、ウチはののの話をした。
ウチの一番の友達ということ。
しらんおっちゃんが、この青い髪飾りといっしょに、
赤い髪飾りを持ってきてくれたことを。
おにいちゃんと同じ部隊で闘ってた人の妹やということ。
そして今、ののは、結核に冒されていること。
髪飾りを握り締めながら、おにいちゃんのところへいくんだと言っていること。

おにいちゃんは少し驚いた顔をしとった。
そして、のののおにいちゃんのことを少し話してくれた。

のののおにいちゃんは、その部隊の指揮官やったこと。
そして、のののおねだりの手紙がきて、のののおにいちゃんは、
ウチのおにいちゃんが髪飾りを買ったお店で、色違いの髪飾りを買ったこと。
そして、部隊が前線に進むとき、もう日本には戻れないと思って、
そのおっちゃんに二人でそれを預けたこと。
前線に進む途中、けが人が沢山出て、その手当てをしていたおにいちゃんたちを残して、
のののおにいちゃんと、残った兵隊さんたちはさらに進んだこと。
せやけど、残念ながらアメリカ軍の攻撃をうけ、自決したこと。

ウチはおにいちゃんの話を真剣に聞いとった。
おにいちゃんはお茶をおかわりすると、少し伸びをした。
そして、明日のののところにお薬を持って一緒に行こうと言ってくれた。
ウチは、そんなおにいちゃんが大きく見えた。
785名無し娘。:02/06/24 14:10 ID:8vRT9FWp

おにいちゃんは、ちょっと横になりたいと言った。
長旅の疲れが出ているのがウチにも分かった。

ウチはおにいちゃんのために布団を引いた。
せやけど、薄っぺらい掛け布団は一枚しかなくて、
冬の神戸には寒いものやった。

ウチはおにいちゃんの寝ている布団の横に、ちょこんと座り、
「寒いやろ、ごめんな」
と、言った。
おにいちゃんは、ちょっとだけや、と答えた。
ウチはおもわず、掛け布団の端を持ち上げ、
おにいちゃんの布団の中へ入った。

どないしたんや、とおにいちゃんは不思議そうな顔をした。
「こうしたらあったかいやろ」
ウチはそう呟いた。
おにいちゃんは、そうやなと言った。

しばらく二人で布団のなかが温まるのを待った。

「あのな、おにいちゃん」
ウチはそう言った。
「髪飾り、ありがとうな」
おにいちゃんはええよ、と答えた。
おにいちゃんはやっぱり死んだおとうちゃんと同じ匂いがした。

「あのな、おにいちゃん」
ウチはまた尋ねた。おにいちゃんと呼べるのが嬉しくてたまらんかった。
「この髪飾り、神戸の海と同じ青色やな」
おにいちゃんは、そうやな、似合っとるで、と言って笑った。
なんか照れくさかった。
786名無し娘。:02/06/24 14:11 ID:8vRT9FWp

「あのな、おにいちゃん」
ウチはもう一度尋ねた。おにいちゃんと呼びたくて仕方なかった。
「この布団な、ウチのやねん。空襲で焼けてもうないねん」
おにいちゃんは、新しいの買うたる、と言って頭をクシャクシャと撫でてくれた。
「別にしばらくはええよ」
と、ウチは言った。
おにいちゃんは、遠慮なんかせんでええ、と言った。
ウチは遠慮してるつもりはなかった。
おにいちゃんと一緒にいられる時間が増えることが嬉しかった。
「寒いし、一緒に寝たらええねん」
ウチはそう言った。
おにいちゃんはそうか、と答えた。


「あのな、おにいちゃん」
ウチはまた尋ねた。気がつけば、なぜだか涙が溢れていた。
そして、ウチの体は小さく震え取った。

「もう……、どこにも行かへんやんな……」
ウチはそう呟いた。
おにいちゃんは、ああ、行かへんよ、と答えると、
ウチをそっと抱きしめてくれた。

その感触はとても優しくて、暖かくて、涙がとまらへんかった。



小説 「あいぼん1945─青い髪飾り─」 了
787名無し娘。:02/06/24 14:13 ID:8vRT9FWp

完結です。
お読みいただいた方、有難うございます。
あと、加護たんと添い寝したい奴の数スレのレス256さんに感謝です。

さらっと書いたので、下調べはしてません。
舞台が神戸なのは、奈良(加護の実家)に近い軍港って神戸?と思っただけです。
あと、史実に全く基づいてないです。申し訳ないです。
もし、感想などございましたら、書き込んでいただけたら幸いです。
788名無し募集中。。。:02/06/24 15:33 ID:K8+ltqi/
さわやかな感動でした。
やはりこの季節、日本人は戦争を忘れちゃいけませんね。
前作に続き、忘れちゃいけない物を思い出させてもらいました。

でも次はコメディキボーン、と書いてみたりして・・
789名無し募集中。。。:02/06/24 22:51 ID:4LEbXiI/
素晴らしい!!

もう名作としか言い様がない!!

もっと、あいぼんの兄妹小説を禿しくきぼんぬ!!
790あいぼん好き:02/06/25 01:23 ID:sdXA/xVV
期待あげ
791名無し募集中。。。:02/06/25 22:19 ID:HkVQUJSE
>>787
はやく次回作見たい!!

もちろん兄妹モノ頼んます!!
792おーい:02/06/26 02:09 ID:vZe2tlCZ
名無し娘。様

どうか現れて下さい

もう我慢できない!!
793名無し娘。:02/06/26 10:23 ID:O6GmCUvi

>>788
本当に有難うございました。
またアイデアが降臨したら、コメディを。でも難しいんですよね……。

>>789-792
お読みいただいて、感謝しております。
レス遅くなって申し訳ないです。一応働いてるのでそんなに来れないんです。
256さんへのお礼のレスで、あちらのスレをお騒がせして申し訳ないです。
前のは256さんのおかげで脳内に神が降臨したから短時間で書けたんです。
でも、今はなにも降臨してくれないので、脳内真っ白です。
期待しないでください。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
794名無し募集中。。。:02/06/26 23:30 ID:+9J8B5IT
>>793
ああ先生、やっと来てくれたんだね!!

http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1022438716/l50

↑のスレみたいな感じの小説を早く見たいです!!

私は読んでて胸がいっぱいになる様な兄妹愛ストーリーが見たいのです!!

先生の才能ならきっと優れた小説が書けるはず!!もっと自信を持って下さい!!

そしてまた私達を素晴らしい夢の世界へ連れてって下さい!!
795名無し募集中。。。:02/06/27 00:25 ID:3xlB66oE
名無し娘。 先生〜!!

寂しいよぉ〜!!
796.:02/06/27 01:44 ID:qsVZPPG7
先生
作品の善し悪しについては贅沢は言いません

先生の書く小説なら、あいぼんの輝きもきっと倍に増すでしょう

三度のメシより、あいぼん!!
797名無し娘。:02/06/27 13:03 ID:S7wATXSp

>>794-6
わざわざレスしていただいて申し訳ないです。
続編を少しづつ書きますので、なにとぞご容赦を。
駄文かつプロットがないまま書きますので、完結できるか分かりません。
更新頻度もかなり間があきますし、しかも一回の更新量は1、2レスです。
萌えれない、感動できないです。ただ、あいぼんがおにいちゃんと言ってるだけです。
すみません、すみません、すみません。

あと、もしレスをされるときはなにとぞ、sageでお願いいたします。
なんか、謝ってばかりですみません。

でも脳内真っ白なんです。ほんとに。
というわけで、真っ白なイメージで書いて見ます。
下のAAは全く関係ないんですが、思わず拾ってきて、台詞いれました。
ガイシュツだったらスマソ。
798名無し娘。:02/06/27 13:06 ID:S7wATXSp

小説 「あいぼん1946─白い粉ぐすり─ 続・あいぼん1945」

                     
               ……オニイチャン?
                  @ノハ@
                  (''‘ д ⊂ゝノ⌒ヽ、
               ( ̄c'入  ノノ⌒"  )
             (⌒⌒⌒⌒⌒⌒~\ノ⌒⌒)


799名無し娘。:02/06/27 13:07 ID:S7wATXSp

「あれ、綿菓子やったらええのにな」
目の前に広がる再度(ふたたび)山が真っ白に染まっているのをみて、
ウチはかじかんだ手のひらに白い息を当てながら、そう呟いた。
おにいちゃんは、ほんまやな、と答えるとウチの冷えきった手を握ってくれた。

おにいちゃんと神戸の急な上り坂を登っていく。
向かい風になる六甲おろしは相変わらず冷たくて、
いつものように、ウチの頬をピリピリと刺しとった。
せやけど、おにいちゃんが握ってくれとるウチの手と、
見上げるおにいちゃんの横顔のは、なんか暖かかった。

後ろを振り返ると、小さなウチの家はもっと小さくなっていて、
神戸の海はウチの髪飾りと同じ青色をして、真っ白な六甲の山々を見上げていた。

それは、おにいちゃんが復員した次の日やった。
ウチとおにいちゃんは、結核に冒されとるののの為に、
お薬と、そして戦死したのののおにいちゃんの思い出を持っていくために、
彼女の家につづく坂を登っとった。
800名無し娘。:02/06/27 13:13 ID:S7wATXSp

高台にあるののの家にはうっすらと雪がつもっとった。
ガラリとののの家の扉を開けて、ごめんくださいとウチが言うと、
中からののの親戚のおばちゃんが出てきた。
ウチとおにいちゃんが挨拶をすると、おばちゃんにののの部屋へと通された。

「のの、どない?」
ウチはふすまを開けてそう尋ねた。
ののは薄っぺらい布団の中で、小さい体をさらに縮こませるようにして
横になっていた。そしてゆっくりと、ウチのほうをみた。

「あいぼん……」
そう呟くののの声は弱々しくて、ウチはおもわずそばへと駆け寄った。
ののは前にあったときよりもさらに痩せ、白い肌はさらに青白くなっとった。
ウチは後ろを振り返る。そして、ののはウチの目線の先を追いかけた。

801名無し娘。:02/06/27 13:15 ID:S7wATXSp
今日の更新は以上です。ちょっとですみません。
802名無し募集中。。。:02/06/27 22:26 ID:3xlB66oE
>>801
先生お忙しい中、本当にありがどう!!

しかしアイデアが浮かばないと言いながら、これだけの作品に仕上げるとは!!

内容は少しでも、先生の小説を読めるだけでも幸せです

もう次のストーリーが気になって仕方ないくらいです

少しずつでもいいから連載してください

おねがいします!!
803.:02/06/28 01:39 ID:hsFg3jww
>>801
ののは・・・ののタンは助かるのでしょうか!?

どうか助けてやってください

親兄弟まで亡くして、さらに結核に蝕まれて・・・・

読んでてマジ泣きました

涙が止まりません
804名無し募集中。。。:02/06/28 10:30 ID:6PMbfRvZ
>>797
>>萌えれない、感動できないです。ただ、あいぼんがおにいちゃんと言ってるだけです。
なんかワラタ!
マターリがんばってください。
805名無し娘。:02/06/28 10:43 ID:EyK9BItI

「はじめまして」
ののはゆっくりとそう言った。
「あいぼん……、おにいちゃんれすか?」
ののは少し驚いた表情をしたあと、よかったれすねといって微笑んだ。
ウチはその表情をみて、少し胸がちくりと痛んだ。

おにいちゃんはののの枕もとに歩み寄ると、かばんを置いて
ゆっくりと座り、「あいぼんの兄です。いつも妹がお世話になってます」、と
お辞儀をした。

ののはお話はいつもあいぼんから聞いてます、と答えると、ウチの手を握り、
よかったれね、よかったれすね、とまた繰り返した。その瞳にはうっすらと
涙が浮かんでいて、それがまたウチの胸をちくりと刺した。
806名無し娘。:02/06/28 10:45 ID:EyK9BItI

おにいちゃんはののの枕もとで、
「おにいさんは、いつもあなたのお話をされてましたよ」
と、言った。

ののの前でおにいちゃんは、上官だったのののおにいちゃんの話をした。
優秀な指揮官だったこと。
いつも、妹のことを想っていたこと。
二人で妹の話をして、故郷を懐かしんだこと。
そして、自分たちとけが人を残し、お国の為に散っていったこと。

ののは、それを少し涙を浮かべながら黙って聞いとった。
ウチはそんなののの姿をみて、また胸がちくりと痛んだ。

一通り話がおわると、ののは、「おにいちゃん……」と小さく呟いて、
ずっと握り締めていた、赤い髪飾りを見つめた。
おにいちゃんは、それに気づくと、懐かしいなと言って、
それをみせてくれるようにののにたずねた。
ののは、それをおにいちゃんに渡すと、ウチの顔を見て
またよかったれすね、と言った。
ウチはそれに返事をすることがでけへんかった。
807名無し娘。:02/06/28 10:46 ID:EyK9BItI

おにいちゃんはその赤い髪飾りをみながら、のののおにいちゃんが、
戦地で妹のことを想いながら、それを買ったときのことを話していた。
「おにいさんは、あなたがそれをつけている姿を思い浮かべていましたよ」
と、おにいちゃんは言って、その髪飾りをののの頭に付けた。
そして、「おにいさんの言うとおり、良く似合ってます」
と言って、微笑んだ。

赤い髪飾りを付けたののは、痩せたのと、青白くなった肌の色のためか、
それはきれいやった。

ウチはその姿に暫く見とれとった。
ふと気がつくと、ののの瞳から涙が流れとった。
おにいちゃんは慌てて、ののの涙を拭いていた。

しばらくの間、小さくののの嗚咽だけが聞こえとった。

擦り切れた畳の下から、しんしんと冬の寒さが伝わってきた。
808名無し娘。:02/06/28 10:49 ID:EyK9BItI
今日の更新は以上です。
>>802
少しづつで申し訳ないです。
>>803
まだストーリーが決まってないのでなんとも……。
>>804
有難うございます。

スレ容量が一杯になってきたので、また氏にスレを探しておきます。
809.:02/06/29 01:03 ID:Z+DerMKG
>>808
先生、小説ありがとうございました
もう涙なしには語れない小説ですね

もう読んでいて心が洗われてきます

なんだか忘れかけてた優しさを思い出した気分です

この位素晴らしい作品がかけるなら、直木賞も夢ではないのでは!?(笑
810名無し募集中。。。:02/06/29 22:29 ID:Aby0hwNj
>>808
すいません

http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1022438716/l50

↑の「加護たんと添い寝したい奴」のスレで、先生の小説を楽しみにしている人が大量に発生しています(w

もしよければ、こっちのスレにも心温まるあいぼん兄妹小説を禿しくおながいします
811.:02/06/30 01:06 ID:MREoAtlO
今日は更新なし?
812
新氏にスレでも期待しています。