小説『モーニングクエスト3』

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33石川記念日
「リカちゃんまだかな〜。」
魔族の姿に戻して、
すっかり元気を取り戻したマキが、心配そうに街の方を見つめていた。
太陽はとっくに姿を消し、代わりに月が顔を出し始めている。
(見えるかな?)
マキは世界樹の木の枝に飛び移ると、再び街の方を見る。
「!!!、まさか魔物と戦ってる何て事は…。」
ハッとした様に顔を上げる。
「って、そんなわけないよね〜。
 夕飯の準備でもしてようかな〜。」
人間の状態のマキでも、実は人間の数千倍の視聴覚を持っており、
この付近で大きな戦闘が起こったり、強力な魔物が現れれば、瞬時に察知できるのである。
(リカちゃんなら、大丈夫なんじゃないかな??)
枝の上で足をパタパタしながら、マキはある事を考える。
まだ出会って数日しか経ってない仲だが、
リカなら魔族の自分でも、受け入れてくれるような気がしていた。
「でもな〜。」
騙してたの?とか言われると、困ってしまうのである。
マキだって好き好んで、人間の姿をしている訳ではないのだ。
あれでも旅人が木を訪れるかもしれない。
そのとき魔族の姿で居ると、占拠していると思われたりして不便なのだ。
「!!!、わぁ」
突然地面が揺れた。
34石川記念日:02/03/02 19:51 ID:3OpyvWrt
「何だろう?」
木から飛び降りたマキは、地面に耳をつける。
(1・2・3…)
あまり強力ではないが、足音が物語るように数は多い…。
(群れかな?)
これは厄介である。
なぜなら、
世界樹の木に向かって、群れが一直線に突っ込んでくるのだ。
一人で守るには、どうやっても限界がある。
元気なマキならこっちからも突っ込んでいく所なのだが、
回復したといっても、まだ60%程度なのでそうも行かない。
まだ肉眼で確認できないので確証は無いが、敵はかなり多いと考えられ
下手したら、マキはペシャンコに潰されてしまう。
「リカちゃん大丈夫かな?」
ふと気が付けば、
月はもうマキが顔を思いっきり首を伸ばさなければ、
確認出来ないような高さにまで昇っている。
(今日は街に泊まったのかな?)
それなら好都合だった。
「リカちゃんが帰ってくる明日の朝までに敵を全滅させる。
 そんで変身して、ベットで寝たフリ…。」
今まで通りで良いのだ。
35石川記念日:02/03/02 19:51 ID:3OpyvWrt
「んと…」
マキが再び地面に耳をつける。
「え!?あれれれ??」
敵のスピードが想像以上に速いのだ。
これでは相手の陣形に合わせて、的確に分身を作る事が出来ない。
いつもなら、先に作っておくのだが…
それを一気に移動させる程回復してもいない。
「どうしよう…。
 仕方ない、シャドウ!!!」
とりあえず分身だけは、先に作っておき木の周りに配置しておく。
(もっと作っておこうか??)
しかしこれ以上作ると、マキ自身が戦えなくなってしまう。
こんな事なら、あの時に告げてしまえば良かった。
マキの頭に後悔の念が浮かぶ。
しかし、すぐに敵の気配を感じ気持ちを切り替える。
「もうおいでかしら?」
狼の群れがこちらに向かってきている。
「あれかな?思ったより少ないかな?」
ちょこっと安心してから、魔法を唱える。
「イオナズン!!」
マキは右手で胸の辺りを探り、
普段はペンダントにしている白い宝石を握り締めた。
(またお世話になるね。)
昔ある人間からこの宝石を貰ってから、
イオ系の魔法が、ぐっと使いやすくなった。
爆発系の魔法は自分が巻き込まれる恐れがあるため、
扱いが非常に難しいのである。
その人間の話では、宝石には空間を司る精霊が封印してあるらしい。
36石川記念日:02/03/02 19:53 ID:3OpyvWrt
空気中の成分を魔法力で合成し、狼の群れの中で爆発させると、
大爆発が起こり閃光で何も見えなくなる。
「案ずるより産むが易しか…」
マキが目を開けると、狼の群れは無事消滅していた。
(おかしいな〜。)
狼が何の目的があってここにきたのだろう?
野生動物にとっては、ただの木のはずなのだが…。
誰かがけしかけたのだろうか?
何のために?
「私に魔法を使わせるため??」
マキが人間と一緒にいる事を知っている魔物が??
リカと知り合ったのは、ほんの最近…
倒した魔物の数もたかが知れている。
(どいつだ?)
狼を使った事から、多少の言葉を理解する知能があり、
さらにマキに恨みを持っている魔物…
「まさか…でも…」
ゴブリンは確かに倒した。
(仲間がいた?)
魔物にも徒党を組む輩はいるが、
あのゴブリンがそうだったとは…。
そうと知っていれば、
周りのカラスも殺しておいたのに…。
だとしたら困る事がある。
木は守った。
次に狙うのは?
(…リカちゃん?)
37石川記念日:02/03/02 19:55 ID:3OpyvWrt
マキの胸が騒ぎ出す。
もしかして、帰りが遅いのは…。
「ゴッチン…逃げて…」
リカの今にも消えそうな声が聞こえる。
「リカちゃん!?」
その時、マキの頬を弓矢がかすめた。
(…??)
傷口から赤い血が出てくる。
「どこ?」
『ここだよ。』
「え?」
背後から低い声が聞こえた。
「誰?」
リカの事を考えている間に敵は、マキの死角へと回っていた。
マキはキョロキョロと顔を振り、後ろを振り返る。
(他には居ないようね。)
『貴様に子供を惨殺されたんだよ!』
「狼を使ったのもアンタ?」
『ああ…、貴様あの人間が気に入ってるのだろ?
 魔力もだいぶん消耗してるみたいだが?』
「気に入ってる?馬鹿言わないでよ!」
マキが髪をかきあげる。
『これを見てもまだつよがれるかな?』
目の前にはリカの首にナイフを突きつけた青いゴブリンが、暗闇の中から姿をあらわした。
「ちょっと!その娘は関係ないでしょ?」
『その慌てようからすると、やはり大切な者のようだな。』
「何をするつもり?」
『貴様の大切なものを壊す。』
青ゴブリンはリカを仲間のゴブリン達に任せ、世界樹の木を指差す。
『まずはあの木を折らせて貰う。
 魔王様もお喜びになる事だろう!!!
 貴様が少しでも動けば、あの娘の首が飛ぶ事になるぞ??』
「そんな事させる…か…!」
(何よ?体が…)
体が痺れて思うように動かない。
『先程の矢には、薬が塗ってあったのだ。
 念には念を入れたんだよ!!』
青ゴブリンの高笑いが耳障りだが、どうしようもない。
(リカちゃんが無事だっただけでも、良しとするしかないのかな??)
『そうだ。せっかくの機会だ。
 魔王様に逆らうとどうなるかを教えてやろう!!』
青ゴブリンがマキの脇腹を蹴り上げた。
「グハ・・・・」
マキが地面に倒れる。
『まだまだだ。起こせ!!』
手下のグブリン(ちょっと小さめなゴブリン)達が、
地面に倒れ脇を抑えているマキを無理矢理立たせる。