次々に楽屋に娘達が集まってきた。
「よっしー!目が覚めたの〜?」
石川が声を張り上げると吉澤は困ったように微笑んだ。
「後は、つんくさんからの電話待ち〜」
後藤が嬉しそうに携帯を見つめては笑いを浮かべていた。
みんなそんな後藤を見ては軽蔑の眼差しをむけた。
すると後藤の携帯が音を鳴らした。
「は!はい、もしもしつんくさん!後藤です〜!」
黄色い声で後藤が対応する。
「お、後藤か。収録は終わったみたいやな。他の皆はおるか?」
「はい!みんないます!まだ加護が寝てますけど」
周りを見渡さずに即答した。
「それでつんくさん、一体どうしたんですか?」
「そうやな…、もう隠す必要はないな…」
つんくはこれまでの事を話した。
安倍の誘拐…吉澤への脅迫…。
唯一話さなかったことは、保田脱退の命令だけだった。
「…はい、ありがとうございました…」
黄色い後藤の声は、いつの間にか暗く重い声に変わっていた。
ピッっと携帯を切る音がした。
「…今から、つんくさんが言ったこと…言うね…」
そう言うと、後藤は暗い雰囲気のまま語り始めた。
「なっち…」
保田の憂いを帯びた声が聞こえた。
「ど、どういう事ですか!私は嫌です!私はもう帰りたいです!
辻がワッと泣き出した。
「大丈夫…大丈夫だから…」
そんな辻を飯田が抱きしめる。
石川はこれと言って反応はない。
「冗談じゃないわ…、私帰るから…」
後藤がいきり立ち、バッグを手に取り楽屋から出ようとした。
「ちょっと…こんな時に1人になっちゃ危ないよ…」
吉澤が後藤を止めようとした。
「なら、よっしーも一緒に来なさいよ。ほら行くわよ」
後藤は吉澤の手を強引に引き、楽屋を出て行ってしまった。
「勝手な人たち…」
飯田が辻に囁いた。
「じゃ、私も帰るね。急ぎの用ができたし」
矢口はそう言うと楽屋を出て行ってしまった。
「圭織、私も帰って良い?写真の現像終わっただろうし…」
保田は飯田の了解を得て、楽屋を出ようとした。
「待って下さい〜!石川も行きます〜!」
石川がカバンを担ぎ、保田に付いて行こうとした。
「あんたは来ないで良いわよ」
そう言うと、保田はそそくさと出て行った。
「…」
石川は何も言わずにとぼとぼと楽屋を後にした。
「辻…どうする?私もそろそろ帰るけど…」
「私はあいぼんといます…。どっか別の部屋かります…」
「じゃぁ私も少し手伝うよ。」
そう言うと飯田は加護を抱きかかえ、辻と共に楽屋を出た。
「はい、写真できあがりました!」
先ほど来たカメラ屋。
「ちょっと遅れて悪かったわね…」
「いえ、そんな事ないですよ」
…良いのよ、本当の事言って…
写真を受け取ると、保田は無言でカメラ屋を後にした。
「また来てくださいね!」
店員の元気な声だけがした。
…来て欲しくないくせに…
石黒邸。
台所のほうで、あの男がコンビニ弁当を食べている。
一方で石黒の目にはパソコンの画面しか映っていなかった。
しかしHPには管理人と犯人以外の投稿は何もない。
題名:『モーニング娘。誘拐事件 途中経過その2』
投稿者:SILVA
犯人さん、書き込みありがとう。本物じゃないでしょうけど。
速報よ。
さっき面白い事が起きたみたい。
なんと、吉澤と加護が何者かに襲われたの!
なっちが誘拐、その上この事件!
これからももっと大波乱の予感!
6月27日 21:23
「ケケケ」
笑いが止まらない。
楽しい。いつぶりだろう、こんな楽しさ。
それにしても、この管理人のSILVAって誰かしら?
シルバー…歌手…銀…
焼銀杏…?
懐かしい事思い出しちゃった。
「なぁ風呂は…」
うるさい雑音ね。
私は今、とっても楽しい事をしているの。
だから、邪魔しないで、縄男。