QUIZ

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736月27日 PM19:04

「ふぅ…」
一同は楽屋に吉澤と加護を運ぶと一息ついた。
すると中澤の携帯が鳴った。

「中澤か!今どこや!?安倍は見つかったんか!?」
つんくのけたたましい声が響く。
「見つかってへんけど…。今は…皆と一緒やけど…。そうや!吉澤と加護が!」
中澤は一部始終を話すとつんくはため息をついた。
「なんて事や…。本当に襲われるなんて…。周囲には気付かれてしまったんか?」
「大丈夫」
中澤が間髪なくそう言う。
「そうか…。こっちは1人で不安なんや!早ぉ帰って来てくれや!」
中澤は腕時計を見た。
…もう、時間的に大丈夫やな…
「わかった。今帰る」
「あ、後、例の事で相談があるから…」
つんくが声を小さくした。
「え?例の事?」
「そう、あれや…」
中澤の頭に思い当たるものがあった。
「わかった…」
そうして中澤は携帯を切った。
746月27日 PM19:04:02/02/28 18:35 ID:EoZNMC0B

「じゃ、皆!うち、そろそろ帰るな」
楽屋内のメンバーにそう言った。
「うん…裕ちゃんありがとう…」
飯田と保田が深々と礼をする。
楽屋の隅では市井がノートを片手に冷ややかな目で見てくる。
「ん…じゃ、またな!」
「あ、待って!」
保田が中澤を引きとめる。
「あのさ、裕ちゃんも紗耶香も久しぶりだからさ、写真とらせてよ」
そう言うと、楽屋の隅の市井を手で招き写真を何枚もとった。
カシャッ!カシャッ!
「ありがとう」
保田はそう言うとカメラをカバンにしまった。
「あんた撮り過ぎやで。じゃな。あ、そうそう!今回の事は誰にも言ったらあかんで!」
中澤が楽屋のドアを開け帰っていった。
市井をはずすメンバー全員は、中澤がつんくの家に言ったとは露知らずだった。
「ばいばい…」
酷く低い市井の声は誰にも聞かれていなかった。

756月27日 PM19:13:02/02/28 18:36 ID:EoZNMC0B

楽屋内は未だに沈黙が守られている。
唯一の物音とすれば飯田のすすり泣く声だろう。横で保田が見守っている。
石川は誰かと話したそうだが、彼女の周りには誰もいない。
後藤は市井の顔が見るからに不機嫌な為、黙り込んでいる。
それでも後藤は何かを言いたそうにしていた。
「あ、あのね、市井ちゃん…。私たちプッチでね…」
市井の裾を軽めに引っ張る後藤。
「後藤、ちょっとごめんね…」
市井はそう言って後藤をあしらうと、カバンのノートを見つめていた。

766月27日 PM19:13:02/02/28 18:37 ID:EoZNMC0B

加護の前に辻が腰を下ろしている。
「ねぇ、辻。良かったね…」
辻の耳元で矢口が小さな声で囁いた。
「な、何を言うんですか?矢口さん…」
辻は驚いて矢口を見上げた。
「辻さ、加護の事良く思ってなかったでしょ?」
辻は心を読まれた気がして不快になった。
「そ、そんな事ないですよ!」
少し大きめのその声に、メンバーは皆振り向いた。
「しっ!あんまり声大きいとバレちゃうよ…」
矢口は人差し指で辻の口を塞いだ。
「ミニモニとかで見てると分かるんだよね。あんた結構露骨だよ」
否定をできない辻。
「まぁ私も辻の気持ち分かるけどね…。私も自分を出し抜く人は嫌いだし」
そう言って矢口は辻の元を離れていった。

…どうして分かったんだろう。
本当はあいぼんの事あんまり好きじゃない…。
いっつも私にくっ付いてきて…。それなのに、いっつも私より目立って…。
合宿の時からあいぼんがどっかに行けばいいなぁ、って思ってた。
だから、モーニング娘。の時よりも10人祭りの方が好き。あいぼんいないから…。
でも、なんかあいぼんかわいそう…。

776月27日 PM19:17:02/02/28 18:39 ID:EoZNMC0B

「それじゃ、そろそろ私も帰るね」
市井がドアの方へと歩く。
「あ、市井ちゃん!帰っちゃうの?あのね、私たち市井ちゃんに…」
後藤が引き止めるが市井は軽く受け流した。
「待って下さいよ〜」
石川の声がすると、楽屋の空気が一段と重くなった。
「もうそろそろ休憩終わりなんですよ〜。そしたら石川は1人になっちゃうんです〜。
市井さん〜。一緒にいてください〜」
後藤がキッと横目で睨む。
しかし、市井はそんな石川を無視して帰っていった。
「さぁ、そろそろ収録に戻ろう!今日の仕事はこれで終わりだからね。もう一分張り!」
飯田が涙を拭きながら元気に言った


786月27日 PM19:23:02/02/28 18:39 ID:EoZNMC0B

楽屋には3人きり。石川、加護、吉澤。
石川は横たわる2人を見ていて不安になった。
…どうしよう。安倍さんと同じ犯人に…?
1人きりだと想像が無限大に広がり、いても立ってもいられなかった。
…早く帰ってアレしないと…
石川は震える肩を抑えきれないでいた。
スタジオでは『おねモー』が順調に進行されていた。
風船占い…してみたいなぁ。
そう思っているうちに石川は再び眠気に負けた。
796月27日 PM19:30:02/02/28 18:40 ID:EoZNMC0B

『おねモー』の収録も盛り上がってきた。
スタジオでは元気な顔でメンバーは笑っている。
しかし、その内には不安を拭いきれない者もいた。
「風船占いって楽しいね〜」
矢口が楽しそうに喋る。
「本当〜!ねっ!辻!」
後藤が辻に話を振る。本来だったら吉澤に振っただろう。
「そうですね。梨華ちゃんがいたらやりたそう〜」
辻が目立とうと前に出る。
「でもさ、石川だったら『私できません〜』とか言ってやらなそう〜」
飯田が間髪入れずに突っ込む。
「あ〜やらないね〜」
矢口も笑いながら言った。
こうして『おねモー』の収録は順調に進んでいった。

…良かったわね。喋れて。私が振ってあげたからよ。
そうよ、私のお陰よ。私があんたと仲良くしてあげてるからテレビに映れるのよ。
加護や梨華ちゃんみたいに事務所からプッシュされてる訳じゃないんだから。
いっつも金魚の糞みたいにくっ付いてきて…。はっきり言ってうざい。
「あんたは私がいなきゃ駄目なのよ」
「例えるなら私は太陽。あんたはその光を受けて光る月」
「とびきり可愛いわけじゃないのに、キャラが立ってないなんて最悪ね」
「市井ちゃんと大違いね」
「安心して、また話し振ってあげるから」
一体何回言っただろう?その度にあんたはエヘラエヘラ笑っている。
まぁ、目が覚めたらまた私にくっ付いてくるんでしょ?
分かってる分かってる。分かってるわよ。
何度でも話し掛けてあげるわよ、よっすぃー。
あんたは私の奴隷なんだから。
806月27日 PM19:30:02/02/28 18:44 ID:EoZNMC0B

「ハックション!」
石川は突然大きなくしゃみと共に目を覚ました。その声にも加護と吉澤は起きなかった。
「誰か噂したんですか〜?」
返事はない。いつもの事だ。
ただ今は加護らが眠っているから返事がないのだ。石川はそう思う事にした。
「それにしても、階段から落ちたなんてかわいそう…」
加護の体をつんつん突付く。
「あ、服がはだけてますよ〜」
加護のへそが見えていることに気付く石川。
隠してあげようと服に手をつけたその瞬間、石川はふと紫色のものが目に付いた。
「これは…?」
服の隙間からはかすかにあざらしき物が見える。
「え…?あざ…?あいぼん、ごめんね!」
そう言うと石川は服をまくり上げた。
そこに広がったのは無数のあざ。石川は驚きのけぞった。
目を手で伏せるも、その隙間からその光景は見えてくる。
あざ。
あざ。
あざ。
中には内出血しているものもあった。石川は言葉を失った。
「い…一体、どれだけ階段を落ちたんだろう…」
ふと石川は吉澤に目を向け、服を少し脱がしてみた。
「あれ…?ない…?」
吉澤の体には少しのあざしかなかった。
2人の体を見比べてみると、余りにも違いすぎる。
「よ、よっすぃーって…階段から落とされたのに…。丈夫な体なんですね〜」
少し笑いながら言った。

816月27日 PM19:33:02/02/28 19:01 ID:EoZNMC0B

人気のない公園。
ギー…ギー…
ブランコが揺れる音だけがする。
街灯の光が煙草の煙で鈍く光る。
そんな光に市井は照らされていた。
「市井…お前は音楽の才能があるんや…このままモーニング娘。にいたら損や…
俺が…お前に音楽の事教えてやるわ…だから…」
市井はブランコに揺られながら、無機質な声でそう呟いていた。
頭の中には、その時の場面が鮮やかに蘇る。
「…だから…辞めへんか…」
足先で地面を削る。
「…まずは…作詞やな…」
靴に煙草の灰が落ちる。
「…これからノートに…詞を…書くんや…」
逆の足で灰をどかした。
「…で、俺が…採点したり…やり方を教えて…」
灰をどかした靴の裏の砂が片方の靴にかかった。
「…作曲は後や…作詞はお前の…感情や…気持ちやから…」
手で砂を払おうとした。
「…大丈夫やって…。俺を信じ…」
目の前が見えなくなった。
「…だからな…市井…脱退を…」
目の前が見えたと思ったら手が濡れた。
「…良いか…感じた事を…書くんや…」
地面も濡れた。
「わかりました…」
どんどん地面が濡れていく。

そして市井は赤ん坊のように泣いた。
溢れる涙はそのまま乾いた地面へと吸収されていった。
彼女はその後、何度も何度もつんくの言葉を繰り返した。

826月27日 PM19:47:02/02/28 19:01 ID:EoZNMC0B

「なんや、帰りはえらい早いなぁ」
つんく家の玄関先でつんくが言う。
「まぁ、まぁな。しっかし、大変やったで!」
中澤は話をはぐらかすようにリビングへと向かう。
「てか、メールの予告通りなんて…。しかも加護まで…」
中澤がため息混じりに言う。
「これがそのメールや…」
つんくは、6時ごろ送られてきたメールを開いた。
「件名、くいずです…。同じやなぁ」
中澤が画面に顔を近づける。
「で、例の話やけど…」
「ん…?」
中澤が何かに気付いた。
「ど、どうしたんや」
つんくが身を乗り出す。
「これ…。犯人のアドレス、携帯のやで…」
画面を見ると、確かに携帯から送られてたものだ。
それまでのメールとは、アドレスが違っていた。
「なんで気付かなかったん?」
中澤が呆れた声で言う。
「え、そ、それは驚いたからや!」
つんくは明らかに焦っていた。
「で、例の話や…」
中澤の顔が険しくなる。
「また…紗耶香みたいに…」
拳をぎゅっと握り締める。
「そうや。誰を脱退させるか決めなあかん」
「なんでや?うちが辞めたんで充分やんか!」
「話題が必要なんや」
そう言うとつんくはメンバーの顔写真を並べた。
「やっぱこいつかな…」
つんくは1枚の写真を手にとった。
「保田やろ」