「ふぅ〜、休憩休憩〜!」
後藤が気だるそうに楽屋のほうへ向かって行った。
その後から、メンバーがぞろぞろ歩いてくる。
「あ、つんくさんから着信があった〜」
黄色い声をあげ、後藤が嬉しそうに奇声をあげる。
だが、他のメンバーにも着信がある事が分かると、後藤はトーンダウンした。
「わ、私がかけるからね!」
後藤は、そう皆に言うとつんくに電話をした。
「あ、つんくさん?」
「おお!後藤か!もう収録終わったんやな?」
「いえ、まだ休憩中ですけど…」
「そうか…。みんなに異常はないんやな?」
「え?あ、はい。何も…」
つんくにだけに見せる従順な顔。それが鼻につくメンバーは多いだろう。
「良かったぁ…。ほな、ちょっと吉澤に代わってくれへんか?」
後藤は一瞬ムッとした顔をした。
「え?よっすぃーですか?いませんよ」
電話越しでつんくが慌しくなった。
「ど、どーゆー事やっ!楽屋にいたメンバーはどこや!」
つんくが携帯越しでも聞こえる大声で怒鳴ると、メンバーが一斉に後藤の携帯を見る。
「えっ!あ、えっと、梨華ちゃんがいますけど…。そういえば加護もいないです」
つんくの脳裏に不吉な考えが巡った。
…まさか、2人とも…?
「い、いいか!急いで、その2人を探すんや!」
「な、なんでですか?つんくさん…。飲み物でも買いに行った…」
「いいから!」
最後に「あとで、詳しく説明する」と言い残し、つんくは電話を切った。
「ねぇ、みんな…」
後藤がつんくに言われた事をメンバーに話す。
「加護と、吉澤って、よく2人でいなくなるよね。だから、心配いらないんじゃない?」
矢口が爪をいじりながら言う。
「そーいえば、そうですよね…」
辻がポツリと言う。
「言われてみるとそうだ…」
後藤が人差し指を顎につけ考え込む。
「ってゆうか、こいつ起こそうよ」
保田は突然石川を揺さぶり起こした。
すると、石川が目をこすりながら言った。
「あれ…?私寝ちゃったんですか…?」
誰もそれに答えず飯田が問い詰める。
「石川、あんた、吉澤と加護、どこ行ったか知らない?」
石川は一瞬寂しそうな顔をした。
「え…あ、あの…私、お茶飲んだらいきなり眠くなって…その…」
起きたばかりの目をこすりながら石川が語る。
お茶を一気に飲み干した石川は突然睡魔に襲われた。
「どうしたの?梨華ちゃん?」
吉澤が聞いてくるも、睡魔に勝てない石川は、
「ごめん…ちょっと、寝て良い?」
そう言うと返事も聞かずに目を閉じた。
「あ、うちもちょっとだけ眠くなってきた…」
加護の声が薄れゆく意識の中聞こえた。
「あ、あいぼんも寝ちゃったんです〜!」
「使えなーい!キャハハ!」
矢口があざ笑う。
「睡眠薬…?」
飯田が推理した。だがしかし、それ位は辻にも想像がついた。
「わ、私、あいぼんに電話してみる!」
辻が携帯で電話をかけた。
「あ、のの〜。あいぼんの携帯は、電池が…」
「コールしてるのに出ません」
辻が残念そうにそう言う。
「じゃぁ、よっすぃーにもかけたらどうで…?」
「よっすぃーも駄目みたい」
石川が恨めしく後藤をにらむ。
「仕方ない…。探そ…」
後藤がそう言うと、皆だるそうに楽屋を出た。
石黒邸。
石黒は何度も更新ボタンを押していた。
…何か起きないかしら…
そう胸を踊らしていた瞬間、パソコンの画面に変化が起きた。
題名:『モーニング娘。誘拐事件 途中経過』
投稿者:SILVA
お待たせ!新しい事件がおきたわ。
吉澤を辞めさせろというメールがつんくの元に届いたの。
モーニング娘。は今『お願いモーニング』の収録中。
一体どうなるのかしら。
詳しくは送られてきたメールの写しを読んでね。
6月27日 18時36分
「ただいま〜」
玄関のほうで野太い男の声。
これが私を縛っている縄。
この縄のせいで私はモーニング娘。を辞める羽目になった。
私はもっと輝いていたかった。
「なぁ、明後日さ…」
聞こえない。聞こえない。
あいつの声は聞きたくない。
テレビ局を歩きながら加護と吉澤を探す娘たち。
「いないですね…」
辻がほそぼそと言う。
「どこいっちゃったんでしょうね〜。あいぼんとよっすぃー」
石川はどこか楽しげだ。
「そうだ!あいぼんにメールだしてみる!」
辻が一瞬にしてメールを打ち始めた。
「送信っと!」
「返事が来るといいね〜」
そんな石川を無視した辻。するとすぐさま携帯が鳴った。
「メールが返ってきちゃった…?」
不可解に思った辻は、再びメールを送る。
…やっぱり戻ってきちゃう…
飯田と保田はテレビ局のスタジオで合流した。
「いた?圭ちゃん」
「ううん…」
「いないね…加護と吉澤…」
飯田が心配そう顔でそう言う。
「そうね…」
そんな事保田には関係なかった。
「じゃぁ私、こっち探すから」
再び2人は探し出した。
後藤と矢口は会話もなくただ歩いていた。
「よっすぃーどこかな?」
後藤が気を配りそう言ってみたが矢口は無視した。
「ねぇ、やぐっつあん?」
酷い人相で周りを見ている矢口。しかし口元はどこか楽しそうだ。
…やっぱ、こえ〜…
「ちょっと私、トイレ行ってくる」
そんな雰囲気に絶えられなかった後藤はその場を駆け出した。
不機嫌そうな顔をしていた後藤が一瞬にして笑顔に変わった。
その目線の先に市井がいたからだ。
「よっ!」
「いち〜ちゃん!!!」
後藤が、甘えた声で市井の側に駆け寄る。
「なんでここにいるの〜?」
満面の笑みで市井の服を引っ張る。
「なんか大変なんだって?私も付き合おうよ」
そう言うと市井はスタスタと歩いていった。
「あ、あとね、さっき裕ちゃん見たよ」
市井が来た方向をチラッと見ながら言った。
「裕ちゃんが…」
別に後藤はなんとも思わなかったが、市井の言葉がただ嬉しかった。
…なんで私がこんな事しないといけないのよ。
市井は心底そう思っていた。
…こんな事無意味だ。
後藤がしきりに話し掛けてくるが、その返事も曖昧になっている。
その瞬間、遠くでかん高い石川の叫び声が聞こえた。
「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「何!?」
後藤の顔が少しずつ青くなる。
「行ってみよう!」
市井は後藤の手をとって走り出した。
…この手、やっぱ市井ちゃんだ…
後藤は市井の手を強く握りしめた。
あら?書き込みが増えた。
題名:『じょうほうありがとう』
投稿者:はんにん
じょうほう ありがとう
6月27日 18時45分
犯人から?本人かしら。
ケケケ。そんなわけないか。
楽しくなってきたわ…。