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6月28日 AM00:48:
保田はもう自宅帰っていて、寝る準備をしていた。
「やだ…レンズがない…」
寝る前の習慣であるカメラの手入れをしようとした矢先の事だった。
…確か、紗耶香と裕ちゃんが来た時には写真撮ったから…
「やだ…楽屋に忘れてきたんだ…」
明日は日本テレビで仕事がない。
…大切なレンズなのに…
時計をチラリと見る保田。
「仕方ない…今から行くか…」
保田は眠たい目をこすりながら、着替え始めた。
保田のベッドの下では、つんくの家のリビングと同じように、赤いライトが点滅していた。
「…です」
辻が携帯でつんくに加護の事を話す。
「…ほんまかいな…。なんであいつそんな事…」
絶望したようにうつむき携帯を切った。
「ちょ…どういうこと…」
中澤がつんくを覗き込む。
「…あのな…」
「…ってことらしいんや…」
「じゃ、じゃぁあの携帯からのくいずメールは…」
「加護っちゅうこっちゃ…」
加護の事、そして吉澤の事。
気付けなかった事の悔しさが中澤を襲う。
「裕子…あんまり気にするなや」
「…」
肩に置かれた手から伝わるつんくの優しさ。
「まぁ加護の事よりも、まずは保田を辞めさせなあかんな…」
そっと手のひらが離れていった。
「早ぉ、保田に電話せな…まだあいつ起きとるかな?」
「今日は…もうやめとこうや…」
中澤に再び悔しさが襲う。
「…」
全てをつんくに話した辻は、胃の中のものを全て吐き出しだような爽快感を感じていた。
…お風呂にでも入るか。
そうして辻は下着をタンスから取り出すと、風呂場に向かった。
パチン…。
部屋が暗闇をまとう、赤く点滅するライトを残して。
意識と無意識の狭間。
すでに眠気でもうろうとしているつんくと中澤。
2人ともソファに寄りかかり、今にも深い眠りに入りそうだ。
そこに目覚めを告げる使者の声。
「メールが届きました」
突然のその声に、重いまぶたが再び開き始めた。
「件名:こらしめたよ
びんじょうはんたちは ゆるさない だからこらしめちゃった
そうそう おもしろい ほーむぺーじ あったよ」
メールの一番下にはURLが書かれていた。
「なんや…このホームページは…」
咄嗟に中澤がそれを制止しようとする。
「ちょっ、つんくさ…」
中澤の手が間に合わずウィンドウが開かれる。
「な…なんや…なんやこのホームページは!」
『モーニング娘。誘拐事件 実況生中継』
今まで送られてきたメールが全て公開されている。
「い、一体誰が…」
つんくが青ざめていくのが分かる。
「裕子…これは一体…」
HP内を隅々見渡すつんく。
「なんでこのホームページが…」
中澤はそうつぶやきトイレへと駆け込んだ。
驚きのあまり、トイレの回数が異常に多い事につんくは気付かなかった。
トイレに入るなり携帯を取り出し、福田の番号を押す。
するとコール音が3回もしないうちに福田が出る。
「…なぁ、あんたあのホームページ、誰に教えたん…」
頭の中に巡る2つの想像。
福田がHPを不特定多数に公開し、今回の事件が世間に浮き彫りになってしまう事。
しかし、それが最悪の事態なのではない。
むしろもう1つのほうが最悪なのだ。
中澤は福田の返答を息を飲んで待った。
「安心しなさいよ。メンバーだけにしか送ってないわ…」
それは、中澤が想像した最も悪い結果を導き出す審判だった。
世間にはおろか、ネット上でこのHPのアドレスを誰にも公開していない。
しかし、犯人はこのHPの存在を知っていた。
つまり犯人はこのHPを知っている人物、つまり…。
…犯人は…うちらの中に…いるんかい…