モーニング娘。の小説書きます。

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527ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ

☆PEACE・7☆〜another side〜

吉澤ひとみ編「赤いハチマキ」

吉澤ひとみは、張切っていた。
何故なら、あと1週間ほどで秋季大運動会が行われるからだ。
バレー部のエースで、運動神経抜群の彼女にしてみれば、
当然とも言えるだろう。
528ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:08 ID:t6xByfuK

誰よりも熱くなりやすく、一方でどこかクールさを保っている性格。
極めて男性的で、それでいて、天才的な可愛らしさを持つ。
多彩な顔を持つ女───。
他の人の目に映るひとみは、そんな印象が強い。
超美麗な彼女のファンも学園内に多く存在するほどだ。
だが、本人にしてみれば、そんな事はどうでも良かった。
本人曰く、「アタシは別にやりたいコトやるだけだね」との事。
その渋さが、また女子ファンを増やしてる事も本人は知らない。

彼女には、運動会に対して熱い思い入れがあった。
親友の後藤真希は、「めんどくさい」と言ってサボるつもりらしいが。
ひとみにとっては、大変重大なイベントだったのだ。
529名無し募集中。。。:02/10/12 18:09 ID:t6xByfuK

ひとみの部屋は3人部屋だ。
同じ学年の有名トリオ───石川梨華に、後藤真希、そして吉澤ひとみ。
3人はとても仲が良い事で、学園内でも有名だ。
そして、それぞれ、「石川派」「後藤派」「吉澤派」との派閥を持つ。
これは本人の意志とは全く異なる事ではあるが。
その3人部屋の一角、ひとみの空間がある。
中学の頃から、この寮に住んでいるひとみ。
特に何かを飾ったりするのを嫌う彼女の、シンプルで静かな空間。
まあ、そのすぐ横にはピンクの「梨華空間」が広がっているワケだが…。
それはともかく。
その中でも、特に小さな空間。
バレーでのチーム優勝のトロフィーなどが飾られているサイドテーブル。
その小さなサイドテーブルの上に、赤いハチマキが畳まれて置かれていた。
少し色あせた、赤いハチマキ。

いつも、この時期になると思い出す───。

「絢香先輩…」
530ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:09 ID:t6xByfuK

木村絢香は、バレー部のキャプテンだった。
美人で、秀才で、全日本のプロバレーボールチームから、
誘いがかかっているほどの凄腕の選手だったのだ。
ついでに、性格もとても良かった。
今でこそ、吉澤派や石川派という派閥ができているが、
当時は誰もが絢香を崇拝していたほどだ。
ひとみも、そんな絢香に憧れる内の1人だった。

小学校から始めたバレー。
元々、運動神経は抜群だったし、何より身長が高かった。
中等部2年で転校して来てからも、レギュラーの座を獲得するのは容易かった。
そして出会ったのが、高等部3年の木村絢香だった。

通常、中等部と高等部の練習は、別々に行われている。
中等部がグラウンドで、高等部が専用の体育館だった。
時々、高等部の練習がない時だけ、中等部が体育館を使用するのを許された。
だから、同じバレー部でも、ひとみは絢香の存在など知る由もなかったのだ。
もともと、他人にあまり興味のないひとみの事だ。
本人を見ずして、友人から絢香の話をされても、特に何も感じなかっただろう。
531ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:12 ID:t6xByfuK

だが、あの日。
高等部の練習見学で、ひとみは衝撃を覚えた。
チームプレイのバレーボールを、1人でプレイしているような存在感。
ひとみには、もはや絢香以外の人間など見えていなかった。
(カッケー!!なんであんな上手いプレイできんだろ!?)
(あの人、なんて言うのかな!?)
(すっげー。アタシもあんな風になってみてぇ〜!!)

見学終了直後、ひとみはすぐ様、同じチームメイトたちに問いただした。
「ねえ!!あのすっげーカッコいい人、誰!?」
ひとみの興奮気味の様子に、同じチームの少女たちは呆れ顔を返した。
「ひとみ、知らないのォ!?木村先輩だよ!!」
「木村先輩?知らねー。アタシ、先輩とか興味ないから」
ひとみのその一言で、少女たちは火を吹いたように騒ぎ始めた。
「木村先輩ねぇ、プロのチームから誘いがかかってるんだってぇ!」
「しかも、超優秀!成績はいつもクラストップでぇ〜」
「その上、マジ性格いいんだってばぁ〜」
「顔も綺麗だしぃ」
「もう、欠点とかないってカンジじゃん!?」
「へぇ…そんなにすげーんだ…」
「凄いとか、そんなんじゃないよねー!?」
「ね!!ね!!」
キャーキャーと騒ぐ少女たちを完全に無視して、ひとみは拳を握り締めていた。

「目指すは、絢香先輩ッッッ!!!」
532ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:13 ID:t6xByfuK

ひとみは、絢香を目標にし始めてから、今までの倍以上の上達を見せた。
元々、余りヤル気のなかったひとみだったが、練習後も自主トレをするなど、
相当過酷な練習を重ね続けた結果だ。
2年の夏の大会では、3年生に混じって1人だけ2年で出場した。
その大会で、チームとしてはイマイチだったが、
彼女の動きは目覚ましく、大会のMVPにまで抜擢されたほどだった。
だが、彼女の目標がそれで達成されたワケでもなく、
その後も「目指すは絢香先輩」をモットーに、練習を続けた。

そんなひとみだったが、今まで一度も絢香と話した事はなかった。
そもそも、中等部の生徒と、高等部の生徒が話す事はあまりない。
絢香自身も、ひとみの存在を知ってはいたが、話しかけるまでは至らなかったのだ。
533ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:13 ID:t6xByfuK

ところが、運命の日はやって来た。
「いってぇ…」
ひとみの額から、汗が滴り落ちる。
校舎の壁に手を付き、立ち上がれないまま、うずくまってしまった。
その足には、擦り傷だろうか。
派手に転んだ後のようなその擦り傷からは、赤い血がドクドクと流れ出していた。

ひとみは、運動会のクラスリレーの選手だった。
それも、アンカーだ。
ひとみの直前まで、クラスはトップで独走し続けた。
ひとみにバトンを渡す後藤真希が、トップで走ってきて…。
バトンを受け取ってすぐに猛ダッシュをかけた。
アンカーの走る距離は、今までの走者と違って200m。
スピードと共に、スタミナも要求される。
だが、ひとみにとっては何も問題なかった。
(これで、イケるッ!!)
ところが───。
「ああっぁっと!!首位を走る、吉澤選手が転倒したぁぁ!!」
(いってぇ…)
ひとみは、一瞬自分の身に何が起きたのか解らず、
すぐに立ちあがる事ができなかった。
足の擦り傷も、随分派手に転んでしまったので、すぐに血が流れ出してきた。
それでも、ひとみは諦める事はできない。
それが、リレーという事を知っていた。
534ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:14 ID:t6xByfuK

転んでしまった間に、何人かに抜かれている。
(まだ抜かせない距離じゃない!!)
(あと、100m!!!)
立ち上がったひとみは、恐ろしいスピードで走り出した。
まさに、風。
風のようなスピードだった。
抜かされた1人を、2人を次々に追い抜いた。
歓声が湧き上がり、もう何が何だか解らないような状況。
ゴール前5mで、ついにひとみは首位に巻き返し───
「ゴォォォォォル!!!!!!」
「……っしゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
湧き上がる歓声と共に、クラスメートたちがひとみを取り囲んだ。
もう、あれやこれやでもみくちゃにされて、何が何だか解らない。
けれど、ひとみは雄たけびを上げ続けていた。
535ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:16 ID:t6xByfuK

ところが、カッコつけたのもつかの間。
その無理のしすぎで、足が限界に達していた。
プログラムはもう、あと少しでおしまいだし、もう自分の出番はない。
とりあえず、みんなにバレないように(カッコ悪いので)保健室に向かおうとしたが…。
結局、足が動かなくなってしまったのだ。
人気のない、校舎の裏で、壁に背を向けて座りこんだ。
(いててて…。あー、こんなトコ見られたら、カッコ悪いよなぁ)
血まみれになった自分の足を見て、ひとみは苦笑した。
(クッソー。梨華みたいに、ハンカチ持ち歩いてれば良かった)
ふと、額に手をやると、ハチマキをしている自分に気付いた。
(あー…このハチマキが、白じゃなくて赤だったらなぁ。
 血が滲んでも大丈夫なのになー…くそぉー…)
別にもう運動会は終わるのだから、気にする必要はないのだが…。
それすらもひとみはカッコ悪い気がした。
ふぅ〜…と長い息を吐いて、ひとみは瞳を閉じた。
536ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:19 ID:t6xByfuK

そのひとみの傍で、人の気配がした。
「大丈夫?」
どうせ、梨華か真希だろうと、目を閉じたままでいたが、
話かけられた声が違ったので、ひとみはビックリして目を開けた。
(聞いた事ない声だ…)
目を開くと───。
そこには信じられない人物が立っていた。
「き、木村…先輩!?」
「あれ、覚えててくれてるんだ?吉澤さんだよね」
「え、あ、あ、ハイ!!」
(うっわー…絢香先輩に話かけられちゃったよ!!?)
(すっげーじゃん、アタシ!!)
「リレー凄かったね。さすが、バレー部のエースだけあるわ」
「あ、ありがとうございます!!」
憧れの先輩に、話かけられたり、褒められたりして、
ひとみは我を忘れてただボケーっとしていた。
自分でもおかしいと思ったほどだ。
537ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:19 ID:t6xByfuK

「あっ、ここケガしてる!!凄い血じゃない!!」
「え?」
「ちょっと待ってて」
「あ、いいッスよ。汚く…」
「ハイ、これでいいわ」
絢香は、自分の赤いハチマキを額から外すと、
ひとみのケガの部分に巻きつけた。
「私の汗が滲んでるから、汚いかも知れないけど…。
 赤いハチマキだから、血が滲んでも大丈夫だから」
「え!?いいんスよ、こんなの!!全然大丈夫ですから!!!」
「いいの。私がしたくてしたんだから。
 あ、それじゃあ、私…高等部のリレーだから、もう行くね。
 今度はゆっくり話しましょうね!!」
「あ……」
背を向けて走り去る絢香に向かって、ひとみは何も言えないでいた。
そして、完全に絢香が去った後に、「くっそぉぉぉ!!」と叫んでいたのだった。
その胸の中には、後悔とか多分そんな感じのものがあったんじゃないかと思う。
538ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:21 ID:t6xByfuK

それから、2人の仲は急激的に近づいていった。
…と言っても、別に妖しい関係になったワケではないが。
どちらともなく、相手の姿を見つけると、近寄って積極的に話すようになった。
バレーの話、普段の生活など。
その人柄に、ひとみはとても惹かれていた。
ヘンな意味ではなく、人間的にすごく尊敬できる人だった。
ひとみは、実は寮の先輩の誰かよりも、この尊敬できる先輩が好きだった。
時には、彼女に憧れる女性徒たちに妬まれたりしたが、
特に気にするコトなく、ひとみはひとみで絢香との人間関係を楽しんでいた。

539ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:22 ID:t6xByfuK

「ひとみちゃん」
昼休みの中庭。
もうすぐ本格的な冬になるが、午後の日差しはまだ暖かい。
そこで、真希と一緒に昼食をとっている時の事だ。
ベンチに座って、2人でボケーっとしていたら、突然声をかけられた。
「あ。絢香先輩ッ」
声の方を向いたひとみは、すぐ様その先輩の姿を見つけて走り寄った。
長い髪、丹精な顔立ち、ひとみより少し背の低い───。
一緒にいた真希は、どーでもよさそうにまだボケーっとしていたが。
「先輩、珍しいッスね」
「そう?さっき、クラスのコに聞いたら、ココにいるって言われたから」
「え?なんか用事ですか?」
「ええ。実は私、高等部卒業後に、プロのチームに入るのが決まったの」
「えええええ!!!!!???マ、マ、マジッスか!?」
「ええ。マジよ」
「うわぁ…すっげー…かっけー…」
540ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:23 ID:t6xByfuK

自分の事ではないのに、まるで自分の事のように嬉しく感じた。
それも、憧れの絢香の事だ。
これが、喜ばれずにはいられなかった。
「今日、正式にお話してね。お願いしますって事になったのよ」
「うわぁ…あ、おめでとうございます!」
「ありがとう」
ひとみはビビった。
何にビビったかというと、絢香の存在自体に。
ひとみに礼を言った絢香の、完璧までの笑顔。
まるで、弱点のない人───。
何度も見なれた先輩だったのに、今日初めて見るような気分になった。
(この人なら、きっとプロでも成功する)
「あの、先輩!!頑張って下さい」
「ええ。頑張るわ。ま、まだあと少しはこの学園にいるしね」
「ハイ!それまで、お願いします!!」

(すっげーよ…マジかっけー…)
去る絢香の背中を見つめて、ひとみは呆然としていた。
目指すべきその存在は、ひとみが猛スピードで近づいても届かない。
それが、天性の才能───。
(凡人と、天才の差ってヤツだね)
ひとみ自身のそれも、凡人にはほど遠かったが、絢香のそれはケタ違いという事だ。

541ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:23 ID:t6xByfuK

「何…デレデレしてんの」
「は!?」
振り向くと、さっきまでは1人しかベンチに1人追加されていた。
「梨華…」
「何よ。ひとみちゃんったら、絢香先輩にばっかり…」
少々、他の人が聞いたら誤解されるような内容なのだが…。
絢香にばかり注がれる羨望の眼差しが、梨華には面白くなかったのだ。
…梨華にその気があるとかないとかはともかく…。
初冬の日差しは、彼女たちを優しく包んでいた。
542ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:24 ID:t6xByfuK

それから3月になり、絢香は卒業した。
高等部を卒業した者のほとんどが、外部の大学等に進学する。
そんな中で、絢香は早々とプロへの道を決めたのだ。
本来なら、卒業してもしばらくは寮の引越しなどをするのだが、
絢香の場合は少し事情が違った。
他の卒業生と違い、卒業式の翌日にはここを去らなければならなかったのだ。

絢香が学園を去る日のこと。
ひとみは練習をサボって、絢香の見送りに行くつもりだった。
何故なら、どうしても返さなければならない物がある。
───赤い、ハチマキだ。
彼女から借りた大切なハチマキだったが、絢香が学園を去る以上は
自分が持っていてはいけない気がした。
(こんなことなら、さっさと返してれば良かった)
ひとみは、いざとなって自分の判断力のなさを痛感した。
ハチマキを持っている事が、自分と絢香を繋ぎ止めている気がして。
それを返すのも辛かったが、返さないワケにもいかないと思っていた。

543ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:24 ID:t6xByfuK

木村絢香が学園を去る事実は、学園内にかなりのショックを与えた。
ファンの少女たちは泣き出し、絢香についていくと言い出す者もいた程だ。
ひとみは、そんな彼女たちを横目で見て、
(ついてけるもんならついてけよ)…と心の中で悪態をついていたのだが。

すでに、人だかりに囲まれた絢香に近づくのは至難の技だった。
人だかりの中に、同じ中等部バレー部の者たちがいる。
(なんだよ。みんなサボりか。ま、アタシもだけど)
(あーあ…。絢香先輩、あんなに遠いよ…ったく)
「ハイ、ちょっとゴメン」
少女たちの間を強引にすり抜け、ひとみはなんとかして絢香に近づこうとした。
まだ遠い。
花束をたくさん抱えて、微笑んでいる彼女には。

544ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:27 ID:t6xByfuK

(邪魔だよ、ったく!!)
世界の人口が3分の1になればいい、と本気で考えたのは初めてかもしれない。
それくらい、今の自分にとってこの少女たちの群れが邪魔だった。
ある意味、障害とも言えようか。
足を踏まれ、肩はぶつかり合い、手に握ったハチマキが揺れる。
(あと、少し…)
だが、ひとみが、最前列に出ようとした瞬間に、絢香が踵を返した。
そのまま、振り返る事なく歩んで行ってしまおうとする。
(こ、ここまで来たのに…)
(ちくしょう…)
(一言だけ、一言だけ…)
その瞬間、ひとみは叫んでいた。
「絢香先輩ッッッ!!!!!!」

───静寂。
声を枯らして叫んだ自分。
そして、振り返った憧れの少女。
周りの少女たちの声援が、キャーキャーうるさいハズなのに。
ひとみと絢香しか存在しない空間のように感じられた。
545ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:28 ID:t6xByfuK

「ひとみ…ちゃん?」
「あはは…やっと、気付いてもらえた…」
「来てくれたんだ…。ゴメンね、気付かなくて」
「あ、はい」
(かぁ!!何やってんだよ、アタシ!!)
(渡すんだろ!?ハチマキ!!)
本当は、言いたいことがたくさんあるのに。
伝えたい言葉がたくさんあるのに。
どうしても、その言葉を紡ぐことができなかった。
「…?どうしたの、ひとみちゃん」
「あ、その…」
(早く!!ハチマキ…!!!)
「あの、実は…」
「ふふ、変なの。それじゃあ、私…」
ハチマキを握るその手が、強まった。
ひとみは、ついに決心を意して叫んだ。
「絢香先輩、コレッ!!」
546ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:29 ID:t6xByfuK

差し出された、赤いハチマキ。
自分と、彼女の思い出の。
少なくとも、アタシにとって。
「あっ!それ、ハチマキ!」
「先輩に、借りた…」
「うんうん、覚えてるぅ!」
「返さないと…」
必死になって言葉を噤むが、口がカラカラになって、
ノドはガラガラになって、上手く喋れなかった。
それでも絢香は、そのハチマキを受け取って優しく微笑んだ。
「ありがとう」
「…いえ。あの、卒業おめでとうございます。
 さようなら…」
そのまま、踵を返して走り去ろうとしたひとみを、絢香の手が止めた。
ひとみの腕に、細い指が絡む。
「待って」
「え?」
547ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:29 ID:t6xByfuK

何が起きたか知らなかったが、気付いたら絢香の顔が目の前にあった。
そして、自分の額に赤いハチマキが巻かれていた。
「コレはー…あげるッ♪」
「ハ?」
「コレ、ひとみちゃんと私の思い出だから」
「え??」
「来年の運動会は、コレつけて出場してね」
「あ?」
「それじゃあ、また会いましょう。じゃあね」
「え、あ、あの…」
「see you again!」
「あ、ハイ。しーゆーあげいん」
(何がしーゆーあげいんだよ)と、冷静に突っ込む自分がいたが、
絢香が去ってからも何が起きたか解らずにいた。
残ったのは、ひとみの額に巻かれた赤いハチマキだけだった…。
548ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:31 ID:t6xByfuK

その赤いハチマキを、『今の』ひとみが握り締めている。
絢香の活躍は、瞬く間に世界に広まった。
あの人は今も、世界のどこかでプレイしているのだろうか。
全く連絡は取っていないが、それでもまた会える気がある。
この、ハチマキがある限り───。

「あ、今年もそのハチマキつけるんだ。赤組だもんね、今年」
「まあね」
「え?そのハチマキ、何か意味あるんですか??」
「ひとみちゃんの憧れの先輩のハチマキなんだよ、愛ちゃん」
「へぇ〜…ひとみ先輩が憧れる程の人かぁ」
「…ひとみちゃんの初恋の人の人だもんねー…」
「ハァ?まだ言ってんの?お前。うぜー」
「だって…」
「アハハ。梨華の初恋はひとみだもんね」
「ま、真希ちゃん!!変のコト言わないでよっ!!」
「はいはい…」
「そーいえば、愛ちゃん白組だねー」
「そーなんですよぉ。みんな赤でつまらないー…」
「ま、アタシがいる限り白の優勝はないけど」
「何ですかそれー!」
549ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/12 18:32 ID:t6xByfuK

絢香先輩、元気ッスか。
アタシは今年も大暴れしますよ。
だって、先輩のハチマキがあるからね。
あ、アタシもプロから誘いが来るようになったみたいだし。
そろそろ追い抜いてやるんだから、待ってろよ!
アハハハハ…。

───吉澤ひとみ、いきます!!