モーニング娘。の小説書きます。

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503ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ

☆PEACE・6☆〜another side〜
紺野あさ美編「ひとりぼっちのウサギ」

こんにちわ。私、紺野あさ美です。
今年で、中学校3年生になります。
私は今、全寮制の「聖ハロー女学園」に通っています。
みんながいるし、元気にやってます。
そもそも、なんで私がここに来たかって言うと…。
504ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:35 ID:p9lZ9bpP

私に無関心な遊び人の父と、いつもヒステリックで口うるさい母から産まれました。
私の心の支えになってくれたのは、優しいおじいちゃんだけでした。
産まれた時から、両親のことは大嫌いでした。
遊び人の父は、ぶらぶらして家にいることはあまりなかったし、
母は母で、そんな夫にストレスを溜めていつも鬱状態でした。
まったく正反対の性格の2人が、よく結婚できたものですよね。

そんな父と母が離婚したのは、私が中学校1年生の時。
小学校の頃から絶えずケンカが続いていたので、さっさと離婚して欲しいと思っていました。
ところが、父と母が離婚しても生活は全く変わりませんでしたね。
ああ、ちなみに「紺野」とは母の旧姓です。
父は、遊ぶ金欲しさに母はおろか、私にすら「金貸して」とせびって来ました。
母は、父が尋ねてくるといつも機嫌が悪くなり、ヒステリックになって、
よく私を怒鳴りつけました。
加えて、学校でもいじめられていたので、とても辛かったです。
私ってば、何かいつもボケーっとしてるところがあるみたいで…。
よく、「トロい」とか「うざい」とか言われてましたね。
それについては、あまり語りなくないので…ゴメンなさい。

それにしても、まったく、よくあんな生活で耐えてたものですね、私。

505ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:36 ID:p9lZ9bpP

中1の冬頃に、ついに私は家出をしました。
と言っても、行くアテもないので、隣町のおじいちゃんのところへでしたが。
小さい頃に何度か行ったきりでしたが、今の私なら1人でも行けるハズです。
全財産と、数日分の着替えを持って、バスに乗って行きました。
おじいちゃんは、父の父で、小さな牧場を経営していました。
おばあちゃんはすでに亡くなっていたのですが、とても優しい人だったことを覚えています。
おじいちゃんは、孫の私の訪問をとても歓喜してくれました。
そして、「いたければ、何日でもいなさい」と優しく微笑んでくれたのです。
その笑顔が、私の心に痛く響いたので、私ったら思わず泣いてしまったんです。
そしたらおじいちゃんは、私の涙をそっとハンカチで拭いてくれました。
「あさ美。辛いなら、無理をする必要はないんだよ」
そう言ってくれたのを、覚えています。

506ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:36 ID:p9lZ9bpP

夜になって、母が牧場に来ました。
またヒステリックに、「あさ美!!帰るわよ!!」と叫びましたけど、
おじいちゃんの仲介で、話合いの場がもたれました。
最初のうちは、3人で話していたのですが、大人の話になって、
私は部屋を追い出されてしまいました。
時々、あの優しいおじいちゃんの怒鳴り声と、母のすすり泣きが聞こえましたが。

私は、2人の話が長くなることを予感していたので、牧場を見て回ることにしたのです。
夜なので、さすがに家畜を野放しにはしていません。
とりあえず、牛を見ることにしました。…が。
牛舎は、近寄った瞬間にもの凄い匂いがしたので、やめました。
豚舎も、牛舎と変わらないくらいひどい匂いがしたので、これまたやめました。
そこで私は、ウサギ小屋の存在を思い出しました。
亡くなったおばあちゃんが飼ってたうさぎです。
ところが、うさぎ小屋はどこにも見当たりませんでした。

507ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:36 ID:p9lZ9bpP

(おかしいなぁ…。ウサギ小屋、どこだろう)
何度も何度も、行ったり来たりして探していたのですが、
とうとう見つからないままでした。
そのうち暗くなってしまい、結局ウサギ小屋を見つけられないままでしたが、
母が私を大声で呼ぶ声が聞こえました。
遠くからでもよく聞こえるその声に、少し嫌気がさしたのですが、
ゴネても仕方ないので戻ることにしました。

「それじゃあ、お義父さん。あさ美をお願いします」
「わかっとる。お母さん、あまり無理はなさるなよ」
「ハイ…。それじゃあ、あさ美。おじいちゃんの言う事、ちゃんと聞くのよ」
「は、はい…」
「それじゃあ…」
去り行く母の背中を見て、私は頭の中がパニくってました。
あれれ?なんで私、置いて行かれるの?
何の説明もなしに、どうして?

508ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:39 ID:p9lZ9bpP


「お母さんな。ちょっと疲れてるんだよ。
 だから、しばらくあさ美をうちで預かる事にしたのさ」
自分でも気付かないくらい、不安な顔をしてたのでしょうか。
おじいちゃんが、私の疑問に気付いてくれました。
「どうして?私、ここに残っていいの?」
「いいんじゃよ」
「本当!?」
「ああ…」
おじいちゃんは、優しい表情で微笑んでいます。
(やった!)
不謹慎とは思ったけれど、これが喜ばずにはいられません!
だって、しばらくの間、あの口うるさい母と一緒にいなくていいんだもの!
これは、思ってもみないラッキー!
父にも母にも会わなくていいし、学校に行く必要もないんです。
私を苦しめる者は、何もないんですから!

おじいちゃんの家での暮らしは、すごく充実していました。
おじいちゃんと一緒に早起きして、牛さんや豚さんの世話をして…。
初めは臭くて近寄れなかった畜舎も、すぐに慣れました。
芝生に寝転がったり、畑仕事をしたり…。
初めて経験した牧場の仕事は、辛かったけど、すごく新鮮でした。
509ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:39 ID:p9lZ9bpP

ある日、私は、前から気になってたことをおじいちゃんに聞きました。
なんだか、聞いてはいけない気がしていたのですが…。
おじいちゃんは、あっけなくその答えを教えてくれました。
それは、あのウサギ小屋のコト。
おじいちゃんの答えは、「ウサギはもういないんじゃ」とのコトでした。
凄く残念な反面、おじいちゃんが辛そうな顔をしたので何も聞きませんでした。
続けておじいちゃんは、「ウサギはな。1羽では生きることができないんだよ」と教えてくれました。

きっと、おじいちゃんにとってウサギは…おばあちゃんだったんでしょう。
おばあちゃんの飼ってたウサギを大切に育てたけれど、そのウサギもいない。
だけど、おじいちゃんは1人で生きられるから…ウサギじゃないんです。
そして、私もウサギなんです。
だから、1人じゃ生きられないんです。
私を支えてくれるのは、おじいちゃんだけだけど…。
それでも、1人じゃ生きられないんです。
なんとなく、そんな風に思っていました。
そんな私の考えを見ぬいたのか、おじいちゃんが言いました。
「あさ美は、人間だ。ウサギじゃないよ」
私はビックリでした。
510ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:40 ID:p9lZ9bpP

1ヶ月ほどの滞在。
そろそろ母が迎えに来るという、年末の事でした。

おじいちゃんが、急に畑で倒れました。
私は、必死になって救急車を呼び、病院に運ばれました。
とにかく私はパニックになって、これまでで一番泣いたと思います。
母に怒鳴られた時より、父に殴られた時より、学校で教科書が失くなった時より。

私は知らなかったのですが、おじいちゃんはガン患者でした。
それも、かなり末期の───。
お医者様は、「大丈夫だから」と言っていましたが、
末期ガンの患者の末路が解らないほど、私は子供でもありませんでした。

それからの毎日、ただ泣くばかりでした。
おじいちゃんのいなくなった牧場に、1人で戻って。
家畜の世話を見ながら、ただただ泣くばかりでした。
すごく辛い毎日だったと思います。

母は毎日病院に通い、おじいちゃんの様子を見ていました。
ですが、牧場に私の様子を見に来ることはありませんでした。

牧場での1人の生活は、ほどなくして幕を閉じました。
ひとりぼっちのウサギは、これからどうすればいいのでしょう。
511ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:40 ID:p9lZ9bpP

年が明けた1月のある日。
悪い予感がして、牛さんたちに朝ご飯をあげてから、すぐに病院に向かいました。
おじいちゃんの病室に飛び込むと───。

「おじいちゃん!!おじいちゃん…」
「…あ…さ…」
「おじいちゃん…!!あさ美だよ!!…おじいちゃん!」
「…あ…さ、み。…ゴメン…なぁ…」
「おじいちゃん…」
「…あ、…さみ…。強、く…、つよ…」
「もういいから!!おじいちゃん…おじいちゃん!!」
「……大地の…、よう、…に…。…つ…よく、……」

おじいちゃんの言葉が聞こえた後、ピー…という、
まるで死神が笑っているかのような音が耳に入ってきました。
ですが、私は何もわからないまま、目を見開いてボケーっと突っ立っていました。
512ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:41 ID:p9lZ9bpP

その日から、私の生活はまた一転しました。
いえ、元に戻ったとでも言うのでしょうか。
母は、より一層厳しくなり、学校を休むのも許してくれませんでした。
相変わらず学校では、いじめられっ子でした。

だけど、私は負けませんでした。
おじいちゃんの残した言葉。
「大地のように強く」───。
それに、私はウサギではない。
私は、人間だもの。
1人でも、強くならなきゃいけないんだ。
…おじいちゃんが、残してくれた言葉だもの。
そう思って生きる他に、私には何もありませんでした。
513ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:42 ID:p9lZ9bpP

母と再び暮らすようになって、私は自分を変えました。
普通なら、グレてヤンキーになるところでしょうね。
でも、私のような気弱な女が、ヤンキーになれるはずもなく…。
それでも強くなろうと思って、空手を始めました。
師範には、「筋がいい」とよく褒められたっけ。

勉強もよくしました。
もともと成績は良い方だったけど、学年で1位を取れるくらいに。
運動神経も、意外と悪くないみたいで、
校内マラソン大会では見事1位を取りました。

それでも、友達ができた訳でも…。
母が私を愛してくれる訳でもありませんでしたが。

空手を習い始めてから、私に暴力を振るおうとする人はいなくなりました。
陰口はあったかも知れないけれど、教科書がなくなったり…というのもなくなりました。
けれど、結局、私を認めてくれる人はおらず、孤独なまま。
だけど、私はそれをものともせず、自分を磨くしかなかったんです。

私は、ウサギじゃないから───
1人でも、生きていける───

そう思って、生きて行くしかなかったんです。
514ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:43 ID:p9lZ9bpP

月日が経ち、おじいちゃんが亡くなってから1年が経ちました。
この1年の中に、楽しい思い出があったかどうか…。
それすら、解らないような1年を過ごしていました。

ある日、私は進路指導の先生に呼び出されました。
もうすぐ中3なので、進路指導は当然の事と思いましたが、
それにしても、私1人だけ呼ばれたのには何か意味があるのでしょうか?

「失礼します」
「ああ、来たか」
「お話って…」
「ああ、これなんだけど」
先生は、私がイスに座るなり、1枚の紙を取りだしました。
「これは?」
「全寮制の学校のパンフレットなんだ」
「……」
515ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:44 ID:p9lZ9bpP
『私立・聖ハロー女学園高等部』


「これ?」
「あ、ああ。この学園な。全寮制なんだけど…。
 うちの学校の卒業生からも行ったヤツがいてな。
 あ、藤本っていうんだけど。
 そいつから、この間手紙が来ててな。
 すごくいい学校だから、後輩たちにも是非!って言われてなぁ…」
「それで、私が適格だと?」
「あ、いや…その…」
「私の家情が複雑で、それでいて友達がいないからですか?」
「あ、そうは言ってないが…。
 こういう進学先も、ありだな、とな?」
「…そうですか。ありがとうございます。
 でも、まだ進学については決めてませんので。
 …一応、お預かりします」
「あ、ああ…」
「失礼します」
「…あ、ああ…」

全寮制の女子高…か。
まだ、私には関係ないかな。
そう思い、いただいたパンフレットをカバンにしまいました。

516ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:44 ID:p9lZ9bpP

3月上旬。

「ただいま」
誰もいない空間に向かって、私は言葉を吐きました。
返事などない、誰もいないマンションの一室。
母はまだ、帰って来ていないのでしょう。
靴を脱いで、自分の部屋に入ろうとしました。
…が、いつもと違うことがありました。
誰もいないはずの奥の部屋から、「おかえり」という声が聞こえたのです。
ビックリして、慌てて奥の部屋に駆け込みました。
そこには───。
「よぅ、あさ美ィ。元気かぁ」
見たくもない、汚い顔。
聞きたくもない、汚い声。
最低最悪な男───。私の、実の父───。
「なんでここにいるんですか」
「え〜?別にいいじゃん」
「…よくないです。出ていかないと、警察呼びますよ」
「あさ美ちゃぁん。パパ悲し…」
「出てけよ!!アンタなんか、父親じゃない!!」
「あぁ?父親に向かって、その口の聞き方はなんだ?」
「早く出てって…。…下さい」
517ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:45 ID:p9lZ9bpP

ところが、最悪の事態はそれだけでは済みませんでした。
「誰かいるの?あさ美。帰ってるの!?」
玄関の方から、母の声が───。

・・・・・・。
おじいちゃん、やっぱり私はウサギだよ。
だって、1人じゃ、生きていけないんだもの…。
強くなろうとしたって、無理だったよ…。
ゴメンナサイ、おじいちゃん。
私も、後を追ってもいいですか?

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
518ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:46 ID:p9lZ9bpP

部屋に戻った私は、突発的に、護身用のカッターナイフを探しました。
この時、すでに冷静な判断などなかったと思います。
カッターナイフは、いつもカバンの中にしまってありました。
カバンを開き、奥の方からカッターナイフを取り出そうとしました。
…その時、一枚の擦り切れた紙を発見しました。

『私立・聖ハロー女学園』

「……こんなの……」
その紙を破り捨てようとした時。

『中等部、転入・編入生徒、随時募集中』

正直な話、直感的に感じましたね。
次の瞬間には、その紙を持って電話の前に立ってましたから。
519ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:46 ID:p9lZ9bpP

さらに一週間後。
周囲の反対を押し切って、私は入学手続きを終えました。
両親共に反対しませんでした。
父は、「勝手にすればー」と言ってましたし、
母も、「勝手になさい」と言っていました。
こういう時だけ、意見が合うんですね。この2人。
え?お金ですか。
お金は…心痛かったのですが、おじいちゃんの牧場を売りました。
ついでに、おじいちゃんの遺産が私に入ったコトもあります。
…政経の勉強を余りしていないので、詳しい事はわかりませんが。
まあ、とにかくそのお金で、なんとか入学金と授業料を払う事ができました。

この場所で私が変えられないなら、違うところでやるしかないのです。
私はウサギだから、1人ぼっちじゃ生きられないんです。

これからは───。
これからは───。
520ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:46 ID:p9lZ9bpP

長い長い冬が過ぎたみたい。
季節のせいじゃなくて…。
私の道は、これから始まる。
もう、誰にも邪魔はさせません。
見ていて下さい、おじいちゃん。
私、強くなります。
ウサギから、人間になれるように───。

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
521ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:47 ID:p9lZ9bpP

あさ美ぃぃ!お願いッ、宿題見せてッ」
「ちょ…それは、まだ終わってないんですっ!!持ってかないで下さいッ!」
「あんた、夏休みギリギリにキチンと終わらせるって言ったじゃんよ!?」
「暑さでダラダラしてしまったせいでできなかったんですッ!」
「あーあ。2人とも、ちゃんとやらなかった罰だねー♪」
「ほらっ、愛ちゃんも手伝って!!」
「麻琴さん、ズルいですよ!?」
「えー?私、自分の宿題終わったのにぃ〜…」
「あぁぁぁん!!あさ美ちゃん、宿題見せてーなぁ」
「あさ美ちゃん〜、のの宿題終わってないれす〜」
「あなたたちも!?私だって、まだ終わってないんですってばぁ!!」
「もー!!あんたたち、うるさぁぁい!!!」
522ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/10 21:47 ID:p9lZ9bpP

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。

おじいちゃん。
あさ美は、元気にやってます。
友達も、たくさんできました。
だから、心配しないで下さい。

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。

ウサギさん、バイバイ…。