モーニング娘。の小説書きます。

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479ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ

「あの、ちょっと待ってて!!」
「え?」
明日香さんにそう言い残すと、私は素早く部屋を出た。
そして、2階の自分の部屋に入ると、一目散にクローゼットを荒らした。
浴衣…。
どっかに、浴衣なかったかな。
こないだ着たばっかりだから、ないハズないと思うんだけど…。
ん、ない!
どこにしまったっけ…!!?
クローゼットじゃなくて、タンスの中だっけ?
違う!!ここにもない!
ああ〜ん!!どこだよ〜、浴衣ぁ!
イライラしながら、私は、パッと顔を上げた。
何かがチラッと目に入った。…白い生地で、赤い花の模様の…。
あった!!
何やってんの、私!!
目の前にかかってるじゃん!!
ああ〜!私のボケッ!カスッ!
…って、今はそんなコト言ってる場合じゃないわ!
480ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/09 02:46 ID:ByKYFX1+

「あの、どうかな。これ」
明日香さんは、ビックリした表情で私を見ていた。
すごく驚いたみたい。
「薫だわ…」
「そう、私、薫よ」
「凄い。そっくり…」
なんてことはない。
昔風に、着物はないけれど浴衣を着て、
いつもはポニーテールの髪を下ろしただけ。
それでも、彼女は私を『薫』と認識したみたい。
「薫も、いつもそんな風に髪やってた」
「本当?」
「ええ。本当に、あの時の薫といるみたいだわ…」
「そう…」
明日香さんは、すごく懐かしそうな顔で私を見る。
その顔は、嬉しさとせつなさが同居しているかのような顔だった。
481ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/09 02:46 ID:ByKYFX1+

沈黙の中、先に口を開いたのは明日香さんだった。
「あの、愛さん」
「は、はい」
「…薫、今どんなカンジ?」
「え…」
困った。
とっても困ったわ!!
だって、私だってあんまりおばあさまのコト知らないもの。
それに…実は大嫌いだなんて言えないもの。
どうしよう。
何て答えよう…。
「じゃあ、どんな人と結婚したの?」
私が答えられずにあたふたしていたので、彼女は質問を変えてきた。
だけどそれも困る!私、おじいさまのコトもよく知らないの。
あの鬼ババアを嫁に貰うくらいだから、相当な人格者だったんじゃないかしら!?
「えっとぉ…おじいさまのコト、よく知らないんだけど…。
 でも、すっごくお金持ちで、多分すごく良い人だったと思うのね」
「そう…。それなら、良かった」
しばらくの間、私と彼女は、おばあさまについて色々な話をした。
482ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/09 02:49 ID:ByKYFX1+

おばあさまについて、ちょっと見方が変わった部分がある。
それはね。
本当は、優しい人だってコト。
だけど、それを人に見せるのがハズかしいから、わざと厳しくするんだって。
だから、明日香さんが言うには、私をこの学園に入れたのも、
両親がいなくなって寂しい私を、その寂しさから引き離すためかも…って。
そういえば、そんなコト考えたコトもなかった。
考えられやしないじゃない?
いつも見てたのは、きったないシワくちゃな顔で、
魔女みたいに高笑いする、あの『おばあさま』だったんだから。
だから、明日香さんの話を聞いて…ちょっと意外だったかな。

まあ、自分で見たワケじゃないから、にわかには信じられないけれど。
それでも、ここを出る時くらいには…。
…………。
ううん、やめとこ。
こんな風に考えるの、おばあさまに失礼だものね!!
483ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/09 02:50 ID:ByKYFX1+

あ、そうそう。おばあさまの格好して。
それで、どうするかって?
安易な考え方だったけど。
一応、試してみるコトにするわ。
「あのぉ、明日香さん。
 薫さんは、あなたのコト…なんて呼んでたの?」
「え?…明日香、だけど」
突然の質問に、少し困惑した顔を向ける彼女。
「じゃあ、明日香」
「はい?」
「あのー…ね」
私は、深く深くこれでもかってくらいに深呼吸すると、
彼女にこう言った。
「今から、私が薫です!!!!!」
「え?」
「だから、私を薫だと思って!!」
「どうして…」
困り果てた表情の彼女に、私は続けてこう言った。

484ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/09 02:50 ID:ByKYFX1+

「あのね。私、あなたとおばあさまを会わせたいよ。
 でも、でもね!!できないの。
 あなたがここを動けない以上、おばあさまには会わせられない。
 だから、もし、私でいいなら…」
そこまで言った時に、彼女は私の言葉を遮った。
「ゴメンナサイ…。それはできません」
「どうして!?」
彼女の言った一言が信じられず、思わず強く言い返してしまった。
それでも彼女は、困惑した表情で私に向かって言った。

何故かその顔は、笑顔だった。

「…あなたは、薫じゃないから。
 それに…私、もう気づいちゃったもの」
「え?な、何が…」
ヘンなの。
急に頭が重くなってきた…よ…。
なんなの…。
「ごめんなさい、愛さん」
な、なにが…。
開かない口をパクパクさせ、頭の中で一生懸命喋る。
だが、その言葉は届かなかった。
「ありがとう」
な、なんで…。

最後に私が見たのは、白く輝く彼女の姿だった。
485ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/09 02:57 ID:ByKYFX1+

「愛ちゃん!!!愛ちゃん!!!!!!」
「そんなところで寝てると、風邪引きますよー?」
ん…?
「…あれ…明日香さん…?」
寝ぼけまなこで、彼女の名を呼ぶ私を見て、
マコちゃんとあさ美ちゃんの2人して、顔を見合わせていた。
「誰?」
「本当に風邪引いたんじゃ…。バカは風邪引かないっていうのに…」
む。失礼な。
「ほら、早く起きてよ。
 圭センパイ、今日帰って来るんだぞ。
 勝手に入ると、怒られるよ?
 もう〜、浴衣なんか着ちゃってさぁ」
「ん…?もう、朝?」
「何寝ぼけてんのさぁ。もう、昼だよ!!」
え…?
夢、だったの?
でも、私の着てる浴衣…。
何?
何だったの?
486ごっつぁむ ◆ddUSDAplHQ :02/10/09 02:58 ID:ByKYFX1+

結局のところ、あの夜の出来事がなんだったのかわからない。
真夏の夜の、怪談と言ったところだろうか。
何もかも解らないまま、結局その後に何かを知るコトもできなかった。
明日香さんが何を納得して消えたのかも。
あの、「ありがとう」の意味。
そもそも、ただの夢だったのかも。

だけど、そんなコトはどうでもいいくらいに、大変な事件が私たちを襲うコトになる。
…コトは、まだこの時には知る由もなかった。