「今日、暇だったから料理頑張っちゃった」
「おいしぃ。これなら、いつでも嫁にいけるんじゃないの」
「何言ってんの…」
そんな、他愛のない夕食の時間。
いつもは15人で囲っている食卓が、今日はすごく広く見えた。
変なのー。昨日もおとといも、3人だったけど、気にならなかったのに。
「愛さん、麻琴さん」
あさ美ちゃんが、静かに口を開いた。
ふと、皿を覗くと何度もうるさく言っていた激カラカレーがもうない。
「何?」
「どーかした?もしかして、カレー、辛くなかった?」
すると、あさ美ちゃんは顔を横に振った。
「カレーはとてもおいしかったです。
…じゃなくて、私、発見しちゃったんです」
発見?
発見って、何の発見??
「どうしたの?」
「あ〜〜〜〜〜!!!!!もしかしてっ!!?」
マコちゃんが叫んだ。でも、私にはまだ分からない。
な、何??
「井戸のコトでしょ!?」
「……そうです」
い、い、井戸ォ!?
井戸って、この間言ってた話?
もしかして、あさ美ちゃん…。
「もしかして、あさ美…」
私が、今まさに頭の中で思ったそのままを、マコちゃんが聞いた。
「そうです。ついに見つけました」
不敵な笑いを浮かべ、あさ美ちゃんは懐から本を取り出した。
…どーやって入れてたのかは、謎だけれど。
「まさか、それを調べるために図書館に行ってたの?」
ところが、あさ美ちゃんは首を横に振る。
「違いますよ。…偶然です」
本当に偶然かどうかは怪しいけれど、とにかくあさ美ちゃんは何かを見つけたみたいだった。
きっと、本人的にもその気になってたんだろう。
「んで、何を見つけたの?」
「この本、見てください。資料みたいなんですけど…」
あさ美ちゃんが開いた、古臭い茶色く褪せた書物。
「たまたま、図書館の倉庫に入る機会があったので見つけてきたんですけど…」
辞典みたいなもんなのかな?
とにかく、ところどころ破れたりしていて、汚い。
「ここ、見て下さい」
あさ美ちゃんが指差したのは、地図の載っている汚いページ。
かなり茶色くなっていて、見づらい。
「この部分、見て下さい」
ん〜〜〜???
かなり見づらいけど、よく見ると字が書いてある。
「井戸!」
「井戸ね!!」
「そう、井戸です」
そこには、かなり汚くなっているけれど、確かに『井戸』という字が書かれていた。
「つまり、井戸はあったんです」
「なるほどね。…でも、これいつのだろ?」
「50年程前のものらしいですよ」
「ご、50年!!?」
なるほど。
当時あった井戸が、今はまったく無くなってても誰も何も知らないワケだ。
…となると、この学園も50年以上の伝統があるってコトなんだなぁ。
そういえば、うちの『おばあさま』もここの卒業生だっけ…。
「井戸があったのはわかったけど、これじゃ、どこだか分からないよねぇ」
「いや、わかりますよ」
「えっ!!?」
「……大変申しにくいんですけど」
あさ美ちゃんは、古びた地図を指でささーっとなぞった。
その度にほこりが舞うので、私は少し、煙たい顔をした。
「井戸があったのは…現在の地図で言うとココです…」
古びた地図の井戸のところに左手の人差し指を置き、
反対に広げた今の地図を、右手の人差し指でささーっとなぞる。
そして止まったのは…。
「もしかして…ここ!!!?」
そう、あさ美ちゃんの指が止まったのは、紛れもなく、この『モーニング荘』の上だった。
「そうです。井戸があったのは、ココです」
ひぇぇぇぇ〜〜〜!!!!!
ん?でも待てよ。
伝説は、井戸に近づくと…って噂だったよね。
だったら、今はもうないんだから別に何もないんじゃぁ…。
「ねぇ、でもさぁ、今はもうないんだよね?この井戸」
「そのようですけどね」
「じゃあ、別に女のコのユーレイなんか出てこないんじゃない?」
「…噂が本当なら、そうなりますね」
「それなら、別に怖くもなんともないねぇ…」
「いや、アタシは怖いけど…」
「まあ、とにかく…」
あさ美ちゃんが、古びた書物をぱたん、と閉じた。
「この話はこれで完結です。麻琴さん、納得しました?」
「あ…うん。まあね。ってか、アタシもさすがに忘れてたし…」
う〜ん。ちょっと会ってみたかったな、ユーレイ。
でも、もう井戸はないんだし、会わないんだったら会わない方がいっか。
おっと、それよりカレーが冷めちゃう!食べなきゃ…。