「結局、井戸の話はデマだったワケね」
「そういうコトね」
「残念です」
資料室から出てきた私たち3人は、ガッカリ顔で来た道を戻った。
資料室で資料を探し、図書館でも探したけれど、手がかりは一つとして
見つからず、なおかつ、用務員さんに「井戸なんてねぇべ」と言われてしまった。
「どうしよっか、これから」
「どうしましょうかね…」
「暑い中、出てきた甲斐がありましたね…」
「……」
あさ美ちゃんの、嫌味たっぷりな一言で、
私とマコちゃんは顔を見合わせるしかなかった。
どうしようもないじゃないの〜。もうっ!
寮に戻って来た私たちは、そのまましばらくだらんとしていた。
夕方になっても、まだ暑い。
「ねぇ、愛ちゃん〜」
「なぁに〜?」
ベッドに寝転がり、私と同じようにだらだらしていたマコちゃんが
急に起きあがって声をかけてきた。
「あのさ〜ね。あの井戸の噂」
「まだ言ってるの?」
私が、暑さのせいで少し苛立って…というか冷たく返すと、
マコちゃんは「もういいや」と言ってタオルケットを被って眠りに入ってしまった。
あ〜…。
夏休みが過ぎて行く実感を感じながら、私もうとうとし始めるのだった…。
それから、1週間。
お盆に入り、本格的に帰省ラッシュが訪れた。
この寮に残っているのは、私とあさ美ちゃんとマコちゃんだけ。
部活も何もない、私は毎日部屋でゴロゴロするだけで
暇を持て余してばかりいた。
…さすがに、この炎天下の中、外に出る気にはなれなくって…。
マコちゃんは水泳部の練習が本格的に忙しくって、夕方まで練習。
一方、あさ美ちゃんは、昼間は図書館に行って本を読んでいるという
極めて知的な毎日を過ごしているらしい。
昼間はほとんど2人に会わないから、1人でテレビを見たり、
宿題を進めたり、歌を口ずさんだりしていた。
そんな、8月14日の夕方。
「ただいまー」
「帰りました」
玄関から、2人の声が聞こえる。
私はというと、あんまりにも暇だったので夕食の準備を1人でするために、
キッチンの奥にいる。
今日のメニューは、簡単にカレー。
「おっ、夕食の準備バッチリじゃん☆」
「カレーですか。私、激カラでお願いしますね」
「おかえりなさ〜い。2人一緒だったの??」
「ん」
ふと見ると、マコちゃんが付け合わせのサラダに乗っている、プチトマトを口に放りこんでいる。
それを見た私は、「シッシ」と手で追い払うようにしてみせた。
「途中であったんです」
マコちゃんの代わりに、手を洗いながらあさ美ちゃんが答えた。
どうやら、部活帰りに図書館帰りらしい。
「それじゃ、ご飯作るからもう少し待っててね」
「はーい」
「私、激カラでお願いしますね」
「はいはい」
そこには、いつもの夕方の風景があった。