「あ〜あ、もう夏休みも半分終わっちゃってさぁ」
冷房のガンガン効いたリビングのソファに寝転がり、カレンダーを眺めながらマコちゃんが言った。
「そうですね…麻琴さんは、宿題が全く終わってませんね」
それを横目でチラリと眺め、あさ美ちゃんが言った。
そう言いながらも、注いだばかりのサイダーにストローを突っ込んだり出したりしている。
「アンタだって終わってないでしょうが」
「私は、ギリギリにキッチリ終わらせるんです。…時間は有効に使いましょう」
「だったら、さっさと終わらせて遊びなさいよ」
「…私は、8月31日ギリギリの追い詰められてる感じが好きなんです」
売り言葉に買い言葉。
マコちゃんがあー言えば、あさ美ちゃんがこー言った。
2人って、実はすごい名コンビなのかも知れない。(漫才の。)
ちなみに、私もまだ宿題には一つとして手をつけてないんだけどね…。
2人でキャーキャー言ってるのを見ながら、ぼんやりとしていた。
特に何かを考えているワケでもないけれどね。
「…なーんか、夏休みの思い出欲しいなぁ…」
「それだ!!」
「え!!?」
マコちゃんがポツリ、とつぶやいた言葉に対して、私はつい大声を上げてしまった。
「そうよ〜!せっかくの夏休みなのに。平穏な日々はつまらないじゃない!」
「刺激をお求めですか?」
「まぁね」
「じゃあ、スリリングな日々を送ってみましょうか?」
「え…」
ニヤリ、と妖しい笑いを浮かべたあさ美ちゃんを見て、私はちょっとドキっとした。
「…さすがに…」
「そうですか。残念です」
ざ、残念がってる…。
い、一体何をしようとしたのかしら…。
「じゃあさぁ、こんな話があるの」
マコちゃんが、人差し指を一本立てて物恐ろしげに切り出した。
「呪いの井戸の話!」
「呪いの井戸?」
「…貞○でも出て来るんですか?」
あさ美ちゃんは、マコちゃんの言葉に聞く耳持たないという感じで
ソファの上に無造作に置かれたファッション雑誌を手に取り、パラパラとページをめくりはじめた。
「○子って…。そういうのじゃなくって!!」
「そりゃぁねぇ…。物語の中の幽霊だし」
「まあ、それはともかく。この学園のね、とある場所に井戸があるんだって」
ちらり、とあさ美ちゃんがマコちゃんの方に目を向けた。
一瞬だったが、ハッキリとその視線が動くのが見えた。
「どこにですか?」
「アタシも知らない。でも、その井戸に近づくと、女の子のユーレイが出るんだってぇ!
キャ〜〜〜!!マジ怖いッ!キャーキャー!!!」
「……ふ、ふぅん……」
「……そうですか。良かったですねぇ。
あ、愛さん。サイダー注いで下さいな。氷は2つでお願いします」
「あっ!?ちょっと!!信じてないんでしょう!?」
私たちが微妙な反応をすると、マコちゃんがキレた。
…冷房が効いて涼しい部屋と言え、暑苦しさが増す。
もうぅ〜、幽霊なんているワケないんだからさぁ…。
「信じてるワケ、ないでしょうに…」
「麻琴さんって、ロマンティストなんですねぇ」
「……!!!!」
それでもまだ、冷たい反応の私たち2人に、マコちゃんは明らかに不満そうな顔を向けた。
…っていうか、マジギレ寸前っていう顔。
あ〜あ…。マズいコトしちゃった。確かに、思い出は欲しいって言ったけどォ…。
マコちゃんの性格上、きっとムキになって…。先が思いやられるなぁ。
「そんなに言うんだったら、今から確かめに行くよ!!」
案の定、マコちゃんは予想通りの言葉を言ってくれた。
だからって、その言葉に従おうなんて気にはなれないけど…。
「マコちゃん、井戸の場所なんか解らないんでしょう?
だったら、確かめようがないと思うんだけど…」
「そんな無駄なコトするんなら、宿題やった方が賢明ですよ」
「うるさいうるさい!!!図書館なり、資料室なりに行って調べればいいでしょうが!!」
「ええ〜〜!?めんどくさい〜…」
「なんか言った!?」
「べ、別に…」
一応、断ってみたけれど。
やっぱり思った通りだった。噛みつかれそうなほどの勢いだ。
あ〜あぁぁぁ…。この暑い中、肝試しかぁ…。
もうちょっと、大人数で夜中にやろうよぉ、そういうのは…。
……とは、もちろん言わなかった。
この期に及んで、何を言っても無駄と考えているのか、あさ美ちゃんも無言だった。
「わかった。じゃあ、とりあえず資料室にでも行ってみよう?ね?」
「さっすが愛ちゃん!話がわかるぅ♪…あさ美はどうするのよ?」
「別にいいですよ。どうせ、暇ですし」
空のコップに、3杯目のサイダーを注ぎながら、あさ美ちゃんは答えた。
「じゃあ、出発しんこ〜♪」
「ハイハイ…」
かくして、3人はこのクソ暑い中、資料室へと向かうことになったのでした。