「サンキュ。助かった」
後藤さん…って呼ばれてた美人さんは茂みからがさごそ出てきて私にお礼を言った。
ついでにあさ美ちゃんもひょこっと出てきた。
「…ったく、しつこいんだよ。あのババア。だ〜から結婚もできないんだよ」
「あの…」
って、私が後藤さんに聞こうとすると「じゃあ、あたし逃げなきゃ行けないから」って言ってさっさと行ってしまった。
…何だったんだろう…。
「愛さん、今の…きっと先生に追われる生徒ですよ」
あさ美ちゃんがワクワクしたような感じで私に言ってきた。
…私も、そんな感じだとは思うけど。
「あっ!今の人に、道を聞けば良かったです」
「あっ…」
私もハッとしたけど、そうだ〜…そうしとけば良かった。でもそんなこと聞いてる暇なかったし…。
な〜んて思ってたらさっきの先生らしき人がこっちに戻ってきた。
なんか、「まったく逃げ足の早い…」とかブツブツ言いながら歩いてくる。
「どうしよ、逃げた方がいいかな?」
私があさ美ちゃんに聞くけど、あさ美ちゃんは
「きっと、話せばわかってくれると思います…」
と、淡々としていた。…なんだかなぁ〜。このコ、つかみ所がない。
ハッキリ言ってちょっと苦手カナ…。
そんなことを思ってると、さっきの先生がすでに私たちの目前にいた。
先生もこっちに気づいたのか「ま〜だ居たの」って怒りながらこっちに向かってきた。
その先生ってば、近づいてくるなり私の腕をがしっと掴んで
「コラ!あんたたち、どこのクラス!?」
なんて怒るんだから。
その迫力ったら鬼気せまるものがあって、あさ美ちゃんも私もビビりまくっちゃった。
「ホラ!さっさと歩けっ!!」
腕を掴まれながら、私はあさ美ちゃんの顔を恨めしく見た。
(どこが話せばわかるのよっ!!)
(す、すみませ〜〜〜ん…)
視線だけで会話をする私たち。出会ってまだ数時間なのに随分打ち解けたもんだわ…。
「あ、あの…」
って、私が連行されながらも恐る恐るその先生に話しかけた。
すると、その先生はまたとんでもなく恐ろしい顔で私に睨みを利かせた。
「ホラ、おしゃべりしてないでとっとと歩け!」
……ハァ。
あさ美ちゃんの他人事のような小さなため息が聞こえる。
もぉぉぉぉ〜〜!!!!ホンットに、私ってついてない!!
重たい荷物を引っ張りながら、私は先生に連れて行かれた。
「いややもぉ〜、あんたたちそういうことは早ぅ言ってやぁ〜」
…私が必死こいてその先生に自分たちが「新入生」であることを告げると、
その先生はケラケラ笑いながら関西弁で曖昧にごまかしていた。
隣のあさ美ちゃんをチラっと見ると、(一言でいいから謝って…)という目をしていた。
「あの、それで…」
「ああ、私は中澤裕子。裕子センセvってお呼び」
ちが〜う!!そんなコト、聞いてないのっ!!
しかもその裕子センセってばウインクなんかかますもんだからあさ美ちゃんは(オエッ)という顔をしていた。
…年増のウインクはキツイ。
「…なんか、今失礼なこと思ったやろ!?」
ギクッ!!!
「えっ…えっ…」
「そんなごまかしてもわかるんやからな。さあ、言えっ!!」
ひえええ〜〜〜…。
裕子センセのひとさし指が私の鼻の辺りをチョンッ、と突く。
「あの、あの…」
隣のあさ美ちゃんをチラッと見ると、他人事のような涼しい顔で
(がんばってください)とエールを送ってくれていた。
嬉しくないわよ〜っ!!!
「あ、あの…そう!とっても綺麗だなぁって…」
「え?アラァ、あんたってば正直vvv」
……勘弁して下さい、ホント……。
私がしどろもどろになりながらおべっかを使うと、裕子センセは
それはもうこの上ないってくらい極上の笑顔を満面に浮かべて喜んでいた。
「あの〜…それより、学園長室に…」
あさ美ちゃんが話に割って入ると裕子センセはにこやかに微笑みながら
「さっ、こっちよ♪」
と、軽やかにステップ踏みながら歩き始めた。
(……)
(……)
私とあさ美ちゃんは無言で見つめ合い、これからの学園生活に不安が募るばかりだった…。
コンコン。
「学園長、中澤です」
と、裕子センセが学園長室のドアをノックすると、ほどなく
「おう」
という男性の声が聞こえてきた。
「入ります」
裕子センセがドアを開き、学園長室が私の視線の中に映った。
部屋に入る時、裕子センセから「粗相のないようにね」といわれ、
私は、履いている中学時代の制服のスカートをちょっぴり下げながら中に入った。
「おお、来たか」
学園長室に入ると、学園長が私とあさ美ちゃんを出迎えた。
実は私は『おばあさま』の家ですでにこの人に会ってるのだけど…。
最初は学園長っていうからにはちょっと年とった人なのかな、と思った。
だけど会ってみてビックリ!!
年の頃なら30過ぎくらい?なんか、もうちょっと若かったら芸能人になれそうなくらい
カッコイイ男の人だったの。
あの時は、『おばあさま』の屋敷に学園長先生が直々に面接に来てくれたんだっけ。
ちょっと前のことなのに、すごく昔のことのように思える…。
私、こんなんでここで巧くやっていけるのかなぁ。
40 :
ごっつぁむ@作者:02/02/21 00:51 ID:Rfyl02ZT
更新終了です。
ああ、もうこんな時間だ〜〜〜
また明日(ってか今日)更新します〜
読んでる 俺前作から読んでる
「ご機嫌いかがですか、学園長先生」
私は『おばあさま』に躾られた通り、学園長先生に会って
『お嬢様っぽく』挨拶をした。自分でも寒気がするほど嫌だったんだけど。
さすがに隣にいたあさ美ちゃんも引いたのか、チラッと見た顔が引きつってた。
「おお。楽にしてええで」
って、学園長先生が言わなかったら私もそのままひきつった笑い浮かべて
その場に凍りついたまんまだったかも知れない。
でも、私今気づいた。
…なんで私とあさ美ちゃんしか新入生がいないのかなって。
まあ、正確にはあさ美ちゃんは転校生らしいから、新入生は私だけ…?
「あの、学園長先生」
私は、意を決して学園長先生に質問してみた。
「なんや」
「あの。新入生って私たちだけなんですか…?」
「……」
ああっ、聞いちゃいけないことだったのかしら!?
学園長先生は、私の言葉を聞いて眉間にシワを寄せていた。
「あんな。今年は君らだけやで」
「ええ〜〜!!?そんなんでいいんですか!?」
「ああ。基本的には新入生はおらん。
うちは全寮制のエスカレーター式やからな。中学から持ち上がりって奴が多い」
と言いながら机の上から2番目の引き出しをガラッと開き、
薄い冊子を2冊取り出して私とあさ美ちゃんに渡した。
そのパンフレットには『入学の手引き』という文字がでっかく書かれていて
学校での生活について詳しく書いてあった。
『聖ハロー女学園』
学園長:寺田光男
全校生徒数:380名
中等部:101名
高等部:147名
大学部:132名
ふ〜ん…。大学まであるんだ…。どうりで広いはずだよね。
次のページをペラッとめくる。
次のページは『生徒心得』、その次は『学園紹介』だった。
その次のページは『寮での生活について』…。
私がそのページを見始めた時に、学園長先生が「そうや」って声を上げた。
「お〜い、中澤!!」
と大声で、廊下にいるであろう裕子センセを呼ぶ。
するとほどなく、「なんでしょう」と裕子センセが学園長室に入って来た。
「このコたちの寮のことや」
「ハイ。承知してますわ、学園長」
2人はそんな会話を交わすと、学園長先生は今度は机の一番下の引き出しをガラッと開き
中から分厚い青いファイルを取り出した。
それをドカッと机に置き、パラパラめくって「お?」とか「ふ〜ん」とか独り言を呟いていた。
裕子センセも、その後ろからファイルを覗きこみ「ええ」とか「そうですね」とか言っていた。
…何だろう?
私がぼーっとしていると、突然、肘の辺りに何かが当たる感覚がした。
…あさ美ちゃんの肘が私の肘をつんつんと突っついていた。
(何よ?)
私が目と口パクで返すと、あさ美ちゃんはそれと同じように
(私たち、同じ寮になれますかね?)
と言っていた。
…知らないわよっ、もうっ!
私は痛む胃を抑えながら、ファイルを楽しそうにめくる2人の姿を眺めていた。
「よ〜し、決めたっ!!」
学園長先生は、青いファイルをパタン、と閉じ机にガンっと手をついて立ち上がった。
「君らは2人揃って『モーニング荘』や!」
「や……」
「でっ!?」
私たちが喜ぶより早く、声をあげた者がいた。
……裕子センセ、だった。
素っ頓狂な声をあげてビックリ顔で学園長先生を見つめている。
「学園長!!私は断固!!反対です!!!」
怒鳴り声をあげて、裕子センセは学園長先生に詰め寄った。
私とあさ美ちゃんは何のことかわからず、ただポカーンとそれを眺めている。
…何なの?ホントに…。
「まあ、落ち着けや中澤」
「落ち着いてなどいられますか!!」
「ええやんか。あの寮の担当はお前やろ?」
「それはそうですけどっ!!私にはこのコたちをあの寮に入れるのは反対です!!」
怒鳴り散らす裕子センセ、とは逆に、学園長先生はニコニコした顔で笑っている。
…相変わらず、私たちは何のことだかわからずポーカンとしてたんだけど。
どうやら、裕子センセの言う感じではその『モーニング荘』はかなり問題のある寮なんでは…。
私の胃の痛みは、収まるどころか今まさにサンバを踊ってるかのような最高潮に達していた。
「大体っ!あの寮の人間がどんなものか知ってるんですかっ!?」
「知ってるけど…。アレやろ、どーしようもないしゃーない問題児ばっかり」
ええっ!?嫌だなぁ、そんなトコ…。
「そうですっ!解ってらっしゃるんなら…もがっ」
その時、裕子センセの口を学園長先生が左手の手のひらで塞いだ。
「ええやんか。見たところによると大人しそうな2人。
そんな2人がとんでもない寮でもみくちゃにされて1回りも2回りも大きくなるんやで」
ううっ、いいよぉ。私、普通に生きたいのにっ…。
「つーことやから、2人とも。この中澤について『モーニング荘』へ行ってくれ」
「ハァ…」
「ハ、ハイ」
私とあさ美ちゃんの2人は、もうどうしようもないと言った感じで気のない返事を返して
学園長室を後にした……。
部屋を出てから聞こえた「実はあそこしか空いてなかったんや」という学園長先生の
ケラケラ笑う声は聞こえなかったことにしておこう…。
「ハァ…あんたたちみたいないたいけなコたちが…」
裕子センセは学園長室から出てくるなり、ため息をつきながら私たちを
哀れむような目で見ていた。
「あの、何がそんなにマズイんですか?」
あさ美ちゃんが裕子センセに尋ねる。
「……まあ、行ってみよか」
ちょ、ちょっと〜〜!!!答えてよっ、先生ってばぁ〜!!!!
「ちょ、…先生っ!!」
不安がる私たちを置いて、とっとと裕子センセはハイヒールでカツンカツンと廊下を歩いて行ってしまった。
そしてちょっと進んで振り返ると「何しとんのや。早ぅせんと迷うで」
と廊下の向こう側から私たちに向かって叫んでいた。
もう〜!!どうにでもなっちゃえっ!!!!!
もう私には自暴自棄になるくらい余裕がなかったのであった。…くすん。