仮面ライダーののV3

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851ナナシマン
 嗚咽する里沙に敵の姿は全く見えていない。今まさにハンマーデスパー
の一撃が振り下ろされようとしていた、その時だった。

 悲しみに身を震わせる里沙の身体をまばゆい光が包む。それはまさに
電光だった。そのあまりのまぶしさにハンマーデスパーが身じろぎして
後ずさる。

 「何だ!一体どういう事だ!!」

 やがて光が収束していくと、それはやがて人の形になってゆっくりと
立ち上がる。そしてそれは電光を伴いながら、一人の戦士の形となって
実体化した。

 「わかったよ、おじいちゃん。私、約束は必ず守るからね」

 その声は紛れもなく里沙のものだった。しかし、その姿はこれまでの
いかなる戦士とも違っていた。全身青色の身体に走る無数の稲妻模様。
長くのびた触角と、まるで昆虫のような眼。風になびく黄色いマフラー
にも稲光のような模様が走る。
 かつて、渡五郎が超能力に目覚めて変転した自由の戦士。彼の遺志が
今、里沙に受け継がれたのだ。

 「貴様、その姿は!!」

 「そう・・・私は自由の戦士、イナズマン!!」

 五郎は里沙に「力は一足飛びには発動できない」と教えていた。
それはさながら蛹から蝶になるように段階を踏まなければならない。
だが、今まさにハンマーデスパーの目の前で里沙は一気にその超能力
を解放し、イナズマンとして変転を遂げたのだ。
852ナナシマン:02/09/26 13:38 ID:0V6X68Bd
 「あり得ん!貴様のような小娘がイナズマンなどとは!!」

 うなりをあげてハンマーデスパーの左腕が振り下ろされる。だが、
イナズマンはそれをよける様子もなく、たやすく敵の一撃を受け止めた。

 「馬鹿な!」

 驚きの声を上げるハンマーデスパーに対して、イナズマンの一撃が
炸裂する。

 「チェースト!」

 腕を取られてがら空きになったボディにパンチが打ち込まれると、
その衝撃でハンマーデスパーはよろよろとうずくまってしまった。
 そこに更なる追い打ちをかけるイナズマン。機を逃さず空中高く
ジャンプするとそこから跳び蹴りを放つ。思いがけない攻撃に遭い
すっかり気が動転してしまったハンマーデスパー。蹴りの威力は思った
よりも強く、なかなか立ち上がることが出来ない。

 「うわぁぁぁぁ!!」

 叫びと共にイナズマンは倒れたハンマーデスパーに飛びかかり、
馬乗りになって殴りつける。ハンマーデスパーのボディにイナズマン
の拳が打ち付けられるたびに電光と火花が弾け飛ぶ。

 「おじいちゃんの仇!覚悟しろ!!」
 
 ひとしきり殴りつけたイナズマンはそう言ってハンマーデスパーの
頭をつかむと、強引に引き起こした。
 戦闘態勢が整っていないハンマーデスパーに対して、さらに攻撃を
加えるイナズマン。連続攻撃が次々に決まり敵を圧倒していく。
853ナナシマン:02/09/26 13:39 ID:0V6X68Bd
 「まさかこの俺がここまで押されるとは!このガキ、本物か?!」

 ハンマーデスパーも必死に応戦を試み、右に左にハンマーを振り
下ろす。しかし、イナズマンはそれを冷静に捌くと、大振りの一撃に
カウンターのパンチを放つ。

 「チェェースト!念力パーンチ!!」

 「ガハァッ!」

 必殺のパンチが顔面を捉えた。金槌状の頭部がひずむほどの一撃を
食らったハンマーデスパーは既に這々の体。すっかり戦意を喪失して
イナズマンに対して背を向け、這ってでも逃げようともがく。

 「こっ、このままでは済まさんからな!覚えてろ!」

 どうにか立ち上がったハンマーデスパーは、そんな捨て台詞を残すと
よろよろと公園から逃走した。イナズマンは後を追おうとしたが、敵は
地上に張り巡らされた地下世界との通路を通って退散していた。
854ナナシマン:02/09/26 13:40 ID:0V6X68Bd
 と、その様子を物陰から見ていた影があった。先ほど闇討ちにされた
ウデスパー参謀だ。ハンマーデスパーの一撃から立ち直った矢先、
彼はまたも驚くべき光景を目にしたのだ。

 「信じられん、まさかあの小娘が?!」

 彼の目の前に立っていたのは、紛れもなくイナズマンだった。だが、
その傍らには、かつてイナズマンとして戦い続けた仇敵の骸が転がって
いた。五郎と里沙、二人の間に起きた出来事。それはウデスパー参謀
にもおぼろげながら推察することが出来た。

 「おのれ渡五郎め・・・死してなお我らに刃向かうか!」

 イナズマンとハンマーデスパーの戦いを見届けた彼は、総統への報告
を急いだ。渡五郎は既に亡き者となったが、それよりもイナズマンの力
を手に入れた里沙の方が軍団にとって危険な存在であった。
855ナナシマン:02/09/26 13:41 ID:0V6X68Bd
 戦いは終わった。里沙、いやイナズマンはひとまずデスパー軍団から
の刺客を退けた。しかし、彼女に力を託した五郎老人は既に亡い。彼から
託された変転の力は、里沙を何処へ導くというのか。

 「教えて、おじいちゃん。私はこれからどうしたらいいの?私は
これから、何処へ行けばいいの?」

 始めて目にした地上の太陽。空を真っ赤に燃やす夕日がビルの谷間に
吸い込まれていく。里沙はデスパーシティに残してきた幼い子供達と、
今は亡き渡五郎に思いを馳せながら、夕焼けの空を眺めていた。

 地下世界デスパーシティから脱走した少女、里沙。彼女は身よりもない
地上でこれから一人で生きていかなければならない。新たな自由の戦士
としての力を与えられた彼女に、安息の日は遠い。


第27話 「変転せよ!自由の戦士」 終