そう言うと、老人は里沙の頬に手を当てたまま目を閉じる。里沙も
同じように目を閉じる。その直後里沙の閉じた瞼に電光が走ると、
二人の姿はまばゆい光に包まれた。全身の細胞が覚醒する感覚、
心地よい風が吹き抜けるような感覚を全身で感じた里沙。
やがて、まばゆい光は里沙の体の中に収束していく。里沙が再び
目を開けると、そこには少々疲れたような表情を浮かべた老人の姿が
あった。不思議な感覚から醒めた里沙は、老人の様子を案じて声を
かけた。
「おじいちゃん、大丈夫?」
「私は大丈夫だ。それより里沙。私はお前に、私が持っていた力の
全てを伝えた。お前が優しい心と本当の勇気、悪を許さない心を持ち
続けている限り、この力はお前を助けてくれる」
老人はそう言って、優しくゆっくりと里沙の髪を撫でる。そして老人
は里沙にある道具を渡した。それはかなり派手な色遣いで、その中に
折りたたまれた三色のレンズが、そして外側に稲妻状のプレートが
スイスナイフのツール類のように納められている。
「これは『ゼーバー』と言って、お前の力をより強くしてくれる。
じきにデスパーシティから追っ手がやってくるだろう。その時、お前を
助けてくれる」
「どうやって使ったらいいの?力って何?」
困惑の表情を浮かべて、里沙は老人に訊ねる。彼は里沙の目をまっすぐ
見つめて言った。
「力の使い方は、お前の心の声に聞きなさい。私はお前にビジョンを
託した。後は心の声が自由の戦士になるためのビジョンを示すだろう。
お前の力は、正しいことのために使うんだよ」
自由の戦士。老人のその言葉にも、今ひとつ実感がわかないのか小首を
かしげる里沙。しかし、老人にはあまり時間がなかった。少しでも彼女に
力の事を伝えておきたいと、急ぎ足で説明する。
「覚えておきなさい。お前の力は今は一足飛びに使うことはできない。
お前の力は蛹が蝶になるように段階を踏まなければならないんだ。それが
サナギマンと、自由の戦士イナズマンだ」
「蛹から・・・蝶?サナギマンとかイナズマンとかって何?」
老人はなおも言葉を続けようとしたが、見ると里沙は戸惑いの表情を
浮かべ老人をじっと見ている。これを一度に全て理解しろというのは無理
な話だ。続きは明日にしよう、そう思った老人は里沙に優しく言葉を
かけた。彼女の知っている、いつもの口調で。
「いきなり全部を理解することはできないだろう。今日はもう遅い。
車の中で休みなさい」
老人に促され、里沙は車の中で眠りについた。その姿を見届けた老人の
顔に、優しい笑みが浮かんでいた。
一方、老人と里沙が去った後のデスパーシティ。通用門から走り去る
二人の車の映像は、通用門に設置されたカメラに克明に納められていた。
それを見たウデスパー参謀は警備兵達を怒鳴り散らす。
「バカどもが!みすみす脱走者を見逃すなど、何をしておるのだ!!」
通用門の巡察に訪れた彼は、この失態を現場で知った。彼はすぐさま
部下のデスパーロボを呼び寄せる。彼の命令に応じ出頭してきたのは、
巨大なハンマー状の頭部と、左手にもハンマーを装備したデスパーロボ
だった。
「ハンマーデスパーよ、これから地上に赴き、脱走者を始末してこい」
「任せてくれ。見つけ次第必ず始末する」
ウデスパーの命令にハンマーデスパーはすぐさま地上へと向かったが、
ウデスパー自身もまた地上に赴く事にした。彼の性格が、部下の報告を
ただ待っていることを許さなかったのだ。
「万一と言うこともある。俺も地上に出ることにしよう」
そして地上に姿を見せたウデスパー参謀は、地上との隠し通路がある
公園で思いがけない光景を目撃した。公園の傍らに止められた車、その中
にいたのはカメラが捕らえた二人の脱走者だった。
「あれが例の脱走者か。小娘ともう一人・・・待て、あれはまさか!」
ウデスパー参謀は、里沙も知らない老人の素性を知っていた。
予定より遅くなってしまって申し訳ありません。実家近くの
カフェから大至急で更新です。しかもうっかりageてしまって。
勝手が違うとはいえホントすいません。今、下がってますか?
>ナナシマンさん
お帰りなさい!ぎりぎりのあたりですが、下がってます!
遅くなったなんてとんでもない、待ちに待った甲斐がありましたYO!
イナズマン新垣の奮戦に激期待!チェースト!!
>ナナシマンさん
連続カキコ失礼!今ちょっと下がりました!
保全
「あれは、まさか渡五郎?!」
ウデスパー参謀はそこで思いがけない人物を目撃した。それはかつて
デスパー軍団に叛逆した超能力者、渡五郎・・・誰あろう、里沙とともに
シティを脱走したあの老人のことだった。二人は車の中から出て、里沙が
買ってきたパンを二人で食べていた。
「俺には判るぞ。老いさらばえてはいるが、間違いない。総統閣下との
戦いに敗れて能力を失ったというのは本当だったか」
仇敵渡五郎をみすみす逃す手はない。ウデスパーはすぐさま五郎を襲撃
せんと物陰から身を乗り出そうとした。だが、その時。
「ウッ!!」
後頭部に感じた強烈な一撃。よろよろと崩れ落ちるウデスパー参謀の
背後に立っていたのは、なんとハンマーデスパーだった。
「悪く思うなよ、ウデスパー。あの小娘と渡五郎を葬る絶好のチャンス
なのだ」
「その声は・・・貴様ァ・・・」
何とハンマーデスパーはウデスパー参謀の手柄を横取りするために彼を
闇討ちにしたのだ。ハンマーデスパーは、ばったりと倒れたウデスパー
を尻目に物陰から里沙達の前に姿を現した。
「脱走者め、見つけたぞ!」
突如二人の前に立ちはだかったのは、自分たちを追ってきた追跡者。
デスパー軍団が差し向けたハンマーデスパーだった。その姿に、里沙の体
が恐怖にすくむ。
「二人とも逃げられると思ったか!死ねぇ!!」
一瞬逃げ遅れた里沙に振り下ろされたハンマーの一撃。しかし、間一髪
でこれを救ったのは五郎老人だった。しかし里沙を救った彼は、その身に
ハンマーデスパーの一撃を受けてしまったのだ。
「おじいちゃん!!」
肩口にハンマーデスパーの攻撃を食らった五郎老人は、殴られた場所を
押さえてうずくまる。しかし彼はひるむことなく、ハンマーデスパーを
睨み付けた。
「貴様は渡五郎!それにしても老いたものよ。ここまで衰えるとは!!」
「おじいちゃん、どういう事なの?」
里沙の問いかけにも、老人は答えない。ただ歯を食いしばって痛みを
堪えている。
「貴様はかつて総統閣下と戦い、敗れて全ての能力を失ったそうだな。
急激な老化はそのためか!!」
そう言うやハンマーデスパーは今度は老人の腹部に一撃を見舞う。
「昔語りをしに来たわけではあるまい・・・この娘は渡さない!」
かつての超能力はほとんど失われていた。とりわけ里沙に自分の能力を
授けたことで、五郎の体力はもはや限界に来ていた。だが、敵から里沙を
守るために死力を振り絞って五郎は立ち上がる。
「やめて、おじいちゃん!」
里沙の制止も聞かず五郎は再び立ち上がると、傷ついた身体を押して
ハンマーデスパーに近づいていく。
「里沙・・・今までありがとう。私の言いつけは必ず守るんだぞ」
里沙の耳に聞こえた、五郎の言葉。しかしその直後、彼は敵の一撃に
よってなぎ払われた。風で吹き飛ばされた人形のように、あっけなく
倒れる五郎。
「おじいちゃん!!」
すぐさま里沙は五郎の元に駆け寄って抱き起こすが、彼はもう里沙
の言葉に応えることはなかった。五郎の亡骸に縋ってすすり泣く里沙。
しかし、その声に構わず敵はさらに一撃を加えようと里沙の元へと
歩み寄っていく。
「安心しろ。お前もすぐあの世へ送ってやる」
迫りくる敵の姿に里沙は全く気づいていない。背後に立ち、五郎を
手にかけた左腕のハンマーを振りおろさんとするハンマーデスパー。