「ガイゼル、いやヨハン!貴様と儂は確かに袂を分かったが、互いに
不可侵を通してきたはず。このような振る舞いは断じて許さん!」
怒り狂ったバンバはガイゼル総統の元へ猛然と歩み寄っていく。
しかし、それを制止するのは総統の片腕、ウデスパー参謀だ。
「どうやってここまで・・・だが、閣下には指一本触れさせんぞ!」
自ら総統の盾となるべく二人の間に割ってはいるウデスパー。しかし、
そんな彼を制止したのは他ならぬガイゼル総統だった。チェスの手を
止め、手にした杖でウデスパーの行く手を遮る。
「閣下!」
なおもバンバに向かおうとするウデスパーだったが、ガイゼルの命
に逆らうことはできない。
ひとまずウデスパーが一歩退くと、代わって椅子から立ち上がった
ガイゼル総統がバンバの前に歩み出た。残された右目に狂気がにじむ。
その視線に射すくめられたか、バンバは一瞬彼に対して躊躇した。
「親愛なる同士よ。だが、貴様も私を裏切った・・・!」
そう言うや総統は手にした杖に手をかけた。次の瞬間、杖に仕込まれた
白刃のきらめきと共にバンバの首があっけなく転がり落ちた。かつての友
ですら容赦なく手にかける冷酷さに、思わず息をのむウデスパー参謀。
崩れ落ちる帝王バンバ。それと同時にどす黒い血が絨毯に広がっていく。
足下に転がる友の骸、その様子に一瞬哀れむような視線を送るガイゼル総統。
しかし彼はすぐまた椅子に腰掛け、何事もなかったかのごとく再びチェスに
興じ始めた。
その直後、ガイゼル総統の元に通信連絡が入った。肖像画の裏側から
現れたスクリーンに写ったのは、尖った角を何本も頭に生やし、まるで
中世の拷問器具「鋼鉄の処女」に手足の生えたような姿のロボット
だった。彼こそこのデスパーシティの管理者、サデスパー市長である。
「総統閣下。ゼティマに放ったスパイからの情報が入りました」
サデスパーの言葉に手を止めたガイゼル総統はゆっくりとスクリーン
に向き直る。その姿を見るや、スクリーンの向こうのサデスパーは報告
を始めた。居合わせたウデスパーもその様子を食い入るように見ている。
「ゼティマになにやら動きがあった様子。何でもかねてよりやつら
に楯突いていた『仮面ライダー』なる者達を倒したとかで勢いづいて
おります」
その言葉を聞いたガイゼル総統は、静かにスクリーンに背を向けると
再びチェスを始めた。それを見たウデスパーは一人頷いて言った。
「捨て置け、と仰せだ。サデスパー、今後も監視を続けよ」
ウデスパーの言葉を聞いたサデスパーは恭しく一礼すると、そのまま
スクリーンから姿を消した。サデスパーの報告に総統の意志を代弁して
みせたものの、実はゼティマを脅威に感じていたウデスパー参謀。
しかし、そんな彼の本心を見透かしたようにガイゼル総統は言った。
「ゼティマは今もその者達との戦いに血道を上げているはず。当面
我々に手を出す様なことはあるまい」
その言葉に得心したウデスパーも総統に一礼すると退室した。ゆっくり
とドアの閉まる音が静かな居室に響く。
彼以外に誰もいない部屋。次の一手を思案していた総統は、しばし手を
休めて一人つぶやいた。
「私の街だ・・・私の・・・」