第27話 「変転せよ!自由の戦士」
東京の地底深く。そこに我々の知る東京と全く同じ風景を持った
都市が存在することは、誰も知らない。
人工太陽の恩恵を約束された、新人類と呼ばれる超能力者の楽園。
人はその都市を「デスパーシティ」と呼ぶ。しかしそこは絶望の支配
する暗黒の都市であった。
その都市で自由を謳歌する者はいない。新人類と呼ばれる者達は皆、
デスパー軍団の支配下にあった。都市の管理者、サデスパー市長のもと
管理される市民は約5万人。彼らは皆、楽園の美名の元に軍団の戦力
として連れてこられた人々であった。
一切の自由を奪われた市民は、花や木々を愛でることも、読書さえも
許されない。これに逆らえば親衛隊に逮捕され、死刑に処される事も
しばしばであった。
デスパーシティには街を管理する市長サデスパーをはじめとした、
デスパー軍団を束ねる総帥が存在する。彼は緑に囲まれた閑静な佇まい
の館に住んでいた。「総統府」と呼ぶに相応しい、支配者の住まう館
である。
静寂に包まれた居室で、一人チェスに興じる男。彼の後ろには、巨大な
肖像画が掲げられている。
黒いマントと軍服に身を包んだ隻眼の男の名はガイゼル総統。彼こそ
最強の超能力者にしてデスパー軍団の偉大なる総帥である。
その時、彼を訪ねて何者かがやってきた。居室の扉が開いて姿を現した
のは、銀色の甲冑のようなボディに砲弾のような頭部を持つデスパーロボ
だった。彼の名はウデスパー。デスパー軍団の参謀である。
ウデスパーはかねてより命ぜられていた敵対勢力の壊滅指令を遂行した
旨を報告するためにやってきたのだ。
「総統閣下、ミサイルデスパーがファントム軍団の掃討を終えたとの
報告が入りました。しかし、生存者がいる模様です」
ウデスパーの報告にふとチェスの手を止めたガイゼル総統。そして
おもむろにウデスパーの方を振り向く。しばしの沈黙の後、ウデスパー
は口を開いた。
「・・・かつてのお仲間ですが、いかが致しますか?」
「チト、か」
かつてナチスドイツの一部隊に籍を置いていた総統には、当時志を
同じくした二人の仲間がいたという。しかし、そのうちの一人は総統に
対する裏切りが発覚し殺されてしまった。総統の財力の源、アフリカの
金鉱脈に目がくらんだのだ。
そしてもう一人、彼と袂を分かち軍団を結成した男がいた。彼の名は
チト。新人類の理想郷を築くという同じ志を持ちながらも、決別せざる
を得なかった男だ。
総統の脳裏に一瞬よぎった、同士の名。しかし彼は再びウデスパーに
背を向けると、再びチェスの続きを始めた。
やがてガイゼル総統は盤上からキングの駒を取り除く。その一挙動に
総統の意志を読みとったウデスパーは答えた。
「判りました。すぐにも追討軍を派遣し敵を壊滅してご覧に入れます」
ウデスパーが軍団に残党狩りの号令を発しようとしたその時。何者かが
荒々しく総統の居室のドアを開け放った。突然の来訪者にウデスパーが
ドアの方に振り向いて身構える。その視線の先には、黒いマントをまとった
幽鬼の如き怪人が立っていた。
「ガイゼル、我が軍団に何の恨みがある?この者を差し向けたのは、
貴様であろう!!」
そう言って怪人は手にしたロボットの首をガイゼルの足下に投げつけた。
迷彩色に塗られたロボットの首。それはファントム軍団掃討の命を受けた
デスパー軍団のロボット、ミサイルデスパーの首だった。
軍団の攻撃から生き残った一人の男。彼の正体こそ、ガイゼル総統の
かつての同士チトだった。新人類帝国建国を掲げるファントム軍団の王。
彼はまたの名を「帝王バンバ」と言った。