669 :
名無しX:
(8)
「フフフ・・どうやらばれてしまった様だね。私だよ、その小娘に素敵な情報を
与えてやったのは。加護博士を殺して研究所を乗っ取ったゼティマの改造人間が
父親と親友を殺した仇だとね。」
公園の雑木林の影からドクターケイトがその禍々しい姿を現した。
「こうも簡単に騙されてくれるとはねぇ。小娘が二人殺ってくれたから私が
お前達を殺せば大首領様も大喜びなさる。これでジェネラルシャドウなんか目じゃないね。
それじゃあ、お前達まとめて死んでもらうよ。やっておしまい!」
ドクターケイトの掛け声と共に安倍たちはデルザー戦闘員達に取り囲まれてしまった。
「くっ、なんて卑怯な奴。こんな時に変身できないなんて悔しいべさ。」
「私があのボスをやります。安倍さんは皆を守ってください! セタップ!」
高橋は掛け声と共に変身し天高く舞い上がり取り囲まれていた輪から飛び出した。
「頼むよ高橋ちゃん。あさみ、あんたも座ってないで戦うべさ。あんな奴に好きにさせておいて
いいの?」
670 :
名無しX:02/08/21 21:55 ID:e3joA7dg
次々と襲い掛かってくる戦闘員。瀕死の辻と飯田、普通の人間である中澤を守りながら
戦うのは変身できない安倍にとってかなりキツイ仕事になっていた。
しかしあさみはいまだ座り込んだまま震えている。
一方仮面ライダーX高橋愛も明らかに苦戦していた。
振り下ろすライドルスティックはことごとく避けられ、
逆にケイトの持つ杖の攻撃にダメージを受けていた。
「フン、お前がXか。攻撃が甘いねぇ、それで私を倒そうなんて10年早いんだよ。」
ドクターケイトは全てが幹部で構成されているというデルザー軍団の一角である。
まだ改造人間としての戦闘経験の浅い愛には少々荷が重い相手かもしれない。
「仮面ライダーが苦戦しているのれす・・・くっ、ののも戦いたいのれす。」
「圭織だって・・。」
「二人とも立つ事すらできないやないか、くそー何でこんな時に皆おらんねん。」
「まずいべさ、なっちももう限界かも・・」
671 :
名無しX:02/08/21 21:57 ID:e3joA7dg
「うわっ。」
とうとう防戦一方になっていた愛にケイトの攻撃が直撃した。
「くっ・・、あんたなんかに負けんでの」
「いまさら強がりかいX。そろそろとどめを刺してあげようかね。」
今やXは地面に仰向けに倒れ絶体絶命の様相を呈していた。
「死ね!X」
ケイトの最後の一撃が振り下ろされようとした正にその時。
「ぐっ。」
ケイトの頭部に衝撃が走った。
「なんだ?」
よろけるケイトの眼前に朱色に黒い水玉模様の体、
同色のヘルメットに黒いマスクの戦士が立ちはだかった。
672 :
名無しX:02/08/21 22:00 ID:e3joA7dg
「今のはお前のキックか?タックル。そんな攻撃力でよく私の前に出れたものだな。」
「あさみさん、ダメ!こいつ強いです。」
愛がタックルに向かって声を張り上げる。
「愛ちゃん、私がこんな奴に騙されたばかりに・・ごめんね。」
「あさみ・・・さん?」
なんだろう、いつものあさみと違うような気がする。愛はなつみの方に目をやった。
戦いながらも愛の視線を感じたなつみがあさみの様子に気がついた。
「あさみ、何をする気!」
「なっち、ごめんね。ずっと一緒に居ようって約束・・守れなかったよ。」
「何を言ってるべさ、あさみ!」
673 :
名無しX:02/08/21 22:03 ID:e3joA7dg
あさみは倒れている辻と飯田、そして中澤に目をやり
「ごめんなさい、皆さん。皆さんは決して死なせたりしません。
だから、なっちと愛ちゃんの事・・よろしくお願いします。」
「なんや?あの娘・・何かするんか?」
「あさみさん。ダメれす、何か解らないけど、やっちゃダメなのれす。」
「あなたリンネの親友なんでしょ?圭織もそうだよ。
だからあなたと圭織も友達だよ。これから仲良くしたいのよ。」
希美と圭織は何かを感じているようだった。
あさみの醸し出す『決意』のオーラだろうか。
674 :
名無しX:02/08/21 22:04 ID:e3joA7dg
あさみは希美と圭織に微かな微笑みを返したかと思うとケイトの
胸座に掴みかかった。
『ウルトラサイクロン!』
「ウルトラサイ・・・・!!ダメ────────────────っ!」
なつみがこの世の物とは思えない叫びをあげた。
なつみは知っていた。それはタックルの最強必殺技。
そして自分の命と引き換えにしか発動できない捨て身の最終技でもあるのだ。
タックルとケイトの存在する空間が一瞬次元の狭間に落ちてしまったかのように
空気を震わせ歪んだ。
「ば、馬鹿な・・この私が・・」
その瞬間にドクターケイトの赤い体は木っ端微塵になっていた。
675 :
名無しX:02/08/21 22:06 ID:e3joA7dg
「あ、あさみっ」
安倍が変身が解けて木村麻美に戻ったあさみに駆け寄り、倒れた体を抱き起こした。
愛も変身を解いて駆け寄ってくる。
「あさみさん!」
「あさみ、しっかりして」
愛となつみの悲痛な呼び声にほんの一瞬微笑み返したあさみの顔は、
そのままなつみの手のひらにもたれかかり、明らかに生者のそれではない重さを
なつみの二の腕に与えた。
「あ、あ、あさみぃぃぃぃぃ」
「あさみさぁぁぁぁん」
「しょんな・・・・」
「こんなの・・ないよ・・・」
中澤の肩にもたれかかり立ち上がった辻と飯田は泣き叫ぶなつみと愛の傍に寄る事も
できずただ立ち尽くす事しか出来なかった。
676 :
名無しX:02/08/21 22:07 ID:e3joA7dg
電波人間タックル木村麻美は逝った。
盟友安倍なつみの腕の中で。
最後の言葉も残さないまま。
静かな児童公園にはなつみと愛の心の底からの叫びが只響き渡っていた。
「ふん、あれだけの策を授けてやったというのに仕留めたのはタックル一人か。
奴らの数を減らさせてからケイトも始末するつもりだったがこれでは話にならんな。」
公園の物陰から一部始終を見ていた冷たい目をした男は
はき捨てるようにつぶやくとその場をあとにした。
677 :
名無しX:02/08/21 22:08 ID:e3joA7dg
〜エピローグ〜
静かな波が立つ、海が見渡せる高台になつみと愛を含めた中澤一家の面々が
各々手に花束を抱え訪れていた。
「あさみ、皆来てくれたよ。なっちも高橋ちゃんも元気にやってるよ。
腕の傷も皆が直してくれたんだよ。」
「あさみさん。あさみさんがもういないなんて信じられんけど約束どおり私もがんばっとるよ。」
なつみと愛が手を合す先にはあさみの眠る小さなお墓があった。
自然が大好きだったあさみが喜ぶようにと
海が見え花が咲き乱れるこの場所にお墓を立てたのだ。
「あさみしゃん、ほんのちょっとしか出会えなかったけど、ののにはあさみしゃんが
とっても優しい人だって解っているのれす。
だってあの公園にいた親子に被害がない様に逃がしてから、のの達に話しかけてきたのれす。」
「圭織もそう思うよ。ケイトに騙されて冷静じゃなかったのに親子を
逃がす事を忘れなかった。さすがリンネの親友だけあるよね。」
辻と飯田が手を合わせると他の皆もお墓を取り囲むように静かに手を合わせた。
678 :
名無しX:02/08/21 22:10 ID:e3joA7dg
「あさみ、ここに居る全員があの温泉でのあさみと同じ気持ちだよ。
必ずゼティマを倒してみせる。だから・・・その日まではもう此処には来ない。
たった今そう決めたんだ。
次来る時は悲しみのない世界をお土産に持ってくるから勘弁してね、あさみ。」
『なっちはいつも行き当たりばったりなんだから。でもお土産楽しみにしてるよ皆。』
「え?、あさみ?・・・・まさかね・・風の音だべか。」
「風の音やよ。」
「風の音れすか」
「風の音ね」
皆に聞こえた風の音は耳ではなく心に聞こえた風の音だったのかもしれない。
激しくなる戦いに負けないようにと、皆の心に聞こえた風の悪戯。
それは全員の心に新たなる決意を生むに十分な力を携えていた。
第23話『さらばタックル』完