「くっ…。」
手の甲を押さえて、仮面ライダーあいは唸る。
渾身の力をこめたライダーパンチを放ったはずであった。
あい自身が命中したと思った瞬間に、凄まじい衝撃を右手に感じた。
右手をさすりながら、あいは右手の指を一本ずつ動かしていく。
指は特に問題がなかった。次は手首を動かしてみる。手首にも異常は
なかった。
「一体なんやねん…。」
ハカイダー・マキは、左手に握っている銃の銃身を指でなぞると銃口を
仮面ライダーあいに向ける。
「ハカイダーショット…。」
先ほどの、仮面ライダーあいの呟きに答えるようにハカイダー・マキも呟く。
ハカイダー・マキはそのまま引き金を引く。重く低い銃声があたりに響いた。
しかし、弾は仮面ライダーあいの横を掠めると、地面に転がっているアンドロ
イドマンに命中した。弾はアンドロイドマンの体を貫くと、アスファルトにま
でめり込む。次の瞬間、衝撃波が地面をえぐり、アンドロイドマンは粉々に
砕け散った。眉間に刺さっていた十字剣が、爆風で舞い上がり地面に突き立った。
「あんなのまともに食らったら、さすがにやばいかもしれへんな…。」
亜依はマスクの下で苦笑いを浮かべた。さて、どうするか…。
「終わりにしようか…。」
ハカイダー・マキは仮面ライダーあいに向かい、再び引き金を引く。
「ちっ…。」
仮面ライダーあいは、全力で横に走った。いくら破壊力が凄まじくても、
所詮は銃である。攻撃は直線的である。もっとも、改造人間だからこその
反射神経と運動能力でかわせるのではあるが。
ハカイダー・マキの持つハカイダーショットはリボルバー式であったと、
仮面ライダーあいは記憶している。
だとしたら、残りは3発。先ほどから、仮面ライダーあいは動きっぱなしである。
照準をつけられないくらいのスピードを維持するのは、例え改造人間でも辛いのだ。
動きを止めたらやられるのは確実である。足を止めるわけにはいかない。
お互い隙は見せられない。ハカイダー・マキもそう感じている。
まだ何かある…。
ハカイダー・マキは、仮面ライダーあいの動きからそう感じていた。
だとしたら、隙を見せた方が負けなのだ。
その時、仮面ライダーあいは足を止めた。が、照準をつけるよりも早く
再び走り出した。さっきよりも早く。
ジグザグに走ったり、ハカイダー・マキの周りを走ったり。
しかし、距離は確実に詰めてきている。
(勝負にきたか…。)
ハカイダー・マキは自信があった。ライダーパンチをハカイダーショットで
止めた時。あのまま全弾打っていたら勝っていた。
そうしなかったのは、戦いを楽しむため。そして、勝利する事が出来る
と言う自信のため。
次の攻撃の瞬間が、仮面ライダーあいの最後。そう確信した。
仮面ライダーあいのスピードが再び落ちた。次の瞬間、凄まじいスピードで
何かがハカイダー・マキに向かってきた。あまりのスピードの為にハカイダー・マキ
にさえ認識できずにいる。
「ふっ。」
瞬間的に眉間に照準を合わせる。まっすぐ向かってくるのならば、当てるのは
あまりにも簡単すぎる。ハカイダー・マキは引き金を引いた。
弾は眉間に命中し、貫いたはずだがこちらに向かってくる。
形は確かに人型だが、いかんせん命がない。その人型がハカイダー・マキに
ぶつかる寸前、左手でそれを叩きつける。
金属がくだける音がした。
「これは、アンドロイドマン!?」
先ほど、仮面ライダーあいがスピードを落としたのは、アンドロイドマンを
投げつけるためだった。
「だとしたら…。空か!」
ハカイダー・マキは月が輝く夜空を仰ぐ。居た!!
月をバックに、こちらに向かってくる。
高高度からの、全体重をかけたジャンプキックだ。
ハカイダー・マキも勝負に出た。
ハカイダーショットは残り2発。リボルバーから、瞬間的に薬莢4つと弾を2発抜き
新たに6発装弾した。
照準は、仮面ライダーあいの足刀。
しかし、まだ距離がありすぎる。
勝負は至近距離!!
仮面ライダーあいのキックはすでに目の前まで迫っていた。
「ライダー卍キーック!!」
ハカイダー・マキは6回、引き金を引く。
あたりに低い銃声が響いた。
仮面ライダーあいのキックは止まっていた。
ハカイダーショットを6発受け、それでも止まらず弾がなくなった
銃で防御してやっと止まったのだ。
「まさか、止められるとは思わんかったわ…。」
「ふ。まさか仕留める事が出来なかったとは…。」
お互い、死力を尽くし満身創痍であった。
仮面ライダーあいには体力が。
ハカイダー・マキには決定打が。
仮面ライダーあいは、宙返りして着地すると地面に膝を着く。
ハカイダー・マキは銃身の曲ったハカイダーショットをしまう。
暗闇に二つのヘッドライトが浮かぶ。
一つは、ニューサイクロン。
もう一つは、ハカイダー・マキのマシン『白いカラス』。
ハカイダー・マキは何も言わずに白いカラスにまたがると、暗闇に消えていった。
仮面ライダーあいは変身をとき、立ち上がろうとするが立てない。
そんな亜依に、ビジンダーから姿を変えた石川梨華が駆け寄ってきた。
「大丈夫、あいちゃん?」
「ああ、大丈夫や…。あいつ、ものごっつぅ強いな。」
そう言って、亜依は微笑んだ。
「梨華ちゃん、後は頼んだで…。」
亜依は梨華におんぶされて、そのまま寝てしまった。
「うん。お休みなさい、あいちゃん。」
梨華は亜依を抱きかかえると、ニューサイクロンにまたがった。
自動運転に切り替わっているニューサイクロンは、一路皆が待つ中澤亭に向かって
走り出した。
明かりが届かない、地下の部屋にプロフェッサーギルの研究室がある。
応急的な延命措置を施している、溶液に漂いながらギルは笑っていた。
(ハカイダー・マキよ…。貴様の体は、あくまでもわしの物なのだ…。
この体が終焉を迎えたとき、お前の体とわしの脳は一つにり、
わしは永遠の命を得られるのだ…。ククク…。)
研究室のいたるところにあるモニターには、白いカラスにまたがり
闇夜を疾走するハカイダー・マキの姿が映し出されていた。
第22話『ハカイダー』 終わり。