―――時は現代。
ゼティマの系統をくむ組織『DARK』。そしてDARKの創設者である
プロフェッサーギル。彼は今自室の研究室に閉じこもっていた。
今、ギルは溶液を満たした円筒形の巨大な容器の中に漂っている。
その溶液はハカイダー・マキの頭部でつんく博士の脳を生かすのに使われている
物と同様のものである。細胞の劣化を防ぎ活性化を促す効果をもつ。
高齢であるが故に欠かせないギルの習慣である。
ギルは漂いながら思い出していた。
かつて、加護博士・つんく博士両名の技術を試すためにハカイダーの設計図を
ひそかに彼らに流した事がある。ギルがゼティマの科学者としてDARKを
設立しようとしていた頃である。ゼティマに彼らを迎えるかどうかのテスト
としての行為であった。しかし、両名がハカイダーを完成させたという話を
ギルは聞いていなかった。だが、ハカイダーを元に上回る理論を完成させた
人造人間の理論、遺伝子理論を発表した事が彼らをゼティマに迎えるきっかけ
になったのである。そして、再び着手したハカイダー・マキの開発。
ハカイダー・マキは完成した。開発予定よりも早くにである。
完成直前のマキ暴走。原因はハカイダー・マキの悪魔回路の暴走であろう。
つんくが仕掛けたトロイの木馬。結果、つんく・加護の研究成果は失われる事に
なった。それらの忌々しき出来事が、未だギルに屈辱を与えていたのだ。
それから半時間。溶液のかさが減り、ギルが重力を感じるようになると終了である。
ギルはそこから出ると無造作に置いてある、みすぼらしい黒衣を身にまとう。
「来たか…。」
ギルの目の前には誰もいないのだが、しわがれた声で呟くと部屋にある手術台に近づい
ていった。すると、薄暗い部屋の光が届いていない暗闇からハカイダー・マキが姿を
現わした。チェンジ後の姿で現れたハカイダー・マキは手術台に横たわる。
すると無数のチューブやコードが頭部に接続される。頭部の溶液交換が行われるのだ。
同時にボディーのメンテナンスも行われたりするので、この時だけハカイダー・マキ
はただの機械に戻ってしまう。しかし、ハカイダー・マキにはギルに伝えていない秘
密があった。再び目覚める一瞬。つんくの脳とハカイダー・マキが一つになるコンマ
何秒かに起こる記憶の共有。その時に見える光景がマキに一つの思いを巡らせる。
手術台に横たわる黒い人造人間と、並ぶように横たわる自分によく似た血まみれの少女
の関係を。
――――仮面ライダーのの・あい。ZX遭遇24時間前。
世界は暗闇が支配する時間帯である。加護亜依は夢を見ていた。
見知らぬ少女の全てを黒く不気味な人造人間へと移植をしている夢だ。
夢だと分かっているのだが、その全てがリアルに感じている。
少女は息を引き取ろうとしている寸前だという事も、少女の事をまるで
自分の孫同然のように思っていた感情も夢であるのにだ。
リアルであるが夢は夢である。一瞬の内に場面が切り替わり、息を引き取った
少女と、彼女の全てを引き継いだ人造人間とが並んでいる。
移植手術に関わったもう一人の男が、手元にあるパソコンを操作する。
次の瞬間、人造人間の体がまばゆい光を放った。数秒後その光がだんだんと収束
していく。光が全て収束した後に現れたのは黒く不気味な人造人間では無く、
息を引き取った少女と寸分違わぬ姿であった。
その時は嬉しかった、嬉しかったがこのあとの事は何故か知っていた。
亜依の手元にあるこのスイッチを入れれば、人造人間は目を覚まし少女、…名前は
確か真希…、真希として目覚めるはずであった。しかし、そうはならないことを
知っているのだ。無駄だと思いつつもスイッチを入れてみる。
やはり目は覚めなかった、もう一人の男も悲しそうな顔をして嘆いている。
このとき初めて、男の声が聞こえた。
「完璧やったはずや。何で、何で目さまさへんねん…。」
亜依にも分からなかった。夢だからしょうがないと思った。
所詮夢や、夢やのになんで、何でこんなに胸が締め付けられるねん…。