仮面ライダーののV3

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578白い名無し娘。

二人が作業を開始してどれほどの時間がたったのであろうか。
作業部屋であるこの部屋には,光が射し込むような窓もない。
換気は天井の換気扇によって行われている。時計は既に停止しており
ただの置物と化していた。止まることを知らない時の流れが,遂に
一人の人造人間を完成させた。しかし,そこに魂は存在していない。

「さて,問題はこいつに命を吹き込むことや………。」
若い男が顔を上げて,人造人間の頭に目をやる。頭の上半分,目にあたる
場所から上がまだ未完成であった。半透明のキャップで覆われているのだが
脳にあたるものが無い。本来ならば電子頭脳を埋め込んで頭部を
完成させるのであろうが,埋め込まずして完成であるという。彼らは,埋め
込む為の電子頭脳を最初から作ってはいなかった。この研究のテーマに沿って
完成させた人造人間なのだから。だから必要なかったのだ電子頭脳は。
この人造人間に必要な物それは即ち。
「後は,人間の脳か………。」

その時である。
「こんにちはー。」
微妙にやる気の無さを感じさせる声と共に扉が開いた。
茶色がかった髪で,何となく眠そうな表情の少女が入ってきた。
年の頃は16歳くらいであろうか。学校帰りを思わせるセーラー服姿と
右手に抱えてる小ぶりのスイカが妙に可愛らしい。
部屋に入ってきた少女の姿を見たとたん、険しかった二人の表情が和らいだ。

「ようきたなぁ。…ところで、どうしたんやそれ?」
若い男は少女が持っているスイカを指差した。そういえばスイカの実物を見るのも
ずいぶん久しぶりのような気もする。
「これ?くる途中の畑にあったから、貰ってきました。」
特に悪びれた様子も無く、へへっと笑うと少女はスイカを抱えたまま
人造人間に歩み寄ってきた。
「あ、この子完成したんですね。」
「おう、かっこええやろ。」
そう言って若い男は人造人間頭をペシペシとたたく。
怒っているのか笑っているのか判別できない表情を覗き込み、少女はその鼻にあたる
ところを、つんと突付いてみる。
「おお、かっこいいかっこいい。ところで、この子の名前って決まってるんですか?」
新しいオモチャを与えられた子供のように、少女は人造人間から目を離さずに尋ねた。


579白い名無し娘。:02/07/26 06:49 ID:74//saEh
二人の男たちは目を合わせた。名前の事など念頭に無かったのである。
口を開いたのは若い男のほうであった。
「愛と未来をになう機械って事で『LOVE・マシーン』ってのはどうや?」
「えー。なんかダサいですよ。」
少女は眉間にしわを寄せながら、振り向いて不満をこぼす。


初老の男は苦笑いを浮かべている。少女の事を孫のように思っていたので、
そんな仕草が可愛くて仕方が無いのだ。
「まあまあ、名前なんてどうでもいいじゃないかね。」
「えー。名前は大切ですよ。………だったら、私が決めてもいいですか?」
「わしは構わないが。」
そう言って若い男に、君も構わないねと言うような視線を送る。若い男も
仕方が無いと言った表情で頷く。
「やったー。んー、どんなのが良いかなー。」
笑みを浮かべて、少女はスイカを抱えて名前を考える。
「んー。人造人間………。機械………。きかいだ………。
 『キカイダー』っての言うのはどうですか?」
「なんや。ネーミングは悪う無いけど、安直やな。」
少女は人造人間に再び目をやってみる。
漆黒のボディー、血の色の目、各所に施された稲妻のマーキング、
そして、脳が剥き出しにされるであろう半透明の頭部。
「でもなー。『キカイダー』って言うよりも、悪そうな感じだしなー。」
そう言って少女は再び考え出す。
「悪い………。壊す………。破壊………。はかいだ………。
 よしっ。『ハカイダー』はどうですか。」

580白い名無し娘。:02/07/26 06:50 ID:74//saEh
「ふむ。『ハカイダー』か。なかなか良いんじゃないか?」
初老の男は、若い男に意見を求める。若い男は腕を組んだまま何かを
考えているようであった。しかし、すぐに口を開き同意した。
「よし分かった。今日からこいつは『ハカイダー』や。
 どんな困難も、どんな敵も自らの手で打ち砕く強い意志を
 持った人造人間。そんな、コンセプトでいこう。」
一人で納得して、若い男はうんうんと頷いている。
はにかんだ笑みを浮かべて少女は、初老の男に笑みを向ける。
「よし、名前が決まったところで、真希君が持ってきたスイカを
 ご馳走になろうじゃないか。なあ、つんく君。」
「そうですね。それじゃ後藤、スイカこっちにくれ。」
少女は、若い男にスイカを渡すために歩み寄っていく。


若い男の名前は『つんく』といった。


少女の名前は『後藤真希』といった。


「わしのはなるべく大きめに頼むよ。」
「えへへ、加護博士スイカ好きなんですか?」
「ああ。孫と一緒によく食べたもんじゃ。」


初老の男の名前は『加護』といった。