541 :
名無しX:
見上げるとそこには抜けるような青空。
ほのかに香る硫黄と湯煙の中に少女達は居た。なぜか居た。
「あ〜やっぱり露天風呂は気持ちイイべさ。」
「本当ですね、慣れないバイク旅の疲れが吹き飛びます。」
「・・・・・・・」
「来て良かったっしょ」
「はい。さすが安倍さんです。」
「・・・・・・・」
露天風呂の岩肌に持たれながら並んで湯につかる少女3人。
「あれ?どうしたのあさみ、温泉嫌いだった?」
「湯あたりですか?でもまだそんなに時間たってませんけど。」
「・・・・・・って言うか、なんで私達は温泉でまったりしてるんですか!」
少女達のひとり、あさみは声を荒げた。
「なんでって・・・ねぇ、高橋ちゃん」
「なんでですかね?」
「何言ってるの高橋ちゃん!なっちが道を間違えたからに決まってるでしょ!」
福井での戦いを終えた3人は傷ついた安倍の腕を治せるという加護博士のいる
『加護生化学研究所』に向かっていたはずだった。
542 :
名無しX:02/07/20 04:06 ID:0SIF3tnt
「仕方ないべさ、なぜかここに着いちゃったんだから」
「そうですよね」
「仕方なくないでしょ。なっちが自信満々で先頭走るからついて行ってみれば、
着いた先はガイドブックにも載らないような山奥の秘湯だし、しかも勢い余って入浴まで
するし、ましてや気持ち良いって言ってる場合じゃないでしょ。」
「そんなに怒らないでもいいっしょ、あさみ。」
「そうですよ、あさみさん。少し位いいんでないですか。」
「・・・・・グスッ」
「え?あさみ・・泣いてるの?」
「あ、あさみさん、ど、どうしたんですか」
お湯に浸かって火照ったあさみの頬を涙が伝う。
「ねぇなっち、今自分がどんな状況だか解ってるでしょ。変身できないんだよ。
こんな時にゼティマの怪人が来たらどうなると思ってるの?
高橋ちゃんだってまだ自分の力の使い方すらろくに解ってないはずだよ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・そうです」
なつみと愛に返す言葉は無かった。あさみの言う通りだ。
そして何よりもあさみの真剣な眼差しと涙に圧倒されていた。
543 :
名無しX:02/07/20 04:08 ID:0SIF3tnt
「この前の戦いでなっちが行方不明になった時、私がどんな気持ちで探し回ったと思ってるの?
高橋ちゃんだってお父さんが自分の命と引き換えに助けてくれた体だよ、解ってるでしょ?
私が・・・私がもっと強かったらって・・二人を守ってあげられたらって・・・
もう嫌なの。これ以上大切な人がいなくなるのが。
だからお願い・・・もっと真剣になって、命を大切にして。・・お・・願・・い。」
もう最後は言葉になっていなかった。
既にあさみの顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
ふたりと同じ改造人間でありながら大幅に戦闘力に劣る自らの不甲斐なさ、
何人ものかけがえの無い人達の死と向かい合ってきた悲しみ、
それらがあさみの涙を止めようとはしなかった。
「ごめん、あさみ・・・あさみがそんな風に思っていてくれたなんて。」
「ごめんなさい、あさみさん」
いつしか二人の顔も真っ赤になり大粒の涙が零れ落ちていた。
「ううん、解ってくれればいいの。私は只皆と一緒に居たいの。そしてこれ以上
私達と同じ悲しみを増やさない為にゼティマを倒したいの。」
「うん。なっちも同じ気持ちだよ、一緒に頑張ろうよ。」
「私も頑張ります。お父さんの為にも、皆の為にも。」
「みんな・・・」
544 :
名無しX:02/07/20 04:12 ID:0SIF3tnt
いつしか空も夕日に染まりだし少女達の火照った顔を更に赤く染め上げていった。
「よし、それじゃ今度こそ『加護生化学研究所』に向かって出発だ!」
「はい。」
「行こう。」
元気良く三人は同時に立ちあがった。そして・・・・倒れた。
「あ、あれ?なんか地球が廻ってるべさ」
「なんか・・気持ち悪いです・・・」
「ひょっとして・・・・のぼせた?」
露天風呂の脇に全裸で倒れ込む少女三人。
・・・ ・三人の旅はまだまだつづく。