仮面ライダーののV3

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471ナナシマン
第19話 「仕組まれた再会・怒れライダーマン!」


 街の一角にある古い教会。昼下がりの強い日差しの中、あまりにも
似つかわしくない黒いロングコートの少女が人目を気にしながら建物の
中に入っていく。
 やがて少女は教会の鐘楼まで駆け足でたどり着くと、ロングコートを
脱ぎ捨てた。ようやくたどり着いた隠れ家。そして少女−ミカはベッド
に腰掛け、病院での出来事を思い出していた。
 「仲間は一人でも多い方がいいと思うんだ。ミカちゃん、一緒に戦って
くれないかな?」

 矢口真里。彼女のあのときの言葉が再び脳裏に浮かぶ。頭の中で何度も
繰り返される言葉。しかし自分は、その言葉に応える事ができなかった。
 「矢口サンはワタシのことを必要としてくれている。けれど、ワタシ
には夢を捨てることなんてできない。」
薄暗い屋根裏部屋。その天井を見上げ、ミカは一人そう呟いた。

 「この身体に残された唯一生身の部分は・・・頭脳(ここ)だけ
なんだよ。」
 「だからこそ決心したんだ。アイツらのせいで涙を流す人たちを
これ以上増やしちゃいけないって。」

 組織による武力行使〜ゼティマの側に「正義」があると信じている
彼女は、組織の悪事をこのように解釈していた〜が行われていたことは
知っていた。
 しかし、テロや紛争を地上からなくすためにはその根源を力によって
絶つことが必要であり、理想を実現するためには時として他に犠牲を
強いることもやむを得ないと思っていた。すべては大志のため。
「だめ!あの人は・・・私の敵。」
 そう言ってミカは右腕を見つめる。脱走した自分が組織に復帰するため
には、それ相応の手柄をあげなければならない。宿敵仮面ライダーの首級
こそ絶好の手みやげと、そう思っていたのだが・・・。

 「アイツらはミカちゃんが思ってるような連中じゃない。ミカちゃん
の夢を踏みにじる悪いヤツらなんだよ?お願い、目を覚まして!!」

 胸に抱いた志と、元帥が自分に加えた仕打ち。そして真里の言葉。
それらが激しく彼女の心の中でせめぎ合う。
472ナナシマン:02/07/01 19:18 ID:znrv8Ie6
 不意に右腕が疼き出した。そんな時、ミカはさながらカセットアームに
迸る怒りの感情をなだめるかのように右腕をゆっくりとさする。そして
彼女はそんな右腕を見つめながら、ある出来事を思い出していた。


 それは、ミカが開発した新兵器の公開実験での出来事である。当時彼女
が開発していたのは、戦闘員が白兵戦で用いるためのレーザー銃だった。
連射力に物を言わせて前方の敵を掃討することを念頭に置いていたそれは、
彼女自身の手によって披露されることとなった。
 「この銃は射程はやや短いのですが、圧倒的な連射力で敵を掃討する
ことが可能です。これからその威力をお目にかけましょう。」
 そう言うや彼女は前方の標的に向かって対峙し、銃を構えた。そして、
おもむろに引き金を引く。
 「シュババババババッ!!」
稲妻のような閃光が吸い込まれるかのように標的に向かって走る。
ひとしきり撃ち尽くした頃には、標的は跡形もなく消え失せていた。

 彼女の開発したレーザー銃は、確かに射程がやや短い点を除けば、武器
として十分すぎる威力を証明して見せた。居並ぶ幹部達が色めきだつ中、
あのヨロイ元帥が身を乗り出して言った。
 「お前のそのレーザー銃を、是非我がヨロイ軍団の怪人に装着してくれ!
それだけの破壊力があれば、我が軍団は更にパワーアップできるはずだ。」
この男は自らの手柄のためになら、他者を差し置いてでも前に出てくる
タイプである。誰もがそのことを知っていた。故に開発者であるミカの言葉
を待ったが、その口から出てきたのは思いも寄らぬ言葉だった。
473ナナシマン:02/07/01 19:29 ID:znrv8Ie6
 「それは出来ません。このレーザー銃をヨロイ軍団の怪人に取り付ける
のは無意味です。」
 「な・・・なんだと!!」
激高するヨロイ元帥。幹部達の表情にも驚きの色が伺える。ミカは淡々と
言葉を続けた。
 「ごらんのとおり、このレーザー銃は有効射程が短いものです。出力を
高めれば射程も伸びますが、銃はその分大きくなり戦闘員や怪人が扱うには
不向きです。」
 「我が軍団は鉄壁の装甲を持つ精鋭揃いだ!問題はない!!」
元帥が反論するが、ミカは全く動じることなく更に言葉を続ける。
 「そこが問題なんです。現状では怪人に取り付ける場合、中・近距離で
連射力を生かした使用法が一番有効ですが、そのためには素早く相手に
近づいて闘うことが必要です。しかしヨロイ軍団の怪人はその装甲故に
鈍重で、この武器を使用するには向きません。」

 理路整然と元帥に対してデメリットを指摘するミカ。しかし、彼女の
言葉は元帥の怒りに触れた。
 「貴様ぁ!我がヨロイ軍団を侮辱する気か!!」
 「いえ、決してそんなつもりは・・・」
憤然として立ち上がったヨロイ元帥はミカの胸ぐらにつかみかかる。
居合わせた他の幹部達が直ぐさま止めに入ったためこの場は事なきを
得たが、元帥のミカに対する憎悪はここから始まったのである。


 元帥としては満座の席で恥をかかされたと思うのは無理もない話で、
それ以来今日まで、ミカはヨロイ元帥にとって憎しみの対象である。
 一方ミカにとっても元帥は右腕と友の命を奪った憎むべき相手だった
が、組織の中での自分の敵はあくまでも元帥一人だけで、組織の全てが
自分に背を向けたわけではない、とそう思っていた。それ故に彼女は
ゼティマへの復帰を願うのである。だが、真里はゼティマこそ憎むべき敵
だという。
 「私は一体どうしたらいいの・・・。」
その葛藤は、彼女一人ではとうてい解消できそうになかった。