ところで・・・

このエントリーをはてなブックマークに追加
89紺野の愛+α
――― 四日目
気がついたら、紺野は石壁に囲まれた部屋の中にいた。
部屋の中は薄暗く、壁にかけられたロウソクが、チロチロと音を立てて燃えている。
目の前には、いかにも重そうな鉄でできたドアがある。
『・・・ここは・・・』
紺野は辺りを見渡した。しかし、周りは本当に石壁ばかりで何もない。
しかし、紺野の寝ていたところだけ、何故か質素な藁が敷かれていた。
人の気配も感じられない。
『もしかして、ここは・・・』
高橋の頭脳世界なの?紺野はそう思い、再び辺りを見渡した。
いつも楽しそうに笑う高橋。
いつも元気な高橋。
いつもみんなに笑顔を振り撒いている高橋。
そして、とても優しい高橋・・・いや、愛ちゃん。
その高橋の思念の固まった世界が、この世界なのだろうか。
静寂と闇しか見えない・・・こんな殺風景な世界が。
紺野には信じることができなかった。
紺野は立ちあがり、ドアに手をかけた。
90紺野の愛+α:02/02/25 23:24 ID:SlTBRP+Y
「・・・し・・・高橋」
突然聞こえた声に、高橋はビクッとし、顔をあげた。
「は、はい!」
声をかけたのは飯田だった。そして高橋はキョロキョロと辺りを見渡す。
ここは・・・控え室だ。いつの間に・・・。
・・・いや、今日は確かに自分の足で控え室に来た。
飯田は心配そうな顔で、高橋を見ている。
「どうしたの?体の具合でも悪いの?」
「い、いえ・・・そんな・・・大丈夫です」
高橋は精一杯の笑顔を作ってみせた。しかし、その笑顔はどこかぎこちない。
「・・・やっぱりどこか変だよ?朝から全然喋らないし・・・」
「いえ、本当に大丈夫です。すいません」
飯田はどこか釈然としない顔をしながらも、
「そう。・・・もしどこか悪かったら遠慮しないで言ってね」
飯田の声に、高橋はコクンと頷いた。
飯田が離れると、高橋は頭をおさえ、ふう〜っとため息をついた。
記憶が混乱している。現実世界のサイクルに慣れていない。
数日も、あんな妙な体験をすれば、頭もおかしくなるはずだ。
しかし、今の状態がおかしいのは、本当に今までの体験のせいだろうか?
ふと頭をよぎった疑問を、高橋は頭をプルプルと振り、両手で顔を覆った。
「・・・ねえ、愛」
声が聞こえ、高橋は手から顔を覗かせた。小川だ。
「愛〜、どうしたの?今日はなんだか元気ないよ」
高橋の目をじっと見つめながら小川が言う。どこか心配そうな顔をしている。
しかし、そんな小川の顔を見て、高橋は胃がギュッと絞まるような痛みを感じた。
91紺野の愛+α:02/02/25 23:25 ID:SlTBRP+Y
紺野は廊下を歩いていた。
廊下も紺野がいた部屋同様に、石壁で覆われている。
しかも、道はまるで迷路のように入り組んでいる。
あまりにも複雑なので、部屋に帰ろうかとも思ったが、今更引き返せない。
立ち止まるにも、立ち止まったで何が起こるかわからない。
紺野は歩き続けるしかなかった。
もしかしたら、何かが見つかるかもしれなかった。
『・・・また別れ道だ』
紺野の目の前に、三本の分かれ道が現れた。さっきからずっと分かれ道の連続。
紺野は、自分が高橋に拒まれているのではないか。
この分かれ道の連続は、高橋が紺野を拒否している無言のアピールなのでは。
ならば、このまま動かない方が高橋のためなのではないか。
そう思った時だった。
「そんな顔してるけど、真琴だって本当はあたしのこと嫌いなんでしょ!」
左の道から、太く低い声が聞こえた。
『愛ちゃん?』
それはどう聞いても高橋の声には聞こえなかった。紺野もそう思った。
しかし紺野には、それが高橋の声だと確信した。
紺野は導かれるように、高橋の声が聞こえた道へと進んだ。
92紺野の愛+α:02/02/25 23:27 ID:SlTBRP+Y
「・・・大丈夫、ちょっと疲れてるだけだから」
そう言って高橋は、小川に微笑んだ。
「・・・そう。あんまり無理しないでね。喋らないと、あさ美みたいで変な感じだから」
あさ美
高橋は笑顔で返したが、その言葉に腹痛はますますひどくなった。
と、控え室のドアが回り、スタッフが入ってきた。
「では収録になりますので、スタジオにお入りください」
スタッフの声に、飯田が手を叩いて「はい、行くよ〜」とメンバーに言う。
その声に従い、ゾロゾロと控え室を出て行くメンバーたち。
「・・・高橋?」
保田が椅子から立ちあがらず、下を見てうつむいている高橋に声をかけた。
「高橋、どうしたの?収録だよ」
保田の声に、高橋はハッと我に返り、「す、すみません」と言って立ち上がった。
慌てて部屋から出ようとしたため、高橋はドアの段差につまづいた。
それを見て、保田が怪訝そうな顔をする。
「・・・なんか、今日の高橋って紺野みたい」
そう言って笑う保田。その声を、高橋は唇をかみしめながら聞いていた。
93紺野の愛+α:02/02/25 23:28 ID:SlTBRP+Y
つんくは平原を歩いていた。
朝起きたら、つんくと辻は、粗末な布団の中にいた。
しかし、紺野の姿はなかった。
高橋に聞いても、紺野を探してくれるとは思えない。
つんくは半分寝ぼけまなこの辻をおぶり、紺野を探しに出たのだった。
『つんくさ〜ん・・・お腹すいた〜』
背中におぶさった辻が声をかける。
『・・・そないなこと言っても、何も食い物ないねん』
さっきから何度も同じ言葉を繰り返す。そして、また黙々と歩きだす。
『それにしても・・・』
そう言ってつんくは辺りを見渡す。
荒れ果てた道、ところどころに散らばる枯れ木、そして、空には黒い太陽。
『・・・ここは、ホンマに高橋の中なんか?』
つんくが紺野と同じ疑問をつぶやいた。
そう思いながらも、紺野の名前を呼び続ける。と、
『あ!あれ!』
辻がつんくの頭をパンパン叩きながら言った。
『ど、どした?紺野いたんか?』
『違う!あれ!あれ!』
そう言って辻はその方向を指差す。つんくも辻の指線の先をみる。と、そこには・・・。
『な・・・なんじゃこりゃあぁぁぁ!?』
つんくは思わず叫んだ。
つんくの視線の先、そこには巨大な石でできた、古めかしい城があった。
94紺野の愛+α:02/02/25 23:29 ID:SlTBRP+Y
「キャハハハハ!!どうしたの、高橋!?」
「さっきからこうだよね。ずーっとボーっとしてさ」
「うん、今日の高橋、紺野みたいだよね」
「ホントだ〜!紺野みたいだよ」
メンバーの間に爆笑が起こる。高橋は下を見て、叫びたいのをグッと耐えていた。が、
ポン
「あ、ごめん」
小川が振りかえった拍子に、肘が高橋の肩に当たった。
高橋は、キッと小川を睨みつけた。
「愛?どうし・・・」
パアァァァン!!
スタジオ内に、乾いた音が響いた。
小川が驚いた表情で高橋をみている。高橋が小川を平手打ちしたのだ。
小川は、何が起こったのかわからないといった顔をしている。
が、自らの赤くなった頬をさすると、小川の目に涙が浮かび、両手で顔を隠し、号泣しだした。
「ちょ・・・ちょっと高橋!何するの!」
あっけに取られていたメンバーの中で、一番最初に正気を取り戻したのは保田だった。
「あ・・・あんた、自分が何をやったかわかってんの!?」
保田が立ちあがり、高橋を批難しだした。
保田の声に、他のメンバーも正気に戻り、口々に高橋を批難する。
高橋はチラッと小川を見た。号泣している小川を抱き寄せ、新垣が怯えた目で高橋を見ている。
95紺野の愛+α:02/02/25 23:30 ID:SlTBRP+Y
高橋は、自分が何で小川をぶったのかわからなかった。衝動的としか言い様がない。
小川の肘が、自分の肩に当たった。それが原因でムカっときた。
しかし、それで叩いたとしたら、それは理由にならない。それは自分でもわかっていた。
小川の肘が当たったのがきっかけで、それまで溜まっていた何かが爆発した。
高橋にはそんな感じがした。
「ちょっと高橋、聞いてんの!?」
保田の声が聞こえた。高橋は保田の方を見た。保田の目は怒りに燃えている。
飯田、安倍、矢口も口々に高橋を批難する。
後藤、吉澤は互いに顔を見合わせてる。
石川、加護、新垣は怯えた目で高橋を見ている。
そして、隣りの席の小川は号泣している。
高橋には、その泣き声が、小川の声に聞こえた。
「こいつが悪いのよ!愛が悪いのよ!」と言っているように聞こえた。
メンバーの視線も、高橋の全てを否定しているように見えた。
「高橋最悪」「なんでこんな奴がメンバーなの?」「高橋、酷いね」「こいつ悪魔だね」
「人間やめたら?」「田舎に帰りなよ」「ガキのくせに」「どうせ体売ったんでしょ?」
メンバーの心の声が聞こえたような気がした。
高橋は気が狂いそうになり、耳を塞いだ。それでも声は聞こえてくる。
「何考えてんの?」「頭おかしいんじゃない?」「いい事と悪いことの判断つかないの?」
「こいつ、絶対犯罪犯すよ」「そうだね」「間違いないね」「そんならさ、クビにしようよ」
「クビなんて甘いよ、こんなゴミ」「うんそうだね」「いっそのこと、殺しちゃおうか?」
「え〜?こいつ殺すの?」「こんな奴殺して捕まるのやだよ〜」「そう言われたらそだね」
「そうだよ〜」「だからさ〜自殺してくんない?」「あ!それ名案!」「よし、きまり!」
「何がいいかな?」「そんなの知らないよ」「うん、死ぬのは高橋だもんね」「そうだよ」
「だからさ、さっさと死んで?」「ほらほら早く!」「死んでも誰も悲しまないからさ〜」
「死んでちょうだい♪」「早く死んでよ〜」「まだ死なないの〜?」「死んでくださ〜い」
「死んでよ」「死ねば?」「死ねよ」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
「わああぁぁぁぁぁあああああああああぁあぁぁぁぁぁあぁあああぁぁ!!!!!」
高橋は叫びながら、頭を大きく左右に振った。
そしてそのまま、スタジオの外へと飛び出した。
96紺野の愛+α:02/02/25 23:31 ID:SlTBRP+Y
『ここは・・・?』
高橋の声に導かれるように紺野が進んだ先には、巨大な扉があった。
この中には重要なものがありますよ。
いかにも、そう言っているような重そうな扉だ。
『こんなの、開けれるかな・・・』
紺野は扉に手をかけようとした。と、
『あさ美なんて大っ嫌い!』
高橋の言葉が頭に浮かび、振れただけで手を引っ込めた。
しかし、扉は意外にもギィ〜ッと鈍い音をたてて開いた。
部屋の中は、完全な闇が支配していた。目をこらしても全く見えなかった。
紺野はしばらく呆然としていたが、やがて恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
バタン!!
数歩歩いたところで、後ろから大きな音が聞こえた。
振りかえると、扉が閉まっていた。紺野は慌てて扉を引いた。
しかし、さっき簡単に開いたのが嘘のように、扉はピクリとも動かなかった。
それでも何度も引いて、引いて、時には押してみた。しかし扉は動かない。
紺野の表情に焦りの色が浮かんだ。
もう一度引いてみようとした時、部屋一面が青黒い光に包まれているのに気づいた。
視界はハッキリしないが、さっきよりはわかる。
紺野は落ち着きを取り戻した。いや、落ち着きを取り戻したのは視界が原因だけではない。
ここの部屋に流れる気配。これをどこかで感じたことがあった。
それが何だかわからないが、とても落ち着く、大好きな感じだった。
『あっ』
紺野は部屋の奥に、何かがあるのに気がついた。
紺野はよく目を凝らして「それ」を見てみる。だんだんと輪郭がハッキリとしてきた。
『・・・愛ちゃん?』
奥にあるそれは、巨大なハートだった。
紺野の身長より半分くらい大きいそれは、重りをつけた風船のように、
紺野の膝のあたりをフワフワと浮かんでいた。
この部屋・・・そして、このハートは、高橋の思念の中心部だった。
97紺野の愛+α:02/02/25 23:33 ID:SlTBRP+Y
スタジオを飛び出した高橋は、地下にあるトイレの個室に隠れていた。
そこで爪を噛み、ただガチガチと震えていた。
「たかはしぃ〜!どこなの〜!」
遠くから飯田の声が聞こえた。その声に、高橋は体をすくませ、体を小さくする。
「どこにいるのぉ〜!たかはしぃ〜!・・・しぃ〜・・・」
徐々に声が小さくなっていく。高橋は少し肩の力を抜いた。
しかし、小川を叩いたことを思いだし、高橋は再び震えだした。
なんであんなことしゃったんだろう・・・。
高橋は、激しい後悔に襲われた。
冷静に考えて、あんなことで怒るなんてどうにかしてる。
保田さんたちが怒るのも無理はない。
小さい体をさらに小さくし、そう思った。
でも、なんで叩いちゃったんだろう・・・。
高橋は、小川を叩いた手の平を見つめた。
まだ感覚は残っている。小川の頬を叩いた。あの刺すような感覚。
小川のことを憎いわけじゃない。
むしろ同期として・・・いや、友達として好きだったはず。
しかし、もしかしたら小川のことを嫌いだったのか?
いや、それはない。自分でもわかっている。小川は好きだ。
じゃあ何で?考えれば考えるほどわからなくなる。
高橋は頭をさげ、激しく頭を振った。
「・・・全く〜!こんな時に辻と紺野はなにしてんだかなぁ!」
「よっすぃー・・・辻と紺野は休みだよ」
遠くから、後藤、吉澤の声が聞こえた。
紺野。
紺野?紺野あさ美?あさ美?
高橋はハッと顔をあげた。
そうだ、あさ美だ。あさ美が私をこんなにしたんだ。
みんな、今日の私はあさ美みたいだって言った。
そのたびに、私はイライラした。あさ美の名前を聞くだけで。
しや、あさ美に例えられたから。それがイヤだった。
・・・イヤだったの?イヤなはず。だって私はあさ美のことが嫌いだから。
・・・でも、本当にあさ美のことが嫌いなの?
嫌いってハッキリ言ったけど、本当なの?
『・・・愛ちゃん?』
と、高橋の頭に、紺野の声が響いた。
「あさ美!?」
高橋は思わず叫んだ。
「・・・ん?今の声、高橋じゃない!?」
地下から聞こえてきた声に、安倍と石川は地下へと向かった。
98紺野の愛+α:02/02/25 23:34 ID:SlTBRP+Y
「あさ美!どこにいるの!?」
部屋の中に高橋の声が響いた。
『・・・今、愛ちゃんの心の中にいるよ。多分、心の中枢部』
紺野は、ハートを見ながら答えた。
「バカ!出てってよ!あんたの声なんか聞きたくないの!」
高橋の声と同時に、紺野の横を何かがヒュッと音をたててかすめた。
そして、それは高橋のハートに突き刺さった。
『ああ・・・!』
紺野は愕然とした。よく見ると、ハートには無数の針のようなものが突き刺さっている。
紺野はしばらく唖然とした後、つかつかとハートに歩み寄った。
『愛ちゃん・・・痛そう。今抜いてあげるから』
そう言って、紺野は針の一つに触れようとした。
「何言ってんの!勝手にあたしのこころに入らないで!嫌い!あさ美なんて大嫌い!」
その声と同時に、再び高橋のハートに針が数本突き刺さった。
『愛ちゃん・・・』
高橋の言葉に、紺野は唇をかみしめ、針を触ろうとした体勢のまま固まった。
しかし、紺野は無言で針を掴み、
『嫌いでもいいから・・・この針だけは抜かせて』
そう言って、紺野は針を強く握った。

気がついたら、紺野は森の中にいた。
隣りには辻、目の前にはつんくがいる。
と、よく見ると、つんくの手に何かが握られている。
あっ・・・
紺野は思わず息を飲んだ。それは、小さな紺野だった。
『・・・多分、これは紺野の負の感情だと思う』
つんくが「紺野」を見ながら話している。
『紺野、高橋に嫉妬してるんちゃうかな』
つんくが紺野に向かって話しかけた。
99紺野の愛+α:02/02/25 23:35 ID:SlTBRP+Y
「たかはしぃ!どこなの!出てきなさい!」
段々と声が近づいてくる。
あさ美のせいだ・・・!
高橋はドアに寄りかかりながら爪を噛んだ。
あさ美が声をかけなかったら・・・!
あさ美が私の心に入ってこなかったら・・・!
バカ!バカ!バカ!あさ美なんて嫌いだ!
100紺野の愛+α:02/02/25 23:37 ID:SlTBRP+Y
『・・・・・・』
気がついたら、紺野は心の中枢部にいた。
手の中にあった針は、跡形もなく消えている。
『愛ちゃん・・・』
紺野は自分の手を見ながら、誰に言うでもなく呟いた。
紺野は、そのまま動かなかった。
紺野は、高橋が怒った原因を知った。
針に触れた瞬間、針が映像を見せてくれた。
この針は、高橋の心の傷そのものだったのだ。
紺野は、次の針を抜くのをためらった。
これ全てが紺野への怒りの現れだと思うと、怖くて触れなかった。
また、この針が高橋の紺野への怒りだとしたら、それは偽善になるのではないか。
高橋を助けるという口実で、自分への怒りを抜いているのでは。
それが、紺野が針を抜く気持ちをためらわせた。
しばらくの沈黙が流れた。
と、紺野は意を決したかのように、針に手を伸ばした。
偽善でもいい。許してくれなんて言わない。私が悪いのは事実だから。
それに、この痛々しい愛ちゃんの心を見ていられない。
紺野は針を強く握り、ギュッと目をつむった。
101紺野の愛+α:02/02/25 23:37 ID:SlTBRP+Y
『あさ美なんて嫌い!二度と話しかけないでよね!』
紺野は叫んだ。いや、高橋の声が響いた。
しばらくの沈黙の後、空から紺野の鳴き声が聞こえてきた。
(なにさ!元はと言えば、あさ美が全部悪いんだからね!)
紺野の頭に高橋の思念が響く。
その時の高橋の心の中は・・・怒り。それと、
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんね)
呟くような高橋の謝罪の言葉。
102紺野の愛+α:02/02/25 23:38 ID:SlTBRP+Y
『愛ちゃん・・・』
紺野の声が聞こえ、高橋はハッと顔を上げた。
「あさ美!?あさ美なの!?」
高橋は思わず声をあげる。しかし、
「な・・・なんで話しかけるの!?話しかけないでって言ったでしょ!?」
『愛ちゃん・・・私のこと、嫌いでもいいから、聞いてほしいの』
高橋の声を無視するかのように、紺野が続ける。
『愛ちゃんって、歌もうまいし、可愛いし、ダンスも上手だし、本当に凄いよね
それに、明るいし、人気もあるし・・・』
「ふざけないで!あさ美の気持ちはわかってるんだから!」
高橋の声に、紺野が沈黙する。しかし、
『・・・うん、わかってる。私、そんな何でもできる愛ちゃんに嫉妬してた』
紺野が呟く。そして、再び沈黙・・・。
『・・・私、劣等性として娘。に入ったでしょ?
それだけじゃなく、歌も歌えないし、ダンスも踊れないし、上手に喋れない。
だから、愛ちゃんが羨ましくて・・・・・・イヤだった』
「たかはしぃ!ここにいるの!?」
トイレの中に、安倍たちが入ってきた。
しかし、高橋の心は紺野だけに向けられている。
『・・・でもね、それ以上に、愛ちゃんと会えてよかったと思ってる。
愛ちゃんと同期で・・・ううん、友達になれて、本当によかったと思ってる』
「・・・・・・・・・」
『愛ちゃんが私のこと嫌いでも、私は愛ちゃんのことが好きだから。
・・・あと、愛ちゃん・・・』
と、紺野の声が震えだした。
『・・・・・・刺しちゃって・・・ゴメンね・・・・・・ゴメ・・・・・・』
最後の方は、言葉にならなかった。
高橋は、上を見上げながら紺野の言葉を聞いていた。
「・・・あさ美・・・・・・あさ美って本当にお人良しだね・・・・・・」
そう言って、高橋はフフっと笑った。と、
「ごめんね・・・・・・ごめんね、あさ美ぃ・・・・・・」
高橋は胸をおさえて泣きだした。
紺野は高橋のハートにしがみついて泣いていた。
『・・・また、友達になってくれる?』
「何言ってんのよ・・・バカ・・・」
いつの間にか、針は全て消えていた。
103タオルケット:02/02/25 23:40 ID:SlTBRP+Y
>>89-102
以上で、更新終了です。
次回、多分最終回になると思います。
ワタモニがどうなるかは・・・まあ、私の気分次第ということで(w
104ねぇ、名乗って :02/02/25 23:42 ID:nKkfb8n0
乙カレーです。
高橋はアスカ(もちEVAの)状態なんですね・・・
105タオルケット:02/02/26 00:00 ID:UfPnqrOG
>>104
う〜ん・・・これ(高橋ブチギレ)と辻が目立たないのには賛否両論あるだろうけど、
自分としては今回、一部を抜かして思う通りにできたから満足っす。
あと、エバはよく知らないっす・・・スマソ
106ねぇ、名乗って :02/02/26 00:06 ID:yzPMzxm1
>105
いやいやアスカも極度の人間不信なんですよ。
107タオルケット:02/02/26 00:37 ID:sfubg66K
>>106
あ、そうなんですか。
別に意識したわけじゃないっす(w

あと、ミスを二箇所発見しました。
>>94>>102です。
「萎える」とか言われそうですが、
この二つだけ再更新します。スイマセン。。。
108>>94(再更新):02/02/26 00:39 ID:sfubg66K
「でね〜、カオリが絵を見せたの。そしたらねぇ〜」
「でも、カオリの絵って変だもんね〜」
「言えてる!キャハハハハ!」
本番中、高橋の意識はなかった。
意識はあるのだが、気持ちをどこかに置いてきたような感じだ。
何も考えることができない。
「・・・高橋はどう思う?」
急に聞こえた声に、高橋の意識は急速に自分の体に戻った。
「は!はい!」
思わず叫んでしまう。メンバーの間に沈黙が流れる。と、
「キャハハハハ!!どうしたの、高橋!?」
「さっきからこうだよね。ずーっとボーっとしてさ」
「うん、今日の高橋、紺野みたいだよね」
「ホントだ〜!紺野みたいだよ」
メンバーの間に爆笑が起こる。高橋は下を見て、叫びたいのをグッと耐えていた。が、
ポン
「あ、ごめん」
小川が振りかえった拍子に、肘が高橋の肩に当たった。
高橋は、キッと小川を睨みつけた。
「愛?どうし・・・」
パアァァァン!!
スタジオ内に、乾いた音が響いた。
小川が驚いた表情で高橋をみている。高橋が小川を平手打ちしたのだ。
小川は、何が起こったのかわからないといった顔をしている。
が、自らの赤くなった頬をさすると、小川の目に涙が浮かび、両手で顔を隠し、号泣しだした。
「ちょ・・・ちょっと高橋!何するの!」
あっけに取られていたメンバーの中で、一番最初に正気を取り戻したのは保田だった。
「あ・・・あんた、自分が何をやったかわかtってんの!?」
保田が立ちあがり、高橋を批難しだした。
保田の声に、他のメンバーも正気に戻り、口々に高橋を批難する。
高橋はチラッと小川を見た。号泣している小川を抱き寄せ、新垣が怯えた目で高橋を見ている。
109>>102(再更新):02/02/26 00:50 ID:sfubg66K
『愛ちゃん・・・』
紺野の声が聞こえ、高橋はハッと顔を上げた。
「あさ美!?あさ美なの!?」
高橋は思わず声をあげる。しかし、
「な・・・なんで話しかけるの!?話しかけないでって言ったでしょ!?」
『愛ちゃん・・・私のこと、嫌いでもいいから、聞いてほしいの』
高橋の声を無視するかのように、紺野が続ける。
『愛ちゃんって、歌もうまいし、可愛いし、ダンスも上手だし、本当に凄いよね
それに、明るいし、人気もあるし・・・』
「ふざけないで!あさ美の気持ちはわかってるんだから!」
高橋の声に、紺野が沈黙する。しかし、
『・・・うん、わかってる。私、そんな何でもできる愛ちゃんに嫉妬してた』
紺野が呟く。そして、再び沈黙・・・。
『・・・私、劣等性として娘。に入ったでしょ?
それだけじゃなく、歌も歌えないし、ダンスも踊れないし、上手に喋れない。
だから、愛ちゃんが羨ましくて・・・・・・イヤだった』
「たかはしぃ!ここにいるの!?」
トイレの中に、安倍たちが入ってきた。
しかし、高橋の心は紺野だけに向けられている。
『・・・でもね、それ以上に、愛ちゃんと会えてよかったと思ってるの。
愛ちゃんと同期で・・・ううん、友達になれて、本当によかったと思ってる』
「・・・・・・・・・」
『愛ちゃんが私のこと嫌いでも、私は愛ちゃんのことが好きだから。
私が言いたいのはそれだけ。・・・あと、愛ちゃん・・・』
と、紺野の声が震えだした。
『・・・・・・刺しちゃって・・・ゴメンね・・・・・・ゴメ・・・・・・』
最後の方は、言葉にならなかった。
高橋は、上を見上げながら紺野の言葉を聞いていた。
「・・・あさ美・・・・・・あさ美って本当にお人良しだね・・・・・・」
そう言って、高橋はフフっと笑った。と、
「ごめんね・・・・・・ごめんね、あさ美ぃ・・・・・・」
高橋は胸をおさえて泣きだした。
紺野は高橋のハートにしがみついて泣いていた。
高橋の中に、紺野の温もりが流れてくるのを感じた。
嫉妬の感情。大切に思う気持ち。三日間の苦悩。
『・・・また、友達になってくれる?』
「何言ってんのよ・・・バカ・・・」
いつの間にか、針は全て消えていた。