ところで・・・

このエントリーをはてなブックマークに追加
72紺野の愛+α
収録が一段落つき、現場は和やかな雰囲気に包まれている。
近くでは、メンバー達が集まって雑談をし、向こうではスタッフが集まり、
次の打ち合わせについて話しているようだ。
「あいぼ〜ん」
辻は、加護を探していた。
「あいぼ〜ん」
呼んでも返事はない。探しても姿は見あたらない。
「・・・でね、昨日ゴッチンったらすっごいの!サウナでね・・・」
「ねえねえ、おばちゃ〜ん」
辻は、雑談をしている保田に声をかけた。
「ちょっと〜。私はまだおばちゃんじゃないのよ〜」
厳しい目つきで、しかしどこか嬉しそうに保田は言う。しかし、そんな保田の様子も見えないのか、辻は、
「・・・あいぼんは?」
と、不安そうに聞いた。
どこか様子が辻の様子が変なのに気づいた保田は、真顔に戻り、
「う〜ん・・・知らないわね。誰か見た?」
「え〜。カオリも知らないなぁ〜」と、飯田。
「どこに言ったか知らないの?」母親のように辻に話しかける安倍。辻はコクンと頷いた。
「・・・んあ、そういえば、さっき小川とスタジオの外に出たと思うよ」と、後藤。
「え?マコっちゃんと・・・?」
不安そうな顔を浮かべる辻。その様子に気づいた吉澤が辻に顔を近づける。
「なんだ〜?加護と喧嘩でもしたのか〜?」
「え?・・・喧嘩なんてしてないよ。ただね、ただ・・・」
「ただ?」
何も言わず、服を掴みながらモジモジといじる辻。
「・・・あいぼん、今日は一回も話しかけてくれないの・・・」
そうなのだ。今日、仕事に来てから、辻と加護は一回も話をしていない。
辻から話し掛けようとはするのだが、辻が近づくと、加護は辻を避けるように離れていくのだ。
それに、いつもなら収録が終わったら、必ず話しかけてきてくれるはずだ。
「ふ〜ん・・・・・・あ、のの、加護が帰ってきたぞ」
吉澤の言葉に振りかえる辻。その先には確かに加護がいた。しかし小川と一緒に。
「あいぼ〜ん!」
トテトテと駆け出す辻。辻の声に、加護はハッとそっちを見る。
加護の表情が固まった。
「はあはあ・・・ねえ、あいぼん、どこ行ってたの?」
「・・・それでなマコっちゃん、さっきの話の続きやけど・・・」
加護は辻を無視し、小川と話を続ける。
「? ・・・ねえ、マコっちゃん、どこに」
「あ〜!そういえばなマコっちゃん!近くのお好み焼き屋、メッチャうまいんやで!」
小川は「そうなんだ〜」と返事をするものの、視線は辻を見ている。
なんで?あいぼん、なんでののを無視するの?
辻は唇をギュッとかみしめる。加護の顔にわずかに動揺の色が走った。
「ちょっと小川〜。こっち来て〜」
向こうの安倍に呼ばれ、小川は加護に軽く手を上げて(辻をチラッと見て)、
安倍たちのところへ向かった。
加護は再びスタジオの外に出ようとした。いや、辻から逃げようとした。
「あ、あいぼん」
それに気がついた辻は、慌てて後を追いかけた。
その後ろでは・・・。
「・・・そっか・・・。高橋、電話が繋がらないんだ・・・」
「はい・・・。何回も電話するんですけど」
「どうしたのかな、高橋・・・」
73紺野の愛+α:02/02/23 18:39 ID:9Nq/Jd42
「あいぼん」
辻の声に気づいた加護が振り向く。その目はどこか怒っている。
「なんや」
「・・・・・・」
加護の目に威圧されたのか、辻は何も話すことができない。
「・・・用がないなら行くで」
再び振りかえり、加護が行こうとした。
「あ、待って」
再び辻が呼びとめる。
「だからなんやて」
「・・・あのね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
辻は言い出せない。加護は再び去ろうとした。
辻は思わず加護の手を掴んだ。
「なんやねん!しつこいなぁ!」
加護が声を荒らげる。その声に、思わず辻はビクッとした。しかし、
「・・・なんで、のののこと無視するの?」
辻は震える声で言った。二人の間に沈黙が流れた。と、
「・・・のの。・・・なんで約束破ったんや?」
沈黙を破ったのは加護だった。
「え?」
「・・・おととい、一緒にご飯食べに行く言うたやん」
加護は少し低めに言った。
「あれからウチ、ずっと待ってたんやで?
オバチャン達の仕事終わるまで、ずっと楽屋で待ってたんやで?
なのに何で?携帯にも出んし、かといってそっちから電話するわけでもないし・・・」
加護は少しうつむいて話している。
あれから、辻も色々なことが起こり、加護との約束を忘れていた。
昨日、加護に謝るよう紺野に頼んだはずだった。
しかし紺野は、例の件のショックで、謝るのを忘れていたのだ。
そんなに待ってたんだ・・・。
加護が怒るのも無理はない。辻は思った。
「なあ、せめて来れなかった理由だけでも聞かせてくれへん?それだけでええから。
それで全部、そのことは水に流すわ」
加護はまっすぐに辻の目を見ている。
辻は辺りをキョロキョロと見渡し、こくんと頷いた。
「・・・あのね、のの、つんくさんの変な機械でね、つんくさんとあさ美ちゃんの頭の中にいたの。
それでね、今日はね、ののの番なの。愛ちゃんとあさ美ちゃんもね、ののの中にいるの」
辻は舌足らずながらも一生懸命に説明をした。嘘は言っていない。
74紺野の愛+α:02/02/23 18:41 ID:9Nq/Jd42
しかし、加護は何を言っているのかわからないといった顔で、辻を見ている。
――― 沈黙
「・・・のの、ふざけとるんか?」
加護が少し怒ったような口調で言う。辻の体に電流が走った。
「うそじゃないもん!ほんとだもん!」
「そんな話、誰が信じれるか!それに、言ってることもようわからんわ!」
「らって本当らもん!つんくさんがお塩出したり、つんくさんのちんちん小さいことも知ってるもん!」
辻の話に、加護はちょっと顔を赤らめたが、
「ア・・・アホかい!そんなん適当な話や!そんな漫画みたいな話、信じれる方がおかしいわ!」
辻はボロボロと涙を流しながら、
「らってほんとうなんらも〜〜〜ん!!」
と言って号泣しだした。
「あああ、なんで泣くねん!」
「うわああああああああああああああああああああ!!」
「せやけどな、そんな話、信じる方が」
「ほんとうなんらも〜〜ん!!うわああああああああああああああああああ!!」
辻は泣き止まない。加護は「あーもうっ!」と叫び、
「わーったわーった!信じる!ののが正しい!だから泣き止めや!」
そう言って加護は、辻の頭を撫でだした。しばらく撫でてると、辻の号泣は止まり、ヒックヒックしゃっくりをあげだした。
「・・・ヒック・・・・・・ほ・・・ほんと?」
辻の声に、加護はホッと息を吐いた。
「ああ、ホンマや、信じる」
考えてみればそうだ。辻は嘘のつけるような人間ではない。いや、嘘を言えないのだ。
加護は辻の話など信じていなかったが、きっと寝ぼけて夢でも見てたんやろ。
そう勝手に解釈することにした。
しばらく頭を撫でていると、辻がエヘヘ。と言って泣き止んだ。
「よかった、あいぼんと仲直りできて」
辻の笑顔に、加護はようやく肩の力を抜いた。
「・・・よっしゃ!そんじゃ行けなかった分、明日食べに行こか?」
辻は「うん!」と言いかけたが、慌てて止めた。
明日は愛ちゃんだから、食べに行けないよ・・・。
うつむく辻を「どした?」と加護は見た。
「明日はあかんのか?」
「・・・うん、愛ちゃんの日らもん・・・」
辻の言葉に、思わず、ハア?となる加護。しかし頭をプルプルと振って、
「・・・そっか。そんなら今日行こか?」
加護の言葉に、辻は顔をあげて「うん!」と頷いた。
加護は「やれやれ」と言いたそうに手を腰に当て、苦笑いをした。
75紺野の愛+α:02/02/23 18:42 ID:9Nq/Jd42
「さっきまで喧嘩してると思ったら、今度はベッタリか〜?熱いね〜お二人さん」
楽しそうに加護に話しかける辻を見て、ひやかすように吉澤が言った。
「らってのの、あいぼん大好きなんらもん!」
そう言って、辻は加護にキスをした。
「うおっほぉ〜〜う♪」
吉澤が意味不明な叫びをあげた。安倍たちも何かニヤニヤと笑っている。
加護は吉澤と目が合い、「ま、しゃーないわ」そう言いたそうに苦笑いをした。

『・・・紺野、帰って来ぃひんな』
頬杖をつきながら、つんくが呟やき、高橋の方に目をやる。
高橋は布団を頭から被っている。
高橋も、あれから布団に入ったまま、全く動こうとはしない。
つんくはため息をつて、窓の外を見た。
紺野が出ていってから、もう五時間は経とうとしている。
最初は、随分長い散歩だな。と思ってただけだったが、ここまで長いと普通じゃない。
いくら頭脳世界で、死の心配はないとはいえ、ここまで遅いと何かあったのかと考えざるを得なかった。
『・・・辻ぃ〜。おい辻ぃ〜』
つんくが辻に声をかける。辻に紺野を探してもらおうと考えていた。
しかし、辻は全く反応をしない。つんくはまた、ため息をついた。
『何やってんねん、辻・・・』
かれこれ何度も辻に話しかけてはいるが、辻は全く返事をしない。
何故なら、辻は食べるのに夢中で、つんくの声など耳に入っていなかったからだ。
一時間・・・・・・二時間・・・・・・
家の中に、重苦しい空気だけが流れる。紺野はまだ帰ってこない。
やがて、待ちくたびれたつんくは、座ったままの状態で眠り始めた。
しかし、高橋は眠れなかった。布団の中で、ドアの前の気配だけに気持ちを集中して。
さらに、一時間・・・・・・二時間と時が流れた。
結局この日、紺野は帰ってこなかった。

――― 三日目 終了