ところで・・・

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24紺野の愛+α
――― 一日目 つんく
「・・・てなわけでして、今日から四日間はこちらで責任を持ってお預かりします・・・・・・はい、はい、では」
ガチャッ
「ふぅ・・・知らないオバちゃんと話すのは疲れるわ・・・」
電話を切り、つんくはため息をついて壁にもたれかかった。
「・・・お前ら、とりあえず電話しといたからな」
つんくは独り言を言った。いや、頭の中にいる三人に話しかけた。
つんくは機転をきかせ、とりあえず今日から四日間は仕事の都合でスタジオに寝止まりする。ということにして三人の家に電話を入れたのだった。
しかし、ミーハ―オバちゃん達の「つんくさんでしょ?」攻撃に遭い、三人の家にかけ終えるまでに一時間を費やした。
『当然ですよ。まさか私の家に、つんくさんが帰るわけにも行かないし、実はこうなんです!って本当のこと説明したとこで、誰も信じるわけないし・・・』
高橋がつんく(と言っても空だが)に向かって言う。その顔はもうどこか諦め気味だ。
「せかった。じゃ済みませんよ。ほんとにもう・・・』
高橋がハァ〜っとため息をつく。
『お腹すいたぁ』
今度は辻だ。お腹をグーっと鳴らし、その場にしゃがみこんだ。
『ねえねえつんくさん、ご飯は出ないんれすか?』
「知らんわ!」
イライラしていたつんくはスタジオ内にいることも忘れ、思わず怒鳴った。たまたま通りかかった人達が皆、立ち止まって、つんくを見ている。
『・・・今日はあいぼんと約束があったのに・・・。大事な大事な約束があったのに・・・。あいぼん、きっと怒ってるのれす。ののが来なかったから怒っているのれす。つんくさんの・・・つんくさんのせいで・・・・・・うっく』
周りから刺すような視線を浴び、中からは辻の鳴きだしそうな声、高橋の非難するような目、紺野の含み笑いを浴び、つんくは思わずその場に座り込んだ。
「・やから悪かった言うとるやろ」
『悪・・スマン。ホンマ悪かった」
『うっく・・・・・・じゃあ、何かお菓子食べたいのれす・・・』
「そんなん・・・俺にどないせぇっちゅーねん」
『えっく・・・・・・やっぱりつんくしゃんは、のののことはどうでもいいのれすね・・・・・・・・・う・・・うわぁ〜〜〜〜〜〜ん!!』
けたたましい泣き声が頭の中に響き、つんくは思わず耳を塞いだ。
しかし頭の中から響くその声は、耳を塞いでも聞こえなくなるはずはなかった。
『うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!』
ますます辻は声をあげて泣きだす。高橋がオロオロし、つんくは「もう勘弁してくれぇ!」と言いながら、床を転げ回る。
『うわぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!』
25紺野の愛+α:02/02/18 10:32 ID:SUx0IqKx
つんくの気が狂いそうになったその時、紺野が一歩前に進み出た。
『・・・あの、つんくさん。恐らく、この体の主であるつんくさんが強く念じれば、きっと考えたものが出てくるはずですよ』
あたかも紺野は、この世界の住人であるかのように説明をした。高橋が驚愕したような顔をして、紺野を見た。
『あ・・・あさ美!なんでそんなこと知ってるの?』
『うわぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!』
紺野は高橋に向き直り、
『さっき塩人間が出てきたでしょう?その時、つんくさんは押尾さんを想像していた。だからきっと、同様にケーキを念じればケーキが出てくるはず』
『うわぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!』
紺野はそう言うと、再び空を見上げた。
『いいですか、半端なことを考えたらダメです。そうすると、さっきみたいに半端なモノが出てきてしまいます。強く、強く、ケーキのことだけを考えてください』
関西人の血からか、つんくはツッコミたい気持ちを押さえ、強く念じ始めた。
砂糖がたっぷり入った・・・イチゴ・・・クリーム・・・スポンジ・・・
『うわぁぁ〜〜〜〜〜!・・・・・・・・・・・・』
突然、辻が泣き止んだ。と、トコトコと前に進んだかと思うと、辻の目の前に、空から辻の三倍の大きさはあろうかという、イチゴショートが降ってきた。
『ケーキれす!!』
辻はそう叫ぶと、ケーキにむしゃぼりついてガツガツと食べ始めた。
「ふ〜っ。どや、お前ら?上手くいったか?」
頭上からつんくの声が響いた。
『はい、上手くいったみたいです。辻ちゃんもおいしそうに食べてます・・・けど』
「けど?なんや?」
『・・・辻ちゃんの食欲が・・・』
二人が話している間にも辻はケーキを食べ続け、あっという間に上の半分を平らげてしまっていた。
『がつがつがつがつ・・・・・・ふ〜・・・幸せれす♪』
「・・・」
がつがつがつ・・・
『・・・・・・』
がつがつがつがつがつがつがつがつ・・・・・・・・・
『・・・・・・・・・』
がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつ・・・・・・・・・・・・
『・・・はふぅ・・・ごちそうさまれした!』
ケーキを食べ始めてわずか数分。辻は一人で巨大ケーキを全部食べきってしまった。
高橋は言葉もなく、辻を唖然と見ていた。
『けぷっ。あれ、愛ちゃんどうしたんれすか?変な顔して』
辻はこの上ないくらいの満面の笑みを浮かべながらお腹をさすった。
26紺野の愛+α:02/02/18 10:34 ID:SUx0IqKx
『・・・いい食べっぷりで・・・』
言葉の出ない高橋に変わり、紺野が辻に声をかける。それを聞いて高橋はハッと正気に戻った。
『いい食べっぷりで・・・じゃないよ!どうするの?また太るよ?また飯田さんに怒られちゃうよ?』
『!!・・・いいらさん・・・』
高橋の言葉に辻はハッとなりうつむく。と、紺野は誰に言うでもなく、
『・・・ここの世界の住人は皆、つんくさんの精神が生み出しているもの。そして、主であるつんくさんの言うことは絶対で、例えばつんくさんが、死ね!と命令したら、ここの住人は本当に死ぬことになります』
『じゃ・・・じゃあ・・・』
そこまで話すと、高橋が紺野の言葉を遮った。高橋の顔は青ざめている。
『じゃあ、つんくさんが私達に、死ね!って言ったら死ななきゃいけないの!?』
思わず語尾が強くなる高橋。しかし、紺野は真っ直ぐ高橋の目を見つめ、深く・・・深呼吸をして、
『いえ、私達はつんくさんの世界にいるとは言っても、正式な住人ではありません。言わば、居候、客のようなものです。ですから、つんくさんがどんなに念じても、客である私達には、服が変わるなどの外的要因以外に直接的な影響を及ぼすことはありません』
『あさ美ちゃん、すっごーい!博士みたい!』
そう言って手を叩く辻。その目は尊敬に満ちている。
高橋は、ホッと胸を撫で下ろしながらも紺野に、「なんでそんなこと知ってるの?」と言いたげな視線を向けた。紺野は高橋の顔を見つめ、ニヤリと笑った。
と、突然、紺野が真面目な顔に戻ったか。
『つまり、深く影響が及ばないということは、さっきの巨大ケーキがありますね?あれをいくら食べても満腹感は得られない。ということなのです』
『・・・じゃあ、ケーキをいくら食べても、ポッキーを何本食べても、いいらさんに怒られないの?』
辻が紺野を見つめる。紺野は二ヤッと笑い、『まあ、そういうことですね』と答えた。
高橋は、はしゃぐ辻を横目で見ながら、『また騙されてるよ』と心の中で呟いた。満腹感が得られない。つまり、辻は実際は気持ちの上で満腹しているだけなのだ。
紺野はそんな辻を見ながら、どこか楽しんでいるように、ニヤニヤ笑っている。
もう・・・。高橋は小さくため息をついた。
「・・・なあ、ちょっと」
突然、つんくの声が響き、三人は空にある窓を見上げた。
「今から社長と話しあるからな、少しだけ静かにしたってや」
そう言い終わると、つんくは社長室のドアをノックし、「失礼します」と、ドアを開けた。
『・・・あれ?』
気がつくと天候が崩れ、空は一面真っ黒な雨雲に包まれていた。
そして、ポツポツと雫が落ちたかと思うと、一瞬でどしゃぶりになった。
27紺野の愛+α:02/02/18 10:35 ID:SUx0IqKx
『きゃっ!雨!?』
『冷たい!』
思わず、高橋と辻は頭を押さえた。周りにいた女性の集団も消えている。
『この世界の雨は私達には影響がありませんよ。気持ちの問題です』
紺野は冷静に言った。確かに雨には当たるものの、冷たさや濡れた感じは感じられない。しかし雨に当たるのは気分のいいものではない。
『愛ちゃん、あさ美ちゃん!あっちに家があるよ!』
辻は向こうにある海の家を指差した。高橋と辻は走って(紺野は歩いて)海の家に向かった。
海の家の中には誰もいなかったが、そこで三人は雨宿りをすることにした。
テーブルに座り、なんで突然雨が?そう言いたげな高橋の気持ちを察したかのように紺野が、『感情の乱れが原因だと思われます』と言った。
『恐らくつんくさんは、社長さんとの話が、娘。にとってマイナスになることを予感しているのではないでしょうか?』
『・・・あさ美、どうでもいいけど、その敬語はやめて』
高橋にとって、紺野が何でそんなことを知っているのかなんて、もうどうでもよくなっていた。
「何ですって!?」
雨雲からつんくの声が響いた。突然のつんくの怒鳴り声に、思わず三人は耳を立てた。
「・・・つまりね、モー娘。はもう限界じゃないかって言ってるんだよ」
社長から浴びせられた非常な言葉に、つんくは愕然とした。
「最近はCDセールスも落ちてるし、視聴率もパッとしないじゃないか。それに巷では、五期メンバー加入が失敗だって声が多いんだよ」
その言葉を聞いて、辻は思わず二人を見た。
高橋は真っ直ぐ空を見つめてはいるものの、唇をかみ締め、手をグッと握り締めている。
紺野は、さっきまでの冷静な紺野はどこへやら、顔を下に向けてうなだれている。よく見ると、つんく同様に顔面蒼白だ。
五期メンバーには高橋、小川、新垣、そして紺野が選ばれた。しかし紺野は、他の三人と違い、補欠で特別に選ばれたのだった。
だが紺野は補欠で入ったことをバネにし、それに甘えることなく努力を重ねてきた。TVで紺野の露出も増えてきて、周囲の紺野の評価も上がっているように思えた。
しかし、紺野は自分が補欠で入ったことに負い目を感じていた。もしモー娘。に何かがあった場合、それはきっと自分のせいだ。そう思っていたし、周りからもそう言われると思っていたのだった。
つんくは立ったまま動かない。つんくも娘。に何かあったら自分の責任だと感じていた。最近はアイディアが浮かんでこないのも事実だ。
これが・・・これがモーニングの限界なんか・・・?
そう思うと、つんくは思わずうなだれ、呆然とした。
『雨・・・やまないね』
そんな辻の声も、高橋と紺野の耳には入らなかった。三人のいるビーチは、ますます雨がひどくなってきた。
28紺野の愛+α:02/02/18 10:38 ID:SUx0IqKx
「・・・まあ、まだ売れる方法がないわけでもないがね」
しばらくの沈黙の後、社長がポツリと話した。
「え?ホ・・・ホンマですか!?」
つんくは思わず身を乗り出した。
その声に、高橋と紺野も顔を上げる。雨も止み、わずかに空から青空が顔を覗かせた。
「現在、新メンバーで人気があるのは誰だい?」
「え?えーと・・・。ファンレターの数やアンケートの結果だけやったら、一番人気あるのは高橋ですね。あと、紺野も結構人気あります」
「そうか。それじゃあ五期メンバーは、あその二人以外クビにしろ」
「えっ!?」
「人気ないのを入れててもしょうがないだろ?丁度いいことに、新垣にはコネ疑惑があるじゃないか。真偽はともかく、それだけでも充分な脱退理由になると思わないか?
もう一人・・・小川・・・だったかな?そいつは、『給料が少ない』とか、ワガママ言ったとかの噂を週刊誌とかに流したら、それこそいい脱退理由になるだろ?」
『な・・・何言ってるの!?』
思わず高橋はテーブルから立ちあがった。天候はさらに崩れ、遠くで雷がゴロゴロと鳴っている。
「あとは、その、高橋と紺野・・・だっけか?その二人をワシに回してくれんか?そうしたら、モー娘。をもっとPRしてやってもいいぞ」
社長はそう言って、嫌らしい笑みを浮かべた。
その笑みを見た辻は、ギュッと高橋のスカートの裾を掴んだ。高橋は紺野を見た。紺野も高橋を見た。二人とも、顔面蒼白だった。
社長の言葉はよくわからない。でも、意味は何となくわかった。
芸能界の掟だ・・・。
高橋はとっさにそう思った。芸能界の掟って、やっぱりあったんだ。
何人ものアイドルが、この嫌らしい顔の社長に嫌らしいことをされたのだろう。
売れるためだとは言え、それに耐える屈辱は計り知れないものだろう。
高橋は、嫌らしい笑みを浮かべながら社長の手が自分の体に伸びてくるのを想像した。
いやだ!怖い!
ガタガタと震えだす高橋の体。震えを押さえるために、手で自分のふとももを押さえた。
しかし、震えは収まらない。むしろますます酷くなり、高橋は叫びだしたい気持ちになった。
と、高橋の手が何か暖かいものに包まれ、高橋は正気を取り戻した。
それは紺野の手だった。紺野は高橋の震えを止めようとして、自らも高橋同様に震えている手で押さえたのだった。高橋を見つめる目は悲壮感に満ちていた。
ごめんなさい・・・私が娘。に入ったりなんかしたから・・・。
紺野の目が、そう言っているように見えた。しばらくじっと見つめあい、高橋は紺野の手をギュッと握り返した。
『・・・芸能界の掟を果たすのは、私だけでいいの。あさ美は何も悪くないんだからね。正直言って、あんなおじさんに変なことされるのは嫌だよ。だけどね、あさ美がそんなことされるのはもっと嫌』
そう言って高橋は紺野を抱きしめた。紺野は小さく「愛ちゃん・・・」と呟いたかと思うと、高橋の胸の中で肩を震わせた。
辻もよくわからないような表情を浮かべながらも、無言で二人の背中をさすっている。
どれくらいの時間が過ぎたのだろう。気がつくと雨も止んで、雨雲も消えていた。
固まっていた三人に太陽の光が当たり、三人は思わずその方向を見た。
29紺野の愛+α:02/02/18 10:40 ID:SUx0IqKx
つんくは社長に向かい合ったまま、動こうとはしなかった。
「・・・どうなんだね。やるのか、やらないのか」
さっきより少し強い口調で社長が言う。つんくは目をつぶり、深呼吸をしてから、再び目を社長に向けた。
「・・・お断りします」
「な?」
「小川をそんな作ったような理由で脱退さすつもりなんかないわ。新垣かて、コネだとか何だとかの噂をぶっ壊すだけの魂があると信じとる。それにな」
そこまで言うと、つんくはつかつかと社長に歩み寄り、胸倉をつかんで持ち上げた。そして、驚いて声も出ない社長の目を見据え、
「高橋や紺野を、俺のエゴでお前みたいな奴にやらせる気なんてさらさらないわ!クビにするなら勝手にせえ!」
そう言い放つと、社長を掴んでいた手を離し、社長はどかっと椅子に落ちた。
「他のメンバーにしても同じや。モーニング娘。は俺が守ってく」
つんくは「失礼します」と言って社長に背を向けて部屋を出た。
『つんくさん・・・』
思わず高橋は胸を押さえてつんく(空)を見上げた。
「ん・・・高橋か。聞いてたんか?」
『はい・・・その・・・・・・カッコイイです・・・』
「・・・へへ、照れるやん。まあ、気にすんなや」
と、突然、砂場が盛り上がり、そこからザバーッと、つんくが顔を出した。
「なあ、俺ってカッコイイ?なあ、俺ってカッコイイ?」
三人に向かって自分をアピールするつんく(の映像)。
『ぷ・・・あははははははは!』
突然、頭の中に響いた辻の笑い声に、つんくは思わず「何や!?」と言った。
『・・・頭脳世界では、嘘はつけないということですか』
紺野が説明をする。どうやら調子は元に戻っているようだ。
『でも・・・』今度は高橋だ。
『大丈夫なんですか?社長さんにあんなこと言って・・・』
高橋の声に、つんくは一瞬顔を硬直させたが、すぐにハハハと笑い、
「大丈夫やって!お前らは俺が何とかするから心配すんなや!」
そうは言っているものの、頭脳世界のつんくは頭をおさえて、「うわ〜、どうしよ、どうしよ」とわめいている。
『・・・頭脳世界では嘘は・・・』
『あはははははははははは!』
『・・・これがなかったら本当にカッコイイのに・・・』
三人の言葉に、つんくは「かなわんな・・・」と言いたげな顔をした。
頭をポリポリ掻きながら社長室を離れるつんく。
『つんくさん・・・ありがとう』
つんくは立ち止まった。紺野の声だ。紺野は二人に気づかれないように、思念を飛ばしていた。
ヲタク趣味のある紺野には、この世界に馴染むのが早く、使える能力をすでに把握していたのだった。
つんくはちょっと微笑み、「ありがとうなんてええよ」と紺野に思念を送ってみた。
それが届いたかどうかは知らないが、紺野は空に向かってニコッと微笑んだ。
30読者:02/02/18 11:36 ID:R34cku66
三点リーダーじゃなかったり改行してなんて気にならない
だって面白いから
がんばれ〜がんばれ〜
31紺野の愛+α:02/02/18 12:00 ID:2R3jN53i
仕事を終え、つんくは車で自宅に向かっていた。
『あさ美ちゃんって胸大きいね〜』
『でも、愛ちゃんもスタイルいいし・・・』
『辻ちゃんも可愛いよ〜』
三人の声がつんくの頭に響いた。
『お風呂に入りたい』という辻の要望を叶え(というより、また泣きわめかれたらかなわないので)、露天風呂を出してやったのはいいが、三人がうるさいのだ。
いや、うるさくはない。むしろ、スタジオにいた時までに比べたら全然静かだ。
しかし、三人の声が無償に頭に響く。
『いいな〜。愛ちゃん、ちょっと触っていい?』
『もう〜ダメだったら〜。あっ、いや、もう・・・』
つんくの呼吸がだんだんと荒くなっていく。右手だけてハンドルを握り、左手は何故か股の間に突っ込んでいる。
『あん・・・でもあさ美も胸大きいよね〜。ほらほら、つんつん!』
高橋が紺野の乳首の辺りを人差し指でつついた。紺野は、ぽうっと顔を赤らめてうつむいた。
『あ〜!あさ美ちゃん赤くなってる〜!』
辻が何か凄い発見をしたかのように、紺野を指差した。
つんくは無意識に前屈みになり、今こそ主張をアピールせんとする息子を左手で制止している。
『きゃあああ〜〜〜〜!!』
突然、頭の中に高橋と辻の声が響き、思わずつんくはアクセルを踏んだ。
「ど、どないしたん?」
つんくは三人に声をかけた。
『お・・・温泉の中から手が!!』
高橋が指差した先、そこには温泉の中から何本もの手が出て、全てが何やらクネクネと、奇妙な動きをしている。
『・・・これは多分・・・』
「わあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
説明しようとした紺野の声をかき消すかのように、つんくが大声をあげた。
つんくには、その物体が出てきた理由がわかっていたからだった。
と、つんくは強く念じ、ベッドを三つ取り出した。
「お前らもう寝ろ!」
『えぇ〜〜!?まだ10時れすよ〜!?』
「アホかい!もう12時過ぎてるわ!早う寝ろ!クビにするぞ!」
『・・・権力横暴』
「何とでも言えや!」
『でも、制服で寝るんですか?パジャマがないと寝れないです』
「・・・わーったわーった!パジャマでも何でも出したるわ!」
そう言って再び強く念じる。三人の目の前にドサドサっと何かが落ちてきた。
「ふ〜っ・・・もうええやろ」
それと同時に家に到着し、つんくは椅子の背もたれにもたれかかった。
『あの・・・つんくさん』
高橋だ。疲れきったつんくは、「何!?」とぶっきらぼうに言うと、
『・・・何で、三人祭の衣装なんですか?』
恥ずかしそうにそれを眺める高橋の横で、紺野が『趣味ですね』と言った。
疲れきったつんくには、もう何も言う気力がなかった。
フラフラと家の中に入り、ベッドに倒れ込んだ。
32紺野の愛+α:02/02/18 12:03 ID:2R3jN53i
気持ちええわ〜・・・。
だんだんとつんくの意識が遠くなる・・・・・・・・・・・・。
『お風呂、入らないんですか?』
突然、高橋の声が響いた。
「・・・堪忍してや〜。もう眠いねん」
耳を塞いで(も、聞こえるのだが)力なくつんくが言った。
『不潔なのれす』
『髪を洗わないと、将来、禿げの原因になりますよ』
辻、紺野も見事なコンビネーションを浴びせる。
「・・・わーった!入ればええんやろ!入れば・・・」
つんくは立ちあがり、再びフラフラと歩いてシャワールームへと向かった。
33紺野の愛+α:02/02/18 12:04 ID:2R3jN53i
シャー・・・・・・
思考能力がなくなったつんくは、半分眠った状態で体を洗っていた。
腕、体、背中・・・体を順に洗っていく。
・・・何か静かやな。
おれから三人が一言も話してないのに気づいたのだった。
もう寝たかな?そう思って股間を洗おうとした。その時、
『・・・あ、おしい』『もうちょい』と、声が響いた。
「なんや、お前ら、まだ寝てなかったんかい?」
『・・・ん、だってぇ・・・』
「・・・お前、まさか、俺のアレを見るつもりなんか?」
『・・・・・・・・・』
図星だ。年頃だから、そっちに興味はあるのだろう。しかし、だからと言って見せるわけにもいかない。
「あかんあかん!見せるわけにはいかんわ。そうと知ったからにはなおさらや」
『・・・ちぇ、けちぃ』
辻は頬を膨らませて言った。
全く・・・とんでもない奴らや。
つんくはため息をついた。興味だけで見せていいものでもない。それに、見せるわけにはいかない理由もあった。
『キャ―――――――――!!』
つんくが髪を洗ったその時、三人の悲鳴があがった。
『見た?見た?』
『ちょっと見えた〜!』
『・・・・・・ふ』
そこまで聞いて、つんくはハッとした。髪の後ろを洗っている時に頭を下げてしまい、その際に、自分でも気がつかないうちに「アレ」が視界に入っていたのだ。
慌てて手で「アレ」を隠すが、時すでに遅し。
『・・・結構小さかったね』
『うん、小さい頃に見た、お父さんのよりも怖くなかったよ』
『・・・包茎』
「お・・・お前らなあ・・・」
つんくは何も言い返せずうなだれる。見せたくない理由には、道徳的な問題と、つんく自身の男としてのプライドにあったのだった。
『あ・・・つんくさん、落ち込んでます?あの・・・可愛かったですよ?』
『うん、赤ちゃんみたいで小さくて可愛いれすよ』
『・・・・・・ふふ』
「・・・何もフォローになっとらんわ・・・アホォ・・・」
つんくは泣きながら頭を流し、シャワー室を出て、そのままフラフラとベッドに倒れ込んだ。
『つんくさ〜ん、トランプ出してくれません?』
『のの、ポッキー食べたいのれす』
『・・・サンドバッグ・・・』
つんくは耳を塞ぎ、「羊が一匹・・・羊が二匹・・・」と数え始めた。
『あ〜!ヤギだ!ヤギ〜!』
頭の中では、ヤギの大群が海辺を走っていた。
「もう堪忍して・・・・・・」
その後も、三人は頭の中で騒ぎ、眠りについた。そして午前4時、つんくもようやく眠りについたのだった。その寝顔はまさしく、死体のそれだった。

――― 一日目 終了