>>88つづき
痴漢騒動があった次の日、吉澤ひとみは休日であるにも関わらず、部活動のため
制服でいつものようにいつものホームへの階段を駆け上がっていった
するとそこにはやはりいつものように吉澤と同じ高校
の男子高校生が本を読んで電車を待っていた
話したことはないが名前は知っている
「矢島剛士」学校内でも結構な有名人だ
成績優秀、スポーツ万能、空手部で一年生ながらにして部のエースとされている
それに知り合いの話ではかなりのキレものだと聞く
「(にしてもこいつ嫌味な面してんなぁ、ったく何を偉そうな本なんか読んでやがんだ)」
吉澤はそう思いながら矢島をみていた
おおよそ空手部とは想像もつかないような線の細さだ
そしてその眼光はとても鋭く、目だけで何かを切り裂いてしまいそうなほどだ
そんなことを考えていると矢島が吉澤の存在に気づいたのか吉澤の方をちらりと見た
普通ならそれで終わるはずだが驚いたことにこのあと矢島が吉澤に向かって言葉を発した
「よう、あんた昨日あれからどうなった?」矢島が少しキザな感じで言った
「なんだ?お前」吉澤はその矢島のキザな態度にすこしムカッときていた
「だから、昨日の痴漢さんだよ、あんたの剣幕に小便もらしそうな勢いだったからな」
そう矢島は笑みをまじえながらも嫌みっぽく言った
「なんだと、ケンカ売ってんのか?」吉澤は声のトーンを上げた
「おっと、そんなんじゃねえよ、ただあれからどうなったのかが気になってな」
昨日あれから吉澤は痴漢容疑者と一緒に駅を降りたががその直後
そのサラリーマンが土下座し大声で謝るので吉澤は仕方なくそれで許してやった
実際触られたかどうかは吉澤自身微妙なところだったのだ
「ああ、あれか。泣いて謝ったから、仕方なく許してやったぜ」
「へぇ。なんだあんた意外と優しいんだな」
「何?てめえ、やっぱケンカ売ってるだろっ」
「はは、まあ、そんな怒んなよ、おっ、電車が来た」
そう言ってふたりはいつもの如く電車に乗り込んだ
その日は休日ということでいつもよりは混んではいなかった
そうやって電車に乗ってしばらくするとまた矢島が嫌味ぼく笑みを浮かべながら
「よう、今日は怒鳴らないのか?」
「なんだと?」吉澤はにらみをきかして言った
「はは、おー恐い」相変わらず人を小ばかにする態度だ
「おい、てめぇ、さっきから何なんだ?俺に気でもあんのか?」
「ははは、あんたに?」
しかし実際矢島自身も何故彼女にちょっかいをかけるのかがわからなっかった
昨日の事件で矢島の中で多少なりとも期待していたその外見からくる奇麗で清楚な吉澤のイメージ
を完全に壊した腹いせであるとも言えるし、単にこういうタイプの女が気に食わない
ってのも実際に矢島の中にはあるだろう、しかしだからと言って
そういう女全てに矢島がこういう態度をとるかと言えば、答えはノーである
ホントのところは矢島にもわからなかった
「俺はただあんたに今日は乗客のみなさんに迷惑をかけないでくれよ
って言ってるだけだぜ」相変わらず皮肉っぽい
「何ーー?」吉澤が大声を上げた
「ほらね、そういう風にな」
「くっ」吉澤は乞えに詰まった
「フッ」
そんなこと言い合ってるうちに電車は目的の駅に着いた
降りると吉澤は矢島に向かって
「てめえは二度と俺に声かけんじゃねーー」
と大声で言ってさっさと駅のホームの階段を駆け降りていった
「・・・」
矢島は何も言わずただ憮然とした微笑を浮かべていた