誰か娘。の2ちゃん小説書いて。

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33まちゅり
3日目の夜が過ぎようとする頃、辻はまた道を引き返していた。
お互いの集合地点をつないでいるこの雑木林の道は
辻たちが何度も訪れているせいか、自分の背丈程もある草も左右に分かれ、
新しい道を作り出している。

そもそもこの島は直径500メートル程の大きさであり、運動能力にたけている
吉澤ならたいした時間もかけずに1週する事ができるだろう。
この島に着いて辻が気づいた事実は、見渡す限り海だと言う事。
しかし吉澤だけはもともと度胸のある性格か、はたまた怖いもの知らずなのか
その事実を受け入れても 特に驚きはしなかった。
自分達のやってきた道にボートを進めていれば
吉澤「お気に」の海の家が見えてくるだろうと、そう考えていた。

この世の終わりのような顔であわてふためく3人を、吉澤は
「じゃあ、夜まで待って誰もこなかったら、そん時は明日の朝、
うちらのボートで帰ろう。運転はあたしが責任もつから」

「こんな状況で責任もたれたって
         死んじまったらどーもこーもねぇのれす」
34まちゅり:02/02/11 15:57 ID:ayBFEqw2
4人はそれぞれ島を自由に堪能し、実は自信満々に見えたいた吉澤が
一番期待していた、夜の時間を迎える。

だが助けにくる気配などはいっさい感じられず(ほかの3人はそれとなく
わかっていたが)明朝のボート帰還が決定された。

夏とはいえ、4人は水着の上にTシャツ、または薄手のパーカーをはおっている
だけだったので、火を起こす事にした。
夏風邪対策という事もあったが、なにより明かりがあるというのは
心強い。

島の4分の3を占める雑木林の中で、たき火変わりになる枝を拾い集める。
幸い海の家にて花火を計画していた石川が、パーカーのポケットにマッチを
入れていた。
35まちゅり:02/02/11 16:07 ID:bclMREuo
辻加護が十分過ぎる程の枝を抱え、海辺へ向かう途中、
「うわ!」
「きゃあ!」
「いててて!」

不意に前が見えなくなる程の強風が吹きつけた。
抱えていた枝のほとんどがおもしろい様に飛び去って行き、
4人は困惑しながらも体に張りついた小さな葉やほこりをはたき落とした。
目をこすりながら石川は、ある1つの不安を覚えた。

「・・・・・ボート大丈夫かなぁ・・・・・」

その言葉だけで十分事を理解した吉澤は、とっさに海辺に走り出した。
ボートには当然「イカリ」も何もついていない。
そしてその必要は無いと思っていた。最悪。

吉澤、そして少し遅れてやってきた3人は、息をする事すら忘れ、
今自分達の命を預けていると言っても良いボートが、
たくさんの星と海に囲まれたこの島をゆっくりと離れていく姿を
受け入れまいと必死になっていた。
36まちゅり:02/02/11 16:14 ID:nxt9347o
そして今。
辻が自分たち2人を心配してやってきてくれたにもかかわらず、
自己の責任を強く感じていた吉澤は、ただ涙を見せまいと
辻を軽くあしらった自分に、また涙した。

たき火と、ぐっすり眠りに入っている少女を見すえながら
吉澤はふと、1つの疑問を抱いていた。

自分たちは確かに一度、驚くほどの強風にあおられた。
石川の言葉に一瞬恐怖を覚えたのも事実だし、実際ボートは
「さよなら」していた。
しかし「イカリ」が無かったとはいえ、いかに強風だったとはいえ、
海辺にしっかり打ち上げていたボートが方向を変え、海を渡るだろうか?

おかしい。考えれば考える程、吉澤の中でその疑問は大きくふくらんでいた。
37まちゅり:02/02/11 16:20 ID:bclMREuo
雑木林を抜け、辻はまた、石川のいる集合地点へ戻った。
「まだうつむいてるのかな、梨華ちゃんって結構ネガティブなとこあるから」
林を抜け、辻はうつむいた石川を思いっきり想像した。

しかし「集合地点」と呼ばれるその場所には、消えかけたたき火が
寂しく揺れているだけであった。

「梨華ちゃあ!?梨華ちゃあ!?」

口を半開きで叫ぶ辻は、まるで迷子になったデパートの子供のようだった。
最初はトイレかと思ったが、石川にはありえない。
辻はまた雑木林を戻る事となった。
38まちゅり:02/02/11 16:40 ID:nxt9347o
4人が結ぶこの道は一本道。
辻は一度もそれらしき人物を見ていなかったので、
とても「道」とは呼べない新たな雑木林をかけていった。

イラだつ程の草の量をしりめに、辻はただ石川を探し続ける。
時計があればすでに夜の1時を超えていたその時間に
辻は睡魔と戦う事を忘れなかった。

目も半分閉じかけ、だが、ののみ、負けちゃダメなのれす、と
ただ足を前へ前へと運ばせる。

とその時、辻は少女を見つけた。なぜかその少女は
3日前に拾い集めたあの枝を、また拾い集めている。

「・・・・・・梨華ちゃ・・・・・?」
39まちゅり:02/02/11 16:41 ID:nxt9347o
辻はできる限りの優しい口調で声をかけた。
かけよるとその少女は、土にまみれた無数の枝を自分の胸の前で
両手で握りしめていた。

「なにするのれすか?たき火の枝なら、まだいいれすよ?」
と、もう火が消えかかっていたたき火を思い出しながら辻は言う。
本当なら新しい枝は必要であった。しかしその辻の言葉には
「辻がやるからいいのれす」
という意味が含まれていたのだ。
空腹をおさえてまで頑張る石川の姿に、辻は小さな胸を思いっきりうたれた。

「・・・・・・ボート・・・・・・」
「ボート???」

辻は、それがたき火の為では無いことを知った。
涙が止まらなかった。

「ボートを・・・・作るの。4人で・・・・・・また・・・・・遊びたいから」
40まちゅり:02/02/11 17:13 ID:QTrzxhL0
もってる枝でそれを作るのは、どんな立派な大工さんでも
無理れす、と思いました。
でも梨華ちゃんは、もうそれすら理解する事ができなかったのれすれ。
人は死を前にして、本当の自分になれるのらな、と
つぃは、詩人のような言葉を、頭一杯に思いめぐらせました。

同時に辻は、今まで石川に、いや、加護と吉澤の3人に、
あの「お菓子」の存在を黙秘していた事をあやまりたくなった。
でも何度頭を下げても許してもらえないだろうと、辻は涙で前が見えなくなった。
しかし今はそれどころではない。
生きようとする意志が目の前にあるのだ。
辻はあの「お菓子」へ、一目散にかけていった。

自分でも驚くほど体が軽く感じた辻は、目の前の草と涙を
ぬぐいながら「お菓子」の場所へたどりついた。
7つある。
辻は、4人で分けるより、一人で節約しながら食べれば
もしかしたら生き延びれるのでは、と、自分でも考えられない発想を
してしまったのだ。
41まちゅり:02/02/11 17:14 ID:QTrzxhL0
またこらえきれず涙があふれたが、その赤い果実を
辻の両手に2つもぎとり、石川のもとへと全速力で走った。

吉澤はずっと、あの1日目の夜を思い返していた。
「違う、風じゃない」
石川の言葉でとっさに走り出しても、吉澤は10秒とかからず
あのボートのもとへたどりついていた。
だが、すでにボートは数分前から使用されていたかのように
泳いでは追いつけない程遠く離れていたのだ。
そして、そのボートには何人かの人影が
吉澤の目には見えていたような気がした。

うちらと同じ4人、いや5人か・・・・・・。
さらに言えば、その中であきらかに1回り小さな人影が
こちらをうかがっていたような気さえしていた。
吉澤は誰にもこの事を口にしていなかったが、
今、一つの結論に達した。
42まちゅり:02/02/11 17:15 ID:QTrzxhL0
この島には生存者がいた。吉澤達が島にたどりつく時に
5人。生存者がいたと決定づける答えに達したのは、
島にあったわずかな形跡。まるで生き延びる為に行ったと
思われる行為が、吉澤によっていくつも発見されていた。
そもそも火をおこす事だって、その様な形跡を目にし、
思いついたものだったのだから。

何かしらの理由で、その5人はボート(あるいは船)を
失った。自分達が考えたように強風に飛ばされたのかもしれない。
そしてそこに、吉澤達がやってきた。
4人がこの島を探索し、ボートから完全に離れたところを
見計らい、・・・・・・。

自分たちがもし、その5人の立場だったら
間違いなくそうしただろう。
それは今、この島の孤独感を身をもって感じた為、
皮肉にも心からそう思ってしまったのだ。
43まちゅり:02/02/11 17:17 ID:QTrzxhL0
だが今、これが事実だったとしても、
生きる術が見つかった訳ではない。
吉澤はまた、小さくうつむき、たき火に当たられながら
眠りにつこうとした。
しかしその時、たき火の向こう側から、声が聞こえた。

「よっすぃ〜・・・・・・」

目をこすりながら、ゆっくり体を起こす加護。
「どうした?苦しい?」
小さく首を横に振る。

「・・・・・ののと、梨華ちゃん、・・・・・・・呼んできて」

この島に来てから、なぜか吉澤は他人の言葉を
一言耳にしただけで、その意図がわかるようになっていた。

・・・・・・もううちらは長くない。
だから4人の顔を、もう一度見たい、と。

加護からはたき火のせいもあり、吉澤の姿はよく見えなかった。
応答のない吉澤に、もう一度声をかけようと顔をのぞかせると
吉澤は雑木林へ走った。

辻に見られたくなければ、加護にだって見られたくない。
あふれ出す涙をぬぐいながら、辻たちのもとへ、吉澤は、ただ走るしかなかった。