★「なんで娘。応援してるの?」に対する解答999★
翌日の仕事場には、なっちはいなかった。
ずっと前から分かっていた事だ。
だけどそれが、少し寂しくもあり少しホッともした。
「ごっちん」
「ふぁい?」
ちょうどお菓子を口に入れたばかりの私の返事に
呼んだ超本人の圭ちゃんが笑った。
「あんた、それ間抜けすぎだよ」
「圭ちゃんが呼んだんじゃん」
おかしそうに謝る圭ちゃんに、私は先を促した。
誰も戻ってきていない楽屋で圭ちゃんが言い難そうに切り出した。
「最近、紗耶香と連絡とってる?」
「いちーちゃん?とってないよ?」
私が不思議そうな顔をすると圭ちゃんは納得した様に頷いて、
それならいいと楽屋から出ていった。
いちーちゃんの顔が頭に浮かんだ。
それは意外とひさしぶりの事で、私は寧ろその事の方に驚いた。
前だったら、そんな事はなかったのに。
毎日、彼女に会えない事を嘆いていたのに。
頭の何処かで昨日のなっちの言葉が浮かんだ。
『やっぱり、紗耶香がいなくて寂しい?』
いちーちゃんがいなくて寂しいと、思えない事の方が寂しかった。
ぼんやりとソファに座っていると、あの頃の光景が今でも目に浮かんできた。
今が嫌いな訳じゃない。
昔の方が良かったと憂鬱な気持ちになっている訳でもない。
だけど、否、だからこそ、今も昔の映像がちらついた。
「なっちぃ」
「はい?」
ちょうどドアが開いて入ってきた人が驚いた声を私に聞かせた。
振り向くと、そこにはたった今呼んだばかりの相手が困惑して立っていた。
「よく、分かったね」
なっちは私と目があった途端に笑顔を見せた。
「呼んだだけだったんだけどね」
彼女が笑うから、私も笑った。
なっちは荷物を置いて、ハンガーに吊るされてあった洋服を手にとった。
「見ないでね」
「なんで?いいじゃん。女同士なんだし」
「いいから。見ないでってば」
恥ずかしそうに手で目を覆わせたなっちはがさごそ音をたてた。
昨日までは普通に着替えてたのに、と私が目を覆いながら言うと、
なっちは拗ねたような口ぶりで言い返して来た。
「だって、昨日までごっちんは私の事好きなんて言わなかったじゃないさ」
「ねぇ、もう見てもいい?」
「もちょっと駄目」
なっちの声が少し甘えてる様に聞こえた。
初期のメンバーに対してならまだしも、私には出した事のない声だった。
「ねぇ、もういい?」
「んー。駄目」
目の前で聞こえた声に、思わず両手を下げると
そこにはちょっと怒った顔をしたなっちがいた。
「駄目って言ったのに」
「もう終ってるんじゃん」
私が笑うと、なっちもしかつめらしい顔を止めた。
なっちが私の隣に座って、ファッション誌を開いた。
「なっちぃ」
寄り掛かると、なっちは首をかしげて私の頭の上に頭を乗せた。
さらさらした髪の毛がくすぐったかった。
この空気が続けばいいと思ってた。
だけど、人生というのはそうそう上手くいっていくばかりじゃないらしい。