★「なんで娘。応援してるの?」に対する解答999★

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26オレンジジュース

なっちの家はそれなりに整とんされていた。
途中でコンビニに寄って買ったジュースは
コップに注がれて残りは冷蔵庫にしまわれた。
私は散々考えた答をやっとなっちに伝えた。
「先刻さぁ、いちーちゃんいなくて寂しいかって聞いたじゃん?
後藤はさ、いちーちゃんがいたら、すっごい嬉しいと思うよ」
私はダイニングテーブルの横の椅子に座った。
冷蔵庫からゆっくりとなっちが歩いて来た。
「だけど、今は寂しいとかよりも会えた時に嬉しいってぐらいかなって」
少し冷たい言い方に聞こえたかもしれない。
本当はもっと意味があったけれど、上手く言葉には出来なかった。
なっちの沈黙が恐かった。責められるのか、と目の前に
彼女が立った時に思わず目を瞑った。
「…そっか」
なっちはそれだけ言って笑顔で私の頭を撫でた。
「私、もう子供じゃないよぉ」
「いいの。なっちから見たら年下なんだから」
目の前にあったお腹に顔を押し付けると、なっちが笑った。
「こらこら、子供じゃないんじゃなかった?」
「いいの。なっちから見たら年下なんでしょ?」
なっちの私の髪の毛を梳く手が心地良く感じられた。
27オレンジジュース:02/02/04 02:56 ID:qPARRmgq

オレンジジュースの氷がカランと音を起てて、
チャイムがピンポーンと間の抜けた音を出した。
「ピザ、来たみたいだね」
「うん」
「離れなきゃ、ピザ屋さんに返事が出来ないべ?」
「うん」
一向に離れない私を、彼女は無理矢理離そうとはしなかった。
しびれをきらした様に何度もチャイムが鳴って、
やっと私はなっちから離れた。
「すいませんでした」
なっちが謝ってる声がドアの向こう側から聞こえてきた。
きっとピザ屋さんはニコニコ笑いながら帰っていくんだろう。
なっちの笑顔を見せつけられて。
昔から彼女の笑顔は別格な気がした。
彼女が娘。の中でも少し別格である様に。
28オレンジジュース:02/02/04 02:59 ID:qPARRmgq

「ピザ、食べよっか」
戻ってきたなっちはクーポン券を沢山持っていた。
無造作に机に置かれたそれには触れずに私は頷いた。
「うん」
私達は椅子とテーブルがあるのに、床に座ってピザを食べた。
アンチョビの沢山乗ったピザは、いつもよりも美味しい気がした。
「ねぇ、なっち」
「ん?」
私はピザに着いてきたコーラを飲みほした。
「何さ?」
続けようとしない私に彼女はしびれをきらした様に聞いた。
「なっちは、寂しい?」
敢えて固有名詞は出さなかった。
なっちは今まで辞めてった人達全員を見送っていたから。
「…私もごっちんと一緒かな?会えたら嬉しいなって」
そう言ってから、なっちは私を見て笑った。
「ごっちん、ソースついてるよ」
彼女の人指し指が私の頬に触れた。
赤いソースがついた指はなっちの唇の中に消えていった。
「…ありがとぉ」
「どいたしまして」
29オレンジジュース:02/02/04 03:00 ID:qPARRmgq

少し前にいちーちゃんと電話してた時、
いちーちゃんが呆れた様に言った事がある。
『後藤はなっちが好きなんだな』
私は何故彼女がそんな事を言うか分からなかった。
だから、その時はそうかな?と言って終った。
今ならはっきり言えるかもしれない。
私はなっちが好きだった。
メンバーとしてだけでなく、友達としてだけでなく、好きだった。
「あ、プリンあるんだ。持ってくるね」
なっちが立ち上がりかけながら言った。
床が冷たい事にやっと気付いた。
油でべとべとした指が、なっちの指に絡んだ。
「ごっちん?」
不思議そうな顔をするなっちを引き寄せた。
もう空になっていたピザの箱が少し遠くに滑っていった。
「なっちが、好き」
なっちの髪が私が発した空気でさわっと揺れた。
ぎゅっと握りしめていた手が、優しく握り返された。
30オレンジジュース:02/02/04 03:01 ID:qPARRmgq

「…かは?」
「え?」
「なんでもない」
こんなに近くにいるのに聞き取れなかった言葉は、
なっちの口からもう一度出る事はなかった。
後から思えば、きちんと聞いておけばよかったと思うのかもしれない。
だけど、彼女と体重を預けあって、ちょっと痛いぐらい握りしめた手が、
そんな事は必要ないと言っている様に感じた。
「また遊びにきてもいい?」
「来ていいよ」
「たまにこうしてもいい?」
「こうしてもいいよ」
「なっちは、後藤の事好き?」
少し黙ってから、なっちが言った。
「ごっちんが私の事好きか不安になるぐらい好き」
それがどれぐらいの好きなのか、はかれなかった。
だから私は都合よく自分と同じぐらいだと思う事にした。
「ごっちん」
「何?」
「プリン、食べようよ」
今度こそ立ち上がったなっちは冷蔵庫に向かう前に
ピザの箱をゴミ箱に捨てた。
31オレンジジュース:02/02/04 03:02 ID:qPARRmgq

プリンは甘くなくて美味しかった。
時計の針が11と12をさしていて、
次の日になっちとは別の仕事だった所為もあって帰る事にした。
玄関で靴を履いていた私を見送りながら、なっちが言った。
「気をつけてね」
「うん」
私が笑うと、なっちも笑った。
「やっぱり、なっちの笑顔は別格だね」
「…そんな事、ないよ」
「あるよ」
ない、と繰返すなっちにおやすみを言って私は彼女の家を後にした。
タクシーに乗って、自宅まで帰るともう既に人の気配はしなかった。
しんと静まりかえった家にあがって、自分の部屋に入る。
素早く着替えてシャワーを浴びにいこうとしたら、ゆうきが部屋から出て来た。
「あれ?寝てたんじゃないの?」
「今起きたの」
眠たそうにしているゆうきを放って、私はお風呂に向かった。