「そんな…そんなこと聞いたら石川絶対傷つきますよ」
保田はそう言ったが、つんくは笑うと、
「お前がまだモーニング娘。のメンバーやったらこんなことは言わへん。
モーニング娘。をやめたお前やから言うんや」
保田は石で出来ているので口も堅い。
「私は…もう振り返らない」
胸の痛みを堪えながら石川は前しか見ないことを自分に誓っていた。
――
平家みちよが『中澤裕子死す』の報を受けたのはこの数時間後のことだった。
「祐ちゃんが…戦死しはったって…」
「みっちゃん…今なんて!?」
稲葉が聞き返したが、平家が再び答えることは無かった。
平家は何も言わず部屋を後にした。
稲葉ももう聞き返すことはない。部屋を後にする平家を追うこともしなかった。
平家の表情を見れば自分が聞き間違いをしていないことは明らかだった。
中澤裕子は、死んだ。
稲葉貴子は中澤、平家らと同じく関西地方の出身者であり、
3人まとめて関西チームと呼ばれ特に仲がよかった。
そのうちの1人がこの世を去った。
「なんでや…なんでこんな時に…」
中澤本人から独立を認める調印を行うという連絡があったのはほんの数時間前のことだった。
「戦死って…?中澤さんは和平の為にこっちに向かってたんじゃないの?」
「私に聞かれても…」
柴田の問いに、戸惑う村田。
昇りつめたところを突き落とされたような気分だった。
「ねぇ、瞳ちゃん…あれ?瞳ちゃんは!?」
いつのまにか、斉藤が2人の側から消えていた。
「あの中澤さんが…」
その斉藤は陣営の外にいた。
中澤裕子と言えばモーニング娘。の結成当初からのメンバーであり、
実質的にハロプロ全体のリーダー的な存在でもあった。
歳が近い安倍、飯田らよりもむしろ話をしやすい相手でもあったのだ。
それが急に居なくなったということは、勿論斉藤にとってもショックだった。
気付いたら涙まで出てしまっていた。
(人は死んだら星になるって昔おばあちゃんから聞いた)
夜空を見上げても涙は止まらなかった。