「石川…お前…まだ日本におったんか!?」
突然の石川の来室に、一瞬つんくの瞳に厳しい光が宿る。
しかし、それはすぐに消えた。
前回保田から諌められ、厳しくすることだけが能ではないと考え直したのだ。
「まあええか…石川、もう終わりや。全部終わったんや」
つんくの表情は諦めているというより、むしろすがすがしかった。
「全部終わりって…どういうことなんですか?」
「中澤と市井がな、全部終わらせてしもうたんや」
「…」
ふーん、という無反応な表情を見せる石川。
つんくにとっては意外な反応だった。
「なんや石川!?元気無いやないか。こないだ厳しく言いすぎたんは悪かったと…」
「中澤さんと市井さんは亡くなりました」
「…ん?なんや!?」
「あの2人は、ついさっき戦死したって言ったんです」
つんくの表情が歪む。
「悪い冗談は止めてよ石川」
保田が諌める。
それでなくてもつんくさんには心配事を増やしちゃいけないんだから…
そう続けた。
「アホなこと言うな…あの2人はついさっき出てったばっかりやねんぞ」
あの時の2人の表情は死を前にした人間のそれではなかった。
2人の目には確かに未来のこの世界の姿が映っていた。
「アホでも何でも、亡くなっちゃったのは本当なんですよ。
反乱軍のところに行く途中で戦死されたみたいです」
「なんやと…!?」
平然と答える石川。
しかし実は石川も平気ではない。
言葉に感情を込めるとまた胸が苦しくなってしまう気がしたのだ。
「みたいですって…石川…」
「それから、私つんくさんの代理に推薦されたんです。つんくさんはゆっくり休んでていいですよ」
つんくの顔色が一変する。
「おい、誰が勝手にそないなこと…う…」
胸を押さえるつんく。
「もう、年寄りの時代じゃないってことです」
「く…苦し…」
尋常ではない苦しがりかただった。
「石川!!」
「うっ!」
ついに保田が石川を張り飛ばした。
「私の顔に赤いものを…」
保田に張り飛ばされた石川の口の端に、僅かに血がにじんでいる。
しかし石川はふらふらしながら立ち上がると、なにごとも無かったように服を払ってみせた。
「保田さん、今回は見逃します。でも、今度またこんなことをしたらその時は…」
「うるさい!看護婦さん!!早くお医者さんを!!」
石川はにわかに騒々しくなる病室を後にした。
(う…)
まだ胸が苦しい。
でもこんなところで立ち止まってはいられないの…
そう思いながら石川は病院を後にした。