また叱られる…以前のように…
そう思った後藤だったが、市井の反応は違った。
『そっか、後藤は、自分でそうしようって決めたんだね』
「…うん」
『よし、分かった。今まで気付いてあげられなくてごめんね。後藤に辛い思いさせちゃったね』
そんな…申し訳ない気持ちなのはこっちなのに…
これまで後藤は自分の立場というものについて、深く考えたことが無かった。
だから市井から言われたように、情報を流していたほうが気が楽だったのだ。
何もしていないより、嘘でも何かをしていたほうが気が楽だった。
「ううん…そんな…」
幾つもの感謝の言葉が胸を突いて、なかなか口から出てこなかった。
『じゃああんまり長く電話してると怪しまれるから…真希、頑張ってね』
「あっ…」
そのまま、唐突に通信は切れた。
ごくたまに、市井は後藤のことを真希と下の名前で呼ぶことがあった。
後藤が新メンバーだった頃、その教育係を買って出た市井である。
特別な思いがあったのだろう。
最後に、紗耶香は私のことを下の名前で呼んでくれた。
なのに、礼の言葉も言えなかった自分。
もう一度逢って、直接伝えたい言葉があった。
しかし、それはもう叶わない。
――
「失礼します」
石川は、ヘリポートを去ったその足でつんくの病室へと向かった。
最初から石川はつんくの病室を訪ねるつもりだったのだ。
その途中でたまたまあの2人と出会った。
「あっ…」
思わず石川は声を漏らした。
つんくの病室にまた保田がいたのである。
「あ、石川…私も今来たばっかりなんだ何か外騒がしいけど石川大丈夫だった?」
「保田さん…私は大丈夫ですよ。私はね…」
モーニング娘。をやめた身でありながらモーニング娘。統一国家の重鎮である
つんくの見舞いに我が物顔で来るなんて…しかもそれをつんく自身が黙認している。
不満を感じる石川だった。
だがどうやら保田もつんくも外で何が起こったのかをまだ知らないらしい。