元気爆発メロン記念日

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62マングース西浦
市井は、返し切れなかったつんくへの恩を返す為に、戻ってきたのだ。
ハロプロ独立正規軍に、つんくからの独立という最大の親孝行を果たしてもらう為に…
当然最初からそう思っていたわけではない。
自分は一体何者なのか…考えた末に出た答えだった。

「つまり紗耶香は私に…つんくさんを裏切れ言うんか?」
紗耶香は自分に『つんくさんを裏切れ』そう言いに来たのだ。
中澤にはそうとしか聞こえなかった。
中澤は外見は大人に見えるが体の4割が頭の悪いヤンキーで出来ているので人一倍義理堅い。
「そうとは言ってないよ。私は祐ちゃんに、モーニング娘。のリーダーという立場からも、
 モーニング娘。軍代表という立場からも、つんくさんの娘という立場からも離れて、
 一人の人間として何が正しいことなのか考えて欲しいって言いに来たの」
…一人の人間として…
これまで学生、OL、演歌歌手、モーニング娘。と制服を着て
その立場の上だけで生き続けてきた中澤にはない発想だった。

「紗耶香…もう出てってくれ」
「…分かった。でも祐ちゃん、考えといて。そして何かの答えが出たなら私に連絡して」
「…」
市井は連絡先を書いた紙を中澤の机に置くと、すぅっ壁に溶け込むように消えていった。

「紗耶香…あんたの言うことは分かる…でもな…もう少し早く来て欲しかったわ…」

――
「めぐちゃん、この野戦病院の中にあいつがいるんだね?」
「うん…絶対いる」
北アフリカを発し、2人が中央アフリカの野戦病院に到着したのは2日後のことだった。
野戦病院は戦場における中立地帯である。
こちらから討って出る訳にはいかない。2人は野戦病院の近くの適当な茂みに身を隠すと、
張り込みを始めた。

「それにしてもなんでこんなところにいるんだろうね」
凶悪な通り魔がなぜ病院に潜んでいるのか…
分からないことだらけだったがとりあえず、
「私見張ってるからヒトは休んでたらいいよ」
無論ヒトとは村田が斉藤を呼ぶ時に使う呼び名だったが、
まだあの化け物が活動を始める夜までには時間がある。
それまでの間休んでたらいいよ。村田が言った。
「そんなの悪いよ。私だけ休んでるなんて」
「いいって。ヒトが起きたら次私休むし」
交代で仮眠を取るのは張り込みの基本である。
更にあんぱんとパックの牛乳があればもはや言うことは無いのだが…
「ほんとに?じゃあ悪いねめぐちゃん…」
斉藤はすぐに寝息を立て始めた。
どうやらかなり疲れていたらしい。
移動に2日もかかってしまったのだ。致し方のないことだったろう。
ずっと一緒だった斉藤が疲れているのに、村田が疲れていない法は無い。

村田めぐみはメロン記念日のリーダーである。

村田リーダーとはこのメロン記念日というグループにおいて一体どのような
位置づけであるべきなのだろうか?
鬼のように強い意志の力でメンバーを率いるリーダー、困った時に頼りにされるリーダー、
メンバーを優しく調和させまとめあげるリーダー、強烈なカリスマでメンバーからの崇拝を
集めるリーダー、
自分はそのどれでも無いような気がする。
困った時はメンバーを頼りにしてしまう。
ただ最年長で、イベントでの進行役というそれだけでリーダーを名乗ってもいいものなのだろうか。

モーニング娘。は違う。リーダーの中澤裕子はリーダーとしての仕事を
きっちりやっているように見える。
それに続く飯田圭織、保田圭らも後輩のメンバーの面倒をよく見ている。

自分は、メロン記念日のリーダーとして何が出来ているのだろうか…

そんなことを思う内、辺りは暗くなっていた。
(…!)
村田が気付いた時、敵はすでに野戦病院の病棟の外にいた。
(は…早い)
前に間近で見た時よりも更に動きが速い。
野戦病院を出た怪物は病棟の玄関を出た辺りで立ち止まり、周囲を見回している。