元気爆発メロン記念日

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47マングース西浦
「あの…もうあの人達帰りましたよ」
ウェイトレスの少女がりんねに注意深く声をかけた。
「ははは…これで牧場がやれる…」
うわ言のように話し出すりんね。
その様子を見た少女も一歩たじろぐ。
「ど…どうしたんですか?」
りんねが驚くウェイトレスの少女の手を取る。
「一緒に来てくれるって言ったよね!?牧場開いたら」
「あ…あの…」
「はははははははは」
りんねの目には久しぶりに生気が戻っていた。
しかし、その生気がどす黒く濁っていることに、本人はもはや気付くことはない。

――日本、UFA本部に程近いつんくが入院している病院
「石川…お前一体何しに来たんや」
病床のつんくが見舞いに来た石川に詰め寄っていた。

石川は吉澤に南米行政府の留守番をさせ自分1人でつんくの病状の確認の意味も込め
見舞いに久しぶりに日本を訪れた。
しかしそこで石川は思わぬ誤算をすることになった。
モーニング娘。を脱退した保田が最後の挨拶にとつんくの病室へ先に訪れていたのだ。
保田が行政官を辞任してから新メンバーの2人でヨーロッパを治めなければならないという事態になり
それを石川は見て見ぬ振りをして見殺しにしたのだ。
その結果、ヨーロッパはハロプロ独立正規軍の手に落ちた。
その経過は当然既につんくの耳にも入っている。

「あ…あの、私つんくさんのことがすごく心配で…どうしてもお見舞いに来たかったんです」
精一杯の反省している表情を作りながら訴える石川。
しかしつんくの厳しい表情が緩むことはなかった。
「石川、お前は2年もやっとってまだ分かってへんのか!?」
「え…!?」

石川には分からなかった。
もしかしたら私の裏工作に気づいたのか…?
一瞬そう思った石川だったが、それはないと思い直した。
保田も石川に厳しい視線を向けている。
つんくが更に続ける。
「モーニング娘。はただ個人が集まった人間の群れやない。一個のグループなんや」
「わ…分かってます」
(く…)

モーニング娘。を脱退した保田の前で当然のことを確認される侮辱に石川は肩を振るえさせた。
マンツーマンの時でもつんくにここまで叱られた経験はない。

この時のつんくの叱り方には鬼気迫るものがあった。
つんくは自分に残された時間の短さをおぼろげながら察し始めていた。
つんくの病気には興奮することが最大の毒なのだが、頼りにしていた保田の脱退の直後だけに
感情を押さえることが出来なかったのだ。
「そやったらな、俺のことなんか気にしとる前に、まず苦しんどる仲間を助けに行かんかい!」
「は…はいっ!」

つんくはそう言ってその場を去りたい一心で出口へと向かう石川を、一度引き止める。
「保田、元の教育係として石川に何か一言言うたったらどうや!?」
しかし保田は我を失っている石川に不細工な顔ながらも優しく微笑みかけると、
「いえ、もう石川は一人前のモーニング娘。ですから…」
そう言った。

「し…失礼します…」

病室を出た石川はそこにあったごみ箱を蹴り飛ばそうとして踏みとどまった。
それを蹴ってしまえは陶器で出来ている石川のほうが砕けてしまうからだ。
(な…なんなの?もうモーニング娘。じゃないくせに…不細工なくせに…保田のくせに…)
石川は過去にここまで人前で侮辱された経験を持たない。
石川の陶器で出来た冷たい心に炎が灯った。
(でも…つんくもあの顔色じゃあ先は永くなさそう…身の振り方はちゃんと考えておかないと)

「つんくさん…ちょっと厳しすぎません!?何もあそこまで言わなくても…」
石川が去った病室で保田が言う。
「俺はな…石川に期待してんねん。石川はまだまだあんなもんやないと思ってる。
 まだまだ落ち着くのは早い。そう思っとったのにあいつは…」
つんくは石川に期待していたのだ。
確かにモーニング娘。加入当初と比較すれば石川は別人のように変わったのかもしれない。
だがまだまだ石川は成長できる可能性を秘めているはずだ。
――モーニング娘。の一員としての自覚さえ持っていれば。
「だったらもう少し優しく言ってあげればよかったじゃないですか…」
「あかんな…俺もあせっとるのかもしれん」
つんくはそう言って二つの意味で痛む胸を抑えた。
48マングース西浦:02/02/08 17:11 ID:ARMPOJzn
(保田のうんこたれ…つんくのハゲ頭…保田のうんこたれ…つんくのハゲ頭…)
石川の心に、つんくの気持ちは微塵にも伝わってはいなかった。
「保田のうんこたれ…つんくのハゲ頭…保田のうんこたれ…つんくのハゲ頭…」
廊下を歩きながら頭の中の2人を打ちのめしていた石川はいつしか2人を
侮辱する言葉を口から発していた。

「あれ?梨華ちゃんどうしたの!?」

「あっ!」
石川は妄想に夢中になるあまり前方からこちらに向かって歩いて来ていた後藤の姿に
全く気付かなかった。
「あわわわ…」
(聞かれた…)
そう思った石川はあからさまに驚いてしまったが、それを見て後藤は怪訝な表情を浮かべている。
「梨華ちゃんいつ日本に来てたの?」
なんだ、聞かれてなかったのか…よかった…そう思った石川は自然に冷静な顔を作ると
「今日来たばっかり。つんくさんのお見舞いに来たんだけど、あんまり歓迎されなくって…
 ごっちんは元気だった?」
そう答えた。
「そうだったんだ…つんくさんも色々焦ってるから…分かってあげてね。
 私は元気だよ。つんくさんの変わりにはなれないけど、
 つんくさんの手足の変わりにはなれるかもと思って色々勉強してるの。
 算数とか、政治経済とか…」
石川は後藤の胸の辺りに視線を移す。
「すごい…偉いねごっちん」
後藤の両腕は大量の書類や書物を抱えていた。
つんくにはプロデューサーとしての顔だけではなく、
国家元首としての顔もある。勉強しなければならないことは増えることこそあれ
減ることはないのだ。
(魚面のくせに…)
けなげな後藤の表情を見ながら石川は頭の中でそんなことを思っていた。
そんな時、
プルル…
「あれ?お電話…誰だろ」
石川の携帯に通信が入る。

「あ、じゃあ私行くね」
「うん、ごめんねごっちん」
そう言いながら相手を確認する石川。

(なんだりんねからか…)
それは数ヶ月もの間連絡を途絶えさせていたりんねからの通信だった。
どこかで野垂れ死にでもしてるかと思ったのに
そう勝手なことを思いながら通話スイッチを押す石川。
繋がるなりりんねは興奮した様子で話し始めた。
『り…梨華ちゃん!?大スクープ大スクープ!!』
「梨華ちゃんはやめて下さいって…まあいいか…で、なんですか?
 りんねさんずっと連絡取ってくれないから心配してたんですよ」
この時のりんねには石川の白々しい言葉も気にはならいようだった。
『フフフ…どうやらハロプロ軍の内部に不協和音が出てるらしいよ』
「へぇ…それで?」
思わぬ言葉に度肝を抜かれた石川だったが、それを態度に出さない。
りんねのような小物を調子付かせるわけにはいかないからだ。

『おっと、ここからはタダで教えるわけにはいかないよ』
「いくら?言い値で払うから」
『壱千億万』
あり得ない金額を口にするりんね。もはや精神に異常をきたしてしまっているらしい。
「分かりました。1000億万ですね」

りんねはレストランで盗み聞きした内容を全て石川に話した。
49マングース西浦:02/02/08 17:12 ID:ARMPOJzn
「ふーん、そうなんですか…」
口振りとは裏腹に聞き終えた石川は息を吹き返す思いだった。
ハロプロ軍が厄介だったのは不気味な結束で隙を見せなかったからだ。
勢力を分断してしまえば怖くも何ともない。
『じゃあ梨華ちゃん、お金のほうはほんと頼むね』
「はいはい」
石川はそう言って電話を切ると、つい表情に出そうになる満面の笑みを押さえるため
しばらく立ち止まって下を向いた。

「フフフ…私を怒らせるとどうなるか…」
年上のくせに妹分、売れてないくせに先輩面…前から気に入らなかったんだよ…
冷静を取り戻した石川は早速こういう時の為に用意しておいた切り札に連絡を取った。

――
「矢口さんですか?私です、石川です」
『あ、あれ石川?何?こっちちょっと忙しいんだけど…』
石川の受話器からは矢口のものでは無い声も聞こえてくる。
『だー!』
『…ちょ、ごめん石川、こら加護!書類に落書きしちゃ駄目だって!』

矢口が代表をつとめるT&M。カンパニーは、つい最近中東戦線から撤退した辻、加護の2人を
新しく経営陣に迎え経営状態の安定化を計ることになったが思惑とは逆に初日から
2人は矢口の精神をすり減らし始めていた。

「本当に忙しいみたいですね…お疲れさまです矢口さん。
 それじゃすぐ本題に入らせてもらいますね」
『う、うん…悪いね』
『ばぶー!』
『ってちょっと辻!書類食べるのはもっとダメ!…もう…ごめんね石川こんなんで』
「いえ、いいんです。こっちはまだ時間ありますから」

矢口は体の6割が粘土で出来ており柔軟な面もあるが、
一度気に入った形が出来てしまうとその形を変えるのが惜しくなってしまう面も持っていた。
臨機応変に見えるが実際は問題が顕在化するまで対処が遅れることも多いのが矢口である。
矢口は体のそれぞれ半分、3分の2が赤ちゃんで出来ている加護、辻への対処の為に
古い仲間と再会出来るという期待を裏切られたこともあり
早くも疲労のピークを迎えようとしていた。
石川はその矢口の憔悴した体に鞭を打つ。

「…矢口さん、なんで反乱軍に武器を横流ししたんですか?」
『もう辻…え!?』
唐突な石川の言葉に一瞬言葉を失う矢口。
聞き間違いだと信じたかった。

「反乱軍に武器はよく売れますか?」

『い、石川…なんでそんなこと…』
明らかに確かな証拠を握っている…石川の口振りは明らかにそういう性質を持っていた。
隠し立ては出来まい…矢口は一瞬の内に観念した。
「なんででもいいじゃないですか…ねえ矢口さん、
 このことがつんくさん達にばれたら困りますよねぇ」

しかしこのことはもともと石川がりんねを利用して横流しするように差し向けたのである。
しかし矢口はそんなことは知る由も無い。(4話 >>6-10 参照)
『い…石川…私を脅迫するつもり?』
「えー!?いえいえ、そんなつもり無いですよ。ただちょっと私に協力してくれないかなって」
『協力…って!?』

石川の策謀の前に、矢口も屈することになった。
賢明な矢口にもこの時の自分の判断がどれだけの重さを持つかはまだ分かっていない。

――ヨーロッパ行政府のある街
街で一番高い時計台の上に、市井紗耶香はいた。
街を一望しながら市井は想う。
後藤真希との情報のラインは既に途絶えた。
彼女にも大きな決断の時が迫っている。

市井紗耶香は全身の7割がカメレオンで出来ている。自分の可能性を信じる彼女なら、
状況に応じてモーニング娘。であり続けることもソロ歌手になることも出来ただろう。
しかしそうはならず限りなくハロプロ軍に近い中立の立場を歩む道を選んだ。
まだ遠い将来までは分からない。市井は若いのだ。
もしかしたらモーニング娘。に戻るかもしれない。あるいはソロ歌手か…
しかし今、自分が果たすべき役割は何か。

(みっちゃんはつんくさんと闘うことを決意した。後藤はつんくさんについていくと決めた。私は…)

夕陽が市井の顔を赤く染める。
次の時代は既にすぐそこまで来ている…市井はそう思っていた。

和平を主張し続けたアヤカらココナッツ娘。がついに折れ、
ハロプロ軍がとにかくは進軍を決定したのはこの日のことだった。

登場人物

加護亜依
モーニング娘。T&M。カンパニー副社長。赤ちゃんで出来ている。タンポポ。ミニモニ。。
辻希美
モーニング娘。T&M。カンパニー副社長。赤ちゃんで出来ている。ミニモニ。。何でも食べる。