元気爆発メロン記念日

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36マングース西浦
後藤はこの通信を最後に、市井との連絡を絶った。
後藤はこのつんくの言葉を伝えた通信の最後に、
「もうこれ以上つんくさんを影で裏切ることは出来ない」
そう言った。
つんくの気持ちが分かってしまった後藤には、もはやどっちつかずの位置にいることは出来なかった。

「あと、これ」
市井がビラのようなものを差し出した。
「保田ヨーロッパ行政官からの訓告…何やろ?」
それに目を走らせた平家の表情が皮肉に歪む。
「フフ…圭ちゃんらしいっちゅうか…」
その内容は、ハロプロ独立正規軍の諸君、今すぐ降参の意を示せば悪いようにはしない。
トップである平家みちよ一人を差し出せば、残りの者達はUFAに残すというものだった。

「つまり、参ったすればスタッフとして使ってやる言うことやな…」
「客観的に見て問答無用に攻撃してるつんくさんから見ればかなり譲歩してるとは言えるけどね」
「フフ…悪いけど、丁重にお断りするわ。うちらはあくまでも歌手やからね」
平家はそう言ってビラを引き裂いた。

「これで最後?」
聞かれた市井は、ついに言いにくそうに話し始めた。

「…ここに、あさみちゃんって子、いたよね」

「ああ、おったって言うか…色々あって今はちょっとね。
 大谷さんとかが責任感じてずっと探してるみたいやけど…
 …あさみが出ていったのは私のせいやとか言うて」
「…そっか…みんなはまだ…」

市井が肯いて次の言葉を発せないでいるのを見て、平家に嫌な予感が走った。

「まさか……嘘やろ!?」
「撃たれてね…無残な最期だった」
「し…信じられへん…」

平家は言葉を失った。
あさみは重要な戦力だっただけでなくその明るい性格は隊のムードメーカーの役割も担っていたからだ。
「実はね…その犯人が行方不明だったりんねさんだったの」
「…そ…そんな…りんねちゃんはそんなことをする子やなかった」
りんねはかつて平家の補佐官だったこともあり、その頃のりんねはとぼけたところはあるものの
努力家で、『頑張ります』が口癖の真面目な少女だった。
「間違いないよ…この目ではっきり見たから」
37マングース西浦:02/02/05 01:08 ID:CUyHrrC5
この日、ハロプロ軍陣営は悲しみに包まれた。
保田圭行政官が新垣、紺野2人の補佐官だけを連れハロプロ軍陣営に訪れたのはそんな時である。

「…どの面下げて来たの?」
不細工な面を下げてきた保田に対し最初につっかかったのは大谷だった。
「雅恵ちゃん…」
あさみの死を知ったばかりでまだ気持ちの整理どころではない大谷も
柴田に服を引かれて一度は引き下がる。

不細工な保田は大谷と視線を合わせることもなく口を開いた。
保田は体の80%までが石で出来ているだけに意志が強い。
「みっちゃんに会いに来ました」
すぐに平家も現われる。
「みっちゃん、どうしてもこの国でイベントをやるの?」
「私やなくてメロンがね。そのつもりやけど」
深刻な声の保田の問いに平家が即答する。
「ここでイベントをすることでまた若い命が犠牲になったとしても?」
再び保田が問う。

平家はなぜかその表情に軽い笑みを称えている。
皮肉のこもった笑いだった。
「若い命を犠牲にしない…聞き心地のええ言葉に聞こえるけどな…
 でも、ここでうちらが降参したら、また永久に同じことが繰り返される。
 搾取の歴史がまた繰り返されるだけや…なぜなら、うちらとモーニング娘。は全然対等やない。
 対等の席に座ってもおらんのに、対等な交渉なんて出来る道理が無いわ」
保田は平家にとってかつての友でもある。
競い合ってはいるが友人。敵では無かった。
共に高め合う戦友だったのである。
しかし、今は状況が両者に友人として語り合う余裕を与えてくれることは無い。

「じゃあどうしても…イベントはやるの?」
「さっき言ったはずやで、圭ちゃん」
保田は平家が参加したロックボーカリストオーディションの出身者ではない。
第一回モーニング娘。追加メンバーオーディション出身者…言うなれば遅れてきた戦友(とも)である。
安倍、飯田より歳が近い遅れてきた戦友…平家にとって特別な存在であり続けた。
決着はいつかつけなければならない…2人ともそう思っていたはずである。

「…分かった」
保田は望むところだ…次に会ったら容赦はしない…という表情を唇の端に浮かべた。
立場としては平家との和平を優先しなければならない身のはずだった。

そこで戻ろうとする保田に、大谷がガス銃をつきつける。
「保田さんをここでぶっ殺せばいいんだ!むざむざ見逃す必要は無いよ!」
同行してきた新垣、紺野が動こうとするが保田は視線でそれを制する。
一方の大谷は周りを焚き付けようとするが、ハロプロ軍の誰も動こうとはしなかった。
「な…なんで?なんでみんな?モーニング娘。が憎くないの!?」

平家が斉藤に視線を送る。
斉藤が大谷の肩に手を乗せた。
「あさみちゃんは、そんなこと望んでないと思うよ」
この戦いは独立を勝ち取る為の戦い。
もはや私怨の為の戦いではない。
個人的な恨みにつき動かれて行動するのは正しくない…
体の99%までが鉄で出来た斉藤の重みのある言葉に、大谷もついには銃口を下げた。
「そ…そんな…」
保田は何も言わず乗ってきた車の方へ歩き出した。
うなだれる大谷に、モーニング娘。の新メンバーが言葉を投げ掛ける。

「なんで保田さんの気持ちを理解してくれないんですか!?
 保田さんはただハロプロの仲間同士で戦いなんか起こしたくないだけなのに!」

若いメンバーの言葉に、平家は複雑な内面を含んだ笑いを浮かべると、
口を開いた。

「あんたらも考えておいた方がええ…うちらも、モーニング娘。も同じハロプロの仲間かもしれん…
 でも、あんたらはモー娘。でうちらはモー娘。やない。それがどういう意味なんかっちゅうことをね」

保田は同行してきた2人に何も言い返させず行政府へと帰っていった。
38マングース西浦:02/02/05 01:09 ID:CUyHrrC5
「あ〜…なんで…なんで何も言わずに死んじゃったの…
 裏切ってなんかいなかった…なんでそう言ってくれなかったの!?」
大谷はそう言いながらガス銃を地面に叩きつけた。

この日のメロン記念日のイベント会場はアルプス山脈を越えた先にあった。
無論保田率いるヨーロッパ方面軍はそこに一大要塞を築いている。
「ここを越えなあかんのか…」
稲葉がため息混じりに言う。これまでで最大の難関になるであろうことは間違いなかった。

「それでは、作戦の説明を行います」
大阪弁が面倒なのでアヤカが作戦の説明を行う。
アヤカはハワイ戦線で吉澤率いる南米方面軍に敗退し、メンバーのミカやレフアと共に
つい最近ハロプロ独立正規軍に加入してきたココナッツ娘。の中核的メンバーである。
アメリカ本土からの支援を受け、本土を除けば最強と思われていたハワイ諸島も
自由自在に空を飛べる吉澤による無差別爆撃の前にあえなく陥落した。
吉澤の帰国子女攻撃の前にお株を奪われ屈する寸前のココナッツ娘。のメンバーを庇い
大怪我をしたダニエルが戦線を離脱したのはこの時だった。
ハロプロ軍に加入して以来ハロプロ随一の才女の誉れ高いアヤカは
平家の右腕的ポジションに収まっている。

「まず、大谷さん、村田さん、斉藤さん、柴田さん以外の皆さんは二手に分かれて
 西側と東側からこの砦を挟撃します。そして、敵の防御網を二つに分断したところで、
 メロン記念日のみなさんはこのロープウェーに乗ってこっそりと直接敵の砦に忍び込んで下さい」

アヤカの作戦はまるで漫画のように理路整然としていた。
分かりやすい作戦に全員が納得すると、早速作戦は実行に移された。

まず稲葉部隊の松浦らと、ミカ、レフアらの2部隊に分かれたハロプロ軍は
要塞の周りに放たれた何匹もの戦闘犬に結構苦戦したものの敵の防御網を
2手に分けるのにはなんとか成功した。
戦闘犬の牙は目茶苦茶鋭く、体の80%がラッキーストーンで出来た松浦であっても
噛まれたらかなり痛かったことは間違い無かったことだろう。
しかし、本当の問題はその次の段階に起こった。

「よし…敵の防御網が分かれたって。早くロープウェーに乗ろうよ…って雅恵ちゃん何してんの!?」
大谷が勝手にロープウェーを動かし、一人だけで乗り込んでしまったのである。
「雅恵ちゃん!」
「ま…待って!」
待ってといわれてももう待つことは出来なかった。
一度動き出したロープウェーはブレーキの壊れたスポーツカーのように
一直線に目的地へと向かっていく。
そのロープウェーの中で大谷は自分の名前を叫び続けるメンバーの姿を見下ろしていた。
「みんな…ごめん…これは私怨の戦いだからみんなを巻き込むことは出来ないんだ」
そう言って大谷は敵の要塞へと視線を移した。
「あさみちゃんごめん…本当にごめん…仇は私が命に代えても取るからね…」

防御網が2つに分断されていたので要塞への侵入は容易だった。
「あさみちゃん見てて!」
大谷は要塞に飛び込むなり炎を吐き出し内部に火を放つ。
要塞と命運を共にする覚悟だったのである。
しかし…
「って…こんな馬鹿な!」
要塞が派手に燃え出すかと思われた次の瞬間、大谷にとって思いがけない事態が
起こってしまった。
要塞に完備された新開発のぴったりしたいクリスマスプリンクラーが作動し、
放った火をすぐに消しとめてしまったのだ。
あのニューヨークでのテロ以来世界中の軍事施設の危機管理はそれまでの10倍厳重になっていた。
火が使えない大谷はあっという間に打つ手を失ってしまったのである。
39マングース西浦:02/02/05 22:26 ID:0ITGW9yn
打つ手を探してしばらく廊下をさ迷った大谷だったが、要塞の廊下はまるで迷路のように入り組んでおり
しばらくすると警報を聞いた兵士が駆けつけて来てしまった。
「ウヘヘ…年貢の納め時だぜ」
大谷に銃を構えて駆けつけた兵士が迫る。
(ごめん…あさみちゃん…私もすぐそっちに行くよ…)
覚悟を決めた大谷が内蔵された自爆装置を起動させるために目を閉じた次の瞬間だった。
「うぉっ!なんだこいつは!?」
その声で目を開けた大谷は意外な光景を見た。
要塞の周りに放し飼いにされていた戦闘犬の一匹と思われる犬が兵士にの腕に噛み付いているのだ。

「い…一体何がどうなって…はっ、まさか…」
「雅恵ちゃん、今だワン!」
その時犬の口から発せられたのは永久に失ってしまったはずの仲間の声だった。
「や…やっぱり!」
言いながら大谷は兵士の股間を鉄の足で蹴り上げ失神させる。

――犬は舌を出して息を切らせながら大谷を見上げている。
見た目には確かに生物学的に犬なのだがしかしその瞳には人間の意識のようなものが
確かに感じられるのだ。
大谷が抱き上げようと両手を差し出すと、その犬はそれに応じるように大谷の方へと一歩踏み出した。
「あ…あさみちゃん、本当にあさみちゃんなの?なんでこんな格好に?」
犬を抱き上げて目線の高さを合わせた大谷が訊ねる。
「分からないワン…でも、雅恵ちゃんはさっきあさみに『見てて』って言ったワン。
 そしたら雅恵ちゃんが危なくなって気付いたらこの格好になっていたんだワン…」

無念な最期を遂げたあさみは地縛霊として辺りをさ迷っていた。
そして、仲間の危機を感じた瞬間その魂が奇跡的に犬へと乗り移り、そのピンチを救ったのだ。
いまやあさみは体の3分の2が犬で出来ていたカントリー娘。のあさみではない。
体の3分の3(100%)が犬で出来たニューあさみの誕生である。

『犬は友達』
    作詞 あさみ

犬はみんなの 友達さ
餌さえやば なんでもするよ
まずい飯でも 残さない
ただの水でも 飲み干すよ
腹が減っては 戦は出来ぬ
お手だ お座り チンチンチン

食べもの 寝床さえあれば
どんな奴にも 尻尾を振るよ
腹が減っては 戦は出来ぬ

『ラジオ体操の歌』
    作詞 大谷雅恵

新しいあさみが来た 希望のあ(以下略

「…お遊びはその辺にしておいてもらえますか…」
いつのまにか2人(1人と1匹)は敵に囲まれていた。
再会を喜ぶ2人(1人と一匹)には敵の接近に気付くことが出来なかったのだ。
敵の中にはモーニング娘。の新メンバーの紺野、新垣の2人もいる。
「せっかくあさみちゃんと再会出来たのに…」
「覚悟して下さい……えっ!?」
敵兵が大谷らに狙いを定め発砲しようとした次の瞬間、全員が銃を取り落とす。

「手がしびれて銃が持てない!?」

「フフフ…」
敵兵の背後から怪しい笑い声が響いた。
村田めぐみである。電波を司る神の村田は鉄で出来たロープウェーのケーブルに電流を伝わらせて
この要塞まで直接乗り込んだのである。

「フフフ…覚悟はいいな!?」

村田は電子の向きを操り伝導体の内部に電流を発生させることができる。
電力の大きさは対象の数と大きさに反比例するためこの時は離れた敵兵の銃を
取り落とさせるのが精一杯だった。
村田の普段の一番大きな役目は電波妨害で誘導ミサイルの軌道をそらすことである。
40マングース西浦:02/02/05 22:45 ID:0ITGW9yn
――
「保田さん…この砦は落ちました。早く脱出して下さい」
「うん、分かってるよ」
完敗だった。
物量の面でも情報収集能力でも負けていたとは思えない。
なのに…
(く…)
窓の外へと視線を移す保田。
遠くから何か視線を感じたのかもしれない。
「ん?」
誰かがここを覗いているような気がする…
慌ててデスクの側の棚にあった望遠鏡を手に取りその方向を凝視する保田。
「み…みっちゃん」
平家が数キロほども離れた場所からこの司令官室を見据えていたのだ。
その表情は不敵な笑みに満たされている。
平家は保田と目が合ったのを確認すると背を向け、保田の視界から消えていった。
平家は体の90%が平家物語で出来ているため遠くはなれた場所にある扇をも打ち落とせる
視力を持っていた。

「みっちゃんはいい仲間を持ったんだね…でもうちらだって…」

砦は陥落した。

細かいトラブルはあったが結局戦いはわずか半日で終結した。
あさみの隊復帰のような誰もが喜んだ予想だにしない出来事もあった。
失敗と言えるのは紺野、新垣の2人を捕捉しておきながら逃がしてしまったことくらいだった。
蛇足ながらこの作戦の大成功で、アヤカの組織内での発言力が増したのは言うまでもない。

この日リヨンで行われたイベントには大谷の姿だけが無かった。
1人だけでロープウェーに乗り込んだ命令違反の咎でイベントへの参加を自粛したのである。
無論4人揃ったメロン記念日を楽しみに見に来た観客からは不満が出ることになる。
そこで再び手腕を発揮したのがアヤカだった。
この日のイベントにはココナッツ娘。も急遽ゲスト登場し結果として大成功に終わったのである。

――数日後、ヨーロッパ行政府
「な…なんでですか?保田さんが辞める必要なんて無いと思います!」
荷物をまとめる保田に新メンバーが声をかける。
保田はすでに辞表を提出し、それは受理されたという。
保田はモーニング娘。を脱退したのだ。
「そうですよ!保田さんのお陰でだんだんモーニング娘。統一国家を支持してくれる人も
 増えてきたと思ってたのに…」

事実、これまでの保田のヨーロッパ統治に大きなぬかりは無かったはずである。
しかし保田は若いメンバーに不細工な顔ながらも微笑みかけると、
諭すように口を開いた。

「実際私もそう己惚れかけてた…でも、実際はそうではなかったの。
 時代は変わろうとしてる…それが私の望む方向かそうじゃない方向かは分からない…けど、
 私がいたらモーニング娘。は、世間の人達が望まない方向に行っちゃうんじゃないか…って…」
しかし間髪入れず新メンバーが大きく首を振って否定する。
「そんなこと無いです…保田さんはまだまだずっとモーニング娘。に絶対必要な人です…」
「私達を置いて行かないで下さい…」

若い新メンバー2人の瞳からは既に涙があふれていた。
それでも保田は体の80%までが石で出来ているだけに意志が固い…決意は変わらなかった。
新メンバーに向けられた優しい瞳の奥には親が子を巣立たせる時の厳しさも宿っていた。
保田はしばらく号泣する新メンバー2人に肩を貸した。
2人がようやく泣き止むと、保田は無言で不細工な顔を新メンバーからそらし、
荷物を取って部屋を出ていった。

「保田さん!私達頑張りますから!」

2人が保田の後ろ姿に声を掛けると、保田は不細工な顔を見せること無く片手を上げてそれに答えた。

ヨーロッパ方面軍が紺野、新垣2人の善戦及ばずあえなく撤退を余儀なくされたのは
これからわずか1週間後のことだった。
撤退の理由は紺野の重いホームシックである。
紺野がどうしても日本に帰りたいと、夜泣きをするようになってしまったのだ。
このことがつんくの心に焦りを生み病状を更に悪化させる結果になったのは言うまでもない。

登場人物

ニューあさみ
霊体。時々犬に乗り移って遊びに来る。

アヤカ
ココナッツ娘。体の40%が神戸名産いかなごのくぎ煮で出来ている。頭がいい。少し名誉欲が強い。
ミカ
ココナッツ娘。体の50%が外人で出来ている。背が低い。顎が出ている。
レフア
ココナッツ娘。体の100が外人で出来ている。日本語が喋れない。目が小さい。

保田圭
モーニング娘。(元)ヨーロッパ行政官。石で出来ている。意志が強い。不細工。
紺野・新垣
モーニング娘。