元気爆発メロン記念日

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31マングース西浦
「りんねちゃん…」
「う…うわっ!!あ…あさみ?なんでここに?」
体が馬で出来ていることを抜きにしてもあさみから見たりんねは明らかに狼狽している。
「りんねちゃん…なんか寒いね…」
「な…なに?」

りんねの頭の中は意外にも冷静に一瞬の内に状況を理解していた。
あさみはかなりの確率で今の独り言を聞いていた…
なのに、あさみは自分に優しい表情を向けてくれている。
「もう私、ハロプロなんてどうでもよくなっちゃった…」
「あ…あさみちゃん…」
やはり聞かれていた…りんねは確信した。
しかし、ハロープロジェクトがどうでもいいとはどういうことだ?
りんねは身構えてあさみの次の言葉を待った。

「一緒に北海道の牧場で乗馬とかやろうよ」

「…え!?」
てっきりあさみは自首してくれでもと言い出すのかとりんねは思っていた。
なのにあさみは自分を許してくれる…そればかりではなく今のハロプロ独立正規軍を
抜けて一緒に牧場に戻ろうとまで…このあさみちゃんとならやり直せるかもしれない…
りんねが首を縦に振ろうとしたその瞬間、

「これは一体どういうことなの?」
突然、深夜の電車休憩場に2人以外の人間の声が響いた。

「い…市井さん」
市井紗耶香だった。
陣営のそばにいた市井は偶然あさみを見掛け、不審に思って追って来ていたのだ。
あさみの嗅覚でも捉えられないほど完全な尾行だった。

「あ…あさみ!!私を売ったんだね!!」

市井の突然の出現にりんねが豹変する。
市井と2人がかりで私を捕まえに来たんだな…
「ち…違うよ!!私は市井さんが来てるなんて全然知らなかった!!」
「うるさい!!もう騙されない!!」
りんねは懐から拳銃を取り出した。

「お願い!りんねちゃん私を信じて!!」
あさみは拳銃を向けられている恐怖より、りんねへの仲間意識を優先した。
危険を顧みずりんねに飛びつこうとしたあさみの胸の中心を次の瞬間、銃弾が貫く。

――りんねの右手に握られた拳銃の銃口が煙を吐いている。

「り…りんねさん…あんたなんてことを…だ…大丈夫!?あさみちゃん!?」

「う…うわぁぁぁぁあ!!」
あさみの血を見て動転したりんねは我を失い一刻も早くその場を離れようと
走ってどこかへ行ってしまった。

「う…うぅ……」
あさみの荒い息は早くも次第に静まろうとしている。
致命傷だった。
「な…なんでこんなことになるの…」
1分も経たない内に、困惑する市井の腕の中であさみの呼吸は完全に停止した。
全身の3分の2が犬で出来たあさみに最期に芽生えた帰巣本能は、
その目的を果たすことなく仕事を終えた。
32マングース西浦:02/02/03 21:27 ID:XSczaIBG
――数時間後、街外れの公衆電話の中のりんね
「り…梨華ちゃん、独立正規軍を加護ちゃん達が待ち伏せしているところにおびき寄せたよ」
『…りんねさん、馴れ馴れしく梨華ちゃんとか呼ばないでもらえます!?
 お友達じゃあるまいし…それに私、りんねさんみたいに土臭い人大嫌いなんです』
「く……はは…分かりました。石川さん、言われた通りにやりました」
『で、敵を目の前にしておいて中東の辻、加護ちゃん達の部隊はメロン記念日を
 処分することも出来なかった…と』
「…」
『…ま、いいか。じゃあまたお金は振り込んでおくから』
「…」
黙り込むりんね。

『もしもーし、りんねさーん。どっか行ったのかな?』
「…ねぎらいの言葉も無いの…!?」
『?あれー!?りんねさん怒っちゃった?自分の立場もわきまえずに』
「あ…あんた、たまには自分の手でやってみたらどうなの!?」

石川は南米方面軍司令だが、実質上戦闘はほとんど同行している吉澤任せで
つい最近アメリカ政府とココナッツ娘。が連合して強敵と思われていた
ハワイ諸島まで占領してしまっていた。
次々と戦闘をこなしてくれるフィジカル面で抜群に優れた相方の吉澤がいたからこそ、
フィジカル面が圧倒的に弱い石川は権謀術数に専念できているのである。
吉澤が馬鹿だったことも石川にとっては都合が良かった。

「も…もうあんたからの指図は受けない!」
『…あっそう、いいけど連絡は取れるようにしておいて下さいね』
「うるさい!!」
荒々しい受話器の音を最後にして、電話ボックスの中は沈黙に包まれた。

――
「あさみちゃん戻ってきた!?」
「…ううん」
翌朝になってもあさみは戻って来なかった。
心沈む大谷。別れがこんなに唐突に訪れるとは思っていなかった。

「…雅恵ちゃん、探しに行こうよ」
「え!?」

大谷が柴田の提案に思いがけず顔を上げる。
「あさみちゃんを許せるの?」
あさみの勧めのせいで命の危険にさらされた柴田である。
柴田は肯いた。
「行こうよ。あさみちゃんも今度は落ち着いて話せるかもしれない」
斉藤と村田も肯く。

「私も…行かせて下さい」

松浦だった。
日が昇るまでまだ少し時間がある。
既に永遠の別れが訪れているなどとは考えてもいない。
自分達全員の未来を信じていた。

数日後、ハロプロ独立正規軍はヨーロッパ進軍を決定した。

山崎直樹
モーニング娘。統一国家大王。年寄り。
33マングース西浦:02/02/03 21:28 ID:XSczaIBG
第6話 『血気』
辻希美、加護亜依率いる中東方面軍を撤退させ士気も一層高まるハロプロ独立正規軍は、
保田圭と新メンバーである紺野あさ美、新垣里沙らが治めるヨーロッパ方面へと進軍していた。
今回はヨーロッパでメロン記念日のイベントが行われるのである。

保田圭ヨーロッパ行政官は強引な吉澤石川らオセアニア方面軍とは違い不細工な顔ながらも積極的に
住民との対話の席を持ち、土着の住民達からの理解を得ながら慎重に進軍を行っている。
これまで着実に民衆の支持を得てきたハロプロ独立正規軍ではあるが、
今回の保田は様々な意味においてかなりの強敵になるであろうことは間違い無かった。

この日、緊張感走るハロプロ軍の陣営に市井が久しぶりに姿を見せていた。
「大多数の為には少数を切り捨てることもやむを得ん…か…がっかりやな」
市井からつんくの言葉を聞かされた平家が深く息をついた。
市井は後藤が伝えてきたつんくの陰謀の中身を平家の耳に届けに来たのだ。

「みっちゃんはどう思う?つんくさんは間違ってる?」
「言うまでもあれへんやないの。大多数の為に少数を切り捨てるなんて
 今までの政治家がやってきたことと全く一緒やん」
「それは、それが最善のことだったからじゃない?」
「私はちゃうと思う…私が思う最善の社会は、そうやな…例えばこのうどん」
そう言ってゆったりした食事の時間も無い平家が昼食のうどんを箸で指した。

首をかしげる市井に一度視線を移し更に続ける。
「大多数の中に、最大限少数を反映させることができる…そう、この七味とうどんみたいに。
 うどんに入れる七味なんてほんのちょっとやのに、それが入ってるのと入ってへんのやったら全然風味がちゃう」
それが社会において実現出来て始めて、人類は政治を持ったと言える。
しかし、つんくが築こうとしている国家はそれからは遠いものだった。
市井は分かりにくい例えにも関わらず大体理解し肯く。
「つんくさんは急ぎ過ぎてる気がすんねんけどな…」
未だに汚職が絶えない政治の世界を見る限り、
そんな理想の社会はまだまだ遠い。つんく1人の力ではとても無理だろう。

「そう言えば、つんくさん倒れたらしいね」
まだ誰も深刻にとらえてはいなかった
「そらあれだけ働いとったらいつかは倒れるやろとは思っとったけど…
 あの人のことやしたいしたことは無いんちゃう!?」