『この地球のかけがえのないきれいな自然と、みんなの笑顔を守るために、私達は負けられません。
だから、今はみんなの力が欲しい。またみんなで明るく笑って暮らせるように、
今はみなさんの力が必要なんです』
「…安倍さん…」
テレビに映し出されていたのはモーニング娘。の安倍なつみの姿だった。
安倍は手話を交えながら必死に平和を訴えている。
こういうことをやらせるとハロプロ内では安倍に敵う者はいない。
老若男女幅広い層から嫌われないキャラクターは安倍の持つ最も優れた才能の一つだった。
『みっちゃん、みっちゃんがあの仲良しだった祐ちゃんを殺してまで戦うつもりなら、
なっちはもうためらわない。全力で、正々堂々とみっちゃんに戦いを挑むつもり』
テレビカメラを前にして、安倍は必死に遠いかつての戦友に呼びかけていた。
「中澤さんを殺したのは平家さんじゃない!」
「こ…これじゃあうちらがまるで悪者みたいじゃない…」
「それまでのやり方では分が悪いと判断するとあっさり路線を変えて活路を見出す。
つんくさんは昔からこう。音楽界でもこうやって危ないところを擦り抜けてきたの。
諦めがいいと言うか現実主義というか…とにかく、これがつんくさんのやりかたなのよ」
メロン記念日のメンバーらと比較して、石黒とつんくの付き合いははるかに長い。
石黒の言葉にただ肯くしかなかった。
平家、稲葉、ココナッツらを除いた彼女らにはどうすることも出来なかった。
平家らとココナッツ娘。一派との会談が始まって、すでに一日近くが過ぎようとしている。
その時だった。
ガタッ!
ガタタッ!!
「!!」
平家の部屋から何かが倒れるような大きい音がした。
「な…何!?」
驚いた村田が周囲に視線を走らせる。
その次の瞬間、
パン!!
「う…うわぁぁ!!」
弾けるような大きな音が響いたとほぼ同時に、誰かの悲鳴が柴田らのいるロビーにまで届いた。
「じゅ…銃声だワン!」
「ま…まさか瞳ちゃん達が…」
「馬鹿だねあんた達、話合い始める前に相手の銃を取り上げておかなかったのかい!?」
石黒の声を背中で聞く彼女らだったが、その声は耳には届いていない。
斉藤らのいる平家の部屋へとすでに駆け出していたからだ。
「ひ…瞳ちゃんだいじ…ぅぶ!」
言いかけた大谷の顔面を、唐突に開いたドアが直撃する。
「だ…誰か!!救急車!!」
ドアを開けたのは斉藤だった。
「う…」
最初に部屋の中を見たあさみが前足で鼻のあたりを押さえる。
「ひ…ひどい…」
続いて部屋の前に着いたメンバーも、次々に顔色を変えていった。
部屋の中は、すでに血の海に変わっていたのだ。
「いいから早く!誰かお医者さん呼んできて!!お願い!!」
斉藤の悲鳴に近い叫びが、メンバーの立ち尽くす廊下に響いた。
――
『なっちは本当は戦いたくなんかないんです。でも、悲しいことに、もう話し合いで解決出来る
段階はずっと前に過ぎてしまいました。なっちは、覚悟を決めました。
――死んでいった人達は、私達に大きな悲しみを残していきます。でも、
いつまでもそれを引きずっていたらその悲しみは鎖のようにどこまでも長く、
重く私達にのしかかることになります。
この悲しみの鎖を断ち切ることが出来るのは生きている私達だけです。
そして、多くの人の協力があれば、それだけ鎖を断ち切るのも大変じゃなくなると思うんです。
私達は、一人でも多くのみなさんからの協力をお待ちしています』
「ふぅ…」
安倍なつみの国民放送を見届けて深い息をつくのは、
中澤裕子が戦死し、暫定的に名目上おそらく一時的とはいえモーニング娘。軍代表となった
飯田圭織だった。
(みんな一体どうなってるんだろう…)
飯田は病院で治療を受けている。
仲間である中澤裕子の死までをも戦意高揚の道具として使ってしまっている石川、安倍らのメンバー達。
飯田には理解出来なかった。