元気爆発メロン記念日

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1マングース西浦
来月くらいからテレビにいっぱい出ます
2 :02/01/26 03:06 ID:wCJJFFU0
新曲に期待してますよ、連打!連打!
32:02/01/26 03:06 ID:0ox7RO+U
2
4マングース西浦:02/01/26 04:05 ID:dqI9lHIX
第1話 『誘拐』

鉄の腕は萎え
鉄の足は力を失い
埋もれた砲は二度と火を吹くことは無い

鉄の戦士は死んだのだ
狼は死んだ
獅子も死んだ
心に牙を持つものはすべて逝ってしまった

しかし
鉄の戦士は信じていた
若者は今日も生き
今日も走っていると
5マングース西浦:02/01/26 04:06 ID:dqI9lHIX
――某日、都内某所
「今日は東京、明日は中国、その三日後にはインドでイベントだって。しんどいね」
「雅恵ちゃん、しんどいなんて言ってる場合じゃ無いって」
「けどさぁ、デビューイベントってみんなこんなにきついの?」

彼女達はデビューを間近に控えた『メロン記念日』というアイドルグループである。
4ヶ月の秘密特訓を終えたばかりの4人の行く末には輝かしい芸能界での活躍の場が用意されている。
デビューイベントの忙しさを乗り越えればその後はテレビやラジオにひっぱりだこ。
自分達を待つ途方も無い運命を知らない4人はこの時そう思っていた。

4人がイベントの打ちあわせをしていたそんな時
モーニング娘。以下ハロープロジェクトのメンバー達の基地、UFA本部から指令が届く。
「ん…あ、指令だ」
そう言ったのはグループの一員でありリーダー格でもある村田めぐみである。
彼女は体の半分近くが金属で出来ており、電波を受信することができる。
メロン記念日の通信を担っていた。
通話を開始するなり

「う…うそでしょ!?平家さんが誘拐された!?」

村田は声を張り上げた。
他のメンバーが聞き耳を立てるまでも無く
他の3人の耳にも緊急事態が巻き起こったということが伝えられた。
『平家さん』とは、4人の先輩であり教官でもあった平家みちよのことである。

「…ありがとう、りんねちゃん」
そう言って村田は通信を切った。
りんねとは平家みちよの補佐官のような立場のメロン記念日と似たような
カントリー娘。という新進アイドルグループの一員である。
平家が連れ去られて途方に暮れている様子だった。

「どどど…どうしよう…平家さんが…」
「落ち着いて、めぐちゃん」
露骨に動揺する村田をなだめたのは斉藤瞳だった。
4人の中では2番目に年長で、体の99%が金属で出来ており4人の中では一番落ち着いている。

「平家さんを誘拐するなんて…犯人はどんな物好…どんな悪党なの!?」
大谷雅恵である。
体の半分近くが金属で出来ており口から火を吐くことができる。

「迷ってる場合じゃない!早くUFA本部に行って確かめないと!」
柴田あゆみだった。
4人の中では最も生身に近く、一度聞いた音楽ならば自分でアレンジして演奏することができる。
3人はこの最年少メンバーの提案に肯くとUFA本部へと向かった。
6マングース西浦:02/01/26 04:08 ID:dqI9lHIX
ほどなくしてUFA本部に到着する4人。
いつもと変わらない無機質な鉄筋コンクリートのビルだった。
「何か嫌な予感がする…」
入り口をくぐろうという時柴田が表情を歪めた。

「…とにかく、つんくさんに聞いてみようよ。何がどうなっているのか」
4人はつんく大将執務室に向かった。

「あれ…?」
その途中のエレベーターの中で、4人は知った顔と出会った。
元モーニング娘。の市井紗耶香である。
「この誘拐には解せないことが多すぎる…」
市井は何かを知っているような様子だった。

「何か知ってるんですか?」
斉藤の問いに市井はかっこつけ気味に微笑むと、静かに語り始めた。

「私は、真実を知りたかった。だからモーニング娘。もやめた。
 …もう虚飾と虚構にまみれたモーニング娘。に未練は無い…
 この世界にはどうして売れない人と売れる人がいるのか…私はハロープロジェクトに
 無限の真実と可能性を感じる。ハロプロにはその答えがある気がする…
 私はハロプロを信じているんだーーー!! ……って、あれ!?」

市井の演説が終わる頃既に目的の階に着いた4人はエレベーターの中にはいなかった。
「ま…待って!」
4人は既につんくの部屋の前にいた。

コンコン…

メロン記念日の4人がドアを叩く。
「誰や!?」
「私達です」
「ん…メロン記念日かいな…入れや」
入室した4人は室内に珍しい光景を見た。
モーニング娘。がつんくの部屋に全員集結しているのだ。
しかしそのことよりまずメロン記念日のメンバーは驚くべきことに気付いた。
手錠を掛けられた平家がつんくの側にいるのである。
「へ…平家さん!?誘拐されたんじゃ…」
なぜか誘拐されたはずの平家がつんくの側にいる。
これは一体…4人が呆気に取られているうちにつんくが口を開いた。
「平家が悪い子やからちょっと謹慎してもらおうと思ってな」
平家はうつむいたまま黙っている。

「そ…そんな、平家さんほどのいい子はいないのに…」
「…要するに、お前らの知ったことや無いっちゅうことや。
 仕事の時は呼び出すからわざわざこんなとこまで来んでもええがな」
つんくの様子がいつもと違っている。
いつもの10倍は冷たく感じられた。

「帰って下さい」

モーニング娘。後藤真希が冷たく言った。
「で…でも」
食い下がろうとする4人を、
「でももストもあるか!つんくさんは忙しいねん帰れ言うたら帰れ!」
中澤裕子が一喝する。
中澤はモーニング娘。のリーダーでありハロプロ全体でも最も高い地位についている。
4人は帰るしかなかった。

しかしその時不意に部屋の外が騒がしくなりつんく大将の部屋のドアが開いた。
「後藤、ちょっと冷たいんじゃない?」
警備員の制止を振り切って強引に入室してきたのは市井紗耶香だった。
「い…市井ちゃん」
後藤の表情があからさまに変わる。
後藤と市井はかつて師弟関係にあった。

「全部聞かせてもらったけど、本当に何がどうなったか説明してもらえないの!?」

「市井、モーニング娘。に戻ってくる気は無いんか!?」
「今はそんな話じゃない。それに、今はそんなつもりは全く無いです」
話を変えようとしたつんくを軽くかわす市井。

「…ええから、早く出て行ってほしいんやけど」
「祐ちゃん、私に言ってるの!?少し前まで同じモーニング娘。だった私に!?」
「そうや、紗耶香と、メロン記念日全員に言ってんねん」
かつては一緒に苦楽を共にした仲間じゃん
そういう顔も、この時の中澤にはなぜか通用しなかった。
むしろ逆効果だったか…市井は中澤の顔を見てそう感じた。
「…分かった」

5人は退室した。
部屋を出るなり市井は
「変…なんかおかしすぎる」
そう言うと早足にどこかへ行ってしまった。
7マングース西浦:02/01/26 04:10 ID:dqI9lHIX
「何がどうなってるの?何がなんだか…」
ここへ来れば少しは事態を理解出来ると思っていた4人が与えられたものは
更なる混乱以外のなにものでもなかった。
「平家さん…どうなっちゃうの?」
「分からないよそんなの…でも、まずは目の前にあるイベントを成功させないと」
「そうだね…そうしないと戻ってきた時平家さんから怒られる」
しかし、事態は既にそれどころでは無くなってしまっていたのである。

つんく大将の部屋では恐るべき陰謀が動き始めていた。
「平家、ありがたく思いや…かつてのグランプリのよしみでお前だけは助けてやるんやからな」
手錠の戒めを解かれた平家は椅子に座らされていた。
しかし未だに口から何の言葉も発していない。
「平家さん…どうして何も言ってくれないの!?」
そう言って肩に置かれようとした後藤の手をはらう平家。

「みっちゃん!?」

平家は突然立ち上がると、つんくに向き直った。
「つんくさん…世間のみんなは確かにつんくさんのすることに注目してくれてます。
 そしてつんくさんもそれに答えてるっていうのも分かります…
 でも、今回はやりすぎちゃいますか!?…モーニング娘。で世界を征服しようなんて
 どう見てもやり過ぎですよ!」
ここで言う世界征服とは、歌手として世界を視野に入れて活動を始めるという意味ではない。
文字通り、軍事作戦で世界を征服しようという話だった。
日本の芸能界を支配したつんくの更なる野心の矛先は、とんでもない方向に向けられている。
「それはどうかな…!?」
この俺には不可能なことなんてあらへん…
不敵に笑うつんく。

その世界征服の手始めとしてモーニング娘。以外のハロープロジェクトを植民地支配する。
ハロープロジェクトはメンバーの総数がモーニング娘。のメンバーの数に迫り
その勢力はモーニング娘。にとっても無視出来ないものになろうとしていた。
だが、俺にとってはそんなことは赤子の手をひねるのと同じくらい容易なこと…
そうつんくは考えていた。

「平家、そんな文句今更言うんやったらなんでさっきメロン記念日が来た時ずっと黙っててん?
 メロンと一緒に逃げることだって出来てたはずや。それを俺らが止めんいうことも分かってたはずやろ」
「そ…それは…」

無意識に自分の身を大事にしてしまっていた平家は応えられなかった。

「既にメロン記念日が向かってる中国にはルナセア隊を送り込んでるんだよね」
ルナセア隊は悪名高い傭兵部隊である。
「ああ、メロン記念日ごときにモー娘。本体を煩わすことも無いやろからな」

(酷い…メロンのみんな…ごめんな…)
平家がそう無事を願っていることを知らないメロン記念日は
東京でのイベントを成功させ、翌日早朝のフライトに向けてミーティングも早めに済ませ、
それぞれの時を過ごしていた。

登場人物

柴田あゆみ
メロン記念日。リズム感がいい。音痴。
大谷雅恵
メロン記念日。火を吹くことができる。体の半分が鉄で出来ている
斉藤瞳
メロン記念日。力強い。体がほとんど鉄で出来ている。
村田めぐみ
メロン記念日。かわいい。体がだいぶ鉄で出来ている。電波を司る神。
平家みちよ
元ハロープロジェクト評議会ソロの会代表。誘拐された。賢い。いい子。
りんね
カントリー娘。ただし今は一人しかいない。元平家みちよの補佐官。怖がり。

中澤裕子
ハロープロジェクト評議会主席議員。モーニング娘。偉そう。年寄り。
後藤真希
ハロープロジェクト評議会議員。モーニング娘。若い。かわいい。市井のことが少し好き。

市井紗耶香
元モーニング娘。謎の人物。探偵みたいな感じ。

つんく
UFA大将。大阪弁。偉い。目が丸い。金髪。
8名無し募集中。。。:02/01/26 04:19 ID:+wgM7Zsh
続きをお楽しみに待ってます。
頑張ってください。
9マングース西浦:02/01/27 02:30 ID:4KPFzCuw
第2話 『砂漠』
「♪にっしだ♪ひがっしだ♪み〜なみ〜だき〜た〜だ〜♪と〜な〜んしゃ〜あ〜ぺ〜い
 み〜ぎ♪ひ〜だ〜り〜♪いぬ〜がにっしむきゃおはひ〜がし〜♪
 ま〜わ〜り〜ぜ〜んぶ〜がて〜きば〜か〜り〜」
メロン記念日の中国進軍が続いていた。
「まだ会場につかないの?」
大谷がうんざりしたような顔を回りに向けるが誰も応えようとしない。
中国は多分日本の10倍以上広く、そのため移動時間も10倍以上かかってしまう。
そうでなくても前日に東京でイベントを終えたばかりなのである。
理解していたつもりだった4人も我慢の限界に近づいていた。

「あ〜も〜喉かわいた〜!」
「駄目だよ雅恵ちゃん!砂漠では水は貴重なんだから!さっき飲んだばっかでしょ!」
「だって〜…歌手は喉が命なのに〜!」

4ヶ月の秘密特訓にも耐えてきた4人ではあったがさすがに砂漠の暑さは始めての体験だった。
この様な状態で満足にイベントを成功させられるのだろうか…4人の心の中に不安が広がっていた。

――一方UFA本部
「ねえ後藤、吉澤どこ行ったか知らない?」
飯田圭織が1人メンバーが足りていないことに気付いた。
「よっすぃー?そう言えば…私も今朝から見てないよ」
普段からメンバーの中でも吉澤と一緒にいることが多い後藤真希が答える。
メンバーの中でも吉澤はよく分からないところがある。
「吉澤になんか変わったこととか無かった?」
「そう言えば…ずっとルナセア隊かっけーとか中国うらやましいとか言ってたような…」

「…それだ…」

――再び、中国
「おやじ、これ一個いくらだ!?なんだと!?1元?円しか持ってねえよ!!」
荒々しい声と屋台が崩れる音が同時に砂漠のオアシスに出来た小さい村に響く。
「ひ…ひぃぃ!どうぞ好きなだけお持ち下さい!!」
「ふん、タダなら最初からタダって言えよ…おい!彩!全部タダだとよ!」

「……」

荒々しく名前を呼ばれたのは石黒彩、元モーニング娘。のメンバーであり
現在は悪名高い傭兵隊ルナセア隊の副隊長である。
「おい、呼んだら答えろよ」
無理矢理店の商品を強奪してきたこの荒々しい男は真矢と言い、ルナセア隊の隊長であり
石黒彩の夫でもある。背中に長い棒を二本下げている。
かつてルナシーというロックバンドに所属していたスターだったが解散後
限界を感じたと言い残し引退、今では傭兵として各国の戦場にその身を投じている。
「早く戻らないと標的が来るよ」
「ん?おお、そうだな」
2人はメロン記念日が通る道を先回りし通り道に陣営を開き、
メロン記念日が来るまでのあいだの暇を潰しに来ていたのだ。

ピィィ…ン
運転する真矢の隣で石黒が親指でコインをはじき、それを手の甲で受け止めた。
「またコイン占いか!?」
「よく当たるんだよ、これが」
しかしその結果を見た石黒の表情が見る間に変わった。
真矢がそれに気付く。
「どうした?」

「…最悪」
石黒が舌打ちと共に言った。
10新着レスの表示:02/01/27 02:32 ID:pvzzk2CV
やっと復活しやがったなコンチキショー!ベラボーめ!
11 ◆KOSINeo. :02/01/28 01:03 ID:oOx7fC5r
小説総合スレッドで紹介&更新情報掲載しても良いですか?
http://tv.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1000493808/
今回は最後まで読みたいです。
12マングース西浦:02/01/29 06:50 ID:o/HstRmX
陣営は村から20分ほどジープを走らせれば着く場所にあった。
陣営について見廻っていた石黒が見知らぬ顔が1人部下に混ざっていることに気付く。
石黒は珍しい物を見るような顔で陣営をうろつくその少女に声を掛けた。
「あんた誰?」
「吉澤ひとみです。よっすぃーって呼んで下さい」
石黒はすぐにそれがモーニング娘。のメンバーの1人ということに気付いた。
「あ、あんた、こんなとこまでどうやって…」
「飛んできました」
吉澤は体の半分以上が軽量な硬質セラミックで出来ており、
『かっけー』が口癖だけに鳥の『カッコウ』の10倍くらいのスピードで空を飛ぶことができる。

「ちょ…いいからちょっとこっち来て」
何かに気付いたのか石黒が慌てながら吉澤の手を引く。
物陰に隠れて人目を確認し、吉澤に静かに言葉をかける。
「…あんた、絶対に真矢に見つかったら駄目だよ。あいつは変態なんだから…
モーニング娘。と見たら手当たりしだいなんだ。私だってあいつから無理矢理…」
「え!?」
石黒は一瞬つまらないことを言ってしまった、という表情を見せたが
すぐに表情を戻すと、吉澤に視線を戻した。
「まあ来ちゃったものはしょうがない…終わったらちゃんと日本に送ってあげるからさ」
「私日本から飛んできたんですよ」
「はいはい」
石黒はまさか吉澤が本当に空を飛んできたとは思わない。

「奴等が来ます!」

見張り役の声が陣営に響いた。
「じゃあ分かったね!?ちゃんとここに隠れてるんだよ」
「はい」
石黒は言い残すと、戦闘配置に着くためにその場を離れた。

――一方、車内のメロン記念日
「なんだ?あれ!?」
最初にリーダー村田が前方300メートルにある敵陣営に気付いた。
「何か嫌な歓迎ムードなんだけど」
続いて、斉藤が自分達に向けて狙いを定めているバズーカ砲に気付く。
「や…やばい!」
ブォォーー!!
大谷が炎を吐いて移動用のバスの側面に大穴を開け
そこから次々と脱出した。

砲弾が無人のバスを直撃したのはその直後だった。

「やるな…この俺様のバズーカ砲をかわしやがるとは」
隊長真矢が姿を現す。
13マングース西浦:02/01/29 06:51 ID:o/HstRmX
>>11
おねがいします
14新着レスの表示:02/01/30 01:56 ID:NAu7EFTR
メルヘン担当:大谷
15マングース西浦:02/01/30 02:50 ID:YAFK6cxF
「何するんですか!!」
もしあの厳しい4ヶ月の特訓が無ければ今の砲撃で死んでいたかもしれない。
斉藤が憤りを露わにする。
「仕事なんでな…悪く思うな。お前ら全員始末するように言われている」

「な…一体どういう…!しまった!」
気付いた時は既に遅かった。
全身の99%が金属で出来た斉藤の体は既に膝のあたりまで砂漠の砂に沈んでしまっていた。
「な…なんでーー!?」
体の半分程度が金属で出来ている大谷も、村田も砂に足を取られている。

「はははは!!見たか!」
真矢は背中に下げていた二本の長い棒を手に取るとそれで砂漠の地面を叩き始めた。

「そ…そんな…」
真矢が地面を叩くことによって砂漠に地震が起こり、それによってさらに
斉藤らの体が砂に沈んでいくのだ。斉藤は腰のあたりまで沈んでしまっている。
このままでは窒息死は必至である…その時、
「えーい!」
「うおっ!」
地震が止まった。
真矢の手を止めたのは柴田の飛び蹴りだった。
柴田は唯一生身なので砂漠に足を取られずに済んだのだ。
「小癪な小娘め!」
横薙ぎに払われた棒を素早く避ける柴田。

その時、柴田の口からとんでもない言葉が!
「もう止めて下さい。イベントに遅れちゃいます」

(な…なんだって?)
真矢の戦いを眺めていた石黒が感嘆の息を吐いた。
(こんな時にもイベントのことを考えてるなんて…所詮ただの地方回りのイベントなのに)

「だ、黙りやがれ!!俺達は傭兵部隊だ!!信用を失ったら飯の食い上げなんだよ!」
なりふりかまわず長い棒を振りまわす真矢。
しかし柴田はリズム感よくそれをかわしていく。
真矢の棒はかすりもしなかった。
「ハァ…ハァ…」
流石の真矢も次第にスタミナが切れてくる。
「く…くそぉ…」
真矢が力を振り絞り棒を振り上げようとしたその時だった。

「あんた!もうやめなよ!」

石黒の声が砂漠に響いた。
「もういい…真矢、あんたの負けだよ」
「う…うるせえ…俺は負けてねえ…いや、負けるわけにはいかねえんだ…」
真矢の目に宿った闘志はまだ消えていない。
「傭兵は信用が大事ったって失った信用はまた取り戻せばいい…
 …大の男が面子なんか気にしてるんじゃないよ」
「め…面子のためなんかじゃねぇ…この仕事の報酬がパアになったらお前の
 腹の中にいる子供はどうす…はっ!」
真矢がはっとしたように口を閉じた。

根が優しい真矢は乱暴者を演じることでその優しさを隠していた。
優しい男など軟弱者だと常に馬鹿にしていたからだ。
音楽の道を断念し傭兵になったのも実は仕事が無かったからでも、
才能に限界を感じたからでも無かった。
傭兵が一番手っ取り早く家族の為に大金を稼げる仕事だったからだ。
しかし真矢は常に
『俺は暴れるのが好きだから傭兵になった』
そう言っていた。
そんな真矢が極限状態でつい石黒への愛情、つまり本音を人前で口に出してしまったのだ…

「あんた…私のことをそんな風に…」

石黒の両目に涙が浮かんでいる。
「彩…素直になれなくてごめんよ…」
真矢も同様だった。
「いいの。いいのよ…」
人目をはばからず抱き合う2人。

「夫婦愛かっけー…」
その一部始終を吉澤は物陰から見ていた。
メロン記念日の戦い振りを見届けた吉澤は我に返る。
「…おなかすいたしもう帰ろうっと」
吉澤はそのまま日本に帰っていった。

「あの…私達車が無くなっちゃったんですけど…」
取り残された柴田が遠慮がちに2人に声を掛ける。
「私達の車勝手に乗っていっていいよ」

石黒に言われた通り車に乗りイベント会場へと向かう4人。
この日のイベントも大成功に終わった。

登場人物

飯田圭織
モーニング娘。ハロープロジェクト評議会議員。背が高い。チタン製。仲間思い。老けている。
吉澤ひとみ
モーニング娘。背が高い。半分くらいセラミック製。空を飛べる。強い。馬鹿。
真矢
ルナセア隊隊長。太鼓が得意。太っている。
石黒彩
ルナセア隊副隊長。なぜか真矢と結婚している。妊娠している。
16マングース西浦:02/02/01 07:50 ID:DObrrRuK
第3話 『救出』

メロン記念日は3日後にインドでのイベントを控え、
一度雑誌の取材のために東京に帰ることになっていた。
そして日本に帰ったメロン記念日のメンバーは日本の余りの変化に愕然とさせられることになったのである。
まず初めに空港に到着するなり機内放送でモーニング娘。の曲がかかった。
空港内でもモーニング娘。の曲しかかからない。
空港内での人々の会話には端々に『ごっちん』『なっち』などといった単語が必ず混ざっている。

モーニング娘。が軍事クーデターによって日本政府を転覆させ政権を強奪しまったのだ。

「い…一体どうなっているの?…たった1日日本にいなかっただけなのに…」
まるで便を間違えて違う国に来てしまったような気分の4人だった。
「とにかく、UFA本部に行って聞いてみようよ」
UFA本部に到着した4人は再び度肝を抜かれることになる。
無機質な鉄筋コンクリートのビルだったUFA本部がまるで戦国時代の
天守閣のような姿に様変わりしているのである。

「嘘でしょ…」

その時、
「貴様ら、メロン記念日だな!?」
4人に気付いた警備員が声を掛ける。
「そ…そうですけど」
2日前までこんな厳重な警備は無かったはずなのに…
そう思いながらも返答した4人は思わぬ言葉を聞くことになった。
「貴様ら全員逮捕する!」
「な…なんで…!?」
全速力で逃げる4人に警備員はおいつけるはずも無かった。

しかし、何がどうなっているのか…公園に逃げ込んだ4人は途方に暮れていた。
数日前までは味方だったUFA本部が敵になってしまったとでもいうのか…
そんな時、知った顔が4人の前に姿を現した。
「また会ったね」
「市井さん…」
市井紗耶香である。4人にとって敵では無いはずだった。
「一体何がどうなってるんですか?」

市井から一部始終を聞かされた4人はまるで夢の世界にでも送り込まれたような気分だった。
モーニング娘。が軍事クーデターで日本政府を乗っ取り、つんくがモーニング娘。評議会議長、
山崎直樹という男がモーニング娘。統一国家の初代大王に就任し世界の軍事支配を開始したという。
安倍なつみと新メンバーから1人がロシア方面、飯田圭織と新メンバー1人はアフリカ方面、
保田圭と新メンバー2人はヨーロッパ方面を、辻希美、加護亜依の2人は中東方面、
石川梨華、吉澤ひとみの2人はオセアニア方面をそれぞれ侵攻しているという。
矢口真里は日本最大の総合商社T&M。カンパニー(タンポポアンドミニモニ。カンパニー)
の経営を任され、中澤は日本軍代表となり、後藤はつんくの補佐官となった。
つんくは
『地球上に全人類が待ち望んだモーニング娘。統一国家を樹立する』
そう言っているという。
そして、その際にモーニング娘。を除くハロープロジェクトの植民地支配も合わせて発表された。
17マングース西浦:02/02/01 07:52 ID:DObrrRuK
「モーニング娘。統一国家…って…」
絶望的な状況だが、市井の表情に暗いものは無かった。
市井は続ける。
「でも、つんくさんは最初に一つ大きな失敗をしたね…」
「何ですか!?」
「世界に進出する前にハロプロを完全に屈服させられなかったってこと」
はっとする4人。
「へ…平家さんは無事なんですか!?」
ここで始めて市井の表情が暗くなる。

「無事は無事だけど…ある意味死んでるのと同じだね」
「どういうこと?」
市井は新聞を差し出すことで答えた。
「『私、平家みちよはモーニング娘。統一国家を支持します…』…って何これ!?」
「へ、平家さんがこんなことを言うはずが無いよ!!」

「かつてのグランプリ受賞者が利用されてるんだよ…全く酷いことを…」
市井の表情が更に曇る。
つんくら首脳部はかつての勝者に公開の場でモーニング娘。を称える内容の
発言をさせることで国家の正当性を強調しようとしているのだ。
絶句する4人。

「助けようよ…平家さんを…今の私達には私達をまとめてくれる人が必要だよ」
柴田が沈黙を破った。
「でも…どうやって!?」
「私達には力がある」
「そうか…この力で」
「…じゃ、じゃあまずハロプロのみんなに連絡を取ってみるよ」
村田が電波を発信したが、連絡が取れたのはカントリー娘。になったばかりという
あさみという名の少女ただ1人だった。
仲間だったりんねは突然始まった侵攻に脅えて逃げ出し、行方知れずになってしまったという。
りんねは体の4分の3が馬で出来ており臆病な動物だった。
そしてこのあさみは体の3分の2が犬で出来ており仲間意識が強い。
心強い新戦力となった。
稲葉貴子やシェキドル、三佳千夏などは既に各国に飛んでいるらしい。

「戦力は5人か…」
「私も出来るだけ支援させてもらうよ」
市井の情報支援も受け、平家救出作戦が始まった。

それからしばらくして市井がUFA本部の見取り図を持って来た。
なぜこんなものを…メロン記念日とあさみの5人は怪訝に思ったが市井は答えなかった。
それだけは教えられないという。
市井はモーニング娘。との間に特別なルートを持っているらしい。

村田と斉藤の2人が比較的警備が緩い東側の崖を登って地上から内部に侵入、
あとの3人が下水道を通って内部に侵入し、直接平家のいる謹慎室に潜入することとなった。
18マングース西浦:02/02/01 23:05 ID:QKfeEKyJ
救出作戦は肩透かしを覚えるほど簡単に成功した。
地上から潜入した2人が電撃攻撃と全身の99%が金属で出来ている体から繰り出す無双のパワーファイトで
警備員の気を引いている隙に大谷、柴田ら3人が下水道から体の3分の2が犬で出来ているあさみの
鼻を利かせて平家の部屋の真下の位置まで移動し、
「ここだワン!」
とあさみに促された大谷が火炎で床を溶かし直接平家の部屋に潜入、まんまと救出に成功したのである。

――つんく評議会議長執務室
つんく議長の部屋には平家の脱走に焦るつんくと後藤がいた。
「後藤、警備は一体どないなっとんねん?」
「ごめんなさい、まさかこんなことになるなんて…ちょっと昼寝してるあいだに…」
後藤はただただ怒るつんくに謝り続けていた。
この救出作戦の大成功に自分が関わっているということは市井と後藤、2人だけの秘密だった。
市井にUFA本部の見取り図を流したのは後藤だったのだ。
(つんくさんごめんなさい…でも、市井ちゃんは今でも私の大事な仲間なんです)
その時、中澤が入室してきた。
「つんくさん、やってもうたって感じですね」
「中澤、ノックしてから入って来い言うとるやろ」
「そんなこと言うてる場合やないでしょ」
言い返せないつんくに更に中澤が言う。
「平家も今はアレやとは言うてももともとグランプリはグランプリ…
 やっぱ処分しといた方が良かったんや無いですか!?」

「でもな…『平家』言う名前は惜しい…」
「そないなしょうもないこと言うてるから逃げられたんちゃいます!?」
「うるさい黙っとけ…く…時間が無い言うのに…」
つんくは最近違和感を覚えるようになった自分の左胸に手を当てた。

即日平家と、メロン記念日の手配書が全国の自治体に配られることになった。

――一方、救出作戦に成功したハロプロメンバー達
救出作戦に成功して以来平家はまだ一度も口を開いていなかった。
「平家さん…私達を導いて下さい」
「…」
柴田の呼びかけにも沈黙が続く。
「いくらモーニング娘。が大きいからって…こんなの絶対に間違ってる…ですよね!?平家さん」
まだ平家は何も言わなかった。
一度自分かわいさにメロン記念日を見捨てた自分…そのような負い目のある平家は
この4人に堂々と顔見せ出来る気持ちでは無かった。

「みっちゃん、これ食べなよ」
そんな時、市井が平家に何かを差し出した。
突然のことに一瞬驚いた平家だったがそれを受け取る。
見てみるとそれは透き通るように赤い色をした木苺だった。
平家は意を決したようにそれを口の中に放り込む。

「…うわっ!すっぱ!なんやのこれ!?」

「あはははは!!」
平家が初めて口にした言葉に、そこにいた全員が笑いに包まれる。
その笑いが静まった頃、市井が再び口を開いた。

「それが、今のハロープロジェクトの味だよ」
「ハロプロの味?」
市井は微笑んで続ける。
「今はまだ小っちゃくて、すっぱくて、アクが強くて食べられたものじゃない…
 その木苺でもあと数ヶ月も自然の猛威に耐えれば甘くておいしい木苺になる。
 でも、ここでしおれたらもう二度とおいしい木苺にはなれないんだよ」
「…」

「平家さん、これまでのことは全部忘れて下さい。私達はこれからなんです」
斉藤の言葉に平家は感謝するように一度頭を下げると、
ようやく話し始めた。
「…ごめんね…みんな…私弱い子やった…今からでもええならできる限りのことさせてもらうわ」

この日、ハロープロジェクト独立正規軍は旗揚げしたのである。

メロン記念日がイベントの為にインドへ旅立ったのと、オーストラリア戦線にいた
三佳千夏が大怪我を負い戦線を離脱したのは同じ翌日のことだった。

あさみ
カントリー娘。小さい。体の3分の2が犬で出来ている。元気がいい。
三佳千夏
第一次妹分計画合格者。足が長い。再起不能になったからもう出ない。
19マングース西浦:02/02/01 23:08 ID:QKfeEKyJ
第4話 『烙印』
インドに渡り稲葉部隊と合流し戦力を補充した独立正規軍のメロン記念日柴田大谷と平家は
買い付けた武器の受け取りに向かっていた。
「平家さん、新しい武器がみんなに渡れば少しはモーニング娘。と戦えるようになる!?」
「どうやろね…今回買い付けたのは連発式のガス銃やから今までの銀玉鉄砲よりは
 かなりマシにはなるやろけど」

質問に答えながらも平家は大谷に不安を与えないように気遣っていた。
どう考えてもこちらとモーニング娘。では戦力が違い過ぎる。
相手のモーニング娘。はステルス戦闘機や誘導ミサイルを完全配備しているのだ。
CD売り上げにしてもモーニング娘が100万枚超なのに対して独立正規軍は全員分合わせても
10万枚に届くかどうかの数字でしかない。
その為の今回のインドでのイベントではあるのだが…
単身オーストラリアでイベントを決行した三佳千夏は客が3人しか集まらなかったダメージで
再起不能となり戦線を離脱してしまっている。

パパパパパ…
「すごい!平家さん、ガス銃すごいって!まず銀玉鉄砲とは音からして違う感じ!」
「銀玉鉄砲は『ビーン、ビーン』いうバネの音やったからね」

「…」

はしゃぐ大谷の一方で柴田はガス銃を見たまま固まっている。
「どないした?」
声を掛けられた柴田はようやく視線を動かすと、
咎めるような表情で口を開いた。
「これ…この銃T&M。カンパニーの銃じゃないですか」

T&M。カンパニー(タンポポアンドミニモニ。カンパニーまたの名をトレードアンドマーチャンダイズ
カンパニー)はモーニング娘。の矢口真里が代表を務める日本最大手の総合商社である。

「あ、ほんとだ。T&M。って書いてある」
大谷も言われてようやく銃身に刻まれた製造社名に気付く。
一応それを消そうと表面を僅かに削った後はあるが、まだ充分社名は確認出来た。
「なんでT&M。カンパニーなんかから武器を買ったんですか!?」
「柴田、あんたはまだ若すぎる」
「だって…T&M。カンパニーは敵じゃないですか!」
柴田には理解できなかった。
なんで戦っている相手から武器を買わなければならないのか…

「柴田、私だって国産のワインがおいしいんやったら国産のワインでええとも思う。
 でもな、悲しいことに国産のワインってヨーロッパのワインと比べると味が落ちんのよ。
 そやから私はわざわざイタリア製のワインを買ってるの…分かるね!?」
「だからって敵から武器を買わなくても…」
「…柴田、人間を敵味方、たったふたつの簡単なレッテルで分けたらあかんよ。
 レッテルで言えばあんたもモーニング娘。も正確には同じハロープロジェクトの一員なんやから」

柴田はもう言い返せなかった。

――T&M。カンパニー社長室
T&M。カンパニーの若き代表矢口真里が受話器を取って誰かと話をしている。
「今回はありがとう…ホントのこと言うと経営マジで厳しかったんだ」
『いいんだよ…気にしないで。でも矢口さんも大変だね』
「…うん、大体いきなりつんくさんから『お前は明日から社長だ』とか言われてさぁ、
 …そんなの無理に決まってるっつーの!もうね、アホかと」
『はは…』
「でしょ!?だいたい表向きには『T&M。カンパニーは矢口が勝手に作った会社です』
 ってことにされてるけど私一回も社長になりたいなんて言ったこともないし思ったこともないんだよ」
『はは…まぁでもこれでハロプロの全員がモー娘。の敵じゃ無いって分かったでしょ!?』
なかば上ずっている矢口の声と比較して
話している相手の声はあくまで冷静だった。なげやりに近いと言ってもいい。
「う…うん、ありがとう。本当に感謝してる。じゃあまた連絡してよ」
『うん、いい話があったらね』
「待ってるからね、りんねちゃん」
ガチャ…

「フ…」
『りんねちゃん』と呼ばれた女性は受話器を下ろすと自嘲気味に特徴的な厚い唇の端を歪めた。
「やっちゃったよ…ついに…」
りんねは長い間牧場で働いて来て、ようやくアイドルとしてデビューすることが出来た苦労人である。
芸能界デビューさえ出来れば華々しい世界だけが待っている…しかし、現実は厳しかった。
思ったほどCDは売れず、しばらくするとこのハロープロジェクトの迫害が始まったのである。
りんねの精神は疲れ果てていた。
そんな時出会った相手にりんねは自分の運命を委ねてしまったのだ。
りんねは体の4分の3が馬で出来ており人一倍、いや馬一倍足は速いが臆病な動物だった。
20マングース西浦:02/02/01 23:10 ID:QKfeEKyJ
――再度、インド
この頃、ハロプロ独立正規軍は夕方のイベントに向けての作戦会議を進めていた。
「それじゃ作戦説明を始めます。夕方5時からメロン記念日がイベントを行う会場はここ、
 そして会場に向かう道の途中にモーニング娘。軍が築いたらしいでかい砦があるみたい。
 ここを破らんことにはイベント会場まで辿り着くことも出来んわけ」
よーし…そう肩を鳴らしたメロン記念日の横から口を挟んだ者がいた。

「あのさぁ、この作戦はうちらに任せてもらいたいんやけど」

稲葉貴子だった。
稲葉貴子は体の半分が振り付け師で出来ておりダンスの達人ではあったが戦闘力に関しては未知数である。
「稲葉さん大丈夫なんですか!?」
斉藤が心配そうに聞くのを見て笑うと、稲葉は答えた。
「作戦さえ実行できればええわけやろ!?それやったら別に絶対に主人公である
 メロン記念日が戦わなあかんいう決まりは無いわけや…ちゃうか!?」
「それは…そうですけど…」
返す言葉の無いメロン記念日を見た稲葉は自分の部隊から1人の少女を呼び出した。
呼び出された少女はわけも分からず不安そうな表情でキョロキョロしている。
「今回の作戦はこの子1人で充分や」

「えーーー!?」

少女が驚きの声を上げる。
「この子『えーーー!?』とか言ってますよ」
しかし稲葉は安心させるようにその少女の肩に手を乗せる。
「この子は『松浦亜弥』言うて、ハロプロの期待の新人なんよ」
「だからってたった一人でなんて…」
「あんたらかてたった4人でルナセア隊を撃退したんやろ?それやったらこの子だって出来るはずや。
 あんたらはイベント控えてんねんから、のんびり休んどき」
松浦は訴えかけるように無言で首を横に振っているが稲葉は気付かないふりをしている。
どう見ても作戦は成功しそうも無い…

しかし平家は
「分かった。じゃああっちゃん、松浦さん、頼むわ」
そう言って作戦会議を終えてしまった。

それだけで作戦会議を終えて司令官テントに向かおうとする平家を追いかけて柴田が呼び止める。
「なんでですか?」
「なんでって何が!?」
平家は柴田が何を言っているのかも分からないような顔をしている。
「何がって…あの松浦さんで本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫やって。稲葉のあっちゃんはああいう時にいい加減なことを言う人やないし」
稲葉貴子は体の半分が振り付け師出来ており、モーニング娘。軍の参謀長であり
乗り越えなければならない師の夏まゆみには
まだ遠く及ばないものの陣形(フォーメーション)のエキスパートである。
平家の作戦参謀格だった。
平家は作戦行動面において稲葉に全面的に信頼を置いている。
「でも普通に考えてあれじゃ勝てないと思います」
「そう?でも私体動かすんは得意やないからこういうのはあっちゃんに任せるって
 最初に約束したんよ」
平家は体の90%が平家物語で出来ている為に矢玉の飛び交う前線での戦闘には向かない。
最終的には必ず負けてしまうからだ。
「松浦さんは若すぎますよ」
「柴田、人は見掛けや歳で判断したらあかんよ。それにあんたらもイベント控えてるんやから
 リハーサルとかやっといたほうがええんと違う!?」
柴田は言い返さなかったが、少しでも危険になればすぐに救出に向かうことに決めた。
21マングース西浦:02/02/01 23:13 ID:QKfeEKyJ
それから数十分後作戦が開始され松浦が不安な足取りで砦に近づいて行く。
松浦は体の80%がなんか雑誌の裏表紙の裏の通販とかでよく売ってる
幸運の鉱石みたいなので出来ているが、実戦の経験も無ければまだ特別な訓練も受けていない。
松浦の不安げな瞳には巨大な砦が不気味に映っていた。
それでも松浦は必死で歩を進めていく。
(松浦さん…気をつけて…)
祈る柴田。
その時だった。

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
「わっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ」
砦の到るところから不気味な笑い声が響く。

「!…こ…こわ…」

(怖いです稲葉さん…)
不安げな表情で振り返る松浦に、稲葉はしかし更に前進するように促した。

「だ…大丈夫なの!?」
戦況を見守るメロン記念日。
リーダー格の村田が不安げに口を開いた。
「分かんないよそんなの」
大谷が唇をとんがらせて不安げな村田に答える。
今回の作戦は新加入の稲葉貴子が半ば強引に決定させてしまったものであり、
メロン記念日には出番すら与えられなかったからだ。
(大丈夫なはずが無いよ…)
柴田は遠い松浦の背中に真剣な視線を向けていた。

タタタタ…
ついに不気味な笑い声を切り裂くように砦の中段程の場所から銃声が響いた。
銃声は連発式のライフル銃のものである。
「危ない!」
柴田が茂みを飛び出し、松浦の救出に向かったその時だった。

「こ…こわーい!!」

ダダダダダダダダ…
松浦の両手の指先から砦に向けいくつもの銃弾が吐き出される。
砦の壁面が次第に崩れ、敵からの銃声も止んだところで松浦が屈み込む。
独立正規軍のメンバーが息を呑んで見守る前で、膝の皿のあたりが開口した。
それと同時に大声を上げる松浦。
「ミサイル発射!」
ボッ…
その声に続いて発射された脛の中に収納されていたミサイルが、砦を大破させてしまった。

「な…なにこれ…」

一瞬の出来事に唖然とする柴田。
松浦は最新型の妹分である。両手は機関銃で両膝には3発ずつ対空、対地空ミサイルが塔載されている。
たった一人で一個中隊並みの戦力を持っているのだ。
問題は松浦は気が弱く、それを使いこなせないという一点だった。

「そ…そんなことより、今ので怪我した人とかいたらたいへんだよ!」
斉藤が大破した砦へと駆け寄る。
いくら敵とはいえむやみに人の命を奪うことは出来ない。
斉藤に促されるように全員が砦を駆け上る。

しかし、そこにあったものは意外なものだった。
「あはははははは…」
この不気味な笑い声は砦の到るところに設置された笑い袋から発せられていたものだったのだ。
しかも、砦を守っていたのはライフル銃で松浦を威嚇した兵士ただ一人だけだった。
笑い袋は戦力を巨大に見せるためのものだったのである。
その兵士は左足に怪我を負っていたが命に別状はなかった。
22マングース西浦:02/02/01 23:15 ID:QKfeEKyJ
この兵士は、上官が作った作品を守るためにハロプロ軍にたった一人で立ち向かおうとしたのだ。
勝てるか勝てないかなどということは最初から考えてもいない。
勝利を約束された戦いなど存在しないのだ。
兵士はただ勝利を信じ前線で全力を尽くすだけ…

そう、今のメロン記念日はデビュー出来るかどうかも分からない先の見えない暗闇の中で
前線で、全力を尽くし目の前の一つ一つのイベントで着実に成功を重ねていくしかないのだ…
その行為が善か悪か!?それを決めるのは勝手な後世の歴史家である。

この日のイベントは稲葉がフォーメーションの監修をつとめ、大成功に終わった。

稲葉貴子
メンバー募集中。体の半分が振り付け師。稲葉部隊のリーダー。年寄り。前歯が大きい。
松浦亜弥
まだデビューしていない。ラッキーストーンで出来ている。ラッキーガール。期待の新人。

矢口真里
モーニング娘。会社を押し付けられた。粘土で出来ている。背が低い。あわてんぼう。
石川梨華
モーニング娘。黒い。吉澤と一緒に南米に行かされて不満。弱い。ずるがしこい。
23新着レスの表示:02/02/01 23:30 ID:Q2VORNrl
しばらくは保全がわりに以前の物のアップが続くのかな?
早く続きを読みたいのだが。
初めて読む人にとってはこっちの方が親切か。
24マングース西浦:02/02/02 00:07 ID:rOOYMPK6
ちょっとずつセリフとか色々手直ししながらです
休んでいた間続きを書いていた訳でもないので
ゆっくり行きます
25マングース西浦:02/02/02 21:36 ID:0kOwvUlW
第5話 『疑惑』
――日本、UFA本部
この日は分刻みのスケジュールのつんくが久しぶりにモーニング娘。統一国家の大王たる
山崎直樹と会談の席を持った日だった。
「えらい久しぶりですね山崎大王様」
「大王様は止めたまえ。前のように山崎さんと呼んでくれて構わん」
ほんの数日前までただの一芸能事務所の会長に過ぎなかった男が
今では一国の主となっている。
山崎当人にとっても慣れる暇が無かった。
「そうですか。じゃ山崎さん、最近どないです?お忙しいでしょうけど体のほう大丈夫ですか?」
「いやいやつんく君、君ほどではない。君こそ根を詰め過ぎないようにしてくれたまえ。
 君の代わりが出来る人間など他にはいないのだからな」
ふふ…と笑ってみせたつんくだったが、
根を詰めないでくれと言われて休む時間はつんくにはもはや残されていない。
左胸に感じるようになっていた違和感は既に痛みに変わっていた。
痛み止めの薬もきついものでないと効かないようになってしまっている。

「で、つんく君…君はなぜそんなにもハロープロジェクトのメンバーを害しようとする!?
 かつてはモーニング娘。と同じようにかわいがっていた娘達ではないか」
「…それは…山崎さん…ちょっと人払いさせてもらっていいですか」

そう言うとつんくは後藤真希補佐官に部屋を出るように命じた。
しかし後藤は部屋を出てしばらく廊下を歩いた後また部屋の前に戻って来ると
ドアにはりついて盗み聞きを始めたのである。
そこで後藤はつんくの思わぬ計画を知ることとなった。

「山崎さん、このプロジェクターを見て下さい」
そう言ってつんくは部屋に設置されたプロジェクターにプラネタリウムのような映像を映し出した。
山崎がそちらに視線を移したのを確認し、続ける。
「こちらにあるこの大きな丸がモーニング娘。ご存知100万枚アーティストです。
 そしてこの次に大きな丸がミニモニ。で50万枚、プッチモニが30万枚、タンポポが20万枚です」
「うむ。それはだいたい分かっている」
つんくもここまでは確認の意味で言ったことだった。
ついに本題に入ろうとするつんく。部屋の外の後藤も唾を飲んだ。
26マングース西浦:02/02/02 21:38 ID:0kOwvUlW
「次にこちら…この小さな丸の集まりが、モーニング娘。以外のハロープロジェクトです」
「ふむ…その中でも大きいのは平家みちよか…そして、カントリー娘。ココナッツ娘。
 メロン記念日…そしてなんだこの点は!?」
「その点はシェキドルです。それくらいになると肉眼では確認することすら出来ません。
 しかし…」
「しかし!?……ん?なんだ?小さな丸がだんだん大きく…この丸は一体なんだ!?」

ハロープロジェクトの小さな丸の集まりの中の余白だった場所に突然丸が出現すると、
それが次第に拡張していく。

「それが、松浦亜弥です」
「な…なんということだ…タンポポに匹敵しそうな大きさになってしまったぞ」
「そう…松浦亜弥はモーニング娘。を脅かす存在になる可能性を秘めてるんです…何より松浦は若い」
その時山崎がなぜか含みのある視線を松浦の丸に向けるつんくに気付いた。
「だがそれはいいことではないのか!?競い合うことでお互いを高めあえるのならば」
「それは違いますよ、山崎さん…く…」

つんくの額がいつのまにか脂汗で光っている。

「大丈夫か?つんく君、顔色がすぐれないようだ」
「いや、大丈夫、もう少しで終わります…もう少し聞いて下さい」
山崎が肯いたのを確認すると、気を取り直したつんくが続ける。

「ご存知の通り芸能界に椅子の数は限られています。選ばれし者だけがその椅子に座れる。
 モーニング娘。は今や13人…全員が椅子に座れる保証なんて無いんです」

やむを得ないことだ。と肯く山崎を見たつんくは首を大きく横に振る。
「でも俺は、13人全員を椅子に座らせてやりたい…」
「つんく君、残念ながらそれは無理だ」
山崎がそう言ったのを聞いたつんくは、一瞬山崎に鬼のような表情を向けた。
その表情を見た山崎がたじろいだことでようやく正気に戻る。

「だから、だから俺は全員が座れる可能性を少しでも増やしてやるために、この、
 松浦のような娘に椅子を用意してやることは出来ないんです」
松浦が芸能界の限られた椅子に座ってしまえば、モーニング娘。の誰かがあぶれてしまう
可能性が出てくる。
椅子取りゲームの論理だった。

「…モーニング娘。かわいさに他のハロープロジェクトメンバーを切り捨てるというのか!?
 大多数の為に少数を切り捨てる!?」
「やむを得んことです!俺はモーニング娘。全体のことを考えてます。
 もし松浦が平家らと手を組んで反乱でも起こしたら…すぐにモーニング娘。に
 匹敵することは無いにしても長期的に見て難敵になることは間違い無い!」
「しかしだな、つんく君、松浦達が反乱を起こす可能性はそんなに高かったとは思えん。
 今は…そう、状況がこうだから反乱は起こってしまったが」
「何を甘いことを…反乱の芽は小さい内に摘み取っておかなければ……うっ!」

ついにつんくが両足の力を失い倒れた。
「つ…つんく君!うっ…これは…」
山崎が抱えた時、つんくの背中はすでに汗でびしょ濡れだった。

「つんくさん!」
話を全て聞いていた後藤が部屋に飛び込んできた。
「後藤…お前ドアんとこでずっと話聞いとったやろ…」
つんくは発作で苦しみながらも本気で自分のことを心配してくれているらしい後藤の顔を見て、
厳しい表情の中に僅かに穏やかさを取り戻していた。
「ごめんなさい、でも私…つんくさんのこと誤解してた…つんくさんは
 自分の名誉の為に私達を利用してるんじゃないかって…」
「もうええ…何も言う…な…」
そのままつんくは気を失い、病院に搬送された。

つんくの病名は心臓疾患、静かな場所での療養が不可欠という診断である。
しかし、山崎が言った通り、つんくの代わりが出来る人間などいるはずが無かったのである…
つんくは当面UFA本部に近い病院の病室で指揮を取ることとなった。
27マングース西浦:02/02/02 21:39 ID:0kOwvUlW
――一方ハロプロ独立正規軍
この頃になると、すでにハロプロ独立正規軍はヨルダンにまで進軍している。
この日はこの国でメロン記念日のイベントがあったのだ。
イベントを前に、4人とあさみらの仲間はヨルダンの町を散歩することになった。
「お腹すいたよ〜!なんか食べない?」
「いいねぇ」
歩き始めて早々に大谷が空腹を訴える。
そして何人かはそれに同意した。

「あさみちゃんはどうする?」

問われたあさみはしかし、
「私まだお腹減って無いからいいや」
そう言って断わった。
あさみは体の3分の2が犬で出来ているので散歩が大好きなのだ。
「じゃあ私もあさみちゃんと一緒に行く」
「なーんだ、雅恵ちゃんがお腹減ったって言いだしたのに」
大谷とあさみは2人でヨルダンの街を歩くことにした。

「あさみちゃん、ヨルダンの首都ってアンマンって言うんだって。なんかおいしそうだね」
「そうだね」
「ヨルダンの通貨はディナールなんだって。なんか晩御飯みたいだよね」
「…そんなにお腹減ったんなら一緒に食べてくればよかったのに」
一生懸命話題を探そうとする大谷に対し、あさみは素っ気無い。
あさみは体の3分の2が犬で出来ているので服従心が強く、
自分に対して対等に向かってくる相手に対しては素っ気無い態度を取ることが多い。

「だって私あさみちゃんと仲良くなりたいんだもん」
大谷はあさみと同じ北海道の生まれである。
地方イベントが忙しいせいでなかなか日本に帰ることも出来ない大谷は日本を、
特に北海道を恋しく思っていた。

「あれ?」
大谷が話題に詰まったそんな時あさみが前方に何かを発見する。
(もしかして…りんねちゃん?)
一度顔を合わせて以来まだちゃんと話したことも無かったが、同じカントリー娘。のメンバーとして
顔は覚えている。あさみは体の3分の2が犬で出来ているので仲間意識が人一倍、いや犬一倍強いのだ。
以前平家が捕らわれの身となった時あわてて村田に連絡したのがりんねである。

「ちょ…どうしたの?待ってよあさみちゃん!」
唐突にあさみが駆け出した。
体のだいたい半分が鉄で出来ている大谷は足の速いあさみに追いつけるはずも無かった。

「り…りんねちゃんですよね!?」
あさみにそう声を掛けられた相手は背中で露骨に驚きを表現しながら振り返った。
異国の地で自分の名前を呼ばれるとは思わなかったし、
今ではりんねは石川の走狗となりはてている身分である。
日本では太陽の下を歩ける身分ですらなかった。
もっと言えばりんねは体の4分の3が馬で出来ており臆病な動物だった。
「あ…あさみちゃん…」
「やっぱりそうだ…りんねちゃん、こんなところで何してるんですか?」
「な…なんでこんなところで…そんなことはいいか、ちょっとこっちで話そ」
そう言ってりんねは周囲に視線を走らせてからあさみと共に路地に入る。

「私今、ハロプロ独立正規軍で頑張ってるんです」
路地に入るなり開口一番あさみが言ったことは、りんねにとって正に千載一遇の言葉だった。
「ほ、本当!?すごいじゃん…じゃあ平家さん達のことも知ってるの?」
「はい、平家さんと一緒ですよ。今日はこの国でメロン記念日さんのイベントがあるんです」
りんねは幸運を神に感謝するように一瞬視線を宙に浮かすと、再びあさみに視線を合わせた。
「…実は私は今、ハロプロの為にスパイ活動をしてるの。それでこの国のことも色々調べたんだ。
 でね、あさみちゃんにいいイベント会場を紹介してあげる。
 ここでイベントをすれば大成功間違い無し!ただし、私が紹介したっていうことは秘密にしといてね」
「平家さん達にも?」
「うん。絶対に言っちゃ駄目だよ。…じゃあ私用事があるから…何か連絡することがあったら私ここにいるから」
りんねはそう言ってあさみに紙切れを渡すと振り返ることも無く早足で去って行った。
紙切れにはイベント会場への地図と電話番号が殴り書きされているだけだった。

「誰だろうあれ…どこかで見たことがあるような…」
大谷が追いついた頃すでにあさみはりんねと分かれた後で、
りんねの背中はそれと判別できないほど遠くにしか確認できなかった。
取りあえず大谷はあさみと合流すると時間も無いので2人で陣営に引き返した。
28マングース西浦:02/02/02 21:40 ID:0kOwvUlW
「…それで、この会場を紹介してもらった訳やね?」
「はい。紹介してくれた人は本当に信用出来る人です」
独立正規軍に戻ったあさみは早速平家に報告を行っていた。
その姿を見ながら大谷はあの後ろ姿が誰だったか、まだ思い出せないでいた。
何度聞いてもなぜかあさみは答えてくれなかった。

「しかし信用出来る人やのに名前言われへんゆうのもおかしな話やで」
稲葉はそう言ったが、地図で確認しても交通の便もよさそうで駅からも歩いて行ける距離にあり、
結局その場所でイベントが行われることになった。

ところが――
これまで順調に来ていたデビューイベントは、この日初めて失敗を迎えることになる。
メロン記念日が会場に着いてリハーサルを行っていた時、
突如物陰から無数の戦車が現われ、メロン記念日に対して一斉に砲撃を行ってきたのである。
幸い犠牲者は出なかったものの柴田を庇って砲弾の直撃を受けた斉藤は転んで膝をすりむいてしまった。

この日、当然あさみは尋問されることになった。
あさみは敵が待ち伏せしている場所を、イベント会場として紹介してしまったのだ。
「あさみ、紹介した人のことはどうしても言われへんの?」
「…」
平家の尋問に対しあさみは口を閉ざしている。
「だんまりかい…困ったなぁ…」
平家が回りに助けを求めると、大谷が口を開いた。
「多分あさみちゃんはそいつに騙されたんだと思う」
「!!」
背後から聞こえた大谷の言葉に、あさみがこれまで見たことも無いような形相で振り返る。
「違う!!」
あさみは体の(略)ので仲間意識が強い。
まだ微塵もりんねのことを疑ってなどいなかった。
「え…?」
大谷はただ、あさみは悪くない。悪いのは嘘の情報を吹き込んだやつなんだから…
そう言おうとしただけだった。
なのに、あさみの表情は見る間に悲しみに曇っていく。
まさかりんねちゃんが私を騙すなんて…そんなはずがない。
りんねちゃんはあさみとってただ一人のカントリー娘。の仲間なんだから…

「そんなはず無いよ!!」

そう叫びながらあさみは出ていってしまった。
「何なの一体…」
あさみの気持ちが理解出来ない大谷はあさみを追うことも出来ず、ただ呆然とするだけだった。

――
「どこか…遠いところに行こう…」
そう思ったあさみは深夜の電車休憩所にいた。
始発に乗ってどこかに行ってしまおう…そう思ってしばらく歩いているうちに、
犬並みの嗅覚のあさみの鼻に嗅いだ覚えのある匂いが漂ってきた。
(この馬のうんこの匂いは…りんねちゃん)
しかしもしかしたら警備の人間か、と思い無意識に身を隠したあさみは、
その匂いを放つ相手のとんでもない独り言を聞いてしまった。

「遂にあさみまで騙して…フフ…私も落ちるとこまで落ちちゃったかな…」

自嘲そのものの暗いりんねの声だった。
あさみは遂に自分が欺かれたことを知った。
しかしなぜか悲しみは無かった。りんねを恨む気持ちも無かった。
ただ、りんねちゃんを支えてあげなくちゃ…仲間意識の強いあさみはそう思っていた。
初めて読んだけどおもろいよコレ
30マングース西浦:02/02/03 21:24 ID:XSczaIBG
元ネタがいいからでしょう
31マングース西浦:02/02/03 21:26 ID:XSczaIBG
「りんねちゃん…」
「う…うわっ!!あ…あさみ?なんでここに?」
体が馬で出来ていることを抜きにしてもあさみから見たりんねは明らかに狼狽している。
「りんねちゃん…なんか寒いね…」
「な…なに?」

りんねの頭の中は意外にも冷静に一瞬の内に状況を理解していた。
あさみはかなりの確率で今の独り言を聞いていた…
なのに、あさみは自分に優しい表情を向けてくれている。
「もう私、ハロプロなんてどうでもよくなっちゃった…」
「あ…あさみちゃん…」
やはり聞かれていた…りんねは確信した。
しかし、ハロープロジェクトがどうでもいいとはどういうことだ?
りんねは身構えてあさみの次の言葉を待った。

「一緒に北海道の牧場で乗馬とかやろうよ」

「…え!?」
てっきりあさみは自首してくれでもと言い出すのかとりんねは思っていた。
なのにあさみは自分を許してくれる…そればかりではなく今のハロプロ独立正規軍を
抜けて一緒に牧場に戻ろうとまで…このあさみちゃんとならやり直せるかもしれない…
りんねが首を縦に振ろうとしたその瞬間、

「これは一体どういうことなの?」
突然、深夜の電車休憩場に2人以外の人間の声が響いた。

「い…市井さん」
市井紗耶香だった。
陣営のそばにいた市井は偶然あさみを見掛け、不審に思って追って来ていたのだ。
あさみの嗅覚でも捉えられないほど完全な尾行だった。

「あ…あさみ!!私を売ったんだね!!」

市井の突然の出現にりんねが豹変する。
市井と2人がかりで私を捕まえに来たんだな…
「ち…違うよ!!私は市井さんが来てるなんて全然知らなかった!!」
「うるさい!!もう騙されない!!」
りんねは懐から拳銃を取り出した。

「お願い!りんねちゃん私を信じて!!」
あさみは拳銃を向けられている恐怖より、りんねへの仲間意識を優先した。
危険を顧みずりんねに飛びつこうとしたあさみの胸の中心を次の瞬間、銃弾が貫く。

――りんねの右手に握られた拳銃の銃口が煙を吐いている。

「り…りんねさん…あんたなんてことを…だ…大丈夫!?あさみちゃん!?」

「う…うわぁぁぁぁあ!!」
あさみの血を見て動転したりんねは我を失い一刻も早くその場を離れようと
走ってどこかへ行ってしまった。

「う…うぅ……」
あさみの荒い息は早くも次第に静まろうとしている。
致命傷だった。
「な…なんでこんなことになるの…」
1分も経たない内に、困惑する市井の腕の中であさみの呼吸は完全に停止した。
全身の3分の2が犬で出来たあさみに最期に芽生えた帰巣本能は、
その目的を果たすことなく仕事を終えた。
32マングース西浦:02/02/03 21:27 ID:XSczaIBG
――数時間後、街外れの公衆電話の中のりんね
「り…梨華ちゃん、独立正規軍を加護ちゃん達が待ち伏せしているところにおびき寄せたよ」
『…りんねさん、馴れ馴れしく梨華ちゃんとか呼ばないでもらえます!?
 お友達じゃあるまいし…それに私、りんねさんみたいに土臭い人大嫌いなんです』
「く……はは…分かりました。石川さん、言われた通りにやりました」
『で、敵を目の前にしておいて中東の辻、加護ちゃん達の部隊はメロン記念日を
 処分することも出来なかった…と』
「…」
『…ま、いいか。じゃあまたお金は振り込んでおくから』
「…」
黙り込むりんね。

『もしもーし、りんねさーん。どっか行ったのかな?』
「…ねぎらいの言葉も無いの…!?」
『?あれー!?りんねさん怒っちゃった?自分の立場もわきまえずに』
「あ…あんた、たまには自分の手でやってみたらどうなの!?」

石川は南米方面軍司令だが、実質上戦闘はほとんど同行している吉澤任せで
つい最近アメリカ政府とココナッツ娘。が連合して強敵と思われていた
ハワイ諸島まで占領してしまっていた。
次々と戦闘をこなしてくれるフィジカル面で抜群に優れた相方の吉澤がいたからこそ、
フィジカル面が圧倒的に弱い石川は権謀術数に専念できているのである。
吉澤が馬鹿だったことも石川にとっては都合が良かった。

「も…もうあんたからの指図は受けない!」
『…あっそう、いいけど連絡は取れるようにしておいて下さいね』
「うるさい!!」
荒々しい受話器の音を最後にして、電話ボックスの中は沈黙に包まれた。

――
「あさみちゃん戻ってきた!?」
「…ううん」
翌朝になってもあさみは戻って来なかった。
心沈む大谷。別れがこんなに唐突に訪れるとは思っていなかった。

「…雅恵ちゃん、探しに行こうよ」
「え!?」

大谷が柴田の提案に思いがけず顔を上げる。
「あさみちゃんを許せるの?」
あさみの勧めのせいで命の危険にさらされた柴田である。
柴田は肯いた。
「行こうよ。あさみちゃんも今度は落ち着いて話せるかもしれない」
斉藤と村田も肯く。

「私も…行かせて下さい」

松浦だった。
日が昇るまでまだ少し時間がある。
既に永遠の別れが訪れているなどとは考えてもいない。
自分達全員の未来を信じていた。

数日後、ハロプロ独立正規軍はヨーロッパ進軍を決定した。

山崎直樹
モーニング娘。統一国家大王。年寄り。
33マングース西浦:02/02/03 21:28 ID:XSczaIBG
第6話 『血気』
辻希美、加護亜依率いる中東方面軍を撤退させ士気も一層高まるハロプロ独立正規軍は、
保田圭と新メンバーである紺野あさ美、新垣里沙らが治めるヨーロッパ方面へと進軍していた。
今回はヨーロッパでメロン記念日のイベントが行われるのである。

保田圭ヨーロッパ行政官は強引な吉澤石川らオセアニア方面軍とは違い不細工な顔ながらも積極的に
住民との対話の席を持ち、土着の住民達からの理解を得ながら慎重に進軍を行っている。
これまで着実に民衆の支持を得てきたハロプロ独立正規軍ではあるが、
今回の保田は様々な意味においてかなりの強敵になるであろうことは間違い無かった。

この日、緊張感走るハロプロ軍の陣営に市井が久しぶりに姿を見せていた。
「大多数の為には少数を切り捨てることもやむを得ん…か…がっかりやな」
市井からつんくの言葉を聞かされた平家が深く息をついた。
市井は後藤が伝えてきたつんくの陰謀の中身を平家の耳に届けに来たのだ。

「みっちゃんはどう思う?つんくさんは間違ってる?」
「言うまでもあれへんやないの。大多数の為に少数を切り捨てるなんて
 今までの政治家がやってきたことと全く一緒やん」
「それは、それが最善のことだったからじゃない?」
「私はちゃうと思う…私が思う最善の社会は、そうやな…例えばこのうどん」
そう言ってゆったりした食事の時間も無い平家が昼食のうどんを箸で指した。

首をかしげる市井に一度視線を移し更に続ける。
「大多数の中に、最大限少数を反映させることができる…そう、この七味とうどんみたいに。
 うどんに入れる七味なんてほんのちょっとやのに、それが入ってるのと入ってへんのやったら全然風味がちゃう」
それが社会において実現出来て始めて、人類は政治を持ったと言える。
しかし、つんくが築こうとしている国家はそれからは遠いものだった。
市井は分かりにくい例えにも関わらず大体理解し肯く。
「つんくさんは急ぎ過ぎてる気がすんねんけどな…」
未だに汚職が絶えない政治の世界を見る限り、
そんな理想の社会はまだまだ遠い。つんく1人の力ではとても無理だろう。

「そう言えば、つんくさん倒れたらしいね」
まだ誰も深刻にとらえてはいなかった
「そらあれだけ働いとったらいつかは倒れるやろとは思っとったけど…
 あの人のことやしたいしたことは無いんちゃう!?」
34マングース西浦:02/02/04 22:03 ID:zwiSxGFi
うんこ
35新着レスの表示:02/02/04 22:15 ID:IfK8Utpn
>>34
どうした?
重要なキーワードか?
36マングース西浦:02/02/05 01:07 ID:CUyHrrC5
後藤はこの通信を最後に、市井との連絡を絶った。
後藤はこのつんくの言葉を伝えた通信の最後に、
「もうこれ以上つんくさんを影で裏切ることは出来ない」
そう言った。
つんくの気持ちが分かってしまった後藤には、もはやどっちつかずの位置にいることは出来なかった。

「あと、これ」
市井がビラのようなものを差し出した。
「保田ヨーロッパ行政官からの訓告…何やろ?」
それに目を走らせた平家の表情が皮肉に歪む。
「フフ…圭ちゃんらしいっちゅうか…」
その内容は、ハロプロ独立正規軍の諸君、今すぐ降参の意を示せば悪いようにはしない。
トップである平家みちよ一人を差し出せば、残りの者達はUFAに残すというものだった。

「つまり、参ったすればスタッフとして使ってやる言うことやな…」
「客観的に見て問答無用に攻撃してるつんくさんから見ればかなり譲歩してるとは言えるけどね」
「フフ…悪いけど、丁重にお断りするわ。うちらはあくまでも歌手やからね」
平家はそう言ってビラを引き裂いた。

「これで最後?」
聞かれた市井は、ついに言いにくそうに話し始めた。

「…ここに、あさみちゃんって子、いたよね」

「ああ、おったって言うか…色々あって今はちょっとね。
 大谷さんとかが責任感じてずっと探してるみたいやけど…
 …あさみが出ていったのは私のせいやとか言うて」
「…そっか…みんなはまだ…」

市井が肯いて次の言葉を発せないでいるのを見て、平家に嫌な予感が走った。

「まさか……嘘やろ!?」
「撃たれてね…無残な最期だった」
「し…信じられへん…」

平家は言葉を失った。
あさみは重要な戦力だっただけでなくその明るい性格は隊のムードメーカーの役割も担っていたからだ。
「実はね…その犯人が行方不明だったりんねさんだったの」
「…そ…そんな…りんねちゃんはそんなことをする子やなかった」
りんねはかつて平家の補佐官だったこともあり、その頃のりんねはとぼけたところはあるものの
努力家で、『頑張ります』が口癖の真面目な少女だった。
「間違いないよ…この目ではっきり見たから」
37マングース西浦:02/02/05 01:08 ID:CUyHrrC5
この日、ハロプロ軍陣営は悲しみに包まれた。
保田圭行政官が新垣、紺野2人の補佐官だけを連れハロプロ軍陣営に訪れたのはそんな時である。

「…どの面下げて来たの?」
不細工な面を下げてきた保田に対し最初につっかかったのは大谷だった。
「雅恵ちゃん…」
あさみの死を知ったばかりでまだ気持ちの整理どころではない大谷も
柴田に服を引かれて一度は引き下がる。

不細工な保田は大谷と視線を合わせることもなく口を開いた。
保田は体の80%までが石で出来ているだけに意志が強い。
「みっちゃんに会いに来ました」
すぐに平家も現われる。
「みっちゃん、どうしてもこの国でイベントをやるの?」
「私やなくてメロンがね。そのつもりやけど」
深刻な声の保田の問いに平家が即答する。
「ここでイベントをすることでまた若い命が犠牲になったとしても?」
再び保田が問う。

平家はなぜかその表情に軽い笑みを称えている。
皮肉のこもった笑いだった。
「若い命を犠牲にしない…聞き心地のええ言葉に聞こえるけどな…
 でも、ここでうちらが降参したら、また永久に同じことが繰り返される。
 搾取の歴史がまた繰り返されるだけや…なぜなら、うちらとモーニング娘。は全然対等やない。
 対等の席に座ってもおらんのに、対等な交渉なんて出来る道理が無いわ」
保田は平家にとってかつての友でもある。
競い合ってはいるが友人。敵では無かった。
共に高め合う戦友だったのである。
しかし、今は状況が両者に友人として語り合う余裕を与えてくれることは無い。

「じゃあどうしても…イベントはやるの?」
「さっき言ったはずやで、圭ちゃん」
保田は平家が参加したロックボーカリストオーディションの出身者ではない。
第一回モーニング娘。追加メンバーオーディション出身者…言うなれば遅れてきた戦友(とも)である。
安倍、飯田より歳が近い遅れてきた戦友…平家にとって特別な存在であり続けた。
決着はいつかつけなければならない…2人ともそう思っていたはずである。

「…分かった」
保田は望むところだ…次に会ったら容赦はしない…という表情を唇の端に浮かべた。
立場としては平家との和平を優先しなければならない身のはずだった。

そこで戻ろうとする保田に、大谷がガス銃をつきつける。
「保田さんをここでぶっ殺せばいいんだ!むざむざ見逃す必要は無いよ!」
同行してきた新垣、紺野が動こうとするが保田は視線でそれを制する。
一方の大谷は周りを焚き付けようとするが、ハロプロ軍の誰も動こうとはしなかった。
「な…なんで?なんでみんな?モーニング娘。が憎くないの!?」

平家が斉藤に視線を送る。
斉藤が大谷の肩に手を乗せた。
「あさみちゃんは、そんなこと望んでないと思うよ」
この戦いは独立を勝ち取る為の戦い。
もはや私怨の為の戦いではない。
個人的な恨みにつき動かれて行動するのは正しくない…
体の99%までが鉄で出来た斉藤の重みのある言葉に、大谷もついには銃口を下げた。
「そ…そんな…」
保田は何も言わず乗ってきた車の方へ歩き出した。
うなだれる大谷に、モーニング娘。の新メンバーが言葉を投げ掛ける。

「なんで保田さんの気持ちを理解してくれないんですか!?
 保田さんはただハロプロの仲間同士で戦いなんか起こしたくないだけなのに!」

若いメンバーの言葉に、平家は複雑な内面を含んだ笑いを浮かべると、
口を開いた。

「あんたらも考えておいた方がええ…うちらも、モーニング娘。も同じハロプロの仲間かもしれん…
 でも、あんたらはモー娘。でうちらはモー娘。やない。それがどういう意味なんかっちゅうことをね」

保田は同行してきた2人に何も言い返させず行政府へと帰っていった。
38マングース西浦:02/02/05 01:09 ID:CUyHrrC5
「あ〜…なんで…なんで何も言わずに死んじゃったの…
 裏切ってなんかいなかった…なんでそう言ってくれなかったの!?」
大谷はそう言いながらガス銃を地面に叩きつけた。

この日のメロン記念日のイベント会場はアルプス山脈を越えた先にあった。
無論保田率いるヨーロッパ方面軍はそこに一大要塞を築いている。
「ここを越えなあかんのか…」
稲葉がため息混じりに言う。これまでで最大の難関になるであろうことは間違いなかった。

「それでは、作戦の説明を行います」
大阪弁が面倒なのでアヤカが作戦の説明を行う。
アヤカはハワイ戦線で吉澤率いる南米方面軍に敗退し、メンバーのミカやレフアと共に
つい最近ハロプロ独立正規軍に加入してきたココナッツ娘。の中核的メンバーである。
アメリカ本土からの支援を受け、本土を除けば最強と思われていたハワイ諸島も
自由自在に空を飛べる吉澤による無差別爆撃の前にあえなく陥落した。
吉澤の帰国子女攻撃の前にお株を奪われ屈する寸前のココナッツ娘。のメンバーを庇い
大怪我をしたダニエルが戦線を離脱したのはこの時だった。
ハロプロ軍に加入して以来ハロプロ随一の才女の誉れ高いアヤカは
平家の右腕的ポジションに収まっている。

「まず、大谷さん、村田さん、斉藤さん、柴田さん以外の皆さんは二手に分かれて
 西側と東側からこの砦を挟撃します。そして、敵の防御網を二つに分断したところで、
 メロン記念日のみなさんはこのロープウェーに乗ってこっそりと直接敵の砦に忍び込んで下さい」

アヤカの作戦はまるで漫画のように理路整然としていた。
分かりやすい作戦に全員が納得すると、早速作戦は実行に移された。

まず稲葉部隊の松浦らと、ミカ、レフアらの2部隊に分かれたハロプロ軍は
要塞の周りに放たれた何匹もの戦闘犬に結構苦戦したものの敵の防御網を
2手に分けるのにはなんとか成功した。
戦闘犬の牙は目茶苦茶鋭く、体の80%がラッキーストーンで出来た松浦であっても
噛まれたらかなり痛かったことは間違い無かったことだろう。
しかし、本当の問題はその次の段階に起こった。

「よし…敵の防御網が分かれたって。早くロープウェーに乗ろうよ…って雅恵ちゃん何してんの!?」
大谷が勝手にロープウェーを動かし、一人だけで乗り込んでしまったのである。
「雅恵ちゃん!」
「ま…待って!」
待ってといわれてももう待つことは出来なかった。
一度動き出したロープウェーはブレーキの壊れたスポーツカーのように
一直線に目的地へと向かっていく。
そのロープウェーの中で大谷は自分の名前を叫び続けるメンバーの姿を見下ろしていた。
「みんな…ごめん…これは私怨の戦いだからみんなを巻き込むことは出来ないんだ」
そう言って大谷は敵の要塞へと視線を移した。
「あさみちゃんごめん…本当にごめん…仇は私が命に代えても取るからね…」

防御網が2つに分断されていたので要塞への侵入は容易だった。
「あさみちゃん見てて!」
大谷は要塞に飛び込むなり炎を吐き出し内部に火を放つ。
要塞と命運を共にする覚悟だったのである。
しかし…
「って…こんな馬鹿な!」
要塞が派手に燃え出すかと思われた次の瞬間、大谷にとって思いがけない事態が
起こってしまった。
要塞に完備された新開発のぴったりしたいクリスマスプリンクラーが作動し、
放った火をすぐに消しとめてしまったのだ。
あのニューヨークでのテロ以来世界中の軍事施設の危機管理はそれまでの10倍厳重になっていた。
火が使えない大谷はあっという間に打つ手を失ってしまったのである。
39マングース西浦:02/02/05 22:26 ID:0ITGW9yn
打つ手を探してしばらく廊下をさ迷った大谷だったが、要塞の廊下はまるで迷路のように入り組んでおり
しばらくすると警報を聞いた兵士が駆けつけて来てしまった。
「ウヘヘ…年貢の納め時だぜ」
大谷に銃を構えて駆けつけた兵士が迫る。
(ごめん…あさみちゃん…私もすぐそっちに行くよ…)
覚悟を決めた大谷が内蔵された自爆装置を起動させるために目を閉じた次の瞬間だった。
「うぉっ!なんだこいつは!?」
その声で目を開けた大谷は意外な光景を見た。
要塞の周りに放し飼いにされていた戦闘犬の一匹と思われる犬が兵士にの腕に噛み付いているのだ。

「い…一体何がどうなって…はっ、まさか…」
「雅恵ちゃん、今だワン!」
その時犬の口から発せられたのは永久に失ってしまったはずの仲間の声だった。
「や…やっぱり!」
言いながら大谷は兵士の股間を鉄の足で蹴り上げ失神させる。

――犬は舌を出して息を切らせながら大谷を見上げている。
見た目には確かに生物学的に犬なのだがしかしその瞳には人間の意識のようなものが
確かに感じられるのだ。
大谷が抱き上げようと両手を差し出すと、その犬はそれに応じるように大谷の方へと一歩踏み出した。
「あ…あさみちゃん、本当にあさみちゃんなの?なんでこんな格好に?」
犬を抱き上げて目線の高さを合わせた大谷が訊ねる。
「分からないワン…でも、雅恵ちゃんはさっきあさみに『見てて』って言ったワン。
 そしたら雅恵ちゃんが危なくなって気付いたらこの格好になっていたんだワン…」

無念な最期を遂げたあさみは地縛霊として辺りをさ迷っていた。
そして、仲間の危機を感じた瞬間その魂が奇跡的に犬へと乗り移り、そのピンチを救ったのだ。
いまやあさみは体の3分の2が犬で出来ていたカントリー娘。のあさみではない。
体の3分の3(100%)が犬で出来たニューあさみの誕生である。

『犬は友達』
    作詞 あさみ

犬はみんなの 友達さ
餌さえやば なんでもするよ
まずい飯でも 残さない
ただの水でも 飲み干すよ
腹が減っては 戦は出来ぬ
お手だ お座り チンチンチン

食べもの 寝床さえあれば
どんな奴にも 尻尾を振るよ
腹が減っては 戦は出来ぬ

『ラジオ体操の歌』
    作詞 大谷雅恵

新しいあさみが来た 希望のあ(以下略

「…お遊びはその辺にしておいてもらえますか…」
いつのまにか2人(1人と1匹)は敵に囲まれていた。
再会を喜ぶ2人(1人と一匹)には敵の接近に気付くことが出来なかったのだ。
敵の中にはモーニング娘。の新メンバーの紺野、新垣の2人もいる。
「せっかくあさみちゃんと再会出来たのに…」
「覚悟して下さい……えっ!?」
敵兵が大谷らに狙いを定め発砲しようとした次の瞬間、全員が銃を取り落とす。

「手がしびれて銃が持てない!?」

「フフフ…」
敵兵の背後から怪しい笑い声が響いた。
村田めぐみである。電波を司る神の村田は鉄で出来たロープウェーのケーブルに電流を伝わらせて
この要塞まで直接乗り込んだのである。

「フフフ…覚悟はいいな!?」

村田は電子の向きを操り伝導体の内部に電流を発生させることができる。
電力の大きさは対象の数と大きさに反比例するためこの時は離れた敵兵の銃を
取り落とさせるのが精一杯だった。
村田の普段の一番大きな役目は電波妨害で誘導ミサイルの軌道をそらすことである。
40マングース西浦:02/02/05 22:45 ID:0ITGW9yn
――
「保田さん…この砦は落ちました。早く脱出して下さい」
「うん、分かってるよ」
完敗だった。
物量の面でも情報収集能力でも負けていたとは思えない。
なのに…
(く…)
窓の外へと視線を移す保田。
遠くから何か視線を感じたのかもしれない。
「ん?」
誰かがここを覗いているような気がする…
慌ててデスクの側の棚にあった望遠鏡を手に取りその方向を凝視する保田。
「み…みっちゃん」
平家が数キロほども離れた場所からこの司令官室を見据えていたのだ。
その表情は不敵な笑みに満たされている。
平家は保田と目が合ったのを確認すると背を向け、保田の視界から消えていった。
平家は体の90%が平家物語で出来ているため遠くはなれた場所にある扇をも打ち落とせる
視力を持っていた。

「みっちゃんはいい仲間を持ったんだね…でもうちらだって…」

砦は陥落した。

細かいトラブルはあったが結局戦いはわずか半日で終結した。
あさみの隊復帰のような誰もが喜んだ予想だにしない出来事もあった。
失敗と言えるのは紺野、新垣の2人を捕捉しておきながら逃がしてしまったことくらいだった。
蛇足ながらこの作戦の大成功で、アヤカの組織内での発言力が増したのは言うまでもない。

この日リヨンで行われたイベントには大谷の姿だけが無かった。
1人だけでロープウェーに乗り込んだ命令違反の咎でイベントへの参加を自粛したのである。
無論4人揃ったメロン記念日を楽しみに見に来た観客からは不満が出ることになる。
そこで再び手腕を発揮したのがアヤカだった。
この日のイベントにはココナッツ娘。も急遽ゲスト登場し結果として大成功に終わったのである。

――数日後、ヨーロッパ行政府
「な…なんでですか?保田さんが辞める必要なんて無いと思います!」
荷物をまとめる保田に新メンバーが声をかける。
保田はすでに辞表を提出し、それは受理されたという。
保田はモーニング娘。を脱退したのだ。
「そうですよ!保田さんのお陰でだんだんモーニング娘。統一国家を支持してくれる人も
 増えてきたと思ってたのに…」

事実、これまでの保田のヨーロッパ統治に大きなぬかりは無かったはずである。
しかし保田は若いメンバーに不細工な顔ながらも微笑みかけると、
諭すように口を開いた。

「実際私もそう己惚れかけてた…でも、実際はそうではなかったの。
 時代は変わろうとしてる…それが私の望む方向かそうじゃない方向かは分からない…けど、
 私がいたらモーニング娘。は、世間の人達が望まない方向に行っちゃうんじゃないか…って…」
しかし間髪入れず新メンバーが大きく首を振って否定する。
「そんなこと無いです…保田さんはまだまだずっとモーニング娘。に絶対必要な人です…」
「私達を置いて行かないで下さい…」

若い新メンバー2人の瞳からは既に涙があふれていた。
それでも保田は体の80%までが石で出来ているだけに意志が固い…決意は変わらなかった。
新メンバーに向けられた優しい瞳の奥には親が子を巣立たせる時の厳しさも宿っていた。
保田はしばらく号泣する新メンバー2人に肩を貸した。
2人がようやく泣き止むと、保田は無言で不細工な顔を新メンバーからそらし、
荷物を取って部屋を出ていった。

「保田さん!私達頑張りますから!」

2人が保田の後ろ姿に声を掛けると、保田は不細工な顔を見せること無く片手を上げてそれに答えた。

ヨーロッパ方面軍が紺野、新垣2人の善戦及ばずあえなく撤退を余儀なくされたのは
これからわずか1週間後のことだった。
撤退の理由は紺野の重いホームシックである。
紺野がどうしても日本に帰りたいと、夜泣きをするようになってしまったのだ。
このことがつんくの心に焦りを生み病状を更に悪化させる結果になったのは言うまでもない。

登場人物

ニューあさみ
霊体。時々犬に乗り移って遊びに来る。

アヤカ
ココナッツ娘。体の40%が神戸名産いかなごのくぎ煮で出来ている。頭がいい。少し名誉欲が強い。
ミカ
ココナッツ娘。体の50%が外人で出来ている。背が低い。顎が出ている。
レフア
ココナッツ娘。体の100が外人で出来ている。日本語が喋れない。目が小さい。

保田圭
モーニング娘。(元)ヨーロッパ行政官。石で出来ている。意志が強い。不細工。
紺野・新垣
モーニング娘。
41マングース西浦:02/02/06 21:52 ID:UOz1hGfR
第7話 『天佑』
――オセアニア行政府行政官室
中東方面軍辻、加護は既に撤退し、保田行政官を失ったヨーロッパ行政府もついには
ハロプロ独立正規軍の前に屈した。
安倍高橋ロシア方面軍は敵の物量の前に苦戦し、
飯田小川アフリカ方面軍も敵軍の徹底したゲリラ戦術を前に苦戦を余儀なくされていた。
そんな中で、唯一あっという間に戦果を挙げてしまったのが石川、吉澤の
オセアニア方面軍である。

「梨華ちゃん、オセアニアの方はあらかた占領しちゃったし、後はやること無いね」
体の半分が軽量の硬質セラミックで出来ており自在に空を飛べる吉澤は
戦場において『極東の白き鷹』との異名をもって恐れられていた。
戦闘面での功績はほぼ100%が吉澤のものであったと言っていい。

「うん。そうだね。私つんくさんのお見舞いにでも行ってこようかな」
「あ、梨華ちゃんお見舞いうらやましい!私も一緒に行きたーい」
石川の言葉に間髪入れず反応を示す吉澤。
こういう時の吉澤の口調には邪気が無い。
それが逆に最近の石川にとってうざったく感じられた。
毎日顔を合わせていれば仕方の無いことではある。
しかし、自分の立場を確固としたものとする為に常に意識を張り巡らさせている石川から見れば
奔放な吉澤は文字通り色々な束縛から解き放たれた鳥のように見えていたのかもしれない。
鳥は石川が最も苦手とするものだった。

「うーん、やっぱりここをお留守にしちゃうのはまずいから
 よっすぃーは私が帰ってきてから交代で行くことにしない?」
(お前は来なくていい)

口に出した言葉とは裏腹に内心で石川はそう言った。
りんねを利用して色々と工作を行ってきたのは目先のことより戦後のことを見ていたからである。
体の7割が繊細でデリケートな陶器で出来ている石川は平均的な成人男性の肩の高さ
以上の高度から落下するとコナゴナに砕けてしまうため戦闘での活躍は無理である。
だから石川は頭を使ってのし上がることにしたのだ。
やむを得ないこと…石川は自分にそう言い聞かせている。

「そっか、そうだね。じゃあ私梨華ちゃんが帰って来たらすぐ行く。
 ごっちんとか中澤さんとも久しぶりに逢いたいなぁ…」

仲間に再会した自分を想像して頬を緩める吉澤を見た石川は顔の筋肉だけで笑って見せると
早速自分の部屋に戻り日本へ向かう準備を始めた。

石川には納得いかないことがあった。
つんくはなぜ自分を補佐官として側に置いてくれなかったのか。
なんで補佐官は私ではなく後藤だったのか。
暇さえあれば昼寝ばかりしている後藤などより絶対私の方が役に立てたはずなのに…

しかし、そんなことはもはやどうでもいい。
石川は既にそんなところまで裏工作を進めていた。
石川が飼っている犬はりんねだけではなかった。
弱みを握った相手を他に何人も利用していたのである。

石川が日本へと発ったのはわずか2日後のことだった。

一方、ハロープロジェクト第二独立遊撃隊シェキドルの大木衣吹が
『ソロ歌手になる』という意味不明な置き手紙を残し、シェキドルから脱走したのはこの頃である。
モーニング娘。軍代表の中澤裕子が国際法で永久中立地帯と定められていた月に進出し、
NASAの研究施設を改造し月面に巨大な軍事施設の建造を開始したのだ。
敷地面積は東京ドーム千個分と言われる。
その名も『月面ポート』。数十の軍事衛星を配備し、世界中を監視する。
その軍事衛星からのサテライト光線は誤差最大わずか30cmであらゆる物を焼き尽くすという。

ハロプロ軍における最大の移動手段は普通乗用車であるうえ、
長距離移動は民間の航空会社に依存している。
物量の面でモーニング娘。に対し完全にアドバンテージを取られているうえに
これまでゲリラ戦術でイベントを成功させてきたハロプロ独立正規軍は
所詮複数の部隊を寄せ集めた烏合の衆であるため、結束力も高いとは言えなかった。

物量だけでなく一つの軍隊としての統率も、モーニング娘。に遥かに及ばない。

しかし、メロン記念日の4人にはそのように大局から自分達の現状を見る目は無い。
彼女らは単に前線でイベントを成功させる使命を持った戦士でしかなかった。
それでも4人は何とか正しい道を歩みたい。
平家みちよこそそれを実現させてくれる人だと信じていたのである。

しかし、ハロプロ独立正規軍の全ての人間がそう考えていた訳ではない。
既に見えないところで亀裂は生まれていた。
42マングース西浦:02/02/06 21:56 ID:UOz1hGfR
この頃ヨーロッパでのイベントを数回成功させついにモーニング娘。軍を
撤退させることに成功したハロプロ独立正規軍は
今後のスケジュールの確認の意味もありすでに数週間ヨーロッパに留まっていた。
メロン記念日はデビューを間近に控えたアイドルグループである。
場所を変えてイベントの数をこなすべき立場のはずなのにこの現状は4人の心に
焦りを生まずにはおかなかった。

そんな状況の中で
「平家さん達まだ話し合いしてんの!?」
大谷が不満を露わにする。
平家、稲葉、ココナッツ娘。ら首脳は既に2週間近くヨーロッパ行政府会議室に篭ったきりである。
勿論部屋から一歩も出ていないわけではないがメロン記念日ら幹部以外の者が質問をしても
何も教えてくれないのだ。
自分達の知らないところで何かが動いているということすら知らされていない。
メロン記念日ら末端の戦士の間では不満が増幅する一方だった。

「お昼食べに行こうよ!昼ご飯」
留まっていたらイライラするだけだし…
そう思った斉藤がメンバーを誘い、昼食に向かうこととなった。
ここのところイベントもあまり出来ておらず太り気味なのが悩みの種だった。

――一方日本、T&M。カンパニー社長室
矢口真里を代表とする総合商社T&M。カンパニーは、矢口の持ち前の機転で一時の危機を脱し
その経営を軌道に乗せることに成功していた。
しかし、いつまた経営が悪化しないとも限らない。
その時の危機管理対策として経営陣に外部から新しい人間を迎えるという辞令が
つんく直々に下りた。

『T&Mカンパニーの取締役、また増えます』

これまで何人ものブレーンを入れ替えたT&M。カンパニーだったが、
どうやら今回はこれまでとは訳が違うらしい。
病床のつんくが直々に辞令を下してきたということが、それを物語っていた。

「…で、今回はどんな人ですか?」
人前では疲れを見せないということが体に染み付いている矢口だったが、
その目に貼りついた疲労の色まではさすがに隠すことが出来ない。
正直ワンパターンにうんざりしていることを隠しながらつんくからの使者を迎える矢口。

「矢口さんのことを、よくご存知の方です」
「私をよく知ってる…!?私もその人のこと知ってます?」
「ええ、よくご存知だと思います」
誰だろう?中学校の時の同級生?
いや、それは無いかと考え直す矢口。

「矢口さんに協力して下さるよう頼んだら快く了承して下さったそうです。
 久しぶりに仲が良かった矢口さんに会えることが嬉しいと」
(…)
一瞬矢口の脳裏に一人の古い仲間の顔が浮かんだ。

「…その人って、もしかして私より若くないですか?」
「ええ、多少矢口さんよりも若いようですね」
まさか…しかしあの子はもう…
矢口より若い人間…これまでのブレーンはおっさんばかりだったが
自分より若い人間となればかなり対象は絞られてくる。
彼女は、2次メンバーの矢口に最初に話し掛けてくれた初期メンバーだった。
最初に仲良くなれたのも彼女だったのだ。
しかし、そのメンバーはすぐに矢口の前から消えていった。
学業に専念するという理由でモーニング娘。を脱退してしまったのだ。
43マングース西浦:02/02/06 23:23 ID:UOz1hGfR
「その人って、背とか余り高くないですよね!?」
「ええ、身長は余り高くないと思います。矢口さんほどでは無いですが」
間違いない…
「は、早く呼んで下さいよ」
「実はもういらっしゃってます。ドアの外に…」

「ま…マジですか?」
我慢できずドアに駆け寄る矢口。
「あ…あす…」
待ちかねた仲間の名前を呼びながらドアノブを回す。
矢口の期待に応えるように勢いよく開いたドアの先には以前と変わらぬ姿の仲間が立っていた。

「ばぶー!」
「あー!」
中東方面から撤退して来た辻希美と加護亜依の2人である。
2人はそれぞれ体の3分の2、半分が赤ちゃんで出来ている。

――ヨーロッパ、街外れのうらぶれた食堂
「ねえ、あなたいつからここで働いてるの?」
まだ10歳になるかならないかだろう。そんな年齢の少女がウェイトレス兼助手をつとめていた。
「ごめんなさい分かりません…物心ついたころにはもうここにいたから」
問われた少女は突然質問してきた客の充血した生気の無い目に一瞬驚いたが、
それを表情には出すことなく淡々と答えた。
長い経験をうかがわせる。
「へえ…理由は聞かないけど…夢とかはないの?」
この少女も家庭の事情でやむなく働いているというところだろう。
何となく見れば分かる。
「夢?…そんなの考えたことも無かった」
仕事中ということも忘れ、立ち止まる少女。

「ふふ…若いのに、困ったもんだね」
生気の無い目をした女が自嘲に満ちた笑いをこぼした。
その笑いを見て、ふと、何かに気付いたように少女が口を開く。
「牧場…」
「牧場!?」
その客は意外な答えに身を乗り出した。
「はい、お金を貯めて田舎で牧場をやって、動物をいっぱい飼いたい」
少女は何かに導かれるように口を動かしていた。

「…牧場かぁ…」
この生気の無い目をした客の女はりんねである。
体の4分の3が馬で出来たりんねの顔を見た少女は無意識にそれを感じ取り、
そこから牧場を連想したのだろうか。
それは分からないが、とにかくりんねはその少女に興味を持った。

「じゃあもし私に大金が入って、牧場を開くって言ったら、私と一緒に来る?」
突然のりんねの申し出に、その少女はうふふ、と初めて子供らしい笑いを浮かべると、
「そうですね。でも私小さい兄弟がいるんです」
そう言って厨房に戻って仕事を始めた。
「その子達も連れてくればいいよ!」
りんねはそう声を掛けたが、その少女は明るく笑い声を返すだけだった。

(牧場…か…)
この少女にはどことなくあさみの面影があったのかもしれない。
りんねはかつて自分が手にかけてしまった仲間を思い出していた。

そんな時、唐突に新しい客が入店してきた。
たた…
と先程の少女が素早く厨房を出て接客を始める。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「えっと…あさみちゃんと、亜弥ちゃんとうちらだから…6名様です」
「正確には5名と1匹だワン」
「あの…すみません、当店はペットのご来店はお断りしてるんですが…」
「分かったワン。あさみは外で待ってるワン」
「ごめんねあさみちゃん。後で残飯あげるから」

りんねはこの様なやりとりを聞きながら体が硬直していくのを感じていた。。
(こ…こんなところで鉢合わせするなんて…)
りんねはもはやハロプロ軍に顔合わせできる立場の人間ではない。
モーニング娘。の石川梨華に利用され何度もハロプロ軍を裏切った。
その末にあさみを手にかけるという最悪の過ちまで犯してしまったのである…

下を向いて脅えているようなりんねの様子を不思議に思ったウェイトレスの少女だったが、
こういう店をやっていれば色々特殊な事情を持った客というものは毎日のように訪れる。
とりあえず詮索はしないことにした。

席につくなり5人は遠慮の無い大きな声で話し始めた。
視界の隅で顔を隠すように座り直したりんねの存在には全く気付かない。
薄汚れた格好をした現在のりんねは直接顔を見られたとしても気付かれなかった可能性もある。
それほどかつての健康的な姿の面影は無かった。
「平家さんたちってあの部屋で毎日何してるのかな?」
柴田の声だった。
「毎日毎日会議なんて有り得ないもんね」
斉藤の声である。

馬耳東風、ある時は馬の耳に念仏とも言われる馬の耳ではあったが、
今日のりんねの耳はただの馬の耳ではなかった。
馬は臆病な動物なのでちょっとした音に敏感な面も持っているのだ。
りんねは耳をそばだてて盗み聞きしていた。
44マングース西浦:02/02/07 03:05 ID:K0KPxYHw
「亜弥ちゃんは何か聞いてないの?」
亜弥?りんねにとっては聞き覚えの無い名前を大谷が発した。
「稲葉さんはうちらを信じて指示を待ってたらええ、とか言ってましたよ」
これが『亜弥』の声だろうか?
声のトーンからしてメロン記念日のメンバーより数段若いだろう、という感じがした。
「うん、その指示が無いからうちらも困ってるんだけどね…」
斉藤の声だ。

一瞬話が途切れたところで、村田の特徴のある声が思わぬ情報をりんねにもたらした。
「私…実は盗み聞きしちゃったんだけど…」
言いにくそうな口振りである。
「どうしたの?」
柴田が促した。
「ココナッツの人達と平家さん達、なんか揉めてるみたいだよ」
村田は電波を司る神である。
盗聴はお手の物だ。
村田は続ける。
「アヤカさんは、私達はもうヨーロッパ連合(EU)を平定した。だからこれでアメリカと、
 モーニング娘。統一国家とうちらで天下三分の計をはかったらどうかって言ってる」
「『天下三分の計』?」
大谷が首を傾げる。
口にした村田自身もよく意味は分かっていない。
「…」
周りを見回したがどうやら誰も分からないようなのでそれは一時置いておいて村田が更に続ける。

「でも平家さん達はそれには反対で、うちらが求めているのはその場しのぎの和平でも
 イニシアチブを握った和平でもなくこちらが完全に優位な立場に立った上での
 独立だって言ってるみたい。それにヨーロッパを平定したって言っても
 行政府を乗っ取っただけだし…って」

「???」
早くも眠りかける大谷。
「…とにかく、平家さん達はモーニング娘。統一国家から完全に勝利しないと駄目だって言ってて、
 アヤカさん達はこの辺で和平に持ち込んだらどうかって言ってるんだね」

アヤカらココナッツ娘。はアメリカ的合理主義の権化である。
そこにアヤカが日本的な人情をおりまぜて、
「これ以上戦ったら最後は私達もモーニング娘。さんも疲れて共倒れです。
 ここらへんで和平を結ぶのが人道的にも最善なことだと思います」
そう言っているのである。
しかし平家らはそれには同意しなかった。
ここで妥協してしまえばまた支配の歴史は繰り返される。
一見独立に見えてもそれは永遠に続く支配の繰り返しでしか無いのだ。
つんくはそれほど敵に回すと恐ろしい男なのである。
「あかん。まだうちらとあっちは対等やないのよ。どないしても和平結びたい
言うなら、こっちが完全に優位な立場に立った時にしか有り得へんよ」
「そうや。みっちゃんの言う通りや。うちらが今まで戦ってきたのは何の為やと思ってんねん」
稲葉は平家に最大限の同調を見せている。
稲葉貴子はかつてハロープロジェクト内でモーニング娘。に次ぐ主力部隊『T&Cボンバー』の
一員だった。しかし他のメンバーが様々な事情からハロプロを去ってしまったため、
なし崩し的に稲葉部隊のリーダーとなった。
ステージ時には自らはほとんど裏方に徹し、ハロプロのメンバーのサポートを行っている。
とにかく…平家、稲葉とアヤカ始めココナッツ娘。、双方は完全に平行線だった。

「よく分からないけど…なんかめんどくさい感じだね」
大谷が不安げな表情を浮かべる。
この様に兵士に不安を与えない為にも首脳部は口を閉ざしていたのだ。
それを村田がぶち壊しにしてしまったのだが、逆にこうなって良かったのかもしれない。
斉藤はそう思っていた。
「…めぐちゃんはそれを聞いた時どう思った?」
話し終えた村田に、斉藤が訊ねる。
村田は一度肯くと、斉藤を真っ直ぐ見据え口を開いた。
「世界平和も大事だけど…今の私達に大事なのはやっぱりイベントだなって」
「…うん、確かにそうだね。うちらは政治家じゃないし」
斉藤はリーダーの言葉に肯き、他のメンバーもどうやら同意したようだった。

この頃りんねは既に話を聞いていなかった。
ハロプロ軍は一枚岩ではない…ついにその情報を掴んだのだ。
石川に操られて受動的に動いた結果ではない。
幸運が重なった結果とはいえ自力でとてつもない情報を掴んだのだ。
気付くと、メロン記念日らは既に店を出ていた。
45新着レスの表示:02/02/08 00:39 ID:y0Jo+G6X
この更新で前回のに追いついた?

マングースはメロン新曲見た?
俺は結構気に入った。
46マングース西浦:02/02/08 01:35 ID:QJzQqi0B
生で見てきた帰りです
私は出し続けてくれればそれでいいです
47マングース西浦:02/02/08 17:07 ID:ARMPOJzn
「あの…もうあの人達帰りましたよ」
ウェイトレスの少女がりんねに注意深く声をかけた。
「ははは…これで牧場がやれる…」
うわ言のように話し出すりんね。
その様子を見た少女も一歩たじろぐ。
「ど…どうしたんですか?」
りんねが驚くウェイトレスの少女の手を取る。
「一緒に来てくれるって言ったよね!?牧場開いたら」
「あ…あの…」
「はははははははは」
りんねの目には久しぶりに生気が戻っていた。
しかし、その生気がどす黒く濁っていることに、本人はもはや気付くことはない。

――日本、UFA本部に程近いつんくが入院している病院
「石川…お前一体何しに来たんや」
病床のつんくが見舞いに来た石川に詰め寄っていた。

石川は吉澤に南米行政府の留守番をさせ自分1人でつんくの病状の確認の意味も込め
見舞いに久しぶりに日本を訪れた。
しかしそこで石川は思わぬ誤算をすることになった。
モーニング娘。を脱退した保田が最後の挨拶にとつんくの病室へ先に訪れていたのだ。
保田が行政官を辞任してから新メンバーの2人でヨーロッパを治めなければならないという事態になり
それを石川は見て見ぬ振りをして見殺しにしたのだ。
その結果、ヨーロッパはハロプロ独立正規軍の手に落ちた。
その経過は当然既につんくの耳にも入っている。

「あ…あの、私つんくさんのことがすごく心配で…どうしてもお見舞いに来たかったんです」
精一杯の反省している表情を作りながら訴える石川。
しかしつんくの厳しい表情が緩むことはなかった。
「石川、お前は2年もやっとってまだ分かってへんのか!?」
「え…!?」

石川には分からなかった。
もしかしたら私の裏工作に気づいたのか…?
一瞬そう思った石川だったが、それはないと思い直した。
保田も石川に厳しい視線を向けている。
つんくが更に続ける。
「モーニング娘。はただ個人が集まった人間の群れやない。一個のグループなんや」
「わ…分かってます」
(く…)

モーニング娘。を脱退した保田の前で当然のことを確認される侮辱に石川は肩を振るえさせた。
マンツーマンの時でもつんくにここまで叱られた経験はない。

この時のつんくの叱り方には鬼気迫るものがあった。
つんくは自分に残された時間の短さをおぼろげながら察し始めていた。
つんくの病気には興奮することが最大の毒なのだが、頼りにしていた保田の脱退の直後だけに
感情を押さえることが出来なかったのだ。
「そやったらな、俺のことなんか気にしとる前に、まず苦しんどる仲間を助けに行かんかい!」
「は…はいっ!」

つんくはそう言ってその場を去りたい一心で出口へと向かう石川を、一度引き止める。
「保田、元の教育係として石川に何か一言言うたったらどうや!?」
しかし保田は我を失っている石川に不細工な顔ながらも優しく微笑みかけると、
「いえ、もう石川は一人前のモーニング娘。ですから…」
そう言った。

「し…失礼します…」

病室を出た石川はそこにあったごみ箱を蹴り飛ばそうとして踏みとどまった。
それを蹴ってしまえは陶器で出来ている石川のほうが砕けてしまうからだ。
(な…なんなの?もうモーニング娘。じゃないくせに…不細工なくせに…保田のくせに…)
石川は過去にここまで人前で侮辱された経験を持たない。
石川の陶器で出来た冷たい心に炎が灯った。
(でも…つんくもあの顔色じゃあ先は永くなさそう…身の振り方はちゃんと考えておかないと)

「つんくさん…ちょっと厳しすぎません!?何もあそこまで言わなくても…」
石川が去った病室で保田が言う。
「俺はな…石川に期待してんねん。石川はまだまだあんなもんやないと思ってる。
 まだまだ落ち着くのは早い。そう思っとったのにあいつは…」
つんくは石川に期待していたのだ。
確かにモーニング娘。加入当初と比較すれば石川は別人のように変わったのかもしれない。
だがまだまだ石川は成長できる可能性を秘めているはずだ。
――モーニング娘。の一員としての自覚さえ持っていれば。
「だったらもう少し優しく言ってあげればよかったじゃないですか…」
「あかんな…俺もあせっとるのかもしれん」
つんくはそう言って二つの意味で痛む胸を抑えた。
48マングース西浦:02/02/08 17:11 ID:ARMPOJzn
(保田のうんこたれ…つんくのハゲ頭…保田のうんこたれ…つんくのハゲ頭…)
石川の心に、つんくの気持ちは微塵にも伝わってはいなかった。
「保田のうんこたれ…つんくのハゲ頭…保田のうんこたれ…つんくのハゲ頭…」
廊下を歩きながら頭の中の2人を打ちのめしていた石川はいつしか2人を
侮辱する言葉を口から発していた。

「あれ?梨華ちゃんどうしたの!?」

「あっ!」
石川は妄想に夢中になるあまり前方からこちらに向かって歩いて来ていた後藤の姿に
全く気付かなかった。
「あわわわ…」
(聞かれた…)
そう思った石川はあからさまに驚いてしまったが、それを見て後藤は怪訝な表情を浮かべている。
「梨華ちゃんいつ日本に来てたの?」
なんだ、聞かれてなかったのか…よかった…そう思った石川は自然に冷静な顔を作ると
「今日来たばっかり。つんくさんのお見舞いに来たんだけど、あんまり歓迎されなくって…
 ごっちんは元気だった?」
そう答えた。
「そうだったんだ…つんくさんも色々焦ってるから…分かってあげてね。
 私は元気だよ。つんくさんの変わりにはなれないけど、
 つんくさんの手足の変わりにはなれるかもと思って色々勉強してるの。
 算数とか、政治経済とか…」
石川は後藤の胸の辺りに視線を移す。
「すごい…偉いねごっちん」
後藤の両腕は大量の書類や書物を抱えていた。
つんくにはプロデューサーとしての顔だけではなく、
国家元首としての顔もある。勉強しなければならないことは増えることこそあれ
減ることはないのだ。
(魚面のくせに…)
けなげな後藤の表情を見ながら石川は頭の中でそんなことを思っていた。
そんな時、
プルル…
「あれ?お電話…誰だろ」
石川の携帯に通信が入る。

「あ、じゃあ私行くね」
「うん、ごめんねごっちん」
そう言いながら相手を確認する石川。

(なんだりんねからか…)
それは数ヶ月もの間連絡を途絶えさせていたりんねからの通信だった。
どこかで野垂れ死にでもしてるかと思ったのに
そう勝手なことを思いながら通話スイッチを押す石川。
繋がるなりりんねは興奮した様子で話し始めた。
『り…梨華ちゃん!?大スクープ大スクープ!!』
「梨華ちゃんはやめて下さいって…まあいいか…で、なんですか?
 りんねさんずっと連絡取ってくれないから心配してたんですよ」
この時のりんねには石川の白々しい言葉も気にはならいようだった。
『フフフ…どうやらハロプロ軍の内部に不協和音が出てるらしいよ』
「へぇ…それで?」
思わぬ言葉に度肝を抜かれた石川だったが、それを態度に出さない。
りんねのような小物を調子付かせるわけにはいかないからだ。

『おっと、ここからはタダで教えるわけにはいかないよ』
「いくら?言い値で払うから」
『壱千億万』
あり得ない金額を口にするりんね。もはや精神に異常をきたしてしまっているらしい。
「分かりました。1000億万ですね」

りんねはレストランで盗み聞きした内容を全て石川に話した。
49マングース西浦:02/02/08 17:12 ID:ARMPOJzn
「ふーん、そうなんですか…」
口振りとは裏腹に聞き終えた石川は息を吹き返す思いだった。
ハロプロ軍が厄介だったのは不気味な結束で隙を見せなかったからだ。
勢力を分断してしまえば怖くも何ともない。
『じゃあ梨華ちゃん、お金のほうはほんと頼むね』
「はいはい」
石川はそう言って電話を切ると、つい表情に出そうになる満面の笑みを押さえるため
しばらく立ち止まって下を向いた。

「フフフ…私を怒らせるとどうなるか…」
年上のくせに妹分、売れてないくせに先輩面…前から気に入らなかったんだよ…
冷静を取り戻した石川は早速こういう時の為に用意しておいた切り札に連絡を取った。

――
「矢口さんですか?私です、石川です」
『あ、あれ石川?何?こっちちょっと忙しいんだけど…』
石川の受話器からは矢口のものでは無い声も聞こえてくる。
『だー!』
『…ちょ、ごめん石川、こら加護!書類に落書きしちゃ駄目だって!』

矢口が代表をつとめるT&M。カンパニーは、つい最近中東戦線から撤退した辻、加護の2人を
新しく経営陣に迎え経営状態の安定化を計ることになったが思惑とは逆に初日から
2人は矢口の精神をすり減らし始めていた。

「本当に忙しいみたいですね…お疲れさまです矢口さん。
 それじゃすぐ本題に入らせてもらいますね」
『う、うん…悪いね』
『ばぶー!』
『ってちょっと辻!書類食べるのはもっとダメ!…もう…ごめんね石川こんなんで』
「いえ、いいんです。こっちはまだ時間ありますから」

矢口は体の6割が粘土で出来ており柔軟な面もあるが、
一度気に入った形が出来てしまうとその形を変えるのが惜しくなってしまう面も持っていた。
臨機応変に見えるが実際は問題が顕在化するまで対処が遅れることも多いのが矢口である。
矢口は体のそれぞれ半分、3分の2が赤ちゃんで出来ている加護、辻への対処の為に
古い仲間と再会出来るという期待を裏切られたこともあり
早くも疲労のピークを迎えようとしていた。
石川はその矢口の憔悴した体に鞭を打つ。

「…矢口さん、なんで反乱軍に武器を横流ししたんですか?」
『もう辻…え!?』
唐突な石川の言葉に一瞬言葉を失う矢口。
聞き間違いだと信じたかった。

「反乱軍に武器はよく売れますか?」

『い、石川…なんでそんなこと…』
明らかに確かな証拠を握っている…石川の口振りは明らかにそういう性質を持っていた。
隠し立ては出来まい…矢口は一瞬の内に観念した。
「なんででもいいじゃないですか…ねえ矢口さん、
 このことがつんくさん達にばれたら困りますよねぇ」

しかしこのことはもともと石川がりんねを利用して横流しするように差し向けたのである。
しかし矢口はそんなことは知る由も無い。(4話 >>6-10 参照)
『い…石川…私を脅迫するつもり?』
「えー!?いえいえ、そんなつもり無いですよ。ただちょっと私に協力してくれないかなって」
『協力…って!?』

石川の策謀の前に、矢口も屈することになった。
賢明な矢口にもこの時の自分の判断がどれだけの重さを持つかはまだ分かっていない。

――ヨーロッパ行政府のある街
街で一番高い時計台の上に、市井紗耶香はいた。
街を一望しながら市井は想う。
後藤真希との情報のラインは既に途絶えた。
彼女にも大きな決断の時が迫っている。

市井紗耶香は全身の7割がカメレオンで出来ている。自分の可能性を信じる彼女なら、
状況に応じてモーニング娘。であり続けることもソロ歌手になることも出来ただろう。
しかしそうはならず限りなくハロプロ軍に近い中立の立場を歩む道を選んだ。
まだ遠い将来までは分からない。市井は若いのだ。
もしかしたらモーニング娘。に戻るかもしれない。あるいはソロ歌手か…
しかし今、自分が果たすべき役割は何か。

(みっちゃんはつんくさんと闘うことを決意した。後藤はつんくさんについていくと決めた。私は…)

夕陽が市井の顔を赤く染める。
次の時代は既にすぐそこまで来ている…市井はそう思っていた。

和平を主張し続けたアヤカらココナッツ娘。がついに折れ、
ハロプロ軍がとにかくは進軍を決定したのはこの日のことだった。

登場人物

加護亜依
モーニング娘。T&M。カンパニー副社長。赤ちゃんで出来ている。タンポポ。ミニモニ。。
辻希美
モーニング娘。T&M。カンパニー副社長。赤ちゃんで出来ている。ミニモニ。。何でも食べる。
50新着レスの表示:02/02/09 23:02 ID:XZpS3CtP
やっと昔のかちゅ〜しゃのデータが入ってるノートPCが
修理から帰ってきたので、前スレ読み直したよ。
まだ追いついてなかったね。
51名無し募集中。。。:02/02/09 23:28 ID:VAsPXeTi
竹若はいつ頃出ますか?
52マングース西浦:02/02/10 07:38 ID:1ieSb9L0
>>50
そうですね
>>51
バッファロー吾郎は出ません
53マングース西浦:02/02/10 07:41 ID:1ieSb9L0
第8話 『転変』
この頃ハロプロ軍は北アフリカ方面に進軍している。
今回はアフリカでメロン記念日のイベントが行われるのだ。
歴史的にヨーロッパと繋がりの深いアフリカ方面も味方につけることでモーニング娘。に
対抗する力をつけようという目論見がある。
しかしそのような上層部の目論見など知る由も無く、メロン記念日の4人は
久々にイベントが出来る喜びに胸を躍らせていた。
所詮ドサまわりのイベントではあっても、それを途切れさせずに開催していくのが
芸能界と、戦争という過酷な現実を繋げる唯一の手段だったのだ。

メロン記念日は、過酷な運命にもめげず自分達がアイドルグループであるということを
一時たりとも忘れることは無かった。
その自覚は、精神を正常に保つ為にも必要なものだった。

人の多い比較的賑わいのある街に宿を取りイベントの打ち合わせを行うメロン記念日ら
ハロプロ軍の仲間達。既に数日この街に留まっていた。
まだイベントは行っていない。
メンバーそれぞれが思い思いに時間を過ごしている中
「もう衣装ボロボロだよ…」
大谷がボロボロになった衣装を手にする。
すでに各国で何度も着たイベント時の衣装は痛みが激しく、
パンチラもし放題になってしまっていた。
それを目当てに来ている変態達にとってはともかく若いメンバーにとって
それは喜ぶべからざることだった。
「でもその衣装一張羅だし…」
衣装を何着も用意する時間も、予算も無かったのだ。
そのことは、メンバー自身がよく分かっている。

「アフリカの民族衣装とか新調したらどう?逆にナウいんちゃうかとか思うんやけど」

話を聞いていた平家が横から口を出した。
タレントは衣装などでビジュアル面からイメージを定着させることも大事かもしれない。
しかしこのような特殊なイベントでは興味の無い人の関心を引きつけるということも大事なのだ。
アフリカの民族衣装を着れば最初の掴みはOK間違い無しだ。

「…うん、それって意外といいのかも知れないですね」
「なんかアフリカの人達着てるのってカッコイイもんね」
まともな衣装が無い現状では否も応も無い。
思わぬアイデアに、4人は夕食後あさみの散歩も兼ねて民族衣装などを扱っていそうな店を探して
しばらく街を散策してみることになった。
54マングース西浦:02/02/11 16:53 ID:JI6nitqa
この頃ハロプロ独立正規軍は毎度の食事をココナッツ娘。らと平家らで大きく
二組に分かれて取るようになっている。
表向きは日本人の平家らとハワイ生まれのココナッツ娘。では味覚が違うからという理由だったが、
双方の間に溝が生まれているということは見る者が見れば明らかだったろう。
ココナッツ娘。のリーダー格アヤカはハワイ出身者ではない。
実際は体の40%が神戸名産いかなごのくぎ煮で出来ているという純粋な神戸生まれの日本人なのだ。

――
ここ数日と同じようにココナッツ娘。の3人が分かれてウェスタンフードの食堂で
食事を取っている時のことだった。
「アヤカキムラさん、いらっしゃいますか?」
「はい…私ですが」
店員から名前を呼ばれたアヤカ。
「どちらからですか?」
「いや、『アヤカキムラさんを良く知っている者です』としか…」
なぜ食事中のレストランに電話が…私のことをよく知っている…!?
怪訝に思ったアヤカだったが
別所で食事中の平家らに何かあったのかと思い店員から受話器を受け取った。
「もしもし、お待たせしました。アヤカです」
受話器から帰ってきた声にアヤカは表情を変える。

『こんにちはアヤカさん。石川です。モーニング娘。の石川梨華です』

石川はすでにハロプロ軍の駐留している街に人を潜り込ませ、
アヤカが平家らと分かれる瞬間を探らせていたのだ。
それは、隊が二つに分かれる食事中だったのである。
突然のことに驚くアヤカ。
「り…梨華ちゃん、今がどういう時か分かってるの?そうでなくても…」
今モーニング娘。とハロプロ独立正規軍は戦闘状態にある。
それだけではない。ココナッツ娘。メンバーの故郷ハワイは石川ら南米方面軍に屈した。
個人的な恨みも無いではないのだ。

『ううんアヤカさん、こういう時だからです。…私は、石川は和平を望んでるんです』
「!」
アヤカは絶句した。
「まさか…モーニング娘。としてじゃなく個人的な判断でかけてきたの?」
『そうです。アヤカさんっていう人を信用してかけました』
石川は知っている。自分が和平を望んでいることを…そうでなければ自分あてに
わざわざ電話してくることなどありえない。
アヤカは察した。

『アヤカさんと、私が中心となって和平を結ぶんです。これまでのいさかいは全部水に流しましょうよ。
 これが出来れば、もう戦争は終わります。悲しい戦いなんて起こらなくなるんです』
私と、石川を中心に?
…そうなれば戦後は自分と石川を中心とした国家も夢では…

ココナッツ娘。は、カントリー娘。と同年同月にデビューしたアイドルグループである。
デビュー以降は順調にリリースを重ねてはきたものの未だ充分と言える成績を残すことが
出来ていない。
アヤカはそのグループの結成当初からの中心メンバーである。
次々にメンバーが脱退し、次こそは…そう思いながら今日まで来た。
石川と強力すればもしかしたら…

思いかけたアヤカだったが、
「梨華ちゃん、こういう大事なことはこんな風に簡単に決めたちゃったら駄目なの。
 ちゃんとじっくり話し合って決めないと」
余り現実的では無いと考え直す。
『勿論です。ただ、こちらにも和平を望んでる人がいるって早く知ってほしくて…
 考えておいて下さい。私の連絡先教えておきますから』
石川は諭すような口調のアヤカを解きほぐすようにたのしげに答えた。
55マングース西浦:02/02/12 21:59 ID:j8n13UDQ
ちんこ
56マングース西浦:02/02/14 09:09 ID:3moO0Bss
通信を切った後、アヤカは暫く受話器を置かず考えていた。
もしかしたら何か裏があるのではないか…しかし石川の口調は普段と変わらぬものだった。
ひょっとたら石川は普段から何かを企んでいるような裏表のある人間なのではないか?
いや、考え過ぎか…まだ16歳の石川にそんな野心などあるはずがない…そう考えなおした。

アヤカは早速信頼する2人の仲間にたった今の電話の内容を話し始めた。
「私はアヤカちゃんについていくから」
「(アヤカの思った通りにしたらいい。私の目の前にいくつかの選択肢があったなら私は
 迷わずその中で最も早く戦争を終わらせることが出来るであろう可能性が高い手段を選択するだろう)」
そう言って肯くミカとレフアを見て、アヤカはある程度心を決めた。

(そう、完全に優位な立場に立ってからの独立なんかじゃなくても、和平の話し合いの席で
 こちらが優位になる条約を結べばいい。平家さんや稲葉さんには無理でも私にならそれは出来る…
 そしてそれが一番平和的で確実で、スピーディーでエレガントなベストの方法のはず…
 私がちゃんとやってみせれば平家さんもきっと分かってくれるよね)

一方受話器を置いた石川は不気味な笑みを浮かべていた。
「ふふふ…アヤカさんには断わる理由なんか無いはず…あと面倒なのは中澤…」

――
この頃、すでに夕食を終えたメロン記念日は新しい衣装を探すため街を散策していた。
ステージ衣装だから出来るだけ目立つものがいい、もしくはグループとしての調和を優先するか。
それとも普段街でも着れるようなカジュアルなものを…
などと迷っているうちに時間はあっと言う間に過ぎていってしまう。
めぼしいものは幾つかあったものの、結局この日は決めることが出来なかった。
仕方なく帰路につくことになった4人と1匹(あさみ)。
「早く帰ろうよ。なんか最近物騒だし」

この頃、アフリカには奇妙な事件が続発するようになっていた。
夜になると、街に長い髪を振り乱した背の高い化け物が出没し民間人に危害を加えては
目にも留まらぬ速さで走り去ってしまうというものだった。
被害は既にアフリカ全土に広がっている。
現在メロン記念日らが留まっている町もその被害対象外ではなかったのだ。
57マングース西浦:02/02/15 14:26 ID:KYquuGqm
「今日は結局衣装決まらなかったね」
「うん、でもまだ何日かはこの街にいないといけないみたいだからさ」
かつて敵同士として戦ったルナセア隊の石黒が新しい武器を届けてくれることに
なっていた。その日までに決めればいいだろう。
斉藤が言った。

出来るだけ妥協せず満足のゆくステージにしたい。
その為には衣装選びのためだけに時間をとられてしまうのもやむを得ないのだ。

「それにしても遅くなっちゃったね…」
アフリカの夜は暗い。
日本のように一晩中灯されている街灯など無いからだ。
「何か出そう…」
暗闇に脅える村田。
その時、

ガルルル…

あさみが突然うなり出す。
「ど…どうしたの?」
ワンワン!
4人はついに吠え出したあさみの視線の先を凝視した。
「あ…あれ…何!?」
その先には、2つの小さな光の点が並んで不気味に浮いていた。
自分達を見つめている猫の目のようにも見える。
しかしそれにしては位置が高すぎるし、第一光の無い闇で猫の目が光ることは無いのだ。

「ちょ…ちょっと近づいて見てみようよ…」
大谷が不用意に光りの玉に近づこうとしたその時、
それが大谷を警戒するかのように微妙に上下した。
「な…何?なんか動いたよ!?」
それでも近づこうとする大谷。
「雅恵ちゃん駄目!」
「危ないワン!」
遅かった。

「うわっ!」
突然光の玉がまばゆい光を放つ。
「目…目が…うっ!」
大谷はそれをまともに両目で受けた。

どさっ…

暗闇に何かが崩れ落ちる音が染み入るように消えていく。
「うう…どっち行ったの?」
「あ…あっちだワン!」
あさみの示した方向に向かって村田が何かを投げつける。
しかしそれは相手には何らのダメージも与えることが出来なかったのか、
光の玉はギュオオーンという激しい音と共に
あっという間の速さで4人と1匹の前から消えてしまっていた。

「ま…雅恵ちゃん!」
「う…うぅ…」
斉藤が抱き起こしたが、大谷の金色だった髪が赤く染まっている。
顔色も悪く、意識が朦朧としているらしい。
「た…大変…早く病院に連れて行かないと…」
大谷の傷はどうやら浅くない…何かで頭部を強く殴られたらしい。
特別立派な脳が入っているわけでもない大谷の頭ではあったが、
やはりそんな脳でも衝撃には弱いのだ。

幸い大谷の怪我は生命に関わるものではなかった。
人よりも頭が悪い分だけ少し丈夫に出来ていたのが幸いしたらしい。
「めぐちゃん、あの時何をしたの?」
「あの時?」
柴田の問いに、村田はとぼけるように答えた。
大谷に危害を与えた化け物がそのまま逃げ去ろうとした時、
それに向かって村田は何かを投げつけた。それを柴田は見ていたのだ。
「あの時なんか投げたでしょ!?」
「うん…い、いや…別に何も…」
村田は大谷の顔色を伺いながら言葉を濁した。

――数時間後、中央アフリカとある野戦病院
「…あれ?私一体…」
飯田圭織は自分の病室の入り口の目の前で我に返った。
(なんでこんなところに立ってるの?圭織ずっとベッドで寝てたはずなのに…!?)
最近なぜかこういうことが多い。
実は飯田圭織はアフリカ軍による徹底したゲリラ戦術の前にノイローゼに陥り、
それでも同行している副官の高橋に全てを任せる訳にも行かないので前線で戦い続け、
ついに発狂寸前になってしまったところでしかたなく一時入院することになったのだ。
分裂症という診断が下っている。
カチャ…

「圭織…どこ行ってたの?」

ドアを開けると、そこには飯田の古い仲間がいた。
生まれた病院が同じで、誕生日も2日しか違わないという安倍なつみである。
安倍は心配そうな顔で飯田に駆け寄った。

安倍はロシア方面軍司令だったが敵の強さに苦戦していた時
仲間の飯田が精神的にピンチに陥っているという情報を聞きつけ、
命令違反を覚悟でロシア戦線を放棄しアフリカへと救出に駆けつけたのである。
『モーニング娘。は個人が集まったただの人間の群れやない…一個のグループなんや』
つんくが石川に言い聞かせた言葉を、安倍は体現していた。
飯田の入院中は安倍と、新メンバーの高橋愛と小川真琴が前線で指揮を取っている。
58新着レスの表示:02/02/16 02:40 ID:7ccx+5Iw
つんこ
59マングース西浦:02/02/16 22:29 ID:WfymRGZA
「なっちこそ…もうこんな遅いのに…待っててくれたの?」
安倍はここ数週間宿舎に帰る途中で飯田の病室を見舞うことを日課にしていた。
毎日飯田が回復する様子を見て安心したかったのだ。
安倍と飯田は付き合いが長い。
お互い精神力の弱さを克服してきた者として飯田の体は心配だったのだ。

「だって、看護婦さんに聞いてもどこ行ったか分からないって言うしさ…
 戦争のせいで人出も足りないから捜索も出来ないって言われて…」
その戦争を起こしているのは自分達なのだ…安倍は胸を締め付けられる思いだった。
「と…トイレ行ってただけだよ。なっちごめん…心配させちゃって」
「…長いトイレだね…」
時々自分が何をしているか分からない時があるなどとは言えなかった。
安倍は昼間の戦闘で疲れ切っているはずなのだ。
心配はかけたくなかった。
しかし、安倍もそれに気付かないほど馬鹿ではない。

(圭織はもう限界かな…)
もう日本に帰らせて暫くゆっくり休ませたほうがいい…
密かに思う安倍だった。
(日本といえば、祐ちゃんはどうなってるんだろ)

――日本
その中澤は、UFA本部の執務室にいた。
月面に建造中の軍事施設が完成し次第そこに赴任する予定である。
しかし自分が留守になった日本の指揮を誰が取るのかがまだ決まっていないのだ。
「やっぱ圭ちゃんは頑固やったなぁ…」
中澤は初めその役目を保田に委任しようとしたのだが、保田は
「悪いけど私もうモー娘。じゃないから…」
そう言って断わった。保田は意志で出来ているので石が固いのだ。

後藤はつんくの言葉を各方面に伝える為に奔走している。
中澤の後を継ぐのはどうやら難しいらしかった。
「はぁ…どないしたらええんやろ…」
中澤がため息まじりにそうぼやいた時だった。

「正しいと思ったことをやればいいと思うよ、祐ちゃん」

突然背中のほうから声がした。
「だ…誰や!?…って…紗耶香!?」
後ろに立っていたのは市井紗耶香だった。
市井は全身の7割がカメレオンで出来ており潜入はお手のものだった。

「久しぶりだね」
平然と挨拶する市井。
「久しぶり…って、うちらアンタが今まで何やってたか全部知ってんねんで!?
 それで今更…何しに来たんや」
市井は敵方について色々なサポートを行っていた。
そのことはすでに中澤らも知っていたのだ。

「フフ…そうは言いながらすぐに警備員呼び出したりはしないんだね」
「ことと次第によってはすぐ警報スイッチ押すつもりやけどな」
それまでの表情を改め、市井に向けて厳しい視線を送る中澤。

「そう…じゃあ言うよ。私が何しに来たか」
市井はゆっくりと話し始めた。
その瞳にはかつて中澤が見たモーニング娘。に入ったばかりの頃の彼女の
いつも何かに脅えるような気の弱さは微塵にも残っていなかった。
60マングース西浦:02/02/18 10:09 ID:dA1mdmRk
まんこ
61マングース西浦:02/02/18 22:07 ID:vcIMSM2Q
――
この頃メロン記念日のリーダー村田は一人、途方に暮れていた。
村田は大谷に危害を加えたあの正体不明の2つの光の玉の居所を突き止めてしまったのだ。
大谷が倒された時あさみが示した方向に村田が投げたものは
特殊な電波を発信する小型の機械だったのだ。
なんかスパイ映画とかによく出てくる発信機とかいう便利なあれである。
それから発信される電波を電波を司る神である村田が受信することで、
相手の居場所の特定に成功したのだ。

しかし、特定出来たところで何が出来る?

村田は所詮ハロプロ独立正規軍の中の第一独立遊撃隊の隊長という末端の指揮官でしかないのだ。
大きな部隊を動かす器量など無い。
本当に戦うべき敵は他にいるし、それに今この街を動くわけには行かないのだ。
「どうしよう私…」
こういう時、村田が頼りにするのは斉藤瞳だった。
斉藤は全身の99%が金属で出来ておりその意見には重みがある。

「…そういう訳なんだけど…」
「ふぅん…それで、あいつはどこにいるの?」
斉藤は光の玉を『あいつ』と呼んだ。
「地図で調べたんだけど、中央アフリカの野戦病院にいるみたいなんだ」
光の玉の正体は怪物などではない。
人間の意志が感じられた。そして、そうならば大谷のような人間をもう増やすべきではない。

「じゃあ、私達でなんとかしようよ」
躊躇する村田をよそに、斉藤は即決してしまった。
「で、でも大谷の側にいてあげないと…」
「柴田がいるから大丈夫だよ」
柴田と大谷を置いて2人で中央アジアへと向かうことになった。
柴田は無論自分も行きたいと主張したが、大谷の側にいてあげて欲しいという斉藤の言葉に、
ついに諦めた。

民意を得ないゲリラ戦は必ず失敗する。
それは鉄則である。犯人を捕まえればハロプロ軍にとっても利益になるのだ。
平家らも同意したがやはり大きな部隊を割くことは出来ないということで
村田と斉藤の2人だけで向かうことになった。

――
「じゃあ言うよ…私が何をしに来たのか…」
中澤の部屋に潜入した市井は話し始めた。

「最初に確認したいんだけど祐ちゃんは、なんでみっちゃん達と戦うの?」
「な…なんでって何を言い出すねん今更…私はやるべきことをやってるだけや」

モーニング娘。による世界支配の手始めとして始められたハロプロの植民支配。
それに平家始めモーニング娘。以外のハロプロメンバーが抵抗したことから、
今の戦いは始まっている。
その当初から、中澤はその先鋒となって戦いを推し進めているのだ。
平家を捉えた時、『早くこの子処刑にして下さいつんくさん』そうとまで言い放った。
つんくがハロプロを支配すると言った以上、それに最大限同調するのが自分の努めだと思ったのだ。

「そうなんだ…でも、祐ちゃんは本当にそれでいいの?」
「何がやねん」
「祐ちゃんは本気でみっちゃん達が憎いの?」

憎いはずが無い。特に平家とはハロプロの中でも一番分かり合えていると思っている。
状況が違えば今でもかけがえの無い大切な仲間と呼べていたはず…
「紗耶香…でもな…これは仕方ないことなんや」
この時の中澤の口調はまるで大人が子供を諭すようだった。

「つんくさんの為に?つんくさんがみっちゃん達と戦うから…!?」
「そうや」
市井の言葉に即答する中澤。
その目に迷いは無い。

「つんくさんは、父親のおらん私にとって父親みたいな存在なんや」
「そう、じゃあ祐ちゃんはお父さんの為に戦ってるって…そういうこと!?」

「そうや」
「は…ははははっ」

突然笑い出す市井。
中澤は不快そうに眉をしかめた。
つんくさんから受けた恩を返すということが、そんなにおかしいことなんか!?
「何がおもろいねん紗耶香!」
「…祐ちゃん、つんくさんがお父さんって言うんならさ…つんくさんの言うがままになってる
 今の祐ちゃんはまだ親離れ出来てないお子様ってことじゃん」

子供はいつかは親の元を離れていくものだ。
市井はそう言っている。そして、父親にとっても子供が自分の元から飛び去って行くことは
寂しいことでもあるが、嬉しいことでもあるはず。
62マングース西浦:02/02/19 23:20 ID:EwzPxnYQ
市井は、返し切れなかったつんくへの恩を返す為に、戻ってきたのだ。
ハロプロ独立正規軍に、つんくからの独立という最大の親孝行を果たしてもらう為に…
当然最初からそう思っていたわけではない。
自分は一体何者なのか…考えた末に出た答えだった。

「つまり紗耶香は私に…つんくさんを裏切れ言うんか?」
紗耶香は自分に『つんくさんを裏切れ』そう言いに来たのだ。
中澤にはそうとしか聞こえなかった。
中澤は外見は大人に見えるが体の4割が頭の悪いヤンキーで出来ているので人一倍義理堅い。
「そうとは言ってないよ。私は祐ちゃんに、モーニング娘。のリーダーという立場からも、
 モーニング娘。軍代表という立場からも、つんくさんの娘という立場からも離れて、
 一人の人間として何が正しいことなのか考えて欲しいって言いに来たの」
…一人の人間として…
これまで学生、OL、演歌歌手、モーニング娘。と制服を着て
その立場の上だけで生き続けてきた中澤にはない発想だった。

「紗耶香…もう出てってくれ」
「…分かった。でも祐ちゃん、考えといて。そして何かの答えが出たなら私に連絡して」
「…」
市井は連絡先を書いた紙を中澤の机に置くと、すぅっ壁に溶け込むように消えていった。

「紗耶香…あんたの言うことは分かる…でもな…もう少し早く来て欲しかったわ…」

――
「めぐちゃん、この野戦病院の中にあいつがいるんだね?」
「うん…絶対いる」
北アフリカを発し、2人が中央アフリカの野戦病院に到着したのは2日後のことだった。
野戦病院は戦場における中立地帯である。
こちらから討って出る訳にはいかない。2人は野戦病院の近くの適当な茂みに身を隠すと、
張り込みを始めた。

「それにしてもなんでこんなところにいるんだろうね」
凶悪な通り魔がなぜ病院に潜んでいるのか…
分からないことだらけだったがとりあえず、
「私見張ってるからヒトは休んでたらいいよ」
無論ヒトとは村田が斉藤を呼ぶ時に使う呼び名だったが、
まだあの化け物が活動を始める夜までには時間がある。
それまでの間休んでたらいいよ。村田が言った。
「そんなの悪いよ。私だけ休んでるなんて」
「いいって。ヒトが起きたら次私休むし」
交代で仮眠を取るのは張り込みの基本である。
更にあんぱんとパックの牛乳があればもはや言うことは無いのだが…
「ほんとに?じゃあ悪いねめぐちゃん…」
斉藤はすぐに寝息を立て始めた。
どうやらかなり疲れていたらしい。
移動に2日もかかってしまったのだ。致し方のないことだったろう。
ずっと一緒だった斉藤が疲れているのに、村田が疲れていない法は無い。

村田めぐみはメロン記念日のリーダーである。

村田リーダーとはこのメロン記念日というグループにおいて一体どのような
位置づけであるべきなのだろうか?
鬼のように強い意志の力でメンバーを率いるリーダー、困った時に頼りにされるリーダー、
メンバーを優しく調和させまとめあげるリーダー、強烈なカリスマでメンバーからの崇拝を
集めるリーダー、
自分はそのどれでも無いような気がする。
困った時はメンバーを頼りにしてしまう。
ただ最年長で、イベントでの進行役というそれだけでリーダーを名乗ってもいいものなのだろうか。

モーニング娘。は違う。リーダーの中澤裕子はリーダーとしての仕事を
きっちりやっているように見える。
それに続く飯田圭織、保田圭らも後輩のメンバーの面倒をよく見ている。

自分は、メロン記念日のリーダーとして何が出来ているのだろうか…

そんなことを思う内、辺りは暗くなっていた。
(…!)
村田が気付いた時、敵はすでに野戦病院の病棟の外にいた。
(は…早い)
前に間近で見た時よりも更に動きが速い。
野戦病院を出た怪物は病棟の玄関を出た辺りで立ち止まり、周囲を見回している。
63 :02/02/21 06:01 ID:cEz/l6Xb
64 :02/02/22 00:49 ID:zXNCJ7NL
川σ_σ|| 
65マングース西浦:02/02/22 10:21 ID:VLTkN2b3
(ど…どこかで見たことがあるような…)
怪物が立っている辺りは病院の照明でかろうじて完全な闇からの支配を免れている。
かすかに照らし出されたシルエットにはなんとなく見覚えがあった。
しかしその時暗闇にギュォォーーン…という高い音が響いたかと思うと、
怪物の周囲に竜巻のような風が起こる。
(な…なんだ?)
村田が呆気に取られていているうちに、怪物はあっという間の速さで
視界から消えていってしまった。
(風に乗って飛んで行った?…いや違う)
「ホバークラフト…」
怪物の下半身に装備されたロングスカートから地面に向けて圧縮した空気を送り
両足を地面から僅かに浮かせ、更になんらかの推力で行きたい方向へと
目にも止まらぬ速さで移動できる。

(あれは一体…はっ)
村田がようやく斉藤を起こし忘れていたことに気付く。
「ヒ…ヒト、起きて。早く追いかけないと…」
「な…何?もう行っちゃった後なの?」
「ご…ごめん」
とにかく2人は斉藤が運転する原付にまたがると、発信機から発せられる電波を頼りに相手を
追い始めた。

「は…早い…なんて速さなの」
制限速度ギリギリのスピードで追う2人だったが、ターゲットは近づくどころか
逆に引き離されてしまう。
「このままじゃエンジンが…」
エンジンが焼け付いてエンストしてしまう…
その時だった。

「!!や…やばい!」
危機を察知した村田は斉藤と共に原付から飛び離れた。
次の瞬間、その辺りを爆風が覆う。

「一体どこから…」
2人を襲った爆発の犯人はどうやら小型爆弾だった。
いわゆる、『爆竹』というものである。
その時、電波を操る神の村田が気付いた。
「あいつがこっちに来る…」

『あいつ』は、ほどなくして2人の目の前に現われた。
「あ…あなたは…」
「飯田さん…」
自分の周りに爆竹を浮かべながらホバー移動で2人のもとに現われたのは
モーニング娘。の副リーダー格、飯田圭織だった。
しかし普段とは違い、なぜかその両目が不気味に赤く光っている。

呆気に取られる2人の目の前で、飯田が口を開く。
「戻れ、ファンネル」
いつもの暖かみのある口調とは180°違う。
冷たい口調だった。
飯田の言葉に従い、ファンネル(爆竹)は全て飯田の長い髪に隠れるように収納された。
どうやら、飯田の脳波に反応して敵を攻撃する兵器らしい。
ファンネル爆竹である。

「ど…どうなってるの?」
毎晩のように出没しては民間人に危害を加えていたのが飯田圭織だったというのか?
村田の知るかぎり、飯田はそんなことをする人間ではなかった。
大谷をやったのも飯田さんなの?
「なぜ私を追って来る」
飯田はメロン記念日の2人を目にして驚く様子も見せない。
戸惑う村田をよそに、斉藤が一歩踏み出した。
「まさか…今アフリカで問題になってる通り魔って…飯田さんのことだったんですか!?」
「ふっ…」
飯田が笑みをこぼす。
「だとしたらどうした!?」

「!…い、飯田さん、あなたは…」

「邪魔だ!」
「くっ!」
飯田が払った右腕をとっさにガードした斉藤。
斉藤は体の99%までが鉄で出来ているため骨に異常はなかったが相手の飯田は体の99,9%までが
チタン合金で出来ている。チタン合金は鉄より軽く、弾性があり強い(と思う)。
弾き飛ばされた斉藤はこの時背中を強く打ち、
立ち上がろうとしたが体が言うことを聞かなかった。

「フ…フフフ…」

その時、倒れる斉藤の側で聞き覚えのある笑い声が聞こえた。
リーダー村田の含み笑いである。
この含み笑いはメンバーがピンチになった時に決まって聞こえてくるものだ。
かつて大谷がアルプス山脈で敵の砦に取り残された時もこの笑いが大谷を救った。
「め…めぐちゃん駄目…相手が悪すぎる…」

「ウフフフフフ…」
66マングース西浦:02/02/22 10:23 ID:VLTkN2b3
すでに村田の目は完全にイッてしまっている。
やらなければやられる…その空気が村田の心にスイッチを入れてしまったのだ。
村田は完全に人格が変わっている。

「不気味な奴…行け!ファンネル!」
飯田の髪から村田に向け無数のファンネル爆竹が発射される。
しかし、
「フフフ…貴様のファンネル、既に見切った!」
ファンネル爆竹は操縦者の脳波を感知して遠隔操作で敵を攻撃する兵器である。
しかし、電波を操る村田の前では全くの無力だった。
村田は飯田の脳波を感知し、繰り出されるファンネル爆竹を全て
紙一重だと火傷とかして危ないので紙十重くらいで避ける。

「く…ファンネルの反応が鈍いのか!?」
村田の予想外の反応の良さに、飯田の表情に焦りの色が浮かぶ。
ファンネルは通常相手を捉えたら撃墜するまで逃がさないと言われるほど
命中精度の高い兵器である。
「フフフ…爆竹はこんな危険な使い方をするものじゃあ無い!
 爆竹はな…カエルのお尻に刺したりして楽しく遊ぶものだ!」
「い…いや、そういう使い方をするものでも…」
斉藤のつっこみもこの時の村田の耳には届いていない。

「ええい!雑魚がうろちょろと!」
突如業を煮やした飯田が両目から光線を発射する。
この光線は『ディアービーム』である。比較的古い武器だった。
村田はそれを横飛びで避けることには成功したが、
その時不覚にも敵を見失ってしまう。

「!!き…消えた!?そんな馬鹿な!!」

「!めぐちゃん!後ろ!」
「!」
後ろを振り返ると、そこには飯田のファンネル爆竹が一つ浮かんでいた。
「ファンネルは既に見切ったと言った…なにっ!?」
しかしここでファンネル爆竹が村田にとって予想外の動きを見せる。
変則的な動きをする爆竹を避けきれず、結構近くで爆風を受けてしまう。
「うわっ!耳がキーンってなる…」
かなりうるさい爆発音に、村田は堪らず崩れ落ちる。
見切ったはずの技をくらってしまったショックに、
しばし立ち上がることも出来ない村田。
勝ち誇った飯田が思わぬ言葉をかける。
「電波を操れるのはお前だけでは無かったということだ」
電波を操る神である村田に対し、飯田は電波を司る女神だった。
神と女神がどう違うのかとかそういうことは今は別にどうでもいい。

「ま…まさか電波で私が負けるなんて」
村田はすでに人格がもとに戻っている。

「め…めぐちゃん!大丈夫!?」
止めをさそうとする飯田と村田の間に、斉藤が割って入る。
「だ…大丈夫…ほんのかすり傷だから…」
そう強がってみせる村田だったが、息遣いがかなり荒く、顔も青ざめている。
どう見ても無事ではない。
「そんなはず無いじゃん!怪我見せて!」
見ると、本当にかすり傷だった。
細くてかわいいめぐたんは人一倍かよわい。

この時、仲間に介抱される村田を見た飯田の表情が歪む。
「う…うぅ…ナ…カマ…仲間…」
突然頭を抱えて苦しがる飯田。
今の2人のやりとりを見て脳波にダメージを受けたらしい。
ファンネルの使い手は神経が過敏に出来ていて色々なものを感じやすい。

「ど…どうしたんですか?」
「く…」

飯田は2人に背を向けると、逃げ出した。
「ま…待って下さい!」
斉藤は、かすり傷で動けない村田をおぶさると再び原付にまたがり飯田を追い始めた。
相変わらず飯田のスピードは斉藤の原付では追いきれないほどだったが、
しばらくすると、飯田は逃げることを止めてしまった。
ほどなくして、野戦病院の前で飯田においつく2人。
67マングース西浦:02/02/22 10:24 ID:VLTkN2b3
しかし、飯田の様子が先刻までと違う。
「飯田さん!待って下さい!」
「え?あ!メロン記念日の…なんでここにいるの?」
飯田はまるで2人を今日ここで始めて見たような顔をしている。
「とぼけないでください!」
「な…何!?ここは野戦病院だよ!ここでは喧嘩禁止って決まってるの!」
完全な現行犯に中立地帯も何も無い。
飯田の行為は戦闘行為などではなくただの犯罪行為である。
ひっとらえようとした斉藤だったが、飯田の様子がおかしい。
本当に何も知らないようなのだ。先刻までとは口調までが違う。

「飯田さん…本当に分からないんですか?」
「何が?」

「圭織は多分本当に分からないんだ…」
その時、野戦病院の中から一人の女が現われた。
「なっち…!?どういうこと?」
安倍なつみである。
「圭織は分裂症なんだ…最近様子がおかしいと思って調べてもらったら分かったの。
圭織はなんだっけ…あのロミオとジュリエットじゃなくて罪と罰じゃなくて
トウモロコシと風と空じゃなくて…」

「…ジキル博士とハイド氏ですか?」
斉藤の言葉に安倍はあ、それそれ、と言いながら肯く。
飯田はあの有名な小説のタイトルにもなっている博士と同じような症状になっていることが
分かったのだ。
普段は普通に日常生活を送ることが出来るが、夜になると狂暴な一面が顔を出す。

「そ…そんな…」
信じられないという表情を浮かべる飯田。
飯田は優しすぎたのだ。戦って敵を押しのける前線の指揮官には向いていなかった。
体の99,9%までがチタン合金で出来ていることも悪く働いた。
人間的な部分が少ないため訳の分からない言動をしてしまうことが多いのだ。
しかし、罪を犯してしまったことは事実である。
情状の余地はあれど、罪は償わなければならない。

「どうする!?圭織を連れて行く?」
安倍が斉藤と村田に訊ねる。
もし村田と斉藤が肯けば、それを止めるつもりも無いようだ。
大切な仲間をあんな目に合わせた相手である。
本心を言えば大谷と同じ目に合わせてやりたいという気持ちもあった。
しかし、斉藤は首を横に振る。
「いえ…早く日本に返ってその病気を治して下さい」

斉藤は体の99%が鉄で出来ている。
100%が鉄で出来ていたと言われるサッチャーとは違う。
心だけは、温かい人間の心なのだ。
「今度会う時は、また違う形で会いたいです」
村田の言葉に、飯田はただ肯いた。

―――――――――――――――――――
鉄は人を殺さない
  殺すのは手である
    その手は心に従う
       (ハイネ/『ルナチア』)
―――――――――――――――――――

――一方、UFA本部中澤執務室
「アフリカもあかんようになったか…」
ついにアフリカもハロプロ軍の手に落ちた。
その報告を受けた中澤の心の中に、次第に膨らんできているものがあった。
(やっぱ、私はこうするんが正しいのかもしれへんな…紗耶香)
中澤は以前市井から受け取った連絡先に電話を掛け始めた。


「じゃあ、UFA本部の前で」
『うん、分かった』

そう言って電話を切ると、今度は違う番号に電話を掛け始める。


「じゃあ、そういうことでええな!?」
『祐ちゃん…ほんまに大丈夫なんやな!?』
「当たり前や。私が約束破ったことなんてあったか?」

そういって再び電話を切ると、中澤は出かける用意を始めた。

この頃、石川はまだ日本にいる。
無論ただいたのではない。
弱みを握った矢口に少し働いてもらっていたのだ。
矢口は日本最大手の総合商社T&M。カンパニーの代表である。
財界に顔を利かせることが出来る立場にある。
それを利用したのだ。

「石川…本当にいいの?勝手にこんなことして…」
「矢口さんは心配しなくてもいいですよ」

財界の推薦で、石川は病床のつんくの代行弁務官に推されたのだ。
つんくが病気の間はその全権のほぼ全てが、石川に移動するということである。
密かに準備を進めていた石川はようやく工作が成功したということをつんくに
報告するためUFA本部に向かおうとしていた。

――
「祐ちゃん、決意してくれてありがとう。嬉しいよ」
UFA本部前で中澤を待っていたのは市井紗耶香である。
右手にはつんくへの見舞いの品だろうか、何かの包みを手にしている。
68マングース西浦:02/02/22 10:27 ID:VLTkN2b3
中澤はおそらくはこれまでの人生でも最も大きいであろう決断を下した。
「あんたにそんなこと言われる筋合いは無いわ…お礼言いたいのはこっちのほうやし」
そう言うと、2人は程近い病院へと向かった。
つんくが収容されている病院である。

病院のロビーを肩を並べて歩く2人。
身長はそう変わらない。
ふふふ…
「な…何がおかしいねん!?」
突然笑い出す市井。
「だって、祐ちゃんガチガチなんだもん」
これまで多数の4人のメンバーが卒業していくのを見送ってきた中澤である。
しかし、ついに自分が卒業する時が来てしまったのだ。
卒業が、こんなに緊張するものとは思わなかった。
もともとアガリ症で通っている中澤でもある。
「…はい、祐ちゃんこれ」
そんな時、市井が右手に持っていた包みを開いた。
「なんや…私に?」
「うん、今ここに来る時摘んできたんだ。摘みたてだよ」
それは、真っ赤な木苺だった。
中澤は熟しきったそれを潰さないよう慎重に一つつまんで口に入れる。

「どう!?」
「甘い…」
ははは…
市井は笑うと、中澤の方を見て立ち止まった。
それにつられて中澤も立ち止まる。

「その木苺はね…半年くらい前、みっちゃんが食べたのと同じ木になってた木苺なんだ」
「…平家も食べた…!?」
「うん。でも、その時はまだ全然熟してなくて、食べられたもんじゃなかったんだ」
そう…あの頃のハロープロジェクト独立正規軍そのものの味だったってわけ
市井は続けてそう言わんとしている。
そして、あの木苺が熟した今、ハロプロ軍は…
全てを察し、中澤は肯いた。

「…分かった。ありがとう紗耶香…私の緊張ほぐしてくれたんやな」
はは…
中澤の礼に、市井は爽やかな笑いを返した。
「じゃあ改めて…行こう、祐ちゃん」
2人は再び歩き始めた。

「中澤です…入ります」
「おう」
その直後、中澤に続いて入室してきた相手の顔を見たつんくは、
もとから丸い目を更に丸くした。
「い…市井がなんでこんなとこにおんねん」
「色々あるんですよ。人間長く生きてれば」
歳に不相応な言葉を吐く市井につんくが苦笑する。
同じ歳頃の女の子よりは確かに色々な経験を重ねているかもしれない。
しかし市井もつんくの目から見ればまだまだ子供だ。
つんくの笑いが収まったところで中澤が話し始める。
「私は、ハロプロ軍の独立を認めるために、これから平家と会ってきます」
「な…なんやと!?」
つんくは耳を疑った。
モーニング娘。軍代表ともあろうものが敗北を認めるにも等しい行為ではないか。
「あ…あかん!あいつらの独立だけはあかんぞ!それを認めたらお前らは…」
「いや、つんくさん…私考えたんです。今の私はモーニング娘。のリーダーというより、
 気持ち的にハロプロのメンバーって部分のほうが大きいんやないか…って」
私はモーニング娘。を脱退します。
中澤はそう言っている。しかも、保田のように完全に身を引くわけではない。
言うなればハロプロ軍への寝返りである。

「なんでやお前…モー娘。がどうなってもええ言うのか!?」
中澤は首を振る。
「つんくさん…つんくさんは前、うちらのことを『娘みたいなもんや』って言ってくれましたね…
 娘は、いつか親元を離れていくものです。いつまでもつんくさんに頼ってはいられません」

「いつか娘。が潰されんで…それでもええのか!?」
つんくが苦しそうに胸を押さえる。
「私はそうは思いません。うちらは共存できるはずです…現に、私と平家は親友なんです。
 仲間同士で潰し潰しあうやなんて…そんなことが永久に続くはずがありません」
69マングース西浦:02/02/22 10:29 ID:VLTkN2b3
今日からしばらく旅に出るのでしばらく書けません
手からず
じゃなくて
あしからず
70 :02/02/22 22:49 ID:zXNCJ7NL
川σ_σ|| 

川σ_σ|| 
71こねこ:02/02/23 02:44 ID:+NRpP8Ui
面白い・・・語り口がいい。
72新着レスの表示:02/02/24 00:14 ID:xkOic3XZ
( `.∀´)
73ねぇ、名乗って:02/02/25 06:27 ID:T8jDhZwK
短い旅になるよう祈りつつ保全
74マングース西浦:02/02/25 08:28 ID:6bRRM7lc
旅先から
75マングース西浦:02/02/25 08:29 ID:6bRRM7lc
「阿呆!」
人間に期待し過ぎだ!人間は必ず潰しあって他人の犠牲の上に繁栄してきたし、
これからもそれは続く…それは必然なのだ…
そう続けようとしたつんくだったが、それを押し留めた。
中澤は外見は大人に見えるが全身の40%が頭の悪いヤンキーで出来ているため
相手の聞く耳を持たないというか頑固な面がある。
保田とは多少質の違う意志の固さを持っていたのだ。

「…これ以上言っても無駄やな…これまでの苦労が全部パアや…」
自嘲気味に笑ってみせるつんく。
しかし、市井がそれを諌めた。
「つんくさん、私達はこれからです。これから、1から始めるんですよ」
ふふふ…俺の時代は終わり言うことか…
つんくは笑うと、
「行け…」
そう言った。
そして部屋を出ていく2人の背中に、
(お前らが作る未来いうのも見届ける義務があるのかもしれへんな…
 お前らのプロデューサーとして…父親として)
そう心の中で声を掛けた。

「あれ?中澤さん…」
2人が外に出ると、ドアの外には石川梨華がいた。
「あ…石川さん…だよね」
「い、市井さん!?なんでこんなところに…中澤さん!どういうことなんですか!?」
石川は不思議でたまらないという顔をしている。
なんで敵の市井紗耶香が中澤と一緒につんくの病室から出てくるのか…

「アンタまだ日本におったんかい」
中澤はまだまだ石川のことを子供だと思っている節がある。
年齢的に言えばそれも当然だったが、石川は納得出来ない。
自分を気にもせず前を去ろうとする中澤を追いかける。

「な、中澤さん、どこに行くんですか?」
「平家に会いに行くんや」
「なんだ、そうだった…え!?」

石川は耳を疑った。
平家は言うなれば敵の親玉である。その平家と直接会うと言うことは
なにか大きなことが起ころうとしていることを意味しているに違いない。
しかし石川はそのような予定があったことなど知らなかった。

「平家さんのところに…なにしに行くんですか?」
それでも食い下がる石川。
「独立を認めに行くんや。うっさいなアンタ」
「う…ウソ!?そ…そんな!」
(勝手すぎる…)

そんなことを認めるわけには行かない。
せっかくアヤカと秘密裏に和平工作を進めているのだ。
成功すれば戦後の権益を一人占め出来る。
しかし、今ハロプロ軍に独立されてしまったら全てがパアに…
(じょ…冗談じゃない)

「も…モーニング娘。を裏切るんですか中澤さん!」
「もう私はモーニング娘。やない」
脱退しやがったのか…
すぐに察する石川。
76新着レスの表示:02/02/26 00:47 ID:8+4f/rR2
きょうViewsicでメロン小特集やってたよ
77マングース西浦:02/02/26 22:06 ID:byJqcDju
「じゃあもう中澤さんに反乱軍の独立を認める権利なんて無いじゃないですか!」
「モーニング娘。は止めたけどな、モーニング娘。軍代表まで止めるとは言ってへん」
「!?そ…そんな…ずーるーいー!!」

だだっこのような石川を置いて、中澤は既にヘリポートに到着しヘリに乗り込もうとしていた。
中澤は数人の兵士に声を掛け、すぐに離陸するよう指示を出している。
「中澤さん…中澤さんは市井さんに騙されてるんです!考え直してください!」
石川の最後の懇願も無視し、中澤はヘリに乗り込んだ。
(ババアは絶対に平家のところに行かせちゃだめ…どうしたら……えい!)

「中澤さーん!!行かないでくださーい!!敵に寝返らないでくださーい!!」
石川の大声を聞いた兵士が振り返る。
しかし、すでに機内の人になっていた中澤と市井の耳には
大きなローター音の為にその声は聞こえていない。

「ね…寝返りとは本当のことでありますか!?」
石川に訊ねる兵士達。
「そ…そうなの!!うちらが劣勢になってきたからって恐れをなして、
 中澤さんは敵に寝返って自分だけ助かろうとしてるんです!!行かせないで!!」
「な…なんということだ……行かせるな!!離陸を止めるんだ!!」
石川の言葉を信じないわけには行かない責任者が、
周りの兵士達に指示を飛ばす。
78マングース西浦:02/02/28 18:40 ID:a2ChC5Gj
「石川さんがなんか喚いてるよ」
「知らんわ。あの子も最近よう分からんようなってきた」
機内の2人は外の状況が分かっていない。
「離陸を止めるように言ってきています」
操縦士が後部座席の2人に顔を向ける。
「かまへん。責任は私が取るからはよ出発して」

ゆっくり上昇を開始するヘリコプターに、ついに発砲が始まった。
「う…撃ってきます!!」
「あのアホ…何してくれんねん…まあどうせ威嚇だけや。はよやったって。
 和平が遅れれば遅れるだけ犠牲者は増えんねんから」

「このままでは…行ってしまいます!!」
「馬鹿!!もっと良く狙うの!!」
石川は顔面にこれまで他人に見せたことが無いような形相を貼りつけている。
これまでいくつか修羅場もくぐってきた責任者も圧倒されてしまった。
「し…しかし当ててしまったら…」
いくらなんでも尋問も無しに功績のある中澤を死なすわけには行かないだろう…
責任者はそう思っていた。
「よ…弱虫!!それでも兵隊さんなの!?…あぁ行っちゃう…もう!!」
石川は兵士を人殺しの道具とでも思っているようだ。
兵士を罵倒しながら兵器庫の方へ駆け寄った石川はミサイルランチャーを持ち出した。
「あのヘリをこれでう…撃ち落として!!」
「いや…し…しかし!!」
中澤が搭乗するヘリコプターは空の戦車とも呼ばれる新鋭の戦闘ヘリである。
しかしそれでも無防備にミサイルの直撃を受ければひとたまりもない。
「いいから!!」
「私の一存では許可しかねます!!」
「…もうお前は…」
「…は!?」
「いちいちうるせえ!!いいから撃たねえとお前から先にぶっ殺すぞ!!」
ついに豹変した石川に、責任者も押し切られた。
79 :02/03/01 01:39 ID:f5kP84Lw
( `.∀´)(`.∀´ )
80 :02/03/02 11:52 ID:7MOdvnAE
((( `.∀´X`.∀´ )))
81マングース西浦:02/03/02 13:45 ID:f3Doal0B
――
この頃、モーニング娘。軍オセアニア方面軍の『白き鷹』は行政府の屋根に登り、
遠く日本の方角を眺めていた。
なんとかと煙は高い所が好きなのである。
「…梨華ちゃん遅いなぁ…」
石川と交代で日本に帰る予定だった吉澤ひとみだった。
石川はたった2日の日本滞在の予定だったはず。
なのにもう2週間以上の時間が経過してしまっている。
その石川からは何の音沙汰も無いのだ。

「はぁ…ごっちん、中澤さん、つんくさん…みんな元気なのかな…」
寂しそうな吉澤の瞳は見えるはずも無い遥か遠い日本を真っ直ぐに見つめていた。
梨華ちゃんはみんなと昔のように楽しくやってるのかな…

「うらやましい…」

吉澤はため息まじりにそう呟いていた。
82マングース西浦:02/03/02 13:51 ID:f3Doal0B
――
「祐ちゃん、なんか石川さん物騒なもの持ち出してきたみたいだよ」
「んん?…気にせんでええって。撃ってくるはずあらへん。ただの脅しや」
そうだよね…そう言ってもう一度後ろを振り返る市井。
「!!」
しかしその直後市井の表情が一変する。
「な…なんだって!?」
「み…味方ミサイル急速に接近!!よ…避けられません!!」
副操縦士の声悲鳴のようなが機内に響いたが、それを言い終えるかいなかのところで
機体が大きく傾いた。
「い…石川…!?アンタ何してんねん…」
「…祐ちゃんごめん…こんなことになるなんて…残念だよ…」
「紗耶香…」
次の瞬間、モーニング娘。結成当初以来のリーダーと、二期メンバー最初の卒業者2人の
世界を変えるかもしれなかった決断は空港に向かうヘリコプターの中で
爆風と共にこの世から消えた。

この頃、ハロプロ軍は独立決定目前という喜びに沸いていた。
あと1日もすれば中澤が到着し、そこで独立が成立するのだ。
ようやく決まった新しい衣装――アフリカの民族衣装――をまとったメロン記念日の4人も
この時ばかりは全ての悩みから開放されていた。
これまでずっと延期されてきたデビューも独立がきまれば具体的な形になるだろう。
独立記念日はもうすぐだ。

プルル…
そんな時、アフリカ行政府に通信が入った。
「はい。平家ですが」
機嫌良く電話を受け取った平家の顔から、見る間に血の気が引いていく。
受話器を持つ手が震えているのも見て取れた。
「…」
無言で受話器を置いた平家。
会場は一度に静まり返ってしまった。

「みっちゃん…何があったん?」
しばらく誰も声をかけられなかったが稲葉が口火を切った。

「祐ちゃんが……せ……戦死しはったって…」

登場人物
安倍なつみ
モーニング娘。スポンジで出来ている。太りやすい。度量が広いようで広くない。北海道。豚っぽい。
83新着レスの表示:02/03/03 00:05 ID:qjbpyRW5
し、死?
84マングース西浦:02/03/04 17:10 ID:w5MUTJtD
9話 『躍動』
「はぁ…はぁ…はぁ…」
爆発の熱気を顔で受けながら、石川は息を切らせていた。
やってしまった…中澤裕子を、同乗者も巻き添えにこの世から抹殺してしまった。
もはや立ち止まることは出来ない。
石川はついに自分の手で本格的に火蓋を切ったのだ。
しかし…

「早く救護の人間を呼んでくれ!」

兵士の一人が叫んでいるのを石川の聴覚が察知した。
だが…
あの高さと、あの爆発である。

「もう手遅れよ…中澤さんは、名誉の戦死をしたの」

虚ろな目で、石川が口を開く。
「名誉の戦死!?」
石川の声を聞いた兵士が振り返る。
「いいから…中澤さんの名誉のために、そういうことにしておくの…
 中澤さんは最期まで勇敢だった…みんなも、『本当のこと』は絶対人に言っちゃだめ」
中澤裕子はもうこの世にいない。
あの、憎らしい中澤は…そう思いたい石川だったが、胸が苦しかった。
憎らしく思っていたはずの中澤だったはずなのにどうして…
石川はまだ気付いていない。
石川は中澤を愛していた。
恋人に向ける恋愛の愛とは違う。家族愛の愛とも違う。
モーニング娘。の一員にしか分からない、メンバー愛の愛である。
85 :02/03/06 03:47 ID:QI2bxDwe
( `◇´)
86マングース西浦:02/03/06 21:40 ID:vSjhQ2k2
「く…苦しい…」
ついに石川は地に膝をついた。
…戻って来て…中澤さん、戻って来てまた私を叱って…
しかしもう中澤は永久に帰らない。

その時、
「い…いやぁぁぁー!!」
慌ただしいヘリポートに、1人の女性の悲鳴が響いた。
「い…いや…紗耶香…祐ちゃん…そんな…」
悲鳴の主は後藤真希だった。
爆発音を聞きつけて駆けつけた後藤は、兵士から中澤と市井が搭乗するヘリが墜落したことを
知らされた。
「り…梨華ちゃん…どういうことなの…?戦死って…こんなところで戦死なんてありえないじゃない…」
UFA本部屋上のヘリポート。
戦場ではない。

「うぅ…」
石川はようやく立ち上がると、後藤を無視してその場を去ろうとした。
「り…梨華ちゃん!?」

「戦死と言ったら戦死…事故でも事件でもなく、戦死なの…」
石川は苦しそうに言い捨てると、その場を去って行った。

「…紗耶香…」
まだ話したいことがあった…もう一度会って話したいことがあったのに…
後藤は、最後に市井と話した時のことを思い出していた。

あれは、つんくの本当の気持ちを知り、市井にこれ以上情報を流すわけにはいかない。
そう伝えた時のことだった。

――
『ありがとう後藤。また情報があったら頼むね』
「そのことなんだけど…もうこれでこういうことは最後にしたいの」
『…なんで?どうしたの!?』
つんくは私達のことを思ってくれていた。
そのつんくのことを裏切るようなことは出来ない。
後藤はこの時決意していた。
「もう影でつんくさんを裏切りたくないの…」
8789:02/03/07 13:32 ID:6mCmDRS3
88マングース西浦:02/03/07 23:15 ID:I8SY+sMR
また叱られる…以前のように…
そう思った後藤だったが、市井の反応は違った。
『そっか、後藤は、自分でそうしようって決めたんだね』
「…うん」
『よし、分かった。今まで気付いてあげられなくてごめんね。後藤に辛い思いさせちゃったね』
そんな…申し訳ない気持ちなのはこっちなのに…
これまで後藤は自分の立場というものについて、深く考えたことが無かった。
だから市井から言われたように、情報を流していたほうが気が楽だったのだ。
何もしていないより、嘘でも何かをしていたほうが気が楽だった。

「ううん…そんな…」
幾つもの感謝の言葉が胸を突いて、なかなか口から出てこなかった。
『じゃああんまり長く電話してると怪しまれるから…真希、頑張ってね』
「あっ…」
そのまま、唐突に通信は切れた。
ごくたまに、市井は後藤のことを真希と下の名前で呼ぶことがあった。
後藤が新メンバーだった頃、その教育係を買って出た市井である。
特別な思いがあったのだろう。
最後に、紗耶香は私のことを下の名前で呼んでくれた。
なのに、礼の言葉も言えなかった自分。
もう一度逢って、直接伝えたい言葉があった。

しかし、それはもう叶わない。

――
「失礼します」
石川は、ヘリポートを去ったその足でつんくの病室へと向かった。
最初から石川はつんくの病室を訪ねるつもりだったのだ。
その途中でたまたまあの2人と出会った。

「あっ…」
思わず石川は声を漏らした。
つんくの病室にまた保田がいたのである。
「あ、石川…私も今来たばっかりなんだ何か外騒がしいけど石川大丈夫だった?」
「保田さん…私は大丈夫ですよ。私はね…」
モーニング娘。をやめた身でありながらモーニング娘。統一国家の重鎮である
つんくの見舞いに我が物顔で来るなんて…しかもそれをつんく自身が黙認している。
不満を感じる石川だった。
だがどうやら保田もつんくも外で何が起こったのかをまだ知らないらしい。
89 :02/03/09 02:11 ID:7o9hNejE
んがぐぐ
90マングース西浦:02/03/10 02:14 ID:oVERaNyD
「石川…お前…まだ日本におったんか!?」
突然の石川の来室に、一瞬つんくの瞳に厳しい光が宿る。
しかし、それはすぐに消えた。
前回保田から諌められ、厳しくすることだけが能ではないと考え直したのだ。
「まあええか…石川、もう終わりや。全部終わったんや」
つんくの表情は諦めているというより、むしろすがすがしかった。

「全部終わりって…どういうことなんですか?」

「中澤と市井がな、全部終わらせてしもうたんや」
「…」
ふーん、という無反応な表情を見せる石川。
つんくにとっては意外な反応だった。
「なんや石川!?元気無いやないか。こないだ厳しく言いすぎたんは悪かったと…」

「中澤さんと市井さんは亡くなりました」

「…ん?なんや!?」
「あの2人は、ついさっき戦死したって言ったんです」
つんくの表情が歪む。
「悪い冗談は止めてよ石川」
保田が諌める。
それでなくてもつんくさんには心配事を増やしちゃいけないんだから…
そう続けた。
「アホなこと言うな…あの2人はついさっき出てったばっかりやねんぞ」
あの時の2人の表情は死を前にした人間のそれではなかった。
2人の目には確かに未来のこの世界の姿が映っていた。

「アホでも何でも、亡くなっちゃったのは本当なんですよ。
 反乱軍のところに行く途中で戦死されたみたいです」
「なんやと…!?」
平然と答える石川。
しかし実は石川も平気ではない。
言葉に感情を込めるとまた胸が苦しくなってしまう気がしたのだ。

「みたいですって…石川…」

「それから、私つんくさんの代理に推薦されたんです。つんくさんはゆっくり休んでていいですよ」
つんくの顔色が一変する。
「おい、誰が勝手にそないなこと…う…」
胸を押さえるつんく。
「もう、年寄りの時代じゃないってことです」
「く…苦し…」
尋常ではない苦しがりかただった。
「石川!!」
「うっ!」
ついに保田が石川を張り飛ばした。
「私の顔に赤いものを…」
保田に張り飛ばされた石川の口の端に、僅かに血がにじんでいる。
しかし石川はふらふらしながら立ち上がると、なにごとも無かったように服を払ってみせた。
「保田さん、今回は見逃します。でも、今度またこんなことをしたらその時は…」
「うるさい!看護婦さん!!早くお医者さんを!!」
石川はにわかに騒々しくなる病室を後にした。
(う…)
まだ胸が苦しい。
でもこんなところで立ち止まってはいられないの…
そう思いながら石川は病院を後にした。
91マングース西浦:02/03/11 01:01 ID:G131yqdW
ピン子
92マングース西浦:02/03/12 00:49 ID:gSUT8hZn
この日からつんくは昏睡状態に入った。
その事実は一切伏せられ、石川は実質的にモーニング娘。統一国家の
全権を握ることとなったのである。

「石川…あの子一体…」
保田はつんくから聞かされた言葉を思い出していた。
どうしてつんくは『ザ!ピース』でフロントを任せた石川ではなく後藤を補佐官にしたか…

「後藤はな、俺の期待に一番応えてくれる子なんや」
後藤は、人気に陰りが見えたモーニング娘。を『ラブマシーン』で盛り返してみせた。
これは周知の事実であり、後藤がつんくの期待に応えた結果である。
その後モーニング娘。の人気を不動のものにしてきたのも後藤の力だし、
ソロになってからもつんくの期待に充分応えている。

その加入の約1年後に加入してきたのが石川梨華だった。
つんくは石川をインスピレーションだけで選んだという。
「無限の可能性を感じた…」
そう言っていた。

そしてその後石川は『ザ!ピース』でフロントを努め、堂々たる結果を残した。
だが、その結果は予想の範囲を超えたものではなかったのである。
ラブマシーンの時の後藤を越える働きは出来なかった。

要求に対し、それをいい意味でも時には悪い意味でも越えてくれるのが後藤であって、
予想の範囲で最大限要求に答えるのが石川だ、そうつんくは思っていたのである。
確かに、補佐官として使いやすい者を選ぶとしたら石川を選ぶのが普通だろう。
だが、つんくは敢えて後藤の未知数な部分に掛けてみたのだ。
つんくは、そういうことが好きな男だった。

「それだけやない」
つんくは続けた。
ここまでは保田もなんとなく分かっていたことだった。
「石川には徳が無い…や、無い言うのとは少し違うな、徳の質が違うんや」
石川の持つ人徳は、学校の部活動の部長、学級委員、そういう小さな範囲を
治めるのに適しており、
後藤の持つ人徳はそうではない。例えば生徒会長、総理大臣、そういった
いわゆるカリスマ的なものであり、
生まれ持った資質からして、2人は大きく違っていたのである。

そういう資質を持った後藤を、辺境のオセアニア方面に行かせるのは得策ではない…
つんくはそう判断した。
93 :02/03/13 00:28 ID:45SrOV9i
〜(((( ゚Д゚) イチイチャンシンジャッタ
94マングース西浦:02/03/14 02:09 ID:IgLiKcSr
「そんな…そんなこと聞いたら石川絶対傷つきますよ」
保田はそう言ったが、つんくは笑うと、
「お前がまだモーニング娘。のメンバーやったらこんなことは言わへん。
 モーニング娘。をやめたお前やから言うんや」
保田は石で出来ているので口も堅い。

「私は…もう振り返らない」
胸の痛みを堪えながら石川は前しか見ないことを自分に誓っていた。

――
平家みちよが『中澤裕子死す』の報を受けたのはこの数時間後のことだった。

「祐ちゃんが…戦死しはったって…」

「みっちゃん…今なんて!?」
稲葉が聞き返したが、平家が再び答えることは無かった。
平家は何も言わず部屋を後にした。
稲葉ももう聞き返すことはない。部屋を後にする平家を追うこともしなかった。
平家の表情を見れば自分が聞き間違いをしていないことは明らかだった。
中澤裕子は、死んだ。

稲葉貴子は中澤、平家らと同じく関西地方の出身者であり、
3人まとめて関西チームと呼ばれ特に仲がよかった。
そのうちの1人がこの世を去った。
「なんでや…なんでこんな時に…」
中澤本人から独立を認める調印を行うという連絡があったのはほんの数時間前のことだった。

「戦死って…?中澤さんは和平の為にこっちに向かってたんじゃないの?」
「私に聞かれても…」
柴田の問いに、戸惑う村田。
昇りつめたところを突き落とされたような気分だった。
「ねぇ、瞳ちゃん…あれ?瞳ちゃんは!?」
いつのまにか、斉藤が2人の側から消えていた。

「あの中澤さんが…」
その斉藤は陣営の外にいた。
中澤裕子と言えばモーニング娘。の結成当初からのメンバーであり、
実質的にハロプロ全体のリーダー的な存在でもあった。
歳が近い安倍、飯田らよりもむしろ話をしやすい相手でもあったのだ。
それが急に居なくなったということは、勿論斉藤にとってもショックだった。
気付いたら涙まで出てしまっていた。
(人は死んだら星になるって昔おばあちゃんから聞いた)
夜空を見上げても涙は止まらなかった。
95マングース西浦:02/03/15 00:16 ID:4a810xI9
「ん?」
その時不意に、斉藤の耳に横笛の音色が入り込んできた。
「この曲は確か…」
『大きなのっぽの古時計』だった。
こんな時に…最初はそう思った斉藤だったが、その音色のやさしさに
何時の間にか聞き入ってしまっていた。

「誰だろう一体…」
曲が終わり我に返った斉藤はおそるおそる笛の音がした方向に歩いていく。
どこかで聞いたことのあるような音色だった。
誰かに捧げるような、やさしくて、どこか哀しい音色だった。

今は もう 動かない おぢいさんの 時計

「多分この辺りのはず…あ…」
そこにあった大きな岩の上に誰かが腰を掛けている。
「なんや、斉藤やんか」
物音で気付いたのだろう。斉藤が見上げると、月明かりで照らされた顔が
笑顔に変わった。
「…平家さん…」

「…さっきの笛、平家さんだったんですね」
平家の隣の腰を掛けると、まず斉藤が口を開いた。
「聞かれとったんか…」
平家が恥かしそうな顔を浮かべる。
実はこれしか吹かれへんねん…そう言って斉藤にオカリナを見せる平家。
平家は体の90%が平家物語で出来ているので横笛が少し得意だった。

コト…
オカリナを傍らに置き、
「はぁ…祐ちゃん…」
隣に自分の部下がいるのにも構わず亡き敵将を愛称で呼ぶ平家。
平家は斉藤とは以前から相性がよかった。平和だった頃は一緒に買い物に出かけたこともある。
「祐ちゃん…私、恨んでなんかおらんかったよ」
「…!?」

平家が、中澤と最期に交わした電話でのことだった。
和平の調印の為に今からそっちに向かう。
そういう内容の話だったが、その最後に中澤はあることを言っていた。
『…個人的に、アンタに直接会って謝りたいこともあるし』
「謝りたいこと!?」
何のことだろう?
『直接会うた時に言う言うとるやろ!じゃあ、そういうことでええな!?』
聞き返そうとした平家だったが、中澤は強引に切り上げてしまった。

「祐ちゃん…本当に大丈夫なんやな!?」
『当たり前や。私が約束破ったことなんてあったか?』

確かに約束を破る人ではなかった。
仕事の上では。
なのに…
96マングース西浦:02/03/16 01:47 ID:fYPQvphf
「中澤さんが謝りたいことってなんだったんでしょう…?」
「分からへん…分からへんけど…」
平家には思い当たることがいくつかあった。
しかし、
「…あの人、絶対に自分からは謝ろうとせえへん人やった」
人は、死を間近にすると自分でも気付かぬうちに人格が変わってしまうことがあるという。
中澤はそれだったのか?
だからこそ平家も嫌な予感がしていたのかもしれない。
平家の目が見る間に遠くなっていく。

「平家さん…」
「…さあて、斉藤、こんなことしとる場合やあらへん。これからのことに備えんと」

斉藤の心配そうな声を聞いた平家の目が見る間に現実を見据える。
これまで共に走ってきた友が去ろうとも、自分は走り続けなければならない。
それは平家自身が選んだことだ。

しかし、陣営に戻った二人を待っていたのは意外な光景だった。
97名無し娘。:02/03/16 23:39 ID:WlDuJxVQ
98 :02/03/17 23:41 ID:tfj3kUza
99 :02/03/18 23:52 ID:ySq+Fr/F
100( `.∀´ ):02/03/19 14:17 ID:NJmkw4Ey
( `.∀´ )
101 :02/03/20 17:21 ID:CV9+Z17w
102かい:02/03/20 22:31 ID:zjec1bOO

なんでアイさが最終回でメロンは出ているのに、松浦は石垣島行かなかったわけ?


と、死にスレを復活させてみる。
103 :02/03/22 15:57 ID:v5Rft5cr
氏にスレじゃないよ。マングース西浦さん、続き待ってるよ。
104マングース西浦:02/03/23 08:42 ID:+6f27nnW
「め…めぐちゃん!これは一体何なの!?」
問われて
(わ…分からない)
と首を振る村田の視線の先にはハロプロ独立正規軍の副リーダー格、稲葉貴子がいた。
「アヤカ…なんのつもりや…」
稲葉が胸の奥から絞り出すようにうめく。
稲葉ら平家派とアヤカらココナッツ娘。一派が対峙していた。
「話し合いに応じてもらいたいだけです」
「アメリカでは話し合いの時に相手に銃つきつけんのかいな…」
稲葉の横槍を受け流すアヤカ。
しかしその時斉藤があることに気付く。
冷静な口調を保っているアヤカだが銃を握る手が微かに震えていたのだ。
実は体の40%が神戸名産いかなごのくぎ煮で出来ているアヤカは純粋な日本人なため
まだ銃の扱いには慣れていない。
どちらかと言えばアヤカは戦闘員ではなく文官だった。

(今なら…)
アヤカが完全に稲葉の方を向いている隙をついて斉藤が飛び掛かろうと身構える。
もし気付かれたとしても全身の99%が鉄で出来ている斉藤である。
撃たれても鉛弾では致命傷にはならない。
しかし、その目の前に平家の手が差し出される。
平家の視線の先には斉藤に向けて銃口を向けるレフアの姿があった。

「(私の銃に装填された銃弾は銀で出来ています)」
105マングース西浦:02/03/23 08:44 ID:+6f27nnW
「話し合いだけならわざわざそんな物騒なもの持ち出さんでもええんちゃうの?」
一歩前に出ながら平家が話し合いに応じようとする。
「頑固な皆さんを説得するにはこっちもこれくらいしないとフェアじゃないでしょう」
「これのどこが説得…ふざけすぎや…」
稲葉が奥歯を噛み締める。
「(一般的に関西人は弁が立つと言われています)」
レフアの英語はアヤカとミカ以外には聞き取れなかった。

「…分かった。取りあえずここではなんやから私の部屋で続きやらへん?よかったらお茶でも出すし」

「みっちゃん、私も一緒に」
「平家さん…」
平家の身を案じる隊員達だったが、
「あっちゃんと…斉藤だけ一緒に来て」
平家はそう言うと、アヤカらと共に自分の部屋へと消えていった。

――
『私達は今、大きな支えを失いました。私達はモーニング娘。代表であり、本国の
 軍代表でもあった中澤裕子さんを失ったのです。とても大きく、優しい人でした。
 誰よりも平和を愛し、私達を愛してくれた人でした。そんな人がなぜ若くして死ななければ
 ならなかったか…その理由を皆さんに考えて頂きたいのです。私達の純粋な理想を阻むものは
 一体何者なのか』

「ケッ…白々しい…俺達が裕ちゃんと石川の対立を知らなかったとでも思ってんのか」
安い定食屋のテレビから流れる国民放送を眺めながらビールを喉に流し込むのは蟻田歳次郎だった。
彼は故郷に7歳離れた若い妻と幼い娘を残して軍に志願した32歳のモーニング娘軍伍長である。
「しっ…余りでかい声で言わない方がいい」
その蟻田の傍らには彼を諌める同僚の桝村信吾、同じく伍長の姿がある。
蟻田とはかつて熱狂的な『モーヲタ』であることをカミングアウトしあった程の親友同士である。
「だったらおめぇはこんな所詮オリジナルメンバーでもない石川がこの国の代表だなんて
 認められんのかよ!?飯田はどうなる?なっちの立場は?」
2人とも根っからの『オリメンヲタ』であった。
106マングース西浦:02/03/26 01:50 ID:YFmNUm7y
ブラウン管の中では、モーニング娘統一国家議長代行弁務官たる石川梨華の演説が続いていた。
『残念なことに、中澤の命を無残にも奪い去ったのは、私達の以前の同僚なのです。
 彼女らは今、私達の理想を阻む邪魔者として私達の前に立ちはだかり、むやみに戦闘を長引かせ、
 際限無く犠牲を増やし続けようとしています。しかもその行為は理想に基づいたものではなく、
 自らによる権益独占という純粋なエゴによるものなのです』

「いやぁ、昔っからアイドルってのはこんなもんさ。
 確かになっちの大衆人気はまだまだ無視出来んしかおりん指示者の数も無視出来ん。
 でもな、年功序列は通用しない。第一所詮この偉そうに演説ぶってる石川も
 自分自身の口で喋っちゃいないのさ」
桝村は含みのある言い方をしながら辺りを伺っている。
国家警察の監視の目が日増しに厳しくなって来ているからだ。
ハロプロ独立正規軍の思わぬ善戦ぶりに、つんくの威光も衰えて来ている。
ちなみに、桝村の祖先は幕末の剣客集団新選組の隊士、桝村久二である。
桝村久二は池田屋事件以降に入隊した隊士で、禁門の戦いで生死不明となっている。
更に言えば、この話は本筋とは全く関係が無い。
107( `.∀´ ):02/03/28 23:38 ID:+9CNT7jb
>>105-106
こういうエピソードもダグラムから?

>蟻田とはかつて熱狂的な『モーヲタ』であることをカミングアウトしあった程の親友同士である。
やな親友だな。
108マングース西浦:02/03/29 11:29 ID:0KR5NA2J
てこ入れのために適当に出した新キャラクターなので元ネタとは関係ありません
109マングース西浦:02/03/29 11:31 ID:0KR5NA2J
「自分の口で喋ってねえ?どういうこった」
蟻田が聞き返す。
ちなみに蟻田は名を歳次郎と言うが実際は蟻田家の長男である。
しかし命名の理由にはチチローのように特別な思いがあったわけではなく、
邪魔くさいので適当に名付けてみた、というのが両親の本音だった。
その両親は健在で、現在は福井県で2人ひっそりと暮らしている。
「大方台本で動かされるのに我慢ならなくなって自分が裏で人を動かす立場に
 回りたくなった奴でもいるんだろうさ」

『しかし、私は復讐などは望みません。そんなことをしても中澤さんは戻らない。
 中澤さんだってそんなことを望んでいるはずは無い。私はここで呼びかけたいと思います。
 平家さん、どうかこれ以上の無駄な抵抗は止めてほしい…と』

「誰だいそいつは!?」
「…分からん。でもな、もう今のモーニング娘。はただ周囲の思惑で利用されるだけの
 素人集団なんかじゃないのさ」
「俺達が大好きだったあのモーニング娘。は今はもういない。随分前から分かってはいたけどな。
 …そういやお前は昔からそうやってテレビの裏側を妄想するのが好きな奴だった。
 それでいて、その妄想が全くの的外れだったことは今まで1度もねえ」
「まあな…そこで実は俺はそろそろメロンヲタに乗り換えようと思っている」
110マングース西浦:02/03/30 00:43 ID:rAoqJx2D
「乗り換えか…そろそろだとおもったよ。実は俺もあややに乗り換えようと思ってたところだ」
「松浦か、相変わらずだなお前は。昔からお前はなっち派で俺はかおりん派だった。
 お前も家庭がある身でよくやるよ…まぁ俺も人のことは言えんか」
「お互い根っからのアイドルヲタ…いや」
「ハロプロヲタだな」
「でもな、乗り換えがバレたら大変だぜ」
モーニング娘。軍の軍属は入隊の際必ず『誰萌え』かを申告することになっている。
軍に断り無く『推し』のメンバーを換えた場合、厳しいペナルティーが課せられることになっていた。
無論モーニング娘。以外のアイドルへの乗り換えなど御法度である。
「独立正規軍に寝返るまでさ」

長々と書いたがこの2人の行動がこれ以降本筋に影響することは多分全く無い。
だが、これ以降続くことになる上層部の薄汚い権謀実数の陰に、
惑わされることのないこういう男達もいたということを知っておいてもらいたかったのだ。
政治の腐敗の責任は前線の兵士達には無い。

――
「お疲れ、石川」
演説を終えた石川を迎えたのはモーニング娘。の中でも最も背の低い古参のメンバーだった。
矢口は最近T&M。カンパニーの経営を辻、加護に任せ、政治活動に関るようになっている。
「あ、ありがとうございます。矢口さん」
礼を言いながら石川は椅子に腰を掛けると、矢口から差し出された水に口をつけた。
111新着レスの表示:02/03/30 01:05 ID:T20Rrob/

>モーニング娘。軍の軍属は入隊の際必ず『誰萌え』かを申告することになっている。
軍に断り無く『推し』のメンバーを換えた場合、厳しいペナルティーが課せられることになっていた。
無論モーニング娘。以外のアイドルへの乗り換えなど御法度である。

やな軍隊。

このエピソードはマングースのヲタ遍歴も反映されてるのかな。と思った。
112 :02/04/01 22:30 ID:LReTPdx6
無意識に自分が表れてしまった?
113マングース西浦:02/04/02 19:38 ID:Xw4ifZNO
意識して表しました
114マングース西浦:02/04/02 19:40 ID:Xw4ifZNO
――
「なんで…なんで私達こうなる前に止められなかったの!?
 こうなる前にもっと心を一つに出来てたらこんなことにはならなかった」
ココナッツ娘。らが何を要求して行動を起こしたのか、まだハロプロ独立正規軍の隊員達は知らない。
だが、このような日がいつか訪れるのでは無いかという予感は誰しもが感じていたのだ。
なのに、それを未然に防ぐことが出来なかった。
柴田は、そのことで心を痛めていた。
「でもそんなこと今ごろ言ったって遅いじゃん…話が無事終わるのを待って、
 瞳ちゃん達から詳しい話を聞くしかないよ」
意外と現実的なところを見せるのは大谷だった。
180°事態が変わってしまった。
ハロプロの独立自治権が確立しようかという目前に全てが白紙になってしまったのだ。
しかしあの強権な中澤がなぜ考えを変えたのだろう。
まだハロプロ独立正規軍のメンバーは市井紗耶香の末路を知らなかった。

「でも嫌な予感がするワン」
メンバー達の足元で鼻を利かせるのはあさみ(犬)だった。

「ちょっとあんた達、今テレビで何かやってるみたいよ」
その時部屋の一角に固まっていたメンバーに声を掛けたのは元モーニング娘。で、
かつては敵同士として戦ったこともある相手だった。
出産を終えて傭兵に復帰した彼女はモーニング娘。時代からの特別なルートを利用し、
度々独立正規軍に武器や情報を流している。
それら数々の貢献を買われて平家から正式に仲間になるよう誘われていたが
がらではないと断わっている石黒彩だった。
今はたまたまハロプロ独立正規軍の陣営を訪れていた。
115マングース西浦:02/04/04 00:15 ID:huGZRtIY
『この地球のかけがえのないきれいな自然と、みんなの笑顔を守るために、私達は負けられません。
 だから、今はみんなの力が欲しい。またみんなで明るく笑って暮らせるように、
 今はみなさんの力が必要なんです』

「…安倍さん…」
テレビに映し出されていたのはモーニング娘。の安倍なつみの姿だった。
安倍は手話を交えながら必死に平和を訴えている。
こういうことをやらせるとハロプロ内では安倍に敵う者はいない。
老若男女幅広い層から嫌われないキャラクターは安倍の持つ最も優れた才能の一つだった。

『みっちゃん、みっちゃんがあの仲良しだった祐ちゃんを殺してまで戦うつもりなら、
 なっちはもうためらわない。全力で、正々堂々とみっちゃんに戦いを挑むつもり』
テレビカメラを前にして、安倍は必死に遠いかつての戦友に呼びかけていた。

「中澤さんを殺したのは平家さんじゃない!」
「こ…これじゃあうちらがまるで悪者みたいじゃない…」

「それまでのやり方では分が悪いと判断するとあっさり路線を変えて活路を見出す。
 つんくさんは昔からこう。音楽界でもこうやって危ないところを擦り抜けてきたの。
 諦めがいいと言うか現実主義というか…とにかく、これがつんくさんのやりかたなのよ」
メロン記念日のメンバーらと比較して、石黒とつんくの付き合いははるかに長い。
石黒の言葉にただ肯くしかなかった。
116マングース西浦:02/04/04 00:16 ID:huGZRtIY
平家、稲葉、ココナッツらを除いた彼女らにはどうすることも出来なかった。
平家らとココナッツ娘。一派との会談が始まって、すでに一日近くが過ぎようとしている。
その時だった。

ガタッ!
ガタタッ!!

「!!」
平家の部屋から何かが倒れるような大きい音がした。
「な…何!?」
驚いた村田が周囲に視線を走らせる。
その次の瞬間、

パン!!

「う…うわぁぁ!!」

弾けるような大きな音が響いたとほぼ同時に、誰かの悲鳴が柴田らのいるロビーにまで届いた。
「じゅ…銃声だワン!」

「ま…まさか瞳ちゃん達が…」

「馬鹿だねあんた達、話合い始める前に相手の銃を取り上げておかなかったのかい!?」
石黒の声を背中で聞く彼女らだったが、その声は耳には届いていない。
斉藤らのいる平家の部屋へとすでに駆け出していたからだ。

「ひ…瞳ちゃんだいじ…ぅぶ!」
言いかけた大谷の顔面を、唐突に開いたドアが直撃する。
「だ…誰か!!救急車!!」
ドアを開けたのは斉藤だった。

「う…」
最初に部屋の中を見たあさみが前足で鼻のあたりを押さえる。
「ひ…ひどい…」
続いて部屋の前に着いたメンバーも、次々に顔色を変えていった。
部屋の中は、すでに血の海に変わっていたのだ。

「いいから早く!誰かお医者さん呼んできて!!お願い!!」

斉藤の悲鳴に近い叫びが、メンバーの立ち尽くす廊下に響いた。

――
『なっちは本当は戦いたくなんかないんです。でも、悲しいことに、もう話し合いで解決出来る
 段階はずっと前に過ぎてしまいました。なっちは、覚悟を決めました。
 ――死んでいった人達は、私達に大きな悲しみを残していきます。でも、
 いつまでもそれを引きずっていたらその悲しみは鎖のようにどこまでも長く、
 重く私達にのしかかることになります。
 この悲しみの鎖を断ち切ることが出来るのは生きている私達だけです。
 そして、多くの人の協力があれば、それだけ鎖を断ち切るのも大変じゃなくなると思うんです。
 私達は、一人でも多くのみなさんからの協力をお待ちしています』

「ふぅ…」
安倍なつみの国民放送を見届けて深い息をつくのは、
中澤裕子が戦死し、暫定的に名目上おそらく一時的とはいえモーニング娘。軍代表となった
飯田圭織だった。
(みんな一体どうなってるんだろう…)
飯田は病院で治療を受けている。

仲間である中澤裕子の死までをも戦意高揚の道具として使ってしまっている石川、安倍らのメンバー達。
飯田には理解出来なかった。
117マングース西浦:02/04/06 01:45 ID:ZOoO5/a9
安倍が放送を行うと言った時、飯田はそれを止めさせようとした。
モーニング娘。に残ったたった二人のオリジナルメンバーとして、今はただ一緒に冥福を祈ろう。
しかし、安倍は聞かなかった。

「圭織、ただ悲しむだけなら犬にだって出来るよ。私は祐ちゃんが望んでいたことを
 かなえてあげたいの。それは、こうして生きてる私達にしか出来ないことだと思うんだ」

悲しい時に、ただ悲しむだけ。
それでは食べたい時に食べる、本能のままに生きる動物と大差がないではないか…
私は思いを残して死んでいった祐ちゃんの願いに耳を傾けてあげたい。
安倍はそう考えたのだろう。
また勿論、彼女には中澤の死を戦意高揚の道具に使おうなどというつもりは無かったに違いない。しかし、
祐ちゃんが望んでいたこと!?
中澤は本当にこんな風に最期の瞬間まで、戦いを続けることを望んでいたのだろうか?
飯田には分からなくなってきていた。
つんくが提唱した『世界征服』という馬鹿げているように思える夢のために、
これ以上関係の無い人々を巻き込んでしまっていいのだろうか…

軍を退いた保田は『保田鶏』(やすだけい)という鶏肉のブランドを立ち上げて
そこそこの収益をあげているのだという。
このモーニング娘。の残り少ないオリジナルメンバーで、最も身長が高かったメンバーの心からも、
モーニング娘。軍への帰属意識がしだいに失われようとしていた。
118新着レスの表示:02/04/06 12:08 ID:WlzLnVDT
これで保田をリタイアさせたら殺します
119マングース西浦:02/04/07 00:15 ID:ujuEEMdr
じゃあもう出しません
120マングース西浦:02/04/07 00:16 ID:ujuEEMdr
――
「みっちゃん…私は大丈夫やから…」
「あっちゃん!喋ったらあかん!」
平家が必死で傷口を押さえているもののそこからは止めど無く血が溢れ出てきている。
胸のあたりから血を流して倒れているのは稲葉貴子だった。
ココナッツ娘。のメンバーも余りの事態に硬直して動かない。
医者は松浦が呼びに行ったらしい。

「な…なんでこんなことに…」
眼前に広がる最悪の光景を目にした柴田が全身から力を失って崩れ落ちる。
「ヒトは無事なの?」
「私は大丈夫。でも…稲葉さんが…稲葉さんが…」
村田の心配にうなずいて答える斉藤だったが、
その視線の先には息を荒くする稲葉と平家の姿があった。

「瞳ちゃん…何があったか、聞かせてくれない?」
大谷の言葉に一度うなずくと、斉藤は話し始めた。
「はじめは…穏やかに話し合いをしてただけだったんだよ…今後のことについて…」
そのことまでは村田が知っていた。
彼女には地獄耳と名づけられた盗聴能力があるのだ。
しかし、ことが起こった瞬間村田は安倍が出ていたテレビの画面に気を取られていた。
121マングース西浦:02/04/08 01:09 ID:WYe9YPdX
――
「アヤカ、悪いけど何回言うてもそれはあかんねん。
 祐ちゃんがあんなことになってもうた以上和平は一旦白紙」
「なんでですか!?中澤さんとの和平が挫折したなら今度はこちらから和平を持ちかけるべきです!
 それでこそ対等な交渉と言うもの…それにそれが礼儀でもあると思います!」
この頃既に平家らとアヤカらの話し合いが始まって既に20時間が経とうとしていたが、
アヤカは石川と影で進めていた和平交渉のカードをまだ平家には見せていなかった。
それは最後の切り札として取っておきたかったのだ。
秘密裏に交渉を進めていたということへのうしろめたさもある。
しかし、平家らのあまりの頑固さに苛立ち始めていたのも事実だった。
「(平家、しかしこれ以上の戦いは無意味です)」
「元から戦い自体に意味なんてあれへん。意味があるんはその先にあるもんや。
 今戦いを止めたら今までやってきたもんが全部無駄になるんやで!」
「(フン…あなたには言っていません、ミス・稲葉)」
馬鹿にするように必要以上に分かりやすい英語で話すレフアの煽りもあって、
元から気の長い方では無い稲葉も語気を荒げ始めている。

「…アヤカは、何でそんなに和平を主張するの?」

ふと、これまで発言が無かった斉藤の口から素朴な疑問が飛び出した。
平家に同調して戦いで独立を勝ち取る事が最善だと当然のように思っていた斉藤だったが、
ふと客観的に見ると和平も一つ道なのではないかと思えてきたのだ。
この客観的な視点はメロン記念日の4人の中にあって御意見番の長女的存在である彼女の持つ長所だった。
122マングース西浦:02/04/09 00:38 ID:B90yz9Z0
「…独立というのは目に見えて存在するものじゃない。独立なんていう言葉に縛られすぎなのよ、
 平家さん達は!」
「アヤカはどうしたいん?」
冷静な平家に促され、さらにアヤカはエキサイトする。
「独立は戦いの先に存在するものじゃない。私達が作るものなんです!和平を結んで、
 その後の交渉で、『独立』という状況を作るんです!そして…」
「『それが出来るんは私だけや』とでも言いたいんやろ、アンタは」
「くっ…」
皮肉に満ちた稲葉の言葉に後の句を遮られ、アヤカが奥歯を噛み締めるのが斉藤の目にも分かった。

「どうなんですか?平家さん…」

自分では立場を決めかねた斉藤が、平家に答えを求めた。
「アヤカ、誤解しとるみたいやけど私は『独立』という状況を作ろうなんて思ってへんのよ。
 第一、そんなんは私には無理や。確かに、それを出来る人をうちらから選ぶんやったら、アヤカ、
 あんたが一番向いとるんやろね」
「な…だったら!」
思わぬ平家の言葉に身を乗り出すアヤカ。
しかし平家は更に続けた。
123宣伝:02/04/09 17:48 ID:ZGVRuOvt
124マングース西浦:02/04/10 01:06 ID:hEhzlDru
「私は『独立という状況』を作ろうなんて思ってへん。私は、うちらが独立出来る土壌を作りたい。
 その『礎』みたいなもんになれたらええなと思ってるんよ。そして、それが出来たとはまだ全然思われへん。
 だから、悪いけど信頼出来る祐ちゃん以外の人とはまだ絶対和平は結ばれへん。それだけ」
「(礎になりたい…!?フン、そんな達観したことを言っておいていざ和平が成立したら
 コロッと態度を変えた人物なんてこれまでの歴史上数え切れない)」
「!しっ…」
平家らに分からないよう早口の英語で言ったレフアを慌てて制するのはミカ・トッドだった。
ミカは話合いが進まないことに焦りながらもただ心配そうに経緯を眺めていることしか出来ていない。

「そうですか…分かりました…」

「やっと諦めたんかいな…ご苦労さま」
しつこく皮肉を浴びせる稲葉を意に介せず、アヤカは何かを決意したように平家を真っ直ぐ見据えた。

「もう仕方が無いですね…」
アヤカはそう言うと隣のレフアとその向こうのミカに一度視線を合わせた。
それに応じて決意するように軽くうなずく2人。
125マングース西浦:02/04/11 01:22 ID:zCt56g8Y
「なんやねん?アンタら急に顔見合わせて気持ち悪いやろ」
元々上品とは言えない稲葉の喋り口調だったが、この日は余計にキツく聞こえた。
もともとココナッツ娘。の3人は余り日本的な冗談が好きでは無かったこともある。
しかしアヤカは意に介さず続けた。
「平家さん達はご存知無かったかもしれませんが…実は、もう和平は9部9厘まで成立してるんですよ」

「…どういうこと?」

短く尋ね返す平家。
胸に沸き起こった嫌な予感を打ち消したかった。
しかし平家は体の9割までが平家物語で出来ている為、嫌な予感がよく的中する。
「モーニング娘。の石川梨華ちゃんとの和平が、もうすぐ決まるんです」

「は!?」

「平家さん、今この席で貴方が認めてくれさえすればですけどね!」
あっけに取られる稲葉と後の2人の目の前で、銃を構えたミカとレフアの二人が立ち上がる。
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