34 :
牧野唯:
第二話 台風(嵐を呼ぶ女)編
ある日の朝、5時頃。
目が覚めてしまった石川が、リビングに降りてくると、薄暗い部屋の中に安倍が茫然と立っていた。
「何してるの、なっち」
ここ何日か降り続いている激しい雨のために、部屋は薄暗い。
それでも石川は、見えてしまった。
白いエプロンをつけ、片手におたまを持ったまま、声もなく立ちすくむ安倍の姿を・・・!
「ど、どうしたの?」
ただらなぬ様子に、嫌な予感を覚えつつ石川は尋ねると、安倍はゆっくりとこちらを振り返った。
「・・・ぅが来る」
「え?」
低い声に聞き返した石川へ、安倍は茫然と近づくと、石川の肩をがっしりとつかんだ。
「台風が来るんだよっ」
「えぇ?」
そういえば、ここ2・3日の雨も、台風の影響だったのか、と石川はぼんやり考える。それにしても・・・
「安倍ちゃん、ちょっと、痛いって・・・」
「何落ち着いてんのよ!台風だよ!見ろよ、あれ!!」
安倍が指した先に、TVの天気図が映っている。
確かに、かなりの大きな台風のようだ。
「ここ5年間で、一番でけーんだぞ!外歩けねーぞ!ガラスとか割れっかもしんねーし・・・」
心なしか、目を輝かせながら言う安倍に、石川はこっそり溜息をつく。
(やだなぁ。またこの季節か・・・)
「あっ!今のうちに、外に板貼らねーと!!石川、朝御飯の続きやっといて!!」
「え、ちょっと・・・!」
あたまを石川に押し付け、そのまま外に飛び出していく安倍を、石川はあっけにとられて
見送るしか無かった。
(なっち…ほんとは、台風好きなんじゃないの・・・?)
35 :
牧野唯:02/01/29 16:39 ID:fiLB8nDh
「ねえ、ごっちん・・・外すごい雨だよ」
まだほとんど眠ったままの後藤は、うとうとしたまま吉澤の声を聞いていた。早く起きたらしい吉澤が、
妙に興奮した様子でやってきて、さっきから安眠の邪魔をしつづけているのだ。
「すごいよ、これ。外出たくないよなぁ。今日」
しゃ、とカーテンを開けたような音が、夢の中で聞こえる。
「ねぇ、後藤ぉ。起きてみなって!」
「う、うるさぁい・・・」
がばっと毛布を被ったところで、突然家全体を揺るがすような音が、がんがんがん!と響きだした。
「何これ・・・」
「あーもう!!何だよぉぉ!!!」
我慢の限界を超えて、勢いよく起き上がった後藤は・・・そのまま、ベッドの脇にいる吉澤の頭に激突した。
「痛った〜いぃぃ!!」
「ってぇぇぇ!!」
「馬鹿ぁ、後藤ぉぉっ!」
「ご、ごめん、よっすぃー!」
「もう、ほんっとヤダ、お前!」
「ごめんってぇぇ!」
二人がコントを繰り広げている頃。
二人の端の部屋にも、物音で眠りを覚ました女がひとり・・・。
36 :
牧野唯:02/01/29 16:53 ID:fiLB8nDh
「う、うるせぇ・・・」
安らかな眠りを覚まされたのは、矢口真里。あまりの煩さに、ベッドから抜け出した矢口は。
部屋の窓に影を見つけてぎょっとする。
(な、何・・・)
と、窓ガラスに突然、人間の手がべたっと張り付いたのだ!
「ふわっ」
矢口は思わず、飛び上がった。そのまま、部屋の隅まで後ずさる。
(お、お化け?・・・ぜったいお化けだ!!)
だっと部屋から飛び出そうとそた矢口は、ちょうど部屋に入ってきた石川とぶつかった。
「どうしたの、真里っぺ」
「石川!なんかいる!窓の外に!」
「はぁ?」
すたすたと部屋の中に入った石川は、何か納得した様子で溜息をつく。
「あれ、なっちだって」
「え?」
手を引いて、窓の外まで連れていかれた矢口は、そこに安倍の姿を見つけた。
「あ・・・」
「真里っぺ。もうご飯できてるよ。早く降りてきて」
そう言い捨てて去っていく石川にも気づかずに、矢口はあっけにとられていた。
「なっち・・・何してんの?」
窓の外の安倍は、手に大きな板を持ったまま、満面の笑みでこちらに手を振っている。
「なっち・・・」
『矢口ー!今日、台風が・・・!!』
「なんで、エプロンなの・・・?」
そして、ようやく安倍は自分の服装に気づいたのだった。