ガンナールームにて…
「今日は航行の衝突予防法について勉強するよ。
みんな前回の灯火標識は覚えているだろうね。
オガワ、船舶の両舷に義務付けられている灯標の色は何色」
「はい。右舷が緑で左舷が赤です」
きょうのあたしは、学校の先生役やっているのよ。
候補生の数が多いから時々集中講義をしてるの。
週に何回か輪番で学科試験の対策勉強会を開いていて今回はあたしの番なのよ。
「ん。そうだね。
そこでだ、こんな風にT字型に二隻の船が交わったとすると…」
ホワイトボードにペンで図を書いていく。
ふふふ。今日は何色も色ペンも持ってきたし定規もあるし、ばっちりよ。
もう、図が判らないなんて言わせないわよ。
それに、チャーミーに作ってもらった秘密兵器もあるし…
「さて、どっちの船が避ければいいかしら?ツジ?」
またツジは隣のカゴと話している。
当ててあげるわよ。
「両方が避ければおあいこれす。」
「ん。でもね、船が向きを変えるには燃料も使うし手間もかかる。
だからできるだけ真直に走りたいの。
で、どっちが避けるか決められているのよ。
さっきオガワに灯火の色を聞いたよね。」
ここでチャーミーに作ってもらった秘密兵器を出す。
オォーという声がもれる。
描いて貰った船の絵の裏に磁石を貼りつけたものだがインパクトがあったかな。
こんなものでやる気を出してくれるなら簡単なものよ。
「右舷に接近中の船ならば緑色の打火が見えるから…」
みどりいろ?…
あれっ?そうだったけ?
「…自分は直進する。相手から見ると自分の緑の灯火が見えているから
相手は直進する…えっ?ぶつかるわね」
候補生達は笑っている。
なんかへんよ。
両手に持った船の模型を見比べる。
これ、色が反対じゃん。あぁ…チャーミーのバカ…。
気を取り直して間違っている方の模型しまい肩方だけで話を続ける。
「…というわけよ。わかったわね。」
そろそろみな、飽きてきたみたいだ。
でもまだまだ終わらないよ。
「ほかに、レーダーや通信状態の悪い宙域を航行するときは発光信号
を併用するのよ。
航行中は長音ひとつ、停船中は長音ふたつ、他船を曳航したら長音
ひとつに短音三つ。わかる?」
反応がない。ええぃ、こうなりゃやけだ。
あたしは、節をつけて歌ったわよ。
「行けば一声、とまれば二声、引いて歩けばピーポポポ。はい、ご一緒に!」
「「「いけばいっせい、とまればにせい、引いて歩けばピーポポポ!」」」
「はい、もう一度」
「いけば…ピーポポポ!」
カゴとツジは体をくねらせて踊りだす。
やっとのって来たようね。
数日後、キャビンでゴトーがテストの採点をしながら首を傾げている。
うーん。かわいいわ。
今日は任官試験の模試をしたようだ。
「どうしたの。出来が悪かった?」
「それもあるけど、変な答ばかりでさー。
通信状態の悪い時、船舶を曳航する時の注意点を述べよって出したんだけどぉ。
みんな答えにピーポポポって書いているんだよ。
何だろうねぇ、これ…」
あっ、あいつらぁ。これしか覚えてないのかよぉ!。
涙が、でてきたわよ…。
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