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3フレーズ目:
私は自分がそれほど可愛くもないことも知っていた。
自分に対する容姿の評価は、いつも醜いと普通の中間あたりをさまよ
っている感じだった。私がポスターやイベントなどの人前に出る仕事を
貰えていたのは、少しばかり明るい子供らしい表情ができたからだと、
今では思う。実際はかすみがかかったような薄暗い気持ちが常に私
を支配していたけれど、それに気づく大人は皆無に等しかった。
ひどく醜いとは思わなかったけど、たいして可愛くもない。私は鏡を見る
たびにそう思っていた。
夏にあったモーニング娘のオーディションで、私はますますその思いを
強めることになる。
世の中にはどうしてこうも美しかったり可愛かったりする女の子が多いの
だろう。日本中の綺麗な女の子を集めたのではないかと思えるほど、
オーディション会場の待機場所である平凡なビルの一室は華やかな光
に溢れていた。私はといえば、なぜこんな場所にきてしまったのだろうと
後悔しはじめていた。長い時間うつむきながらスカートの些細なしわを何
度も指でこすっているうちに、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
私は一応の元気を保った返事をして立ち上がり、審査会場のドアを
開けた。
次の瞬間、スタジオの奥から走るオレンジ色の強いライトの光が私の目をくらませ、私は目を
開けることができなかった。
その感覚は私に、春に行ったモーニング娘。のコンサートのことを思い出
させた。
(こんな光のなかで、もっともっとおおきな光のなかで、あのひとたちは歌
ってったっけ…)
私はあの時、動くことができなかった。ほとんど瞬きさえしていなかった
だろう。
私はうらやましかったのだ。会場いっぱいにあふれる歓声と拍手、太陽
のような暖かで眩しいライトの光、その中心の中心で、あのひとたちは
受け入れられ、愛されて、これ以上ないほどに輝いていた。
ステージからずいぶん離れた末席に座る自分は、薄汚れたはつかねず
みみたいだ。私は恥ずかしさに赤くなった頬を何度も手のひらでこすった。
そして、いつのまにか彼女たちに嫉妬している自分に、私は気づいた。
誰にも口に出して言うことはなかったけど、一度でいいから自分もあの
ひとたちのように強く愛されてみたい、とそうひそかに願うようになってい
た。
あの会場に満たされて、彼女たちが一身に浴びていた、圧倒的な密度
の愛。そんな愛が自分に与えられたら、免疫のない私はきっとショック
で死んでしまうだろうな、そんなふうに想像すると可笑しかった。
モーニング娘になんかなれるわけもないのに、そんな想像をする自分も
可笑しかった。
そんなことを考えながら、審査員の前で歌ったことを覚えている。